アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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初短編!ヤンデレや。


ヤンデレ化オペレーター
ヤンデレ化オペレーター:アーミヤ編


ここはロドス。

今日もまた、事件が起きそうで起きない、平和と言い切っていいのか少し怪しい一日が流れていた。

 

レイヴンの私室では、当の本人とジェスターが向かい合って話をしている。

といっても、真剣な会議というよりは、ジェスターが一方的に何かを持ち込んできた、構図だった。

「レイヴン。どうやら医学部が、また新しいものを作ったらしい」

「はあ」

レイヴンは机に向かったまま、気の抜けた返事を返す。

その反応などお構いなしに、ジェスターはどこか楽しそうな表情で、小さな薬瓶を取り出した。

 

「ジェスター……俺は今、ゲーム買うためにバイトで忙しいんだ。話なら後にしろ」

「いやいや、そう言わずに聞けって」

ジェスターは薬瓶を軽く振りながら続ける。

 

「こいつはな、飲んだ対象が“好きな相手を、とんでもなく好きになる”薬らしい」

「効果は一日限定だ」

淡々と付け加えられた一言に、レイヴンはようやく手を止め、胡乱な目で薬を見る。

 

「……話を聞いた限り、相当物騒なんだが」

ちょうどその時、ノックの音と共にドアが開いた。

 

「し、失礼します……」

入ってきたのはアーミヤだった。

控えめに部屋を見渡し、レイヴンの姿を確認すると、ほっとしたように、そして少しだけ視線を逸らす。

 

「お、アーミヤか。何かあったのか?」

「い、いえ……ドクターが今、お暇だと聞いて……」

言葉を選ぶように話すアーミヤは、レイヴンの顔を見るたびに頬を赤らめていた。

その様子を、ジェスターは一瞬で察する。

 

(なるほどね)

そう言わんばかりに口角を上げると、彼はさりげなく、問題の薬をレイヴンのすぐ横へと差し出した。

 

「……おい」

レイヴンが低く声を落とすが、ジェスターは肩をすくめ、楽しそうに囁く。

「頑張れよ〜」

平和なロドスの一日が、少しだけ妙な方向へ転がり始めた瞬間だった。

 

(本当に……こんなの、効果があるのか?)

レイヴンは手渡された薬瓶を見下ろし、半信半疑のまま内心でそう呟いた。

小さな瓶に入ったそれは、見た目だけならただの薬品に過ぎない。だが、ジェスターの説明を思い返すと、どうにも嫌な予感が拭えなかった。

 

「……?」

不意にアーミヤが首を傾げ、薬瓶に視線を向ける。

「なんですか、その薬」

「ジェスターの奴が、さっき無理やり渡してきたんだよ」

そう答えると、アーミヤは一瞬だけ表情を引き締め、ため息混じりに言った。

 

「ジェスターさん……今度は説教ですかね」

「……そ、そうだな」

否定しかけて、レイヴンは言葉を濁した。

事情を正直に話すのは、さすがに色々と面倒だと判断したのだ。

その一方で、胸の奥では別の感情が静かに頭をもたげていた。

理性は警鐘を鳴らしているのに、好奇心だけが妙にうるさい。

 

(……試してみるか)

失笑しながらも、レイヴンは決断する。

ジェスターの悪ふざけで終わるならそれまでだし、万が一効果があったとしても一日限りだ。

 

「なんか飲むか? ジュースしかないけど」

唐突な提案に、アーミヤは一瞬驚いたように目を瞬かせ、それから慌てて頷いた。

 

「は、はい! では、遠慮なく」

レイヴンは立ち上がり、冷蔵庫を開ける。

中から炭酸ジュースのペットボトルを取り出すと、何気ない動作で薬と一緒にアーミヤへ手渡した。

 

その行為が、この後の空気を一変させる引き金になるとも知らず…

アーミヤは、差し出されたジュースを両手で抱えるようにして、少しずつ口に運んでいく。

小動物が警戒しながら水を飲むような、その慎重で控えめな仕草に、レイヴンは思わず視線を向けた。

(小動物……)

そんな感想が、自然と頭に浮かぶ。

炭酸の刺激に小さく肩を揺らしながらも、アーミヤは黙々と飲み続け、やがてペットボトルを空にした。

 

数分ほど経った頃だった。

 

アーミヤの様子が、わずかに変わる。

呼吸が少し早くなり、視線が妙に定まらない。やがて、その視線がゆっくりとレイヴンに向けられた。

 

「ドクター……」

名前を呼ぶ声が、どこか柔らかい。

「……好き、です」

言葉そのものよりも、その声音に宿る無条件の信頼が、レイヴンの胸に引っかかった。

 

(……あれ? 俺、そんなに好かれてたか?)

思わず内心で首を傾げる。

自分の性格を考えれば、好意を向けられる理由に心当たりはあまりない。

 

「ドクターのそば……落ち着きます……」

そう言って、少し距離を詰めてくるアーミヤ。

その無防備な態度に、レイヴンは思わず息を呑んだ。

 

(……これは、まずいな)

別に何かされたわけではない。

だが、この状況を第三者に見られたら、誤解される未来しか想像できなかった。

 

冷や汗が背中を伝う。

(ジェスター……後で絶対に覚えてろ)

 

「……とにかく腹減ったし、食堂行くか?」

少し強引に話題を切り替えるように、レイヴンがそう提案すると、

 

「はい!」

アーミヤは即座に、嬉しそうな声で頷いた。

数分後、二人はロドスの食堂へと足を運ぶ。

 

食堂の中は、いつも通りの賑やかさだった。

 

「コンバットフレームって軽油だっけ?」

「バーカ、レギュラーだよ」

 

「トイレットペーパー無いんだけど〜!?」

「当選したぞ〜!」

 

「春麗の蹴り、真似できるけど見る?」

「いーや、無理だね」

 

意味があるのかないのか分からない会話が、あちこちから飛び交っている。

それらをBGMのように聞き流しながら、レイヴンはふと、見慣れた後ろ姿を見つけた。

 

トレーを手に、山のような料理を前にしている二人組だ。

「テディス〜、チェン〜」

気軽に声をかけると、テディスが勢いよく振り向いた。

 

「ドクター!」

「……何してんだ?」

レイヴンが呆れ混じりに尋ねると、テディスは少し照れたように答える。

「……何って、カツ丼キング盛り食ってるんですよ」

「……チェンは?」

視線をずらすと、隣の席でチェンが机に突っ伏していた。

顔色は見事なまでに青白い。

 

「……ノックアウトしてるのか?」

「はい。すぐにノックアウトしました」

淡々とした報告とは裏腹に、テーブルの上は惨状だった。

半分も減っていないキング盛りのカツ丼が、チェンの無謀さを物語っている。

 

「く、苦しい……」

か細い声が、机に伏せたまま漏れ出た。

レイヴンはその様子を見て、深くため息をついた。

 

その瞬間だった。

 

背後から、空気が弾けるような感覚が走る。

微かながらも、はっきりと分かる――アーツ特有の、あのバチバチとした気配。

 

レイヴンは反射的に振り返り、思わず目を見開いた。

 

そこにはアーミヤが立っていた。

先ほどまでの柔らかな雰囲気は影を潜め、周囲の空気が一段、重く張り詰めている。

 

「ドクター」

 

静かな声だった。

だが、逆にそれが不気味なほどに耳に残る。

 

「私は今、どんな顔をしていると思いますか?」

 

「し、知らない……」

 

レイヴンは正直に、というより咄嗟にそう答えるしかなかった。

 

「私が……怖いですか?」

 

「い、いや……」

 

否定の言葉は出たものの、声がわずかに上擦る。

テディスも、隣で完全に動きを止めていた。

 

数秒の沈黙。

 

「……そうですか」

 

その一言と同時に、周囲を包んでいた殺気が、嘘のように霧散した。

アーツの気配も消え、いつものアーミヤの表情へと戻っていく。

 

あまりの急変に、レイヴンとテディスは揃って言葉を失った。

 

(……テディス。ジェスターに会ったら、怒っといてくれ)

 

視線だけでそう伝えると、

(よく分かりませんけど……はい)

と、困惑しつつも頷き返してくる。

 

なぜかは分からない。

理屈も説明もつかないが、二人とも直感していた。

 

ロドスの食堂には再び雑音が戻る。

だが、レイヴンの背中を伝う嫌な汗だけは、しばらく引きそうになかった。

 

「ドクター……」

低く呼ばれ、レイヴンは反射的に振り向いた。

 

「ん!?」

アーミヤは、まっすぐにこちらを見据えている。

その瞳には迷いがなく、異様なほどに強い意志が宿っていた。

 

「私だけに……注目してください」

次の瞬間、アーミヤの体からアーツが溢れ出す。

空気が震え、微かな電撃音がビリビリと周囲を満たしたまま、彼女は一歩、また一歩とレイヴンに近づいてくる。

 

(やばい、完全にまずい……!)

「まずいですよ!」

思わず声を上げるが、アーミヤは歩みを止めない。

「ドクター」

「は、はい!」

条件反射のように返事をしてしまった自分に、レイヴンは内心で舌打ちする。

 

「私と……」

 

その言葉が最後まで紡がれる前だった。

 

「レイヴン! 使え!」

横合いから、聞き慣れた声が飛ぶ。

同時に、何かが空を切って飛来した。

 

「ジェスター!?」

投げつけられたのは、あの薬だった。

 

「よ、よし!」

 

レイヴンは迷う暇もなくそれを掴み、アーミヤの首元へと打ち込む。

 

一瞬、アーツの光が大きく揺らぎ――

次の瞬間、アーミヤの全身から力が抜けた。

「……」

そのまま、糸が切れた人形のように、静かに崩れ落ちる。

レイヴンは慌てて受け止め、腕の中で眠る彼女の顔を見下ろした。

 

荒れていた呼吸は穏やかになり、表情もすっかり落ち着いている。

 

「……寝た、か」

張り詰めていた空気が、ようやく解けた。

 

(本気で洒落にならなかったぞ……)

レイヴンは深く息を吐き、背後に立つ張本人へと視線を向けた。

 

「おい、ジェスター! お前なぁ!」

抑えきれない怒気を込めてレイヴンが詰め寄るが、

 

「悪かった」

ジェスターは驚くほどあっさりと頭を下げた。

その拍子抜けする反応に、レイヴンは一瞬言葉を失い、やがて深く息を吐く。

「……まあ、いい。正直、死ぬほど疲れたが……」

一拍置いて、口元にわずかな笑みを浮かべる。

 

「ちょっと面白いじゃないか」

「だろ?」

ジェスターも悪びれた様子なく、胸を張る。

そのやり取りを横で見ていたテディスが、ようやく我に返った。

「え、ちょ……ドクター。アーミヤちゃん、どうするんです?」

腕の中では、完全に力の抜けたアーミヤが静かに眠っている。

 

「とりあえず、後は任せた!」

レイヴンは即答だった。

「俺はジェスターと話をしたいからな!」

そう言い残し、ジェスターの肩を軽く叩くと、そのまま二人揃って食堂を後にしていく。

残されたのは、ざわつく食堂と――

 

「…………どうしよ、コレ……」

アーミヤを担いだまま立ち尽くす、テディス一人。

周囲の視線がじわじわと集まり始めているのを感じながら、彼は小さくため息をついた。

 

(今日は……色んな意味で、長くなりそうだな)

ロドスの平和な一日は、こうして妙な後味を残したまま幕を閉じた。




初のコメディ短編集がこれです。
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