ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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もうじき、二部終章が始まる。

ワクワクとドキドキ、そして微かな寂しさを感じ始めている今日この頃。

そんな訳で初投稿です。


物語101

 

 

 

「穢れた精霊?」

 

 翌日、オラリオの創設神であるウラノスにギルドを通して呼び出されたベジットとヘスティアは、ロキ・ファミリアが59階層で遭遇したとされる存在に就いて説明を受けていた。

 

「左様、更に言えばアレは分霊………いや、“精霊の分身(デミ・スピリット)”と呼ぶべき個体だろう」

 

「ベジット、人造迷宮(クノッソス)で君が相対したとされる牡牛型の巨大モンスターの事、覚えているか?」

 

「あぁ、見てくれが特徴的だったからな。覚えてるぜ、じゃあアレはモンスターの融合体じゃなく……」

 

「どちらかと言えば、“寄生体”と呼称すべきかもしれないな」

 

 モンスターから女体が生えているから、てっきりいつぞやのオリヴァス某のような人間を使用した融合体かと思われたが、どうやら違ったらしい。

 

 それっぽい(・・・・・)反応(・・)で同調するベジットだが、どうやら向こうに気付いた様子はない。人知れず、59階層に瞬間移動していた事を悟らせなかったベジットの安堵の心情とは他所に、話は続く。

 

「そしてその“精霊の分身”に成るとされている素体、《宝玉の胎児》は既に複数体このオラリオに潜伏していると思われる」

 

「ゲッ、それ不味いんじゃないか?」

 

 59階層や人造迷宮で大暴れをした穢れた精霊、その素体となる《宝玉の胎児》が………それも複数体がこのオラリオにバラ撒かれている。

 

 根拠となるのは、先のアストレア・ファミリアが人造迷宮から持ち帰った情報、マッピングされた写しの情報の中には、複数の宝玉が生成されたと思われる大広間が描かれていた。

 

 そして更に、人造迷宮にあったとされる壁画。六体の精霊に一体の邪竜の壁画の存在。ミスリードを誘うにしても露骨すぎる図、恐らくは“精霊の分身”と何らかの関わりがあるのだろう。

 

「つまり、闇派閥とレヴィスなる怪人一派はその穢れた精霊を複数体使って、何らかの仕掛けをするつもりだと?」

 

「無関係と言うには無理がある。無論、ブラフの可能性も捨て切れはしないが………」

 

「私とウラノスは現在の状況と壁画の構図を照らし合わせ、何らかの儀式なのではないかと推測している」

 

 ウラノスとフェルズの見解にはベジットとヘスティアも同意見だった。ただ、それが何を意味し、何を目的とした儀式なのか、依然として不明のままだ。

 

「まぁ、碌でもない事は確かだな」

 

「因みに、その《宝玉の胎児》が外に持ち出された可能性は?」

 

「勿論、それも含めて調査中だ。ガネーシャ・ファミリアにこの事を説明し、門の警備には一層注意をして貰っている」

 

 ヘスティアの言う通り、ウラノスとフェルズは素体がオラリオの外に出ることを防ぐために、最大人員を誇るガネーシャ・ファミリアに指示を出している。

 

 普段から人の流れの多い東西南北の正門から、人気の無い裏路地、更には入り組んだダイダロス通りまで、幅広く対応して貰っているとの事。

 

「ただ、流石に調べる範囲が広く、調査にはアストレア・ファミリアにも動いて貰っている」

 

主神(ロキ)には既に話を通したが、遠征から帰還したロキ・ファミリアにも情報を共有し、事の調査にも協力して貰う所だ」

 

「ヘスティア・ファミリアもその一助となって欲しいのだが………」

 

 何やら複雑そうに口ごもるフェルズ、ウラノスもそれ以上口を開くことなく目蓋を閉じているが……何となく、呆れの感情が滲んでいる気がした。

 

「………あー、もしかして」

 

「アポロンの件、聞いちゃってたりしてる?」

 

 気まずそうに頭を掻くベジット、ヘスティアは苦笑いで創設神と賢者(愚者)が頭を抱えている原因を口にする。

 

「────既に、一部オラリオの地域では噂になっている。アポロン・ファミリアが近々ヘスティア・ファミリアに宣戦布告をするとな」

 

「ベジット、君の実力を知る七年前から続く派閥はアポロンの判断を鼻で笑って一蹴しているが、ここ数年で台頭してきたファミリアは君達が起こした偉業を嘘だと認識している」

 

「あぁ、ここ二、三年あまり目立った動きはしてこなかったもんなぁ。俺達の事を知らない派閥が出てくるのは無理もない………のか?」

 

 ここ数年、ベジットはベートやリリの鍛練、他に個人的用事(主に黒竜討伐の隠蔽工作)等、様々な理由が重なってオラリオでの表立った活動を控えめにしていた。

 

 ダンジョン探索も基本的には三人で下層or深層に集中し、帰りもベジットによる瞬間移動で主神の待つ本拠地(ホーム)へ一直線。ファミリアの資源は潤い、ギルドに納めている税金も定められたランクより一つ上の金額を支払えるようになった。

 

 探索の方も金策目的ならばダッシュで下層・深層に向かい、帰りは瞬間移動。この流れが固定化されてからは金策目的の探索はほぼ単純化されてしまい、ダンジョン攻略も一時は若干マンネリ化してしまう程で、その弊害なのか最近のベジットは59階層から火球で狙撃してくる火竜との“サッカー撃ち合いゴッコ”を趣味としている位である。

 

 お蔭様で最近はドラ○ヴシュートやタ○ガーショットだけでなく、皇帝ペ○ギンシリーズも5まで完成してたりする。

 

 閑話休題(いや何の話??)

 

 結果、ギルドの記録上はロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアにも負けない程の成果を出しているが、表立って目立つ功績はしていない故に控え目で地味な派閥、それが現在のオラリオにおけるヘスティア・ファミリアの立ち位置だ。

 

「一応、リリの昇格とか報告してただろ?」

 

「ベート君の昇格も」

 

「それも、最近はベジットの詐欺だと噂されているな。Lv.6やLv.7の第一級冒険者が、Lv.1に従う等あり得ないって」

 

「えぇ……」

 

「人間は自分の都合の悪い事には目を逸らすって言うが………」

 

主神()は一体どんな教育してるんだ!?」

 

 それでも、ヘスティア・ファミリアの眷族であるリリルカ・アーデがLv.5に昇格(ランクアップ)した際はそれなりに話題になったが、思った以上に鎮火するのは早かった。

 

 当時はオラリオの民が慣れたからだと思っていたが、どうやら思った以上に話は面倒な事になっているらしい。

 

 そしてそんな嫉妬と妬みにまみれた自身の眷族を、主神は面白可笑しく見守るだけと来たか。実に良い趣味をしている。

 

 一応補足しておくが、処女神であるヘスティア自体はオラリオの住民から概ね好意的な評価を戴いている。

 

 悪いのは全てベジット。嘘と狡猾さで団長に据えられていると言うのが、一部冒険者からの総合的な評価である。

 

「やれやれ、人の集まる所ってのは厄介事が尽きないもんだな」

 

「済まないなベジット、君には【異端児(ゼノス)】達の件で助けられてきたと言うのに………」

 

 またベジットが表立って活躍しなかった裏には、異端児達への支援や救援も絡んでいたりしている。瞬間移動という埒外のスキルを会得しているベジットは、その力でこれ迄多くの異端児の危機を助け、守ってきた。

 

 こちらから提示する条件を快く承諾し、それ以上の結果を出してギルドに貢献。そんな彼の懐の大きさに異端児達もフェルズもウラノスも、ベジットの行いには救われてきた。

 

 そんなフェルズや異端児達もベジット達を大々的に支援する事は出来ず、その状況が却ってフェルズ達にもどかしさを与えていた。

 

「それとこれとは話は別だ。アンタが気にする事じゃねぇよフェルズ」

 

「しかし……」

 

「兎も角、神アポロンとの件はこっちが何とかするから、そっちはそっちで引き続き頼むな」

 

「………あぁ、了解した」

 

 ともあれ、現状ヘスティア・ファミリアが抱えている問題は、アポロン・ファミリアに対する対応のみ。

 

 その後はベルの育成を進めつつ、人造迷宮と怪人一派の対応に挑まなければならない。

 

 今回も様々な問題が立ち塞がっているが………いつも通り、楽しみながら解決するとしよう。

 

 これからオラリオに起きるハチャメチャな出来事に胸をワクワクさせながら、ベジットはヘスティアと共に祈りの間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、複数の穢れた精霊かぁ。黒幕は何を考えているのやら」

 

「それが分かれば苦労はしないよ。まぁ、一応手掛かりはあるみたいだけど……」

 

「例の壁画のヤツかぁ? 確かに六体の精霊ってのが今の状況と関連づけるのは分かるがなぁ……」

 

 本拠地に向かう帰り道、ヘスティアとベジットが並んで歩きながら語るのはやはり先程までの話題の一つである穢れた精霊と、壁画に刻まれた一枚絵について。

 

 確かに壁画の画かれた内容と穢れた精霊の存在は今の状況にマッチし、これから起きる未来の出来事を予知しているようにも見えた。

 

 ただ、ベジットとしては状況に合わせてこちらを翻弄するブラフの役目があるのではないかと、何処か腑に落ちない様子だった。

 

「君が納得できていない理由も分かるけど、現状具体的な手掛かりがあの壁画しか無いんだから、今はそれを軸に調べるしかないんじゃないか? 疑うのも分かるけど、何もしないでいるのは余計不味いんじゃないかな?」

 

「そうなんだけどよぉ……あーあ、アルフィアかザルド辺りが知っていれば良かったんだがなぁ」

 

 ライラから渡された写しを二人に見せた所、残念ながら二人とも心当たり無し。首を横に振る二人にマジかぁと肩を落としてしまった。

 

「二人が知らないとなると………ベルに聞いても結果は同じかな」

 

「僕としてはベル君に見せること自体反対だよ。あの子は良い子だ。僕達が何らかの事件に首を突っ込んでると知ると、二の句も告げずに此方に飛び込んで来そうだよ」

 

「わぁってるよ。今のベルは何もかも足りていない状態だ。せめてLv.3……いや、Lv.4辺りにまで登り詰めて貰わないと、詳しくは話せん」

 

「その頃にはこの件はとっくに終わってるだろうさ」

 

「…………そうだと良いけどな」

 

 ベルの現在のレベルは2、二つ名も神々から賜り色々と注目の的となっているが、ヘスティア・ファミリアの基準としてはまだまだ。

 

 未だ覚えることは多々あって、冒険者としての知識もまだまだ不足。とてもじゃないがこちら側の事情に巻き込むのは出来ない。

 

 加えて今はアポロンなる厄介な神から目を付けられており、そっちの対応の仕方も考えなければならない。

 

 ただ……。

 

(ベルの異常なまでの成長速度。もしこのままの速度を維持し続けたのなら)

 

 もしかしたら、自分達と肩を並べる時も近いかも知れない。

 

(いや、流石にそれは考えすぎかな)

 

 一瞬、ベートやリリルカの隣に立つベルを想像してしまうが、流石にそれはないと首を横に振って妄想を掻き消す。

 

 如何に未知の稀少スキルや界王拳の影響があっても

そんな簡単にレベルが上がる事はない。神の眷族が昇格し、次の段階に進む為には単にステイタスを上げ続けるだけでなく、神々が認める【偉業】を打ち立てる必要がある。

 

 その偉業を成し遂げるには、ただ強くなるだけでは足りない。昇格を可能とするナニカ、それが成し遂げられるまでベルの昇格が果たされる事はないのだから。

 

「っと、噂をすれば………」

 

「神様ー! 団長ー!」

 

 ベルに関しての考え事をしていたら、その張本人が前方から手を振ってやって来た。隣にいるのはすっかり顔馴染みとなった赤髪の鍛冶師ことヴェルフ・クロッゾ。

 

 そして。

 

「あれ、今日はナァーザ君も一緒なのかい?」

 

「はい。ちょうどポーションに使う材料が切れてまして、他の子達は今忙しくしていて仕方なく中層に向かおうとしてたんだけど………」

 

「ナァーザさんの作るポーションの材料って、中層の中でも浅い所から入手出来るって聞いたので」

 

「中層探索にちょうどいいと思いましてね、無理を言ってご一緒する事になったんです」

 

「ほー、それはまた中々良いタイミングだな」

 

 ミアハ・ファミリアの団長ナァーザ・エリスイスは、【医神の忠犬(ミーヤル・ハウンド)】の二つ名を持ち、製薬系統の派閥でありながらLv.3の実力を持った冒険者だ。

 

 近接戦闘もこなせるが彼女は弓が得意武器で、後方の支援もお手の物。確かに、彼女を後ろに据えるのなら中層探索に反対する理由はない。

 

「ナァーザ君が助けてくれるのなら僕としても有難いけど……本当に良いのかい? ミアハにはちゃんと言ったのかな?」

 

「はい。ミアハ様にも許可を戴きました。元々私一人で行くつもりでしたので……」

 

「装備の方は……うん、ちゃんと火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)は作ってあるみたいだな」

 

「あぁ、中層からは火を扱うモンスターが多くいると聞いてますんで、一応人数分を。とはいってもあまり深入りするつもりはないんで、すぐ帰ってくると思いますがね」

 

 今回の探索はあくまで中層の空気とモンスターとの戦闘頻度を肌で体感する程度、ナァーザが必要としているポーションの材料を集める迄の短い時間。

 

 最初はそれくらいで良いだろうとベジットも頷く。用意した火精霊の護衣も品質が良く、防御の役割も担ってくれる事だろう。

 

 ベルもLv.2に昇格した事で界王拳をより使えるようになったし、気の扱いも格段に巧くなった。この分なら、仮令(たとえ)異常事態(イレギュラー)に遭遇しても自分達の力で何とか出来る筈だ。

 

「よし、なら俺から言えることはないな。ベル、気を引き締めて油断せずにな。二人も、ウチの末っ子を宜しく頼む」

 

「任せて」

 

「足引っ張らないように気張りますよ」

 

「それじゃあ二人とも、行ってきます!」

 

 気合い充分、意気揚々にバベルへ向かうベルを見送り、ベジットは呟く。

 

「あー、俺もダンジョン行きてぇなー。60階層以降の未知に足を踏み入れてぇなぁー」

 

「ボヤかないボヤかない。ホラ、僕達も帰ってベート君達を迎え入れる準備をしよ!」

 

「へーい」

 

 穢れた精霊とか、精霊の分身とか、さっさと面倒事は終わらせたい。そんなベジットの呟きはオラリオの空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「た、大変だよベジット君! ベル君達がダンジョンの滑落に巻き込まれて………ゆ、行方不明だって!」

 

「いや、つくづくトラブルに愛されてんな。アイツ」

 

 血相を変えてバイトから戻ってきた主神の言葉にベジットは椅子から転げ落ちた。

 

「おい、アルフィアの奴二の句も告げず出ていったぞ」

 

「」

 

 今日も今日とて、ヘスティア・ファミリアのドタバタとした一日が始まる。

 

 

 

 





Q.アルフィアは何処へ?

A.ベル達の様子を遠巻きから見守ってます。
気による気配遮断をしているのでベル達からは絶対に察知されません。


次回嘘予告ヘルメス♀
英雄を求める神よ、ナニを求める?









オマケ。

もしもベジット&ヘスティアが15年前からいたら。

オラリオ馴れ初め編。


 最初にその娘を見た時、ベジットは奇蹟と言うモノを初めて目にした。

 目の前のベッドに腰かけている少女。細く、窶れ、頬も痩けたその少女は齢10代の少女なにのも関わらず、その体にはどうしようもなく死を纏っていた。

 メーテリア。アルフィアの妹にして女神ヘラが決して他派閥に教えてはならないとされる秘中の秘。

 アルフィアよりも濃い死の気配。こんなモノを背負いながら何故目の前の少女は生きているのか。それは後で聞かされる二人の医神が必死に紡いだ献身による奇蹟で成り立っているモノであると、ベジットは知る。

 メーテリアは笑う。

「初めまして、私はメーテリアって言います。何時もアルフィアお姉ちゃんがお世話になっています」

「おう、俺はベジット。アルフィア………君のお姉さんに頼まれてな。君を助けに来た」

「私を、助けに………?」

「あぁ」

「お気持ちは嬉しいです。でも、多分それは無理だと思います」

「ほう? 何故そう言いきれるんだい?」

「だって、神様にも治せないって言われちゃいましたから」

 どうやら、病の所為で心にもガタが来てしまったらしい。アルフィア曰く、普段は温厚でありながら自分以上に気丈に振る舞い、周囲の人間に憐れまれないよう懸命に明るく振る舞っていると言う。

 そんな彼女の疲れた笑みを前に、後ろではアルフィアの息を呑む音が聞こえる。

 既に、彼女は自分の中にある運命を受け入れているようだ。

 いやはや、なんとも………随分と俺を見くびってくれたものだ。

「神に治せないモノを、俺では治せないと?」

「…………ごめんなさい」

「あぁ、別に責めている訳じゃない。………そうだな、それならメーテリアちゃん。一つ俺と賭けをしよう」

「賭け、ですか?」

「あぁ、もし俺が君の病を治せなかったら、ヘラ・ファミリアに生殺与奪の権利を与えよう。その代わり、君の病を治せたら………俺に手料理を振る舞ってくれ」

「りょ、料理? でも………私、料理なんて………」

「もしくは恋ばなとかな。君も年頃の娘だ。気になる男の子とかいたりするんじゃないかな?」

 ベジットの言葉にメーテリアの目が丸く開かれる。そんなことを言われたのは始めての経験だった。

 自分の事を知る者は全員憐憫の眼差しを向けていた。ファミリアの皆も、姉も、神でさえも。

 自分を憐れみ、助からない事を申し訳なく思っている。自分の病を治せないことを、ずっと苦しみ悔やんでいる。

 そんな世界が嫌いで、そんな自分が憎くて、けれど………弱い自分では死ぬ勇気も持てなくて………。

 気付けば、私の瞳から大粒の涙が溢れ落ちてきた。

「…………ベジットさん」

「おう」

「私、好きな人がいるんです。エッチで、情けなくて、逃げ足が早い男の子」

「そうか」

「………ずっと、ずっと夢だったんです。好きな人と添い遂げて、子供を作って、家族皆で笑いながら麦畑を歩く………そんな夢を」

「良い夢だ」

 笑っている。私の顔を見て、目を逸らさず、憐れみや同情のない強い眼が私を見ている。

 それは、人の眼差しだった。

「いいの……かなぁ、私なんかが、そんな夢を持って……」

「当たり前だろ。誰がなんと言おうと、君の夢は君の夢だ」

 その言葉に嗚咽が漏れる。その眼差しに心が揺れる。

 当の昔に受け入れていた現実。変えられない自分の運命。もし、もしもその運命を覆せるのなら。

「ベジットさん。お願いします…………助けて」

 掠れた声、興奮した為に引き起こされる横隔膜の痙攣と喉の震え。

 咳が出る………よりも早く、ベジットさんは私の背中を撫で、押し寄せてくる病の衝動を抑えてくれた。

「当然だ」

 ただ一言。その言葉に、メーテリアはもう一度自分の運命に立ち向かう事を決めた。
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