アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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今年中には序盤の部分を終わらせたいです。できるかなぁ…?」


STORY.13:力の果て

「来たな、ロドス。」

 

その声は、まるで最初からここで待っていたかのように静かだった。

氷点下の空気が、さらに一段階冷えた気がした。

 

フロストノヴァは、無駄のない動きで手を構える。

その背後では、スノーデビル小隊の隊員たちが一斉に配置につき、息を潜めていた。

彼らの視線は鋭く、だがどこか張り詰めた疲労も滲んでいる。

 

それに応じるように、レイヴンも武器を構えた。

大剣と双剣、そしてリコイルロッド――

どれを選んでも、ここから先は「退く」という選択肢はない。

 

(……ここでぶつかれば、どちらも無傷じゃ済まない)

 

そう理解していても、互いに引く理由はなかった。

 

「……待て待て〜!」

 

場違いな声が、張り詰めた空気を破る。

 

「ええい……しつこいわね!」

 

ブレイズとバッツが、息を切らしながら駆け込んできた。

二人とも、先程までの死闘の名残をはっきりと残している。

それでも、その瞳にはまだ戦意が宿っていた。

 

「……さあて……勝負しろ!」

 

バッツが挑発的に鎌を構える。

 

「……いいだろう」

 

短く応じたのはフロストノヴァだった。

レイヴンも、彼女と視線を交わし、互いに一歩ずつ距離を詰める。

 

次の瞬間――

 

轟音。

地鳴りが腹の底に響いた。

 

「なにぃ!?」

 

誰かの叫びと同時に、足元が崩れる。

地面が割れ、瓦礫が宙を舞い、視界が一瞬で土煙に包まれた。

 

(――っ、まずい!)

 

レイヴンがそう思った時には、既に身体は宙に投げ出されていた。

 

「ドクター!」

「危ないわよ!」

上から響く声を最後に、レイヴンとフロストノヴァは、崩落の闇へと飲み込まれた。

 

「……! なんだアレェ!?」

バッツが、思わず指を差す。

崩れたビルの上。

そこに、謎のローブを纏った男が立っていた。

 

手には、禍々しい碑文。

そして、アーツを吸い上げる異様な装置。

 

「……廃棄都市の時の……」

アーミヤは息を呑み、その姿を目で追う。

だが、男は彼女の視線に気付いたかのように、音もなくその場を離れ、姿を消した。

 

「姐さん!」

「ドクター!」

ロドスとスノーデビル小隊、双方から、二人の名を呼ぶ声が響いた。

 

だが、返事はない。

 

………………

 

しばらくして。

 

「……っ……」

 

レイヴンは、鈍い痛みと共に意識を取り戻した。

肺に埃を吸い込み、思わず咳き込む。

 

「起きたか」

 

静かな声。

 

視線を動かすと、瓦礫の上に腰掛けたフロストノヴァがいた。

彼女は武器を収め、こちらを見下ろしている。

 

「……ここは?」

「瓦礫の下だ。私たちは、完全に崩落に巻き込まれたらしい」

その言葉通り、上は瓦礫で塞がれ、かろうじて光が差し込む程度だった。

 

レイヴンは身体を起こし、リコイルロッドを構えて天井を見上げる。

「……これ以上、崩れるな……」

自分に言い聞かせるように呟き、

無意識のままフロストノヴァの隣に腰を下ろした。

 

沈黙。

 

だが、その静寂は長く続かなかった。

 

「ドクター!」

上から聞き慣れた声。

 

「アーミヤか!?」

「……今助けます! その場を動かないで!」

その声に、胸の奥がわずかに軽くなる。

レイヴンは周囲を見回し、瓦礫の影に伸びる細い通路に気付いた。

 

(……地下……?)

 

崩落した先は、かつての地下線路だった。

以前、テディスから聞いたことがある。

資源輸送用に作られ、スラムの拡大と共に廃棄された地下トンネル。

 

「アーミヤ!こっちに行けそうな道がある!」

声を張り上げる。

「俺たちはそっちに向かう!合流できるよう、そっちも探ってくれ!」

 

そう言って歩き出そうとし――

ふと、フロストノヴァを見る。

 

「お前も来いよ。仲間がいるんだろ?」

彼女は一瞬、目を伏せた。

「……私が、背後から攻撃するかもしれないぞ?」

試すような声。

「いや。しないだろ」

レイヴンは即答した。

 

「俺の勘がそう言ってる」

一拍置いて、軽く肩をすくめる。

「……俺の勘は、当たりやすいからな」

フロストノヴァは、わずかに目を見開き――

小さく、息を吐いた。

 

そして何も言わず、立ち上がる。

二人は、並んで地下通路を歩き出した。

 

 

……その頃、地上では。

 

「……姐さん……」

「スノーデビル小隊の一人が、アーミヤ達を見つめる。それに気付いたアーミヤ達は警戒する。

だが次の瞬間、彼らは武器を下ろし、両手を上げた。

「待ってくれ!こちらに攻撃の意思は無い!」

「……?」

「話がしたい!」

アーミヤは短く考え、静かに告げる。

「……では、あなた一人で来てください」

その言葉に従い、一人が瓦礫を越えて近づいてきた。

「……俺達も……姐さんを助けたいんだ」

声は、張りつめながらも誠実だった。

 

「しばらく休戦といかないか……?」

「…そういえば……」

 

アーミヤは、ふと気付いたように言う。

「あなた達の指揮官も……落ちてしまったんですね」

「……ああ」

 

彼は苦く頷く。

「元々、龍門が欲しかったわけじゃない。タルラが、援護を要請してきた…」

「………だが来た途端、コンバットフレームでこちらを攻撃してきたんだ…!」

 

「……!!」

 

アーミヤ達は息を呑む。

「だから、怪我人を連れて逃げた。理由は分からないが……危険だと判断した」

「……そうだったんですね……」

 

アーミヤは少し考え、近くのオペレーターに声をかける。

「誰か、医療キットをお願いします。」

「はい、すぐに」

 

差し出された医療キットを、アーミヤはスノーデビル小隊に渡した。

「これは……?」

「今は……これで怪我人を治してください」

「……ありがとう……!」

彼は深く頭を下げ、仲間の元へ戻っていった。

 

「……いいの?元は敵だよ?」

ブレイズの問いに、アーミヤは小さく微笑む。

 

「……いえ。私が……そうしたかったんです」

胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。

 

(……私……ドクターみたいな事……)

 

そう思いながら、アーミヤは瓦礫の向こうを見つめていた。

 

…………………

 

アーミヤ達は、スノーデビル小隊と行動を共にしながら、崩落した地下へと続く複数の経路を探っていた。

敵味方という線引きは、今この場では驚くほど曖昧になっている。

 

そして、その輪の中に一人――

どう見ても場違いな存在がいた。

 

「……」

腕を組み、露骨に不機嫌そうな顔で歩くバッツである。

レユニオンの鎌使いであり、つい数十分前までは刃を交えていた相手だ。

 

その様子を見て、ブレイズが口角を上げる。

 

「ねえアンタ。さっきからずーっと不貞腐れてるけどさ」

「な、なんだよ」

「どうしてレユニオンにいるの?」

 

あまりに直球な問いだった。

バッツは一瞬言葉に詰まり、視線を逸らす。

 

「見たところさ……あんまり人を殺してないっていうか」

「戦いは好きそうだけど、思想には興味なさそうだし」

その指摘に、バッツは舌打ちする。

「俺はな!強い奴と戦いたくてレユニオンに入ったんだよ!」

吐き捨てるような声。

「でもよ……あそこ、飯は不味いし、変な思想ばっかり押し付けてくる奴もいるし……」

 

一瞬、言葉が詰まる。

 

「……特に、タルラって奴」

その名を出した瞬間、空気が微妙に変わる。

 

「なんつーか……強そうってより、怖ぇんだよ」

「目がさ…そのー…不気味っていうか……」

 

ブレイズは軽く息を吐き、アーミヤを見る。

「……レユニオン内部ですら共有されてない計画、か」

「タルラは……何をしようとしてるんでしょう……」

アーミヤはそう呟きながら、胸の奥に小さな不安を覚える。

“知らされていない”という事実が、何よりも恐ろしかった。

 

その時。

 

前方から、思いがけず笑い声が聞こえてきた。

 

「ははっ、それ姐さんに言ったら怒られるぞ」

「いやいや、あの時は絶対俺が正しかったって!」

スノーデビル小隊の数名が、冗談を交えながら雑談している。

氷の部隊、雪原の悪魔――

そんな異名とはかけ離れた、あまりに普通の光景だった。

 

「……」

アーミヤ達は、思わず足を止める。

「……雰囲気、違いますね」

「ええ……もっと冷酷で残忍な連中かと」

ブレイズの言葉に、一人の隊員が振り返る。

「俺たちだって、無駄な戦闘は避けたい」

静かだが、はっきりした声だった。

「それに……お前達だって、そうだろ?」

「……はい」

アーミヤは小さく頷いた。

 

しばらく沈黙が流れ――

一人が、ふと不安そうに呟く。

 

「……姐さん、大丈夫かな……」

「……フロストノヴァが?」

アーミヤが尋ねると、隊員の表情が曇る。

 

「姐さんは……アーツを使い過ぎているんだ…今、身体が弱いのに…」

別の隊員が、唇を噛みしめる。

「何度も止めてる……これ以上使えば、命に関わるって」

 

その言葉は、氷よりも重く胸に沈んだ。

アーミヤは、思わず視線を落とす。

 

(……そんな……)

「……助けたいんじゃないの?」

不意に、ブレイズが言った。

 

「ぇ……?」

「アンタの目が、そう言ってる」

アーミヤは一瞬戸惑い、しかし静かに頷いた。

 

「……もしも……ドクターがここにいたら」

言葉を選びながら、続ける。

「きっと……『助けてやりたい』って言うと思うんです」

 

「だから私も……同じ気持ちです」

その言葉に、後ろで聞いていたスノーデビル小隊の一人が、深く頭を下げた。

 

「ロドスのリーダー……」

「もし、可能なら……姐さんを、助けてくれ……!」

 

その声には、敵としての威圧も誇りもなかった。

ただ、仲間を想う切実な願いだけがあった。

 

…………………

 

その頃。

地下通路を、二人は静かに歩いていた。

 

崩落した瓦礫の隙間を抜け、古びた線路沿いを進む。

足音だけが、やけに大きく響く。

 

「……なあ」

 

沈黙を破ったのは、レイヴンだった。

 

「アンタ……身体、弱いのか?」

「……何故、それを?」

「いや……さっきから、ちょっとフラついてる気がしてな」

フロストノヴァは、一瞬歩みを止めた。

「……私は、アーツを酷使している」

淡々とした声。

 

「その反動で、身体への負担が大きい」

「だから……もうすぐ、死ぬのかもしれない」

まるで、天気の話をするかのような軽い口調だった。

レイヴンは思わず足を止める。

 

「……いいのかよ」

 

低い声。

 

「そんな簡単に、受け入れて」

フロストノヴァは答えない。

「俺だったら……嫌だな」

レイヴンは拳を握る。

「アンタが死んだら……悲しむ奴、いるだろ?」

「……」

 

その瞬間、フロストノヴァの脳裏に浮かんだのは――

スノーデビル小隊の顔。

そして、寡黙に立つパトリオットの背中。

 

「……いるさ」

小さく、しかし確かに、彼女はそう呟いた。

 

 

「嫌だ。死んだら駄目だ」

レイヴンの声は、地下に反響して少し低く響いた。

それは叱責でも説教でもなく、ほとんど独り言に近かった。

 

「死んだら……そこで終わりなんだ」

足を止め、言葉を噛みしめるように続ける。

「だってさ……悲しいじゃんか」

 

軽い口調を装っているが、どこか必死だ。

 

「大事な人が居るのに……先に死んだらさ」

「そいつらを、置いていくことになる」

レイヴンは自分でも理由が分からないまま、胸の奥が締め付けられる感覚を覚えていた。

「俺はさ……記憶が無いし」

「覚えてる奴も……居ないからさ」

だから、と言外に続く。

「失う怖さが、分からないんだ」

 

「……」

フロストノヴァは歩みを止め、彼の横顔を見つめていた。

その澄んだ瞳には、恐怖も諦観もない。ただ、真っ直ぐな感情だけが映っている。

 

(……知らないんだな)

彼女は胸の奥で静かに思う。

(お前にも……死んだら、確実に悲しむ者が居るということを)

 

ジェスターとW、そして近衛局の二人。

ロドスのオペレーター達。

そして、あの小さな兎の少女。

 

――レイヴン自身が、その存在になりつつあることを。

 

 

やがて二人は、天井の高い、やや開けた空間に辿り着いた。

崩落はしているものの、かつては資材集積所だったらしく、比較的足場が安定している。

 

「……広いな」

レイヴンはそう言いながら、段差を越えるために手を差し伸べた。

しかし、フロストノヴァはそれを取らず、ひらりと自力で地面に降りる。

 

「……」

一瞬、空気が止まる。

 

「私には、触らない方がいい」

背を向けたまま、彼女は淡々と言った。

「身体が……凍ってしまうからな」

「……」

 

レイヴンは一歩近づき――

躊躇いなく、その背中に手を伸ばした。

 

「……おい、何を……!」

 

驚いた声が返る。

だが、彼は手を離さなかった。

「……ちゃんと、あったかいじゃねぇか」

 

静かに目を閉じる。

 

指先から伝わる体温。

微かだが、確かに感じる鼓動。

 

「生きてるって感じるよ」

フロストノヴァは言葉を失った。

氷の呪いに侵され、触れれば凍ると言われ続けた自分に…

躊躇いなく触れた者は、彼が初めてだった。

 

「……君は……変わっているな」

ようやく絞り出した言葉。

「よく言われる」

レイヴンは軽く笑った。

 

その笑みは、彼女にとって不思議なほど――

暖かかった。

 

二人が歩を進めると、空間の奥に不自然な設備が見えてきた。

 

古い机。

簡易サーバー。

アーツ理論の資料と、無造作に置かれた端末。

 

「……なんだ、これ」

「貸してくれ」

フロストノヴァは資料を手に取り、目を通す。

数秒後、僅かに表情が変わった。

 

「……チェルノボーグで、君を救出した人間の……生き残りだな」

「……なんだって?」

レイヴンは資料を受け取り、文字を追う。

そこに並ぶ日付と、血の滲むような記録。

 

 

『A.C.2022年 10月10日

Aceさんは死んでしまった……

他の仲間も全員……

俺だけが、生き残った』

 

『A.C.2022年 10月13日

なんとか龍門に辿り着いた

排水エリアに拠点を設立』

 

『A.C.2022年 10月17日

金庫のような物を破壊

中には謎の石

碑文と呼ばれているらしい』

 

『A.C.2022年 10月29日

力が……溢れてくる

これさえあれば……奴らに……』

 

『A.C.2022年 12月06日

レユニオンが来る

この力で、全て叩き潰す』

 

 

「……ああ!くそ!」

レイヴンは、息を吐いた。

「とんでもねぇな……」

だが、次の瞬間。

胸の奥に、奇妙な違和感が走る。

 

「……誰が書いた?」

フロストノヴァの問いに、彼は額を押さえる。

 

Aceは死んだ。

Scoutも死んだ。

それは、ブレイズからも、ロドスからも聞いている。

 

「……いや……」

頭の奥で、何かが引っかかる。

「居た……」

「……どうした?」

「居たんだよ」

 

レイヴンの声が、確信を帯びる。

「Aceのこと慕ってて……」

「死んだと思われてたけど……実は、生きてた奴が」

彼の記憶の底で、ようやく“名前の無い影”が、輪郭を持ち始めていた。

 

 

すると、アーミヤ達とスノーデビル小隊もやってきていた。

「ドクター!」

「アーミヤ!来てくれたんだな!」

「姐さん!」

「お前達…」

 

「アーミヤ、あの廃棄都市で見たローブの男の正体が分かったかもしれない。」

「え!?」

「……奴は…おそらく…」

 

「おっと――それは自分で言いますよ」

 

その声は、広い空間の奥から静かに響いた。

反響によって位置が掴みにくく、最初は誰も正確な距離を測れなかった。

 

次の瞬間、照明の届かない陰から、一人の男が姿を現す。

全身を覆う暗色のローブ。顔は深く影に沈み、表情は読み取れない。

しかし、その立ち姿と気配だけで、ロドスの一部の者は正体に思い当たっていた。

 

「お前は……“guard”だな?」

 

ドクターの声は低く、確信を含んでいた。

 

その問いに対し、男は一瞬だけ動きを止め、ゆっくりとローブの留め具を外した。

布が床に落ちる音が、やけに大きく響く。

 

露わになったのは、見覚えのある顔だった。

かつてロドスに所属し、Aceの部隊にいたオペレーター。

公式記録では、チェルノボーグにて戦死とされていた人物。

 

「よく分かりましたね、ドクター」

 

淡々とした声だった。

 

「……guardさん……」

 

アーミヤは小さく名を呼ぶ。

その声音には驚きと確認が混ざっていたが、感情を爆発させることはなかった。

 

「お久しぶりです、アーミヤさん」

 

彼は礼儀正しく言葉を返す。

その様子だけを見れば、かつてのロドスのオペレーターと何も変わらない。

 

しかし、次の行動が、その印象を完全に否定した。

 

guardは手を伸ばし、指先から複数のアーツ結晶を放った。

狙いは明確で、回避行動を取らなければ直撃する位置だった。

 

「危ない!」

誰かの叫びと同時に、全員が身を低くする。

直後、背後で爆発が起き、熱と衝撃波が空間を揺らした。

 

「今のは……アーツ!?」

ブレイズが即座に判断する。

通常の詠唱や媒介を経ていない、不自然な発動だった。

 

guardは答える代わりに、手元の物体を掲げた。

それは、先ほど資料の中でも言及されていた“碑文”だった。

 

「あれは……碑文!?」

その瞬間、さらに別の動きがあった。

 

空間上部の構造物を蹴り、二つの影が同時に降下してくる。

着地と同時に、独特の金属音が響いた。

 

「ジェスター!」

「W!」

名前が呼ばれる。

二人は即座にguardと距離を取り、警戒態勢を取った。

 

「勘違いするな」

ジェスターが短く言う。

 

「俺達は、アイツを止めに来た」

その言葉に、場の緊張が一段変化する。

「じゃあ、目的は一緒だろ?」

レイヴンの問いに、ジェスターは一瞬だけ沈黙し、やがて頷いた。

 

「……そうだな」

互いに武器を構え、guardを正面に捉える。

guardは二人を一瞥し、手に持っていた小型の機械装置へと視線を落とした。

「いよいよ……使う時が来たようだな」

彼は迷いなくスイッチを押す。

 

その瞬間、レイヴン達の背筋を、明確な違和感が走った。

理屈ではなく、本能的な警告だった。

 

「駄目です、guardさん!それを使っては……!」

アーミヤの制止は、間に合わなかった。

「残念だが……来るようだぞ」

 

フロストノヴァが低く告げる。

 

機械の内部に収められていた源石が、異常な挙動を始める。

脈動するように光り、液体のように形を崩し、guardの身体へと流れ込んでいった。

 

源石は皮膚を突き破ることなく、まるで吸収されるかのように消えていく。

その光景は、見ている者すべてに生理的な不快感を与えた。

 

次第に、guardの喉から苦悶の声が漏れ始める。

激痛に耐えるような叫び声と同時に、身体の内側から力が膨張していくのが、誰の目にも分かった。

 

「……なんて事を……!」

 

「お前達、ここは下がれ」

 

フロストノヴァが前に出る。

 

「姐さん!だが……」

 

「……安心しろ」

 

振り返らずに、静かに言う。

 

「私は……生きて帰るさ」

 

そう言って、彼女はアーツの構築を開始する。

空気が冷え、微細な氷結反応が周囲に広がっていく。

 

やがて、guardの変化が完了した。

 

身体にはアーマーのような装備が形成され、手には禍々しい剣が握られている。

周囲には、制御を失ったアーツ結晶が浮遊し、空間そのものを歪ませていた。

 

「…………」

 

沈黙の後、guardが口を開く。

 

「どうだ……この力は……」

そして、次の瞬間。

 

「この力で……全ての存在を根絶やしにするんだ――――!」

彼が剣を振るうと、溢れ出したエネルギーが柱を直撃する。

石材は一瞬で砕け散り、崩落の兆候が露わになる。

 

「な、なんてパワーなんだ!?」

「……まずいぞ、ドクター。このまま柱を破壊されていったら……」

レイヴンは周囲の構造を見回し、短く結論を出した。

 

「……ここが、崩れるな……」

空間全体が、確実に限界へと近づいていた。

 

「……ドクター」

低く、しかしはっきりとした声だった。

レイヴンの左右に、アーミヤとフロストノヴァが並び立つ。

三人の視線は、ただ一点……guardへと向けられていた。

 

「ドクター……」

アーミヤは一歩前に出る。

声には震えはないが、決意だけが確かに込められている。

 

「guardさんを……止めましょう!」

 

短く、明確な提案だった。

もはや説得や後退という選択肢は残されていない。

この場にいる全員が、それを理解していた。

 

「……ああ」

ドクターの返答は簡潔だった。

その一言で、方針は定まった。

 

レイヴンは、静かに視線を横へ移す。

そこにはフロストノヴァが立っている。

先ほどまで敵対していたはずの存在だが、今は同じ方向を見ていた。

 

「フロストノヴァ」

「なんだ?」

「これが終わったら……スノーデビル小隊と一緒に、ロドスに来いよ」

 

その言葉は、戦闘中の軽口ではなかった。

命のやり取りが行われる直前だからこそ、余計な装飾を削ぎ落とした提案だった。

 

一瞬の沈黙。

フロストノヴァは視線を逸らさず、やがて短く答える。

 

「……ああ。約束しよう」

 

それ以上の言葉は必要なかった。

約束が交わされた事実だけが、静かに場に残る。

 

レイヴン達は同時に武器を構える。

呼吸が揃い、足の位置が定まる。

 

「ジェスター! 行くぞぉ!」

「レイヴン、背中は預けるぞ!」

互いに確認するような声を交わし、二人は一気に駆け出した。

瓦礫を蹴り、粉塵を巻き上げながら、一直線にguardへと距離を詰めていく。

 

guardはその様子を見て、口角を歪めた。

理性よりも、力への陶酔が前面に出た表情だった。

 

「誰だろうと……俺は負けないんだ―――!」

 

咆哮と共に、禍々しい剣を構える。

剣身に集まるアーツの光が、周囲の空間を不安定に歪ませる。

 

崩れかけた柱。

軋む天井。

足元では、細かな瓦礫が絶えず落ち続けている。

 

それでも、誰一人として足を止めなかった。

 

こうして、かつてロドスに身を置き、力を求めるあまり道を踏み外したguardと、彼を止めようとする者達は、互いに剣を向けて走り出した。

 

この戦いが何をもたらすのか。

誰が立ち、誰が倒れるのか。

 

その結末を……

この場にいる誰一人として、まだ知ることはできなかった……




原作よりも戦わなくていいキャラばっかで敵が…敵が…全然居ない…
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