アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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彼女も参戦。
今回からまたキャラが増えますよ。


STORY.25:エリア・ゼロ(前篇)

レイヴンはデューク達と別れ、一人でロドス艦の通路を歩いていた。

 

新造艦ミオソティスの内部は広く、夜も深いためか人の気配は薄い。

足音だけが、金属張りの床に乾いた反響を返す。

騒がしかった応接室の空気が嘘のように、ここは静まり返っていた。

 

(……やっと一息つけるな)

そう思った瞬間、背後から声が飛んできた。

 

「お、おい。アンタ、ドクターか?」

 

反射的に足を止め、振り返る。

そこに立っていたのは、ロドスの制服を着た一人の男性。

だが、その顔には見覚えがあった。

 

「覚えてるか?俺だよ、スノーデビルの!」

「……!」

一瞬、記憶が繋がる。

 

「……お前、あの時の……!」

レユニオンとの戦いの中、命を賭して戦った者たち。

敵として刃を交え、だが最後には――同じ空を見上げた仲間。

 

「元気だったんだな」

思わず、声が少し柔らいだ。

「あんたのお陰でな。俺達、ちゃんと生き延びてる」

彼は照れたように頭を掻き、続ける。

「それより、姐さんに挨拶はしたか?」

「いや、まだだな」

「この辺の宿舎に居る。顔見せてやってくれよ、絶対喜ぶからさ」

そう言って彼は軽く手を振り、貿易所の方へ歩いて行った。

 

「またな、ドクター!」

その背中を見送りながら、レイヴンは小さく息を吐く。

 

胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じながら、指示された方へ歩き出した。

「……こっちか」

宿舎エリアは、さらに静かだった。

灯りは落とされ、寝静まった気配が漂っている。

 

その時――

 

扉が、ゆっくりと開いた。

 

中から現れたのは、一人の少女。

白い髪、氷のように澄んだ瞳。

 

視線が交わった瞬間、彼女の動きが止まる。

「……!」

息を呑む音が、はっきりと聞こえた。

「……ドクター……?」

声が震える。

「フロストノヴァ……久しぶりだな」

その名を呼んだ瞬間、彼女の表情が揺れた。

 

「……ああ……」

「久しぶりだな」

 

静かな声だったが、そこには確かな実感があった。

 

二人は一歩ずつ近づき、言葉もなく手を伸ばす。

互いの体温を確かめるように、強く――しかし優しく、手を握った。

 

(……冷たくない)

 

レイヴンは、無意識にそう思っていた。

「あの時は……ありがとう」

フロストノヴァは、目を伏せながら言う。

「お陰で私は、こうして生きている」

 

その言葉には、重みがあった。

“生き延びた”ではない。“生きている”と、彼女は言った。

 

「……それより」

レイヴンは少し視線を逸らし、続ける。

「触ってもいいのか?お前……アーツの症状が……」

 

彼女の体は、かつて死に近かった。アーツに侵食され、触れれば凍りつくほどに。

 

「それについては気にするな」

フロストノヴァは、静かに首を振る。

「新しい臓器を移植した。それから、長いリハビリをして……」

少しだけ、誇らしげに微笑む。

「ようやく、オペレーターとして活動できるぐらいには回復した」

「……そうか」

 

レイヴンは、短くそう答えた。

 

それ以上、言葉はいらなかった。

生き延びるために、どれほどの苦痛があったか――

彼女の瞳が、すべてを物語っていた。

 

「……ヴィクトリアの件は、アーミヤから聞いた。大変だったな」

 

その一言には、同じ“戦場を知る者”としての理解があった。

「だが……」

フロストノヴァは、握った手に少し力を込める。

「これからは、私やスノーデビルのみんなで、ドクターを支える」

「今度は……私たちが守る番だ」

 

その言葉に、レイヴンは一瞬だけ目を閉じた。

「これから、よろしく頼むな」

「……ああ、よろしく」

二人は、改めて握手を交わした。

 

「それより、フロストノヴァ」

通路を進みながら、レイヴンはふと思い出したように尋ねた。

「ここで何をしていたんだ?」

 

「この先の宿舎は、今は孤児院として使われている」

フロストノヴァは、歩みを止めずに答える。

「さっきは、子供たちの様子を確認していたんだ」

彼女の声は穏やかで、かつての彼女を知る者からすれば意外なほど柔らかい。

「……離れていて平気なのか?」

 

「問題ない」

「他の隊の連中も交代で見ている。ロドスは、私一人で回っているわけじゃないからな」

その言葉に、レイヴンは小さく笑った。

「随分、頼もしくなったな」

「……立場が変われば、考え方も変わる」

そう言って、彼女は少しだけ目を伏せた。

 

「今から、どこへ?」

「ケルシーの所だ。呼ばれていてな」

フロストノヴァは横目でレイヴンを見る。

「ドクターも来るか?」

「丁度暇してたところだ」

即答だった。

「なら、ちょうどいい」

 

二人は並んで歩き、制御区画へと向かった。

 

重厚な扉が開くと、室内には薄暗い光と、機械音が満ちていた。

その中央、モニターに囲まれた席に、白衣の女性が座っている。

 

「……ドクターも居たのか。」

ケルシーは、明らかに徹夜明けで、表情は疲労で硬く、瞬きの回数も少ない。

 

「まあいい……」

彼女は小さく息を吐き、端的に告げる。

 

「これから新しい任務がある。通達しよう」

その一言で、室内の空気が引き締まった。

「フロストノヴァ、ドクター」

ケルシーは端末を操作しながら続ける。

「二人には、行動予備隊A2と共にエリア・ゼロの調査をお願いしたい」

 

「エリア・ゼロ?」

レイヴンが眉をひそめる。

 

「……説明がまだだったな」

ケルシーは淡々と続ける。

「エリア・ゼロは、カジミエーシュとヴィクトリアの国境付近に存在する。正確には、その中間点だ」

 

一瞬、沈黙が落ちた。

 

「……君たちは」

ケルシーの視線が二人を射抜く。

「数百年前に起きた、あの“事故”のことを知っているか?」

その言葉に、フロストノヴァの表情が変わった。

視線が下がり、記憶を辿るように沈黙する。

 

やがて、彼女は静かに顔を上げた。

 

「……パトリオットから聞いたことがある」

声は低く、慎重だった。

「昔、人類は“宇宙”という場所へ行こうとした」

「科学者たちは、宇宙コロニー『オーストリア』を設立し、そこから旅立つ計画だったと」

 

レイヴンは、その話を初めて聞くように息を呑む。

 

「だが……」

フロストノヴァは続ける。

「計画は失敗した。コロニーは制御を失い、そのまま――テラへ落下した」

 

「……そうだ」

ケルシーは、即座に肯定した。

「それ以来、その地は長年に渡り“誰も立ち寄らない区域”として扱われてきた」

彼女は端末を操作し、モニターを起動する。

「だが……」

 

画面に映し出されたのは、異様な光景だった。

 

荒廃したはずの大地に、緑が広がっている。

木々は生い茂り、川が流れ、野生動物の影すら確認できた。

「……自然環境が、蘇っている?」

フロストノヴァが低く呟く。

 

「その通りだ」

ケルシーは淡々と分析を述べる。

 

「おそらく、コロニー内部に搭載されていた環境維持システムが、今なお稼働している」

「テラの自然法則から見ても、異常な回復速度だ」

フロストノヴァは、画面から目を離さずに言った。

 

「……つまり、そこは」

「“過去の遺産”であり、同時に“現在進行形の危険地帯”でもある。」

 

ケルシーは、きっぱりと結論を下す。

「だから、エリア・ゼロの調査をお願いしたい」

 

制御区画に、短い沈黙が落ちた。

レイヴンは、ゆっくりと息を吸い――

 

「……面白そうだな」

静かに、しかし確かな意志を込めて答えた。

フロストノヴァも、頷く。

 

二人の返答を聞き、ケルシーは僅かに目を細めた。

「明日には出発を頼みたい。」

「これは――ロドスにとっても、そしてテラ全体にとっても重要な調査になる」

 

「……そういえば」

制御区画を出る直前、レイヴンが振り返った。

 

「行動予備隊A2って、結局なんなんだ?」

一瞬の沈黙の後、ケルシーは端末を操作し、簡潔に答える。

「……行動予備隊A2は、最近になって設立された部隊だ」

彼女が投影したのは、複数名分のオペレーターデータだった。

 

能力値、適性、アーツ反応――

どれを見ても、平均値を明らかに上回っている。

 

「……凄いな」

フロストノヴァが、思わず声を漏らす。

「ほとんどの能力診断が“優秀”判定だ」

 

戦闘適性、反応速度、耐久力。

中には、既存のエリートオペレーターと肩を並べる数値すらある。

 

「……だが」

ケルシーは淡々と続ける。

「アーツ制御が未熟だ。それに、実戦経験も決定的に足りない」

「才能はあるが、未完成――というわけか」

 

「その通りだ」

ケルシーは視線を外さずに言った。

「一歩間違えれば、自滅する。だからこそ、正式編成にはまだ加えていない」

 

「なるほどな」

レイヴンは軽く笑い、踵を返す。

「よし。とにかく会って話してみたいな」

「どこにいる?」

「おそらく訓練室だ」

ケルシーは即答した。

「今の時間帯なら、ほぼ確実にいるだろう」

「じゃあ行ってみるか!」

そう言い残し、レイヴンは制御区画を飛び出していった。

足取りは軽く、まるで新しい玩具を見つけた子供のようだ。

 

その背中を見送り――

フロストノヴァが後を追おうとした、その時。

「……フロストノヴァ」

背後から、ケルシーの声がかかった。

 

「……?」

足を止め、振り返る。

 

制御区画に残ったケルシーは、珍しく視線を落としていた。

いつもの冷静沈着な姿とは、微妙に違う。

 

「私は……」

短い沈黙の後、彼女は言葉を選ぶように続ける。

「彼に、どういう対応をしたらいいと思う?」

フロストノヴァは、一瞬だけ目を見開いた。

 

「ジェスターやウィシャデルは、過去のドクターと彼を切り離して接している」

「だが私は、それが未だにできない」

ケルシーは自嘲気味に、息を吐く。

「……私が、こんなことで悩むのは初めてだ」

その言葉には、研究者でも指揮官でもない、一人の人間としての迷いが滲んでいた。

 

フロストノヴァは、少し考えた後――静かに答える。

「……そう深く考える必要はないだろう」

ケルシーが、僅かに顔を上げる。

 

「ドクターは、過去の罪も選択も背負っている」

「だが同時に、今を生きている存在だ」

フロストノヴァは、淡々と、しかし確かな実感を込めて言った。

 

「ゆっくり考えればいい」

「答えは、急がなくても見つかるかもしれない」

それだけ言い残し、彼女は踵を返した。

 

「……」

 

ケルシーは、その背中を黙って見送る。

そして、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

「……そう、かもしれないな」

 

一方――

 

廊下を駆けるレイヴンの前方には、訓練室の重厚な扉が見え始めていた。

「ここだな」

レイヴンは自動ドアをくぐり、訓練室へ足を踏み入れた。

内部は広く、床には無数の擦過痕。壁際には簡易シールドと訓練用武装が並び、つい先ほどまで激しい模擬戦が行われていたことが一目で分かる。

 

「ん? アンタは?」

最初に声をかけてきたのは、茶髪の少年だった。

年齢は十代半ばほど。身体は引き締まり、視線が真っ直ぐで、無駄な動きがない。

「行動予備隊A2の……誰?」

「俺はイグニス!……あなたは?」

 

「レイヴン。ロドスのドクターやってる」

その一言で、空気が一変した。

 

「ドクター!?」

イグニスは目を輝かせ、勢いよく振り返る。

「みんなー! ドクターだって!」

 

その声に応じるように、訓練室の奥から足音が響いた。

「アンタがドクターか」

落ち着いた声で話しかけてきたのは、黒髪に緑のメッシュが混じったヴイーヴルの少年だった。

視線は冷静で、イグニスとは対照的に感情の起伏が少ない。

 

「俺はウェントゥス。こっちは――」

「はーい!」

ウェントゥスの横に立つ、ピンク髪の少女が弾むように前へ出る。

「ウチ、グラキエース!ラキって呼んでよ!」

 

そう言って、屈託なくピースを決める。

場の空気を一気に明るくするタイプだ。

 

「……あれ?」

レイヴンは辺りを見回した。

「もう一人は?」

「後ろだよ〜」

間延びした声が、すぐ背後から聞こえた。

 

「――っ!?」

振り返った瞬間、至近距離に顔があり、レイヴンは反射的にバランスを崩して床に転げ落ちた。

 

「へへっ、成功」

悪戯が成功した子供のように笑う少女が、腰に手を当てて見下ろしている。

「私フラム。あなたがドクター? よろしくね!」

「お、おう……よろしく……」

床から起き上がりながら、レイヴンは内心で息を整えた。

(……なるほど)

 

イグニスの直情型。

ウェントゥスの冷静さ。

グラキエースの明るさ。

フラムの掴みどころのなさ。

 

レイヴンはケルシーの言葉を思い出し、納得する。

 

「それより」

グラキエースが首を傾げた。

「ウチらに何か用?ケルシー先生に、ドクターから連絡来るって聞いてたけど」

 

「ああ」

レイヴンは表情を引き締める。

「お前らは、俺たちと一緒に“エリア・ゼロ”の調査に行くことになった」

 

一瞬、沈黙。

「……え?」

フラムが目を丸くし、イグニスを見る。

「私たちが……任務に?」

 

次の瞬間――

 

「やった!!」

イグニスが拳を握り締めた。

「俺たち、遂に任務に出られるんだな!」

「浮かれるな」

ウェントゥスが低く言うが、その口元はわずかに緩んでいた。

「だが……腕が鳴るな」

「だよね!」

グラキエースも嬉しそうに頷く。

四人の顔に浮かぶのは、期待と興奮、そしてほんの少しの不安。

 

こうして、行動予備隊A2は初任務へ向かう歯車に、確かに組み込まれた。




なんかどっかで見たことあるようなメンツ…
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