──はぁ……。
新進気鋭の傭兵団──S.N.C.A.の移動拠点であるELVS級成層圏航行プラットフォーム。
その
テーブルに座る彼女の目の前には、無残にも枯れたサボテンの植木鉢。
彼女はこのサボテンをいたく気に入っていた。
普段あまり感情を露わにしないのもあるが、このサボテンの前では別だったのだ。戦友や、家族と言える仲間達の前でも気丈に振る舞えた理由。
それは、このサボテンと自分の愛機──XSZ-70Sk
何故サボテンが枯れてしまったのか。それは実に簡単な事だった。
数日前に仲間のボーダーの一人が、うっかり彼女のサボテンの植木鉢に水をやりすぎてしまったのだ。
お調子者でどこかドジな所のある女性ボーダーが原因だ。
彼女──モニカがやらかした行為に翠髪の少女──ハティの怒りを買い、あわや喧嘩寸前になった。
話はS.N.C.A.の長であるローザに伝わり、彼女は罰として艦内全てのトイレ掃除を素手でやる羽目になった。
復興歴になる前、どこかの組織の長が率先してやっていた事らしい。
そんな話を、戦術アドバイザーとしてたまたま乗り合わせていた老婆──デボラが教えてくれた。
「うええ、そんな馬鹿なぁ……」
「文句言わない! さっさとやる!」
「はーい……」
今日もモニカは、サボらせない為にとまじめな事に定評のあるリサの監視の目がある中、掃除用具一式を持って、艦内のトイレと言うトイレを回っている。
そしてハティだが、空腹を覚え項垂れた様子で艦内の食堂へと歩いていた。ご飯派の彼女は、普段握り飯一個で食事を済ませる。だが、それは良くないと指摘する者がいた。
実働部隊の別チームを率いる、褐色の肌色が特徴的な女性ボーダーのディーネだ。彼女はS.N.C.A.に属する前、世界各地を傭兵として転戦する傍ら美食を旨としていた。
更に姉の様な存在のイーリス──エルヴスの専属操舵士だ──にも同様の事を指摘された。
そしてある日の事、二人に半ば強引に連れ出されたのが始まりだった。ハティからすれば、パンでなければご飯以外何を食べても同じようにしか感じないのだが……。
そんな彼女が食堂に足を運んだところ、先客がいた。
ぬいぐるみを隣に座らせた少女と、その対面で漫画を読んでいる少年だった。
ミリーとティントだ。二人はリサのチームメイトである。ボーダー支援組織のマグメルから派遣されたボーダーで、リサ同様モニカの監視役でもあった。
三人で交代して、モニカがサボらないように目を付けていたのである。どうやらモニカにリサが付いている辺り、今日はお休みらしい。
ハティが近づいてくる事に気づいたミリーが、ぬいぐるみを抱き寄せ手招きする。
「ハティお姉ちゃーん! こっちだよー!」
「……ありがとう、ミリーちゃん」
「だ、大丈夫なんですか。ハティさん?」
「ええ」
そう気丈に振る舞いつつミリーの隣に座るハティだが、やはりサボテンの事は忘れがたい。
あの日以来、ハティはふとした時にサボテンの事を思い出して悲しくなる時があった。その度に、今のようなミリーやティントの呼びかけに助けられてきた。
そんな彼女に、ティントが口を開く。
ハティの性格をよく知る彼としては、放っておくわけには行かなかったのだ。二人はまだ料理を頼んでいなかったらしく、これから注文するところらしい。
「二人とも、今日はあの
「大丈夫だよ。今日はミドリお姉ちゃんが当番だし」
「エルお兄ちゃんも一緒ですね」
二人の言葉を聞いて、ハティは安堵の溜息を吐いた。
何しろハンナと来たら、
外部から派遣されるボーダー達にも、ハンナを厨房に立たせないよう厳命している程だ。そんな彼女だが、最近やって来た女性オペレータのレジーナに弟子入りしたらしい。
オフの日は彼女の指導の下、料理の練習をしていると言う。
──いつかは、ハンナの食事をまともに食べられる日が来るのかもしれない。
そんな事を思いつつ今日の食事は何にしようか、ハティは考えた。
握り飯も良いが、偶には別の物を食べたい。
どこか気の利くティントが、読んでいた漫画を閉じて口を開いた。ここの食堂は、軍事組織には珍しく食券で購入する事になっている。
福利厚生の一環として、ハンナ以外のボーダーが持ち回りで調理専門のクルーに混じって料理を担当するのだ。
お任せセットと名付けられたそれが、各ボーダーの得意料理だ。
「ハティさんは何を食べますか?」
「私は……
「あたしも炒飯! 少なめにね!」
「うん、分かった。注文してきますね」
ティントは席を立つと、とてとてと食券販売機に向かって駆けだした。幸い食券機に並んでいる者はおらず、すぐにボタンを押して注文する事が出来た。
代金の支払いは身に着けているバングルを介して行われる。直接支払いもできるし、給与天引きでも支払いが可能だ。所持者同士なら融通も出来る。
ボタンを押すとドゥイン! タッチパネルを操作するとピロリン!
と奇妙な音を立てるのが、この食券販売機の特徴だ。
一部の外部クルー──特にマグメルから派遣されてくるオペレータのフィオナ。彼女が、この音を聞く度に体をびくんと震わせるのをティントは見た事がある。
何故かはわからないが、ティントもその音には懐かしさを覚えるのだ。
ややあって、ティントは二人分の炒飯と定食を持って来た。小さなトレーに置かれたそれを、ミリーは嬉々として受け取った。
ハティもミリーと同じ炒飯──それにしてはご飯が大盛のものだ──を受け取った。
皆が食器を手にそのまま食べようとして、ティントの前にある料理に面食らった。
「ねえティント、それ……何?」
「今日のお任せセット、みたい……」
「ご飯とみそ汁、カレーうどんの上に……トンカツ?」
日本食に詳しいハティが、ティントの前にある料理──カツカレーうどん定食を見る。
その名の通り、日本の蕎麦屋で見かけるようなメニューだ。 しかし問題はそこではない。何故、こんなものがエルヴスの食堂に用意されているのかだ。
その答えを知っているのだろう、ミリーがティントに問いかけた。
「……多分、今日の訓練組が"デボラママ"とアルベルトさんの指導だったからじゃないかな?」
「ティントー、それ食べ残してもあたしにはちょっと無理かなー」
「私もその量は……無理ね」
ミリーがティントに口をとがらせて注意する。
ティントが老婆であるデボラをママと呼ぶのは理由がある。厳しいながらも、ほのかに感じさせる彼女の人となりがそうさせるのだ。
それに本人は気付いているのかは知らないが。
実際、軍隊経験者のボーダーが彼女に応答する際は「イエス、マム!」と返事する。
話を戻そう。ハティの前にある炒飯は、実に大量だ。そしてミリーはハティより年下の少女で、それに違わず少食だ。つまり誰も救援を頼めない。
かくしてティント少年は、カツカレーうどん定食と言う謎めいた定食を相手に"大攻防戦"を挑む事になった。
完食すれば
まずはみそ汁を一口すする。
味噌の味がしっかりしており、なかなか美味しい。次にフォークで刺したカツを口に運ぶ。
揚げたてらしくサクッとした食感が心地よい。
だがその感想はすぐ消え去った。辛い。とにかく辛いのだ。
カレーうどんのカレーの上に、トンカツが半ば浸かっている形なので当然と言えば当然だ。
だが、これは少年の味覚には中々キツイものがある。
なんとか咀嚼し飲み込んだが、喉の奥が焼けるような感覚があった。続いて、口内がヒリヒリするような感覚。
ティントはコップの水を一息に煽ると、再びフォークを手に取った。今度は、カレーうどんをパスタを食べるように巻き取って食べる。
そうしているのも、ティントは箸を使えないのがその理由だ。その一方でハティとミリーは炒飯をスプーンで食べている。
因みにハティの炒飯は、彼女が注文した通りの量だ。ご飯派の彼女は、ご飯物なら食べられるのだ。
たとえそれが、3人前であっても。
◆
ティントがカツカレーうどん定食を食べ始めてから、7分43秒が経過した。
彼は何とカツカレーうどん定食を完食し、勝利に納めた。
食事の終わりにティントは5杯目の水を飲み干すと、深く息を吐いた。
「た、食べられない……」
「ティント、カッコいいー!」
「ナイスです」
二人の少女に拍手で迎えられ、少年は恥ずかしさから赤面する。事実、ティントは胃袋の限界ギリギリまで食べたのですぐには動けなかった。
動けない彼の代わりに年長者であるハティが、全員の食器類を纏めて返却口へと持って行った。
たまたま返却口にいたミドリが、意外と言った様子でハティに訊ねてきた。
「あらぁ?
「違うわ。頼んだのはティント君。ミドリ、アレ……誰が対象だったの?」
「そうねえ……」
ハティの問いにミドリはえーと……、と指折り数えながら、答えていった。
ワイアット、アルベルト、ゴードン、オリバー……合計10名前後の男性の名前が挙がった。名前を聞いてハティはなるほど、と頷いた。
名前の挙がった者達は皆食べ盛りか、屈強な男達だ。その中でもオペレータのオリバーの名が挙がったのは意外だが、彼は元ボーダーだ。
引退し、オペレータとして勤務していても体力維持に余念がないのだろう。彼がオフの時は、私室で重い荷物を背負っての筋トレに精を出している。
かと思えば、ボーダー達の体力訓練に付き合ったりしている事はハティも知っていた。そうこう話をしている内に男性陣が疲労困憊、と言った様子でやって来た。
噂をすれば何とやら、と言うべきか。ミドリが名前を挙げた男達だった。
「よぉ嬢ちゃん方、こんな時間に珍しいな」
「ごめんなさい、私達はもう済ませたから」
「そいつは残念だぜ」
気さくな態度の男性陣に、ハティは社交辞令的に返した。
そのまま世間話のついでに、ティント少年が挑んだ未知の定食との"大攻防戦"の事を話した。腹を空かせていた彼らは、ティントに負けじと食券販売機へ急いだ。
あっという間に食券販売機に列が出来る。そして例の如く、食券販売機は注文ボタンが押される度にドゥイン! と奇妙な音を立てるのだ。
同じくタッチパネルも奇妙な音を立てる。
しかも5回連続でタッチすると一際豪華な音を立てて、画面にこう表示されるのだ。
『DOUBLE UP BONUS!!』
二等身大の翠髪、ダブダブのセーラー服を着た少女のマスコットキャラクターが登場した。その手には同じ文言が書かれた札を持っており、それをゆっくりと掲げる。
食券が発行されるが色は緑色で、おまけに"スペシャルサービス! 限定30個!! "と書かれている。
食券販売機の画面下部に──"お一人様につき1つ限り""無くなり次第終了"──と表示されている。
そして、発行された食券の一番下に小さく但し書きがある。
『※フルセットボーナス:ヘヴィガード盛り』
その食券を手にしたのは、オリバーとゴードンだった。
この食券販売機、どう言う訳かブラスト・ランナーのブランドに基づいた大盛ボーナスを勝手に発行する。
料金はそのままだが通常の注文量を
「おほぉっ?! 驚かすんじゃねえよ……ったく、心臓に悪い」
「
「あっ! ゴードンさん達、当たったんですか? いいなあ。俺当たった事ないんですよ」
「そうは言うがなワイアット、お前これ食えるのか?」
「……へ?」
間の抜けた声を上げるワイアットに、ゴードンは食堂のメニュー画面を指差した。本日のお任せセットと書かれた文字と共に、その料理の見本が表示されている。
そう、カツカレーうどん定食だ。これがワイアットが頼んだハンバーガーセットなら、まだ何とかなるだろう。
しかしご飯とみそ汁、更にカレーうどんとトンカツ。
それを全部4割増しと言う盛りは、とてもではないがそう平らげられるものではない。
ちなみにだが、二人と同じメニューを注文した他の連中は全員
ある者は、カレーうどんをパスタのように巻いて食べる羽目になった。又ある者は、カツカレーとご飯をどう食べるかで迷う事になったのである。
そのやり取りを脇目に、ハティはハンガーへと向かった。
その道中、彼女は背後から声をかけられた。
「ちょっと待ってよー!」
「ミリーちゃん、どうしたの?」
「あたしもお供しまーす!」
ミリーだった。彼女は戦闘中以外はぬいぐるみをいつも抱き抱えているのが常だ。
そして今は、彼女のお気に入りのキャラクターであるパンダではなく、ロージーのぬいぐるみを抱いていた。最近、ブラストメーカ各社がノーサイド商会やマグメルを通して、自社製品のグッズを販売している。
ブラスト・ランナーのぬいぐるみもその一つだ。
どうやら彼女なりに、思う所があるようだ。ハティとミリーは揃ってハンガーへ向かった。整備士達も昼時なのか、人はまばらだ。その中を歩くこと暫し、ハティはある機体の前で足を止めた。
自分の愛機──XSZ-70Sk──輝星・空式。通称、"ソラ"。
ハティが枯れてしまったサボテンを見る他に、いつもこの機体の前にやって来るのが日常だ。共に数多もの戦場を駆け抜けた愛機は、ホワイトとライムグリーンで塗装されている。
細かい傷がその証だ。
それを恍惚とした表情で眺めるハティと、ぬいぐるみを抱きしめながら傍で眺めるミリー。
そんな二人の前に一人の男が現れた。
整備士であるエドガーである。彼は全身傷だらけだ。とはいっても、整備作業中に生じるものが多い。
「…………」
「ハティ、今日はお前オフシフトだったよな?」
「ええ。でも、"ソラ"とは一緒に駆け抜けたものだから……この子の傍にいたくて」
「"ソラ"? 空式とは違うの?」
「ん? まあな……」
少女の言葉に言葉を濁すエドガーだが、理由がある。
通常モデルの
特殊機構を搭載した、
この事は外部の人間には、話さないようにしている。
クレアシオンとの抗争が落ち着いてしばらく経つが、未だに小規模な残党は各地にいる。均衡を保っている世界でも、いつものようにハティがハンガーにやって来るのも日常だ。
だが隣にいる少女、その手に抱えるぬいぐるみにエドガーは興味を持った。ブラスト・ランナーを模した可愛らしいぬいぐるみだ。
ロージーのようだが……。
「そういやお嬢ちゃん、そのぬいぐるみはどうしたんだ?」
「これ? この前立ち寄ったバローのノーサイド商会で売ってたの」
「それ、ロージーだよな? ……にしては脚が無いぞ?」
「うん! なんでも、ガロア海軍さんの専用モデルなんだって。珍しいから、買っちゃった!」
「確かに珍しいな……」
隣でぬいぐるみについての話を聞いていたハティだが、脚の無いロージーと聞いて興味が湧いた。ミリーの持っているぬいぐるみを見ると、なるほどデフォルメされていて可愛らしい。
ロージーと言えばガロア海兵隊総大将、レックスの乗機とする重装甲の機体でその脚部も特徴の一つだ。それが無いというのは確かに奇妙な感じがする。
とはいえ、よく見れば普通のぬいぐるみのようでもある。ふむ、とハティは腕を組み、少し考える素振りを見せた。
"ソラ"とぬいぐるみを交互に見比べる。それからエドガーの方を見て、こう言った。
「ねえ、エドガー。……ぬいぐるみって作れる?」
「言うと思ったよ。俺が作るより買った方が早いぞ」
「ハティお姉ちゃん、あたしの部屋に来る? 実は
「……えっ?」
ミリー曰く、この間滞在したバローの娯楽施設にあったクレーンゲームの景品にあったらしい。
一緒に遊んでいたティントと、年長者として同行していたエルとシャルロッテ──。
──特にシャルロッテがクレーンゲームでぬいぐるみを獲ろうとした所、何と一緒に獲れてしまったと言う。
そうして手に入れたのはいいが、狙っていたのは自分達の愛機であるフォーミュラとロージーのぬいぐるみ。
輝星・空式のぬいぐるみではない。
そこで、ぬいぐるみを集めているミリーに白羽の矢が立った訳だ。ぬいぐるみなら貰ってもいいかなと思いつつ、ハティはミリーと共に彼女の自室へやって来た。
しかし、部屋の扉を開けた瞬間、その光景に驚いた。
「ひ、ひ、ひ……ひぇええ──っ!!」
「ハティお姉ちゃん、そんなに驚く事かなあ?」
「いやいや、部屋一面ぬいぐるみだらけじゃない! いくらなんでも集め過ぎよ?!」
ハティは自分の部屋との差に驚いた。四方八方ぬいぐるみの大群なのだ。棚の上にも、机の上やベッドにも、とにかくぬいぐるみだらけだ。
正直、ここまで集める気持ちが分からない。しかも、その数は尋常ではなかった。一体どこからこんな数を持ってきたのか。
ハティが疑問を口にすると、ミリーは困り顔で答えた。
「ちょっと無理かなー」
「それ、答えになってないよね?」
「それはできないかも……」
「あのー……?」
どうやらこの話題はあまり触れない方が良さそうだ。見れば、ミリーの目が澱んでいる。
正直言って怖い。
ハティは話題を切り替える為に部屋中のぬいぐるみを見ると、様々な種類がある事に気が付いた。動物のぬいぐるみだけでなく、ブラスト・ランナーのぬいぐるみもある。
中でも目を引いたのは、大きなぬいぐるみだ。
どこかで見たような外見だが、その大きさはミリーがすっぽり入るくらいある。だが、よく見ると手足は無く、胴体だけのようだ。おまけに頭部は何処かに消えている。
ぬいぐるみとしては異様な姿だ。
──ひょっとして、これは着ぐるみなのでは?
そう判断したハティの視線の先にあるものに気づいた、ミリーが教えてくれた。
「ゴードンさんの知り合いのボーダーさんが譲ってくれたの! ロージーなりきりセットだって言ってた!」
「……今度、その人紹介してくれない?」
「いいけど、結構お金かかるらしいよ? ……あった! はいこれ、
「ほ、本当にそっくり。……ありがとう。でもいいの? 集めてるんでしょ?」
「うん。あたしは同じのを沢山持ってるし、ハティお姉ちゃんが持っていた方がぬいぐるみも喜ぶから!」
「……大事にするわね」
少女の優しさに、ついつい涙腺が緩みそうになるハティ。だが彼女の傍に鎮座しているぬいぐるみを見ると、すぐに表情が変わった。
そのぬいぐるみは、他のぬいぐるみとは違う異様な雰囲気を漂わせていた。
柔道着姿で仁王立ちするその姿は、どこか守護神の様にも思えた。厳とした、襟を正されるような……とにかく真面目にやる事を旨とする。
それこそ命がけで──とことん極めないと、跳び蹴りや頭突きで体に叩き込まれそうな──そんな感じだ。
──よくわからないが、このぬいぐるみは拝んでおいた方が良さそうだ。
ハティはそう思い、そのぬいぐるみの前で両手を合わせた。何故かミリーも側で同じように両手を合わせ、祈りを捧げている。
ひとしきり祈りを捧げた後、
ミリー程ではないが、一つはあってもいいかもしれない。
そう思いつつ、ゴードンに用事が出来たハティは一路、食堂へと向かった。
その表情は、とてもにこやかであった。
ハティが輝星・空式のぬいぐるみを手に入れた一方、食堂では……。
「はあ……もう食えないな。後で医務室に行って、胃薬を貰おう」
「ああ、俺も同行しよう」
オリバーとゴードンは、息苦しそうに嘆息する。
二人は目の前にあった"
食事を終えると、二人は早速行動を開始した。返却口にいたエルが、心配そうな表情で二人を迎えた。彼は、空になった食器を片付けようとしていたが、その手を止めた。
二人の様子がおかしいからだ。
特に、オリバーが普段よりもずっと険しい顔をしていた。何か良くないことがあったに違いない。
そう考えたエルは、二人に声をかけた。
「二人とも、だ、大丈夫ですか? なんか変なもの、入ってましたか?」
「エル、味の問題じゃないから安心しろ。単に量が多かっただけだ」
「そうですか……よかったあ」
「俺も歳だな。若い頃ならもっと食えたんだが……」
「あんたら、いい歳して無茶だぞ」
「悪いな、アルベルト」
アルベルトにたしなめられながらも、ゴードンとオリバーは食堂を後にした。
医務室までの道中、オリバーが気になった事をゴードンに訊ねた。
「そういやあゴードン。お前、いつ箸が使えるようになったんだ?」
「知り合いが日本食好きでな。みっちり仕込まれた」
「知り合いって、あのブラスト着ぐるみセットを売ってる奴か?」
「……ああ。最近はミリーにロージーの着ぐるみを贈ったらしい。奴曰く、防弾性はピカイチだとさ」
そりゃまた随分変わった事をする奴だ……。とオリバーが思う矢先、目の前から翠髪の影がやって来た。ものすごい勢いでこちらへ走ってくる。
オリバーはその正体を知っていた。ハティだ。
オリバーとゴードンが怪訝に思う中、ハティは彼の前で急停止した。
「あ、あのゴードンさん!」
「……どうした?」
「私にも知り合いのボーダーさんを紹介して下さい!!」
「すまん、話がいまいちわからんのだが……」
「おいゴードン、こりゃアイツだ。さっき話してた奴の事だぞ」
そう溜息交じりに説明するオリバー。それを聞いてゴードンは天を仰いだ。
確かに奴とは接点がある。
だが、俺は奴の代理店窓口になった覚えはない。何がどうしてこうなった。
──今度奴に会ったら、一番高い酒の一杯でも奢ってもらうとしよう。
ゴードンは思考の片隅で八つ当たりの内容を考えながら、興奮気味のハティの要望を聞き入れる事にした。
──数週間後。
夜な夜な人間サイズの
何でも、
夜中、缶ジュースを買おうとして出くわしたらしい。その日は決まってハティの夜間警備のシフトと被るのは何かの偶然なのだろうかと、大半のクルーは考えた。
その噂の真相を知るのは4名。ローザとゴードン、オリバー。……そしてミリーだけである。