メインキャラクター大体出てきました。
今回でメインキャラクターは大体出尽くすと思います。
龍門近衛局と共に、アーミヤたちは指定されたスラム地帯へと足を踏み入れた。
「……ここがスラムか……」
レイヴンは思わず眉をひそめる。
つい先ほどまで煌々と光る摩天楼を眺めていたのが嘘のように、ここは荒れ果てた廃墟群が連なる無機質な谷底だった。
「……酷い場所だな……」
「はい……想像以上です。」
アーミヤは端末を操作しながら周囲を確認する。
しかし、同行者の気配が一つ足りないことに気づくのはすぐだった。
「ドクター。しっかりついてきてくださいね——……ドクター?」
振り返る。
いない。
影も形も、気配すらない。
「……ま、まさか……」
アーミヤは頭を抱え、冷や汗をつたい落とした。
⸻
一方そのころ、当の本人。
「迷ったぁぁぁぁぁ!!!」
レイヴンの叫びがスラムの広間に虚しく響いた。
路地裏の迷路構造は、通り慣れた者でさえ見失うレベルだ。初見の男など瞬殺である。
「ったく……迷いやすい構造してやがる……アーミヤはどこだぁ……!」
舌打ちしつつ周囲を警戒していると——
視界の端で、淡く瞬く光が揺れた。
「……ん?」
近づいてみると、ノイズめいた粒子に包まれた小さな球体。
まるで電子の残滓が凝縮したかのような奇妙な物体だった。
「なんだコレ……金目のもの…じゃなさそうだよな?」
触れた瞬間。
スッ……
「!?…俺の中に!?」
慌てて手を振り払うが、既に消え失せている。
身体にも痛みはない。熱もない。
……あるのは、不気味な感覚だけ。
「……な、なんもねぇ……?」
しばらく震えていたが、結局“気のせい”扱いにして歩き出した。
⸻
迷いに迷った末、レイヴンはふと一つの建物に辿り着く。
周囲の廃墟とは違い、そこだけ比較的整備されており、倉庫とガレージが併設された小規模な拠点だった。
「なんだ……ここ?」
その瞬間、背後から冷たい鉄が喉元へ。
「……お前、誰だ?」
剣先が軽く触れた。動けば切れる距離だ。
「……迷子。」
「……泥棒じゃないよな?」
「来たばっかだ。盗む時間もねぇよ。」
「……どうやら本当に迷子らしいな…」
刃が下ろされる。
振り返ったレイヴンの目に映ったのは、落ち着いた目つきのループス——青年だった。
「俺はペンギン急便のトランスポーター、デューク。あんた……ロドスの人間か?」
「ああ。俺はレイヴン。よろしくな。」
互いに握手を交わす。
騒がしいスラムの中で、束の間の穏やかな邂逅が生まれた。
「レイヴンだっけ?ドクターって風貌じゃねぇな。」
「うるせぇよ。」
……………………
「……言った通りだ。例の物を見つけ次第、すぐに撤退だ。」
ジェスターはスラムの通路内で仲間を集めてそう話す。
「よし、散開だ。以上。」
そう言って仲間達はバラバラに分かれて行った。
「…相変わらず淡白ね。」
Wはそう言って後ろから抱き付く。
「いや…ちょっとな。」
「……そっ…か。」
そうして二人で歩きながら目標物を探しに行く二人。
「ねえ、例のドクター見つけたらどうするの?」
「レイヴンの事か?さあな。考えた事は無い。」
「……Wはどうするんだ?」
「……私に聞かないでよ。」
そう言って二人は歩き出す。
通路の奥は湿り気を帯び、古い鉄の匂いが鼻を刺した。
薄暗い照明が点滅を繰り返し、まるでスラム全体が不吉な予兆を告げているようだった。
Wはひょいと物陰から顔を出し、レユニオンの構成員たちを眺める。
普段なら、見張りの緩さや立ち位置の乱れで誰が新人か、誰が疲れているかすぐに分かる。
しかし今は、誰一人として呼吸すら乱していない。
妙な静寂だけが、逆に不自然だった。
「…何、アイツら…」
彼女の声には、珍しくわずかな警戒が混ざっていた。
ジェスターは額に汗を一筋流しながら、じっと彼らの動きを観察した。
「様子が…変だ。」
Wが軽い足取りで前へ出る。
その背中はいつも通り軽薄そうに見えたが、ジェスターにはわかっていた。
Wが警戒を解いた“フリ”をして相手の反応を引き出す、その癖を。
「アンタら、命令聞いてなかった? 散開しろ…」
その瞬間だった。
まるで反射のような速さで、一人が剣を振り上げる。
迷いも、怒りも、憎しみもない。
ただ、感情の切り落とされた“動き”だけがそこにあった。
「って…」
「W!」
ジェスターの双剣が閃き、乾いた金属音とともに構成員の剣が弾かれた。
反射神経だけで動いたような速さ。
だがそれでも、彼の表情には焦りが滲んでいる。
「大丈夫か。」
Wは唇を噛んだまま、胸に手を当てる。
「う、うん。それより…アンタら急に何よ! 仲間に攻撃するとか正気じゃなくなった?」
構成員たちは返事をしない。
返すべき言葉の概念そのものを失ったように、無機質な視線だけを二人に向ける。
「コイツら…何か違う。」
ジェスターの低い声は、戦場で鍛えられた直感が警鐘を鳴らしている証拠だった。
「どうすんのよ。」
「ひとまず抑え込む。W、援護は任せる!」
「はいはい!」
Wは肩をすくめながらも、素早く二本のナイフを抜く。
軽い身のこなしで構成員の懐へ踏み込み、関節を狙って刃を滑らせる。
いつもなら、悲鳴か怒声のひとつは上がる。
だが――
「っ……!?」
皮膚が裂けた瞬間、Wは息を呑んだ。
流れ出すはずの血はなく、代わりに光沢のある黒いケーブルが覗く。
同時に、ジェスターの双剣が別の構成員を切り裂いた。
その胸部から溢れたのは金属片、基盤、安っぽいチップの塊。
「……コイツら、アンドロイドなのか……」
ジェスターは刀身を構えたまま、しばし動きを止めた。
正気でいられないほどの違和感。
レユニオンに、これほど精巧な擬態機械を量産できる技術など存在しないはずだ。
Wは切り裂いた構成員の中身をつま先でひっくり返し、眉をひそめた。
「でも……なんで? アンドロイドでも良いけど、襲いかかった理由が分かんないわよ?」
ジェスターは周囲を見渡しながら、静かに息を吐いた。
「……命令じゃない。これは“反応”だ。」
「反応?」
「俺たちを“標的として認識した瞬間”に攻撃してきた……そんな動きだ。」
Wの背中に寒気が走る。
彼女は冗談めかして肩をすくめるが、声にはわずかな震えが混じった。
「……ねえ、アンタ。それってつまり……」
ジェスターは視線を前方の闇へ向けた。
暗がりの奥で、何かが起動する微かな電子音が響く。
「レユニオンの中で…何かが始まってるんだ…。」
……………………
「テディス、遅いぞ。」
「す、すいません!!」
路地裏にチェンの鋭い声が響き、青年は慌てて駆け寄ってくる。
青髪に赤い瞳、龍の角と尻尾。
確かにチェンと似た面影はあるが、彼の仕草はどこか小動物めいて落ち着きがない。
アーミヤは並んで立つ二人を見比べて、小さく首を傾げた。
「チェンさん。こちらは?」
「コイツはテディス。私の部隊に入った新人だ。」
紹介がやけに素っ気ない。
チェンの態度には“必要最小限”という線引きが露骨にあった。
「はい。アーミヤさんでしたっけ? よろしくお願いします!」
テディスは笑顔全開で深々と頭を下げる。
声には若さと素直さが満ちている。
アーミヤも思わず柔らかく微笑んだ。
「…足を引っ張るなよ。」
チェンの冷たさは氷点下だった。
「はい!もちろんですよチェン隊長!」
「……ッ」
チェンは僅かに目を伏せると、返事を無視して歩き出す。
テディスは慌ててその後ろに続く。
アーミヤは二人の様子を眺めながら、胸の内で静かに呟く。
(チェンさん……テディスさんに、何かあるんでしょうか?)
嫌悪とも心配ともつかない微妙な空気。
チェンの不機嫌さは、単なる新人に対する苛立ちではない。
もっと深く根のある、触れづらい感情の影があった。
(でも……チェンさんは自分からは話してくれないだろうな……)
アーミヤは歩く二人の背中を見つめる。
チェンは前だけを見て歩き、テディスは彼女の背中に懸命に付いていく。
その距離は物理的には近いのに、どこか遠かった。
新登場のテディス君(21)です。