アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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サブタイの深い意味は無いです()


STORY.32:繋がる心の力

「……遂に、ヴィクトリアに来たか……」

 

レイヴンが低く呟いた声は、

崩れかけた建物の間に吸い込まれるように消えていった。

 

ロンディニウムの外縁部。

かつては覇権国家ヴィクトリアの威光を象徴していたであろう街並みは、

今や無残な廃墟と化していた。

 

石造りの建物は壁の一部が崩落し、金属製の看板は錆びつき、傾いたまま風に軋む音を立てている。

舗装された道路にはひび割れが走り、

その隙間から雑草が無秩序に顔を出していた。

 

「……人の気配が、一つもありませんね……」

 

アーミヤが周囲を見渡しながら、慎重に言葉を選ぶ。

耳を澄ませても、聞こえるのは風の音と、

どこか遠くで何かが崩れ落ちる鈍い音だけ。

 

「避難した……って雰囲気でもねえな。」

「静かすぎる。」

イグニスが眉をひそめる。

火のアーツを扱う彼ですら、この街に漂う異質な静寂には落ち着かなさを覚えていた。

 

レイヴンは無意識にリコイルロッドへ手を伸ばす。

「……生きてる街の音が、しない。」

 

それは単なる無人ではない。

“追い出された後”の街でも、

“避難が終わった後”の街でもない。

 

――まるで、最初から誰も存在しなかったかのような空白。

「イグニス。」

「ん?」

 

「他のチームと連絡、取れるか?」

「うん。」

イグニスは通信端末を操作し、短く呼びかける。

 

「こちらBチーム。既にロンディニウム内部へ潜入完了。そっちはどう?」

少し間を置いて、通信が返ってくる。

 

『こちらAチーム。一時間前に既に潜入している。』

『Cチームも二十分前に潜入完了済みですよー。今のところ大きな抵抗はなし、です。』

 

「…………」

イグニスは何も言わず、無言で通信を切った。

「……おい。」

 

「聞いた?」

イグニスが振り返り、声を荒げる。

「俺たちが一番遅い!」

「落ち着けって。」

 

レイヴンは肩をすくめる。

「ヴィクトリア八精鋭とガチでやり合ったって言い訳しよう!」

「確かに!」

 

二人のやり取りは、張り詰めた空気の中ではどこか場違いで、しかしそれが逆に、この場の緊張をわずかに緩めていた。

その様子を、アーミヤは少し離れた場所から静かに見ていた。

 

(……でも)

彼女の視線は、割れた窓の奥、暗く続く路地、そして街のさらに奥――ロンディニウム中心部へと向けられている。

 

(静かすぎます……)

ヴィクトリアが、ただ黙って侵入を許すはずがない。

 

この沈黙は、嵐の前触れなのか、それとも――

アーミヤは剣をそっと握り直した。

「……ドクター。」

「ん?」

 

「この街、嫌な予感がします。」

「ですが……進まなければ、何も分かりません。」

レイヴンは一瞬だけ真剣な表情になり、そして力強く頷いた。

「だな。」

「行こう、ロンディニウムのど真ん中まで。」

静まり返ったヴィクトリアの街を、四人の足音がゆっくりと進んでいった。

 

――この沈黙が破られる時、

何が姿を現すのかも知らぬまま。

 

そうして一同は、

瓦礫と静寂に満ちたヴィクトリアの街路を慎重に歩き続けていた。

 

建物の影は長く伸び、

崩れた鉄骨が風に揺れるたび、低い金属音が不規則に鳴る。

だが、それ以外の音はほとんど無い。

 

張り詰めた空気の中で、

イグニスがふと、隣を歩くデュークに視線を向けた。

 

「……そういえば。」

「ん?」

「デュークさん、ペンギン急便の人ですよね。」

「それなのに、いっつもロドスを手伝ってくれるじゃないですか。」

唐突だが、どこか素朴な問いだった。

「どうしてなんです?」

デュークは少し考えるように顎に手を当て、

それから肩をすくめる。

「どうしてって言われてもなぁ……」

「仕事だから、ってのが一番かな。」

 

「へー。」

イグニスはそれ以上突っ込まず、素直に相槌を打った。

その少し前を歩いていたレイヴンが、急に気の抜けた声を出す。

 

「なあアーミヤー。」

「はい?」

「ガム、持ってない?」

「なんかこう……歩いてるだけってのも、意外と疲れるんだよな。」

「……まあ、持ってますけど。」

アーミヤは少し呆れたようにしながらもポケットに手を伸ばした。

 

その――瞬間。

ギィ……ッ、という不快な金属音が、街のあちこちから一斉に鳴り始めた。

 

「……?」

レイヴンが手を伸ばしかけたまま、動きを止める。

 

足元に転がっていた鉄屑。

崩れたフェンスの破片。

使われなくなった銃身、弾殻、歪んだ鉄骨。

 

それらが――ゆっくりと、浮き始めた。

 

「……なんだ?」

レイヴンが息を呑む。

浮遊しているのは瓦礫だけではない。

街灯の支柱が軋みながら引き寄せられ、壁に埋まっていた鉄材が、無理やり引き剥がされていく。

 

まるで、

街そのものが何かに捕まれているかのように。

 

次の瞬間。

 

建物の奥、視界の死角から――巨大な影が降りてきた。

地面が揺れ、粉塵が舞い上がる。

 

「ブモォォォォォォォォォ!!」

 

地を震わせる咆哮。

現れたのは、牛を模した巨大なフォルスロイドだった。

 

異常なまでに発達した上半身。

鋼鉄と同化したような装甲は鈍く光り、

両腕には巨大な斧と、磁力発生装置のような機構が組み込まれている。

 

その身体の周囲には、無数の鉄屑が衛星のように浮遊していた。

「……来たか。」

 

レイヴンが歯を食いしばる。

「ヴィクトリア八精鋭――カウガム・マグネッツだ!」

 

「おま……え……ら……!」

カウガムの声は低く、

機械音と生体音が混ざり合った歪な響きだった。

「テレ、シス…様の…じゃ、ま…だ……!」

 

浮遊していた鉄屑が、一斉に唸りを上げる。

「ここ……で……」

「ツブ……ス!!」

圧倒的な質量と磁力の気配。

この場にいるだけで、武器が引き寄せられる感覚すらある。

レイヴンは大剣を握り直し、地面に踏み込みながら、不敵に笑った。

 

「喋るならさ。」

「もうちょい、ちゃんと喋ってくれねぇと困るぜ。」

 

その視線は、

真正面から――巨獣を捉えていた。

「モンスターハンティングだ!覚悟しやがれ!」

レイヴンは地面を強く蹴り、一気に距離を詰めた。

大剣を大上段に振りかぶり、そのままカウガムへ斬りかかる。

 

――が。

ガンッ、という鈍い音と共に、大剣の軌道が不自然に歪んだ。

 

「……うん?」

刃先が、カウガムの斧に引き寄せられた。

磁石同士が吸い付くように、レイヴンの大剣は斧の刃に張り付き、完全に動かなくなる。

「ハハっ……」

レイヴンは一瞬、乾いた笑いを漏らした。

 

次の瞬間。

カウガムは指を軽く弾くように突き出した。

――デコピン。

だが、その一撃は人間のそれとは桁が違う。

「――っ!」

衝撃波が発生し、レイヴンの身体はまるで玩具のように吹き飛ばされた。

 

「あーれー。」

 

軽口を叩く余裕はあったが、身体は制御できないまま建物の奥へと叩き込まれる。

 

瓦礫が崩れ、土煙が上がった。

「ドクター!」

アーミヤが叫ぶ。

その間にも、カウガムの周囲では鉄屑が不気味に蠢いていた。

「……見て分かった。」

イグニスが歯を食いしばる。

「アイツ自身が強力な磁力を持ってる。」

「だからレイヴンさんの武器は、近づいた瞬間に吸われるんだ。」

 

「地味に酷いこと言うな、イグニス……」

瓦礫の中から、レイヴンの声が聞こえた。

一方、デュークは刀を構えたまま、静かに敵を見据える。

 

「だが……」

「俺の剣でも、あの磁力を抜けられるかどうか……」

「今は考えている暇はありません!」

アーミヤが鋭く言った。

 

「来ます!」

その言葉と同時に、カウガムの周囲に浮いていた鉄屑が一斉に集まり始めた。

ガチャガチャと音を立てながら、鉄屑は四角く、分厚い巨大なブロックへと変形していく。

 

まるで即席の城壁――

いや、投擲用の鉄塊だ。

 

「……ブモォォ!」

 

カウガムはそのブロックを殴り飛ばした。

空気が裂け、鉄塊が弾丸のような速度で飛来する。

「うわっ!」

 

デュークとイグニスは即座に散開。

アーミヤは杖状の武器を突き出し、バリアを展開する。

 

鉄塊はバリアに直撃し、衝撃が地面を揺らした。

「っ……重い……!」

アーミヤの足が地面に沈み、バリアに亀裂が走る。

 

「アーミヤ、下がれ!」

その瞬間、瓦礫の山が爆発するように弾けた。

 

「――お返しだ!」

レイヴンが飛び出す。

右腕に再びガッツスタイルのナックルを装着し、地面を踏み抜く勢いで突進。

「ガッツパンチ!!」

 

磁力の影響を受けにくい純粋な打撃が、鉄塊ごとカウガムの腹部に叩き込まれた。

鈍い衝撃音と共に、カウガムの巨体がわずかに後退する。

「……効いてる!」

イグニスが叫ぶ。

「斬撃より、打撃だ!」

「了解!」

デュークは即座に構えを変え、足運びを低く、鋭くする。

 

「八葉一刀流――」

踏み込みと同時に、磁力の影響を最小限に抑えた高速の斬りが放たれる。

「――弐ノ型!」

斬撃がカウガムの脚部装甲を削り、火花が散った。

 

「ブモォォ……!」

 

カウガムは怒りの咆哮を上げ、周囲の鉄屑をさらに引き寄せる。

「くっ……」

レイヴンは身体を起こそうとするが、足に力が入らない。

「……!?」

視線を落とした瞬間、理由が分かった。

足元の鉄屑が蠢き、鎖のように絡みついて拘束している。

 

「チッ……姑息な真似しやがって……」

その言葉を待つまでもなく、

カウガムの磁力が一気に強まった。

 

レイヴンの身体が地面を擦りながら、

強制的に引き寄せられる。

 

「うわっ!」

直後、拳が振り抜かれた。

 

衝撃が直撃し、レイヴンは吹き飛ばされる。

空中で体勢を崩しながらも、辛うじて受け身を取るが――

 

地面を転がり、完全に無防備な体勢で止まった。

 

「トドメだァァァ!!」

カウガムは斧を高く掲げる。

磁力によって斧の周囲に鉄屑が集まり、

刃は異様なほど巨大化していた。

 

狙いは――

倒れたままのレイヴン。

「ドクター!!」

 

アーミヤが叫び、反射的に走り出す。

 

(――私だって……)

(ドクターの為に、何かできるなら……!)

 

考えるよりも先に、身体が動いていた。

 

「ドクター!!」

アーミヤはレイヴンの前に立ち、庇うように守り始めた。

 

その瞬間――

カッ、と光が弾けた。

二人を中心に、半球状のエネルギーフィールドが展開される。

柔らかく、しかし確かな強度を持つ光。

まるで包み込むような、防護と治癒の波動。

 

「ブモッ!?」

 

カウガムの斧が振り下ろされる。

だが、斧はフィールドに阻まれ、深く食い込むことすらできない。

 

衝撃は拡散され、二人には届かなかった。

 

「なんだ!?この光……!」

デュークは驚いたようにその場を眺めていた。

「……温かい……」

イグニスは穏やかな顔でそう呟いた。

 

レイヴンは、自分の身体に走っていた激痛が、嘘のように引いていくのを感じていた。

骨の軋みも、内臓を揺さぶっていた衝撃も、光に溶かされるように消えていく。

 

やがて、周囲を包んでいたエネルギーが収束し、光が晴れた。

 

そこに立っていたのは――

確かにレイヴンの姿だった。

 

しかし、その装備は明らかに異質だった。

黒と淡い光を基調とした装甲、胸部や腕部に刻まれた紋様。

どこか、アーミヤを思わせる意匠が随所に施されている。

 

「……?」

デュークが辺りを見回す。

「あれ、アーミヤは?」

周囲を確認しても、

アーミヤの姿だけが、どこにも見当たらなかった。

レイヴンは静かに手を握る。

 

(……アーミヤ)

(お前の力を、確かに感じる……)

胸の奥から、温かく、しかし強烈なエネルギーが湧き上がる。

それは借り物でありながら、完全に自分の一部として馴染んでいた。

(この力……使わせてもらうぜ!)

レイヴンは手のひらにアーツを形成する。

雷光が収束し、指先に集約されていく。

 

「――サンダーブレーク!」

放たれた雷撃が一直線に走り、

カウガムの巨体を正面から貫いた。

「何ィィィ!?」

磁力で鉄屑を纏っていた装甲が弾け、巨体が大きくのけ反る。

 

「次は――これだ!」

レイヴンは瞬時に、アーミヤの剣に酷似した武器を具現化する。

刃を振るうと同時に、地面を這うような衝撃波が解き放たれた。

「サンダーグランド!!」

雷を帯びた衝撃が大地を割り、直撃を受けたカウガムは後方へ吹き飛ばされる。

 

「ブモォォォォォォォ!!」

瓦礫を巻き込みながら、巨体が建物に叩きつけられる。

「……ゆ、るさ……ない……!」

カウガムは咆哮と共に、自らの身体を複数に分裂させた。

分離したパーツが宙を舞い、四方八方から同時に襲いかかる。

 

「ブモォォォォォォォ!!」

「――そんな小細工、通じるか!」

レイヴンは杖を高く掲げる。

天空が暗転し、上空に巨大な影が生まれた。

「メテオシュート!!」

次の瞬間、

隕石が降り注ぐ。

 

分裂したカウガムのパーツを正確に捉え、

一つ、また一つと破壊していく。

 

そして――

最後に、最大の隕石が落下した。

 

直撃。

 

「ブ、ブモォォォォォォォ!!!」

轟音と共に、凄まじい爆発が街区を揺るがす。

爆炎が晴れた時、そこにはもはや、動くものは何も残っていなかった。

 

レイヴンは静かに息を吐く。

(……ありがとうな、アーミヤ)

 

やがて、レイヴンの身体を包んでいた光が、再び強く輝き始めた。

「……?」

次の瞬間、その光が弾けるように分離し、一つの人影が地面に降り立つ。

「――あ!」

「アーミヤ!」

イグニスとデュークが、弾かれたように駆け寄る。

そこには、無事な姿のアーミヤが立っていた。

多少ふらついてはいるが、意識ははっきりしている。

 

「ドクター……ありがとうございます。」

アーミヤは静かに、しかし確かな声音で言った。

「お礼を言うのはこっちさ。」

レイヴンは軽く肩をすくめる。

「助けてくれて、ありがとう。」

二人の様子を見ていたデュークが、素直な疑問を口にする。

「……しかし、凄かったなレイヴン。」

「さっきの力、一体なんなんだ?」

 

その瞬間――

『――あれは“ソウルユニゾン”さ!』

「うわっ!?」

突然割り込んできた通信音声に、イグニスとデュークが同時に肩を跳ねさせる。

 

「なっ、誰だ!?」

『やれやれ、相変わらず反応がいいね。』

レヴリスの声だった。

「ソウルユニゾン……?」

『ドクターと特定のオペレーターの魂が、強く共鳴し合うことで発現する現象だよ。』

『スタイルチェンジとは全くの別物で、全く新しい姿と能力を得られる。』

レイヴンは、先ほどの感覚を思い出す。

アーミヤの意思、力、そして温度。

確かに「共に在った」感覚だった。

『さっきはアーミヤとソウルユニゾンしていたね。』

『名付けて――』

一拍置いて、レヴリスは楽しげに言った。

『“アーミヤソウル”!』

「アーミヤソウル……」

アーミヤ自身も、その名を小さく反芻する。

 

『他にもソウルユニゾン可能なオペレーターは、きっといるはずさ。』

『ドクターの切り札になる力だ。上手く使ってね。』

 

そう言い残し、通信は一方的に切れた。

「……相変わらず説明だけして消えるな、あいつ。」

レイヴンは苦笑しながら、拳を軽く握る。

身体の奥には、まだかすかに残る、あの温かな力の余韻。

 

「ソウルユニゾン、か……」

空を見上げ、静かに呟く。

「これは、いい力を貰ったぜ。」

 

新たな切り札を得たことを、確かに実感しながら。





(悲報)スタイルチェンジお役御免
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