──9月12日 1033時
城塞都市バレリオ
山岳地帯に高くそびえたつE.U.S.T.の採掘拠点基地、その上空を南西から大型の輸送機が飛来。
その中身──巨人を大きく口を開いた機体後部から吐き出し、そのまま飛び去った。
巨人はその姿を透明にし、見えなくなった。
狭く、薄暗いコクピットの中で、軽い衝撃と共に一人の人物が息を吐く。
その容姿は大きく、そして肌の露出は少ない。
──対G装備と生命維持装置、それにいくらかの防弾板を組み込んだもの──を装備した人物の性別を知る事が出来たのは、体格とマスク越しに聞こえるくぐもった、低い声だけだ。
声色から中年か、初老と呼ぶに近い位だろう。
男の目の前にある画面越しの風景は、所々で煙が上がっていた。
それらの元には、5m前後の巨人も含まれていた。
左手の操縦桿を握りつつ、操縦桿のボタンを押し、通信を傍受した。
『ホテル、全機。戦況は現在、膠着状態。座標N-12付近に、行動不能機1。救援できる機はいるか?』
「トニー、ホテル。無線傍受、当該機の救援に向かう」
『ホテル了解』
男こと、トニーはペダルを踏み込み、自らが乗り込む巨人──ブラスト・ランナーを進ませた。アメリカに本社を置く、<
PLUS:Gは同社の名機、<ヘヴィガード>の数十年に及ぶ運用データと他の同社重量級機体群からのノウハウを基に開発が行われた。
ヘヴィガードの最大の特徴である
PLUS:Gは厚い装甲から生まれる高い生存性と新型フレームによる
その中でトニーの駆る機体はPLUS:Gの中でも重装モデルであるG-hwを中心に構成されていた。
トニーは設置されたカタパルトをいくつか経由して前線に進む途中、救援信号を受信した。
先の話にあった、行動不能機のようだ。
砲弾が飛んで来る中発信源を追うと、教会の近くでうつぶせに倒れた機体を見つけた。
損傷は大きいものの、装甲材の応急修理を行えばまだ動く程度ではあった。
PLUS:Gのマウンターから最初に構えていた4ゲージショットガン──スマックショットSP──をマウンターに入れ替える形でカメラガンを取り出し、目標をロックする。
同時にPLUS:Gの背面マウンターに装着されていた長方形の物体──URデバイスγが起き上がり、子機を射出する。
射出された子機達は目標まで飛行し、損傷個所に修復用液化
その間にPLUS:GはスマックショットSPに持ち替え、周囲を警戒していた。URデバイスは
応急修理が終わり、起き上がった機体に声をかけた。
「お出ましか……そこの友軍機、動けるか?」
『ああ、助かった』
「まだ安堵するには早いらしい」
そう言うや否や、トニーのPLUS:Gは近くのガレキに身を潜めた。
そしてその陰からPLUS:Gの上半身をその方角から左斜めに向けて待ち構えた。正対するのではなく、斜めに構える事で投射面積を減らし、また被弾予測箇所に傾斜を付ける事で実際の装甲厚よりも厚くなると言う手法である。
修理された機体──強襲兵装の様だが、各パーツのメーカが異なり、個性的な外見であった。全体的に装甲が厚めの重量級のパーツを選択しており、継戦能力を高めた構成である。
強襲兵装のブラスト・ランナーは無事に起き上がると、サムズアップで答えた。
問題なさそうだ。その機体は、トニーが見ている方向を見て、トニーのPLUS:Gに身を寄せた。
そして右腕に握っていた主武器──STAR-20を構え直した。
その先には複数のブラスト・ランナーがこちらに突撃してくる様子が見えた。
数は3機。
突出していたz.t.の背面から延びたものを見たトニーは悪寒を覚えた。
それに共感したのか、2機は散開、発砲した。
それをz.t.はひらりと避けつつ背に手をやると、背負っていた獲物──
同時にミサイル
ジーシェンか迅牙か、あるいは両方か──までは分からないが、ミサイルを発射したらしい。大量のミサイルもエグゼクターでの攻撃も、もろに食らえば大破は免れない。散開した友軍機は迅牙の頭部を連続で撃ち抜き、
その一方で、トニーはエグゼクターを振りかぶるz.t.に突貫し、ミサイルを回避しつつ低くジャンプ。その勢いでz.t.の頭部を踏みつけて転倒させる。エグゼクターは手から離れ、近くの壁面に刺さった。
PLUS:Gの着地際をジーシェンが加減速とブーストターンを活かした変則機動で詰め寄り銃撃するが、PLUS:Gは<
しかし重量級の中で特に機動性に優れるジーシェンに当たりはすれど、致命傷にはならない。
装填分を撃ち尽くしたPLUS:Gだったが、距離の調整に成功し路地に逃げ込むことが出来た。即座に後を追うジーシェン。その直後、爆発と共にジーシェンは弾かれたように吹っ飛んだ。
それを追う様にPLUS:Gが接近してショットシェルを一発だけリロード、倒れたジーシェンの頭部に散弾を浴びせ機能を停止させる。
そこに頭部を半壊したz.tがぎこちない動きで起き上がり、震えながら背部マウンターから主武器を取り出そうとするが、それを察した友軍機がz.t.の右前腕部を撃ち抜いた。
z.t.の右前腕部の予備弾倉が誘爆し
その様を見て、トニーは安堵した。ひとまずの安全は確保されたからだ。
しばらくして擱座した迅牙とジーシェンのコクピットハッチが解放、パイロットが両手を挙げて降りてきた。z.t.のパイロットは気絶したのか、降りてこなかった。
彼らはGRFに属する
機体の方は傘下企業である四条マグメル保険会社が回収し、大破していた場合は予備機を貸与されるのが常だ。
トニーは友軍機にパイロットの身柄を任せ、自身は北上する事にした。
1035時 座標N-10付近
ニュード採掘基地の争奪戦はまだ続いており、採掘権を巡って武力闘争を繰り広げている。熾烈さを増しており、今日では電撃戦になるのもしばしばだ。
しかし今回は、その例には当てはまらないらしい。
水路上にかかる橋に設置されたプラントの争奪戦は未だ続いており、北側をGRFが、南側をE.U.S.T.のブラスト・ランナーが陣取りハッキング合戦になっていた。
トニーが到着した時、重火力兵装の機体が2機で戦線を維持しているようだった。そしてその戦列に加わろうとした強襲兵装の機体が目の前で擱座した。
これに違和感を覚えたトニーは、機体を近くの遮蔽物に寄せた。 直後、トニーのいた場所に砲弾が炸裂。幸い距離を離していた為、N-DEFでしのぐ事が出来た。
擱座した強襲兵装にURデバイスで応急修理を施しながら思索する。
(遊撃兵装がいるな、それも高所にだ……)
遊撃兵装。
昔は狙撃兵装と呼ばれていたが運用する傭兵達の間で用途が広がり、いつしか遊撃兵装と呼ばれるようになった。
少し前は
このままではまずい事は分かっていた。射線上にいれば頭部を確実に撃ち抜いてくる。
何かで知らせねば……。
(待てよ、まだ
滞空索敵弾。
その名の通りにセンサー弾を上空に撃ち上げ、パラシュートにて一定時間滞空しつつ索敵を行う事が出来る装備だ。風向に左右されそうな装備だが、その誤差は僅差であり、使用に際してさして影響のないものであった。
ここに来るまでの道中は索敵センサーの配置がしっかりしており、トニーは前方索敵を目視のみとしていた。 だが先程の射線から、おおよその見当はついていた。
城壁の中、或いはその上部だ。その上空に狙いを定め索敵弾を射出、数秒後に反応を示した。
トニーは僚機への回線を開く。
「2時方向に敵スナイパー! 城壁の上にいるぞ!」
『了解、助かったぜ!』
『こっちも"
重火力兵装の機体──
ロケット弾は城壁上部の天井と壁に命中、周辺を崩落させた。あれですぐには狙撃できまい。それと同時に再始動された強襲兵装──ナクシャトラ製の<ヤクシャ>が進攻を再開。
橋を迂回し建物の中に突入、障害物を巧みに利用し、敵陣深くに斬りこんでいった。
これを機と見たトニーはもう1機の重火力兵装──ベンノ製の<ケーファー52>と共に前進、北側に陣取っていた敵機を攻撃する。
機体は<
苦戦も頷ける。
因みに<
それに対しZe-Mech製の<ロージー>は
ケーファーが主武器の双門機関砲を発砲、ロージー達は被弾しながらもトニーのPLUS:Gに火線を集中した。支援兵装は損傷機の応急修理が可能な特性上、よく狙われる。重火力兵装をやっても意味が薄くなるからだ。
更に言えば、防衛線を突破された敵機のベース突入だけは避けなければいけない。
その点においてトニーの乗る機体は
2機のロージーが同時に射撃、それに呼応するようにケーファーが射撃を開始。2門の砲口から放たれる30mm砲弾の雨、しかしそれは直撃しない。
相手のロージーがバリアユニットを展開したからだ。
電磁気によってニュードの
そこへ一通り吹っ飛ばしたケーファーの相方、アイアンフォートが加勢に入った。3対2の数的優勢は、いくら頑丈さに定評のあるロージー2機編成とて覆せなかった。
あっという間に制圧した後、遮蔽物に隠れながらトニーは周囲の警戒を行う。今の戦闘で、城壁の周辺にいた遊撃兵装が消えている事に気づいた。
そしてその予想を裏付けるように、先程まで戦闘していたエリアに新たな敵がやってきた。
今度は遊撃兵装ではなく、強襲兵装だ。単機ではない。2機編成でやって来る。
「新手だ。行けるか?」
『こちとら重火力だ、問題ない』
『強襲兵装か。何が出て来るかだな……』
トニーの<PLUS:G>を始めとした3機は全機重量級に区分されるブラストだ。
その中でも
──畜生、<クーガー>と<X>だ!
強襲兵装の傭兵達の使う機体は全てが強襲兵装仕様だ。大概の場合、近接格闘戦を主軸に置く事になるだろう。
ならば、こちらが取るべき戦法は──敵が交戦距離に入る前に、トニー達はそれぞれの兵装として持ちうる最高の火力を叩き込んだ。その一撃は反応に遅れた1機を大破させるには十分なものであった。
爆炎の中から飛び出してきたのは──
<X>はTSUMOIの
標準的な
当然、そんな最新鋭機を運用できるボーダーも限られる。
つまり──
「<X>はネームドか、エースだ。皆気をつけろよ」
『ご丁寧に新手も来やがった。……ありゃ、<アスラ>だ。速いぞ』
『合流されるとマズい、先手を打つ。援護頼めるか?』
「<X>は俺が抑える。<アスラ>の相手は任せたぞ」
トニーの<PLUS:G>が単機で<X>に立ち向かう。
その一方でケーファーは背部に装着された装備──ハイドラ重装砲──を展開、砲撃姿勢を取る。アイアンフォートがその間、援護射撃をする。
この重装砲の特徴は、速射性に優れる事だ。加害半径からして周辺一帯を焼け野原にするには、こいつが手っ取り早い。同一装備の機体が複数機いれば、防御陣地に対する飽和攻撃も容易だ。
相手はナクシャトラ製の<アスラ>だ。
だが、近づかれた時の相性は最悪だ。故にここで撃破しないといけない。
「下がってろ! 砲撃ファイア!!」
ケーファー乗りのボーダーが、警告と共に砲撃を開始する。
狙いはアスラの予測進路上だ。相手は速い、ならば直接狙うより相手を突っ込ませた方が確実に撃破できると踏んだからだ。
その思惑通り、砲弾が着弾。爆発と同時に煙幕を撒き散らす。それを目くらましに、ケーファーが接近した。そのまま突撃し、主武器の照準を合わせようとした時であった。
視界の端から何かが来る。それは巨大な杭のような物で、先端が尖っている。その正体を知っていた。
──ロングスピアだ。
ブラストサイズの槍であり、小柄ながらも
ブラストの近接格闘戦は専用装備とチップにプログラミングされた以外のモーションは難しいのだ。例えばロングスピアを紙一重で避けたケーファーが、ショルダータックルを放つみたいに。
ロングスピアの持ち主──半壊状態のアスラが弾き飛ばされ、転倒する。
そこへ数発主武器を撃ちこみ、大破させた。恐らくパイロットは大丈夫だろうが、何しろ
アンチダメージ・コクピットシェルがあっても万能ではない。
「落としてやった! 次はどいつだ!」
『PLUS:Gの奴を助けに行くぞ。
「マジで行ったのかよ。助けないとな」
そこへアイアンフォートのボーダーが声をかける。2機は援護へと向かった。
1037時 座標P-11付近
事実、トニーは相手に苦戦していた。最新鋭機同士の戦いだ。お互いに未知数な部分が多い。
瞬発力なら軽量機にも負けない<
鈍重だが、機体の堅牢さは<
互いに有効打を与えられずにいた。
PLUS:Gが散弾を撃てば、相手はひらりと避ける。しかし相手の攻撃もこちらは地形を生かして回避し、避けきれなかった分は装甲で耐える。お互いその応酬を繰り返しているのだ。
らちが明かない。
トニーにとっては、相手の武器が問題であった。
──ウェーブショット、それも単射威力特化型のウェーブショットX──である。
情報が開示され、ボーダー達に武器の使用権が渡った当初は散々な評価であった。
だが開発メーカのたゆまぬ企業努力の成果か、あるボーダーが改修後の武器を片手に戦場を大暴れした事から評価が一転、強襲兵装乗りのボーダー達は使用権確保に
敵ブラストの頭部に当てやすく威力も高い武器があれば、誰だって欲しくはなる。
その為にもボーダー達は使用権と引き換えに要求される物品を集めるのにも
最もトニーから言わせれば、「新しい武器より慣れた武器」なのは変わりない。そしてトニーと同様の見解を持つボーダーは多かった。
古参のボーダー程、"信頼性"と言う物を大事にする。ましてや
最新鋭機を駆りながらも、武装はシンプルなのは簡単。
トラブルの内容が出尽くしているからであり、対応も記憶していれば即座に出来る。ポンプアクション式のショットガンなら、不発を起こしても
整備士達もそのような事態が起こらないようあれこれと腐心しているが、どうしたって起きる時は起きる。トニーは自機の握るショットガンに4ゲージ弾を装填しながら、相手の出方を窺う。
相手は強襲兵装だ、機動力に物を言わせてくる可能性がある。その為立ち位置を頻繁に変えながら、牽制射撃を入れていた。理由は簡単、時間稼ぎだ。
味方と合流し、
その一方で、<X>を駆るボーダーも相手の対応に焦れていた。
重量級、それも最新鋭機の<PLUS:G>の相手は厄介だ。こちらがウェーブショットで頭部を撃ち抜こうにも、相手の放つ散弾が狙いを付けさせない。
更に当たったとしても、相手の強固なN-DEFとその下の装甲が阻む。更に相手が支援兵装である事も影響した。物陰に潜まれればすぐさま応急修理が入る。
更に敵の後続も迫っている。単機突出してきた<ヤクシャ>は自分と僚機で撃破したが、その僚機もさっき
「こいつに賭けるか……」
<X>を駆るボーダーはフットペダルを深く踏み込んだ。
それと同時に右のマウスにも似た形状の、操縦桿に付いたボタンを強く押し込む。
強襲兵装が強襲を可能とする、異次元の推進力をブラストに与える。
しかしその分機体と搭乗者に与える負荷が大きく、2秒足らずと有効時間は非常に少ない。
これを近接武器の特殊機動に合わせて一瞬だけ起動する事で、爆発的な推進力を元に地面を高速で滑走する
だが、先述の通り有効時間が非常に少ないので緻密な操作が必要とされる。
Xを駆るボーダーはこのテクニックを会得してはいたが、弊害がある。
ただでさえ、近接武器の特殊攻撃時の機動は加速Gによる
更に
そして、やる事はそれを繰り返す事ではない。敵機を撃破し、戦況を持ち直す事だ。
Gによる影響を受けながら、相手の重量級支援兵装に突貫する。
選択する武器は、スパークロッド──SR-ヴァジュラ──だ。こいつの特殊攻撃で相手を抑え込む。
彼我の装甲差を考えれば、この一手に賭けるしかない。
「ぐう、っ……!」
特殊警棒──
トニーは不覚にも背後を取られていた。
それに気付いたのは噴射音と遅れてやって来たロックオン警報の音だ。どんな機体でも、背後からの攻撃には対応できない。
相手に正対するには遅い、ジャンプで間に合うかどうか。一か八か、トニーはフットペダルとスティック入力を同時に行った。
PLUS:Gの腰部ブースターが火を噴き、跳躍する。
その脚部に
こちらは吹っ飛びながらも、応急修理とダメコン能力のおかげで支障はない。
だが相手は待ってはくれない。
尚も武器を変え、距離を詰めて襲い掛かる相手に対しPLUS:Gも武器を構え、ゴムボールの様に跳ねる球を撃ち出して、一言。
「銃だけが武器ではないぞ」
──その直後に爆発、<X>は爆風で吹っ飛ばされ、
一体何をしたのか? 答えは<PLUS:G>の左腕部マウンターから取り出した武器にあった。
グラスホッパーV、
射出した
先のジ-シェンを吹っ飛ばしたのもこの武器による攻撃だ。更に相手の至近距離で起爆したとあれば重量級機体のジーシェンならばともかく、標準級機体のXでは耐えられない。
だがこちらが受けた被害も少なくなかった。
先の近接攻撃の他にも、起爆寸前に相手が撃った武器──
その内の一発が頭部に被弾したらしく、ダメージ量から警告音が鳴り響く程。
応急修理があるとは言え、危険な状態であった。加えてグラスホッパーVの加害半径ギリギリだった為、カメラ映像にノイズが時々走る。トニーは進撃を断念し、一時後退を判断した。
そこへ、味方機からの通信が入る。
『支援兵装のおっさん、生きてっか?』
「ああ、生きてるぞ」
『そいつはいいや』
「一度下がって、補給を受けたい」
『奇遇だな、俺達も同じ考えだ』
「……問題は、交代要員が来るかだ」
そこへ、4機のブラスト・ランナーがやって来た。
どうやら彼らが交代要員らしい。続いて、E.U.S.T.のオペレータから全体に通信が入った。
『ホテル、全機。戦況報告。現在我々が優勢だ。そのまま維持されたし』
「トニー、ホテル。補給の為、一時後退許可を願う」
『ホテル、トニー。補給を許可する。他に補給希望機はいるか』
「アンソニー、ホテル。
「ジェイソン、ホテル。
『ホテル、アンソニー、ジェイソン。補給を許可する。座標L-13まで後退し、補給しろ。トニー、アンソニーとジェイソンの護衛を頼む』
「トニー、ホテル。
トニーの機体の傍へ2機の重火力兵装がやって来た。ケーファー乗りがアンソニー、アイアンフォート乗りがジェイソンと呼ばれているらしい。
彼らの名前が本名かどうかはともかく、
3機は指定された座標まで、巡航速度で移動した。
1050時 座標L-13付近
ブラスト・ランナーの補給は大きく二つに分けられる。
一つは機体の修復。もう一つは弾薬の補給である。
機体の損傷にもよるが、軽度の物なら支援兵装の搭載する装備で何とかなる。
だが、弾切れだけは話が別だ。
これも支援兵装に予備弾を搭載した弾薬箱を装備すれば解決する事ではあるが、その代わりに索敵装備を降ろす事となり索敵を他に依存する事となる。
その中には弾薬箱の中に予備のリムペットボムVを満載して運用する、変わり者のボーダーもいる。その手のボーダー達は皆コアを破壊する事に執念を持つ工兵である。
極端な例として、自分の機体にリムペットボムVを目いっぱい貼り付けて敵コアに
とにかく、現在は補給の順番待ちであった。
優先度は弾切れのアンソニーとジェイソン。最後に支援兵装機であるトニーの順番であった。3人の機体はリペアポッドで順番に補給を受けながら、ボーダー達も簡単な食事を摂っていた。
支給品のレーションの中にあるゼリー飲料を飲みながら、アンソニーはごちる。
「トニーと言ったっけ? おっさんよう、よくまあ強襲相手に支援で抑えに行ったな?」
「若いの。他にああするしか、なかっただろ」
「そりゃまあ、そうだろうけどさ……それに、どうもあのオペレータは堅っ苦しくていけねえ」
「俺は、あっちの方がやりやすい。若いのは女の方が良かったか?」
「そりゃま、そうだろ。インカムには
『いつまで降りてんだ。そろそろ交代だぞ』
「へいへい」
スピーカー越しにジェイソンにどやされたアンソニーは、ゼリー飲料の容器を投げ捨てる。
補給中のアンソニーの<ケーファー52>をジェイソンの<アイアンフォートD型>が庇う形で、
一方でトニーの<PLUS:G>は遮蔽物に身を隠している。リペアポッドでの補給を終えたアンソニー機は、別の遮蔽物に身を隠した。
交代で、ジェイソンの機体が補給を開始した。特別装備のバリアユニットを展開したままだ。
これには理由がある。
仮に遊撃兵装がいた場合、補給中の機体は無防備になる。
狙撃地点の一つは潰したが、遊撃兵装自体の撃破確認は取れていない。
傭兵達の間では、射線が開けた所へリペアポッドが配置されている事を"
バリアユニットの能力で、狙撃を防ぎながら補給を済ませる。
これは重火力兵装乗り、それもバリアユニットを選択した者達には当たり前の事である。
補給の最中、ジェイソンは自分の機体から降り、トニーのPLUS:Gを眺めながら声をかけた。
「あんたの機体、
「
「そうか。大枚叩いて改装キットを買ったが、今の方が良さそうだな」
「アイアンフォート、それもD型まで改装しているならそれがいい。……俺としては、次のモデルが気になる」
「おいおい、もう新型が出るのか?」
「噂ではな。究極の重量級ブラスト、と謳ってるらしいが……大方、ロージー
「あのガッチガチの、小型ワフトローダーみたいな硬さのアイツか……」
ブラスト・ランナーの構成変更には新造パーツの使用権購入の他に、改装キット購入による改装もある。
主に機体パーツに愛着が湧いたり、パーツ自体が新造されたばかりで構造的に余裕のある状態の機体を貸与されているボーダーが改装キットを使用し、近代化改修を行う。
基本的には、ブラスト・ランナーはその搭載武器と同じ様に機体パーツも物品や金銭と引き換えにマグメル経由でパーツ使用権を購入し、
貸与と言っても半永続的かつ自由度の高いものなので、余程の
そして余程の現地改修や特別仕様機でも無ければ、同仕様の機体をマグメルは予備機としてすぐに調達できるようにしている──と悪い事ばかりではない。
特別仕様機なんてものは、世間を騒がせている
そして植木鉢共で運用される一番いい例としては、GRFの
パーツ使用権に付いてある噂が流れているらしい。
「そういや噂では、<z.t>使用権ラインナップの中にいつまでたっても使用権が来ない奴があると聞いたな」
「ああ、あの話か。確か、メーカに新造できるかどうかで不備があるとか聞いたぞ」
「そりゃマジか。でも実際、どうなんだろうな?」
「俺は
『おいおいいつまでブラストの話してるんだ、交代だぜ』
「おう、すまないな」
今度はジェイソンがアンソニーにどやされ、急いで機体に乗り込んだ。順番的に最後になったトニーだが、機体の修復用装備を稼働させながら機体をリペアポッドに座らせた。
ジェイソンの機体が庇うように
トニーは無線回線を開き、戦況を確認した。
「トニー、ホテル。全機補給と応急修理が完了した。状況説明を請う」
『ホテル、トニー。現在戦況は膠着、座標Q-9付近で火力支援要請。アンソニーを向かわせたい』
「アンソニー、ホテル。無線傍受した。現場に急行する」
アンソニーのケーファーが、全速力で指定座標へと向かった。 トニーは戦術マップを見ながら、現地の友軍機を確認していた。
急行するアンソニー機を除けば遊撃兵装が1、強襲兵装が2機。
対峙する敵機は重火力兵装1、遊撃兵装2機が確認された。
トニーが撃ち上げた対空索敵弾は、まだ機能している。その索敵範囲内は空白であった。
──これなら、あるいは。
トニーは、ある提案を打診した。
「トニー、ホテル。ジェイソンと2機で中継点座標P-7を経由し、座標T-6──プラントAまでの進攻許可を求む」
『ホテル、トニー。お前達2機で何をする気だ?』
「トニー、ホテル。当該地点の制圧だ。その後の増援派遣は可能か?」
『ホテル、トニー。増援は制圧確認後なら可能だ』
「トニー、ホテル。了解、当該地点まで進攻開始する」
「ジェイソン、ホテル。無線傍受。トニーに随伴、前に出る」
『……ホテル、全機。トニー並びにジェイソンを支援可能な機体はいるか?』
E.U.S.T.のオペレータが、珍しく困惑した声色で作戦行動中の全機に訊ねる。
座標Q-9で戦闘中のアンソニーだった。返答はネガティブ。そちらに回せる余裕はない、との事だった。
事実、彼は制圧射撃を行い、その間に味方機を浸透させている最中だった。
ハイドラ重装砲による牽制と双門機関砲による制圧射撃は、確かに相手を釘づけにしていた。
その間に遊撃兵装と強襲兵装の機体が、敵陣深くまで進攻しつつも応答し独自の判断で行動していた。
遊撃兵装の目的は陽動で、真の目的はトニー達の支援だった。遊撃兵装機は索敵施設の範囲内に入り、敵を惹きつける。
トニー達は急いだ。先行している強襲兵装が交戦しているかもしれない。戦術マップには変化はないが、味方機とのデータリンクで索敵状況は共有される。
先行していた友軍機からの索敵データを受信した。座標T-6付近に、敵機が確認された。
その数は3機。全機支援兵装らしい。
不審に思った強襲兵装機は、身を潜めていた。
「どうした?」
『ああ。支援兵装が固まってやがる』
「……罠があるかもしれない、か」
『地雷か、リムペットボムか分かりゃな』
「お前達、ここは俺に任せな」
ジェイソンのアイアンフォートが補助武器──ECMグレネードを手に取る。それを見た強襲兵装機は照準を支援兵装の左腕部マウンターに定めた。
目くらましと同時に突入、各個撃破を図るのだろう。待ったをかけたのはトニーだった。
──ECMグレネードを使うなら、ベースに強襲兵装機を突っ込ませた方が良い。
PLUS:GがグラスホッパーVを手にする。加害半径の広いこの武器なら、罠の除去は容易だ。
強襲兵装機のボーダーは地面に目を凝らした。地雷の類は見えない。そこにデータリンクが更新され、索敵施設を遊撃兵装機が確保したようだ。
今がチャンスと判断したトニーが、声をかける。
──一斉攻撃だ、続け!!
1100時 GRFベース
──
そう判断した彼は、バレリオからの
ここで無駄死にする要員は、少なくとも司令部にはいない。例外はボーダーぐらいなものだが、戦費の
「司令官、ご決断下さい!」
オペレータが叫ぶが、指揮官は無言で戦況を見つめていた。その視線は鋭いものだ。
「敵が侵攻した場合、我々はどうなりますか?!」
「…………」
「司令官っ!」
その時、建物全体が揺れた。砲撃音と振動、そして爆音が響いた。通信士の声に被さるように、別のオペレータが声を上げる。
──敵部隊、増援です!
その言葉を聞いた指揮官は、静かに告げる。
「もう手遅れだ。総員、施設を放棄して撤退! 奴らに情報を残すなよ! 副長、貴様が脱出の指揮を執れ」
「指揮官、それは!!」
「黙れ、命令だ。聞けないなら、貴様も置いていくことになるぞ?」
「……くっ!」
「時間がない、急げ」
オペレータ達が慌ただしくなる中、指揮官は小さく溜息を吐きつつ、窓の外を眺めていた。司令部要員とボーダー達を乗せたヘリが、次々と離陸する。
彼の手にはスイッチが握られていた。続々と侵入してくる敵機を見て、今か今かと見計らう。
とは言え彼はここで無駄死にする気はなかった。彼は予め、コアの支柱にありったけの爆薬と弾薬類を仕掛けさせていたのだ。
──コアを倒壊させ、接近してきた敵に損害を与える。
連中が気付かずに突っ込んでくればそれでよし、気付いて時間稼ぎに徹している間にこちらは逃げられる。
それが彼の立てた計画だった。彼が死ねば、司令部は崩壊する。そうすれば指揮系統を失った部隊は烏合の衆だ。故に彼は部下達に撤収を命じた。
だが、2名ばかりの兵士は彼の指示に従わなかった。
──最後までお供しますぜ、
彼らはボーダーだった。
指揮官とは腐れ縁、同じ釜の飯を食った仲だ。彼の意図する事など、手に取るように分かる。だからこそ、彼らは付き従った。他の連中から見れば滑稽に見えるだろう。
しかし、彼らにとってその行動こそが誇りなのだ。指揮官は笑みを浮かべて礼を言い、ここでの最後の任務を与える。
──全員、生きて還るぞ。
対Gスーツに着替えた指揮官は自分の機体──ナクシャトラ製の<E.D.G.-θ>、その遊撃兵装機に乗り込んだ。
彼もまたボーダーであり、"
──了解!
彼の号令に、全員が応える。3機のブラストランナーが、各々の武器を持って迎撃する。ベース内の建物に遮蔽を取りながら、入口から接近する敵機を一機ずつ狙撃する。
E.D.G.-θが手にする武器──BSR-ボーライドの発砲音を聞きながら、指揮官は呟いた。
「全機、残弾はどのくらいだ?」
『ファフニールが1セットにサワード・コングが1発、後は……
「よし、コングで入口を潰せ。その後は
『了解!』
ベースの入口付近、高所の遮蔽物に陣取っていた重火力兵装のボーダーが答える。
3機の中で一番遅い機体──
指揮官はそのボーダーに、持ち場であるベースの入り口を崩落させるよう命令を出し、後退させた。重ロケットランチャーのサワード・コングが火を噴き、ゆっくりとした速度で弾頭が飛翔する。
偶然ベースに侵入しようとした敵機を巻き込み、入口は崩落した。
──これでしばらくは入れまい。
指揮官は内心でほくそ笑むと、次の獲物を探すべく周囲を見渡そうとした瞬間、視界の端で何かが動いた。それは一瞬の出来事だったが、確かに見たのだ。黒い影のような物体が、ベースに向けて突っ込むのを。
その正体がなんなのか分からない筈がなかった。敵の強襲兵装だ。その機体がコアに銃弾を撃ち込もうとした矢先、ハチの巣にされる。
先のヘヴィガードのボーダーが迎撃したのだ。
帰りがけの駄賃代わりだと言わんばかりの様子で、ヘヴィガードは換装エリアに入った。
強力な電磁場を発生させる換装エリアはその名の通り機体の兵装を換装する他に、
その為、
残りは自分を含めて2名。城塞都市バレリオのGRFベース入口は三か所ある。
正面、南東、そして北西だ。
その内の一か所──北西部の入口を崩落させた。
残りの二か所の内、正面は指揮官自ら狙撃銃を構えて対応していた。
無論、素通しする訳がない。予めセントリーガンを複数設置していたのだ。
仮に生き残ったとしても、後始末を自動砲台に任せて換装エリアに逃げ込めば問題ない。出来るだけ時間を稼いで、撤収すればいいだけだ。だが指揮官には分かっていた。恐らく敵はそれを見越してやってくるだろう。
既にプラントはE.U.S.T.の独占状態。自分のやっている事も戦略的には無意味な、ただの時間稼ぎだ。
それでも彼は抗う。何故ならこれは個人的な八つ当たりなのだから。
──き、来た!
通信越しにボーダーの声が響く。同時に戦術マップに反応が出る。
「数は?!」
『6、いや7です!!』
「……
『了解! ……死なないで下さいよ?』
「貸しがあるのに死ねるか!」
命令通りに南西部の入口が爆破されたその時、正面入口からも爆発音が響いた。それと同時に1機のブラスト・ランナーが侵入してきた。
軽量級のE.D.G.-θにとっては、ショットガンの散弾は最悪だ。だが
奇しくも1対1、指揮官と
目の前の相手から通信が入る。
──お前の相手はここにいるぞ!
その言葉に指揮官はニヤリと笑う。
──そうだ、かかってくるがいい!
指揮官は機体を操作し、リボルバー式のハンドガン──マーゲイ・サヴァートを二挺構える。
マグナム弾──それもワイルドキャットだ──を使用する関係上、オートマチックからリボルバー式に変更しなければならなかった拳銃だが、それだけ威力も大きい。
口径、装薬量共に支援兵装のハガード系統には及ばないが、頭部に当たれば
弾丸が飛び、狙った先へ。その先にいたのは、当然PLUS:G。
その動きは鈍重ながらも、
その応酬を続けること、暫し。
一気に相手に詰め寄った所で、「この距離ならば!」と指揮官は考えるが、相手が悪かった。
その銃口は既にこちらを捉えていたのだ。
マーゲイ・サヴァートは瞬く間に撃ち抜かれ、更にもう一発直撃を受ける。装甲が剥がれ落ち、腕部フレームが砕ける音。コクピット内の警報が鳴り響き、機体の耐久限界ギリギリを伝える。
後一発でも受ければ大破は免れない。カメラからの映像もノイズが走る。
──ここまでか……。
そう諦めかけた時だった。突如目の前の敵機が
それと同時に回線が入る。
『
「……すまん、借りが出来たな」
『これで貸し借りなし、ですよ!』
南西部の入口近くに残っていた遊撃兵装のボーダーが、咄嗟にスタングレネードを投げ込んだ事に気づいたのは換装エリアに着いてからだった。
E.D.G.-θの
加えて、換装エリアによる補助は強力で、あっと言う間に上空の輸送機に回収された。
やや遅れて、スタングレネードを投げ込んだボーダーの機体──
「……しかし、あのボーダー。なかなかやる奴だったな。今度は味方として戦いたいものだ」
指揮官は懐から取り出したスイッチを押した。
支柱に仕掛けられた爆弾が起爆し、ベースのコアが正面入口を塞ぐように倒壊する。
何機か下敷きになったのを確認した指揮官は満足そうに笑い、高笑いしながら飛び去っていった。
1200時 GRFベース跡地
「ひっどくやられたもんだなあ……」
「まさか自軍ベースのコアを倒壊させるとは、思わなかったぜ」
それぞれの機体から降りたアンソニーとジェイソンが、そびえ立つガレキの山を見ながらぼやく。
一帯を制圧することに成功したE.U.S.T.陣営のボーダー達であったが、相手の予想外の策に大損害を被った。敵ベース前のプラントを奇襲し一斉攻撃を敢行したはいいが、その大半が撃破された。
ある者は入口の崩落に巻き込まれ、ある者は待ち伏せされ。そしてある者はコア攻撃一歩手前でハチの巣だ。
それだけならまだ良かった。
その後、第二波として投入された者達はベースの倒壊に巻き込まれてしまったのである。流石にあの大質量の前にはアンチダメージ・コクピットシェルも役には立たない。
ベース内に突入して生き残っていたのは、半壊状態のPLUS:Gの他に強襲兵装の1機だけ。
爆弾が指向性の物だったのもあったが換装エリア付近で戦闘していた為、倒壊に巻き込まれずに済んだのである。
「トニーのおっさんも、よくまあ生きてたな」
「あの爆発は予想外だった。勝ちは勝ちだが、実際の結果としては痛み分けか?」
「だろうな。俺は突っ込まなかったから命拾いしたもんだし……」
あの後、ジェイソンのアイアンフォートはベースへ突入しなかった。
プラントの制圧維持に専念していたのだ。そもそもアンソニーに至っては、ベース倒壊を目撃したのが索敵施設前まで侵攻した矢先の事であった。何はともあれ、勝ちは勝ちだ。
報酬は受け取れるだろう。自然、話題もそっちの方に切り替わる。
「報酬貰ってバローに戻ったら、ジェイソンはどうすんだ?」
「俺か? まずは……飯だな。アンソニーこそどうするんだ」
「そりゃ酒と女に決まってんだろ! ここんとこ
「俺はA.E.にデータを提供して、予備機か
機体の状態とは反面に無傷のトニーは、笑いながら肩をすくめてみせた。
思う所があったのか、そんな彼をアンソニーは指差した。
──なあ、おっさん。前から思っていたんだが……何でヘヴィガードのコスプレしてんだ?
これには誰もが気にしていた。
しかし戦闘中だったのもあって、その容姿を見たのはアンソニーとジェイソン以外にいなかった。結局、アンソニー自身も戦闘が終わるまで聞けずじまいだった。だが終わった今、この機を逃す手はない。
思い切って訊ねてみたのだ。すると意外な答えが返ってきた。
「これは最近出来たばかりのボディーアーマーだ。マグメルの連中に聞けば、販売先を教えてくれるぞ」
「マジかよ。マグメルの連中も、変な事考えるもんだな……」
「このアーマーは
「嘘だろオイ……」
答えを聞いたアンソニーとジェイソンの二人は、ただただ呆れるばかりであった……
城塞都市バレリオ ~迫水制領~のMAPを見ると分かりますが、なるたけ座標を乗せて書いてます。