アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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ラッピーが来る!!!


STORY.24:ラップランド来日

とある荒野。

風に削られた岩肌と、果ての見えない砂塵の向こうに、巨大な影がゆっくりと移動していた。

 

崖の縁に、一人の少女が立っている。

細身の体躯に不釣り合いなほど落ち着いた佇まい。

その視線は、遠くを進む移動艦――ロドスを正確に捉えていた。

 

「へぇ……」

喉の奥で、小さく息が漏れる。

驚きでも感嘆でもなく、興味。

まるで面白い玩具を見つけた子供のような、純粋で危うい光が瞳に宿る。

 

「あれが……ロドスかぁ……」

伝聞でしか知らなかった存在。

争いと救済、理想と現実が交差する場所。

 

「……もしかしたら、会えるかもね」

誰に向けた言葉でもない。

それでも、その一言には確信めいた響きがあった。

 

次の瞬間。

少女は一切の躊躇なく、崖から身を投げ出す。

 

風を切り、落下する感覚すら楽しむように、身体をひねり――

着地と同時に地面を蹴り、ロドスへと走り出した。

 

 

…………………

 

「やっほー! リーダー! 久しぶり!」

甲高く、よく通る声が艦内に響いた瞬間、空気が一気に明るくなる。

振り向いたレイヴンの視界に、見慣れた天使が飛び込んできた。

 

「エクシア……!」

弾けるような笑顔。

その後ろには、落ち着いた佇まいのテキサスと、腕を組んだままのデュークが立っている。

 

ペンギン急便。

ロドスにとっては馴染み深い存在だが、こうして揃って訪れるのは一年ぶりだった。

 

「やっぱりロドスはいいね! 空気が違うよ!」

「久しぶりだな、みんな」

レイヴンの声にも、自然と力が入る。

「デューク! 久しぶりだな!」

「レイヴンこそ、元気そうだな」

二人は迷いなく近づき、がっしりと腕を組む。

言葉は少なくとも、互いに無事を確認するには十分だった。

 

「ん? テキサス〜」

エクシアがひょいと顔を覗き込む。

「もうちょっと嬉しそうな顔したら?」

「……いや」

テキサスは視線を逸らし、低く答える。

「なんだか、嫌な予感がしてな……」

冗談とも本気とも取れない口調。

だが、その瞳は妙に鋭く、艦内のどこか――まだ姿を見せていない“何か”を警戒しているようだった。

 

レイヴンは一瞬だけ、その言葉を胸に留める。

すると、レイヴンの携帯端末が短く震えた。

表示された名前を見た瞬間、胸の奥がわずかに締まる。

 

「……ケルシー?」

応答した途端、相手の声はいつも以上に切迫していた。

『ドクター。そちらに誰かが向かっている』

「誰かって――」

『非常に速い。通常のオペレーターではない。警戒を――』

言葉の途中で、通信が切れた。

 

「……?」

 

意味を噛み砕く間もなく、空気が変わった。

次の瞬間。

 

デュークの身体が紙屑のように宙を舞い、床を滑って壁に叩きつけられた。

 

「へあっ……!」

 

室内が一瞬で静まり返る。

銃に手を伸ばす者、咄嗟にアーミヤを庇う者、状況を把握しようとする者――

全員の視線が、破壊された入口へ集中した。

 

そこに立っていたのは、一人の少女。

 

白銀の髪。

鋭くも楽しげな瞳。

獣のような笑みを浮かべ、血の匂いすら楽しむような気配。

 

「……やあ」

軽い調子で、しかし確実に場を支配する声。

「久しぶりだね。何年ぶりかな?」

デュークが息を荒げながら目を見開く。

「お、お前……まさか……!」

少女はその反応を待っていたかのように、にやりと笑う。

 

「そうそう。その顔だよ」

一歩踏み出し、倒れたデュークの元へ歩み寄る。

「君の愛しの――ラップランドさ!」

そのまま、何の躊躇もなくデュークに抱きついた。

 

「会いたかったよ、デューク。ずっと、ね?」

「ちょっ……!離れろ!!」

力任せに振りほどこうとするが、ラップランドは楽しそうに身を預けたまま離れない。

「……だ、誰だよ……」

レイヴンは即座に双剣へ手を伸ばせる位置に立ちながら、低く呟く。

ジェスターも同様に警戒態勢に入り、室内の緊張は一気に最高潮へ達していた。

 

その中で、ただ一人――

テキサスだけが、静かに口を開いた。

「……昔、シラクーザに居た時に、世話になった奴だ」

 

短い説明。

だが、その声には僅かな疲労と、消しきれない警戒が滲んでいる。

 

「あ、覚えててくれてたのかい?テキサス」

 

ラップランドは顔を上げ、嬉しそうに目を細めた。

「嬉しいなぁ。忘れられてたらどうしようかと思ったよ」

「……別に」

視線を逸らし、テキサスは短く答える。

「それより、デュークから離れてくれ。困っているだろう」

「ふ〜ん?」

ラップランドはわざとらしく首を傾げ、テキサスをじっと見つめる。

「本当はさ……テキサスもハグしたいからじゃないのかい?」

「――っ」

 

一瞬。

ほんの一瞬だが、テキサスの表情が固まった。

それを見逃すほど、ラップランドは鈍くない。

 

「……図星?」

「ち、違――」

言い切る前に、場の空気がざわつく。

 

「テ、テキサスさんに……そんな趣味が……?」

アーミヤは完全に想定外の情報を処理しきれず、目を丸くしていた。

「独占欲、強いわねぇ……」

ウィシャデルは腕を組み、呆れたようにため息をつく。

だが、その視線は鋭く、ラップランドの動きを一瞬たりとも逃さない。

 

レイヴンは、静かに状況を見渡した。

 

速い!侵入経路不明!敵意と親愛が同居!

 

ケルシーの警告が、ようやく腑に落ちる。

(……厄介なのが来たな)

ラップランドは、そんなレイヴンの視線に気づき、ゆっくりと振り返った。

 

「ん?

そして、まるで新しい玩具を見つけたかのように笑う。

「……ああ。君が噂のドクターか」

その笑顔は、友好的で、狂気に満ちていた。

「よろしくね。ロドスって、思った以上に楽しそうだ」

 

…………………

 

応接室は、静かだった。

しかしそれは安らぎの静寂ではなく、互いの出方を探るための沈黙に近い。

 

柔らかな照明の下、ソファにラップランドが足を組み、楽しげに揺らしている。

対するデュークは背筋を伸ばし、テキサスはその横で視線を逸らしたまま、微動だにしない。

 

「とにかく、ラップランド」

デュークの声は低く、だが感情を抑え込んだ硬さがあった。

「ここに来た理由を、ちゃんと聞かせてもらおうか」

ラップランドは一瞬きょとんとした顔を見せ、それからわざとらしく肩をすくめた。

 

「来た訳?」

軽い口調。

まるで深刻な場ではないかのように。

「君に会いに来たんだ。それだけじゃダメ?」

その言葉に、空気が一段冷えた。

 

「ダメ」

即答だった。

 

「うん」

ラップランドも短く頷く。

「……それじゃあさ」

少し考えるような素振りを見せてから、彼女はにやりと笑う。

「ロドスが気になったから来たって事で、オッケー?」

 

沈黙。

デュークは一瞬視線を宙に泳がせ、それから身体を僅かに傾け、レイヴンに小声で問いかけた。

 

「……まあ……いいんじゃないか?レイヴン、どう思う?」

「いいんじゃね?」

 

あっさりとした返答。レイヴンの中にその確証は……無い…。

 

「ならオッケーか……」

 

デュークは小さく息を吐いた。

ラップランドは満足そうに頷き、今度は少しだけ声の調子を落とす。

 

「ま、実際の話をするとね」

彼女は机に肘をつき、頬杖をついた。

 

「シラクーザの“家族”の元を離れてさ。行き場が無くなったんだよ」

「そんな時に、ロドスがヴィクトリアに襲われたって話を聞いてね」

 

視線が、自然とレイヴンへ向く。

「……気になって、ここまで来ちゃったってわけ」

 

「ヴィクトリアがロドスを襲った事は……」

テキサスは低く呟く。

「他の国にも、もう伝わってるのか」

 

「そりゃそうさ」

ラップランドは即答した。

「お陰でヴィクトリア政府の信頼はガタ落ち。今でもクーデター起こそうとしてる連中が居るくらいだしね」

 

その言葉に、応接室の空気が僅かにざわめく。

アーミヤは小さく頷き、胸元に手を当てる。

「ヴィクトリア政府がロドスを襲った事は、問題視されているようですね」

 

「当然でしょ?」

ウィシャデルは呆れたように肩をすくめる。

「何の関係も無い製薬会社を軍が襲うなんて、一般人からしたら“頭おかしい”って話よ」

 

「一般市民どころか……」

チェンは腕を組み、厳しい表情で続ける。

「他国の上層部からも、同じように見られているだろうな」

 

沈黙が落ちる。

 

「どうだい、ドクター」

 

ラップランドは、さっきまでの軽薄さを少しだけ抑え、しかし相変わらず愉快そうな笑みを浮かべたままレイヴンを見る。

 

「僕のこと、ロドスに置いてくれないかな?」

 

その言葉は軽い。

だが、その軽さの裏には――拒絶される覚悟も混じっていた。

 

応接室の視線が、一斉にレイヴンへ向く。

アーミヤは息を詰め、テキサスは僅かに身構え、チェンは沈黙したまま様子を窺う。

 

レイヴンは少しだけ考え、肩をすくめる。

「……まあ、危害を加えないなら良いよ。」

あまりにも、あっさりした返答だった。

 

一瞬、空気が止まる。

 

「……意外とあっさりだな」

ジェスターが思わず口に出す。

警戒や条件を並べるかと思っていたのだろう。

 

するとレイヴンは、急に身を乗り出し、指を突き立てて叫んだ。

「だって!こんな!可愛い子!ほっとける!訳!無いだろ!?」

 

応接室に、妙に響く声。

 

「確かに!!」ジェスターまで、反射的に叫ぶ。

「そうですね!!」さらにテディスが続く。一番うるさかった。

「そうだな!ラップランドは可愛い!!」極めつけに、デュークが力強く叫んだ。

 

一拍。

 

「……」

 

ラップランドは、ぴたりと動きを止める。

 

次の瞬間、彼女の頬がみるみる赤く染まり、耳まで真っ赤になった。

「も、もう……デューク……」

声が、妙にしおらしい。

「そんなに褒めないでって……恥ずかしいよ……」

視線を逸らし、もじもじと肩をすくめるその様子は、さっきまでの狂犬じみた雰囲気とはまるで別人だった。

 

その場にいた全員が、同時に理解する。

 

(……あ、こいつ完全にデュークのこと……)

レイヴン、ジェスター、テディス、そしてアーミヤ達も、無言で同じ結論に辿り着く。

 

当のデュークは、ようやく事態を理解したのか、顔を真っ赤にして硬直していた。

「……え?え、いや……その……」

言葉を失い、視線を泳がせる。

 

アーミヤは苦笑いを浮かべつつも、どこか安心したような表情をしていた。

(敵意だけで来たわけじゃない……)

(この人は、ちゃんと“誰か”を想って動いている)

 

ウィシャデルはその様子を見渡し、内心で思う。

(……なるほどね)

(狂犬かと思ったら、首輪の先が最初から決まってたわけね。)

 

そして彼は、軽く笑って言った。

「まあ……今のロドスはちょっと人手不足だしな」

「問題起こさない限り、歓迎するぜ」

その言葉に、ラップランドはゆっくり顔を上げ、瞳を細めて、楽しそうに笑った。

 

「……ふふ」

「やっぱり、来て正解だったみたいだね」

こうしてロドスはまた一人――

厄介で、危険で、そして少しだけ人間らしい存在を迎え入れることになった。




ラッピー仲間入り。
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