アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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アーミヤ「あれ〜?私は?」
ジェスター「俺らも出てないから。」


STORY.27:エリア・ゼロ(後篇)

「へー……ここが危ないから、わざわざ調べに来たってわけかぁ……」

シルバーは焚き火のそばに腰を下ろし、先ほど捕らえた魚を眺めながら、どこか他人事のように言った。

 

その魚は、すでに見事な刺身となっている。

 

包丁捌きは無駄がなく、骨も皮も丁寧に処理されていた。

 

「……お前らプロ?」

思わずレイヴンが聞く。

「違うよ?」

「違うけど……」

イグニスとウェントゥスは顔を見合わせ、あっさりと答える。

 

(絶対嘘だろ)

レイヴンは黙って刺身を口に運び、心の中で断定した。

 

歯ごたえ、脂の乗り、処理の丁寧さ。

どう見ても“慣れている”味だった。

 

「……外のこと、結構知ってるんだな」

レイヴンが話題を戻す。

「ああ。あのデカい機械があってさ」

シルバーは指で、中央に聳えるコロニーの残骸の方角を示した。

 

「なんか……“でーたーべーす”?“こんぴゅーたー”?そういうのがあってさ、それで色々覚えた」

軽く言うが、その内容は決して軽くない。

 

(……やはり)

フロストノヴァは内心で息を詰めた。

(コロニーのデータベースが、今も稼働している可能性が高い。しかも……この少年は、独学でそれを扱っている)

言葉遣いが妙に整っている理由。

世界情勢を最低限知っている理由。

 

すべてが、一本の線で繋がった。

 

だが――

今は、追及する場面ではない。

 

「とにかく、シルバー」

レイヴンは真っ直ぐに少年を見る。

「俺たちは、このエリア・ゼロを調査して、どんな場所なのかを確認したい」

「……うーん……」

シルバーは少しだけ考え込む素振りを見せ、すぐに顔を上げた。

 

「いいぜ!」

即答だった。

「ちょうどさ、ここを離れて、外の世界を旅しようと思ってたんだ」

その言葉に、全員が一瞬、言葉を失う。

 

この場所で生まれ、

この場所で生きてきた少年が、外の世界へ出ることを、恐れていない。

 

それは――

強さか、あるいは、覚悟か。

 

「それは都合がいいな」

レイヴンは小さく笑い、手を差し出す。

「俺たちロドスは、感染者の治療をしながら、世界中を回ってる。どうだ、ロドスに来てみないか?」

 

「……面白そうだな」

シルバーは一瞬も迷わず、その手を握った。

 

「行くぜ!」

焚き火が、ぱちりと音を立てる。

 

こうして――

エリア・ゼロで生きてきた少年は、自らの意思で、世界へ踏み出す選択をした。

「俺が案内するぜ。あ、イビルバーって奴には気をつけてくれよ。凄くデカくて、獰猛なんだ」

 

「……さっきの主か。ちゃんと名前付いてる辺り、相当付き合い長そうだな」

 

レイヴンが苦笑すると、

イグニスがバッグを漁りながら声を上げた。

 

「レイヴンさん、なんか飲もうぜ。喉乾いた」

 

「ほい」

取り出されたのは、密閉パックのジュース。

「シルバーも好きなの取れよ」

「じゃあこれ!」

シルバーは迷いなくオレンジジュースを選び、

封を開けて一口飲む。

 

「……!!」

目を見開いたまま、動きが止まった。

「う、美味い……!オレンジの味するぜ……!」

「そりゃオレンジジュースだからな」

ウェントゥスが当たり前のように言うが、シルバーは何度もパックを眺めている。

 

(なんか新鮮……)

レイヴンはそう感じた。

 

しばらく進むと、地形は岩場へと変わった。

足場は不安定で、道も細い。

「この辺は道が険しいんだ」

「お前はやけに平気そうだな」

「慣れてるからな。転んだら死ぬ場所で育つと、自然と覚える」

 

さらりと言うが、内容は重い。

 

その時――

 

嫌な音が頭上から響いた。

「……っ!」

「ひぇ……」

 

次の瞬間、

岩場の上から複数の落石が崩れ落ちる。

「ラキ!!」

グラキエースの頭上に、直撃コースで岩が迫る。

 

だが――

ガッ、と音を立てて、岩が空中で止まった。

 

「……?」

時間が一瞬、引き延ばされたように感じた。

 

岩は、見えない何かに掴まれたように停止し、

次の瞬間、横方向へ弾き飛ばされ、岩が地面に激突する。

 

「……え?」

グラキエースは腰が抜け、その場にへたり込む。

「大丈夫かラキ?」

「う、うん……それより……」

 

全員の視線が、同時にシルバーへ向いた。

彼は片手を前に伸ばしたまま、少し首を傾げている。

 

「シルバー……今の……」

「ん?」

彼は自分の手を見る。

「昔から使えんだよ。なんでか分かんねーけど」

 

あまりにも軽い口調。

 

(……)

フロストノヴァの背筋に、冷たいものが走った。

 

アーツではない。

 

エリア・ゼロではアーツが弱まる。

にもかかわらず、今の現象には術式形成の兆候が一切無かった。

 

さらに――

(鉱石病反応も無い)

感染者特有の兆候は、どこにも見当たらない。

 

「……サイコキネシス」

フロストノヴァが、低く呟く。

「純粋な念動力だ。アーツとは性質が違う」

「え、なにそれ。すげーの?」

シルバーはきょとんとしている。

 

「……すげぇなんてもんじゃねぇ」

 

フロストノヴァは、はっきりと言った。

「テラじゃ、存在自体がほぼ確認されていない力だ」

一瞬、場に沈黙が落ちる。

 

「……つまり?」

イグニスが恐る恐る聞く。

「つまり」

レイヴンは、シルバーを見る。

「お前は相当凄い能力持ってるぜ。」

 

シルバーは少し困ったように笑った。

 

「へー。じゃあ俺、結構ヤバい?」

「ヤバい」「かなりな」「間違いなく」

 

次々と肯定が飛ぶ。

シルバーは岩場を見渡し、遠くに見えるコロニーの残骸に目を向けた。

 

「いやー、この力、変だとは思ってたけど……やっぱり凄かったのか!」

シルバーは満面の笑みで胸を張った。

「こんな逸材をスカウトした俺も天才だな!」

「天才天才天才ー!」

レイヴンが勢いよく持ち上げると、シルバーも調子に乗って腕を振り上げる。

「だろー!?」

その勢いに釣られ、イグニスとウェントゥスまで一緒になって喜び出す。

「すげーよシルバー!」

「いやマジで規格外だろ!」

場の空気は一気に明るくなった。

 

だが――

「……うん」

その熱気を、静かに切ったのはフロストノヴァだった。

 

「ところで、これからどうする?」

その一言で、全員が我に返る。

「……ひとまず、ロドスに戻ろう」

フロストノヴァは冷静に続ける。

「コロニー内部の調査も重要だが、まずは彼をロドスで検査するべきだ」

「能力の正体、身体への影響、それに――この土地との関係もな」

「確かに」

 

レイヴンは頷く。

「シルバー、まずはロドスだ。詳しい事はそこで分かる」

「オッケー!検査でもなんでも来いって感じだな!」

シルバーはあっけらかんとしていた。

(……この軽さが、逆に怖い)

フロストノヴァはそう思ったが、口には出さなかった。

 

帰路、再びB区域を通過した時だった。

「あれ……?」

ウェントゥスが足を止める。

 

先程まで“主”として君臨していた場所――

そこに、異様な光景が広がっていた。

 

「……イビルバーが」

巨大な獣は地面に倒れ伏し、その体は無数の傷で引き裂かれていた。

 

周囲には、見覚えのない小型肉食動物の群れ。

血に濡れた牙で、獲物を貪っている。

 

「……やられてるな」

 

「この世は弱肉強食だ」

シルバーが淡々と言う。

「どんなに強い存在でも、油断すれば死ぬ」

 

「さっきまで、あれだけ脅威だったのにな」

「だからこそだ」

レイヴンは視線を逸らさずに言った。

「生き残るってのは、強さだけじゃ足りねぇって事だな。」

 

しばし、誰も口を開かなかった。

風が草を揺らし、遠くで獣の鳴き声が響く。

「……とにかくだ!」

 

沈黙を破ったのはレイヴンだった。

「俺たちも、ああやってムシャムシャされねぇように帰るぞー!

「「おー!」」

「ちょっ、怖い事言わないでよ〜!ウェン〜!」

グラキエースが涙目で抗議する。

「事実だろ?」

ウェントゥスは振り返りもせず歩き続けた。

 

その背中を見ながら、レイヴンは一度だけ、倒れたイビルバーの方を振り返った。

「……ここ、やっぱ変な場所だな」

誰に向けたでもない、その呟きは、エリア・ゼロという土地そのものを指していた。

 

ロドスへ帰還後、シルバーはそのまま医療区画へと運ばれた。

精密検査と隔離を兼ねた治療室。

白い光に満たされた室内で、彼はベッドに横たわり、静かに眠っている。

 

レイヴンは任務の疲労もあり、早々に休息を取った。

代わりに、フロストノヴァが治療室に残り、観察を任されていた。

 

「……」

ガラス越しに、眠る少年を見つめる。

規則正しい呼吸、安定した心拍。

外見上は、どこにでもいる十代の少年と変わらない。

 

だが――

「彼には、アーツではない“自前”の超能力があるそうだな」

静かな声で、ケルシーが言った。

いつの間にか、背後に立っている。

 

「ああ。確認した限りでは、外部媒体やアーツ反応を一切伴わない力だ」

 

フロストノヴァは視線を外さずに答える。

「分類するなら、サイコキネシス……物体操作型の精神能力に近い」

 

「やはりか」

ケルシーは端末を操作しながら続ける。

「データを照合したが、制御精度はロスモンティスよりも高い」

「感情の起伏に左右されず、ほぼ無意識下でも安定している」

「……それは、異常だな」

フロストノヴァは小さく息を吐いた。

ロスモンティスがどれほどの訓練で力を“抑え込んでいるか”を、彼女はよく知っている。

 

「彼も、何かしら特別な生まれである事は間違いないのか?」

「恐らくな」

ケルシーは淡々と答える。

「だが、出自を裏付ける資料が存在しない。感染歴も、実験痕跡も、鉱石病反応もゼロだ」

 

「エリア・ゼロ――あの場所が、彼を形作った可能性もある…」

「一旦はロドスに置き、長期観察が最善だろうな」

「同意見だ」

その時、治療室の扉が開いた。

「ケルシー。来たぞ」

低く、少し荒い声。

振り向くと、赤い髪を持つサルカズの少女が立っていた。

黒い戦闘服、剣を背負い、存在感だけで空気を変えるような気配。

 

「……彼女は?」

フロストノヴァが問いかける。

 

「スルトだ」

ケルシーは簡潔に答えた。

「現在はロドスのオペレーターとして活動している」

「そうか……」

フロストノヴァは一瞬だけスルトを観察する。

(不安定なアーツ反応……だが、それを力でねじ伏せている)

「フロストノヴァだ。よろしく頼む」

「……」

スルトは少し間を置き、興味深そうに彼女を見返した。

 

「アンタが噂のフロストノヴァか」

「……よろしく」

短いやり取り。

だが、その間に互いを測るような沈黙が流れた。

 

その頃――

レイヴン達と別れた行動予備隊A2の四人は、ロドス艦内の食堂に集まっていた。

 

任務明けの時間帯ということもあり、食堂は比較的静かだ。

金属音と食器の触れ合う音、遠くで交わされる他オペレーター達の会話が、心地よい雑音となって流れている。

 

「つっっっっっかれたぁ……」

フラムはそう言いながら、山盛りのカレーをスプーンで掬い、口に運んだ。

疲労が抜け切っていないのか、頬はほんのり赤く、肩もやや落ちている。

 

だが、その表情は暗くない。

むしろ、達成感に満ちていた。

 

「でもさ、今日の任務――ウチら、かなり頑張ったよね?」

 

向かいに座るグラキエースが、同じくカレーを頬張りながら目を輝かせる。

ピンク色の髪が揺れ、無邪気な笑顔がこぼれる。

 

「うんうん!シルバーもスカウトできたし、危険な生物も避けられたし!」

「ね!?あれ普通に考えたら初任務に近い内容じゃないよ!」

 

二人は顔を見合わせ、自然と笑い合った。

「……もしかしてさ」

グラキエースは少し声を潜める。

 

「ウチら、思った以上に才能あるんじゃない?」

「あるある!」

フラムは即答した。

「だって、ケガ人ゼロだし!怖かったけど、ちゃんと動けたし!」

その言葉には、自分達が“役に立った”という実感が滲んでいた。

 

そこへ、トレーを持った二人がやってくる。

「ウェン〜!イグニス〜!こっちこっち!」

フラムが大きく手を振る。

「お、席取ってくれてたのか」

ウェントゥスは軽く手を上げて応じる。

彼のトレーには、ロコモコ丼キング盛り。

見ただけで胃が重くなりそうな量だが、表情は平然としている。

 

「サンキュー!」

イグニスは、カツ丼キング盛りをテーブルに置きながら笑った。

こちらも負けず劣らずの量だ。

「……相変わらず、よく食うね二人とも」

 

グラキエースが呆れたように言う。

「体力は大事だからな」

ウェントゥスはそう言って箸を割る。

「今回の任務、どう思う?」

イグニスが口を開く。

軽い口調だが、どこか真剣だった。

 

「悪くなかったと思う」

ウェントゥスは即答した。

「想定外は多かったが、誰もパニックを起こさず、役割分担もできていた」

「特に、ラキとフラムの索敵と後方確認は助かった」

 

「えっ、ほんと!?」「まじ!?」

二人の声が重なる。

 

ウェントゥスは少しだけ視線を逸らしながら続ける。

「……この調子なら、行動予備隊を卒業するのも、そう遠くはないかもしれないな。」

その一言で、テーブルの空気が変わった。

「予備隊卒業……」

フラムがその言葉を反芻する。

「正式オペレーター……」

グラキエースも、スプーンを止めて呟いた。

喜びと同時に、ほんの僅かな緊張が胸を掠める。

(責任も、増えるってことだよね)

誰も口には出さないが、全員が同じことを考えていた。

 

「……ま!」

イグニスが空気を破るように笑う。

「とりあえず今日は成功!細かいことは、明日考えようぜ!」

 

「そうだね!」

「うん!」

四人は再び食事に戻る。

その姿は、まだ若く、未熟だが、確実に前へ進んでいる者達のものだった。

 

食堂の灯りは変わらず暖かく、今だけは、平穏な夜が続いていた。





行動予備隊A2はこれからも出る予定です。なんならメインキャラかもしれん。
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