ワンナイト相手が有名ダンジョン配信者だった件   作:タク@DMP

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第37話:海を裂く向日葵(ヘリアンサス)

「──全員まとめて、此処で八つ裂きにしてやりますからぁっ!!」

 

 折角丸く収める方法を考えていたのに、デルタの所為で全部台無しである。

 頭を抱えるしかない。もう滅茶苦茶だ。

 

「オメー後で覚えとけよカンガルー女ァ!!」

「魚を捕っただけなのニーッ!!」

『おにーさん、デルタ、調!! 警戒してくださいッ!! 仮にも相手は獣人──いや魚人! 気を抜いたら死にますッ!!』

 

 間もなく、魚人少女・オミーの手に丸鋸状のカッターが生成され、高速回転を始める。

 そして、オミーはそれをボーリングのように放り投げるのだった。

 次々に俺達目掛けてカッターが襲い掛かってくる。

 

「”海裂く向日葵(クリュティエ・ヘリアンサス)”ッッッ!!」

「どわぁぁ!?」

 

 石造りの遺跡の表面を物凄い勢いで抉り取りながらカッターは回転し、直進する。

 恐怖でしかない。直撃したら本当に真っ二つでは済まない。

 何とか走り駆け抜けながら、続け様に飛んでくるカッターを躱すしかないが、これでは心臓が持たない。

 

『カッターの出現時間は凡そ5秒程!! ですが、カッターが消えたらまた次のが来ますッ!!』

 

 ルカの報告を受け、俺は後ろの方でカッターが消えるのを見た。その直後に、オミーの両の手にはやはりカッターが用意されている。

 

「5秒……そして出てくるカッターは一度に二枚ッ!! それがあいつの攻撃のクールダウンか!!」

「……上等ッ!!」

 

 前に出たのは──調さんだった。

 俺はドスの利いた声に若干引きつつも、彼女が何をしようとしているのか瞬時に察する。

 

「──援護するねッ!!」

「了解だ調さんッ!!」

 

 飛んできた二枚のカッターを調さんが巻き起こした雷で撃ち落とす。 

 俺は、その隙にハンマーを抱えてオミー目掛けて殴りこむ。

 だがデルタが”反重力”を利用した跳躍で俺の背中を踏みつけて更に跳び上がった。

 

「あっ、バカ──」

「その”グルグル”ブン投げた後は──丸腰じゃねえカ!! もーらイッ!!」

「……やっぱり獣人って頭お花畑なんですね」

 

 次の瞬間、オミーの両手がぐにゃぐにゃと変形。

 それは高速回転するカッターへと変貌した──

 

「……進化して手に入れたのが、アメーバ並のオツムだなんて。とっても可哀想ですね」

 

 真一文字に袈裟斬り。

 鮮血と黒い靄が噴き出す。

 デルタの毛皮は相当に頑丈だ。それに傷を付けられるなんて、とんでもない切れ味。驚愕が俺の頭を急速に満たす。

 

「浅いッ……!! やっぱり分厚い──」

「やンろ、やったナァ!!」

 

 だが、只でやられるデルタではない。

 凄まじい勢いの蹴りがオミーの腹に炸裂する。

 

「おぐえっ──ッ!?」

 

 オミーが海へと叩き落とされる。

 その隙に俺はデルタに駆け寄った。

 

「デルタ、大丈夫か──うげ」

「ヘ、ヘーキダ……いっづづづづ……!!」

「どー見ても、平気じゃねえ……ッ!」

 

 見ると、胸だけではなく腕までバッサリいかれている。

 骨まで露出して見えている始末だ。肉を食えば治るとはいつもの本人の弁だが……!!

 

「お前はじっとしてろ!! 動くと血が余計に噴き出すッ!!」

「う、ぎ……これくラい……」

「待って、応急処置だけど……!!」

 

 調さんが駆け寄り、ギターをかき鳴らす。

 デルタの傷口を中心にして電気が迸り、脂が焼けていくようなニオイが突き抜けた。

 

「お、おお、傷が塞がったゾ……!?」

「……電気で切り傷を無理矢理焼いて塞いだ。出血はコレで止まると思うけど……」

「電気メスみたいなモンか、便利だな……!」

「よーシ、コレで──」

 

 次の瞬間、バシャンと高波が上がり、俺達の身体を濡らす。

 まさに傷に塩。デルタの絶叫が響き渡った。

 別に傷が治った訳じゃないから、痛みはそのまま。ついでに大量出血で貧血だ。人間なら死んでるだろうな。

 となると戦えるのは、俺と調さんだけだ。

 

「前に出て突っ走るからだ、反省しろッ!!」

「チクショー……いででででで」

「見て、巡さんッ!!」

 

 調さんが指差す。……なんかゲロゲロ吐きながら遺跡の方に這い上がってくる人影。

 可哀想なヤツめ、デルタの全力キックなんてまともに受けたら、魔鋼製の装備を付けたスキル所持者でも複雑骨折だ。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッッッ」

 

 ありったけの呪詛を吐き散らしてる辺り、まだ戦えるだけの余裕はあるみたいだ。

 しかし、とても痛々しい。元々戦うのが好きじゃない子が戦っているのが、誰が見ても分かってしまうからだ。

 経緯が経緯だけに、これ以上こっちから攻撃は加えたくないんだよな……調さんも複雑そうだし。

 

「な、なあ、取り合えずこの辺にしとかないかマジで……! 俺からあのバカには強く言っておく! な!?」

「ほんっとうに、お花畑ですね……」

「え?」

「……最初っから、誰一人として生きて返すつもりはありません……貴方達を初めて見た時から、絶対八つ裂きにしてやろうって思ってたんです……」

「な、なあ、落ち着けって」

「あの時ッ!!」

 

 金切り声がこっちまで響いてきた。

 

「あの時あの時あの時ッッッ!! ……()()()()()も八つ裂きにしておけばよかった……ッ!! そうすれば怖がって誰も此処には来なかったのに……おえっ……」

 

 吐きながらオミーは周囲にカッターを浮かび上がらせる。

 二つだけじゃない……三つ、四つ、五つ……!

 あいつ、まだカッター増やせたのか……!?

 伝わってくる。憎悪だけじゃない。これは──恐怖だ。外敵を全部排除してやろうって気持ちがイヤでも伝わってくる。

 

「うるさい騒音……全部まとめて黙らせてやりますから……ッ!!」

「貴女の言う通り……()()()()はどうしようもないバカの集まりだよ」

「……?」

 

 しかし、そんな中恐れずに調さんはギターを構える。

 

「でも、貴女があの子達の命を奪わなかったのには感謝してる。もし、あの子達が死んでたら……幾らあの子達が悪くても……貴女の事を本当に許せなかったかもしれないから」

「……貴女、あのうるさい人間たちの仲間ですか」

「元、だけどね。それでも……情はあるんだ」

「あのイカれた人間たちにも仲間が居るんですね……オミーには……この子達しかいないのに」

 

 指揮者のようにオミーが手を振るう。

 

「この海に住む魚たちは……勝手にオミーが仲間って呼んでるだけ。普段は自由きまま、海を泳ぎ、漂うだけ。構ってくれるわけでもないし話してくれるわけでもない……でも」

 

 何だ。何か、軋むような音が聞こえてくる。

 

「フ、フフフッ……!! ()()()()()()()──オミーの”命令”を、ちゃぁんと聞いてくれるんです」

 

 その言葉と共に俺達の立っている足場がいきなり崩れ落ちた。

 遺跡の残骸がバラバラに斬り刻まれたのだ。どうして──カッターは出していなかったはずなのに、と逡巡する間もなく、俺は調さんとデルタを小脇に抱きかかえて跳躍していた。

 デルタの”反重力”だ。デルタ程ではないが、大きく跳ぶことが出来る。

 

「いっでででで!? もっと優しく掴メ!!」

「うるせーうるせーッ!! 海の藻屑になりてーか!!」

「ねえ、あれって……!!」

 

 沈む遺跡の周りを泳ぐ銀色の魚影たち。

 その頭部はとても歪な形をしていた。

 ぎょろりとした目玉に、丸鋸のような形をした奇妙な下顎。

 そしてオミーそっくりの全身を覆う銀の鱗──巨大なギンザメのような魚だ。

 

『おにーさん、アレは()()()()()()()ですッ!! かつてペルム紀に生息していたというギンザメの仲間!!』

 

 ルカの声が飛んできた。

 俺も聞いた事がある。確か丸鋸みたいな歯をしたサメの姿で復元されていた古代魚だ。

 サメとギンザメの違いなんてよく知らないけど──漸く得心出来た。

 オミーの丸鋸状の刃物を操る能力は、あの特徴的な下顎が由来。あの子はヘリコプリオンの魚人──

 

「ふざけんじゃねーッ!! 生き物の顎が丸鋸みてーに回転するワケねーだろ、どーなってやがんだッ!!」

 

 ……ダンジョンの危険生物にとやかく言うのが間違いなのかもしれない。

 

「空へ跳びましたね!! 追って、”空裂く向日葵の精(オーケアニウス)”ッ!」

 

 大量のカッターが俺達目掛けて飛んで行く。

 ”反重力”で落下まではまだ時間が掛かる。空中では身動きが取れない。

 しかし、俺は慌てていなかった。抱きかかえられながらという異様な姿勢でも調さんは旋律をかき鳴らす手を止めていない。

 

「第2音奏……”鋼音の牢獄(スティールインプリズン)”ッ!!」

 

 電気の檻を発生させる旋律。敵に閉じ込めれば文字通り牢獄に。

 だけど味方に使えば、攻撃から守る全方位の盾となる。

 カッターは全て牢獄に阻まれ、消え失せていく。

 だが、あのカッターに残弾なんて概念はない──

 

「調さん、限界まで落下速度を落とす──ッ!! 次で決めてくれ!!」

「大丈夫ッ!! 第3音奏──”重低音の轟怒(ヘヴィーゴールド)”ッ!!」

 

 ──海目掛けて落ちる黄金の雷。

 あまりの眩しさに目を瞑るオミーだったが──次の瞬間、彼女の身体もびくんと痙攣し、絶叫が響き渡った。

 

 

 

「ぎゃあああああああああああ!?」

 

 

 

 ……これが出発前に俺と調さんで立てた”策”だ。

 雷は水中では拡散する。だけど──水面や、水辺に居る相手は感電するんだ。

 オマケに塩水は電気を通しやすい。ターゲットが水面に逃げたら、俺か調さんのどっちかが電気技を撃って仕留めるって決めていた。

 海水に濡れた身体で遺跡の足場に立っていたオミー、そして水面で俺達が落ちるのを待っていたヘリコプリオンは一斉に感電するのだった。

 

「……ごめんね」

 

 小さく呟く調さん。

 そして、口から泡を噴き出して気絶するオミー。

 勝負は──決した。

 海に落ちた俺達の周囲には黒い靄となって消えていくヘリコプリオンの群れ。

 

「ほぎゃああああああああああ!?」

 

 そして傷どころか全身に塩水を浴びたデルタの悲鳴が上がる。オマエは反省しろマジで。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「そんで、どうするこの子……?」

 

 

 

 流石にあれしきで死にはしないのが、魚人クオリティだ。

 正直、放っておいてやるのが一番なんだけど……。

 

「最早何をしても可哀想だからな……おいルカ、配信切ったか?」

『この子が暴れ出した辺りで切りましたよ。炎上する予感しかなかったんで。どう考えても今回の件、この子が可哀想じゃないですか』

「そうね……ウタちゃん達にも厳しく言っておかないと……」

「言ったところで改善するか?」

「しないわね」

 

 断言しちゃったよ。イカれたロックンロール精神は死んでも治らなさそうだ。

 そして、デルタは──

 

「あ、あひ、あひ……」

「デルタちゃん、平気?」

「死にはしねーだろ、死には」

 

 ──切り傷に散々塩を塗り込まれた事で瀕死だ。人間ならこれだけでショック死してそうだな。

 だが正直、同情は出来ない。コイツが焼き魚パーリィした所為で相手を刺激してしまったし、俺を踏み台にして警戒もせずに前に出たので自業自得だ。

 でも、こいつが斬られてなかったら、俺が不意打ちのあのカッターで斬られてたかもしれないのか? ……悔しいがちょっとだけ貢献度が上がったな。功罪が相殺出来てるかは分からないが。

 

「……さーてと。肝心の魔鋼製楽器はどうする? 手ぶらで帰るのもアレだぞ」

「そうね。何だか曇ってきたし、回収するなら早めが良いわ」

「曇る、か」

 

 曇天が空を覆っている。

 空なんて無いはずのダンジョンの中。

 だけど、此処には確かに空があり、雲がある。

 本当に奇妙な空間だ──と感心していたその時だった。

 

 

 

「来る」

 

 

 

 俺は思わず見下ろした。

 オミーが──目を見開いていた。

 全身の鱗は逆立っており、顔は恐怖に染まっている。

 それもそうか、さっきまで戦っていた相手が周りを取り囲んでいるんだから。

 

「お、起きた──!?」

「ねえ、大丈夫……?」

「く、来る……来る……勘付いたんです……()()()()……!! あっ、ぎっ……!?」

 

 動けるはずもない。あれだけの落雷を受けたんだ。

 しかし、それでも何かから逃れようとするようにオミーは体を捩らせた。

 

「い、いやだ、いやだ……ッ!! 折角、逃げて、隠れてたのに……貴方達の所為で……ッ!! オミーは世界一の不幸者です……ッ!! 万事休す、運の尽きです!!」

「何だ……!? 何に追われてるってんだ!?」

「お終いです……オミーは、目を付けられてるんです……ッ!」

「だから、誰に!!」

 

 高波が起こる程の勢いで何かが海の底から飛びあがった。

 

 

 

 ──ワニのような長い顎。そして、イルカのような長い鰭。獰猛な目付き。そして──全身に刻まれたのは青く輝く紋様。

 

『クロノサウルス!? だけど、あの光は一体──ッ』

 

 驚きを上げるルカ。

 巨大なクロノサウルスを見て、確信したように、そして心底絶望したようにオミーは──呟いた。

 

 

 

 

「カイ……()()()()に……ッ!!」

 

 

 

 大顎を開け、クロノサウルスは俺達目掛けて飛びかかってくる。

 ……成程、ワケアリか。それなら猶更見過ごせなくなった。

 

 

 

「それなら──俺達に任せろッ!!」

 

 

 

 オミーの不幸は、今日此処で俺達に出会ってしまったことかもしれない。

 だけど──それは幸運でもあった。

 

 

 

一気貫通(バンカーバスター)ッ!!」

 

 

 

 ”反重力”で大きく跳び、クロノサウルスの脳天目掛けてウォーハンマーを振り下ろす。そして、パイルバンカーの引き金を思いっきり引いた。

 相手がどんなにデカくても関係ない。生き物なら頭を潰せば死ぬ。

 衝撃。そして、炸薬で飛び出した杭がクロノサウルスの頭部を──木っ端微塵に破壊した。

 そのまま黒い靄を噴き出しながら、海竜は水底へと堕ちていく。

 

「す、すごい……空中で、あのデカブツを……倒した……!」

 

 ぽかん、と口を開けるオミー。

 借り物だらけのスキル。オマケにオリジナルに比べれば劣るデッドコピーの寄せ集め。

 だけど組み合わせ方次第で──何倍にでも強さは跳ねあがる。

 

「その時王とやら……俺達なら何とか出来るかもしれねーぜ」

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