しばらく進んだ先で、通路は不意に途切れた。
人工物に囲まれていたはずの景色が一変し、視界は大きく開ける。
そこは、異様なまでに広い空間だった。
天井は高く、崩落した痕跡もなく、まるで最初から“何かを迎え入れるため”に作られたかのような空洞。
床は金属と石材が混ざった構造で、古いが手入れはされている。
だが――中央には何もない。
奥の壁際に、ただ一つ。
淡く光る端末が、まるで供物のようにポツンと置かれているだけだった。
「……ここは……」
レイヴンが低く呟く。
罠も、敵影も、遮蔽物すらない。
静かすぎる。静寂が不自然すぎた。
全員が本能的に足を止め、周囲に神経を張り巡らせた、その瞬間――
空気を焼く音と共に、灼熱の火球が横合いから飛来した。
「……ッ!」
反応したのはイグニスだった。
前に出るや否や、回し蹴りで火球を弾き飛ばす。衝突した炎は床に叩きつけられ、爆ぜるように消えた。
「誰だ!」
レイヴンが叫ぶと同時に、空間に異質な声が響く。
「誰……? それはこちらのセリフであります!」
重く、金属音を含んだ声。
次の瞬間、床が振動した。
奥の暗がりから、巨大な影が這い出てくる。
現れたのは、巨大なカメ型の存在だった。
鈍く光る装甲は甲羅のように分厚く、四肢は機械的でありながら生物的な可動を見せる。
頭部には単眼のセンサーが輝き、口元は嘲笑うように歪んでいる。
「ロボット!?」
「吾輩はロボットでは無いのであります!」
カメ型の存在は誇らしげに胸を張る。
「我々はフォルスロイド! そのような下等な機械と一緒にするでないのであります!」
その言葉が終わるより早く――
気配が増えた。
空間のあちこちから、まるで舞台に役者が揃うかのように、次々と姿が現れる。
合計――七体。
鋼鉄と生体素材が融合した異形の存在。
それぞれが獣を模した姿をしており、共通して言えるのは、圧倒的な存在感だった。
「ほう?」
鋭い目をした、鷹のようなフォルスロイドが翼状の装甲を広げる。
「貴様が、テレシス様の言う“ドクター”とやらか……」
次いで、狼型のフォルスロイドが低く唸る。
腕からせり出した刃は月光を思わせる冷たい輝きを放っていた。
「ギャッハッハ! こいつは狩り甲斐があるなぁ!」
「……お前達は誰だ。ここで何をしている。」
前に出たチェンの声は冷静だったが、その瞳は鋭く敵を射抜いている。
それを合図にするかのように、フォルスロイド達は名乗り始めた。
「我はヴィクトリア八精鋭が一人!
ファルコム・エネゲード!」
鷹型のフォルスロイドが胸を張る。
「同じくヴィクトリア八精鋭!
フェンガル・ルナエッジ!」
狼型が刃を擦り合わせ、火花を散らす。
「ヴィクトリア八精鋭!
サルース・リオン様だ!」
猿型のフォルスロイドが奇声を上げ、腕を振り回す。
「オ、オデ……!ヴィクトリア……八精鋭の……
カウガム・マグネッツ……!」
牛型の巨体が、床を揺らしながら斧を叩きつける。
その中で、一体だけ異質な存在がいた。
人型のフォルスロイド。
無駄な装飾のない装甲、理性的な佇まい。
目は冷たく、感情を感じさせない。
「我が名は――」
静かな声が空間を切る。
「エイン・ヘリアール。
ヴィクトリア八精鋭にして、テレシス様の守護者。」
明らかに、リーダー格だった。
「吾輩はヴィクトリア八精鋭が一人!
トータス・ゲンブレムであります!」
最初に現れたカメ型が律儀に名乗る。
「あーしは〜、
ヴィクトリア八精鋭のソル・ティターニアンズ!しくよろ〜」
蝶のようなフォルスロイドが空中を舞い、挑発的に笑う。
最後に、
白銀の装甲を纏った白鳥型が一歩前に出た。
「……わたくしは、ヴィクトリア八精鋭が一人、
シャニング・ワルキュレムと申します。」
優雅に一礼するその姿は、逆に不気味だった。
空気が、完全に変わった。
「……ウィシャデル、聞いたか?」
ジェスターが低く言う。
「ええ。」
ウィシャデルは銃を構え、冷たい笑みを浮かべる。
「つまり――テレシスの直轄部隊ってわけね。」
敵意は、もはや隠されていない。
広い空間は、戦場として完成した。
次の瞬間、どちらが先に動くか。
それだけで、全てが決まる――そんな空気だった。
「――待て。」
その一言は、怒号でも命令でもなかった。
だが、不思議と場のすべてを縛りつける重さがあった。
フォルスロイド達の背後。
奥の暗がりから、ゆっくりと一人の男が歩み出る。
重厚な鎧は黒と鈍銀を基調とし、無数の紋章と古い傷跡が刻まれている。
肩から垂れる荘厳なマントは、まるで王権そのものを象徴するかのように静かに揺れていた。
背は高く、姿勢は微塵も崩れていない。
ただそこに立っているだけで、
空間の空気が重く沈む。
「……テレシス……」
ウィシャデルが、噛みしめるようにその名を呟いた。
フォルスロイド達は一斉に姿勢を正す。
先程まで嘲笑や殺気を露わにしていた者達が、完全な臣下へと変わる。
「テレシス様!」
トータス・ゲンブレムが一歩前に出る。
「こやつらはロドス!
今すぐ殺してしまった方がいいと思われます!」
だが――
「…………」
テレシスは答えない。
その視線は、フォルスロイド達を通り越し、一直線にレイヴンとアーミヤを捉えていた
視線が合った瞬間、
レイヴンは、説明のつかない圧迫感を覚える。
――見透かされている。
それも、身体ではなく存在そのものを。
「ドクター……」
テレシスが静かに口を開く。
「そして……テレジアから“魔王の力”を引き継いだコータスか。」
アーミヤの耳が、ぴくりと揺れた。
「……お前のせいでな。」
レイヴンが一歩前に出る。
「俺、一年間死ぬほど苦労したんだ。」
その声には怒りと皮肉が混じっていた。
「責任、取ってもらうぜ。」
武器を構えるレイヴン。
周囲のロドスのオペレーター達も、即座に戦闘態勢に入る。
だが――
「ふん。」
テレシスは、ほんの僅かに口角を上げた。
「今は、相手をするつもりはない。」
その言葉は、侮蔑でも逃走でもない。
明確な優先順位の違いを示していた。
「環境維持システムの分析は完了した。」
テレシスは視線を端末の方へ向ける。
「ここでこれ以上時間を費やす意味はない。」
そして、短く命じた。
「撤退するぞ。」
「御意!」
次の瞬間――
ヴィクトリア八精鋭の姿が、音もなく霧散した。
まるで最初から存在していなかったかのように、空間から完全に消失する。
「……なっ」
だが、それで終わりではなかった。
突如として空間が歪む。
床や壁の至る所に、赤黒い光の輪が展開される。
そこから、武装したヴィクトリア兵士達が次々と現れた。
重装歩兵、銃兵、機動兵。
統率の取れた動きで瞬時に陣形を組み、銃口をロドス側へ向ける。
「何……急に現れた!?」
イグニスが叫ぶ。
「ワープってやつか。」
ジェスターが舌打ちする。
テレシスの姿は、既にどこにもない。
だが、置き土産としての戦場だけが、ここに残された
「……やっぱり。」
ウィシャデルが静かに呟く。
「直接やり合う気は最初から無かったってわけね。」
「全員、構えろ!」
チェンが即座に指示を出す。
「これは――殲滅戦だ!」
ヴィクトリア兵士達が一斉に引き金へ指をかけた。
…………………
戦場は、完全に火花と金属音に支配されていた。
ヴィクトリア兵士達は統率の取れた動きで包囲網を敷こうとするが、
それよりも早く――ロドス側が踏み込む。
「――フォームエクステンドした俺を!」
レイヴンの大剣を握る腕に異様なまでの力が宿る。
「止められると思うなよ!!」
一歩踏み込むだけで地面が軋み、
大剣が横薙ぎに振るわれた瞬間、前列の兵士達がまとめて吹き飛んだ。
鎧ごと断ち割られ、壁に叩きつけられる兵士。
回避しきれず地面を転がる者。
レイヴンは止まらない。
振るうたびに、
「戦線」という概念そのものが削り取られていく。
「はあっ!」
その横で、アーミヤも剣を振るう。
小柄な体躯からは想像できないほど鋭く、重い一撃。
影霄が弧を描くたび、ヴィクトリア兵士達は空中へと弾き飛ばされる。
「……この剣を持つ限り。」
アーミヤの声は低く、迷いがない。
「私は、あなた達を斬ることも……厭わないでしょう。
慈悲も、ためらいもない。
それは決意そのものだった。
一方、戦場のやや後方。
「イグニス!」
フラムの叫びに、イグニスは反射的に身を翻す。
直前まで居た場所を、銃弾がかすめて通過した。
「……っ!」
避けた先に立っていた兵士を見て、イグニスは一瞬だけ目を細める。
――小柄。
――武装が他と違う。
――動きが、明らかに洗練されている。
(……リーダー格、か)
「……やるしかないか。」
イグニスは剣を構え直す。
普段なら抑えているはずの力。
だが、この場では――躊躇する理由は無かった。
「よし……!」
アーツが呼応し、剣身に灼熱の炎が纏わりつく。
「くらえ!!」
振り下ろされた剣と同時に、
爆発的な炎が周囲を包み込んだ。
轟音。
熱風。
視界が真っ赤に染まり、兵士達の悲鳴がかき消える。
炎が収まった後――
「……くっ……」
ただ一人、前に立っていた兵士が、膝をつきながらも立ち上がった。
ゆっくりと、その兵士は兜を外す。
金色の髪が零れ落ち、現れた顔を見た瞬間――
「あっ……!」
イグニスの動きが、完全に止まった。
「……!」
兵士の少女も、同じように息を呑む。
「イ……イグニス?」
震えた声で、彼女は名を呼んだ。
「……ルミネ……だよね?」
信じられない、という表情。
だが、間違いようがない。
――かつて、確かに知っていた顔。
二人の間に、戦場の喧騒が遠のく。
言葉を続けようとした、その瞬間。
「……」
別の兵士が、ルミネの背後から静かに声をかける。
「うん……分かった。」
ルミネは一瞬だけ目を伏せ、
それからイグニスを見る。
「……ごめん。」
その一言だけを残して。
次の瞬間、
兵士達の足元に転移光が展開され、次々と姿を消していく。
「ルミネ!!」
イグニスが叫ぶ。
だが、返事はない。
最後に消える直前、ルミネはもう一度だけ、振り返った。
そして――消えた。
「………………」
戦場に残されたのは、倒れた兵士と、焦げた床と、言葉を失った沈黙だけだった。
「……ひとまず、帰還しよう。」
チェンの声が、静かにそう告げ、レイヴン達は撤退していった。
…………………
ロドスに帰還した頃には、すでに外は夕暮れに染まっていた。
オレンジ色の光が食堂の窓から差し込み、長い影を床に落としている。
Aチームの面々は、食堂の一角を半ば占領する形で集まり、
各自が即席ラーメンを作りながら簡単な打ち上げ兼反省会をしていた。
湯気とスープの香りが立ち込め、戦場の鉄と火薬の匂いを、ようやく上書きしてくれる。
「……で。」
ラーメンを啜りながら、レイヴンがふと視線をイグニスに向けた。
「イグニス。あの女と、なんかあったのか?」
一瞬、箸が止まる。
イグニスは視線を落とし、
スープの表面に浮かぶ油をぼんやりと見つめた。
「……彼女は、ルミネ。」
少し間を置いて、静かに話し始める。
「俺とフラムが子供の頃、よく一緒に遊んでたんだ。同じ場所で暮らしてて、三人で……毎日のように走り回ってた。」
声は落ち着いているが、
その奥には、抑えきれない感情が滲んでいた。
「でも、暮らしてた場所が天災に遭ってさ。……その時に、俺とフラムは感染した。」
箸が、再び止まる。
「治療を受けるためにロドスに来て……そのまま、ルミネとは会えなくなった。」
言葉を選ぶように、一拍置いてから続ける。
「……まさか、ヴィクトリアに居たなんて思わなかった。」
食堂のざわめきが、一瞬だけ遠のいたように感じられた。
「ふーん……」
テディスが、ラーメンを持ち上げたまま首を傾げる。
「それよりさ。ヴィクトリア八精鋭ってやつ? フォルスロイドとか言ってたよね。」
「なんなんだ、アレ。」
その問いに、ジェスターが少し考えるように顎に手を当てる。
「確か……噂で聞いたことがある。」
視線を天井に向け、記憶を辿る。
「経費削減と、感染者増加を防ぐ目的で製造された存在だとか。
人員を消耗させず、かつ高い戦闘力を維持するための――半自律型兵器。」
「フォルスロイド、って名乗ってたろ?要するに、“人間の代替”だな。」
その言葉に、場の空気が少し重くなる。
「しかも……」
ジェスターは、少し真剣な表情になる。
「戦力的には、おそらく。レユニオン事変の時に戦ったタルラや、guardクラスより上だ。」
一瞬、沈黙。
ラーメンを啜る音だけが、やけに大きく響いた。
「……でもさ。」
その空気を破るように、レイヴンが笑って言う。
「大丈夫だろ。」
全員の視線が、自然とレイヴンに集まる。
「俺達も、もっと強くなればいいだけだ。」
「……根拠は?」
テディスが即座に突っ込む。
レイヴンは即答だった。
「死に物狂いで特訓だ!」
テディスとイグニスがほぼ同時にずっこけ、
ジェスターも思わず吹き出しかける。
「も、ものすごく単純な理論だな……」
テディスは呆れたように言うが、ジェスターは小さく苦笑しながらも、静かに頷いた。
「……だが、間違ってはいない。」
戦場で生き残るために必要なのは、
結局のところ――それだけだ。
「はいは〜い。ちょっといい?」
食堂の喧騒を縫うように、軽い調子の声が飛んできた。
レヴリスだった。手をひらひらと振りながら、迷いなくレイヴン達のテーブルへ近づいてくる。
「どうしたんだ?」
レイヴンがラーメンを啜りながら顔を上げると、
レヴリスは即答する。
「ちょっとドクター借りるけどいい?」
「ラーメン食ってからでいい?」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
「嫌、すぐ来て!ほらほら早く!」
レヴリスは有無を言わせずレイヴンの腕を掴み、そのまま引っ張り始めた。
「おい待てって!?」
レイヴンは慌ててラーメンを一気にかき込み、
ほぼ噛まずに飲み込む。
「……っ、あっつ……!」
だが抵抗虚しく、そのまま連行される形になった。
「……絶対ロクな事じゃねぇな。」
テディスが呟くと、
ジェスターも眉をひそめる。
「気になるな。」
三人は急いでラーメンを平らげ、
レイヴン達の後を追った。
⸻
連れて行かれた先は、ロドスのシミュレーションルーム。
分厚い隔壁、無機質な白い床、
壁一面に並ぶ投影装置と計測センサー。
ここは、
オペレーターの限界を測る場所だ。
『ドクター。』
天井スピーカーから、レヴリスの声が響く。
『君はさっき、新しい姿に昇進――いわゆるフォームエクステンドを行ったね?』
「ああ……まあな。」
『ロドスでは、基本的に昇進は二回まで。
つまり、3rdフォームが上限なんだ。今のドクターがそれだね。』
ジェスター達は観測窓越しに、その様子を見守っていた。
『……でもね。』
レヴリスの声が、少しだけ楽しそうに弾む。
『もしかしたら、意外な条件でそれ以上の昇進をする可能性がある。』
「へー……」
レイヴンは腕を組み、軽く肩をすくめる。
「イリーガルなフォームエクステンドってわけか。」
『まあ、細かい話は置いといて。』
間髪入れず、指示が飛ぶ。
『今からターゲットを出す。
回避せず、正面から倒して。』
「はあ?」
思わず間の抜けた声が出る。
「……まあ、分かった。」
次の瞬間、
シミュレーション空間に巨大なターゲットが出現した。
硬質装甲、重量感のあるボディ、
単なる的ではなく、明らかに「殴られる前提」で作られている。
レイヴンは深く息を吸い、
武器を構えず――拳を握った。
「……行くぞ。」
踏み込み、
全体重を乗せた一撃。
ドンッ!!
鈍く重い衝撃音が空間を震わせ、
ターゲットは内部からひしゃげるように崩壊した。
次の瞬間――
「……?」
レイヴンは、自分の体に違和感を覚えた。
血流が変わる。
筋肉の張りが異常なほど強まる。
右腕に、何かが装着されていく感覚。
「なんだ……これ……」
視線を落とす。
そこには、
巨大なナックル型の装備が形成されていた。
厚い装甲、むき出しの衝撃吸収機構、
一目で分かる――殴るためだけの兵装。
『――やっぱりね。』
レヴリスの声が、確信に満ちて響く。
『仮説は当たり。
ジェスター君みたいに、形態を切り替える“スタイルチェンジ”は、他のオペレーターにも適応できる。』
「……じゃあ、この姿も?」
『そう。スタイルチェンジ。』
少し間を置いてから、楽しげに続ける。
『名前を付けるなら……
**“ガッツスタイル”**かな?』
「ガッツスタイル……」
レイヴンは右腕を軽く振る。
空気を裂くような、
重く、鋭い風切り音。
「……殴り性能は、相当高そうだな。」
シミュレーションルームの隔壁が低い駆動音を立てて開く。
人工光に満ちた無機質な空間から一歩踏み出した瞬間、レイヴンは思わず自分の右腕を見下ろした。
そこには、先ほど変化したガッツスタイルのままである。
服装は赤くなっているが馴染み、ナックルは不思議と邪魔には感じなかった。
「……このままなのか。」
低く呟くと、隣で端末を操作していたレヴリスが、いかにも軽い調子で返す。
「ま、誤差だよ誤差。」
「本当か?」
レイヴンは疑いの目を向ける。
“誤差”というには、右腕の存在感があまりにも大きすぎた。
だがレヴリスは肩をすくめるだけだ。
「そのうち戻るか、別のスタイルに切り替わるか。まあ、ロドス的には“問題なし”ってやつ。」
あまり信用できないが、
これ以上詰めても意味は無いと判断し、レイヴンは深く追及しなかった。
その時、背後から一歩近づく足音。
「レイヴン。」
ジェスターだった。
彼はレイヴンの右腕を一瞥し、少しだけ口角を上げる。
「強い武器を手に入れたな。」
「ああ。」
短い返答だったが、そこに迷いは無い。
二人は自然な流れで肩を組んだ。
戦場で何度も背中を預けてきた仲だ。
言葉よりも、こういう仕草の方が信頼を表す。
「……しかし殴り特化とはな。ますます前に出る役になるじゃないか。」
「逃げる気は最初からねぇよ。」
レイヴンは鼻で笑う。
その様子を見て、レヴリスが再び口を挟んだ。
「そうそう。スタイルチェンジは、条件次第で色々発生するからね。」
レイヴン達の視線が集まる。
「戦闘状況、精神状態、ダメージ量、あと本人の“覚悟”とか。その時はちゃんと教えるよ。」
「……覚悟って、ずいぶん曖昧だな。」
「研究者の世界では便利な言葉なの。」
レヴリスは悪びれずに笑う。
「それからね。」
一拍置いてから続けた。
「ジェスター君や、他のみんなもスタイルチェンジが発動する可能性はある。その時も、ちゃんと報告するから安心して。」
「……マジか。」
ジェスターが一瞬だけ目を見開く。
「全員が全員、同じ方向に進化するわけじゃない。でも――」
レヴリスは意味ありげに言葉を切った。
「ロドスは、今“そういう段階”に入ってる。
一瞬、場の空気が引き締まる。
「サンキュー、レヴリス。」
レイヴンは短く礼を言い、再び右腕を握りしめた。
装甲の内側で、力が脈打つのを確かに感じる。
(……まだ強くなれる。)
その事実が、
少しだけ怖く、そして――
どこか、胸が高鳴る感覚でもあった。
スタイルチェンジだ!