ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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我慢出来ませんでした。

そんな訳で初投稿です。


暗黒期~
物語1


 

 

 

 

 ────竜の谷。

 

 其処は世界三大秘境の一つとして数えられ、同時に世界中の人間が禁忌として触れてこなかった禁足地。

 

 谷に蠢く竜の群れ、数ある一体が結界から抜け出してしまえば、それは未曾有の厄災となる。多くの英雄達が力を合わせて漸く討伐が叶い、同時にそれを成せばその英雄を人々は勇者として称える事になるだろう。

 

 しかし、結界の本分はソレに非ず。滲み出てくるように現れる竜種は網から抜け出す鼠に過ぎず、谷の奥底に眠る【黒】を封じる事が結界に課せられた役目であった。

 

 千年前に大穴から顕れ、【陸の王者】【海の覇王】と共に人類を脅かした絶望の具現。何時の日か、人類が討伐しなければならない絶対悪。

 

けれどその日、【黒】を封じていた結界が唐突に消失した。

 

 それは、先のとある二大派閥との激闘による余波か、それとも長きに渡る時の流れで遂にその効果が潰えたのか、それは定かではない。

 

 ともあれ、これで世界の終焉は確定した。塞き止めていた竜が【黒】を叩き起こすかのように雄叫びを挙げる。

 

 それは、喝采だった。

 

 それは、祝福だった。

 

 邪魔だった結界は解かれ、残るのは黒く淀んだ曇天のみ。見上げ、咆哮を挙げる竜の群れは終末を謳う喇叭のソレ。

 

 そして───。

 

 【黒】が動き出す。竜共の鳴き声が煩わしいと、惰眠を貪る身体を捩れば、それだけで地鳴りが起こり、周囲の竜達を引き潰していく。

 

 しかし、それでも彼等の讃歌は止まらない。何故なら、忌々しき結界が消失し、漸く地上を自分達の手に出来るのだから。

 

 忌々しき神々を追放し、(人類)を鏖殺すれば地上は【母】のモノになる。楽園までもうすぐ、英雄なき世界において【黒】こそが頂点となるのだ。

 

 【黒】が、眼を醒ます。小さく唸り声を漏らし、気だるく身を起こした。

 

 天を衝く程の巨大さを誇る【黒】は、その挙動だけで天変地異を引き起こす。

 

 天が渦を巻き、地が慟哭する。【黒】が纏う瘴気、ただそれに触れただけで万物は腐蝕し、爛れていく。

 

嘗ての派閥との激闘の時から、未だ時を置かずしての目覚め。しかし、既に【黒】は嘗ての傷を完全に癒していた。

 

 罅割れた鱗は生え代わり、擦り傷だった箇所も既に消え失せた。【黒】の身に残るのは千年前に自身の片目を穿った人間の一撃の軌跡のみ。

 

 もう、終わりか。千年前、そして少し前、僅かに印象に残った戦いの記憶を夢に見て、惰眠を貪る時間は終わった。

 

 翼を広げる。ただそれだけで谷は崩壊し、結界だった残滓も谷と共に跡形もなく消失した。

 

 確かに、結界は千年もの永い時の中で【黒】の動きを封じる事に成功した。

 

 結界が真の意味を為していたのは随分昔の話、【黒】が気紛れ以外でこの谷から抜け出さなかったのは、偏に自分を封じ込めた嘗ての賢者に対する敬意であるが故のモノ。

 

 しかし、その楔も消失し、己が此処に留まる意味も意義も、義理も失った。

 

 斯くして、終末の刻は来た。翼をはためかせ、空へ飛び立つ【黒】は、遂に自由を得た。

 

 感傷はなかった。あるのはこれから滅びる世界へのどうしようもない倦怠感だけ、退屈で詰まらない、在り来りな蹂躙劇。

 

 せめて、僅かでも生き残りがいれば、いつの日か自分を満たせる存在に出会えるかもしれない。

 

 空を埋め尽くすほどの竜を、関心もなく無自覚に従え、【黒】は動き出す。

 

 先ずは、“()”の奪還。煩わしい蓋を破壊し、母を完全に解放させる。大昔に交わされた“契約”やら“決着”やらの事など既に頭から消え去り、あるのは面倒な役割と使命感だけ。

 

さぁ、全てを終わらせよう。竜と共に【黒】が動き出そうとして────止まった。

 

「おっと、随分と団体様が出てきたな」

 

 ソレは、剰りにも奇妙な人類だった。翼も無ければ羽もない、なのに当然の様に宙に佇むその人類は──何よりも、一切の畏れなく己を視ている。

 

 不敵に、いっそ不遜ですらある笑みを浮かべる人類。そんな人類に対し、周囲の竜は不敬だと言葉のない雄叫びで吼える。

 

 数千、或いは数万の竜の軍勢。現在の人類の総戦力を優に上回る数を相手に、それでも人類──男の笑みは崩れない。

 

「やれやれ、口煩い外野が多いと大変だな。お前、もしかして結構辟易としてないか?」

 

 吼える竜の群れを鬱陶しく思いながら平然としている男は、側にいる【黒】に同情する。

 

 【黒】の反応はない。ただ静かに得体の知れない男を見据えるだけ。

 

 しかし、男の態度に憤った一体の竜が先行する。愚鈍な人類を他の人類への見せしめとして喰い千切ろうと、その顎を開いて迫る。

 

 人類を噛み殺す為だけにある牙。しかし人類の膂力を遥かに上回る巨大な竜は、男の突き出された手の意図を理解せず。

 

 竜は男の腕に噛みつくと、内側から爆ぜた(・・・・・・・)

 

 その光景に、騒いでいた竜の遠吠えは一時掻き消され、【黒】の眼は僅かに見開いた。

 

 ────目の前の男には以前の派閥連中の様な神の気配(・・・・)はない、突き出された手、その腕に一切の傷はなく、今も不敵に笑う男を見て【黒】は嘗て己に唯一の傷を刻み込んだ英雄を幻視した。

 

「「「「「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」」」」」

 

 久しく見ない“敵”に歓喜する【黒】だが、周囲の竜達はそれどころではない。同胞が殺られ、構うことなく笑う男に逆上した竜は、目の前の障害を排除しようと数の暴力となって突貫する。

 

 矜持や誇りなど怪物(モンスター)には存在しない。あるのは純粋な迄の破壊衝動と殺戮衝動のみ。

 

 故に、それは同胞を殺された憤りではなく、単なる本能で、決して仲間意識から来るものではない。竜ではなく獣。だからこそ人類の絶対悪である竜の群れを前にして。

 

「そらよ」

 

 男はただそう呟いて軽快に腕を横に薙ぐ。それだけで竜の波は両断され、絶命した竜の群れはボタボタと谷底へ落ちていく。

 

 見れば、男の手からは光が延びていた。まるで剣の様に鋭いその光は、【黒】がこれ迄見てきた英雄達のどの得物よりも鋭利に見えた。

 

 今の一撃で、竜の群の半数近くが殺された。しかし、自我の薄い怪物がその意味を解する事はなく、相変わらず平然と佇んでいる男に目掛けて突っ込み。

 

 そして、その悉くが蹂躙された。

 

 翼を持ち、空を飛び、火炎を吐いて自在に地上を焼き尽くす破壊の権化──ドラゴン。

 

 谷に住まう竜、その全てが男に素手で破壊された。振るわれた拳は竜の胴体を撃ち抜き、その威力の余波で周囲の竜を巻き込み、破砕していく。

 

 振り抜かれた蹴りは竜の半身を引き裂き、蹴り放った直線上の全てが切り払われた。

 

 気付けば、【黒】ただ一体のみ。空に上がった他の竜はその悉くが谷へと沈み、血の海を生み出している。

 

「やれやれ、無駄に数が多かったが……まぁ、準備運動にはなったか?」

 

 未だ、男に疲弊した様子はない。寧ろ肩を回して自身の調子を確認する程度には余裕があった。

 

 底が見えない。目の前の男は嘗て見たことがない力を有しており、それは【黒】にとって埒外の未知であった。

 

 確信した。目の前にいるこの男は己が全霊を懸けて殺すべき存在なのだと。

 

 故に、斃さずして先に進む道理はない。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 故に、【隻眼の黒竜】は目の前の男を殺す為に全霊を解き放つ。

 

 空が割れ、暗雲が吹き飛び、夜の空が姿を見せる。その雄叫びは天地を震わせ、その波動は天界まで轟かせる。

 

「ほう、少しはやる気になったか。なら、此方もそれなりに力を入れて相手をしてやるよ」

 

 吼えて力を高める黒竜に対し、男も力を込める。滲み出る力は男の周囲の空間を歪ませ。

 

「ハァッ!!」

 

 解き放たれた力は天体(惑星)を揺さぶり、天界にいる神々すら瞠目し、驚愕させた。

 

「コイツが、超ベジット(・・・・・)!」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 男の裡から顕れる黄金の焔を纏い、金髪碧眼へと姿を変える。その明らかに変わった(・・・・)男────ベジットに黒竜はひたすら己の全霊を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────戦いは互角に見えた。

 

 振るわれる黒竜の爪はベジットなる男の振るう刃を防ぎ、蹴りは尾の一振と相殺される。

 

 天を衝く巨体を誇る黒竜と、180c(セルチ)程の人間との激突。極まった力と力のぶつかり合いは、周囲の大地を地中深くまで抉り、空を激震させた。

 

 それは正に御伽噺で、新たに紡がれる神話であり、英雄譚であった。────端から見れば。

 

 ベジットを名乗る男には、全く疲弊した様子はなかった。その身体に傷はなく、その立ち振舞いに一切の翳りはなく、その動きは凄まじい力を秘めているのとは裏腹に清流そのものだった。

 

「どうした、それで終わりか? もっと全力を出して欲しいな」

 

 何処までも不敵。振るわれる黒竜の爪は天地を引き裂き、薙ぎ払われる尾の一振はそれだけで人の街を壊滅させていった。幾つもの文明を破壊し、その顎で万物を噛み砕いてきた。

 

 他にも、この身に備わっているあらゆる権能(スキル)を用いても目の前の人間には通用することはなく、ただ時間だけが過ぎていく。

 

 隻眼である隙を突かず、あくまで対等に(フェア)戦っているつもりのベジットは、そんな黒竜からの猛攻の悉くを捌き、受けきっていた。

 

「⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 顎を開き、目の前の人間を噛み砕かんとする。

 

 既に幾度も繰り返してきた応酬。迫る大口を前にベジットは変わらず笑みを浮かべたままで。

 

「よっ」

 

 完全に動きが見切られている。その証拠に、これ迄余裕を持って回避していたベジットが、今度はわざとギリギリの距離で躱し。

 

「そろそろ、こっちの番だな」

 

 後ろへ宙返りし、遠心力の勢いを乗せた蹴りの一撃が黒竜の顎を蹴り上げる。

 

 瞬間、大気が爆ぜた。

 

 顎が砕かれ、同様に砕かれた黒竜の牙がポロポロと地表へ落ちていく。蹴り飛ばされた黒竜はそのまま上へ伸びるように吹き飛び。

 

「ダッ!」

 

 無防備となった黒竜の胴体、そこへベジットの拳が捩じ込まれる。

 

 端からにはベジットの腕が微かにブレているようにしか見えない。だが、次の瞬間には凄まじい打撃音が辺りに轟き、黒竜の肉体に深々と拳の痕を刻み込んでいく。

 

 拳の痕の大きさは人間大のモノ。それなのに己を貫こうとする痛みと衝撃は黒竜の中で荒れ狂い、黒竜を未知の激痛へと叩き込む。

 

 或いは、本当に貫かれているのだろう。黒竜の肉体のあちこちから孔が穿たれていて、其処からは多量の血液が滴り落ち、大地を濡らしている。

 

 一種の溶解液ですらある黒竜の血、それにより大地が悲鳴を上げているが、対峙している両者は気にも止めない。

 

「そらそらそらそらぁっ! ドンドン行くぞォッ!」

 

 蹴り飛ばし、遥か彼方へ吹き飛ぶ黒竜をベジットは瞬く間に追い抜いていく。背後に回り込まれ、黒竜は咄嗟に尾で薙ぎ払うが、容易く掴まれてしまう。

 

「ほぅら、急降下だ!」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!?!?」

 

 巨体が翻る。空を戴き、天地を見据える黒竜が、玩具の如く弄ばれ、振り回される。天体(惑星)を一望できる距離から、一気に地上へ向けて投げ飛ばされた黒竜は、己の重要器官である翼を使って立て直しを図るが──。

 

「遅ぇよ」

 

 ピシュンッと、そんな軽い音と共に現れた男によって遮られ。

 

 振り上げられる膝蹴りが、黒竜を再び空へ押し上げる。

 

 ────この人間は何だ? この人間は、これ迄己が生きてきた中で見たことも聞いたこともない類いの存在。

 

 千年前の英雄は己の予想を裏切り、限界を超克し、遂には己の片目を奪った。

 

 その後の二つの派閥を率いる一組の男女も、千年前程では無いが悪くはなかった。

 

 だが、この人間は違う。千年前の英雄も少し前の英雄達とも根本的に何かが違う。

 

 未知。そう、未知の塊だ。肉体の差など考慮せず、力の差は圧倒的で、速さも、強さも何もかもが隔絶している。

 

 一体、この男は────何なのだ。

 

「ビッグバン────」

 

 背後から聞こえてきた奴の声に、断絶していた意識が戻る。そんなバカなと地表を見やれば、そこに奴の姿はなく、軌道を描いている光の線が伸びているのが見えるだけ。

 

「アタック!」

 

 背中から感じる夥しい熱量。それは黒竜の鱗を溶かし、広がっていく。

 

 一瞬にして広がる光は黒竜を呑み込み、刹那の時間、世界を照らし出す。

 

 ボロボロと落ちていく黒竜を見下ろしながら。

 

「もっと本気でやって欲しいな」

 

 なにかを期待するように、ただ不敵に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「参ったな、本当にこれで終わりかよ」

 

 下の谷底へと落ちてから、何の反応もない黒竜にベジットと名乗る男はしまったと頭を掻く。

 

 男には前世と呼ばれる記憶があった。何時ものハードでブラックな会社での仕事をこなし、三日ぶりの自宅に帰る迄の記憶を覚えていた男は、深い眠りから覚めた後、気付けば何処とも知れない森の中にいた。

 

 夢か幻か、突然の事態に困惑するも、喉が渇いた為水を求めて彷徨い歩けば、自身の身の丈を優に越える熊と遭遇。突然に次ぐ突然の事態に完全にフリーズした男はそのまま振るわれる熊の一撃に吹き飛んで岩に激突、俺はその衝撃に困惑した。

 

 痛くない。吹き飛ばされた際の妙な浮遊感はあったものの、特に痛みらしいモノはなく、自覚し、感じられたのは全身を巡る凄まじい力のみ。

 

 “負ける気がしない”と、根拠のない確信を抱いた男は、運動不足対策に習っていた通信空手を使って熊と応戦。どうせ夢だからと達観しながら振り抜いた拳は熊の上半身を軽く吹き飛ばした。

 

 そんな自分の身体にドン引きしながら森を彷徨い歩き、漸く見付けた湖で一息をつき、水面に映る自身を見て其処で漸く男は自身が昔から憧れてきた戦士、【ベジット】になっていた事に気付く。

 

 それからは全身凶器になった自分の身体に戦慄し、人里を見付けても力を完全に制御出来るまで、決して自分から近付く事はなかった。

 

 昔、聞きかじりのシャドーボクシングの真似事を繰り返し、理不尽なノルマを課してきた上司への怒りで遂に超サイヤ人になった男は、この時を契機に自身をベジットとして生きていくのを決め、強くなり続ける求道者の道を進むことにした。

 

 そうして武者修行の旅をする事数ヶ月、なにやら人気のない所へ迷い混んだベジットは其処で世界の終末機構である黒竜との相対を果たしていた。

 

「出来ればもうちょっと頑張って欲しかったなぁ。俺、まだ全然力を出してないんだけどなぁ」

 

 自身が戦っているのが世界の終わりを意味する災厄である事など露知らず、ベジットは呑気に頭を掻く。

 

 実際、自分がこの世界に来てから戦いに苦戦する事なんてこれ迄一度もなく、たまに遭遇する人(最初に出会った住人は猫耳の生えたおっさんでした)が言うには、何だかこの世界の人達は魔物(モンスター)に襲われたりして結構大変な目にあっているらしいのだ。

 

 そんな困っている人がいて、腕試しを兼ねて魔物退治をすることになったのだが、これがまぁ弱かった。

 

 殴るどころか軽く指で弾いただけで魔物が消し飛ぶんだもの、これじゃあ俺の方が化物だわ。

 

 加減が出来るようになったとはいえ、この身は最強のサイヤ人───いや、実際は分からないけどね? 尻尾とか無かったし───力に溺れる事無く己を律し、常に向上心を持つようにせねば。

 

 そう思い武者修行に来て、それっぽいドラゴンと出会ったのに、ちょっと拍子抜けだ。

 

「ま、仕方ないか。初めてのドラゴンだったし、迫力も凄かったし、初めてベジットムーヴも出来たからそれで良しとするか」

 

 ただ、これで終わりにはしない。もっと強くなって、ベジットを名乗るのに恥じない男にならなければ!

 

 既に前世との折り合いを付け、今世での振る舞いを決めた男は、この時に先日耳にしたとある街へ向かう事を決意する。

 

「行くか、オラリオへ」

 

 向かう先は【迷宮都市オラリオ】、先の猫耳を生やしたおっさん曰く世界の中心都市。そこにはありとあらゆるモノが集まり、そこに集う人々は富、名声、力、この世の全てを手にすることが出来ると言う。

 

 何処かのひとつなぎの大秘宝かな? なんて内心でツッコむが、今のベジットは力を求めていた。猫耳のおっさんは、オラリオには常識外れな強さを持った冒険者なるものがいると言う。

 

 そこへ行けば、自分もより強くなれるかも知れない。未だ見ぬ強者との出会いに今から胸を弾ませていると………。

 

「────ン?」

 

 谷の奥深くから、光が見えた。黒く、それでいて澱みのない、純粋な黒の波動。

 

次に感じた力の脈動。瞬間、【黒】が再びベジットの前に顕れた。

 

「───へへ」

 

 笑う。今までの戦いの経験値()を喰らって、新生を果たした黒竜にベジットは嬉しそうに笑う。

 

 先程とは桁外れの力の波動。傷は片目以外は既に修復され、以前よりも強く──それ処かどこか神々しささえ纏う黒竜は、改めてベジットの敵として降臨する。

 

 しかし、黒竜の眼にはもう侮りは無かった。これ迄の経験と糧を全て強さの為に集約させた黒竜は、目の前の壁を粉砕する為に、己の全エネルギーを収束させていく。

 

 口開く黒竜の顎に集まる光、己だけでなく周囲の命を喰らいながら、光は黒く肥大化していく。

 

 空が死んでいく。地が朽ちていく。森は蒸発し、世界から色が失せて、滅んでいく。

 

 あらゆる代償を支払いながら顕れるのは、この世を終わらせる終末の一撃。

 

 恐怖はなく。絶望もない。ただ在るのは《終わり》だけ。

 

 そんな終末を前に。

 

「へぇ、やるじゃねぇか。なら、俺も今の全力を見せてやる」

 

 ベジットは笑う。絶望の翳りはなく、失意の色はなく、ただ強くなった黒竜への最大の賛辞を送って。

 

「ハァァァァッ!!」

 

 力を解放する。これ迄鍛えてきた自分の全てを出しきるつもりで、ベジットは自身の黄金の力を解放させる。

 

 天を揺らし、地が捲る。力の余波だけで引き起こされる天変地異、しかしそれでも互いの力は留まる事無く、際限無く溢れる力に天界にいる神々は目を剥いた。

 

 力が、ベジットの広げた両手の其々に顕れる。黄金に輝く光の奔流、それを突き出しながら一つに合わせ。

 

「ファイナル───」

 

 その両手を腰へと持っていく。

 

「───────っ!!」

 

 黒竜が光を放つ。世界を滅ぼす為ではなく、人類を根絶する為ではなく、ただ一人の人間───【ベジット】を倒す為に。

 

「かめはめ波ァ───!!」

 

 放たれる黒と金の光、互いを打ち倒すべく放たれる一撃は、一瞬だけ拮抗を保ち。

 

「ハァァァァッ!!」

 

 更なる力を込めて放たれる黄金の奔流は、黒き極光を瞬く間に打ち消していき。

 

 極大の光は黒竜を呑み込んでいく。

 

「───────」

 

 光に消えていく最中、黒竜は思った。

 

 強かった。

 

 悔しかった。

 

 楽しかった。

 

「─────ど、う」

 

 届くかどうかは分からない。けれど、どうか聞いて欲しい。

 

“再戦、ヲ───”

 

 その願いは目の前の強い人類に届くことはなく、黒竜は黄金の光の中へ溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 ────朝日が昇る。

 

 長いようで短かった夜は終わり、新たな一日が幕を開ける。

 

 空を撃ち、地を砕き、遥か地平線の彼方まで続く戦いの残滓を見てベジットは笑う。

 

「楽しかったぜ、またな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラガラガラと、車輪が回る。

 

「なぁ、本当にこっちであってんのか?」

 

 荷台を引いているのは、黒髪黒目のベジット。オラリオに向かって旅をする事数日、既に食料は底を突いていた。

 

「間違いないって、この前の酒場の店主から地図を買い取ったんだ! きっと大丈夫さ!」

 

「それ、ただの汚い絵にしか見えないんだけど?」

 

「疑い深いなぁ君は。僕達神々には子供たちの嘘は通じないんだ! いい加減信じておくれよぉ」

 

「つってもなぁ、俺の嘘は見抜けなかったからなぁ」

 

 うぐぅと、痛いところを突かれた小柄でツインテールが特徴な少女は言葉を詰まらせる。

 

「しかもその絵、絶対ぼったくりだろ。お陰で旅費がパーなんだけど? 無一文なんだけど?」

 

「そ、それを言うならベジット君だって空を飛べば良いのに何でワザワザ歩きなのさ、僕を抱えてバビューンってひとっ飛び出来た筈だろ!」

 

「嫌だよ、折角の旅の醍醐味を一瞬で終わらすとか、情緒がないのかねこの自称神様は」

 

「自称じゃないから! 実際に神様だから!」

 

 ハイハイと、喚く自称女神を(スルー)しながらベジットは思う。

 

 この駄女神、やっぱ拾うんじゃなかったな。偶々行き倒れた所を拾ってから散々な出来事しか起こさない少女にベジットは辟易としながら溜め息を溢す。

 

「───所でベジット君、この荷台に置かれているでっかい荷物はなに?」

 

 そんな時、ふと少女は今まで気になっていた(ブツ)ヘ指を指す。太く長い布でこれでもかとグルグル巻きにされたモノ、気の所為かその布には凄まじい力が込められている気がした。

 

「あぁそれ? この前でっかいドラゴンを倒した時に拾ったモノでさ、素材として売れないかなぁって」

 

 目の前の男からの言葉、そこに嘘や偽りがあるかは少女には分からない。

 

 けれど。

 

「へー! 僕と出逢う前にそんな事が。流石僕の最初の眷族だぜ! これならヘファイストスだって大喜び間違いなしさ!」

 

 少女は信じていた。目の前の青年を、自身の最初の眷族を。神の権能なんて関係ない、それは彼女自身の神徳によるものだから。

 

「ハイハイ、それよりもそのヘファイストス様への顔通し、頼んだぜヘスティア様(・・・・・・)

 

 そんな少女にベジットもまた笑みを浮かべる。能天気で、だらしがなく、それでも一生懸命なこの少女に彼もまた惹かれたのだから。

 

「まっかせてよ!」

 

 ガタガタ揺れる荷台の上で、小さな女神は胸を張る。そんな彼等の行く先には巨大な都市が聳えていた。

 

 

 

 

 時代は【暗黒期】。悪意が渦巻く迷宮都市へ、一柱の女神と一人の眷族が踏み入れる。

 

 






Q.この戦い、世界中に知られたんじゃない?

A.天界にいる神々は見て見ぬふりをしていますが、地上にいる神々は全知零能なので「なんか今朝の地震やばくね?」位の認識しかありません。

戦った場所も世界の果て見たいな所なので多分大丈夫でしょう。

Q,初っ端からラスボス一体やられとるんじゃが?

A,ダンまちにはあと二ツもラスボス候補がいるので大丈夫です。つまり……。


おめぇの出番だぞ、フレイヤ様!

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