「――タルラ!!」
チェンとテディスは、崩壊しかけたビルの屋上へと辿り着いた。
夜風が吹き抜け、焦げた鉄と源石の匂いが漂っている。
二人は剣を抜いたまま、同時に動きを止めた。
不用意に一歩踏み出すだけで、取り返しのつかない事態になる――
そう直感が告げていた。
テディスは深く息を吸い、静かに全ての剣を合体させる。
重なり合った刃は、一つの巨大な剣となり、地面へと突き立てられた。
「……なんだ……この気配……」
皮膚の内側を撫でるような、嫌悪感。
力そのものではない。
“存在してはいけない何か”が、そこにある感覚だった。
「テディス……?」
チェンの声に、彼はわずかに首を振る。
「チェン隊長……」
その声は低く、震えていない。
だが、確かな緊張が滲んでいた。
「俺達が戦うべきなのは……タルラじゃないのかもしれない……」
「……?」
チェンは眉をひそめる。
だが、テディスの視線は一貫してタルラを捉えたままだ。
「感じるんです……タルラの中に……何かが居る」
その瞬間――
空気が、歪んだ。
『――ほう』
頭の奥に直接響くような声。
人の喉から発せられたものではない。
『我々の存在に気付くとは……やはり、卓越した戦闘能力を持つ者のようだな?』
タルラの雰囲気が、一変する。
彼女の背後から、炎と闇が絡み合った影が浮かび上がった。
それは――
八岐大蛇を思わせる、異形の化身。
何本もの首が蠢き、視線だけで周囲を威圧する。
『我が名は――“コシチェイ”』
低く、愉悦を含んだ声。
『タルラの心は、すでに我が者となった』
『大人しく、新たな世界の糧となるがいい』
その言葉と同時に、タルラの腕が持ち上がる。
感情の無い動き。
人形のような所作だった。
放たれる、炎のアーツ。
だが――
「――させるかよ!!」
炎を切り裂きながら、二つの影が突っ込んでくる。
「……ドクター!? デューク君!?」
「待たせたな」
レイヴンの声は短く、だが確信に満ちていた。
「こっからは、俺たちも参戦だ!」
二人は剣を構え、迷いなく前に立つ。
『ほう……数を揃えたところで、この我を倒せると思うか?』
大蛇の化身が咆哮し、複数の火炎弾を放つ。
「ドクター!!」
その前に飛び出した小さな影。
「――アーミヤ!!」
彼女は歯を食いしばり、両手を掲げる。
アーツによる防御壁が展開され、炎を受け止めた。
『コータスの小娘も来たか……』
『だが、所詮は力なき弱き存在――』
タルラとコシチェイのアーツが重なり、圧倒的な熱量となる。
――しかし。
「……させるかよ」
鋭い斬撃が、その奔流を断ち切った。
「ジェスター!!」
「W!!」
「すまない、遅れた」
ジェスターは静かに剣を構え、Wは不敵に笑う。
「こっからはアタシ達も参戦よ」
「文句ある?」
アーミヤは、はっきりと首を振った。
「いえ……!」
その瞳には、恐怖ではなく――
仲間が揃ったという確信が宿っていた。
「最後まで……よろしくお願いします!」
『――愚かな……!』
コシチェイの声が、嘲りと殺意を孕んで響く。
『まずはコータスの小娘よ。先に殺してやろう!』
その瞬間。
八岐大蛇の首の一つが、獲物を狙う獣のようにうねり――
アーミヤ以外の全員を噛みつき、強引に拘束した。
骨が軋む音。
締め付けられる痛みと、炎の熱。
「アーミヤッ!!」
レイヴンの叫びが夜空に響く。
だが、アーミヤは動かなかった。
「…………」
小さな拳が、震えながら握り締められる。
恐怖は確かにあった。
身体が言うことを聞かないほどの、圧倒的な存在感。
――それでも。
(ここで……止まったら……)
(みんなが……死ぬ……)
彼女の指にはめられた指輪の一つが、不穏なノイズを発し始める。
淡く光っていた紋様が、まるで拒絶するように歪み、消えかかっていた。
「……赤霄……」
かすれた声。
だが、そこに迷いはなかった。
「……乖離せよ……そして……」
アーミヤは、ゆっくりと目を閉じる。
胸の奥で何かが、音を立てて崩れていく感覚がした。
(これを使えば……戻れないかもしれない)
(それでも……)
「……抜刀せよ……」
――パキン。
乾いた音と共に、指輪が砕け散った。
同時に、右腕に源石のような籠手が形成されていく。
それは武装であり、枷であり――
彼女自身の覚悟の形だった。
地面が震え、
そこから一振りの剣が、ゆっくりと姿を現す。
「おおおおおおおおっ!!」
叫びと共に、アーミヤは剣を掴み、
全身の力を込めて――コシチェイへと振り下ろした。
炎と衝撃が弾ける。
「アーミヤ……お前……」
誰かが息を呑む。
彼女はもう、“守られるだけの存在”ではなかった。
荒く息を吐きながら、アーミヤは再び剣を構える。
そして、残った力を掻き集め、二つのアーツを形成した。
「……っ!」
それを――
レイヴンとジェスターへと、投げ放つ。
「あっ!」
アーツは二人の頭上を越え、空中に留まるように展開された。
レイヴンはそれを見上げ、理解する。
(俺達が、ここに居るのは……)
(ドクター……お前が居たから……)
(……いや……)
("お前"だからだ!)
その瞬間。
「――“レイヴン”!」
ジェスターが、彼を名で呼んだ。
それは偶然ではない。
“ドクター”という役割から、一人の人間として認めた証だった。
ジェスターは風を纏い、回転する。
アーミヤの炎のアーツと重なり、二人は炎を背に、空へと跳び上がる。
「「――くらえぇッ!!」」
二人の蹴りが、アーミヤの放ったアーツを叩き飛ばした。
それは単なる攻撃ではない。仲間の意志を繋ぎ、解き放つ一撃。
炎と風が混じり合い、コシチェイへと牙を剥いた。
『――馬鹿めッ!この程度で……!』
コシチェイは咆哮と共に、残る首から炎を噴き上げ、再び噛みつこうとした。
だが――その炎は、まるで意味を成さなかった。
焼き払うはずの熱量は、信念によって結び合わされた連携の前で、霧散するように消えていく。
防御できない。
打ち消せない。
そもそも――遮るという発想が通じていなかった。
「……なんだと……!?」
コシチェイの声に、明確な動揺が混じる。
大蛇の首が力を失い、拘束していた締め付けが、ほどけるように解けていった。
「今だッ!」
解放された瞬間、デュークとWが同時に動く。
迷いも躊躇もない。
互いの位置を確認する必要すらなかった。
デュークの剣が一閃し、Wの刃が踊るように走る。
――二人の刃は、同時に大蛇の首を切り裂いた。
『……馬鹿な……!?』
コシチェイの声が、明理解不能を露わにする。
『何故だ……何故、このような……!』
「さあねぇ?」
Wは軽く着地し、口元を歪めて笑う。
「どうやら、思ったよりも――アタシ達って仲良しみたいね!」
そう言い放ち、容赦なく蹴りを叩き込む。
それは挑発であり、同時に宣言だった。
「W!チェンさん!合わせてください!」
アーミヤの声が飛ぶ。
「ええ!」
「……ああ!」
迷いはなかった。
三人は即座に位置を取り、
ジェスターは剣をWへと投げ渡す。
Wはそれを難なく受け取り、三人同時に、剣へとアーツを溜め込む。
呼吸が重なる。
鼓動が揃う。
次の瞬間――
三条の光が、同時に振り下ろされた。
三人の攻撃は完璧に噛み合い、大蛇の首を、さらに三つ、斬り落とす。
残された首が、怒りと恐怖に歪み、必死に炎を吐き、攻撃を放つ。
だが――
届かない。
近づくことすら、できない。
『……何故だ……』
コシチェイの声は、もはや怒りではなかった。
理解できないものへの困惑と、焦燥。
『何故、効かない……群れなければ戦うことすら難しい、弱い……人間の分際で……!』
その言葉に、レイヴンが一歩前に出る。
「どうやら――」
リコイルロッドを構え、その目に迷いはない。
「人間の事を、舐めていたようだな。コシチェイ。」
隣で、アーミヤも剣を構える。
先ほどまでの震えは、もう無かった。
恐怖はある。
それでも――立っている。
「抵抗しても、もう無駄です。」
アーミヤの声は、静かだった。
だが、その一言一言には、確かな重みがあった。
「私達は……この大地に生きる、すべての人々を――」
剣を握る手に、力が籠もる。
「守ります!」
それは宣言であり、誓いだった。
もはやコシチェイには、理解できない“力”。
――人が、人として立ち続けるという意志…。
『――そんなものなどッ!』
コシチェイの咆哮と同時に、残された首から激しい火炎放射が放たれた。
大気を歪ませるほどの熱量。
一瞬で周囲を焼き尽くすはずの、破壊の奔流。
――だが、その炎は二人に届かなかった。
地面に、ズンッと重い音を立てて剣が突き刺さる。
テディスの剣だった。
巨大な刃は盾のように二人の前に立ち塞がり、炎を正面から受け止め、弾き散らす。
「今です!」
テディスの叫びが、戦場を貫く。
「行くぞ、アーミヤ!」
レイヴンは即座に反応し、双剣を構えた。
その背後で、アーミヤも剣を握り、呼吸を整えながら走り出す。
恐怖は、もう彼女の足を縛らない。
迷いも、躊躇もない。
――今、この瞬間、自分がやるべきことは、はっきりと分かっていた。
二人は同時に跳躍する。
刃が閃き、意思が重なり、
一切の迷いなく――
すべての首を、叩き斬った。
『……ば、馬鹿な……』
炎の化身だった存在が、崩れ落ちていく。
『だ、だが……私を倒したところで……世界は……何も変わらない……!』
その声は、もはや威圧ではなく、敗北者の呟きだった。
『お前達は……いずれ更なる絶望に叩き潰され…愚かな命を……断つことになるだろう……』
『そして……この大地は…お前達に……罰を……』
最後まで呪いの言葉を吐きながら、大蛇は炎となり、風に溶けるように消えていった。
――静寂。
次の瞬間…
その場に、タルラの身体が崩れ落ちた。
「……はあ……はあ……はあ……」
荒い息が、静まり返った空間に響く。
「……タルラ!」
チェンが真っ先に駆け寄り、
その名を呼ぶ。
「……タルラ……!」
タルラはゆっくりと、まぶたを動かした。
まるで、長い悪夢から目覚めるかのように。
「……フェイゼ……?」
かすれた声で、チェンの名を呼ぶ。
「随分……長い夢を……見てたみたいだ……」
「ああ……」
チェンは、静かに頷いた。
「……ようやく、覚めたな。」
差し出された手を、タルラはしっかりと握り返す。
その握力は弱々しい。
だが、確かに生きている手だった。
少し離れた場所で、その光景を見つめるテディスとデューク。
「……終わったんですかね。」
テディスが、半ば信じられないように呟く。
「多分な。」
デュークはそう答えながら、尻尾の焦げた部分を無言で取り払っていた。
「……とにかく、一件落着だ。」
その言葉には、安堵と疲労が滲んでいた。
「ドクター……私達……やったんですか?」
アーミヤが、レイヴンを見上げて尋ねる。
その瞳には、達成感と不安が入り混じっていた。
「……ああ。」
レイヴンは、優しく頷く。
「よくやったな、アーミヤ。」
そう言って、彼女の頭を撫でる。
その瞬間――
背後から、柔らかな日差しが差し込んできた。
夜明けだった。
「……綺麗ね……」
Wがぽつりと呟く。
ジェスターも、その光景を黙って見つめていた。
「これから、どうするのよ。」
Wの問いに、ジェスターは少し間を置いて答える。
「……俺もまだ……知るべき事があると思うんだ。」
そして、真っ直ぐにWを見る。
「……W。これからは、お前にも着いてきてほしい。」
「……えっ……」
突然の言葉に、Wは目を見開き、思わず視線を逸らす。
「俺一人だけじゃ……この先は無理だ。」
「だから……お前にも来て欲しい。」
「……お前じゃなきゃ、駄目なんだ。」
Wは頬を赤らめ、照れ隠しのようにそっぽを向いた。
「……それより。」
タルラの声が、空気を引き締める。
「早く……チェルノボーグにブレーキを掛けなければ……龍門に……衝突するぞ……」
その言葉に、全員がはっと我に返る。
「ドクター、ここは私たちが。」
アーミヤが言う。
「分かった。頼む。」
そうして、アーミヤ、W、チェン、タルラの四人は走り出していった。
残されたレイヴン達は、昇りゆく朝日を、静かに眺めていた。
「……レイヴン。」
ジェスターが、ぽつりと口を開く。
「お前は……確かに、ドクターと同じかもしれない。」
一瞬の沈黙。
「だが……」
ジェスターは、はっきりと告げる。
「俺は、お前の事を信じる。」
「……ジェスター……」
朝日が、二人を照らしていた。
…………………
そうして、
アーミヤたちは――長く、苦しく、血に塗れた戦いの果てに、ついにレユニオンとの戦いに一つの区切りをつけた。
崩れ落ちるように立ち尽くすオペレーターたち。
誰もが息を切らし、武器を下ろし、「終わった」という実感を噛み締めていた。
勝利のはずだった。
だが、それは決して歓喜に満ちたものではない。
多くを失い、多くを知り、そして――まだ何も終わっていないことを…
誰もが本能的に理解していた。
「……ドクター……」
ロドス艦へ帰還するため、足を進めようとしたアーミヤが、不安を拭いきれない声でレイヴンの名を呼ぶ。
その瞬間だった。
『アーミヤ、緊急事態だ』
通信機越しに響いたケルシーの声は、あまりにも切迫していた。
『近くに、別の敵勢力が集結している』
「……えっ……!?」
アーミヤの表情が、はっきりと凍りつく。
その言葉の意味を、理解するのに時間は要らなかった。
レイヴンも、ジェスターも、Wも、全員が即座に戦闘態勢へと意識を切り替える。
急ぎロドス艦へと視線を向けると、そこには――見慣れぬ装備、見慣れぬ軍装を纏った兵士たちの姿があった。
「……あれは……」
アーミヤの喉が、ひくりと鳴る。
「……ヴィクトリア兵……!?」
規律正しい動き。
無駄のない連携。
レユニオンとは明らかに異なる、正規軍の圧。
その光景を見た瞬間、Wの脳裏に、ある男の顔が鮮明に浮かび上がった。
「……テレシス……」
低く、憎悪を含んだ声。
「……アイツが……動いたのね……」
その直後、ケルシーからの通信が割り込む。
『アーミヤ。ヴィクトリアの狙いは――ドクターだ』
「……っ……!」
『何としてでも防衛しろ……!』
そこで、通信は切れた。
静寂。
しかしそれは、嵐の前触れに過ぎなかった。
次の瞬間――
レイヴンは、ロドス艦とは逆方向へと走り出していた。
「……ドクター!?ど、どこへ行くんですか!?」
アーミヤの声が、背中に突き刺さる。
「俺が囮になる」
振り返らず、レイヴンは即答した。
「その隙に、お前らは逃げろ」
「そ、そんな……!だ、駄目です!それじゃ……それじゃあドクターが……!」
アーミヤの声は震え、次第に、感情を抑えきれなくなっていく。
「奴らの狙いは俺だ。」
レイヴンは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「俺が逃げれば、アイツらは必ず俺を追う」
「だから――」
「嫌です……!」
アーミヤは、堪えきれず叫んだ。
「嫌ですッ……!私は……私は……!」
大粒の涙が、頬を伝い、地面に落ちる。
「……ドクターに……いなくなってほしくないッ……!」
その言葉は、命令でも理屈でもなく…
ただの――願いだった。
レイヴンは、その姿を見て、ほんの一瞬だけ言葉を失う。
胸の奥が、強く締め付けられた。
――守るべき存在が、ここまで自分を想ってくれている。
それが、どれほど重く、どれほど誇らしいことか。
レイヴンは、悲しげに、しかし優しく微笑み、アーミヤの頭にそっと手を置いた。
「……アーミヤ」
声は、驚くほど穏やかだった。
「安心しろ」
「俺は……死なない」
アーミヤの涙に濡れた瞳を、真っ直ぐに見つめる。
「俺は、何度だってここに帰ってくる」
「必ず、帰る」
少し照れたように、しかし確信を込めて言った。
「だって――ここが……俺の……
「……ドクター……」
アーミヤは、言葉を失ったまま、ただその名を呼ぶ。
「お前ら……」
レイヴンは仲間たちへと視線を移す。
「アーミヤの事……頼むぜ……!」
その言葉を最後に、彼は振り向き、迷いなく走り出した。
追いかけることはできなかった。
呼び止めることもできなかった。
ジェスターも、Wも、ただ黙って、その背中を見送るしかなかった。
やがて――
ヴィクトリア兵たちは、ロドス艦への攻撃を止め、
一斉に標的を切り替える。
すべての銃口が、すべての殺意が、一人の男へと向けられた。
「さあさあ……!」
レイヴンは振り返り、不敵に叫ぶ。
「俺はここだ!」
「ここに居るぞ――!」
その声は、戦場に高らかに響き渡っていた。
どれほどの時間を走り続けただろうか。
肺が焼けるように痛み、足の感覚は次第に曖昧になっていく。
それでも、レイヴンは止まらなかった。
――止まれなかった。
背後から迫る気配は、もはや一つや二つではない。
重なり合う足音、武器の擦れる音、怒号と命令。
それらが混じり合い、巨大なうねりとなって追い縋ってくる。
レイヴンは走りながら、ふと足を止め、背後を振り向いた。
そこにあったのは――
視界を埋め尽くすほどの敵兵の群れだった。
数百ではない。
数千――いや、それ以上。
整列するヴィクトリア兵。
後方には重装備の部隊。
前線には、彼を討つためだけに編成された追撃部隊。
その光景を前にして、
レイヴンは一瞬だけ、言葉を失った。
「……はは……」
乾いた笑いが、喉から漏れる。
「……そこまでして……」
小さく呟く声は、誰に届くでもなく、風に消える。
「……俺を殺したいか……」
恐怖は、なかった。
絶望も、なかった。
あるのは――
理解だけだった。
――自分は、それほどまでに“危険な存在”なのだと。
レイヴンは、腰に下げていた双剣を静かに抜いた。
刃が空気を裂く、澄んだ音が響く。
その音は、自分自身を落ち着かせるための儀式のようでもあった。
『死ぬって思ってるのか?』
脳裏に、スケィスの声が響く。
皮肉でも、挑発でもない。
ただの、問い。
レイヴンは、双剣を握る手に力を込めながら、鼻で小さく笑った。
「……ふっ……」
そして、はっきりと言葉にする。
「言っただろ?」
視線は、もう迷っていない。
「俺は――死なない」
それは虚勢ではない。
願望でもない。
決意だった。
これまで何度も、死にかけた。
すべてを失いかけた。
自分が何者なのかさえ、分からなくなった。
それでも――
ここまで来た。
仲間が居た。
信じてくれる者が居た。
帰る場所が、確かに存在した。
だからこそ。
「目の前に……」
レイヴンは双剣を構え、深く息を吸う。
「敵が現れたって言うなら……」
吐き出す息と共に、心の中の迷いを、すべて捨てる。
「叩き斬るまでだ!」
次の瞬間、彼は再び走り出していた。
一人きり。
だが、孤独ではない。
背中には、アーミヤの涙がある。
仲間たちの信頼がある。
「帰ってこい」という、言葉にならない願いがある。
彼の戦いは、まだ終わらない。
そして――
終わらせるつもりも、死ぬつもりもない。
いつか必ず、生き抜き…
再び――
アーミヤたちの元へ帰るために。
その日を、信じているから…
第二部、おそらく年末から年始に上げると思います。お楽しみに!