石をくれ石を…
そうしてAチームは、エリア・ゼロへと足を踏み入れた。
「ここが……エリア・ゼロか……」
ジェスターが周囲を見回しながら、低く呟く
視界いっぱいに広がるのは、テラではまず見られないほどの自然だった。
濃い緑の草原、清流のせせらぎ、遠くに聳える巨大な構造物の残骸。
「聞いてたより、ずっと綺麗だなー……」
テディスも思わず声を漏らす。
二人にとっては、ここが初めてのエリア・ゼロだった。
レイヴンは地図端末を展開し、ウェントゥスとイグニスと並んで確認する。
「で、レイヴン。俺たちは何するんだ?」
ウェントゥスが尋ねる。
「C地区にある、コロニーの残骸を調べる」
レイヴンは指で地点をなぞる。
「落下地点だ。環境維持システムが生きてる可能性がある」
「北東エリアか……」
ジェスターが地形を見て眉を上げる。
「じゃあ、俺たちが一番乗りだな」
「どうかな」
イグニスが少し楽しそうに言った。
「もしかしたら、別の勢力が先に居たりしてさ」
レイヴンはイグニスの脇腹をどつく。
「ビビるだろ」
「ごめーん」
軽口は叩くが、イグニスの視線はどこか鋭かった。
(……コイツ、フラムの幼馴染だっけか)
レイヴンは内心でそう思いながら、端末を閉じる。
そうして五人は足並みを揃え、北東へ向かって歩き出した。
遠くには、巨大な影――
テラに落ちた宇宙コロニーの残骸が、静かに佇んでいた。
…………………
しばらく進むと、コロニー内部の奥へと続く通路が姿を現した。
外壁に比べ、内部は比較的原型を保っている。
「ここから入れそうだな」
「行こう!」
イグニスの声を合図に、レイヴン達は慎重に中へと踏み込んだ。
通路を抜けた先は、巨大な機械工場のような空間だった。
天井にはレール、床には無数の組立ライン。
だが――稼働しているものは一つもない。
「……ロボット工場か」
「全部壊れてるな……」
ウェントゥスが周囲を警戒する。
その瞬間だった。
「――伏せろッ!!」
ジェスターの叫びと同時に、轟音。
天井付近からミサイルが放たれ、床に着弾する。
爆風が走り、粉塵が舞い上がった。
「何だ、今の……!」
煙の奥から、金属音を立てて何かが動き出す。
現れたのは、全高2メートル近い人型ロボットだった。
片腕はガトリング、もう片方はミサイルポッド。
「ヴィクトリア排除!」
歪んだ電子音声が工場内に反響する。
「敵か!」
「こいつ、まだ動くのかよ!」
「下がれ!」
レイヴンが一歩前に出る。
「ここは俺がやる!」
リコイルロッドを構え、床を蹴る。
一気に距離を詰め、ロッドを叩き込んだ。
――衝撃音。
ロボットは吹き飛ばされ、壁に激突する。
金属が軋み、火花が散った。
「……ふう……」
一息ついた、その瞬間。
レイヴンの体が――淡く発光し始めた。
「!?……この感覚……」
全身に走る、覚えのある感触。
スカルシュレッダーとの戦いで感じた、あの圧倒的な高揚。
「……まさか……」
服の輪郭が変化し、エネルギーラインが浮かび上がる。
「……フォームエクステンド……」
新たな姿。
力が、確かに底上げされている。
「……また、強くなった!」
その時、影のように現れた存在が、静かに語りかけた。
『どうやら、新しい力を得たみたいだな』
「スケィス!」
体の内側から、彼の声が響く。
『レイヴン。ようやく目が覚めたぜ』
『お前が戦い続けたおかげでな』
「今まで黙ってたのは、そのせいか?」
『ああ』
『今までので結構寝てたからな』
『だが――今はこの通り、ピンピンしてるぜ。』
スケィスの気配が、確かに以前より鮮明だった。
するとロボットが再び起動音を鳴らす。
「……ヴィクトリア排除!許サン!」
「…!?待て待て待て!俺たちはヴィクトリアじゃない。」
レイヴンはロボットを宥める。
しばらくして…
ロボット――**A-123〈カオス〉**は、赤く光る目をゆっくりと細めるようにしてレイヴンをスキャンする。
「……」
「……判断……未確定……」
巨大な金属の体が一歩、また一歩と近づいてくる。
「お、おい近い近い!」
「レイヴン、本当に大丈夫なのか?」
ウェントゥスが半歩下がるが、レイヴンは動かない。
「落ち着け。今のところ、こいつは俺たちを敵と認識してない」
「多分な」
「多分かよ!」
ジェスターが即座にツッコミを入れたが、カオスはそれを気にする様子もなく、淡々と続ける。
「私ハ……ヴィクトリアニヨッテ作ラレタ最強ノロボット!」
「シカシ……閉鎖……隔離……記録抹消……」
「……理解不能」
その声には、明らかに怒りと困惑が混じっていた。
「……ヴィクトリアハ、私ヲ道具トシテ作リ、不要ニナレバ捨テタ」
「ナノデ排除スル!慈悲ハナイ!」
「……復讐ロボか」
「洒落にならないタイプだな」
テディスが小声で呟く。
「なあ、カオス」
レイヴンは一歩前に出て、正面から視線を合わせた。
「ヴィクトリアを探してるなら、今の世界はお前が知ってる頃とは違う」
「少なくとも、ここに居る俺たちは関係ない」
「……情報……不足……」
「なら、俺たちと来い」
「ロドスって組織なら、今の世界のことも、ヴィクトリアの現状も調べられる」
一瞬、工場内の機械音が止んだように感じられた。
「……ロドス……」
「敵対……セズ?」
「少なくとも、無差別に排除する気はない」
「危害を加えなければな」
カオスの目の赤い光が、わずかに弱まる。
「……条件……理解」
「ロドス……同行……検討スル」
「おい、本当に連れてくのか?」
ウェントゥスが小声で聞く。
「正直、怖いぞこいつ」
「しかも“最強のロボット”とか自称してるし」
「自称じゃなくて事実かもしれないのが一番嫌なんだよな」
ジェスターも肩をすくめる。
「でもさ」
イグニスが前に出る。
「このまま放置したら、ヴィクトリア探して外に出るんでしょ?」
「それって、もっとヤバくない?」
「……確かに」
レイヴンは腕を組んで頷いた。
「敵じゃないなら、管理下に置く」
「ロドス的には、それが一番マシな選択だ」
カオスはしばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「……了解」
「A-123〈カオス〉……ロドス同行スル」
その直後。
カオスの背部装甲が展開し、見たことのない武装システムが一瞬だけ露わになる。
「……安心シロ」
「今ハ、戦闘モードデハナイ」
「隠せてないぞ。」
「やっぱ怖えよコイツ!!」
レイヴンは頭を掻きながらため息をつく。
「……まあ、面倒なの拾っちまったな」
「でも、ロドスらしいっちゃロドスらしいか」
その時、通信機が短く鳴った。
『こちらアーミヤ、ドクター聞こえますか?』
「なんだ?こっちはロボット拾ったんだが?」
『……?まあいいです。フラムさんとグラキエースさんが先に怪しげな道を見つけて、今は私たちもそこに居ます。座標を送りますので、合流しましょう。』
「わーかった…」
レイヴンは通信を切る。
「…えっと…ここから近いな。」
「判断。私ノボディハ大型。故ニ、破壊シテ進行スル事ヲススメル。」
「物騒な!」
レイヴンはカオスを先に外に出るよう伝えておいた。
「それ持ってたら…敵じゃないから。お前はケルシーと合流しておいてくれ。」
「了解。ソノ、フェリーント合流スル。」
そうしてブースターを出してそのまま飛び出して行った。
「……じゃあ行こうぜ…」
エレベーターは低い駆動音を立てながら、ゆっくりと地下へ降下していった。
金属が軋む音が、密閉された箱の中で妙に大きく響く。
「……嫌な予感しかしねぇな。」
ジェスターが腕を組み、天井を見上げる。
「落下事故の後で、ここまで設備が生きてるのは不自然だよな。」
レイヴンも周囲を警戒しながら言った。
「少なくとも“放棄された遺跡”って感じじゃないね。」
イグニスは楽しそうに、しかし目だけは鋭く動かしている。
エレベーターが停止すると、鈍い音と共に扉が開いた。
そこに広がっていたのは、上層の荒廃した工場とは対照的な――人の手が比較的最近まで入っていた痕跡のある地下区画だった。
壁面の照明は一部が生きており、配線も剥き出しではない。
床には、何か重いものが何度も引きずられたような痕が残っている。
「……誰か、いるな。しかも結構最近まで。」
テディスが足跡を見てそう判断する。
「つまり、敵か味方か分からん連中が先に潜ってるってわけだ。」
ジェスターが肩をすくめた。
レイヴンは一歩前に出る。
「合流地点はこの先だ。慎重に行くぞ。」
その時――
「止まって。」
前方から、よく知る声が響いた。
影の中から現れたのは、剣を構えたチェン。
その背後には、アーミヤ、ウィシャデル、グラキエース、フラムの姿があった。
「やっと来たわね、Aチーム。」
ウィシャデルが軽く手を振る。
「思ったより早かったな。」
チェンはそう言いながらも、レイヴンの姿を一瞬じっと見つめた。
「……何かあった?」
アーミヤが気付いたように問いかける。
「まあ、色々とな。」
レイヴンは苦笑しながら答える。
「ロボット拾ったり、新しい力が目覚めたり。」
「は?」
「後で説明する。」
フラムはレイヴンの様子を見て、少し眉を上げる。
「……雰囲気、変わった?」
「鋭いな。」
イグニスが横から口を挟む。
「なんか“一段階上”って感じ。」
チェンは短く息を吐き、全員に向き直った。
「話は後にしよう。今は状況整理が先だ。」
彼女は背後の通路を指差す。
「この先に、反応が集中している区域がある。ロボット、装置、……それから“人為的な活動痕”もだ。」
「つまり、エリア・ゼロの中枢候補か。」
レイヴンが即座に理解する。
アーミヤは一歩前に出て、静かに言った。
「ここからは、A・B合同で行動しましょう。敵が出るなら、相当厄介です。」
「異論はない。」
チェンが即答する。
ウィシャデルが不敵に笑った。
「人数も揃ったし、派手に行けるわね。」
グラキエースとフラムは顔を見合わせ、同時に頷く。
「やるしかないね。」
「うん、ここまで来たんだし。」
レイヴンは拳を軽く握りしめた。
体の奥で、先ほど目覚めたばかりの力が静かに脈打っている。
「じゃあ行ってみるか……」
レイヴンが一歩踏み出そうとした瞬間、背後からアーミヤが素早く腕を伸ばして制止した。
「待ってください。」
「なんだよ……?」
アーミヤは無言で、視線を天井へ向ける。
「……天井を見てください。」
全員が釣られて見上げた瞬間、空気が一気に張り詰めた。
天井の梁に溶け込むように設置された自動迎撃タレット。銃口は既に、通路の出口を正確に捉えている。
「……あれは高性能です。」
アーミヤは淡々と言う。
「動体追尾精度が高く、反応速度も異常。踏み出した瞬間――蜂の巣になる可能性があります。」
「まじかよ……」
レイヴンの額に、はっきりと冷や汗が浮かんだ。
その時だった。
「――じゃ、任せて。」
軽い声と同時に、グラキエースが剣を鞘に納める。
一瞬、壁の陰からタレットの可動範囲を覗き込み――
次の瞬間、弾けるように駆け出した。
「あっ、おい!!」
タレットが即座に反応し、無機質な駆動音と共に弾丸をばら撒く。
しかし、グラキエースの動きはそれを完全に上回っていた。
壁を蹴り、床を滑り、再び壁へ――
まるで重力を無視したような壁走り。
照準が追いついた時には、もう遅い。
「――はあっ!」
回転しながら放たれた一撃が、タレットを正面から蹴り抜いた。
金属が潰れる鈍い音と共に、火花が散り、砲身がひしゃげて沈黙する。
……静寂。
「……ええっ……」
レイヴンが呟いた。
それは驚きというより、完全に想定外を見せられた反応だった。
グラキエースは軽やかに着地し、振り返ってにっと笑う。
「……どう? ウチのくるくるキック!」
天真爛漫で元気な印象が強かっただけに、今の動きとのギャップがあまりにも大きい。
「……いや、怖いんだけど。」
ジェスターが素直な感想を漏らす。
その横で、ウェントゥスがレイヴンの耳元に身を寄せ、小声で囁いた。
「正式名称はな、
「長い!!」
即座にツッコミが飛ぶ。
アーミヤはタレットの残骸を見て、静かに頷いた。
「……進路は安全です。少なくとも……今は…」
ちょっとドン引きしていた。
チェンが剣を構え直す。
「油断するな。まだあるかもしれない。」
レイヴンはグラキエースを一瞬見てから、前を向いた。
「…やっぱり潜在能力すげーな……」
エリア・ゼロの奥。
罠と敵意が渦巻く中枢へ、一行は再び歩き出した。
ラキちゃんスザクだったの?