8人目の魔女   作:凧焼かるび

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「さて、そらさん。あなたはなんでこの世界に来たのか覚えてるっすか?」

 

「はい!じぶんになるためです!」

 

「んー、まぁそうなんすけど……そのじぶんになるためにはどうすればいいかわかるっすか?」

 

「えっと…まじょをたおす?」

 

森の中から少し歩くと、川沿いに出た。小さな川だが水は澄んでおり、パラパラと魚が泳いでいるのも見える。少し休憩してから、オーブはそらに本題を話し始めた。本題——つまり魔女討伐の作戦会議である。

 

「じゃあそらさんが倒すべき相手についての説明を始めるっす」

 

この大陸には七人の魔女が住んでおり、それぞれの領地を治めている。そして彼女たち一人一人が、世界を滅ぼしうる力を持っている。

憤怒の魔女——スカーレット=ローズ。

均等の魔女——ヴァイオレット=オルテンシア。

堕落の魔女——ブラン=コスモス。

死の魔女——ネロ。

夢知の魔女——セレステ=ミオソティス。

諦観の魔女——ヴェール=アルストロメリア。

忘却の魔女——イェロウ=フリージア。

中でも危険なのが、スカーレットとネロである。

 

「この二人は激ヤバっす。見つかったら即殺されるって思った方がいいっすね」

 

「ふーん」

 

曖昧に頷くそら。集中力を欠いているのか,すでに上の空だった。だがいちいち集中できているのか聞くのも億劫なので,話を続ける。

 

「こほん。では次に、なぜ魔女たちが強いのか説明するっす」

 

七人の魔女には、それぞれ女神の力が分け与えられている。ただの魔力の塊に過ぎなかったその力を、魔女たちは自分に合うように変質させた。それが魔女を魔女たらしめる力、権能だ。

 

「そんなにつよいなら、わたしはどうやってまじょをたおせばいいんですか?」

 

「ふふふ、よく聞いてくれましたね………実はそらさんにも女神様から力が与えられてるっすよ」

 

「ちから?」

 

手を閉じたり開いたり、突き出してみるそら。だが別に何かが出てくるわけでもなかった。

 

「…女神様がそらさんに与えたのはただの魔力の塊っすよ。なんか出せるわけじゃないっす」

 

「むぅ」

 

少し悲しそうに眉を下げる。力と聞いて何をイメージしたのだろうか。

 

「その力はまだ開花してません。そらさんの強い願望に応えて、新たな権能になるんすよ」

 

「けんのー…」

 

ちょっと考える素振りを見せた後、彼女は自身の望みを口にした。

 

「おなかがすきました!なにかごはんがほしいです」

 

当然のことながら、何も起きない。懸命に食事がほしいことを念じても、何も起きなかった。不満げな顔でオーブを睨むそら。

 

「うそつきましたか?」

 

「ついてないっすよ…お腹空いたなら魚でも食べればいいじゃないっすか」

 

「さかな…」

 

少女の視線が川を泳ぐ魚に向けられた。ずんずんと川の中に入っていく。幸いにも浅瀬で、流されるようなことはなかったが、魚たちは突然の侵入者に驚き、少女から離れていってしまった。

 

「あー、そんなふうにしても魚は…」

 

そこでオーブは不思議なものを見た。目の前から少女が消えたのだ。否、事実消えたわけではない。集中すると、先ほどと変わらぬ様子で川を魚を目で追う少女の姿を見つけることができた。彼女はただ極限まで影が薄くなっただけだった。そらはまるで植物のように、自然に馴染んでいた。そして当然、異物が消えたと判断した魚たちは、無警戒にそらに近づいていく。

なんの苦労もなく、そらは魚を捕まえることに成功した。魚は体に手が触れてなお、自分が捕まったことに気がついていなかった。オーブは確信する。女神が彼女を選んだ理由を。この自然に紛れ込むほどの存在感のなさが彼女の武器だと、オーブは錯覚してしまった。

すごい、そう褒めようとした時だった。そらは捕まえた魚の頭を引きちぎり、一気に身に食らいついた。まるで獣か何かのような食べ方。あっという間に身がなくなり、骨すらも飲み込んでしまった。食べては捕まえ、捕まえては食べを繰り返し、やがて周辺を泳ぐ魚はいなくなってしまった。

 

「マジすか…」

 

「おいしかったです」

 

口元を拭いながら呟くそら。二十匹程平らげたはずだが、まだ物足りなさそうな顔をしていた。

 

「なんというか…ワイルドっすね。躊躇いなく食べるとは…」

 

「?」

 

腹を満たしたことで元気が出たのか、彼女からやる気に満ち溢れたオーラが出ている。オーブは思った。あの存在感を消す特技を使えば、魔女にバレずに接近することができるのではないか、と。頭の中にいくつもの方法が浮かんでは消えていく。女神から与えられた魔女の討伐を遂行するために。オーブを思案の海から引き上げたのは、そらの声だった。

 

「おーぶさん?」

 

「ん、ああ。ごめんなさい。ちょっと考え事してました」

 

「それで、まずはどこにいけばいいですか?」

 

「うーん、そうっすねぇ」

 

オーブは地面に地図を投影した。大きな大陸が二つ。8色に塗り分けられている。

 

「この赤点がそらさんがいるところっす。んで、一番近くにあるのが白色の領地…ブランのところっすね」

 

「ブラン…」

 

「やっぱり最初はブランのところに行くべきだと思うっす。彼女は唯一、女神様の排除に反対した魔女っす。多分事情を話せば味方してくれると思うっすよ!」

 

「ぶらん…」

 

ブランが治めているのは西大陸の南側。魔女が治める中では最大の規模を誇っている。七つの魔女領の中で最も広く、最も人口が多いのは先代の魔女ビアンカの治世が良かったこともあるが、やはりブランの性格もあるだろう。弱者を慈しみ、争いを厭い、人間を積極的に保護する姿勢は、ブランが元人間であったことに由来する。

 

「ブランは七人の魔女の中では一番弱いっす。でも潜在能力なら負けてないっすよ。部下もいい人間に恵まれてるっす」

 

「へー…じゃあいってみます」

 

こうして一人と一球はブランの領地に足を踏み入れることを決めた。

 

 

 

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