アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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ロドス艦ボッコボコで草。15章かよ。


STORY.22:新しい船

〜レイヴン視点.

 

翌朝。

いつもより少しだけ早い時間帯に、ケルシーから呼び出しがかかった。

 

集められた顔ぶれを見た瞬間、俺は直感的に「軽い話じゃないな」と察した。

 

俺、アーミヤ、ジェスター、ウィシャデル、テディス、チェン。

そして数名のエリートオペレーター。

 

ロドスの中枢を担う、いわば“今のロドスを象徴する面子”だ。

 

会議室の空気は、朝の冷たさをそのまま閉じ込めたように張り詰めていた。

誰も軽口を叩かない。

それだけで、この場の重要性は十分すぎるほど伝わってくる。

 

「……みんな、集まってもらってありがとう」

ケルシーは腕を組み、こちらを一瞥してから、淡々と話し始めた。

 

「そろそろ、ロドスが抱えている“問題”を解決したいと思っていてな」

 

問題。

その言葉に、胸の奥がわずかに軋む。

 

ロドスは、常に問題の中にあった組織だ。

感染者、政治、戦争、陰謀――

数え上げればきりがない。

 

だが、ケルシーが“そろそろ”と言う時は、大抵、避けて通れない現実の話だ。

 

「ケルシー先生、問題とは何でしょうか?」

 

アーミヤが静かに問いかける。

不安を隠そうとしているのが、逆に分かりやすい。

 

すると、

ケルシーは操作端末に触れ、背後のモニターにデータを映し出した。

 

ロドス艦の構造図。

損傷箇所、補修履歴、耐久値の低下――

見慣れたはずのそれが、今日はやけに生々しく映る。

 

「1年間、応急処置を施しながら運航してきたロドス艦だが……」

 

一瞬、言葉を切る。

「そろそろ、限界が近い」

その一言で、会議室の空気が重く沈んだ。

 

……やっぱり、か。

 

俺は何度もこの船を歩いてきた。

補修材の匂い、軋む床、仮設配線だらけの通路。

 

“まだ動く”と

“安全に運用できる”は、まったく別だ。

 

「確かに……」

ウィシャデルが腕を組み、どこか納得したように呟く。

「アタシらが合流してから、正直、いつトラブルが起きてもおかしくないって感じだったし」

 

ケルシーは小さく頷く。

「このままレイジアン工業に依頼して大規模修理を行う選択肢もある」

 

そこで一拍。

「だが――私は、新造艦の建造も視野に入れている」

 

その瞬間、場の空気が明確に変わった。

 

「……新造艦?」

誰かが、思わず声に出す。

 

それは、

ロドスにとって“未来”を意味する言葉だった。

 

逃げ延びるための船ではなく、前へ進むための拠点。

 

俺は無意識に、手を挙げていた。

「でもよ」

ケルシーの視線がこちらに向く。

「新造艦を造るってなったら、この船はどうなる?」

この艦には、前の俺以外にもここに滞在していたオペレーター達の記憶が詰まっている。

 

「……廃棄はしない」

ケルシーは、即答した。

「新造艦に、使える部分は流用する予定だ」

 

「内部施設、医療区画、研究設備……ロドスの“思想”は、新しい船にも受け継がれる」

 

その言葉に、胸の奥で何かが少しだけ緩む。

 

この船が“終わる”わけじゃない。

“形を変えて続く”だけだ。

 

「いいんじゃないですか?」

空気を和らげるように、テディスが笑顔で口を挟んだ。

 

「俺達やスノーデビル小隊、それに一部の穏健派だったレユニオンも加わって……」

「正直、最近は狭く感じてましたし」

 

明るい口調の裏で、

テディスなりに考えた上での意見だと分かる。

「新造艦、前向きでいいと思いますよ」

それに、何人かが小さく頷いた。

 

アーミヤは、まだ少し戸惑った表情を浮かべていたが、

視線の奥には確かな決意が宿っている。

 

――ロドスは、止まる組織じゃない。

 

守るために、変わる必要がある。

俺は椅子にもたれ、静かに息を吐いた。

 

 

「だが――」

低く、しかし迷いのない声が会議室に響いた。

チェンだ。

 

「新造艦を造るとなると、相当数の技術者と設備が必要になる」

視線はケルシーへ、一直線。

感情論ではなく、現実を切り分ける鋭さがそこにはあった。

「今のロドスに、そのリソースがあるとは思えないが……」

 

その指摘は、誰もが心のどこかで思っていた疑問でもある。

 

沈黙――

だが、ケルシーは少しも動じなかった。

 

「そうだ。今のロドスに、そのリソースは無い」

 

きっぱりと断言する。

だが、それは否定ではなく、前提条件だった。

 

「だからこそ、これからレイジアン工業へ向かう」

その名が出た瞬間、頭の中で地図が自然と広がる。

「クルビア、か……」

 

ジェスターが小さく呟く。

「ここからなら、距離的には割と近いな」

 

確かに、現在ロドスが停泊しているのはヴィクトリア区域を離れてイェラグとクルビアの境界に近いエリア。

 

政治的にも、軍事的にも、今は比較的“静かな場所”だ。

 

「移動中、大規模な敵襲は想定していない」

 

ケルシーは続ける。

 

「だが、万が一の襲撃に備え、即応態勢での迎撃を頼む」

 

それは命令ではなく、信頼を前提とした要請だった。

「了解です」

 

何人もの声が重なり、短く、力強く返答される。

こうして、ブリーフィングは終了した。

 

ロドス艦はそのまま進路を変更し、クルビアへと向かい始める。

 

――道中、

不思議なほど何も起こらなかった。

 

警戒は続けていた。

索敵も怠っていない。

それでも、敵影一つ現れない。

 

嵐の前の静けさか、それとも単なる幸運か。

 

俺は艦内の簡易ベッドに身を預け、いつの間にか浅い眠りに落ちていた。

 

……

 

「ドクター……起きてください」

 

柔らかく、それでいて確かな声。

 

「ん……?」

意識を引き上げると、そこにはアーミヤが立っていた。

 

「レイジアン工業に到着しました。みなさん、もう外に出ています」

 

その言葉を聞いた瞬間、眠気は一気に霧散した。

 

「ああ、分かった。今行く」

 

俺は身支度もそこそこに、通路を駆け抜けて外へ出る。

 

――そして。

「……で、でかいな……!」

 

思わず、素直な感想が口から漏れた。

 

目の前に広がっていたのは、巨大なガレージ。

 

その内部で、新造艦と思しき移動艦が、骨格段階の姿を晒していた。

 

装甲板が次々とクレーンで吊り上げられ、まるで巨大な生き物に外骨格を与えていくかのように組み上げられている。

 

今のロドス艦と比べても、明らかに“桁が違う”。

 

「はい……」

アーミヤも、改めてその光景を見上げながら頷いた。

 

「私も、初めて見た時はびっくりしました……」

 

ただ大きいだけじゃない。

拡張性、耐久性、そして何より――

未来を内包できる余白がある。

 

「ロマンあるな。まるでコンバットフレーム作ってるみたいだぜ」

 

俺が素直にそう呟くと、

アーミヤは少し誇らしげに胸を張った。

 

「実は……レイジアン工業は、コンバットフレームも正式に製造しているんです」

 

「……すげぇな、レイジアン工業……」

 

思わず感嘆の息が漏れる。

移動艦だけでも十分すぎる規模だというのに、

その裏で兵器開発まで同時進行しているとは。

 

かつてレユニオンが、

寄せ集めの技術と執念だけで

あれほどの兵器群を生み出していたことを思い出す。

 

――違う。

 

ここにあるのは、

破壊のための技術じゃない。

生き残り、前へ進むための技術だ。

 

その差は、数字や設計図以上に大きい。

そうして俺たちは、新造艦の骨組みのすぐ近くまで歩いていった。

 

すると――

ひときわ場違いな存在が目に入る。

 

白衣。

乱雑な髪。

そして、明らかに集中しているようで

まるでしていない、奇妙な雰囲気。

 

「うーん……ここは食堂で……こっちは研究部門かな?製造部門は格納庫の近くでいいよね〜」

 

随分と気だるげな声で、しかし迷いなく指示を飛ばしている男。

周囲の技術者たちは誰一人として反論せず、淡々と作業を進めている。

 

……違和感。

あの指示の雑さで、現場がちゃんと回っているのが逆に不気味だった。

 

「……?」

見覚えがない。

少なくとも、俺の記憶にあるロドスの人間じゃない。

俺は小声で、アーミヤに問いかけた。

 

「なあ、アーミヤ。あの白衣の……誰だ?」

 

だが、その問いは途中で遮られる。

男がこちらを見て振り向いた。

 

そして、驚くほど軽い足取りで近づいてくる。

「……おや?」

「おやおやおやおや??君……もしかしてドクター?」

距離感が近い。

異様に近い。

 

「お、おう……」

思わず一歩引きそうになるのを、理性で押し留めた。

 

「お〜……君が例のドクターかぁ〜!」

目を輝かせ、満面の笑み。

 

「俺はね、てぇんさい物理学者のレヴリス。よろしく?」

そう言って躊躇いなく握手を求めてくる。

 

……来たな。

 

この手の人間は、経験上大体ロクでもない。

怪しさが、もう全身から滲み出ている。

俺は一瞬、本気で無言で距離を取ろうかと考えた。

 

すると――

その空気を察したのか、男は肩をすくめて笑う。

「そんな警戒しないでよ〜。俺、意外と誠実なんだからさ」

 

「…………」

誠実な人間は、自分でそんなこと言わない。

その沈黙を破ったのは、アーミヤだった。

 

「ドクター……彼は、元レユニオンの研究者なんです」

 

なるほど。

腑に落ちた。

「穏健派の方々と一緒に、ロドスに加入してくれたんです」

 

その説明に、俺の警戒心は一段階だけ下がった。

 

……一段階だけ、だ。

 

「え〜、アーミヤCEO〜」

レヴリスはわざとらしく口を尖らせる。

「そういうのはさ〜、後からネタバラシする方が面白いじゃん?」

 

「ひ、ひぇ……」

アーミヤの額に、はっきりと汗が浮かぶ。

どうやら、彼女も完全に扱いきれていないらしい。

 

「こ、こんな方ですが……!」

慌てて言い繕うように、アーミヤは続ける。

「実力は本物です!本当に本物なので!だ、大丈夫だと思いましょう!」

最後は、自分に言い聞かせるような調子だった。

 

……なるほど。

 

ロドスは今、変革の真っ只中にいる。

 

敵だった者。

異端だった者。

危うい天才。

 

それらをすべて抱え込み、それでも前へ進もうとしている。

俺は、レヴリスをもう一度だけ見た。

 

軽薄。

胡散臭い。

だが――

あの目だけは、間違いなく“本物”だ。

 

「……まあいい」

俺は、その差し出された手を握り返した。

「問題起こすなよ、天才さん」

「ははっ!それは約束できないなぁ〜!」

 

……前途多難…とはこういう事か…

だが、こういう厄介者がいるのも、今のロドスらしい。

 

数時間後――

レイジアン工業の施設内は、まるで巨大な蟻塚のようだった。

人が動き、物が運ばれ、通路には梱包された資材や家具が並び、空気そのものが慌ただしく流れている。

 

「アーミヤCEO。住居エリアはほとんど出来上がったよ〜、これ以上旧艦に人を残すのは危険だし、引っ越しをパパッとさ!」

 

通信越しの技術主任の声は冷静だったが、その裏にある切迫感は隠しきれていなかった。

 

「分かりました。すぐに全体へ通達します」

 

アーミヤは一拍置いてから、こちらを振り向く。

 

「ドクター、それに皆さん。お引っ越しの準備をお願いします。荷物の運搬、手分けして行いましょう」

 

その声はCEOとしてのものだったが、

どこか嬉しさと不安が入り混じった響きがあった。

 

――新しいロドス。

希望と同時に、責任もまた重くのしかかっているのだろう。

 

「了解」

 

短く返事をして、俺は旧ロドス艦の自室へ向かった。

 

…………………………

 

「……俺の部屋も、一応整理しておくか」

 

ドアを開けると、そこには“俺のもの”でありながら、

どこか他人の痕跡のようにも感じる空間が広がっていた。

 

机。

椅子。

簡素なベッド。

壁際には、ずらりと並んだ本棚。

 

――昔の俺が、読んでいたとされる本たち。

 

医学、戦術理論、社会構造論、哲学書。

どれもページの端が擦り切れ、

何度も読み返された形跡がある。

 

「……処分するか、と思ったけど」

 

一冊手に取って、ページをめくる。

書き込みは無い。

だが、選ばれた箇所に付箋が貼られている。

 

それを見て、胸の奥がわずかに疼いた。

 

――これは、俺じゃない“ドクター”が選び、

考え、悩んだ痕跡だ。

 

完全に捨ててしまうのは、

何かを否定するような気がして。

 

「……まだ、読めそうだな」

 

結局、本棚はそのまま運ぶことにした。

 

机も、パソコンも、最低限の私物も。

無駄な装飾は無いが、それでも“生活していた場所”の重みは確かにある。

整理を続けていると、棚の奥から一つ、見慣れないものが出てきた。

 

「……ん?」

 

薄い金属製の――

タブレット端末。

 

角は擦れ、画面には細かなヒビ。

いかにも長く使われていたような代物だ。

 

「タブレットか……」

電源を入れようとするが、反応は無い。

 

うんともすんとも言わない。

完全に沈黙している。

 

「……壊れてる、か」

 

だが、なぜだろう。

 

捨てる気には、どうしてもなれなかった。

これもまた、“昔のドクター”の持ち物だ。

 

ここに何が入っていたのか。

記録か、日記か、それとも――

俺がまだ知らない、何か。

 

「……クロージャに渡しておくか」

技術屋なら、直せなくても中身くらいは確認できるかもしれない。

そう判断して、タブレットを脇に置いた。

 

…………………………

 

――で。

 

その後。

「ドクター!悪いけど、この資材もお願い!」

「こっちも人手足りないぞ!」

「医療区画のベッド、先に運びたい!」

 

……なぜこうなる。

 

「……はいはい」

気づけば俺は、誰よりもデカい荷物を抱え、誰よりも往復していた。

 

コンテナ。

補給箱。

重機の部品。

 

普通なら数人がかりの物を、俺一人で持ち上げて運んでいる。

 

「……こういう時だけ、自分にパワーがある事を恨むね」

 

ぼやきながらも、体は勝手に動く。

不思議なものだ。

 

戦場では頼りにされたこの力が、今はただの引っ越し要員。

 

だが――

それでも悪くない、と思ってしまう自分がいた。

 

銃声も、悲鳴も無い。

あるのは人の声と、未来へ向けて動く足音だけ。

 

汗を拭いながら、新造艦の通路を見渡す。

ここが、これからのロドス。

 

そして――

俺の、帰る場所。

 

胸の奥で、小さく、しかし確かな実感が芽生えていた。

 

「よし!頑張るか!」

そうして俺は荷物運び出して行った。

 

その後、凄く荷物持たせられたのは割愛…




ヴィクトリア編だけどストーリーがもう違ってる。
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