ワンナイト相手が有名ダンジョン配信者だった件   作:タク@DMP

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第36話:介錯(解釈)の幅を広げるんだ

 ※※※

 

 

 

「それで安請け合いしちゃったんですか? おにーさん」

 

 

 

 ネット麻雀を打ちながらルカが言った。因みに案の定一番負けている。

 こいつめ、懲りるということを知らんのか。

 

「竜人だか獣人だかよく分からねーが、そいつが出現したってんなら調査する価値はあるし、何より再生数稼ぎになる」

「うーん、オリるしかないか」

「ノートPC没収するぞジャンカス」

「何かしら迷惑を掛けてるならともかく、そっとしておいてあげた方が良いんじゃないですかね? あっ──ちょっと!! 何で持ってるんですか!? 今のナシでしょ!! ナシナシナシ!!」

 

 あ、トんだな……コイツ。もうやめちまえよ麻雀なんて。

 

「人の話聞いてたか? 既に被害が出てんだよ」

「ごめんなさい、麻雀の方が大事だから何にも聞いてなかったです」

 

 数分後。

 

「ああ!! やめて!! 麻雀アプリアンインストールするのはやめてくださいッ!! 今までの称号がッ!! 私の積み重ねがッ!!」

「この麻雀中毒が……禁酒したら麻雀に余計ドハマりしやがって、その目の隈は何だ、言ってみろッ」

「ど、動画編集……」

「ウソ吐けェ!! 徹マンだろがッ!!」

 

 この依存体質者め。酒じゃなかったら次は麻雀だ。

 元々、何かにのめり込むことでストレスの発散をしてきたタイプの人間ということがイヤでも分かる。

 誰かがどっかでストップをかけてやらないと、一生止まらないのだ。

 そして、そのストップをかけてやれる人間は今の所俺しか居ない。故に俺がコイツをどうにかせねばならない、と強く決意した。

 コイツは──抜刀院ルカは、俺と夢を分かち合ったパートナーなのだから。

 

「ねー、お願い、ルカちゃん。協力出来ないかしら? 昔の仲間なの」

「……確かに調の昔の親友を助けるのは吝かではないですが……何で言ってくれなかったんですか、昔の事」

「は、はずかしいからに決まってるじゃない……」

「親友の私にも言えないくらいですか?」

 

 ルカは口をとがらせている。

 成程、やっとわかってきたぞ。次の迷宮攻略の話を出してからのコイツ……ぶっちゃけ拗ねているんだな。

 調さんがなかなか過去の話をしてくれなかったこと。そして、今になって昔の仲間を助けてほしいと言い出した事。

 だから話の途中で、わざと麻雀を露骨に打っているんだ。面倒くさいカマチョめ。

 

「もー、ルカちゃんっ、今日はどうしちゃったの?」

「妬いてるんだな?」

「……」

「調さんに昔の仲間が居て、自分以外の親友が居て妬いてるんだろ」

「別に、そんなんじゃないです……」

「図星だろ」

「別に! おにーさんに私の何が分かるんですか!」

「……あたし、ルカちゃん以外の子を親友だなんて思った事無いけど」

「……」

 

 あ、露骨に口角が歪んだぞ。

 

「ふ、ふーん、そうですか……え、えへへ、調の親友は私だけ、ですか。えへへへへへ」

「このチョロさ、いよいよ心配になってきたわ」

 

 小声で調さんが俺に囁いてくる。俺もそう思う。

 

「オイ、言っとくけど親友が一人しかいちゃいけねーなんて決まりはねーからな?」

「女の子と何人も関係持ってる人に言われると説得力がありますね」

「元々は誰の所為だと思ってやがる酒乱女」

「直ちに切腹します」

 

 何で自分から自爆しに行くんだろうなコイツは──アレ、でもそれを込みにしても俺が酒の勢いで女の子と関係を持った事実は変わらないのでは?

 ……おっと、死にたくなってきたな、唐突に。

 

「調さん、俺も腹切るから介錯頼むわ」

「何で!?」

 

 閑話休題。

 

「さーてと。例のボーカルから聞いた、敵の特徴を簡潔にまとめてみた」

 

 さて、立ち直ったところで作戦会議の時間だ。

 歌葉たちから聞いた情報を元に、対策を練っていく。

 配信以前に、ダンジョンの先に居るであろう獣人を倒せねば意味がない。

 

「鱗が生えてるって言ってましたね」

「だから獣人っつーより竜人って思ったんだろ」

「そして背びれのようなものが生えてるって言ってたわ」

「背びれだったらスピノサウルスとかも生えてるもんな?」

「顔はフード付のパーカーで隠れてよく見えなかったらしいの。何処かから奪ってきたのかしら」

「ラムザも人に擬態してたし出来ねえ事はないんだろうな」

 

 問題は、獣人はダンジョンの中じゃないと100%の力が発揮出来ねえらしい。

 

「そして肝心の尻尾の形状がこんな感じだったって」

 

 マジックペンで絵を描く調さん。

 尻尾の先は真っ直ぐな槍のように尖っている。

 ふぅーん、やっぱりコレ竜人なのかな。トカゲっぽいぞ。

 

「奴の居た場所は?」

「水没した遺跡のような場所って言ってたわ」

 

 遺跡、ね。ダンジョン深層の光景は千差万別。

 地下のはずなのに空がある森や平原、洞窟、キノコの生えた地下世界。

 そして今回は水没した遺跡ときた。

 ダンジョンを作り出す力を持つ、獣人たちの上位個体「王」の力によるものだ。

 

「って事は、敵は水中戦を仕掛けてくる可能性があるわけですか……面倒ですよ」

「それについては、俺に策があるから問題はねーよ」

「となると、スピノサウルスやバリオニクスのような水陸両用の竜人なのでしょうか?」

「ただ、あの子達ミョーな事を言ってたのよね」

 

 ──獣人の子が使ってた不思議な術って何?

 

 ──刃物だ!! なんかいきなり刃物みてーなのが何も無い所から飛んできて、あたいらの武器がバラバラにされたんだ!!

 

 ──おかげで、仇討に行こうにも行けないんだよねぇー……武器が無いからさぁ。

 

 ──じゃあ今持ってるソレは……。

 

 ──魔鋼製じゃない普通のベースと普通のマイク。

 

「刃物、か……なんか気になるな」

「飛び道具を持ってるとみて間違いないわね。それが敵のスキルなのかも」

「どんな習性の生き物なんだよ。おかしいだろ。何で獣人が武器使うんだよ」

「しゃらくせーヤツだナ! 拳と脚で殴り合うのが手っ取り早いってのニ!」

「獣人の性質にいちいちツッコむだけ時間の無駄です。刃物が飛んでくるなら、斬られる前に斬り落とせば良いんですよ」

 

 おい、それが出来るのはオマエだけだ。

 どっちにしても、魔鋼製の武器が真っ二つにされるなら、俺達の身体も真っ二つにされてもおかしくはない。

 細心の注意をしなければならないだろう。

 それにしても、どうも腑に落ちない。此処まで情報を取りまとめたが、どうしてこうも敵の全体像が見えて来ないのだろうか。

 俺達はひょっとして、とんでもない思い違いか見落としをしているのかもしれない──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……どーもッ!! メグルCHの配信によーこそッ!! 今回は、この渋谷27番洞穴を攻略していきますッ!!」

 

 

 

 :キターーーーーーーーー!!

 

 :今日の生きがい

 

 :これを見る為に生きてる

 

 ……よし、出だしは好調だ。配信の同接数は1万人程。順調に増えていってる。

 しかも、サムネイルにもある通り──今回は獣人を見つけに行く、とあるからな。

 

「実はですね、今日は視聴者さんからの情報で、このダンジョンの奥に居るらしい獣人を見つけにいきますッ!」

 

 :本当に獣人に縁が多いなこのチャンネル

 

 :でも最近、他の配信者もちょいちょい獣人見つけてるらしいね

 

 :でも強すぎてやられたりしてるらしい

 

「なあに見てろって。ウチにはシラベさんとデルタが居るからな」

 

 :オメーも頑張れよ

 

「それに、此処には貴重な魔鋼製楽器がドロップするらしいから、是非とも抑えておきたいんだよね」

 

 :そっちが本命か

 

 :シラベさん推しだからオマエ死ぬ気で取れよ

 

「ところでさ、リスナーの皆は──尾びれがあって、こんな感じの尖った尻尾があって、後ウロコが生えてるヤツって何の生き物だと思う?」

 

 :そりゃあスピノでしょ

 

 :待て、ディメトロかもしれんぞ

 

 流石訓練されたリスナーたちだ。ダンジョン配信を見てれば嫌でも絶滅動物に詳しくなる。

 ダンジョンに現れる危険生物の多くは、絶滅した生き物の姿を何故か模しているからだ。

 やはり名前が挙げられたのは、所謂背鰭のある生き物ばかり。うーん、やっぱり「竜人」なのか。

 そう思っていたが──

 

 :スピノなの? 俺、何かの魚かと思っちゃったよ

 

 そんなコメントが目に入った。

 ……魚? まあ確かに魚にも尾びれはあるし、ウロコもある。

 でも、だとしてもだ。刃物が飛んでくるのと、魚でイマイチ結びつかない。

 

「魚か……魚人……? だとしても、一体……」

『おにーさん、気を付けてください、もうすぐ接敵します!』

「おっと。分かった──シラベさん、デルタ」

「ああ」

「おう!! 準備OKだゾ!!」

 

 深層へ続く道を俺達は進む。

 その途中にある部屋には、案の定肉食恐竜たちが潜んでいる。

 先んじて俺達は不意打ちを仕掛け、これを何とか殲滅するのだった。

 だけど、戦ってる中、俺はずっと──喉に小骨が引っ掛かったような違和感を覚えていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……マジでどうなってんだ、この部屋」

 

 

 

 そうして辿り着いた先に広がっていたのは──辺り一面広がる海。

 そこには、中世の石建築のようなものが沈んでおり、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

「ペロ──これ、しょっぱいゾ!!」

「って事は海水か。……海水?」

 

 :スピノやバリオって海水いけたっけ?

 

 :分かる訳ないだろそんなの

 

 :ワニは大抵淡水生だし、淡水なんじゃね

 

 コメントを見つつ、俺達は沈んだ遺跡を足場にして跳んで進んで行く。

 足元が心許ないからか妙な緊張感と不安が込み上げてきた。これ、落ちたら沈んじまうな……底とかあるのか?

 

「……肝心の魔鋼製楽器があるのは何処なんだろうな」

「恐らく、この沈んだ遺跡の何処かかと思われるが」

「オイ、待て二人共……なんかイヤな音がするゾ!!」

 

 デルタが身構える。

 俺達も貼り詰めた空気の中──辺りを見回す。

 そして、誰よりも先に動いたのは耳をピクピクと動かしたデルタだった。

 

「危なイッ!!」

 

 デルタが俺を突き飛ばす。

 次の瞬間、俺が居た足元から──何かが飛び出して来た。

 仮にも石で出来た建造物のはずなのに、ソレはまるで豆腐のように斬り裂きながら飛び出してきたのだ。

 

 :ピザカッター!?

 

 :丸鋸か!?

 

 だが、直進する事しか出来ないのだろう。飛び出したそれは、今度は勢いよく海の中へと落ちていく。

 そうして遅れて──女の声が辺りに響いた。

 

「……そこに突っ立っていれば、真っ二つだったのにぃ……!」

 

 波が跳ねる音が聞こえてくる。

 そして、声の主である彼女は──優雅に遺跡の上に降り立った。

 

「やっぱり……竜人じゃない……!!」

「コイツ、生臭ェ!! 竜じゃなくて……魚ダッ!!」

 

 とは言うが、見てくれは人間の女の子と遜色ない。

 臆病そうに揺れる青い目に、短めの藍色の髪の毛。そしてフード付のパーカー。

 ただ問題は、頬や腕を覆う銀色の鱗や槍のように尖った尻尾だ。成程確かに鱗には違いない。ただ──コレは明らかに爬虫類のそれではない。

 

「オマエか!! あたしの古巣仲間を傷つけたのは……!!」

 

 憤る調さん。だけど落ち着いてほしい。鎧の上だからって、本来の一人称が出ちまってる。演技する余裕なんてないんだろうが──

 

「オミーの巣で、うるさくするなら全員まとめて八つ裂きにしちゃいますからぁ……!! オミーは……静かに暮らしたいだけなのにぃ……!!」

 

 ──当の魚人の子はめっちゃガクガク震えてるし涙目だ。もしかして、聞いていたよりも凶暴なヤツじゃないのかもしれない。

 

 :かわいい

 

 :かわいい

 

 :かわいい

 

 :持ち帰って♡

 

 :ロリはハイエースしてダンケダンケ

 

 欲望に忠実なリスナー共は一旦無視しよう。魔鋼ギターを抜こうとしている調さんも抑える。

 何か行き違いがあったのかもしれない。

 

「止めないでッ……!! こいつはあたしが──」

「落ち着け。訳を聞こうぜ。なぁ待ってくれ。邪魔したなら悪かった。一つ聞きたい事があるだけなんだ」

「聞きたいコト、ですか?」

「ちょっと前に此処に誰か来たのか?」

「来ました……ニンゲンたちが何人も……確か3人くらい」

「それで?」

「その人達、すっっっっっごくうるさくて!! 水の中からでも響くほどでっっっ!! ギャインギャインギャインギャインギャイン、ギュリギュリギュリーッッッ!! 聞くに堪えませんッ!!」

 

 :あっ……

 

 :これもしかして人間が悪いパターン?

 

 :騒音被害じゃねーか!!

 

 :かわいそう

 

「……調さん」

「あいつら……深層でテンションが上がって即席ライブ始めたわね……」

 

 どういう神経してんだよ。

 どんな神経してたら、攻略中のダンジョンの深層で演奏会始めるんだよ。

 魂どころか脳の髄までロックンロール? 正気を疑うんだけど?

 

「……だから、オミーは、あいつらの持ってたうるさいのを全部、八つ裂きにしました……!! ついでに、怒って襲って来た子もザクザクにしました……ッ!!」

「分かった。正当防衛だったんだな? 普通にそれは怒って良い。マジで悪かった」

「……あたしからも謝るわ……本当にゴメンなさい」

 

 ……どうしよう。デルタみたいな好戦的な子を想定してたから、一戦交えるつもりでいたのに。

 これじゃあ、完全に突撃お宅訪問みたいになっちまったじゃねーか。

 しかしどうするかね……この配信見た他の配信者が、この子の所に押しかけたら、結局オミーの安寧は守られないぞ。

 

「い、良いんです。オミーは、仲間達と静かに此処で暮らせればいいので……」

 

 そう言いかけたオミー。

 しかし、彼女の言葉は続かなかった。

 何故なら、唐突に何かが焦げるような香ばしいニオイがしてきたからである。

 俺は──嫌な予感がして振り返った。

 

 パチ。パチパチパチ。

 

 火の鳴る音。

 持ってきたライターと木炭に火を点けたデルタが──いつの間に捕ってきたのか、デカい魚を丸焼きにしていた。

 

「おっ、メグル!! シラベ!! 此処の魚、ウマそーだったから捕まえたゾ!! 一緒に食おウ!!」

「何やってんだテメーはーッ!! 食う事しか頭にねーのかーッッッ!!」

 

 :草

 

 :草

 

 :草

 

 :おや? 流れ変わったな

 

「──ギャーッッッ!!」

 

 顔を真っ青にして震えあがるオミー。そりゃそうだ、コイツは魚人。

 目の前で魚が焼かれていれば良い気分はしないどころか、オミーにとっては恐怖そのものの絵面だ。

 

 

 

「そーやってオミーの事も食べちゃうんですね!? ブ、ブッ殺しますッ!! 貴方達全員、バラバラにして皆の餌にしてやりますからぁッ!!」

 

 

 

 ああ……ダメだこりゃ。平和的な解決は出来そうにない。

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