アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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あけおめ!!!(激遅)


STORY.23:任務開始

〜三人称視点.

 

「……できたな……」

 

レイヴンは無意識のうちに足を止め、ゆっくりと視線を上げた。

その先にあるのは、空を切り取るかのように聳え立つ重厚な鉄の壁。

装甲は分厚く、無駄のない直線で構成され、いかにも“移動要塞”と呼ぶに相応しい威容を放っている。

 

単なる船ではない。

これはロドスが生き延びるための拠点であり、武器であり、家だ。

 

「さあ、紳士淑女の皆様〜!」

 

軽薄さすら感じさせる明るい声が響く。

「遂に完成ですよ〜。我らロドスの、新しい船がね」

 

レヴリスは誇らしげに腕を広げ、巨大な艦体を示した。

その言葉を合図に、周囲のオペレーター達から歓声とざわめきが上がる。

 

「すごい……」「本当に一週間で……?」「信じられない……」

 

無理もない。

通常なら数ヶ月、下手をすれば年単位の工事になる規模だ。

それを、わずか一週間で仕上げてしまったのだから。

 

(……技術者として凄いな)

レイヴンは内心でそう評価する。

レヴリスの態度は軽いが、その裏にある設計力と実行力は疑いようがなかった。

 

「ま、各自しっかり見て行くといいよ」

そう言ってレヴリスは大きくあくびをし、仕事を終えたと言わんばかりに艦内へと歩いていった。

 

「行ってみましょう、ドクター!」

アーミヤは抑えきれない期待を声に滲ませ、レイヴンを振り返る。

「ああ」

短く頷き、二人は並んで新造艦の内部へと足を踏み入れた。

 

…………………………

 

内部は外観以上に合理的だった。

通路は広く、視認性も良い。

人の流れを想定した配置が徹底されている。

 

――一階。

 

艦内の半分近くを占める広大な格納庫。

輸送車両や重装備の保管を前提とした構造で、天井も高い。

その隣には医療室が配置され、緊急時の搬送動線も短い。

 

さらに、少数ながら個室。

重症者や要人用だろう。

 

――二階。

 

オペレーター用の宿舎が整然と並び、加工所と製造所が隣接している。

 

戦闘後、あるいは遠征中でも、即座に装備の修理や補充が可能な配置だ。

 

ここにも個室が設けられており、専門職や指揮官用と思われる。

 

――三階。

 

訓練室。

食堂。

購買部。

 

生活と戦闘を直結させる階層だ。

 

訓練室は複数区画に分かれ、近接、遠距離、アーツ対応と用途が明確に分かれている。

 

宿舎と個室もあり、ここは最も人の出入りが多くなるだろう。

 

――四階。

 

貿易所と応接室。

外部勢力との交渉、取引、会談のための階層。

 

生活圏から意図的に距離を取った配置は、情報管理と安全性を重視した結果だ。

 

当然のように、ここにも個室が用意されている。

 

――五階。

 

制御区画と事務室。

艦全体の頭脳とも言える場所だ。

 

航行、エネルギー管理、通信、作戦指揮。

すべてがここに集約されている。

 

宿舎と個室が併設されているのは、緊急時に即応するためだろう。

 

――六階。

 

最上層は宿舎と屋上。

屋上は展望と監視、そして非常用の発着地点として機能する。

 

空気は澄み、ここからなら艦全体を見渡せる。

 

…………………………

 

そして、すべての階層に共通する中心部。

 

広場状の空間に設置されたテレポーター。

各階を瞬時に繋ぐ移動装置だ。

その直下、あるいは隣接する形で配置された発電所が、艦全体にエネルギーを供給している。

 

移動、生活、戦闘。

すべてが一つの“核”を中心に回る構造。

 

(……凄いな、これが新しいロドスか。)

レイヴンは無言のまま、艦内を見回した。

 

これはただの新居ではない。

ロドスがこれからも戦い、救い、進み続けるための覚悟の形だ。

 

アーミヤもまた、その光景を目に焼き付けるように見つめていた。

 

そして一行は、五階――制御区画と隣接する司令室へと足を運んだ。

 

司令室は想像以上に広く、天井も高い。

壁一面には複数の大型モニターが並び、航路、周辺地形、艦内状況、戦術マップが同時に表示されている。

中央には円形の指揮卓。誰がどこに立っても全体を把握できる配置だ。

 

「ケルシー先生!」

 

アーミヤが少し弾んだ声で呼びかける。

 

「……ここが、新しい司令室か」

 

レイヴンは低く呟き、周囲を見渡した。

以前の司令室と比べても、明らかに“余裕”がある。

人員増加、長期作戦、複数部隊の同時指揮――それらを前提に設計されているのが一目で分かった。

 

「制御区画と併用してるのね」

 

ウィシャデルが感心したように腕を組む。

 

「判断と操作を切り離さない。合理的だわ」

 

その言葉に、ケルシーは小さく頷き、指先で操作を行った。

モニターの一つが切り替わり、新造艦全体の構造図とスペックが映し出される。

 

「レヴリスが設計したこのロドス艦は、従来艦よりも大型化している」

 

淡々と、だが確信に満ちた声音。

 

「居住区、研究区画、製造能力、いずれも性能は向上している。結果として、我々の医療研究、戦術運用、その両方が大きく前進するだろう」

 

それは単なる予測ではなく、既に見据えた未来の報告だった。

 

「そして――」

ケルシーは一拍置き、画面を切り替える。

そこに表示されたのは、新造艦の正式登録名。

 

「この新たなロドス艦の名を**《ミオソティス》**と名付ける事にした」

 

司令室に、静かな空気が流れる。

 

「心機一転、という言葉で片付けるには重い名だがな」

 

忘れな草――ミオソティス。

忘れないための名。

過去と犠牲を置き去りにしない、という意思の表れ。

 

「ミオソティス……か」

レイヴンは小さく反芻し、口元に僅かな笑みを浮かべた。

「……いい名前だな」

チェンは無言で頷き、ウィシャデルも、ジェスターも、そしてアーミヤ達も同じように首肯する。

それは全員が、この船に“意味”を感じ取った証だった。

 

「ドクター」

不意に、アーミヤが一歩前に出る。

 

「ん?」

「改めて――これからも、よろしくお願いします!」

 

真っ直ぐで、曇りのない声。

ロドスの象徴としての言葉だった。

 

レイヴンもまた、迷いなく答える。

「こちらこそ、よろしく」

二人は短く視線を交わし、静かに頷き合った。

 

新しい船。

新しい司令室。

新しい名前。

 

だが、守るべきものと進む意思だけは、変わらない。

ミオソティスは、そのすべてを載せて、これからのロドスを導いていくという事は確かだった。

 

…………

 

深夜。

ミオソティス三階、宿舎エリアを改装して作られた大浴場には、静かな湯気が立ち込めていた。

艦内の喧騒が嘘のように遠く、聞こえるのは水面が揺れる音と、時折響く息遣いだけだ。

 

「〜♪……いいわね、大浴場」

湯船の縁に背を預け、ウィシャデルは大きく息を吐いた。

一日の緊張が、肩からゆっくり溶け落ちていくのが分かる。

 

「せっまい個室のシャワーなんかより、ずっとくつろげるわ……」

戦場を渡り歩いてきた身にとって、こうして何も考えず湯に浸かれる時間は貴重だった。

だからこそ、油断している自分に少しだけ苦笑する。

「……ドクターも、くつろいでいるでしょうか?」

向かいで肩まで湯に浸かるアーミヤが、ふと気になったように呟く。

湯気越しでも、その表情は柔らかいが、どこか落ち着かない。

 

「そりゃあ一年も戦いっぱなしだったんだし、くつろいでるでしょ」

ウィシャデルは肩をすくめる。

 

「アタシは知らないけど」

そう言いながら、深く湯に沈む。

目を閉じれば、戦場の光景が一瞬だけ脳裏をよぎったが、すぐに湯の温かさがそれを押し流した。

 

「……あ」

その時、チェンの声が響く。

「アーミヤ、シャンプーの場所、分からないか?」

「あ、はい! 今行きます!」

アーミヤは慌てて湯船を出て、足早に洗い場へ向かった。

その背中を、ウィシャデルはぼんやりと見送る。

 

――ロドスのリーダー、か。

 

まだ若い。

それでも背負っているものは重く、誰よりも前に立たされている。

 

「……大変な役回りよね」

独り言のように呟き、再び目を閉じた。

 

 

その頃、男湯。

 

「……あ〜……溶ける〜」

 

湯船の縁に頭を預け、レイヴンは完全に力を抜いていた。

筋肉も思考も、すべてが緩み切っている。

 

「癒される〜……」

その声には、いつもの緊張感も皮肉もない。

ただ純粋な疲労と安堵だけが滲んでいた。

 

「……相当、溜まってたみたいだな」

テディスは湯気越しにレイヴンを見て、少しだけ表情を曇らせる。

「一年間、休みなしでしたからね……」

 

ジェスターも頷く。

戦場では常に前に立ち、判断を下し、命を背負ってきた男だ。

この反動が来ない方がおかしい。

 

しかし次の瞬間。

 

「……ん〜……」

レイヴンの頬が、目に見えて赤くなっていく。

 

「……あ、やべ」

かすれた声と同時に、身体がぐらりと傾いた。

 

「これは――」

「のぼせてますね!」

二人は同時に動いた。

湯船からレイヴンを引きずり上げ、洗い場へ移動させる。

 

「レイヴンー! 大丈夫かー!」

「意識ありますかー!」

 

返事はない。

ただ、意味不明な唸り声だけが返ってくる。

 

その後――

冷水をかけ、仰がれ、声をかけ続けられ。

 

「……」

ようやく意識を取り戻した頃には、すっかり夜も更けていた。

 

「……せっかくの大浴場だったのに……」

「逆に疲れたな」

テディスとジェスターは揃って溜息をついた。




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