アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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冬でも水着って寒く無いんすかね???


ドッソレスホリデー!

「ドクター、もうすぐ着きますよ!」

「……ん、あ?もう着いたか?」

「もう着陸態勢です!」

 

熟睡というより、ほぼ気絶に近い状態だったレイヴンは、アーミヤのやや強めの揺さぶりで現世へと引き戻された。

目を開けると、窓の向こうには見事な青空。どうやら夢ではないらしい。

 

「お、おお……マジか……」

「そんな反応なんですね……」

 

そうして一行は飛行機から降り、灼熱の太陽が照りつける滑走路に足をつけた。

 

「おお……ここがドッソレス……」

 

思わず漏れたその一言は、あまりにも素直で、あまりにも語彙力がなかった。

 

先週、ロドス全体に突如として発表された「一週間の長期休暇」。

理由は不明、説明は雑、だが全オペレーター満場一致で拍手喝采。

その結果、レイヴン達は仲間を引き連れ、ボリバル随一のバカンス地――ドッソレスへとやって来たのだった。

 

レイヴンの服装は、いつもの戦闘向けのコートや装備とは程遠く、白いシャツに短パンという、妙に素朴で生活感のあるものだった。

一方でアーミヤは、淡い色合いのワンピースに麦わら帽子。

風に揺れるその姿は、普段のリーダー然とした雰囲気とは違い、年相応の可愛らしさが前面に出ていた。

 

「……その格好、似合ってるな」

「えっ!? あ、ありがとうございます……!」

 

帽子のつばを押さえながら、少しだけ頬を赤らめるアーミヤ。

ドッソレスの太陽は、どうやら照りつけるだけでなく、人の調子も狂わせるらしい。

 

「海!」

「空!」

「ホテル!」

「水着!」

「そして輝く太陽!!」

 

「ドッソレスきたー!!」

 

テディスとジェスターは、完全にテンプレート通りの観光客ムーブを決めながら肩を組んで叫んでいた。

周囲の観光客も一瞬こちらを見るが、すぐに「まあ、そうなるよね」といった表情で視線を戻す。ドッソレスではよくある光景なのだろう。

 

「……アイツら、分かりやすすぎない?」

「分かりやすいというか、隠す気がないというか……」

「まあ、いいんじゃないか。折角の休暇だしな。たまには羽を伸ばすのも必要だ」

 

そう言ってレイヴンが苦笑すると、ウィシャデルが腕を組みながら頷いた。

 

「それじゃあ、チェン。ショッピングに行きましょ」

「……休暇中まで引きずり回される予感しかしないんだが」

「大丈夫よ、見るだけだから」

「その“見るだけ”で済んだ試しがないんだが」

 

文句を言いつつも、結局チェンはウィシャデルに引っ張られてショッピング街の方へ消えていった。

背中が語っていた。「諦め」の二文字を。

 

その様子を見送りながら、アーミヤはレイヴンの方を見上げる。

 

「ドクター、私達はどうしますか?」

「そうだな……」

 

レイヴンは少し考え、遠くに見える海と、賑やかな街並みを眺めた。

 

「とりあえず、観光だな。深いことは考えない」

「はい! それが一番です!」

 

アーミヤは楽しそうに頷き、軽く駆け出す。

その後ろ姿を見ながら、レイヴンは小さく息をついた。

 

(……まあ、平和な休暇ってのも悪くないか)

 

こうして、ロドス一行の――

少し騒がしくて、だいぶ緩い、ドッソレスでの休日が幕を開けたのだった。

 

「広いな……おいおい、向こうは明らかに雰囲気が違うぞ!」

 

レイヴンは子供が初めて遊園地に来たかのように、首がもげそうな勢いで辺りを見回していた。

さっきまで歩いていたのは、ガラス張りの高層ホテルやカフェが立ち並ぶ、いかにも“南国リゾートです”と言わんばかりのモダンな街並み。

だが、視線の先に広がるエリアはそれとは真逆だった。

 

瓦屋根風の建物、木造を思わせる外観、そしてどこか年季を感じさせる路地。

さらに決定打として、入り口付近には妙に存在感のある石像が鎮座している。

「……なんだあの顔。睨んでるのか? 守ってるのか?」

「ドクター、近づかない方がいいですよ。威圧感があります」

 

アーミヤが一歩引きながら説明に入る。

「どうやら、あちらのエリアのモチーフは“オキナワ”だそうです」

「オキナワ? なんだそれ。魚でも捕まえる場所か?」

「いえいえ、そういう意味ではありません」

 

即座に否定しつつ、アーミヤは少し誇らしげに続ける。

「“ニッポン”と呼ばれる場所にある地域の一つで、独特の文化や歴史を持つそうです」

「ふーん……ニッポンなぁ」

 

レイヴンは腕を組み、石像を改めて眺めた。

「ちなみに、あの石像は“シーサー”と呼ばれるもので、魔除けや守護の意味があるそうです」

「へえ……あいつら、仕事してんのか」

「仕事って言い方はどうかと思いますが……」

 

真顔で突っ込むアーミヤだったが、レイヴンは気にせず周囲を見渡す。

「古民家を元にした建物が多いらしくて、こういう伝統的な街並みが特徴なんです」

「なるほどな……なんか、時間がゆっくり流れてる感じがする」

そう言ってレイヴンは、ふっと力を抜いたように息を吐いた。

「……いいな。いつか行ってみたい」

「ニッポンですか?」

「ああ。こういう場所が本場なんだろ?」

 

アーミヤは少しだけ困ったように微笑む。

「外宇宙に行けるのは、今のところ一部の人だけですからね。簡単ではありません」

「だろうな」

それでも、レイヴンは諦めた様子を見せなかった。

空を仰ぎ、青く広がるその向こうを見つめる。

「……けど、いつか行ってみたいもんだ」

「ですね。休暇でふらっと、なんて出来たら最高です」

 

二人の視線が重なり、どちらからともなく小さく笑う。

レイヴンは大きく腕を広げ、南国の風を全身で受け止めた。

「世界って、ほんと広いな!」

「その感想が一番ドクターらしいです」

アーミヤはそう言いながら、少しだけ楽しそうに笑った。

 

…………………

 

そうして各自観光をひと通り終え、一行は海へとやってきた。

ドッソレスの海は他の海とは一線を画しており、砂浜は驚くほど綺麗で、観光客も多く、まさに「絵に描いたような南国ビーチ」といった光景が広がっていた。

 

「うわぁ……すごい人ですね」

「完全に観光パンフレットの世界だな……」

そんな中、ウィシャデルが腕を組んでビシッと指を差す。

「じゃ、アタシ達は水着に着替えてくるから」

「ジェスター! 絶対に変なこと考えないでよ!」

「テディスもな!」

そう言い残して、ウィシャデル達は更衣室のある小屋へと歩いて行った。

 

「は、はい……」

「……善良な市民として待機します……」

ジェスターとテディスは一瞬しょんぼりしたが、すぐに姿勢を正して立ち直った。

待つ姿勢だけはやたらと立派だった。

 

「それじゃあドクター、私も着替えてきますね」

アーミヤもそう言って去ろうとした、その時。

「……ふっふっふ……」

背後から、妙に芝居がかった笑い声が聞こえた。

「水着に着替えるとなったら……ついに、あの“技”を使う時が来たようだな。

神妙な表情で腕を組むデューク。

それを見た男達が、なぜか一斉にざわつき始める。

「ま、まさか……!デューク! “アレ”をやる気か!?」

「正気か……!“アレ”は禁断の技だぞ……!」

「軽い気持ちで"アレ"をするのは危険です……!」

 

「え、えっと……“アレ”って何ですか?」

 

完全に話についていけていないアーミヤが、おそるおそる尋ねる。

「知りたいかアーミヤ……」

「男だけが伝承してきた、伝説の着替え術……」

 

「――“パンツやぶり”!!」

 

「……パンツやぶり?」

 

アーミヤの頭の上に、見事なまでの疑問符が浮かんだ。

「この技はな……何百年も昔から伝わる、究極にして最終形態の着替え方なんだ」

レイヴンが、なぜか無駄に真剣な顔で語り始める。

「まずズボンを脱ぐ」

「そして、水着をはく」

「そのまま、下に残った衣服を器用に処理する……!」

 

「つまり、一瞬で着替えが完了するという、時短の極み……!」

 

「え、ええ……!? そんな方法が……!?」

「……でも、それのどこが禁断なんですか?」

 

アーミヤのもっともな疑問に、ジェスターが暗い表情で答える。

「いいか、アーミヤ……この技にはな……」

「失敗という概念が存在しない」

 

「どういう意味ですか……?」

 

テディスが低い声で続ける。

「成功するか……」

「盛大に音が鳴るか……その二択だ……」

 

「……音?」

「そう……」

「そして、その音は、非常に……目立つ」

「それはもう……海辺に響き渡るレベルでな」

 

「危険すぎます……そんな技……!」

 

「……そして最悪の場合――」

「よせ、レイヴン!!」

 

レイヴンが続きを言う前に、デュークが叫んで止めた。

 

「デューク!?」

「それ以上は言うな……」

「思い出すだけで、背中が寒くなる……」

 

「ちょっと! 男達だけで何盛り上がってんのよ!」

ちょうどそのタイミングで、着替え終わったウィシャデル達が水着姿で戻ってきた。

 

「な、なんでもない!」

「健全な会話です!」

「平和的な作戦会議です!」

全く信用できない言い訳を並べる男達。

 

「……怪しいわね」

ウィシャデルが疑いの目を向ける中、デュークが拳を握りしめた。

 

「……行くぞ」

「一斉にだ!」

 

「「「おう!!」」」

 

その合図と同時に、男達が一斉に動いた。

 

――次の瞬間。

 

ビリッ。

 

「ギャアアアアアアアア!!」

 

誰のものとも判別不能な、魂の叫びがビーチに響き渡った。

 

…………………

 

「……やり遂げたな、俺たち……」

「ああ……」

「悔いは……無い……」

「よし、泳ごう!」

謎の達成感に満ちたレイヴンの一言を合図に、男達は示し合わせたかのように一斉に海へ飛び込んだ。

「……おお、思ったより冷たいな」

「気持ちいいですね!」

 

透明度の高い海の中では、色とりどりの魚が優雅に泳いでいた。

「……カラフルな魚が多いな……」

「…………食えるかな、あれ」

ニールは岩の上に腰掛け、なぜか槍を構えながら水面をじっと睨んでいた。

「やめとけ。ここは観光地だ」

「冗談だ。多分」

 

多分。

 

一方その頃。

 

「来て良かったわね」

「本当だな……今までの疲労が、波に溶けていく感じだ」

ウィシャデルとチェンも、珍しく肩の力を抜いて海に浸かっていた。

チェンに至っては、表情がやや柔らいでいる。これはかなりレアな光景だ。

 

「ぶげがぼっ、ぶはぁぁ!!」

「テディス! リラックスしろ! 力入れ過ぎだ!」

「息継ぎ! まず息継ぎだ!」

水面で大暴れしているテディスを、レイヴンとデュークが必死にフォローする。

「……テディスの奴、カナヅチだったのか」

「泳げると思ってたぜ」

「本人もそう思ってたんじゃないか?」

 

本人は今それどころではなかった。

 

そんなこんなで、騒がしくも平和な時間は過ぎていき、気が付けば太陽は少し傾き始めていた。

「そろそろ食事の時間だな。全員、海から上がれ」

ケルシーの一声で、各自が浜へと戻り始める。

「確かに腹減ってきたな」

「泳ぐと余計に腹が減る……」

そうしてレイヴン達は、置いてきた荷物の元へ向かった。

 

――が。

 

「あれ」

「……おかしいな」

 

数人が同時に首を傾げる。

 

「な、無い! 俺のシャツが無い!」

「私の麦わら帽子もありません!」

「なに!? 盗まれた!?」

 

一気にざわつく一同。

「そりゃあ、荷物をまとめずに置きっぱなしにするからでしょ」

ウィシャデルだけは冷静だった。

なお、彼女の荷物は一切被害を受けていない。

 

「まだ近くにいるはずだ! 探すぞ!」

そう言って散開した直後。

「あっ!」

 

視線の先に、ジェスターのシャツを堂々と持っている男がいた。

「そこのお前! 俺の仲間のシャツを返しやがれ!」

「やなこった!」

男は即座に逃走。

レイヴンはため息をつき、チェーンロッドを振るった。

「はい、確保」

「うわぁっ!?」

 

そのまま引き寄せ、シャツを奪還。

 

「……よし、1つは取り返したな」

「でも、他のは持ってなかったぞ」

「ってことは……」

 

「……まだいるな」

嫌な予感は、だいたい当たる。

桟橋付近を歩いていると、今度は別の男が荷物を抱えてニヤついていた。

 

「へっへっへ……これ売ったら結構な金になるで」

「観光客が持っとるもんは、ええもんばっかりやなぁ」

「そこのお前! 仲間の荷物は返してもらうぞ!」

「やなこった! 返して欲しかったら、力づくで来ぃ!」

 

「なんだと!」

 

そのまま掴み合いになり、もみくちゃの末――

 

…ビュオッ!

 

「うわっ!?」

「まずい!風だ!」

弾みで荷物が宙を舞い、風に煽られて海の方へ飛ばされていく。

 

「くそっ! 一つしか取れない!」

レイヴンは瞬時に状況を判断し、飛び出した。

 

「どれを取る……!」

 

一瞬の逡巡。

 

そして――

 

「……これだ!」

 

レイヴンは迷わず、アーミヤの麦わら帽子に手を伸ばした。

 

「キャッチ!!」

見事に掴んだ、その直後。

 

「うおっ!?」

勢い余って、そのまま――

 

ドボンッ!!

 

派手な水音と共に、レイヴンは海へと落下した。

 

…………………

 

「………」

「………」

「………」

 

フロストノヴァ、ケルシー、ロスモンティスの三人は、無言のままバーベキュー台を囲んでいた。

だが沈黙とは裏腹に、手元の動きは異様なほど活発である。

 

肉、肉、野菜、肉。

焼けたそばから皿が空になり、気づけば追加の網まで投入されていた。

 

「……あの三人、明らかに食べ過ぎじゃないか?」

「あれはもう“食事”じゃなくて“作業”だな」

 

少し離れた場所でキャンプファイヤーを囲んでいたジェスター達が、炎越しにその光景を眺める。

 

「やけ食いしてるぞ、完全に」

「何かあったんでしょ?」

「どうやら……」

 

情報通の誰かが、ひそひそと耳打ちした。

 

「ドクターが“海で自分の物を取ってくれなかった”から、ちょっと拗ねてるらしい」

「……ああ」

「納得した」

「今は話しかけない方が良さそうだな」

 

全員一致で視線を逸らす。

火の粉が舞う中、三人の皿だけが異様な速度で空になっていった。

 

そうして、笑い声や薪の爆ぜる音が響くキャンプファイヤーの夜は、思い思いに賑やかに続いていった。

 

……

 

一方その頃。

 

レイヴンとアーミヤは、喧騒から少し離れた桟橋の上に並んで腰掛けていた。

海は昼間とは違い、月明かりを映して静かに揺れている。

遠くから聞こえる笑い声も、ここでは不思議と柔らかく聞こえた。

 

「……あの……」

「ん?」

アーミヤは少しだけ俯き、帽子の縁を指先でつまもじと動かす。

 

「手を……つ、繋いでもいいですか?」

 

声は小さく、けれどはっきりと。

 

「ああ……」

短い返事だったが、拒む気配は微塵もなかった。

 

そっと伸ばされたアーミヤの手が、レイヴンの手に触れる。

そのまま、指と指が重なり合った。

 

――静かで、温かい感触。

 

「……」

言葉は無い。

けれど、互いに視線を合わせなくても、頬が熱くなっているのが分かった。

 

「……ドクターの手、大きいですね」

「そうか?」

「はい……すごく」

 

アーミヤの手は小さく、柔らかい。

それを包み込むように握りながら、レイヴンは少しだけ照れたように答える。

 

「アーミヤの手は……小さいな」

「……子供扱いですか?」

「いや、そういう意味じゃない」

 

少し慌てた声に、アーミヤがくすっと笑った。

 

桟橋の先で、波が静かに音を立てる。

キャンプファイヤーの炎が、遠くでゆらゆらと揺れている。

 

賑やかな仲間達と、静かな二人。

どちらも、今夜のドッソレスにはよく似合っていた。

 

「……ドクターには、色々とお礼を言わないといけませんね」

 

波音に紛れるような、小さな声だった。

 

「麦わら帽子のことか? 気にすんなよ」

「はい。でも……フロストノヴァさんやケルシー先生は、ちょっと不機嫌になってましたけど……」

「……帰ったら俺、どうなるんだろうな……」

 

レイヴンは苦笑いしながら、遠くで燃えるキャンプファイヤーを見た。

火の粉が夜空に舞い上がり、まるで未来の自分の運命を暗示しているようで、あまり深く考えないことにした。

 

「……それもあるんですけど」

アーミヤは少し間を置き、握った手に力を込める。

 

「私たちのところに……帰ってきてくれて」

「……うん……」

短い返事だったが、その一言には迷いがなかった。

「記憶喪失になったって聞いた時……正直、目の前が真っ暗になりました」

「せっかく、また会えたのにって……」

アーミヤは俯き、帽子のつばに影を落とす。

 

「でも……ドクターは、性格が変わっても」

「昔のように……いえ、昔以上に心優しい人でした」

 

「俺、優しいか?」

「はい」

 

即答だった。

 

「フロストノヴァさんや、ロスモンティスさんも……」

「貴方に好意を持つ理由が、少し分かる気がします」

 

「そうかな……」

レイヴンは照れたように視線を逸らす。

 

「……あの日」

アーミヤの声が、わずかに震えた。

「ヴィクトリアで、囮になるって聞いた時……私、怖かったんです」

「ドクターを……失うんじゃないかって」

夜風に揺れるその表情は、年相応に不安を抱えた少女そのものだった。

 

「アーミヤ」

レイヴンは、少しだけ真剣な声で言う。

 

「俺は、死なないって前に言ったよな」

「……はい」

 

「俺はな……どうしてここに居るのかを確かめるまでは、死ぬつもりはねぇよ」

少し間を置いて、続ける。

 

「それに……好きな女も出来たからな」

「えっ!?」

アーミヤが勢いよく顔を上げる。

「ド、ドクターに……好きな人……!?」

 

「ああ」

「最初の頃は、正直なんとも思ってなかったけどな」

「今は……そうじゃない」

 

アーミヤの心臓が、はっきりと音を立てた。

 

「そいつはな……」

「どんな時でも前向きで」

「まだ子供で若い癖して、色々なものを背負ってるのに」

「それでも立ち上がって、困難に向き合う」

 

「意外と可愛いところがあって」

「ちょっと……怖いところもあるけど」

 

「……そういうところに、惹かれたのかもしれないな」

アーミヤの顔が、一気に熱を帯びる。

 

「ド、ドクター……それって……」

言葉を紡ごうとした、その瞬間。

「――あー、腹減ったな!!」

「そろそろ肉、無くなる頃だろ!!」

レイヴンは急に立ち上がり、やけに明るい声を出した。

「ちょ、ドクター!?」

「ほら、行くぞ!食べ尽くされても知らないぞ!」

そう言い残し、キャンプファイヤーの方へ小走りで向かっていく。

 

「……もう」

残されたアーミヤは、しばらく呆然とした後、

小さく、でも確かに嬉しそうに微笑んだ。

 

「……ずるいです」

頬を赤く染めたまま、

その背中を追いかけるように、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

そうして、夜が明けるまで――

ロドスの面々は語り、笑い、食べ、時に騒ぎながら過ごした。

 

誰かが歌い出し、誰かが手拍子を打ち、

火のそばではくだらない話が尽きることなく続いていた。

今日だけは任務も作戦も無く、ただの“仲間”としての時間だった。

 

やがて空はゆっくりと色を変え、

星の数が減る頃、キャンプファイヤーの炎も静かに落ち着いていく。

 

不思議なことに――

その火は、いつもよりも綺麗に見えた。

 

もしかすると、場所のせいかもしれない。

もしかすると、休暇という名の奇跡のおかげかもしれない。

あるいは、そこに集まった全員が、少しだけ心を軽くしていたからか。

 

理由は誰にも分からない。

 

ただ確かなのは、

この夜が、確かに彼らの記憶に残るということだけだった。




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