アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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もうすぐ第一部も完結します。書くの意外とサクサク進んでて驚くのが俺。


STORY.18:悲劇を歌うのは誰か

レイヴンは、ケルシーと二人きりで地下の動力制御エリアを進んでいた。

アーミヤやロスモンティスと別れてからというもの、空気はどこか重く、言葉を選ばなければならない緊張感が張りついている。

 

天井を這う配管からは低い振動音が響き、動力炉の鼓動のように規則正しく鳴り続けていた。

白い照明は無機質で、影を濃く落とし、足音だけがやけに大きく反響する。

 

「ドクター」

ケルシーが歩きながら、不意に口を開く。

 

「アーミヤのことが、気になるか?」

その問いかけは、あまりにも率直で、同時に試すようでもあった。

レイヴンは一瞬、言葉を選ぶように視線を逸らし、やがて短く答える。

 

「……そうだな」

嘘ではなかった。

だが、それ以上に胸の奥に溜まっているものは、別の感情だった。

 

レイヴンは歩きながら、ケルシーの背中を見つめる。

変わらない歩幅、変わらない姿勢、変わらない態度。

それが、妙に腹立たしかった。

 

――いつもそうだ。

――何かを知っているくせに、何も語らない。

 

「……聞きたいことがある」

 

低く抑えた声で、レイヴンは切り出す。

 

「……なんだ」

 

ケルシーは立ち止まらず、淡々と返す。

その無関心な態度が、最後の引き金だった。

 

「お前は……俺のことを、ちゃんと見てないんじゃないのか?」

 

その言葉に、ケルシーはわずかに歩調を緩めた。

 

「……何?」

 

「お前、俺と話す時さ……いつも“昔の俺”と比べて見てるだろ」

レイヴンは唇を噛みしめ、深く溜息を吐いた。

苛立ち、焦燥、不安――それらが入り混じり、吐き出さずにはいられなかった。

 

「今の俺じゃなくて、過去の“ドクター”を見てる」

彼は拳を握りしめる。

「……ケルシー。お前は、何を知ってる?」

問いは、もはや確認ではなかった。

詰問に近い。

 

「教えてくれ」

 

だが、ケルシーは冷たく返す。

 

「……お前に教える義務などない」

その一言で、レイヴンの中の何かが切れた。

 

「あるッ!」

 

振り返りざま、レイヴンはケルシーの肩を強く掴んだ。

金属音が反響し、空気が張り詰める。

 

ケルシーは表情を変えなかった。

それが、さらに彼を苛立たせた。

 

「ケルシー……!」

 

声が震える。

 

「お前は何を知ってるんだ!」

 

抑えていた感情が、一気に噴き出す。

 

「俺の過去か!?昔の過ちか!?俺が指揮能力を失った理由か!?」

 

「俺は偽物なのか!?俺は、なんなんだ!?お前は……俺の“何”を知ってるんだよ!?」

 

「答えろッ! ケルシーッ!!」

 

叫びは、地下通路に虚しく響いた。

胸の奥に溜め込んでいた疑念と恐怖が、そのまま言葉になって溢れ出していた。

 

だが――

ケルシーは、なおも冷静だった。

 

「……だったら、聞いてやるよ…」

 

そう言って、レイヴンは一歩詰め寄る。

 

「プ リ ー ス テ ィ ス っ て 誰 だ ?」

 

その瞬間。

「ッ……!」

 

ケルシーの表情が――揺らいだ。

 

困惑。

動揺。

一瞬だけ浮かんだ、感情の亀裂。

 

それは、普段の彼女からは決して見せない顔だった。

レイヴンは、思わず息を呑む。

 

「……君は……」

ケルシーの声が、わずかに掠れる。

 

「何故……その名前を……」

「お前らと関わってるうちにさ」

レイヴンは肩から手を離し、視線を落とす。

 

「ボヤけてた記憶が……少しずつ、浮かび上がってきてる」

「ケルシー。お前は――」

 

「ッ……!」

ケルシーはそれ以上聞くまいとするかのように顔を伏せ、苦悶の表情を隠しながら、再び歩き出した。

 

背中が、いつもより小さく見えた。

 

「……やっぱり、何も教えてくれないのかよ」

 

レイヴンは小さく呟く。

怒りよりも、失望の色が強かった。

 

答えは返ってこない。

 

ただ、二人分の足音だけが、地下通路に虚しく響き続けていた。

 

(だが……プリースティスという名前を出した時)

 

レイヴンは歩きながら、先ほどの場面を何度も反芻していた。

あの瞬間の、ケルシーの表情。

ほんの一瞬ではあったが、確かに――焦りがあった。

 

(なんで、あんなに動揺した……?)

プリースティス。

自分でも、ほとんど無意識に口にした名前だった。

記憶の底に沈んでいた、輪郭の曖昧な単語。

だからこそ「一番関係なさそう」だと思っていた。

 

(なのに……)

(あれは、“図星”を突かれた反応だ)

胸の奥に、確信めいたものが沈殿していく。

 

(やっぱり……何かを隠してるな)

レイヴンは表情を引き締め、そのまま歩みを進めた。

地下通路の空気は重く、金属と源石特有の匂いが鼻を刺す。

 

――と、その時。

前方から、確かな人の気配が伝わってきた。

 

「ドクター……!」

聞き慣れた声。

張り詰めていた神経が、一瞬でほどける。

「その声……ジェスターか!?」

「正解〜。よく分かったわね」

続いて、少し軽い調子の声。

 

「Wも居たのか!」

 

レイヴンは思わず駆け寄った。

二人の姿を確認すると、反射的にジェスターの身体に目を走らせる。

 

――包帯。

 

しかも、応急処置に近い、かなり雑な巻き方だ。

 

「大丈夫か?」

声には、隠しきれない安堵が滲んでいた。

「なんとかな」

ジェスターは短く答えるが、その表情は決して余裕があるものではない。

それでも、立っている。

それだけで、今は十分だった。

 

「ドクター。何かあったんだな?」

 

Wが鋭く問いかける。

彼女は、空気の変化に敏感だった。

 

「……まあ、ちょっとな」

レイヴンはそれ以上語らず、視線を前に向けて歩き出した。

言葉にすれば、今は余計に重くなる。

 

やがて、先行していた他のロドス部隊と合流する。

その光景を見た瞬間、レイヴンの足がわずかに止まった。

(……ここって……)

胸の奥が、嫌な感覚でざわつく。

 

(俺が……目覚めた場所……)

かつて、自分が“ドクター”として再び生を得た場所。

記憶も、名前も、過去も曖昧だったあの時の――始点。

 

レイヴンは、周囲を見回し、階段で地上へと繋がる通路を見つけた。

 

「……ジェスター、W……それにケルシー」

振り返り、静かだがはっきりと告げる。

「俺は、タルラの所に行く」

 

一瞬の沈黙。

「お前らは、この先の動力制御エリアに向かってくれ」

「分かった、ドクター」

ジェスターは迷いなく頷く。

 

「この戦いが終わったら、すぐ合流する」

 

「ああ……頼むな」

 

短いやり取りだったが、それで十分だった。

レイヴンは背を向け、階段を一気に駆け上がっていく。

 

その背中を見送りながら――

 

「……ケルシー」

Wが、ぽつりと口を開く。

「アタシ、アイツのこと……もう“別々に接する”ことにしたの」

そう言って、防護マスクをロドスの隊員から受け取る。

「アンタもさ……そろそろ割り切ったら?」

その言葉は軽いようでいて、核心を突いていた。

「……私は……」

ケルシーは言葉を詰まらせる。

それ自体が、異例だった。

 

「アンタがそんな風に悩むの、初めて見たわ」

Wは肩をすくめる。

 

「まあいいわ。お互い、どうにか生き残りましょ?」

その言葉に、ジェスターも口を開く。

「ケルシー先生」

「俺も……ドクターのことは、今でも許せないと思っている」

視線は前を向いたまま。

「だが、それ以前に……“以前のドクター”と“今のドクター”は、まるっきり別物だ」

一拍置いて、苦笑混じりに続ける。

 

「……もしかしたら、本当に偽物だったりしてな」

だが、その声に敵意はなかった。

 

「……でも、俺も割り切る」

「そうしないと……テレジアに、怒られそうだからな」

その名前を口にした瞬間、空気が僅かに引き締まる。

 

ジェスターは防護マスクを装着し、ロドスの部隊と共に歩き出した。

ケルシーは、その背中を静かに見送る。

 

――割り切る。

それは、簡単なようで、何よりも難しい選択だった。

 

……………………………………

 

石棺へと続く通路を進むにつれ、空気は目に見えて淀んでいった。

湿り気を帯びた冷気が肌にまとわりつき、足音が不気味なほどに反響する。

 

「……ここか」

 

ジェスターは、目の前に鎮座する巨大な石棺を見上げた。

無機質で、無感情で、ただそこに“在る”だけの装置。

 

「……これが、ドクターが眠っていた石棺……」

 

その言葉を口にした瞬間、胸の奥が僅かに締め付けられた。

ここは始まりの場所であり、同時に多くの悲劇を生み出した場所でもある。

 

「……どうやら、お客さんが居るようね」

 

Wの声に、ジェスターは反射的に視線を前へ向けた。

 

そこにいたのは――

石棺の傍らで身を伏せる、異様な怪物。

 

鳥のような輪郭を保ちながらも、肉体は歪み、羽毛の代わりに源石が突き刺さるように生え、感染者たちがその周囲に群がって呻いている。

彼らは既に人とは呼べない存在だった。

 

「……あのアーツって……」

 

「ええ。間違いなく……メフィストのものね」

 

Wの声には、皮肉も嘲りもなかった。

ただ、事実を淡々と告げる響きだけがあった。

 

ジェスターは、ゆっくりと剣を手に取る。

 

(……ああ、そうか)

 

(あれが……メフィストの“行き着いた先”か)

 

かつての少年の面影は、もはや微塵も残っていない。

石棺の力に縋り、歪みきった結果が――これだ。

 

「……無駄な体力は、できるだけ使いたくないんだがな……」

呟きながらも、ジェスターの構えは迷いがなかった。

Wもナイフを握り、鋭い視線で怪鳥を捉える。

 

次の瞬間。

怪鳥は、歌うような呻きを上げながら羽ばたいた。

音とも声ともつかぬ不協和音が空間を震わせる。

 

「Mon3tr!」

ケルシーの叫びと同時に、背後から異形が顕現する。

光を帯びたMon3trが即座にビームを放ち、牽制する。

 

だが――

「……効いてる様子、ないわね」

怪鳥は揺らぐことなく空中で身を捻り、再び羽ばたく。

 

「斬鋭弾!」

ジェスターは剣にアーツを集中させ、刃状のエネルギーを放つ。

それに続くように、Wのグレネードが連続で炸裂する。

 

怪鳥は一瞬怯んだが、それでも倒れない。

 

そして――

再び、歌い始めた。

「……なんだ……この、耳障りな歌は……」

脳の奥を直接撫で回されるような、不快な旋律。

ジェスターは歯を食いしばりながら、すぐに動いた。

 

剣を一本、鞘に納める。

(……終わらせる)

アーツを限界まで溜め、一気に解放する。

 

「――月・翔・斬!」

斬り上げと同時に放たれた一閃が、怪鳥の首を断ち切った。

 

「落砕牙ッ!」

間髪入れず、もう一撃。

落下する頭部へと刃を突き刺し、完全に息の根を止める。

怪鳥は、血と源石の欠片を溢れさせながら、まるで眠るように崩れ落ちた。

 

静寂。

 

「……ジェスター……アイツ……」

Wの声は、どこか複雑な色を帯びていた。

 

「ファウストの所に行ったんだ」

ジェスターはそう言い、静かに目を閉じる。

「俺たちに、できることは……これだけさ」

それは、赦しでも救いでもない。

ただの“区切り”だった。

 

ジェスターは目を開け、ケルシーを見る。

 

「ケルシー。ドクターを許せないのは、俺も同じだ」

その声は、強くも弱くもなく、ただ率直だった。

 

「だが……そろそろ、振り返るのをやめた方がいい」

「……行くぞ」

ジェスターは短く答える。

「ええ」

ジェスターとWは背を向け、ケルシーを残して走り出した。

彼らが向かう先には――レイヴンがいる。

 

その場に残されたケルシーは、石棺と、崩れ落ちた怪鳥を見つめる。

 

「……私は……」

その先の言葉は、まだ形にならなかった。

 

…………………

 

その頃――

瓦礫と炎の匂いが混じるチェルノボーグの街を、テディスはひたすら走っていた。

 

肺が焼けるように痛み、視界の端が滲む。

それでも足は止まらなかった。

 

(……まだだ、まだ間に合う……!)

 

崩れた建物の影を抜けた、その先で――

黒いコートが、夜の中に浮かび上がった。

 

「……あ!」

息を詰めたまま、テディスは声を上げる。

「……隊長!」

ゆっくりと、しかし確実に立ち止まる背中。

振り返ったその顔を見た瞬間、テディスは言葉を失った。

 

「……! テディス……」

赤霄は完全に抜かれ、刃は血に濡れていた。

チェンの頬にも、まだ乾ききらない血が筋を引いている。

 

テディスは膝に手をつき、荒い呼吸のまま歩み寄る。

「……なんだ。私を、殺しに来たのか?」

冗談めいた口調。

だが、その奥には本気でそう考えている色があった。

 

「……そう思ってるなら」

テディスは顔を上げ、はっきりと言う。

「既に、隊長は死んでますよね」

一瞬、チェンの目が見開かれる。

「……そこまで、分かるんだな……」

チェンは視線を逸らし、踵を返して歩き出そうとした。

だが、その腕をテディスが掴む。

 

「隊長。これはもう、隊長だけの問題じゃない」

力は強くない。

だが、迷いはなかった。

 

「……だが私は、君を巻き込みたくはない!」

声には、珍しく感情が滲んでいた。

怒りでも拒絶でもない――恐れだ。

 

「大丈夫ですよ」

 

テディスは、ふっと笑った。

 

「俺、強いですから」

 

その言葉は自慢でも虚勢でもなかった。

事実として、淡々と告げるように。

 

テディスはそっと手を伸ばし、チェンの頬に触れる。

血の温度が、まだ残っていた。

 

驚く間もなく、チェンはその手に自分の手を重ねた。

 

「……隊長」

 

テディスの声は低く、しかしはっきりしている。

「俺、隊長のことが好きです。

一切の回りくどさはなかった。

 

「だから……最期まで、守らせてください」

 

チェンは何も言わない。

剣を握る手が、わずかに震えた。

 

長い沈黙の後――

彼女は、静かに口を開く。

 

「……ありがとう」

それ以上は、何も言わなかった。

だが、その一言だけで、十分だった。

 

二人は並び、再び前を向いて走って行った。




・ジェスター
主人公かな?

・レイヴン
いつも通りっすね。

・W
かわいい。

・テディス
チェンとの関係は短編とかで書くかも。わ
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