ある館の入口に女性が立っていた。その女性の前には館があり、館の門には『金返せ』『差し押さえ』『督促状』『廃屋キケン』などと書かれた紙が貼られている。
ピリッ
彼女は門に貼られている警告書を剥がすと門の扉を開け、入っていく。
彼女の目には何かを写ろっているように、悲しそうな表情で館の玄関まで進む。
すると、
「捨てないでぇぇ!」
自転車のブレーキ音と共に門の前で焦った顔をした男性が立っていた。
「歌苗〜!何で〜急に荷物捨てるとか〜!」
彼の名は神楽奏助、この家の主の幼馴染で普通の男である。
「先月から言ってるのに全然取りに来ないから」
そう言い、呆れているこの女性は音羽歌苗、この音羽館の主である。
「え?そんな経つ?」
すると、奏助のお腹辺りから
「正確には、42日前からメールを受け取っています」
「ねぇ~、パッドくん」
タブレットのパッドくんから、そう聞くと機嫌が悪そうに音羽館に進み始める。
「え〜色々忙しくて〜、あのさ、使ってない部屋だからずっと置いておいていいって言ったじゃん」
往生際が悪そうに奏助が言うが、
「引っ越すって言ってるでしょう」
と不機嫌なまま言った。
「え〜本気なの?」
「もう引き渡し先も決まってるの」
「え〜、でも~」
歌苗が館の扉を開けると、
「お帰り!歌苗!」
「えっ、誰?」
階段の上に誰かがおり、
「見て見て〜!」
そい言いながら、ピンクの服を纏わせた人物は階段の手すりに足を滑らしていく。
「ハッハハ!あっ」
グシャ、ゴキッ、バタン
手すりの最後に足が引っ掛かり、勢いよく前に滑り落ちる。
「ちょっと何してるんですか?怪我は」
「全然平気」
「鼻血出てます」
「わざと(笑)」
だが、歌苗の言う通り、鼻から結構な量の鼻血が出ている。
「はぁ~(溜)、家の中でのローラーシューズは禁止です」
安心したように注意をすると、
「禁断の行為にこそ、真実が隠れてるかも」
彼は歌苗の手を取り笑い掛ける。
「//ッ」
歌苗は恥ずかしかったのか、すぐ手を離した。
「あっ、あ、」
ピンク色の服を着た彼を指差し、奏助は言う
「彼氏か!彼氏ができたのか!」
「違うわよ」
歌苗は即座に否定する。
「だから?だから俺の荷物捨てるの!?」
「違うってば!」
「じゃあ、誰これ?」
ピンク色の服を着た彼が立つ上がった、
「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、以後お見知り置きを、」
「アマデウ、ス、モーツアルト?」
「そう、モツでいいよ」
モツは奏助に手を差し出す。
「ああ、奏助っす、よろしく」
笑顔で握手をすると、
「いい感じの彼氏じゃん」
すると、
「ちょっと大丈夫?凄い音聞こえたけど」
階段の上から少女の声が聞こえた。
「今度は誰?」
階段の上にいたのは、ライトグリーンの髪でツインテールの同じ歳ぐらいの少女がいた。
「あ~ごめん、僕がわざとやっただけだから」
「それもそれで、どうなの?」
「騒がしくてごめんね、ミクちゃん」
ミクは、ヘッドホンを首から下げたまま、やってきた。
「ミク?何か聞いたことがある気が」
「そんなこと、今はいいから、あとモツさんとは彼氏じゃない!」
顔を赤らめながら言う。
「歌苗、ちょっとモツくんを手当てして来る」
そう言うと、ミクはモツの腕を引っ張る。
「え〜、大丈夫」
「いいから、行くよ」(圧)
「はい」
圧に押し負けたのか、モツはミクに連行されていく。だが、
シューー
「何この音?」
「ああ、ルーくんのいつものだと思うよ」
ミクの質問にモツは何のことの無いように答えるが、その音の先には大きな扉があり、扉の隙間から焦げ臭い黒い煙が出ている。
ガシャン!
「火事!?」
歌苗が奏介達とその扉を開けると、その先には
「うーむ」
火炎放射器などを鉄板に向けている、白髪の男性が鉄板の上にあるものを睨んでいた。
「な、何やってるんですか!?」
その男性に問いかけるが、帰ってきた返答は
「ギョーザーだ!」
「「は?」」
「焼くのだ、ギョーザーを!」
冷凍餃子のパッケージを持ち、高々に声をあげる。
「は!?餃子を焼くのにどうしてこんな物を」
「料理は火力だ!と、この書物に載っていた!」
そう言い、彼は料理の漫画を取り出す。
「ええ、いや、そうじゃなくてですね!あの第一この部屋には入らないで下さいってお願いしたじゃないですか!?」
「小娘よ、ギョーザーは素晴らしいな!」
「話を聞いてください!」
歌苗が、彼を説得しようとするが
「パンチの効いた旨味はティンパニーの如く!」
「は?、ああ、いえだから「肉と脂、具材で鋭い食感が重なり合う、まさにヴァイオリンの如き!色とキャベツ!忘れるなニンニクを!そして、ああ、そしてその全てを許し包む、まるでオオボエの如き皮!炭水化物!おお!力の源!」」
彼は歌苗の話を全く聞こうとしなかった。その間、モツはローラースケートでホールを走り回り、ミクは呆れて明後日の方向に向いている。
「完全栄養食材でありながら、渾然一体となって奏でられるそのハーモニー!これほどの物か!ギョーザーとは!?」
まだ、何かを話しているが、奏介は聞かないことにした。
「歌苗、これも彼氏?」
餃子について熱く語っている彼を指差し、奏に質問する、
「歌苗、言っちゃ悪いけど男の趣味にとやかく言うつもりはないけど、ベトは辞めときなよ」
ミクはそれを聞き、そのまま歌苗に返す
「あんたらまで、私を苛つかせなせないで」
みるからに不機嫌になっている歌苗を横目にモツは、奏介の質問に答えた
「彼は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、ベトでもいいけど、さんをつけない無いと怒るかも」
モツは奏介にウインクしながら、答えた。
「ベトさん、ねぇ」
モツに言われた通り、さん付けで呼ぶが、
「そう、完璧の上にさらに完璧を重ねてえられる漆黒の境地こそが」
「こんなの使ったら、一瞬で餃子焦げちゃうんじゃ」
銃火器を触ったりして言うが
「そう!その一瞬だ!スタッカートの音の如き煌めき!そこにこそ真髄は宿る!」
「片付けてください」
「無駄な風味の流出を防ぎ、旨味すべてを閉じ込める!強力な火力によって一瞬にして焼き上げることで!」
「片付けてください」
歌苗は表情を変えずにベトに片付けさせようとしたが、
「歌苗!ベト止めて!」
それをぶった切ったのはミクだった。
「いくぞ、未だ見ぬギョーザー!」
「え?」
「何度でも言います、片付けてください」
ミクの声が聞こえなかったのか、歌苗は変わらず注意するが、奏介は聞こえたようで疑問に思う
「ファイヤー!」
ガシャン!
ベトは持っていたスイッチをぶっ壊すほどの力で叩きつける。その瞬間、銃火器から火が発射され、餃子がその炎が覆われる。
「ヤバい!」
そう言い、ミクは部屋に転がっていた大きな中華鍋に自分の身体の前に向け、盾にする。その瞬間、ベトがつけた銃火器から大きな光が漏れる、そしてその光はこの部屋にいた全員を飲み込んだ。
ドカーン!
と、轟音が音羽館に鳴り響く。
「よかった、間に合った」
ミクは爆発が治まると、盾にしていた中華鍋をそっと下に置く、
ガシャン!
ミクは直ぐに音の鳴る方をみる、そこには
「火力 少々火力が強すぎたか」
箸を持ったベトさんと少し泣いている歌苗がいた。
「小娘」
ベトは歌苗をよぶ、これ以上何があるのだと、ベトの方を向く
「食うかね」
ベトは箸で殆ど炭化した餃子を掴み言った。
「食べません」
そう言うと、箸に掴まれていた炭化した餃子が崩れた。
「歌苗!大丈夫!?」
ミクは直ぐ様、歌苗が無事かを確認しに行った。
1時間後
歌苗は部屋で髪を拭いていた、ベトが起こした爆発で身体が汚れてしまったからだ。
「なぁ歌苗、何なのあいつら?」
奏介は扉越しに、歌苗にそう尋ねた。
「お父さんの知り合いだって」
少し苛ついたように答えた
「親父さん、帰ってきてたんだぁ」
「来てないわよ、紹介状持って突然やってきて、住み着いちゃったのよ、それでもミクちゃんはまだ家賃払ってくれてるけど」
呆れたようにそう返す
「成る程ねえ、親父さん色々拾ってくるもんなぁ、犬とか猫とかハシビロコウとか」
奏介はパッドくんを弄りながら、そう言った。
「ホント勝手なんだから、迷惑ばっか掛けて」
髪を拭きながらのため、顔は隠れているが相当ご立腹の様子、
「な〜あ、あいつら住んでんなら、俺の荷物も「ダーメ!あの人達が住むのだって了解してる訳じゃないんだから」」
奏介は頼むが、歌苗は許してくれない様子、
「でも、急に片付けろって言われても、俺んちに入り切らないよ、ギターもあるし、ターンテーブルだって」
「使ってないんだから、捨てれば?」
「お前、楽器はミュージシャンの命だぞ」
「誰がミュージシャンよ」
「俺!」
奏介は自分に指を立て、言い切るが
「楽器一つもできないくせに」
「才能ってのは開花するのに時間がかかるっつうか、俺は火が付くのが時間がかかるんだよ〜、スロースターターっつうか!」
「モテたいだけでしょ」
歌苗から結構辛辣なことを言われるが
「そう!」
本人は皮肉とも思ってないみたいだ、
「相変わらずだねぇ、奏介は」
「最近はDTMの方に凝ってんだ、かっこいいだろぉ〜、DTM、unders__」
奏介が歌苗の扉に近づき、調子に乗っていると、
ガシャーン!
「ぎゃー」
奏介は、歌苗が思い切り開けた扉にぶつかった。
「とにかく、片付けないと捨てるから!」
そう言い、ガシャン!という音と共に歌苗は自分の部屋の扉を閉めた。
「痛いよ!」
「大丈夫?奏介くん、だっけ?」
「え?あ、どうも」
奏介の目の前に居たのは、先程も居た、初音ミクという少女だった。
「確か、ミクちゃん?だっけ?」
「うん、初音ミクです!」
奏介の疑問はただ一つ、何でネギを持っているかが気になった
「何で、ネギ持ってるんすか?」
「私はネギが大好きだからね、好きなものは肌身はなさず持っていたいじゃない!」
笑いながら、ネギを肩に担ぐ。
「な、成る程」
「まあ、歌苗を責めないであげてね、一応、色々考えた結果みたいだから」
ミクはそう言い、ネギを担ぎながら離れていった。
数十分後
「取り壊す?」
「明日?」
ベトとモツは壊れた銃火器の処分をしていたときに歌苗に言われた。
「ええ先刻、業者の人から連絡があって、解体工事の開始が急に決まったんです、だから今日中に荷物を纏めて出ていってください」
少し元気の無い声で歌苗は言った。
「私は何処で!ギョーザーを極めればいいというのだ!」
「だから、知りません!河原でも中華屋の裏でも好きなところで焼いてください!」
「ベト、歌苗だって色々考えて言ってるんだから、駄目だよ、我儘言うのは」
ベトを宥めようとミクはするが、
「許可なく屋外で火器類を使うのは違法です」
「っ!」
パッドくんが歌苗に言うが、歌苗の苛つきが上がっていくのがわかる。
「おお!艱難辛苦!これも!これも!運命なのか!」
「私も、アパートでもなんでも見つけないとだなぁ〜」
「運命は何時でも別意を突きつけるねぇ」
上から順にベト、ミク、モツだが、銃火器の片付けを行う。
「奏介も!わかったわね」
「本当に壊しちゃうの?お婆さんの形見の屋敷じゃ、」
「うん」
「全部?」
「全部」
「何もかも?」
「何もかも」
「更地にしちゃうってわけ?」
「そう」
歌苗の意思は硬いようだ。
「ハッシーくんは?」
「取引先は決まってます」
「俺の部屋も?」
「貴方の部屋じゃ、ありません」
「あれは?」
奏介がそう言い、指差したのはホールの中央にあるパイプオルガンだった。
「どうせ、動かないし」
「全部、なくなっちゃうの?」
「もう、決めたことだから」
「私は止めないよ、歌苗が選んだことでしょ?」
ミクは、銃火器のゴミを運びながら言った。
「ごめんね、ミクちゃんも急に言っちゃって」
「いいよ、でも」
その瞬間、少しだがミクの目が変わった気がした。
「それが、歌苗の本当の想いなのかは気になるとこだけどね」
そう言うと、ミクは自分の片付けを終えたのか、自分の部屋へと戻っていった。
「じゃあじゃあ!ベトさん達もう掃除することなくね?」
「「はっ!」」
ベトとモツは歌苗に期待の眼差しを向けるが、
「全員!この家から出てけぇ!!!」
歌苗は音羽館全体に響くような声でそう言った。結果的にこのあと、奏介、ベト、モツは屋敷の外に追い出された。
何かおかしな点や、誤字脱字があった場合、報告してくれるとうれしいです。