アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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クリスマスにはシャケですよみなさん。


STORY.14:最後の願い

レイヴンとジェスターは、ほぼ同時にguardへと踏み込み、剣を振り下ろした。

刃が空気を切り裂き、確かな手応えを想定した一撃だった。

 

しかし――

次の瞬間、乾いた金属音が響く。

 

「――っ」

guardはほとんど体勢を崩すことなく、軽く剣を振るっただけだった。

その動作だけで、レイヴン達の剣撃は容易く弾き返される。

衝撃は腕を通して伝わり、足元の瓦礫が小さく跳ねた。

 

レイヴンは一瞬でそう判断する。

 

「くっ……アーミヤ!」

 

距離を取りながら声を上げると、すぐさま返答があった。

 

「はい!」

 

アーミヤは迷いなく一歩前に出る。

両手を掲げ、アーツを構築する。

澄んだ光が収束し、狙いを定めて放たれた。

 

だが――

「甘いですよ」

 

guardの声は、どこか冷静さを欠いていなかった。

彼は片手を動かし、まるで空間そのものを引き裂くかのような仕草を見せる。

 

次の瞬間、guardの背後に歪みが生じ、そこからレユニオンの構成員が現れた。

突然引きずり出されたような形で、状況を理解する間もなく、アーミヤのアーツが直撃する。

 

爆発音と共に、その姿は消えた。

 

「なっ……」

 

アーミヤの目が見開かれる。

攻撃は確かにguardを狙っていた。

だが結果として、guard自身は無傷だった。

 

「不思議ですか?」

 

guardは淡々とそう言い、碑文を持つ手を軽く動かす。

 

「チッ……どうやら、相当力をつけているようだな」

 

レイヴンは歯噛みする。

単なる防御ではない。

攻撃を逸らし、犠牲を強制的に作り出す――極めて悪質な戦法だった。

 

「なら! 俺が行くぜ!」

「私も!」

 

声を上げたのは、バッツとブレイズだった。

二人は左右に散り、同時に跳躍する。

上空からの挟撃。

狙いはguardの死角だった。

 

「アンタ……aceの意思を無駄にする気!?」

 

ブレイズの叫びが響く。

その言葉には非難以上に、問いかけの意味が含まれていた。

 

だがguardは、その声に反応を示さなかった。

ただ静かに剣を振るう。

 

衝撃波が発生し、空気が一気に押し出される。

 

「――っ!」

 

バッツとブレイズは、まるで叩き落とされたかのように吹き飛ばされ、床を転がった。

致命傷ではないが、すぐに立ち上がれる状況でもなかった。

 

その光景を見据えながら、レイヴンは一歩前に出る。

 

「guardとか言ったな?」

低く、はっきりとした声だった。

「お前は……ただ逃げてるだけじゃないのか?」

 

その言葉に、guardの動きが僅かに止まる。

「何……?」

「弱い自分からだ。だから、そんな力に縋ったんじゃないのか?」

 

挑発ではない。

断定に近い言い方だった。

 

guardは一瞬黙り込み、やがて鼻で笑う。

 

「……ふん。俺だって、ロドスの夢に賛同したかったですよ」

その声には、過去を思い出すような間があった。

「だが……チェルノボーグでの戦いで、分かった。あの夢は、ただの幻想だ。綺麗事を並べて、何も守れない」

 

彼は剣を強く握り締める。

「だから、この力を選んだ。この力さえあれば、世界は俺にひれ伏す」

空間が、再び歪む。

 

「それが……お前の理想か……!」

 

レイヴンの声が響く。

guardの表情が歪んだ。

 

「理想だとッ!?戯言だッ!!」

 

怒声と共に、剣が振り上げられる。

禍々しい光が刃に集まり、次の衝突を予感させていた。

 

「……アーツを放っても、奴には即座に反応される……」

 

フロストノヴァは短くそう告げると、再び冷気を収束させた。

氷結のアーツが空間を歪ませながらguardへと向かう。

だが、guardは剣を軽く振るうだけで、それを正面から受け止め、衝突点で霧散させた。

 

攻撃は通らない。

それは誰の目にも明らかだった。

 

guardは、単に強化されているのではない。

アーツの発動兆候を読み取り、最小限の動作で対処している。

力と判断力、その両方を兼ね備えた状態だった。

 

「……ドクター。俺が隙を作る」

 

背後から、ジェスターの低い声が聞こえる。

戦況を冷静に観察した上での提案だった。

 

「分かった。頼むぞ」

 

レイヴンは短く応じる。

言葉を重ねる必要はなかった。

 

「お前ら、援護は任せるぞ!」

 

振り返りながら、後方の仲間に声を飛ばす。

 

合図と同時に、ブレイズ、アーミヤ、フロストノヴァの三人が動いた。

炎、光、氷――

属性の異なるアーツが、時間差なくguardへと集中する。

 

「無駄だと……ッ!」

 

guardは声を荒げながらも、迎撃に入る。

だが、その瞬間――

 

彼の視界の外、上空で動きがあった。

 

ジェスターは既に跳躍していた。

guardの注意が正面に向いている、その一瞬を逃さない。

 

「――マジシャン・フリーズッ!」

詠唱と共に、guardの足元に魔法陣が展開される。

地面を突き破るように氷の結晶が伸び、瞬時に足を拘束した。

 

「無駄だッ!」

guardは衝撃波を放ち、拘束を力任せに破壊する。

その余波で、ジェスターは大きく吹き飛ばされた。

 

「――くっ……!」

空中で体勢を崩しながらも、ジェスターは地面に剣を突き立てる。

刃が瓦礫を削り、ようやく停止する。

 

だが、彼は止まらなかった。

 

「エレメンタル・サイクロン!」

身体を軸に身体を回転させると、周囲の自然エネルギーが呼応する。

風が渦を巻き、土砂と氷片を巻き込んだ竜巻となって形成された。

 

ジェスターは、その中心に身を置いたまま、guardへと突進する。

 

guardは剣を振るおうとするが、竜巻の圧力に弾かれ、体勢を崩す。

その瞬間、ジェスターは流れに乗るようにguardの背後へと回り込んだ。

 

左手に、別のアーツが集束していく。

熱量が急激に上昇し、空気が歪む。

 

「……アトミック・ブレイザー!」

 

ビームが放たれ、爆炎が周囲を包み込む。

視界が白熱し、衝撃が地面を揺らした。

「……今だ!」

 

炎の中から、レイヴンが飛び出す。

リコイルロッドを構え、一直線に突撃する。

 

ためらいなくそのまま、guardの身体を貫く。

 

「――っ!」

 

衝撃でguardは吹き飛ばされ、背後の柱に激突した。

石材が砕け、粉塵が舞う。

 

「……くっ……バカな……」

 

guardは呻きながら立ち上がろうとする。

だが、その足取りは不安定だった。

 

「……この力を……手に入れたのに……」

それでも、彼は剣を手放さない。

「くそ……!」

 

次の瞬間、guardは碑文へと向かって叫ぶ。

「まだだ!碑文よ!俺に……もっと力を――!」

 

碑文が反応する。

不気味な光を放ち、力をguardへと流し込んでいく。

 

だが、それは強化ではなかった。

 

guardの身体が宙に浮かび上がる。

骨格が歪み、装甲のようなアーツ結晶が皮膚を侵食していく。

 

人の形を保っていた輪郭が、徐々に崩れていく。

 

悲鳴とも、叫びともつかない声が響く。

その音には、理性が削り取られていく過程がはっきりと表れていた。

 

やがて、そこに立っていたのは――

人間とは言い難い、悪魔的な姿だった。

 

歪んだ声が、空間に反響する。

 

「モットチカラヲォォォォォォォォォォッ!」

 

戦場に、重苦しい沈黙が落ちた。

誰もが理解していた。

 

guardの身体から噴き出したアーツエネルギーは、もはや一つの攻撃というより、制御を失った奔流に近かった。

歪んだ叫びと共に放たれたそれは、空間を裂きながら一直線に飛来する――はずだった。

 

しかし、直前で軌道が大きく逸れる。

 

「……外れた?」

 

エネルギー弾は地面を抉り、瓦礫を粉砕しながら虚しく爆散した。

本来なら確実に命中していた距離と角度だった。

 

「くそっ、デカくなりやがって!」

 

レイヴンは距離を保ったまま、guardの動きを観察する。

その身体は確かに巨大化し、圧倒的なエネルギー量を帯びている。

だが同時に、動作はどこかちぐはぐで、狙いが定まっていない。

 

「ズニノルナァァァァ!!」

 

guardは再びアーツ弾を放つ。

しかしそれも、狙いを外れ、壁面を破壊するだけに終わった。

偶然こちらへ飛んできたものも、ジェスターやブレイズによって即座に切り裂かれ、脅威にならない。

 

攻撃の密度は高い。

だが精度が致命的に欠けている。

 

「……一体、何が起こっているんでしょう……」

 

アーミヤが警戒を崩さぬまま呟く。

 

「多分ね、アイツ……力を制御できてないのよ」

 

ブレイズはguardの挙動を冷静に見据えながら答える。

その声には確信があった。

 

「碑文の力を無理やり引き出した代償ってところでしょうね。

 力だけ増えて、身体も意識も追いついてない」

 

「じゃあ――」

 

Wが口元に歪んだ笑みを浮かべ、爆弾を手に取る。

 

「今なら倒せるって事でしょ?」

 

誰も否定しなかった。

 

「……チャンス、という事か……」

 

フロストノヴァがそう言いかけた瞬間、言葉が途切れる。

強い咳が込み上げ、口元を押さえる。

 

その指の隙間から、血が落ちた。

 

「……っ」

 

無理を重ねているのは明白だった。

アーツの負荷が、確実に彼女の身体を蝕んでいる。

 

「時間がありません……」

 

アーミヤが即座に判断を下す。

 

「一気に倒します!」

 

「ドクター、話は聞いたな?」

 

レイヴンは短く確認する。

 

「分かった。一気に叩く!」

 

余計な指示は不要だった。

全員が、同じ結論に辿り着いている。

 

レイヴンとジェスターが同時に前へ出る。

瓦礫を蹴り、加速する。

 

「今だ!」

 

guardの振り下ろした一撃を、二人は跳躍で回避する。

巨大な剣が地面を砕き、衝撃波が広がる。

 

「ナニッ!?!」

 

guardの視界から、一瞬だけ二人の姿が消える。

 

次の瞬間――

左右から、交差する二つの影。

 

「でやぁぁぁぁぁ!」

 

レイヴンとジェスターの刃が、十字を描いてguardの身体を切り裂いた。

 

衝突点で、抑え込まれていたエネルギーが解放される。

圧縮されたアーツが臨界に達し、激しい爆発が発生した。

 

閃光と衝撃が、地下空間を揺るがした。

 

…………………

 

爆発によって舞い上がっていた粉塵が、ゆっくりと地面に落ちていく。

地下空間に残ったのは、焼け焦げた床と砕けた柱、そして――その中央に倒れ伏す一人の男の姿だった。

 

guardは、もはや先程までの異形ではなかった。

アーマーのように身体を覆っていた禍々しい装備は消え去り、巨大化していた肉体も元の大きさへと戻っている。

服は破れ、全身には無数の傷が刻まれていた。

 

「……うっ……」

 

微かな声が漏れる。

その音を確認すると同時に、アーミヤ達は警戒を解かずに距離を詰めた。

 

「guardさん!」

 

アーミヤは膝をつき、彼の様子を確認する。

呼吸は浅く、脈も不安定だ。

今こうして言葉を発している事自体が、奇跡に近い状態だった。

 

「……ありが……とう……ございます……」

 

guardの声は、かすれ、途切れがちだった。

だが、瞳には先程までの狂気や歪みはなく、かつてロドスに所属していた頃の、静かな理性が戻っている。

 

「俺を……倒してくれて……」

 

彼はわずかに視線を上げ、レイヴンとアーミヤを見る。

 

「……もう少しで……

 とんでもない……過ちを犯す……ところだった……」

 

言葉を紡ぐたびに、呼吸が乱れる。

喉を震わせながら、それでも彼は語り続けた。

 

「……すべては……

 俺の心が……弱かったから……」

 

「自分の……役目から……逃げてしまった……」

 

guardはゆっくりと目を閉じ、短く息を吐く。

 

「……だが……

 これで少しは……強くなれた……だろうか……」

 

誰も、すぐに答えなかった。

その沈黙の中で、guardは微かに笑ったようにも見えた。

 

「……これで……お別れです……

 ドクター……アーミヤさん……」

 

その瞬間だった。

 

床に転がっていた碑文が、淡く光を放ち始める。

眩しさはなく、どこか穏やかな輝きだった。

 

光の粒子が、雪のようにguardの身体へと降り注ぐ。

 

「……暖かい……」

 

その言葉を最後に、guardの肉体は次第に輪郭を失っていく。

崩れるのではない。

分解され、整理され、情報へと還元されていくように――。

 

やがて彼は、人の形をした淡い光の集合体となった。

 

「……ドクター……

 貴方も……碑文を宿しているんですね……」

 

その声は、もはや肉体を介さず、空間そのものに響いていた。

 

「……碑文は……

 使う人によって……

 その力を……変えるのかもしれない……」

 

それを最後に、guardの魂はゆっくりと上昇していく。

爆破で砕けた天井の隙間から、朝の光が差し込み、その中へと溶けるように消えていった。

 

そこには、敵意も後悔も残っていない。

ただ、一人の人間の終わりだけがあった。

 

「……碑文の力……か……」

 

レイヴンは静かに呟く。

 

その時だった。

 

地面に残されていた別の碑文が、ふわりと宙に浮かび、ジェスターの方へと近づく。

 

『これで彼も、安らかに眠れる事だろう』

 

突然、直接頭の中に響く声。

だが、不快感はなかった。

 

『ありがとう。俺を助けてくれて』

 

「……アンタは……?」

 

ジェスターが警戒を崩さず問いかける。

 

『俺は第八の碑文(再誕)“コルベニク”』

 

『どうやら、君が俺を助けてくれたようだね』

碑文は淡く光りながら続ける。

『改めて感謝する。そして――これからは、君に力を貸す事にしよう』

その言葉と同時に、光は収束し、まっすぐジェスターの胸元へと吸い込まれていった。

 

抵抗も、衝撃もない。

ただ、何かが確かに“宿った”という感覚だけが残る。

 

「……これは……」

「へー……どうやらドクターみたいに碑文使いになったって事?」

Wは軽い調子で肩をすくめ、意味ありげな笑みを浮かべた。

「良かったじゃない。」

皮肉とも冗談ともつかない言葉だったが、ジェスターは一切反応を示さなかった。

自分の胸の奥に残る、はっきりとした“異物感”。

それは不快ではないが、確実にこれまでとは違う何かだった。

 

(……軽々しく喜べるものでもないな)

ジェスターは視線を伏せ、深く息を整えるだけで、その場をやり過ごした。

 

一方、フロストノヴァは限界に近かった。

guardとの戦闘でアーツを展開し続けた代償が、今になって明確に表に出ている。

呼吸は荒く、足取りも不安定で、立っているだけで精一杯の状態だった。

 

「……っ……」

 

膝が折れかけた瞬間、レイヴンがすぐに腕を差し出す。

彼女の身体を支えた腕越しに、異様な冷たさと、逆に失われていく体温の弱さが伝わってきた。

 

「大丈夫か?」

 

簡潔な問いだったが、その声には明確な焦りが含まれている。

 

「……ああ……まだ……歩ける……」

 

フロストノヴァは短く答えたが、その声音には無理があった。

強がりというより、長年の習慣のようなものだった。

 

それを見て、アーミヤが一歩前に出る。

 

「ドクター、急いで戻りましょう!

 フロストノヴァは、明らかに危険な状態です!」

 

その判断は冷静だった。

戦闘は終わったが、彼女の体調は戦場にいるのと変わらないほど切迫している。

 

「分かった。」

 

レイヴンは即座に答え、フロストノヴァをしっかりと支え直す。

 

「連れて行くから、それまでに死ぬなよ。」

 

ぶっきらぼうな言い方だったが、それは命令に近い響きを持っていた。

彼自身が、彼女を“死なせるつもりがない”と明確に決めている声音だった。

 

「……ああ……分かっているさ……」

 

フロストノヴァはかすかに笑った。

その表情は弱々しいが、確かに意思を宿していた。

 

こうして、戦場は静かに終わりを迎える。

瓦礫と粉塵、消えた魂、残された力――それらを背に、彼らは歩き出す。

 

フロストノヴァはレイヴンに支えられながら、一歩ずつ進んでいった。

その足取りは重いが、確実に前へ向かっていた。




モットチカラヲー
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