アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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フロストノヴァかわいいよ…


STORY.11:呼応

「……スノーデビル小隊……」

 

フロストリーフは唇を噛みしめ、視線を逸らさぬまま呟いた。

額には、はっきりと冷や汗が浮かんでいる。

 

その反応だけで、状況の深刻さは十分に伝わった。

 

「……よし。すぐ撤退しましょう。」

「ここは危険です。正面から当たる相手じゃありません。」

 

即断だった。

フロストリーフの声には迷いがなく、切迫した危機感だけがあった。

 

「は、はい!」

 

ジェシカが慌てて頷き、メテオリーテと連携して発煙筒を地面へ投げる。

次の瞬間、白煙が広がり、視界が一気に遮断された。

 

「チッ……!」

レイヴンは一歩踏み出し、スタングレネードを地面に叩きつける。

 

――閃光。

 

爆ぜるような白光と衝撃音が、広間を支配した。

煙と光が混ざり合い、空間そのものが歪んだように錯覚する。

 

その隙を逃さず、一同は走った。

 

「……逃げたか……」

 

煙の向こうで、ファウストが静かに呟く。

 

「まあいいさ…」

「あのうさぎ共は、フロストノヴァに任せるよ。」

 

皮肉交じりの声でそう言い、ちらりと隣を見る。

「……あ、君も“うさぎ”だったね?」

 

淡々と告げられたその言葉に、空気が一瞬、張り詰めた。

「……遂に、動物以下に成り下がったようだな…?」

 

低く、感情のない声。

「……あ?」

 

ファウストが僅かに眉を動かすが、それ以上は言わない。

フロストノヴァも、何も返さなかった。

 

ただ、冷たい視線が一瞬だけファウストを掠めた。

 

 

その頃――。

 

レイヴン達は、近くの崩れかけた建物の内部に身を潜めていた。

 

「……ん?」

 

レイヴンはシールドブーメランを構え、違和感に眉をひそめる。

 

展開しようとしたエネルギーフィールドが、鈍い反応を示した。

出力が安定しない。

 

「……マジかよ」

 

舌打ちを一つ。

寒さのせいか、それとも――あの女の影響か。

 

「バ、バレたりしませんかね……」

 

ジェシカが小さく声を震わせながら、割れた窓の隙間から外を覗く。

外には、今のところ人影はない。

 

静かすぎるほどだ。

 

「……アーミヤ」

 

「はい?」

 

レイヴンは視線を落としたまま、ぽつりと言う。

 

「……あの白髪の女……フロストノヴァ、だったな?」

「なんか……強そうだった…」

 

「……そうですね。」

 

アーミヤは否定しなかった。

むしろ、その言葉を噛み締めるように頷く。

 

「……なんか……」

 

レイヴンは言葉を探すように口を開くが、そこで止まる。

 

――ただ強い、だけじゃない。

――“嫌な予感”が、妙に残る。

 

その空気を切り替えるように、メテオリーテが外を確認した。

 

「……今のうちに動いた方がよさそうね、長居は無用よ。」

「そうだな。気を抜くなよ?」

フロストリーフも即座に同意する。

 

「ふええ……い、急いで行きましょう……!」

ジェシカの声を合図に、一同は建物を後にした。

 

凍りつく空気を裂くように、走る。

背後に、確実に“追われている何か”を感じながら。

 

レイヴンは走りながら、胸の奥に残る感覚を振り払えずにいた。

 

(……あの目……)

ただの敵じゃない。

ただの戦闘じゃ終わらない。

 

――そんな予感だけが、冷たく残っていた。

 

 

――その瞬間。

 

背後から、刺すような寒気が襲いかかった。

 

空気が、殺意そのものに変わる。

 

「……っ!」

 

レイヴンの吐息が白く凍り、肌が粟立つ。

 

「もう来たのか!?」

 

振り返った視界の先で、地面から氷の結晶が音もなく成長していく。

触れる前から分かる。

これはただの冷気じゃない――殺すための氷だ。

 

「……くそっ」

 

レイヴンは即座に判断する。

 

「しんがりは俺がやる!」

「先に行け!」

 

リコイルロッドを構え、地面を蹴った。

 

「ドクター!」

 

アーミヤの声が背中に突き刺さる。

 

「気にするな!」

 

振り返らない。

今振り返ったら、足が止まる。

 

(……今の実力で、どこまでやれる?)

 

自問と同時に、氷の靴音が近づいてきた。

 

白い息の向こうから、スノーデビル小隊が静かに進軍してくる。

そして、その中心。

 

白髪の少女が一歩前に出た。

 

「……ほう」

「お前が、“ドクター”とやらか」

 

淡々とした声。

怒りも、嘲りもない。ただ事実を確認するだけの眼。

 

「そうだ!」

レイヴンは真正面から睨み返す。

 

「……指揮官の身でありながら、自ら囮になるとはな」

フロストノヴァの視線が、刃のように細まる。

「……愚かだ」

 

「生憎な…」

レイヴンは不敵に笑った。

「俺はもう、バカになっちまっててな」

「その代わり――戦えんだよ!」

 

踏み込み。

リコイルロッドにエネルギーをチャージし、一気に突き出す。

 

重い衝撃音。

だが、刃先は分厚い氷壁に阻まれた。

 

「……チッ」

手に伝わる感触が、異常な硬度を告げている。

「硬ぇな……!」

 

次の瞬間――

背後から、アーツの光と矢が飛来する。

「……ドクター!」

「脱出が最優先です!」

アーミヤの必死な声。

「そんな暇ねぇっての!」

レイヴンは叫び返しながら、氷壁を蹴って距離を取る。

 

「相手がしてくれねぇんだからよ!」

その声を聞いたアーミヤは、歯を食いしばった。

理解している。

――止めても、彼は止まらない。

 

その時。

 

スノーデビル小隊の構成員たちが、一斉に動いた。

無機質な刃、冷気を纏ったアーツ、無言の突撃。

「来い……!」

レイヴンは双剣に持ち替え、迎え撃つ。

 

――斬撃。

 

――回転。

 

――叩き落とし。

 

次々と、構成員が地面に沈んでいく。

動きに無駄がない。

力任せではなく、純粋な戦闘技術。

 

その光景を、フロストノヴァは静かに見つめていた。

 

「…………」

そして、小さく息を吐く。

 

「……ジェスターが言っていた通りだな。」

彼女の視線が、レイヴンを捉える。

「……まるで――」

氷の世界の中で、ただ一人、熱を放つ存在。

「破壊神だな……」

 

フロストノヴァが放った氷のアーツが、空気を裂いて迫る。

 

だが――

 

「遅い!」

レイヴンは大剣を一閃。

金属音とともに、氷の塊は真横に弾き飛ばされ、壁に激突して砕け散った。

「……っ!?」

 

スノーデビル小隊がどよめく。

「アイツ……姐さんのアーツを……!」

「冗談だろ……!」

 

フロストノヴァは一瞬だけ目を細めたが、すぐに首を振る。

 

「落ち着け。……まだだ。」

一歩、前に出る。

そして――深く、静かに呼吸を整えた。

 

「……?」

 

レイヴンが違和感を覚える。

「……歌?」

 

フロストノヴァは、低く、淡々とした旋律を口ずさみ始めた。

それは戦場にはあまりにも不釣り合いで、だが――

 

次の瞬間。

 

――キィン。

 

空気が鳴った。

 

「……っ!?」

 

周囲の温度が、異常な速度で低下していく。

吐く息が白くなるどころではない。

足元の地面、壁、瓦礫――すべてが一斉に凍りつき始める。

 

フロストノヴァの周囲だけ、世界が別物に変わっていく。

 

「アーツの……詠唱!?」

 

フロストノヴァの掌に、小さな岩が形成される。

だがそれは、ただの石ではない。

 

表面を覆うのは、死そのものの冷気。

 

「……避けろ!!」

レイヴンの叫びと同時に、氷塊が放たれた。

 

ギリギリでかわすレイヴン達。

だが――

 

直撃した背後の建物は、一瞬で氷像と化し、次の瞬間には――

 

音を立てて粉砕された。

 

「……と、とんでもないですね……」

言葉を失うジェシカ。

 

「ドクター!私の後ろに――」

アーミヤが叫びかけた、その瞬間。

「――いや…」

 

レイヴンは一歩前に出る。

 

「前は俺だ!」

シールドブーメランを展開。

だが、降り注ぐ氷の欠片の一部が防ぎきれず、肩と脇腹を掠めた。

「ぐっ……!」

血が滲む。

冷気で痛覚が鈍る分、ダメージが遅れて押し寄せる。

 

それでも――

レイヴンは歯を食いしばり、連続するアーツを必死に防ぎ続ける。

 

そして。

 

攻撃が一瞬、止んだ。

それと同時に、シールドブーメランから火花が飛び散る。

 

レイヴンは低く呟き…

「ゆ、誘爆するッ!!?」

 

シールドブーメランを空中に放り捨て、爆発。

衝撃波が冷気を押し返し、視界を白く染める。

 

「……?」

フロストノヴァが眉をひそめる。

 

「……冷気が……」

再びアーツを形成しようとした、その時。

 

「――!?」

「……あれ……?」

アーミヤのアーツが、別方向に引き寄せられていく。

スノーデビル小隊のアーツも同様だった。

「……吸われてる……?」

全員の視線が、同時に一つの方向へ向く。

 

そこに立っていたのは――

 

謎のローブを纏った男。

手には、古めかしい碑文と、アーツを強制的に吸収していると思しき機械装置。

 

「……あれは……」

フロストリーフが息を呑む。

 

「碑文……!?」

「なんで、こんな所に……!」

その瞬間。

「……っ、ぐ……!」

レイヴンの膝が、地面についた。

 

「ドクター!?」

先程受けたダメージが、ここに来て一気に噴き出す。

傷口を押さえ、荒く息を吐く。

 

(……チッ……思った以上に……)

 

「でも、今がチャンス!」

メテオリーテの声と同時に、爆弾矢が地面へ突き立つ。

次の瞬間、轟音と衝撃が走り、視界は粉塵と炎に包まれた。

 

その混乱を利用して、アーミヤ達は一斉に退却する。

背後で何が起きているかを振り返る余裕はない。ただ――

 

"今逃げなければ、誰かが死ぬ"

 

その事実だけが、彼女の足を前へ前へと動かしていた。

 

同時に、

あの謎のローブの男も、煙の中へと溶けるように姿を消していた。

 

………………………

 

「……潮時、か……」

フロストノヴァは静かに呟き、武器を下ろす。

氷で覆われた世界が、わずかに緩む。

 

「……けほっ……けほっ……」

喉を押さえ、苦しそうに咳き込む。

 

「姐さん!大丈夫ですか!?」

部下が駆け寄る。

その声には、恐怖と焦りが滲んでいた。

「……だ、大丈夫だ……」

そう答えながらも、フロストノヴァの呼吸は荒い。

体の奥が軋む感覚。

アーツを使うたびに、自分の寿命を削っているという事実が、否応なく実感させられる。

 

「姐さんのアーツはただでさえ負担が大きいんです……無理は……」

 

「……分かってる…」

フロストノヴァは目を伏せる。

「……分かってる…つもりさ…」

 

………………………

 

その頃。

 

レイヴン達は近くの建物へと身を隠し、ようやく一息ついていた。

「はい、これでオッケー!」

 

「……サンキュー」

 

レイヴンは壁にもたれながら、メテオリーテに包帯を巻いてもらっている。

血の匂いと、消えきらない冷気が混ざった空間。

 

「それにしても……無茶するね。」

 

フロストリーフはレイヴンを見ながら、半ば呆れたように言う。

 

「メンテ不足のシールドブーメランで、私達全員を守るなんて…」

「……だ、大丈夫なんですか?」

ジェシカの声は小さく、震えていた。

 

「結構……直撃してましたよ……」

 

「気にすんな。」

レイヴンは軽く笑ってみせる。

「これくらい、平気だ。」

 

だが、その声に力はない。

呼吸の奥に、痛みが絡みつく。

 

そして――

 

アーミヤは、何も言えずに俯いていた。

 

(……本当なら)

 

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

 

(私が、守らなきゃいけなかったのに)

 

CEO。

ロドスのリーダー。

そう名乗りながら、結局――

 

彼女は、誰かに守られてばかりだ。

 

その時。

「……」

通信が入った音で、レイヴンが顔を上げる。

「テディス。どうした?」

 

『ドクター!大変です!龍門が襲撃されました!』

 

「……やっぱり、か……!」

嫌な予感が、最悪の形で的中する。

 

「分かった。すぐ行く。」

間髪入れず、次の通信。

「ケルシー!ヘリを手配しろ!」

『ドクター、話を――』

 

「急いでくれ。時間が無い。」

一切の躊躇もなく、命令を投げる。

 

「リバーサーも持って来てくれ。」

『…………分かった』

 

通信が切れる。

 

レイヴンは立ち上がり、外を見た。

丁度晴れる途中の空。

戦場へ向かう色をしている。

 

「ドクター、私たち先に外に出ておくわ。」

「だから、早く来てくださいね!」

メテオリーテ達は走り出し、着陸地点を探しに行く。

 

「……よし…アーミヤ、俺達も――」

そう言いかけた、その時。

服の裾が、ぎゅっと掴まれた。

 

「……どうした?」

 

振り返ると、そこにはアーミヤがいた。

目を伏せ、唇を噛みしめている。

 

「……ドクターは……どうして、そこまでできるんですか……」

 

声が、かすれる。

 

「私達は……ドクターを守る側です……」

 

「守らなきゃ、いけない立場なんです……」

 

言葉を重ねるたびに、胸の奥が痛む。

 

「なのに……私達を庇って、怪我をして……」

アーミヤは、顔を上げる。

「ドクター……」

その瞳には、自責と不安と、どうしようもない無力感が渦巻いていた。

 

「……私じゃ……」

 

小さく、震える声。

 

「力不足、ですか……?」

 

沈黙。

 

数秒――いや、もっと長く感じた一瞬。

 

そして。

「……別に」

レイヴンは、静かに言った。

「俺が、やりたくてやっただけだ。」その言葉は軽かった。

 

…………………

 

その頃――

テディス達は、郊外の高台から炎に包まれた龍門を見下ろしていた。

 

夜空を裂くように立ち昇る黒煙。

無数の火点が、街そのものが悲鳴を上げているかのように揺れている。

 

「……隊長……」

テディスの声は、無意識のうちに震えていた。

冗談半分で「大丈夫ですよ!」と言ってきたいつもの調子は、もうそこにはない。

 

「あれは……本当に、龍門なんですか……」

 

問いではなく、確認だった。

否定してほしかった。

だが――

 

「テディス…」

チェンは短く、しかし強く言い切る。

「すぐに他のメンバーを集めろ…分散している部隊をかき集める。」

 

視線は炎から逸らさない。

見ていなければ、判断を誤る。

それが彼女のやり方だった。

「……はい!」

テディスは即座に応じ、踵を返す。

 

だが、その瞬間だった。

 

乾いた破裂音。

空気を切り裂く、殺意の音。

 

チェンの背後――

死角から、弾丸が飛来していた。

 

(――――っ!!)

テディスの視界が、一瞬で狭まる。

考えるより早く、体が動いていた。

「危なぁぁぁぁい!!」

 

次の瞬間。

鈍い衝撃が、背中を貫いた。

 

「――いっ……!」

息が、肺から強制的に吐き出される。

熱い。

焼けるような痛み。

 

だが、テディスにはチェンの無事な姿が、視界の端に映った。

それだけで、十分だった。

 

「テディス……!?」

チェンの声が聞こえる。

だが、音が遠い。

世界が、ぐにゃりと歪む。

 

膝が崩れ、地面に倒れ込む。

 

(……いってぇ…)

 

体が、思うように動かない。

背中の感覚が、急速に失われていく。

 

そして。

テディスの体は、完全に力を失い、地面に横たわった。

どうやら――気絶しているようだった。

 

だが、その場に残された血の跡が、彼が確かに“守った”という事実を、無言で証明していた。

 

チェンは、その光景を前に――

一瞬だけ、動けなくなっていた。




最初「曇らせタグ要らないかなぁ」と思ってたけどなんか要らない訳ないよねってなった。
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