アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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龍門編です。


STORY.4:龍門

 

ロドスは次なる任務として、巨大都市・龍門へ向けて航行していた。

 

その最中、レイヴンはエンジニア部門の研究区へ呼び出されていた。

外では数名のオペレーターが野盗の一団を制圧しており、甲高い拘束具の音と怒声が遠くに響いてくる。

研究区の内部はそれと対照的に、金属の擦れる音と機材の振動音が淡々と続くだけで、妙に落ち着いた空気があった。

 

「よぉ、来たな。」

 

 振り向いたのは、チェルノボーグで一度顔を合わせたニールだった。

 

「お前、エンジニア部門だったのか。」

「一応な。現場も出れば修理もやる、便利屋みたいなもんだ。」

 

ニールは手にしていた端末をレイヴンに差し出した。画面には戦闘時の各種データがぎっしりと並んでいる。

「勝手ながらデータは取らせてもらったが……すげぇな。【物理強度】と【戦闘技術】が卓越、それ以外も十分優秀だ。」

「【戦術立案】は欠落してるけどな。」

「まあそれは戦力で帳消しだろ。つーか、お前みたいなタイプは戦術立案なんて後回しでいいさ。殴る方が早い。」

軽口を叩きながらも、ニールの目は真剣だった。

 

「それより、そろそろ武器を新調した方がいい。お前、あの双剣ボロボロだろ。タルラの炎で溶けかけてたじゃねえか。」

レイヴンが無言でうなずくと、ニールは作業台の覆いを取り払う。

 

「戦闘データを見る限り、お前は“どの武器でも扱える”って判断した。だから現時点で用意できるのを選んでみた。」

そこに並んでいたのは、双剣・大剣・トンファー・盾の四種類の武器だった。

 

「……このトンファーは?」

「それはリコイルロッド。突けるし、振れば剣代わりにもなる。さらに地面に向けてリコイルを解放すれば――」

ニールが胸を張る。

「大ジャンプもできるぞ。」

「……やってみていいか?」

「やるなら外でな!」

 

研究区の天井をぶち抜くところだったらしく、盛大に怒られた。

レイヴンは軽く肩をすくめつつ、武器を順に手に取って感触を確かめる。その間も、ニールは何か思い出したように眉を上げた。

 

「そうだ、龍門についてだが……どんな場所だと思う?」

「どんなって……まあ、普通の都市なんだろ?」

「そういうレベルじゃねぇ。大都市だ。感染者への当たりも……チェルノボーグほどじゃねぇが、決して優しくはない。」

 

「あ、龍門幣の名前の由来って……」

言いかけた瞬間、ニールが指を鳴らして笑った。

「当たり!あの貨幣の信用がテラ中に浸透してるのは、龍門が――まあ色々あるからだ。」

「詳しくは実際に見てみろ。こういうのは歩いて感じるのが一番だからな。」

 

レイヴンは無言で頷いた。だが胸の奥では、未知の巨大都市への興味が確かに膨らんでいく。

 

金属の匂い。機械油の香り。外で響く拘束音。

そのすべてが、これから向かう“龍門”という巨大な現実の前触れのように思えた。

 

「とにかく走って行ってみるぜ。この船おっそいからな。」

「……アーミヤに怒られても知らないぞ。」

「いや、連れてくから問題なしだ。」

 

「えー……」

 

レイヴンは周囲を見回し、格納ラックの端に見慣れないバイク――ランドチェイサーを発見した。金属光沢の細身の車体が、ただの移動手段というより兵器めいて見える。

 

「とにかくさ。ボサっとしてられないんだろ?だったら早めに行った方がいいっての。」

言うが早いか、レイヴンはランドチェイサーに跨がり、エンジンを唸らせる。

 

「おいおい……!」

ニールの制止を振り切るように、レイヴンは格納庫から飛び出していった。

間もなく、フェンが研究区に駆け込んできた。

 

「ニール! あれってドクターですよねっ!?」

「ああ……新開発のランドチェイサー、勝手に乗っていきやがった……」

「アレ、エアバイクでしたっけ?」

「……そうだ。ただ方向転換が難しいのが唯一の欠点でなぁ……」

ニールは頭を抱えた。

 

────────────

 

一方その頃、レイヴンは。

 

「……ドクター、何をしてるんですか?」

 

「いてぇ……」

甲板近くの壁に突っ込んだらしく、ランドチェイサーは横倒し。レイヴンは地面に伸びていた。

 

「あらあら、ドクター、大丈夫?」

「転んだので“大丈夫”ではないと思います。」

聞き慣れた声に顔を上げると、アーミヤと、その後ろに二人の女性――どこか洗練された雰囲気の者達が立っていた。

「アーミヤ……後ろの二人は?」

「紹介がまだでしたね。彼女たちはリスカムさんとフランカさん。ロドスのオペレーターではないんですが、今は協力してもらってるんです。」

 

「BSWから来たリスカムです。ドクター、よろしくお願いします。」

「同じくBSWのフランカよ。よろしくね、ドクター。」

「ああ、よろしく。」

 軽く礼を返したレイヴンに、フランカが小声で耳打ちする。

「……転び方は派手だったわね?」

「うるせぇ。」

そのやり取りにアーミヤが苦笑しつつも、ふと腕時計を確認する。

「それよりアーミヤさん。時間は大丈夫ですか?」

「へ?」

 

スマホを見ると、画面には21時44分。

待ち合わせは22時ちょうど。

 

 アーミヤの顔色が変わった。

「いけない……! 急ぎましょう、ドクター!」

「あ、ああ……」

レイヴンはランドチェイサーを起こし、再び跨がる。

 

「アーミヤも乗れ。こっちの方が早い。」

 

「……本当に大丈夫ですか?」

「任せとけ。できないことはない。」

根拠のない自信に満ちた声。アーミヤはリスカムとフランカの方をちらりと見る。“仕方ない”と顔に書いてあった。

 

「安全運転でお願いしますね?」

 

「任せとけ。」

再びエンジン音が響く。今度はレイヴンも慎重に操作する気らしい……たぶん。

 

ランドチェイサーは甲板の端から滑るように発進し、夜の空気を切り裂いて龍門へ向けて一直線に加速していった。

残されたリスカムが、ぽつりと呟く。

「……ドクターって免許、持ってるんですか?」

 

「持ってないんじゃない?」

フランカは肩をすくめた。

 

……………………

 

龍門ゲート前。

 

ランドチェイサーのエンジンが最後の唸りを上げて止まると、レイヴンは首を傾げた。

 

「……ここが龍門? 街が見えないんだが?」

「大半の都市は“移動都市”ですから。外観だけ見ると、ただの壁に見えることもあります。」

「へぇ……そういうもんなのか。」

そう話しているうちに、武装した警備員が一歩前へ出た。ライトがレイヴンとアーミヤの顔を照らし、鋭い視線が注がれる。

 

「止まれ。何者だ?」

「用があって来ただけだ。」

 

「……怪しいな、コイツら。」

即座に警戒され、レイヴンは微妙に眉をひそめた。手を上げそうになったところで、背後から硬質な靴音が響く。

 

「待て。」

冷たく、よく通る声。

現れたのは、青い髪に赤い目、龍の角――そして長い尻尾を持つ女性。冷気のような気配をまとった堂々たる姿だった。

 

彼女はスマホを開き、画面を無言で突きつける。

 

「面会は22時と聞いていたが……ロドスは時間すら守れないのか?」

 

画面には「22:10」。

アーミヤは肩を跳ね上げ、頭を下げた。

 

「……す、すみません、チェンさん。遅くなりました。」

「そちらは?

「ロドスの顧問、ドクターです。」

「よろしく!」

 

レイヴンが手を差し出す。

――が、チェンは視線すら合わせず歩き出した。

 

「こちらへ」

 

完璧にスルー。

 

レイヴンは空中で取り残された手をゆっくり下ろし、ぼそりと呟く。

 

「……感じ悪りぃ……」

 

「ドクター……」

アーミヤは苦笑しつつ小声で諭したが、レイヴンは分かっているのかいないのか、溜息をひとつ吐いただけだった。

そうして、二人はチェンの後を追い、龍門内部へと歩みを進めた。

 

……………………

 

車の窓越しに、レイヴンは声を弾ませた。

 

「……わぁ……すげぇ……すげぇすげぇ!!」

 

目の前に広がるのは、夜の闇を押し返すほどの光の海。摩天楼の群れがきらめき、金と青のネオンが走り、まるで星空が地上に降りたかのようだった。

 

「アーミヤ! 見ろよ! ピカピカ光ってるぜ!」

「は、はい……見えてますけど……」

彼が無邪気に窓へ身を乗り出すたび、アーミヤは「落ちないでください……」と小声で袖を引っ張る。

一方、前で運転するチェンはバックミラー越しにちらりと視線を向け――

 

「……まるで子供だな……」

そう呟いた声は、かろうじて二人に届かない程度の音量だった。

やがて車は減速し、レイヴンたちは巨大な建物の前に降ろされる。

 

「たっっっっかぁ……」

レイヴンは首が折れそうなほど上を向き、龍門で最も高いビルを見上げて口を開けたまま固まった。

「ドクター、行きますよ。」

「……っ! お、おう」

 

アーミヤに袖を引っ張られ、現実に引き戻される。

チェンの案内でビルに入り、重厚な扉の奥へ進むと――空気が一変した。

 

豪華な調度。

無駄のない配置。

そして奥の席には、龍の面影を持つ重厚な男が静かに座り、その向かいにはロドスの代表と思われる女性が控えていた。

 

「……ご苦労。入れ。座りたまえ」

「は、はい」

 

アーミヤとレイヴンは並んで席についた。

 

レイヴンは男の顔をじっと観察する。

その存在感は、ただ座っているだけで空間を支配していた。

(こいつが……ウェイ。龍門の大ボスか……)

 

アーミヤと女性が丁寧な口調で話を始めると、室内は一気に交渉の空気へ切り替わった。

 

……が。

 

レイヴンはというと、慣れない格式高い場に早くも処理落ちを起こし、背もたれにやや沈み込みながら虚空を眺めていた。

(……なに言ってんのかさっぱりだ……)

頭の上に「???」が浮かんでいるのが見えるようで、思わずチェンが横目で睨む。

 

だが当のレイヴンは気づいておらず、ただボーッとしながら場の空気に耐えていた。

 

……………………

 

エレベーターの扉が閉まり、静かな密室に機械音だけが響く。

レイヴンとアーミヤは、先ほどの会議内容についてひそひそと話していた。

 

「な、なるほど……つまりは協力して敵を倒せってことだな!

「……まあ、ざっくりまとめれば……そうなるんですが……」

 

アーミヤが苦笑する一方で、レイヴンは気になって仕方なかった視線の主を親指で示す。

視線の先では、白衣の女性が腕を組み、射抜くような眼差しで二人を観察していた。

 

「なあアーミヤ、アイツ誰だ?さっきからずっと俺のことチラチラ見てただろ?昔の俺の知り合いか?」

「彼女はケルシー先生。ロドスの代表者の一人で、医療部門の総責任者でもあるんです。」

 

「アイツ……えらい奴なのか……」

 

レイヴンの呑気な感想に、アーミヤは「あの態度で分からなかったんですか……」という顔をした。

そのケルシーが一歩近づき、冷徹な視線を真っ直ぐ向ける。

 

「……記憶を失っているというのは、本当のようだな。」

「まあそうだな。」

 

レイヴンはあっさり答える。

すると、ケルシーの目がほんの僅かに細められた。

 

「……今までの犠牲に報いるといいがな……」

「……?」

レイヴンは首を傾げるだけ。

深意も警告も、彼にはまだ遠い。

 

そしてケルシーは、エレベーターの天井に目を戻してから静かに告げた。

 

「……おかえり、ドクター。君の帰還を、歓迎するよ。」

 

「……ほんとか〜?」

 

疑い半分の返しに、アーミヤが慌ててフォローに入る。

 

「ほ、ほんとです!ケルシー先生は、ああ見えて……その……すごく心配してるんですよ?」

 

「そ、そっかぁ……」

 

レイヴンがぽりぽり頬をかく。

ケルシーは何も言わなかったが、軽く視線をそらした仕草は、否定ではなかった。

 

……………………

 

郊外の荒れ地。風に砂埃が舞い、遠くの夜景だけがやけに鮮やかだった。

 

「……あそこが龍門か……」

 

ジェスターがぽつりと呟く。

灯の群れは、まるで巨大な獣が闇の中で息づいているかのようだ。

 

傍らではWが小さなまな板を膝に乗せ、じゃがいもを器用に切っていた。

手際は妙に家庭的だが、表情はいつも通りの毒っ気を含んでいる。

 

「そういえば聞いてなかったけど、タルラはなんて言ってたの?」

「どうやらスラムに目的物があるそうだ。」

「ふーん……もしかして、ドクターとか?」

 

Wは軽く言ったが、その声音にはほんの少しだけ探りが混じる。

 

ジェスターは答える代わりに鍋へ野菜を放り込み、スパイスを落としてゆっくりかき混ぜた。

立ち上る香りは、戦場の空気とは不釣り合いなほど温かい。

「……それは……嫌だな。」

「……」

 

Wが目を細める。

彼が珍しく感情を露わにする時は、過去の影が絡む時だ。

 

「……アイツ、本当に記憶喪失なんだな。」

 

「ええ……そうね。うざったいし、ムカつくけど。」

言葉とは裏腹に、その声色はどこか弱い。

 

「……ああ。でも……許せないのは」

 

ジェスターの手が止まる。

カレーを混ぜる木べらが、かすかに震えた。

 

「俺たちのことを忘れたことでも……過去にしてきたことを忘れたことでもない。」

 

「……?」

Wが怪訝そうに眉をひそめる。

ジェスターはうつむき、鍋の湯気でかすむ瞳を絞るように細めた。

 

「――“アイツ”のことを……忘れたことだ……」

その一言は、夜の風よりも重く沈んだ。

Wの表情も、それに呼応するようにふっと陰を帯びる。

 

「…………そうね…」

 

炎に照らされた二人の顔は、それぞれ別の痛みを抱えていた。

龍門の灯りは遠いのに、どこか冷たい。

 





ピンク髪のサルカズ人の女性なんやろなぁ…
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