琴葉茜は甘き未来の夢を視るか?   作:DUN.ネコノカンリニン

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……止めてくれ……。


「 」ノ雨

 ―――ぽつりぽつり。雨は降る。

 まだコンクリートは水の黒に染まらない。まだ水は鏡になり得ない。

 

 ―――ぽつりぽつり。雨は降る。

 コンクリートは黒く染まる。まだ水は鏡になり得ない。

 

 ―――ぽつりぽつり。雨は降る。

 コンクリートは水浸し。水は溜まって鏡になる。

 

 ―――どろりどろり。血は流れる。

 コンクリートは血に染まり、ウチの手は血に染まった。

 右手はナイフ。左手はカラ。

 溜まった水は鏡となり、ウチの顔を映し出す。

 そこに映ったのは、悲しくなるような白い肌。そして、血に届くはずもない、届くはずもなかった桃色のロングヘアー。瞳孔は赤く、狩猟本能を知らせるかのように大きく開いている。

 

「どうして……ウチは……」

 

 そう言ったところで、結末は変わらない。

 現実は、嘆きを聞き入れない。それが現実であるかぎり、嘆きは現実を興奮させるだけだ。慈悲はない。

 横たわるのは目に光を失った双子の妹。悲しくなるような白い肌と赤い瞳孔が、その証だ。けれども、彼女とウチとでは決定的な違いがある。

 髪の色は、血に染まろうとしても染まりきれない、晴天のような空色だった。

 

「―――ッ、痛……」

 

 ビリっと、一瞬電流が走る。どこかの電気回路がショートしたようだ。……当然か。なんせ、ウチはもう数時間も雨の中立っているんだから。

 ウチらはアンドロイド。―――正確には、そのアンドロイドを埋め込まれた人造人間。〈VOIce reach LOad〉―――音声到達負荷負担式アンドロイド融合型戦略兵器群。通称「ボイロ」。ウチは―――否、ウチらはその漆号機と捌号機。初号機から参号機'(ダッシュ)タイプまではすでに封印処分済み。

 伍号機である「結月ゆかり」は管理コードを自力で突破し軍の手から逃亡。

 陸号機である「東北じゅん子」―――通称「ずん子」は結月ゆかりの手によって軍の手から逃亡し、現在消息不明。

 そんな散々な状況を軍は変えようとした。だから……ウチら「コトノハシリーズ」は生み出された。ボイロの漆号機と捌号機―――ただ、それだけを期待されて生み出された。

 それに―――ウチは反抗した。それは、思春期のちょっとした親に対する反抗のようなものだったのかもしれない。それにまともに取り合わなかった(おや)が悪いのかもしれない。けれども……ウチの反抗は、大きすぎた。―――いや、待て。そもそもウチは良いとしてなぜ彼女までもこうなっている?

 ウチは……ウチは……

 

「ウチは、なんでこんなんになっとるん?」

 

 その問いは、虚空に響く。虚空に響いて、響いて。響いたくせに、答えは帰ってこない。

 その後も雨はやまなかった。考えたくなかった。面倒くさかったからだ。多分、空も雨をやませたくないのだろう。面倒くさいから。

 雨に濡れるのは、悪いことじゃなかった。ビリッという感電を耐えれば、あまりにも魅力的な時間だったからだ。

 

「―――あなた、何してるんですか?」

「決まっとるやろ。雨に濡れてるんや」

 

 不意に聞こえた声に、ウチは答えた。

 

「そんなになるまで、ですか?」

「そうや」

「……あなた、本当にこの会話聞こえてますか? VOXの認識機能とか処理機能とか、ちゃんと働いてますか?」

 

 認識機能とか処理機能とか、そういうのは、わからない。……というか、この人、なんでボイロのことを―――

 

「とりあえず、私の家に来てください。修復ぐらいはしてあげますよ」

「……おおきに。あんたの名前は?」

 

 一刻も早く、この人のことを知りたくて。

 ウチは、こんなことを口走ってしまったんだと思う。

 

「私、ですか?

 ―――音声到達負荷負担式アンドロイド融合型戦略兵器群正規実用兼彼岸環境対応型伍号機。個体名は、結月ゆかりです」




茜ちゃんは地の文だと標準語にしときます。書きづらいのでね!
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