レイヴン「誰がデュークと仲が良いんだ?」エクシア「私だよね?」
「誰がデュークと仲がいいんだ?」
レイヴンのその何気ない一言が、
ロドス食堂の空気を一瞬で感電させた。
見えない電流が走ったかのように、
テキサス、エクシア、ラップランドの三人が、
同時にピクリと反応する。
そして次の瞬間。
三人の共通認識のもと、
三方向からデュークを包囲する形で距離を詰めてきた。
「それは私だな」
最初に口を開いたのはテキサスだった。
落ち着いた声だが、目だけはやたらと真剣である。
「同じループス族。そして戦術思考も似通っている。任務中の連携精度、信頼関係……総合的に考えて、私が最も“仲がいい”と判断できる」
(※判断基準が完全に業務報告)
「ちょーっと待ったぁ!」
即座に割り込んできたのはエクシアだ。
身を乗り出し、指を突きつける。
「それ言ったらさぁ!?アタシの方がデュークと話してる時間長いし!それにアップルパイもいっぱい作ってあげられるし!」
「……それは“仲がいい”理由になるのか?」
「なるなる!胃袋掴まれた男は一生逃げられないんだよ?」
「フフ……何を言っているんだい?」
最後に、ゆっくりと笑いながら口を開いたのがラップランドだった。
笑顔なのに、目がまったく笑っていない。
「デュークと一番気が合うのは、どう考えても僕だろう?危険な戦場で並び立てる相棒……エクシア、君はちょっと寝ぼけてるんじゃない?」
「……へー?」
エクシアの笑顔が、一段階だけ暗くなる。
「言うねラップランド。ちょっと蜂の巣になる?」
「ハハッ!」
ラップランドは楽しそうに肩をすくめた。
「ここは食堂だよ?もし流れ弾が他のオペレーターに当たったら……君とテキサス、どうなるかな?」
「チッ……」
テキサスが舌打ちする。
銃に手を掛けかけて、理性で止めたようだった。
「……はあ……」
包囲網の中心で、デュークは人生三周目みたいな深い溜息を吐いた。
肩がずしりと落ちている。
「……また始まったか……」
その様子を横で見ていたレイヴンが、
さすがに気になって小声で聞いてくる。
「なあ……アイツら、そんなに仲悪いのか?」
「ちげぇよ」
デュークは即答だった。
表情は完全に“諦観”。
「普段は別に悪くない。任務も普通に回るし、雑談もする」
「ただな……」
視線だけで三人を指す。
「俺の話が出た瞬間これだ」
「ほんと……疲れるんだよ……頼むから俺を話題にすんなって言ってんのに……」
その瞬間。
「デュークは私の相棒だ」
「アタシのデュークだよ?」
「いや、僕のだね」
三人の声が完全に重なる。
「……ほらな」
「色男〜」
レイヴンがニヤニヤしながら肘で突く。
「っせぇよ」
デュークは反射的に殴ろうとするが、レイヴンは軽く一歩引いて回避。
「ほら見ろ。女難ってやつだ。自覚しろ」
「こんなの難じゃねぇ……災害レベルだろ」
背後では、
「ねえデューク、今日どこ座る?」
「当然、私の隣だ」
「いやいや、僕だろう?」
という静かに物騒な会話が始まっていた。
デュークは天井を見上げる。
(……早く任務行きてぇ)
そうして――
デュークはケルシーに呼ばれた瞬間、反射的に走った。
「了解でぇぇぇす!!」
返事だけは完璧。
だがその実態は、命の危険を感じ取った動物のダッシュである。
「ちょ、待てデューク!」
レイヴンも慌てて後を追う。
背後では、ついさっきまで微笑ましかったはずの女子三人の視線が、
物理的な圧となって背中に突き刺さっていた。
廊下に出た瞬間、ようやく一息。
「はぁ……はぁ……何で俺、こんなに絡まれやすいんだ……」
デュークが肩で息をしながらぼやく。
「そりゃあな」
レイヴンは平然と指を折り始めた。
「イケメン、高い能力、筋肉、性格そこそこ良し、頭も回る、
しかもモフモフ」
「……最後なんだ」
「重要だろ?」
「……」
(モフモフて……)
「まあ、モテる要素は一通り揃ってるよな」
「それ言ったらジェスターも当てはまるだろ」
「無理無理」
レイヴンは即答だった。
「ウィシャデルが独占してるから無理!」
「……確かに……」
あの静かで、しかし一切逃がさない視線を思い出し、
デュークは無言で頷いた。
「ま、でも俺もモテるセンスあるけどな!」
急にブルーハーツばりに胸を張るレイヴン。
「お前は馬鹿だろ」
「馬鹿って言うなよ!気にしてんだからさ!」
「気にしてる奴が自分で言うな」
そんな他愛もない口論をしながら、二人は司令室へ入る。
中にいたケルシーは、いつも通り冷静だった。
いつも通り無表情で、いつも通り面倒な仕事を押し付ける顔をしていた。
「丁度いいところに来たな」
そう言って、机の横に置いてあったケースを指差す。
「これを一階に運べ」
「……何が入ってるんですか?」
デュークが嫌な予感を覚えつつ聞く。
ケルシーは淡々と答えた。
「デーモンコアだ」
「は?」
一瞬、空気が止まる。
「デーモンコアって、あの“触ると大惨事”なやつですか?」
「正確には“扱いを誤ると大惨事”だ」
「誤らなきゃ大丈夫みたいな言い方やめてくださいよ!」
「大丈夫だ。輸送用に安定化処理はしてある」
「“してある”って言い方がもう怖いんですけど!?」
レイヴンがデュークの肩を叩く。
「細けぇこと気にすんな早く持っていこうぜ」
「いやいやいや!これ普通にヤバいやつだろ!?」
ケースを持ち上げると、
ずっしりとした重みと、なんか嫌な気配が伝わってくる。
「……なあレイヴン」
「ん?」
「これ、爆発しないよな?」
「多分しない」
「“多分”!?」
「デーモンコアだし」
「理由になってねぇ!」
二人は顔を見合わせる。
「……早く運ぼう」
「そうだな」
デーモンコア!
なんかすごい!
多分危険!
以上!
そんなノリで、二人は重たい荷物を抱えながら廊下へと消えていった。
「リーダー。」
「うわぁぁぁお!!」
すると、突然背後から突然声を掛けられ、レイヴンは派手に肩を跳ねさせた。
「な、何だエクシアか……」(いつの間に……?)
ほんの数秒前まで、確実にそこには誰もいなかったはずだ。
にも関わらず、今は至近距離。
「ねえリーダー」
にこにこと、しかし目だけは妙に真剣な笑顔でエクシアが言う。
「ちょっとお願いがあるんだけどさー。デュークと二人きりにして欲しいんだけど、いい?」
「いや、無理だな」
即答するレイヴン。
「コイツは今から俺とデートだから」
「荷物運びの事をデートって言うな!!」
デュークが即座にツッコミを入れるが、
その時にはもう——遅かった。
エクシアが、ぴたりと黙り込む。
笑顔のまま、視線だけが一点に固定される。
そして、次の瞬間。
「……」
「……デュークは……」
「……アタシが……」
小さく、ぶつぶつと、
しかし止まる気配は一切無い。
「デュークはアタシが大好きで一緒にそばに居るって言ったのに言ったのに言ったのに言ったのに言ったのにさぁ〜……それなのに最近ちょっと目を離したらリーダーとかテキサスとかラップランドとかに変な事吹き込んでない?ねえ大丈夫?洗脳とかされてない?されてたら今すぐ助けなきゃだよね?だってデュークは優しいから断れないし騙されやすいし放っておいたら連れ去られちゃうかもしれないしそれって困るよねすっごく困るよねだってアタシのデュークなんだから誰にも奪わせないし一生一緒に居るって決めてるしもし浮気とかしたら悲しいしでも悲しいだけじゃ済まないし手も足も動かなくしちゃえば逃げられないしそうすればずっと一緒だしそれはそれで幸せだと思わない?ねえ思うよね?ねえデューク?」
レイヴンは、完全に他人事モードで心の中で笑っていた。
デュークは、もう笑うしかなかった。
(あー……やばそーwww)
「……はは……」
乾いた笑いを浮かべ、そっとレイヴンの方を見る。
「レイヴン」
「うん」
「デーモンコア、お願い」
「いいよ」
即答だった。
レイヴンは何も言わずに箱を受け取る。
表情には一切の躊躇も、疑問もない。
背を向けて言い放つ。
「じゃ、行ってるわー」
軽いノリでそう言い残し、レイヴンはデーモンコアを抱えてそのまま運びに行った。
残されたのは——
黙って微笑むエクシアと、完全に退路を失ったデュークだけである。
「ねえデューク?」
「……な、何だ?」
「デート、行こ?」
(アーメン)
その祈りが届く事は、無かった。
アーメン。