ワンナイト相手が有名ダンジョン配信者だった件   作:タク@DMP

14 / 40
第13話:夢

 俺達は、政府の用意した宿泊施設に泊まる事になった。

 勿論、討伐作戦が開始するまでの間、自由はない。

 お互いの部屋を行き来する事くらいはできるが──とてもではないが部屋を出られる元気はなかった。

 デルタの奴もまた検査らしい。気の毒だ。心底同情する。

 だけど……多分俺は、もっと落ち込んでいる。

 

「死んでた、かぁ……」

 

 人生の目標が突然消えてなくなった。

 俺のデルタとの邂逅は新発見でも何でもなかったし、俺が──竜王に邂逅する未来も無くなった。

 未知は既知であり──俺は結局、井戸の中で氷山の一角を見て喜んでいた蛙でしかなかった。

 おまけに──次の相手は王。

 デルタですらひーこら言いながらテイムしたっていうのに……こんなのもう「死ね」って言われているようなモンだ。

 

「やっと、ダンジョンに潜れたのにな……」

 

 俺の冒険──此処で終わりか。

 

 

 

 ポーン……。

 

 

 

 ……部屋の呼び鈴。

 誰かが訪ねてきたらしい。

 うるせーな、今おセンチなんだよ、感傷にくらい浸らせろ。

 

 ポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーン

 

 うるせーッ!!

 マジでうるせぇ、鬼ピンポンしてんじゃねえ!!

 あの全裸変態青年だったらグーで殴ってやろうかな。よし、殴る。

 

「オイコラ人が感傷に浸ってる時にどういう了……見……」

「……あ、えーと……おにーさん」

「……ルカ」

 

 柄にもなくしおらしい様子で──ルカが、部屋の前に立っていた。

 怒る気力も失せ──俺は彼女を招き入れたのだった。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃねーかも」

「ですよね……元気、無いですから」

 

 ベッドの上で隣り合って座る。

 傍から見れば恋人か何かに見えるのかもしれないが──俺は、誰でもいいから寄りかかれる相手が欲しかっただけだ。

 正直、蟲王の事とか考えられない。

 

「あーでもよ、蟲王の討伐、絶対配信だったらバズってたよな!! ……同接、何万人だったんだろうな」

「……おにーさん」

「……悪い。やっぱ辛ェ」

 

 無理して盛り上げる気力も無い。

 心にぽっかり穴が開いてしまったみたいだ。

 

「……何が未知だ、とっくに発見されてて、オマケに……名前まで付けられてやがったんだぜ」

 

 喜んでたのが馬鹿らしい。

 俺は、とんだピエロじゃねーか。

 

「おまけに次はバカみてーに強い蟲王と来た、折角ダンジョン攻略者になれたってのに……終わりかもな」

「本当にこんな所で終わりなんでしょうか?」

 

 ふわり、と手の甲に柔らかいものが置かれた。

 ルカの傷だらけの手が置かれている。

 

「あの時出会ったのがデルタちゃんじゃなくて竜王だったら──おにーさんはそこで攻略者をやめていましたか?」

「……質問の意味が分からねえ。大喜びはしただろうぜ」

「バズりにバズって、貴方は間違いなく世紀の大発見者だったと思います。チャンネル登録者数も増えて私の夢も達成されてたと思います。でも──少なくとも私の夢は、それで終わりじゃないんです」

 

 ……そっか。

 ルカは言ってた。

 いつか、JURAにも負けない配信グループを作るって。

 俺一人がバズってるだけじゃ……ダメなんだ。

 

「偶然のバズは、ただのマグレ。でも、マグレも積み重ねれば──マジになるんです。……私は……そんな配信者たちのグループを作りたい」

「……遠いな。俺みたいなヤツを何人も掘り出すつもりなのか」

「おにーさんは……夢を叶えて満足して攻略をやめてしまうんですか?」

 

 その質問に俺は答えられなかった。

 俺の中では、ずっと竜の女の子が目標だったんだ。 

 

「私は……やめないと思ってました。だって貴方は……ずっと、ダンジョン攻略がしたくても出来なくて……スキルが目覚めてないのにダンジョンに潜るような無鉄砲な人で……そんな人が、()()()()()()()()()()()()()()歩みを止めてしまうとは──思えないんです」

「次の夢──」

「……どうしておにーさんは報われないのに……誰から褒められるわけでもないのに、ずっとピッケルを振るってたんですか!? 諦められなかったからでしょう!?」

 

 ……そうだ。

 あの頃の俺はずっと、ダンジョンに潜る自分を夢見ていた。

 絶対叶うはずがないのに、いつかスキルが目覚めるだろうって夢見て──バカにされても、一心不乱にダンジョンに通い続けた。

 

「夢が叶おうが、潰えようが、人はまた……夢を見ることができるはずなんです!! だって、人生はそこで終わりじゃないから!! 調だって、私だって!! 何回も挫折して……今此処に居るんです!!」

 

 そうだ。

 ずっとオーディション受けても鳴かず飛ばずだった調さんも、JURAでうまくいかずに抜けたルカも──夢が潰えてるんだ。

 デルタだって、俺達に負けたって言ってたけど……それでもまだ獣王の道を目指すって晴れやかに言ってた。

 皆、諦めてない。

 皆──投げ出したりしなかった。

 それに比べて俺は何だ? 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、狙った獲物が死んでたくらいで──投げやりになってたのか?

 

「それにッ!! わくわくしませんかッ!? まだ、この世界にはまだ見ぬ獣人が、竜人が居るって事じゃないですか!!」

 

 ……そうだ。

 そうじゃないか。

 政府だって完全にダンジョンの事が分かってるわけじゃねえ。

 王の事だって何も分かってない。

 

「ダンジョンは無限大です。きっと、私達が見たことが無いものがまだたくさんあるはずなんです。死んでる場合じゃないですよ、終わってる場合じゃないですよ!!」

 

 そもそも王が何処から来たかとか何にも分かってない。

 未知はまだ──沢山転がってる。

 

「胸を張りましょうよ──私達、大多数の攻略者が行けないステージを、彼らにとっての未知を見に行けるんですよ! 貴方の冒険はまだ終わってないし、私は……貴方の冒険を!! 見届けたいんですッ!!」

 

 ……そうだな。終わらせたくねえよ。終わりにしたくねえよ。

 

「蟲王が何ですか! ブッた斬ってやればいいんです!! これは──私達の”これから”を掴みに行くための戦いです!!」

 

 ……これからだ。

 大事なのはこれからだ。

 

「私は──JURAを超える配信グループを作るんです!!」

「俺は──この世界を、限界の果てまで駆け巡りたい……ッ!!」

 

 今までは、ダンジョンの先にあの竜の子が居るって思ってたけど……そうじゃなかった。

 俺が見てたものは只の氷山の一角でしかなくって……その先にはまだ、俺が見た事無いものが山ほどあるはずだ。

 まだ出会ってねえ仲間が、まだ出会ってねえ敵が、いっぱいいる……なのに、こんな所で終わらせるなんて、勿体なさ過ぎる……!!

 

()だ。()()()()()()!! ()()──もっと、まだ見た事のない地平の先を!!」

 

 ……生きてりゃいい事あるもんだ。

 もう二度と潜れねえと思ってたダンジョンに潜れて、仲間に出会って……すげーボスと戦って。

 でも、それで終わりじゃねえ。生きてたら、これをずっと楽しめるんだ。最高じゃねえか……!

 

「……なあ、ルカ。お前の夢に、俺の夢も乗せてくれ」

「勿論です! この戦いが終わったら……また、貴方の冒険をプロデュースさせてください!」

 

 ……そうだ。

 何でこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。

 よっぽど、サンの死体を見たのがショックだったのかもしれない。

 だけど……死んでられない。

 サンが何で俺を助けたのかは分からないけど、そのおかげで俺は今此処にいる。

 

「ルカに励まされちまったな」

「……これくらいさせてください。始まりはアレでしたけど……私達、配信仲間でしょう?」

 

 ……そうだ。

 体の繋がりなんかよりも強固な──心の繋がり。

 上下なんてない、対等な繋がり。

 それに──俺は今、とても安心している。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ルカちゃんも巡さんも、全然戻って来ないーっ!!」

 

 

 

 ネットでは配信に映った獣人の話題で持ちきりだ。

 こんなの制御できるはずがない。

 だが、ルカも巡も居ないのに、調だけでどうにか出来るはずもない。

 怖いのでもうネットは開いていなかったが──かと言って何もしないのも無責任な気がして、調は半日ぶりにネットを開く。

 

「うん……何? 急上昇?」

 

 そんな中、音石調の目に入ったのは数分前に更新されたネットニュースだった。

 

 

 

「何コレ……」

 

 

 

 ──”江戸川の大穴から巨大バチ大量出現、避難警報発令”。

 巨大バチなんて本来、深層にしか生息していない。

 それがダンジョンの穴を通って外に飛び出していることを示していた。

 

 

 

「え、ウソ、緊急事態じゃないコレ……!?」

 

 

 

 調は酷く嫌な予感がした。

 危険生物たちは本来、ダンジョンの外には現れないのだ。

 

 

 

「……寝てる場合じゃないわね。ロックンローラーなら!!」

 

 

 

 魔鋼ギターを構え、装備を着込み、調はマンションを飛び出す。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 部屋中に鳴り響く──けたたましい音。

 

 

 

「ッ……な、なに!?」

「警報──」

 

 

 

 シャインから、万が一の事があったら警報が鳴るからすぐに来てくれと言われていた。

 何かあったのかもしれない、という嫌な予感はすぐに当たる事になる。

 宿泊施設の外には、スーツを着込んだシャインが険しい面持ちで立っていた。

 

「──スティグマが目覚める。もうじき、だ」

「……マジかよ……!!」

「早急に討伐しなければ、東京は崩落するだろう。既に、東京中に大量の巨大ミツバチが解き放たれてしまっている」

「ミ、ミツバチ……!? もしかして、スティグマは……ミツバチなんですか!?」

「壱岐島では巨大なミツバチの化石が見つかっている。ミツバチにも絶滅種が居るのさ」

 

 ……それなら納得だ。

 ハチだから、大量の眷属が居るってわけか。

 でも問題は写真のミツバチ共、1メートルくらいないか?

 何でこんなんが空飛べてるんだ? おかしいだろ?

 

「ワーカワイイナー、モフモフガー……」

「防護服を着こんでくれたまえ。スティグマの休眠地点は幾つもの防壁を建設して、万が一の時すぐに急行できるようにしてある」

「毒針刺されたら防護服貫通されるだろ……」

「無いよりマシさ。それに私は全身ハチミツ塗ったくって巨大スズメバチの巣を駆除したことが何度もある」

 

 そう言うシャインさんは防護服を着こむ様子が無い。正気か? 

 配信ではいつも何も着てないが、まさかこの一大事に舐めプするんじゃねーだろな?

 

「シャインさんは何も着ないのかよ……?」

「私に防護服は不要だ。いや……邪魔になるというのが正しいな」

「……もう突っ込まねえぞ」

 

 やっぱり変態だったかもしれねえ。

 説明を聞きながら俺達は、またトラックに乗り込む。

 そこには──デルタの姿もあった。

 

「おい、メグル!! 此処の奴ら良いヤツダ!! 旨いモンいっぱい食わせてもらったゾ!!」

「俺はお前が悪い奴についていかないか心配だ……」

「そして何より、スティグマのヤツをぶっ飛ばせルッ!!」

「……スティグマって何でそんなに嫌われてんだ……?」

 

 ぶんぶん、と腕を振り回すデルタ。殺る気満々だな。

 

「あいつは普段引きこもってる癖に闇討ち大好きな卑怯者ダ! 確か大昔、竜王と鳥王はとても仲が良かったけど……鳥王を殺した所為で竜王に凄く恨まれてたんだっテ!」

「……とりあえず、ぶった斬っても良心が痛まないヤツということは分かりましたよ」

 

 ……多分、竜王と蟲王の喧嘩はそれが原因だ。

 でも、竜王の力でも蟲王は倒せなかったのか──蟲王がそれだけ強いのか、それとも竜王が弱ってたのか……。

 

「急な事態でメンバーの編成が出来なかった。第一攻略隊は我々4人で向かう。A級が二人も居るんだ。戦力は申し分ないと思うがね」

「……俺だけ場違いなんだけど」

「スキルをコピーできる能力だと、開発センターから聞いている。私は、君の働きに期待しているよ」

「プレッシャーかけるなよ……」

「ははは! 直にその重圧が心地よくなる!」

 

 やっぱこいつ変態だ。

 

「それで、東京は今どうなってるんですか……?」

「巨大ミツバチの群れを多くの攻略者が対処している。なぁに、A級もJURAの攻略者も沢山居るんだ。心配しなくて良い」

「大丈夫なのか?」

「……多分、大丈夫です。あの人達は、とても強いですから」

「各地で討伐配信が開始した。……ミツバチレイドイベントの始まりだ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ドーバドバドバァッ!! 獲物が大量においでなすったドバァ!!」

 

 

 

 ──旧・江戸川区近辺。

 人々が逃げ惑う中、逆行して一人の男が巨大ミツバチの群れに立ちはだかる。

 中華料理人の服、そして巨大な戦斧を背負っており、それを軽々と振り回す。

 迫りくるミツバチたちは次々に両断され、消滅していく。

 阿怒烈奈 倫太郎──JURA所属のA級攻略者の意地を見せつける。

 

「わらわら湧いてきやがって──配信で無理矢理食わされてから、俺様は虫が嫌いなんだドバァァァーッ!!」

 

 :嫌よ嫌よも好きのうち

 

 :それはきっと愛だよ

 

 :でも律儀に虫食配信はやるんだよな

 

 :ミツバチ食う配信もやってください

 

 :冬コミは虫×アドの総受け合同書きます

 

「マージでムカついたドバァ!! アドレナリィイイイイイインッ!!」

 

 カチッとスイッチが入る音が入り、倫太郎の体からドロドロに煮えたぎるタール状の液体が斧へと伝っていく。

 冠するスキルの名は──”激怒爆炎”。

 倫太郎の副腎から噴出したアドレナリンに反応し、発火性の高い黒い粘液が彼の体から流れていく。

 そして倫太郎は分泌した粘液を自在に燃やす事が出来る。

 リスナーの民度が低い倫太郎とは非常に相性の良いスキルだ。

 

 

 

「二度と娑婆に出られねえようにしてやる──”着火・爆厄”ッ!!」

 

 

 

 思いっきり戦斧を振り回し、ミツバチたちを両断。

 更に粘液が辺りに飛び散って他のミツバチも爆発炎上して焼け落ちてくる。

 

 :888888888

 

 :アドさんの爆厄キターッ!!

 

 :でもミツバチ全然減ってなくね?

 

「キリが無ェドバァ!! わらわらわら──アドレナリィイイイイン!!」

「──全く、冷静さを欠いたら倒せる相手も倒せませんわ」

 

 その時だった。

 倫太郎の傍を掠めるのは──大量に飛ぶ光。

 

「──”光の弓矢”ッ!!」

 

 ミツバチたちを次々に、光の弓が撃ち抜いていく。

 

「エ、エルスターテメェーッ!! 俺様の配信の見せ場を奪うんじゃねえドバァ!!」

「エルスと呼びなさいな、アド太郎。そもそも見せ場などと言っている場合ではないですもの」

 

 ──そこに立っていたのは白いワンピースに身を包み、魔鋼製の弓矢を構えた少女。

 JURA所属のエナドリ令嬢・星詠エルスだ。

 倫太郎とは互いに「アド太郎」「エルスター」と呼んで罵り合う程度には仲が良い。

 

「此処は共闘です。市民を守る為に戦うのもまた、高貴なる者の務めですわ。善行の後は──エナドリが美味しいですもの」

「アードアドアドアド……死ぬ程気に食わねえが……やってやろうじゃねえかドバァ!! アドレナリィイイイイン!!」

 

 :コラボだーッ!!

 

 :エルスターとアドさんの突発コラボ!?

 

 :盛り上がって参りました

 

 :宿命のライバルの共闘熱い

 

「こういう時こそルカ様の力が欲しくなりますわね」

「ハッ──怯えて逃げ出すタマじゃねえドバ。JURAを抜けても、きっと何処かで……戦ってるはずだドバァ!!」

「……そうですわね。我々は、務めを果たすとしましょう」




評価欄の設定を変えたため、今まで評価していなかった方は是非とも評価お願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。