ワンナイト相手が有名ダンジョン配信者だった件   作:タク@DMP

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第3話:え!?俺、配信者になるんですか!?

 ※※※

 

 

 

 ──覚醒したスキルは、このような研究機関で詳細を調べて貰える。

 スキル開発センターで落ち合った俺は、そのままルカに耳を引っ張られ、なし崩し的に診断を受ける事になった。

 結果。

 

 

 

「日比野巡さん……貴方のスキルは粘膜接触(限りなくオブラートに包んだ表現)した相手のスキルをコピーする、というものです」

「……」

「……」

 

 

 

 ──女医が診断書を淡々と読み上げ、俺もルカもお通夜みたいな空気で沈黙していた。

 じゃあ何? あのワンナイトが切っ掛けでスキルが覚醒しちゃったって事?

 

「じゃあ何ですか、俺は童貞だったから、スキルが覚醒していなかったって事ですか……ッ!!」

「はい、童貞だったからです。そもそもが模倣から始まるスキルなので……」

「意味が分からないッ!! こんなスキル覚醒条件あるんですか!?」

「たまーにあるんですよね、こういうこと。スキルの覚醒条件が複雑怪奇だったり、絶対気付かなさそうだったり」

 

 あって堪るか。こんなエロ漫画みてーなスキルあって堪るか。

 コピー能力ってゲームとかでよくあるけどね? 大昔流行ったらしい某ピンクの玉が頭に過ってしまうわけで。嫌だよ、こんな不健全極まりないコピー能力。

 

「ちなみに、スキルのコピーって何人からでも出来るんすかねえ……?」

「ッえ!?」

「できます」

「できちゃうのか……」

「酷いです、おにーさん!! 私以外と、そういう事をするアテがあるんですか!? 私で童貞捨てた癖に!!」

「ねーよ!! ねーけど気になっただけだよ!!」

 

 頼む、頼むから先生の前で余計な事を言うのはやめてくれ。

 「修羅場かぁ……」みたいな顔で先生がこっちを睨んでいる。

 

「ちなみにお二人はどういう関係ですか?」

「いや……その……」

「えーと、恋人ってわけじゃないんですけどぉ……」

「ふぅーん……」

 

 あ、やべえ。「こいつら勢いでワンナイトしたな?」って察されてるや。

 先生の視線が冷たく俺に突き刺さっている。

 

「……ルカさんの事を不幸にしたら殺しますよ」

「しませんッ!! 万が一の時は俺が責任取りますッ!!」

「先生……この話、元はと言えば私の所為なんで、その辺で……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 開発センターの一室を貸してもらい、俺達は今後の事を話し合うことになった。

 どうやら、ルカは度々センターの研究に協力していたらしく、お得意様のような関係らしい。

 

「こうして人に言えない話をする部屋を借りるくらいはらくらくです」

「あの先生、俺の事最後まで睨んでたな……」

「後で全部洗いざらい私から話しておきますね……昔からスキル関係を診て貰ってる人なんです」

 

 それであの先生もルカを気に掛けていたみたいだ。ルカ本人は大人しく自分の深酒の所為だと白状して怒られるつもりのようだった。

 

「……で、どーするんですか、おにーさん」

「俺に言われても困る……!! あ、でも──」

 

 体から湧き上がる力。

 危険生物共と戦うだけのスキルを漸く俺も手に入れられた。

 つまり──

 

「俺、やっとダンジョンに潜れる──ッ!!」

 

 今まで蚊帳の外、自分には縁が無いと思っていたステージだ。

 信じられないし実感なんて無いけど──漸く俺も攻略者になれる──!!

 

「それは良いんです!! 良かったですね!! でも重要な事じゃないんです!!」

「……そうなんだよなあ。浮かれてられねーんだよな」

「ネットでは貴方と私の関係性が疑われてます、弟子か、生き別れの兄妹か、って! 得物なんて全然違うのに!! つるはしって──」

「知ってたか? つるはしってよ、頭に振り下ろすと──すっげー痛い」

「知ってますけども!! つるはしで絶一門出せるヤツが何処の世界に居るんですか!!」

 

 此処に居るんだよ。大体絶一門って麻雀用語だろ、当たり前のように必殺技の名前にするんじゃない。

 

「とにかく。私以外に絶一門使える人がいるのに、ネットは大騒ぎです。特にこれを見て下さい」

 

 ルカが見せたのは、先程俺が助けたウミコちゃんの配信だった。どうやらあの後ダンジョンから撤収し、今はトラブルの詳細を話す配信をしているようだが──

 

『アレは間違いない!! 御姉様の絶一でしたッ!! 何方か、あの人の個人情報を知ってる方はいませんか!?』

 

 :分かりますた

 

 :特定班が既に行動してる

 

 :埼玉在住の日々野 巡ってヤツらしい

 

『ありがとーッ! ヒビノ・メグルって人ですね!』

 

「ふざけんじゃねーッ!? 何サラッと配信で人の個人情報収集してんだーッ!!」

 

 しかも秒でバレてしまっている。

 

「ああ……本名まで特定されてしまいましたね……」

「配信者も視聴者も倫理観が終わってやがる!!」

 

 怖すぎるだろネット特定班。まさか配信に映ってた顔だけで分かっちまったのか?

 ……こりゃあ、どっちにしても引っ越さなきゃマズそー……。

 

「──何言ってんですか? ダンジョン配信なんてしてる配信者と、その視聴者の倫理観が終わってないわけがないでしょ……人が死ぬのを喜々として見に来てるヤツも居るんですよ?」

 

 やっぱダンジョン配信者も視聴者も性根が終わってる……。

 

「どっちにしても、これじゃあもう往来を出歩けないじゃねえか! あークソ、折角念願の攻略者になれる所だったのに……!」

「こっちにも飛び火してるんですよ! ……ン、待てよ」

「何だよ……!」

「ちょっと、思いついちゃいました……!! フフフフフ……!!」

 

 悪い顔で──ルカは俺に問うたのである。

 

「……おにーさん。配信者に興味はないですか?」

「はいー……?」

 

 配信なんて考えたこと無かった。迷宮攻略はずっと夢見ていたけども。

 仮に迷宮を攻略するにしたって、配信なんてする余裕なんて無いと考えていたからだ。

 

「堂々と配信デビューをして、おにーさんの立場を表明する」

「撮影用ドローンも、配信のノウハウも無いぞ!?」

「そこはお任せください。有名配信者たる私が、素人攻略者で配信者である君をプロデュースしますッ!!」

「はぁ!?」

「確かに冒険用装備と、配信用機材……その全てをご自身で調達するのは大変だと思います。私が元々使っていたものを使えば良いです」

 

 随分と羽振りが良い。

 もしかして──この子なりに色々責任とか感じてしまっているんだろうか。

 

「なあ、あの夜の事なら──」

「これは私が言い出した事なんです。配信の事は私に任せて貰えればいいです」

「……なぁ、何でそこまでしてくれるんだ? こないだ会ったばかりの俺に……」

「……この話は、私に利が無いわけじゃないんです」

 

 そう語るルカの目は──悔しそうに暗くなった。

 

「……私が前に、何でJURAを辞めたかは……詳しく、言わなかったと思います」

「そうだな。確か、企業の力無しで上に行けないか試したかった、だったか」

「はい。……この話をもっと突き詰めると……あの大御所グループで活動するのに嫌気が刺したからなんです」

 

 ある意味予想していた理由ではあった。だが、結局それは予想でしかなかったわけで。

 

「元々私はJURAにスカウトされてデビューしたんです。それまでは一介の攻略者でした」

「すごいな……スカウトだなんて。今は大抵オーディション、しかもJURAなら倍率は100倍近くって聞くぜ」

「……最初は配信、楽しかったんです。でも、JURAが大きくなるにつれて、方針も変わっていって」

「方針?」

「”ルカはアイドルのようなものなのだから、イメージを毀損するような飲酒は控えるべき”とか、”恋愛禁止”とか言われて。それだけなら良いんです。歌を歌えだの踊れだの言われたり……宣伝広報の仕事やらされたり」

「うわぁ……迷宮攻略者って絶対、そんな事してる場合じゃねえだろ……」

「……私は、なまじ外向きは真面目キャラで通してたんで、猶更ブランディング的にダメって言われちゃったんです」

 

 実際、同じJURAのエナドリ令嬢はデビューからあのキャラで通している。

 ブランディング──この配信者はこの方向性で売っていく、とJURAが決めて配信者に強いてしまっていたのだろう。

 

「特に私はチャンネル登録者数もトップ層には今一つ届かなかったですから……登録者数を伸ばす為って言われて、仕方なく、やったんです」

 

 その為のスケジュール管理は地獄のようだった、とルカは語る。月曜から日曜日まで予定がぎっちり。

 トレーニングに芸能人のような仕事、歌やダンスのレッスンまで……。

 あれはダメ、これもダメ、しかしあれをやれ、これをやれでは彼女の精神が摩耗するのも時間の問題だった。

 なまじ真面目なルカはそれを全てやりこなしてしまったのだろう。

 

「……社長に直接抗議にも行ったんです。私はアイドルになったつもりはない、もっとやりたいことをやらせてくれって……でも、ダメでした」

 

 ポロ、ポロ、と涙がルカの手の甲に落ちた。

 

「社長に”配信見て貰ってるのはJURAのおかげであって、お前のコンテンツ力じゃないだろ””イマイチ伸びきれてないのがその証拠”って言われちゃって」

「ひっでぇな、それ……!! ルカは努力してるだろ!?」

「努力してるのと結果が付いて来てるのは別問題ですから。その……それでぷっつり糸が切れちゃって」

 

 それが決定打になり、ルカはJURAに三行半を叩きつけ、フリーの道を進んだ。

 だがもう配信を手伝うマネージャーも無く、彼女に残ったのは自腹で買った配信機材だけなのだという。

 つくづく大手企業の配信者とは過酷なものである。

 

「でも悔しかったんです。お前達は企業の力が、JURAってブランドがあるから見て貰ってるんだろ、と見下されて……私、頑張ってきたのに……!!」

 

 ドン!!

 

 机を殴りつけるルカ。本当に、本当に悔しかったのが伝わってくる。 

 努力も、忍耐も、全部否定されて──

 

「だから、見返してやりたいんです、JURAを!! 最初はフリーでやっていこうって思ってました。でも、そうはいっても私は何処までいっても元・JURAですから」

「……そっか。今からフリーでやっても、0の無名から成りあがった事にはならない、ってわけか」

 

 顔を隠してもいずれはバレる。今ルカがやっているスキル縛りでの攻略もいずれは限界が来る。それでは強敵相手に撮影数が取れない。

 

「だから──私が陰ながら貴方をプロデュースしますッ! 社長を、JURAをギャフンと言わせたいんです!!」

 

 ルカが俺の手を掴む。

 赤い目に、俺の顔が映っていた。

 

「これが……私の偽らざる本音です。迷惑かけた責任を取るなんて取り繕った言い方はしません。私のエゴの為に……配信者になってくれませんか?」

 

 きっと、断られる前提で悪ぶってるつもりなのだろう。

 だが──やっと、俺も「抜刀院ルカ」がどういう子なのか分かった。

 彼女もまた、夢破れて尚そこから這い上がろうとしているんだ。

 

「……なら、俺のエゴも、君のエゴに乗っからせてくれよ」

「……いいんですか?」

「前に言っただろ? 人型の竜……いや、ダンジョンの果てにある未知を見つけるのが俺の目標だ」

 

 それを見つけるだけなら、きっと俺一人でも良い。

 だけど──

 

 

 

「もし、人型の竜を君がカメラに収めたなら……俺は大ウソ吐きから世紀の大発見者になる」

 

 

 

 ──俺が「発見者」になるには、それを証明してくれる誰かの力が必要不可欠だ。

 

「俺のエゴの為に──冒険を……プロデュースしてくれないか、ルカ」

「ッ……はいっ」

 

 ルカはぐすぐす泣きながら答えた。

 これが、一夜の過ちから始まった俺達の、配信活動の始まりだった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──そこからは、流れるように初配信への準備を整えていくことになった。

 俺のアパートで使えそうなものを探していく。

 

「武器はあるんですか?」

「昔使った魔鋼製の剣がある」

「ふぅーん……」

 

 おいなんだその顔は。これでもちゃんと万が一に備えて鍛えてるんだぞ。

 

「んで”抜刀絶技”のスキルの詳細を整理しておきたいんだけど」

「要するに、武器を構えた直後の最初の一撃がとても重くなる……自己強化型のスキルです」

「最初の一撃?」

「はい。相手がどんなに硬くとも、防御力を無視して斬り刻めます」

「……それであのヤスデの鎧も貫通できたのか。ん? 待てよ。じゃあ逆に言えば、初撃でダメージ与えられなきゃ大分痛手じゃねえか? その後の攻撃は──」

「威力がガタ落ち……というか、普通になります」

「……外さねえようにしなきゃな」

 

 だからこそ、居合の動きを取り入れられる刀と”抜刀絶技”は相性が良いのだろう。

 最初の一撃を外した場合、俺は他の攻略者よりも練度の低い剣だけで戦わなければいけなくなる。

 

「納刀して再度武器を構えれば、また”抜刀絶技”は発動するんですけども」

「……隙が大きくできるわけだ。よくできてやがる」

「刀にしますか?」

「良いよ、刀って剣に比べても高いからさ……」

「武器代くらい出すのに」

「ダメダメ、配信の機材は君が、攻略の準備は俺が、って約束だろ? 俺は配信者で、君はプロデューサー」

 

 その辺り分別は付けておかなければいけない。

 そうじゃないと、すでに資金力があるルカに甘えてしまう気がした。

 そうこうしているうちに──初配信の日が来ようとしていた。

 

「場所はどうしますか?」

「……”江戸川の大穴”だ」

「此処って……確か」

「ああ。全ての始まりの場所だよ。俺にとっての……な」

 

 かつて、東京都江戸川区と呼ばれていた場所。

 しかし──15年前に出現したダンジョンで大部分が崩落してしまっている。

 当時9歳だった俺は此処で被災し、そして──あの竜の女の子に助けられたのだ。

 大規模に枝分かれしたダンジョンは、今も尚変化を続けており、日常的に多くの攻略者たちに刺激を与えている場所でもある。

 

「俺の目標は、あの竜の女の子を発見することだ。しばらく、此処で探索を続けたいけど……良いか?」

「勿論ですっ! 最初のうちは難易度が低い階層で慣らしながら配信していきましょう!」

「良いのかよ? それじゃあ再生数取れねえんじゃねえか?」

「考えがあるんですよ。最初の配信で再生数を取る必要はありません。それとも初配信を最期の配信にしたいですか?」

「大人しく従います」

 

 よくよく考えれば、そうだ。

 この数日、確かに慣らしで何度か難易度が低めのダンジョンに潜ったものの、俺の攻略者としての練度はまださして高いわけではない。

 初っ端から危ない橋を渡る必要は無いのだろう。

 

 ──そして、初配信の日が来たのである!

 

 ルカは自宅のアパートから、この高性能ドローンで俺を撮影。そして、インカムを通して俺をサポートするつもりらしい。

 そして一方の俺は、ダンジョンの前に立つ。

 必要な機材はドローン、そしてスマホだけ。

 後は野になれ山になれ。やるしかない。

 

 

 

『聞こえてますか? おにーさん。……配信、開始ですッ!』

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