琴葉茜は甘き未来の夢を視るか? 作:DUN.ネコノカンリニン
壱/「月の棺」
「私、ですか?
―――音声到達負荷負担式アンドロイド融合型戦略兵器群正規実用兼彼岸環境対応型伍号機。個体名は、結月ゆかりです」
彼女がそう名乗ったとき、くらり、と揺れる感じがした。
―――一瞬の、暗転―――
……ちゃん。……お姉ちゃん!
―――葵?
……今まで、ありがとう。お姉ちゃん。これからは、私は、お姉ちゃんの中で……。
―――なに
……じゃあね、お姉ちゃん。
―――葵! 行かんといて、葵!
「―――葵!」
―――ウチが目覚めて初めてみたのは、清潔な、不気味に思うほどの白い、白い天井だった。けれど、ウチはそんな天井見たことがない。知らない天井だ。
「おや、お目覚めですか。ようこそ、私の秘密基地―――『月の棺』へ」
「あんたは……伍号機?」
覗き込んできたその顔を見て、私は完全に覚醒した。どうしてこうなったのかは、まだわからないけれど。
伍号機―――結月ゆかり。軍から逃げ出したボイロで、現在、軍が血眼になって探している機体。その特徴は気だるげな目と紫色の髪。そして―――アンドロイドを搭載させるために削りざるを得なかった、胸部パーツだとか。
「今、なにか失礼なこと考えませんでした?」
「いや、別に。それより、なんでこんなところに伍号機が……。というか、ウチはどうしてこんなんになっとるん? 管理コードで軍がウチの視覚を使ってあんたのこと監視してるかもしれへんのに」
「……そこは対処済みです。私、こう見えて機械系は上手いので。管理コードを外すことなんてお茶の子さいさいですよ。そもそもの話、私自身が管理コードを自分で外したんですから」
―――そういえばそうだった。管理コードを自力で突破した規格外のボイロ。それが彼女だ。
「―――そんなことはどうでもいいでしょう? 私があなたを助けたのは、私の目的のためです。見たところ……というか、機体的にあなた、コトノハシリーズの一体ですね?」
「ああ、そうや。けど、なんでそんな事知っとるんや? ウチ、まだあんたに自己紹介もしてへんで」
「そこから説明しましょうか。私の音声到達負荷機能は『結断』。その機能であなたのことを修復しました。その時のVOXを修理する時に識別番号が書かれていたんですよ。『KTNH-S.S.-type.AKANE-'XX』。これ、コトノハシリーズに振られる識別番号ですよね? だから、知ったんです。ですが……」
「いや待てや。まず、音声到達負荷機能ってなんや? ぼっくす?ってのもようわからんし……」
その事を言ったとき、ゆかりはすごく驚いたような反応をした。具体的には、口を開けたまま塞がらない、といったような感じで。
「なんや」
「いや……あなたの担当研究員って、そんな基本的なことも伝えなかったんですか? だとしたら結構なポンコツですね。ボイロがボイロであるためには、ここの二つを抑えなきゃならないのに。はあ……ポンコツ研究員の代わりに教えてあげますよ。
まず、VOXについて話しましょう。VOX―――正式にはVOICE-VOX。その名の通り箱型のアンドロイドで、これを搭載されている人造人間のことをボイロといいます。このVOXはあらゆることを因果を曲げてでも実現する未解明の化学物質―――エーテルを扱うことができる代物です。そして、このVOXのコアユニットには数年前に発生した謎の生命体・ROIDの体組織の一部を使っています。
次に音声到達負荷機能―――通称『機能』についてです。この機能というのはエーテルを扱う力のことです。しかし、エーテルっていうのは限られた方向性にしか使うことができません。いや、そのエーテルを使う人物の性質に限定されてしまうのです。だから機能は方向性が決められています。私の場合は『結断』。名の通り結って断つ。ものごとを、自分の思うように繋いで切ることができる機能です。
―――そして、突然ですが琴葉茜さん。あなたのVOXの修理の際に、仮死状態であった琴葉葵さんが死亡しました」