ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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物語106

 

 

 

 ───数時間前。

 

 18階層。最初の死線(ファーストライン)を越え、その階層に辿り着いた冒険者が何時しか町を構え、【迷宮の楽園(アンダー・リゾート)】と呼ばれるようになってから今日、ベルとタケミカヅチ・ファミリアの二人は折角の機会という事で、冒険者の街とされている【リヴィラの街】をロキ・ファミリアのアイズやヒリュテ姉妹の案内で観光する事となった。

 

 少年少女達のはしゃぐ姿を見送った後、ベジットは今回遠征に参加したベートとリリルカへ向き直る。

 

「さて、それじゃあ二人とも、今回の遠征について報告を聞こうか」

 

「つっても、大体の話は【勇者(ブレイバー)】から聞いた通りだがな」

 

「強いて言うなら、ロキ・ファミリアの連携はヤベーって事くらいですかね」

 

 59階層に現れた《穢れた精霊》。その強さと脅威は既にベジットも承知している。その存在が、ゼウス・ヘラの二大派閥にも知られなかった事を踏まえた上で、《穢れた精霊》の存在はロキ・ファミリアの───いや、オラリオにとっての明確な脅威となった。

 

 アルフィア曰く、「そんな醜悪な存在など眼にした覚えはないし、視界に収めた時点で滅殺している」との事。

 

「流石はオラリオ最優派閥といった所ですね。個々の強さは勿論、凄まじく練度の高い連携によって彼等の力が最大限、或いはそれ以上に引き出されている感じがします」

 

「逆を言えば司令塔の【勇者(フィン)】が倒れれば脆さが露呈する……所なんだろうが、控えている指揮官(ラウル)も中々に巧い。今はまだ粗さが目立つが、ありゃあ近い内に化ける可能性があるぞ」

 

 自他共に厳しいベートにそこまで言わせるとは、と。ベジットは素直に感心した。冒険者としての才能が乏しく、特別な才能を持たないラウル・ノールドが、フィンの後釜に相応しくなりつつあると。

 

 ベートから見てもラウル自身は脅威になり得ない。しかし、人を動かす力と仲間との繋がりは下手をすればフィンをも凌駕し得る。

 

 リリルカも同じ意見なのか、彼の指揮は多少の無駄はあるがその分分かりやすく、動きやすい。此方の行動や何もかもを把握しているフィンとは違い、仲間を信じて任せる人としての暖かみが彼にはあった。

 

 勿論、フィンに人の心はないとは言わない。ただ、視点の高さと広さが違うだけ。

 

 それを一人で成し遂げるのがフィン・ディムナに対し、仲間により助けて貰っているのがラウル・ノールドだった。

 

 どちらが強く、厄介なのかは今は語らない。だが、どちらも敵対する派閥にとって厄介な存在だというのは確かな事である。

 

「はぁ~やっぱすげぇなロキ・ファミリアは。俺達とはエライ違いだ」

 

「まぁ、ウチは超個人主義な所がありますからね」

 

「そもそも、テメェが派閥の拡大に力をいれてないからこうなってるんだろうが」

 

 多くの冒険者を抱え、その一人一人の能力を最大限に活かし、運用するフィンの指揮能力は凄まじい。

 

 対するベジットが率いるヘスティア・ファミリアはザルドとアルフィアを除けば代表的な眷族は新入りのベルを入れて四人のみ。

 

 アリス(アリア)を含めれば五人と数えられるだろうが……ギルドの規定に精霊が眷族の数に入るかどうか記載されていない。

 

 よって、公式記録には現時点でのヘスティア・ファミリアは四人だけという、他派閥と比べても圧倒的少数派閥と言えるだろう。

 

 ロキやフレイヤの派閥は勿論、アストレアの派閥にすら劣る超少数精鋭。少数精鋭と聞こえは良いが、要は単なる零細派閥と変わりない。

 

 ここ数年で頭角を顕してきたアポロン・ファミリアから侮られ易くなっているのも、これが原因だったりする。

 

「仕方ねぇだろ。募集しても誰も来ないんだからよ」

 

 実は、万年人手不足な自分の派閥を不憫に思ったベジットが過去に一度だけ募集を掛けた事がある。

 

 “強くなりたい人募集! 期間限定! これで来年には君も第一級冒険者の仲間入り!!”

 

 なんて自作の張り紙まで作ったと言うのに、応募人数はまさかのゼロ。この事実に流石のベジットもショックを受けた。

 

「まぁ、あんな事が起きたばかりの頃でしたからねぇ」

 

 当時、ベートがLv.6に至ったばかりの頃。彼の身に起きた悲劇を知る者達はベジットの恐ろしさを知り、短期間で強くなる代償を知ってしまった事で、ヘスティア・ファミリア………ひいては、ベジットに対して絶対的な恐怖を抱く事になった。

 

 強くはなれる。その代わり、自分の中の大切な何かが砕け散るかもしれない。それも、その人が大事にしている誇りや矜持、尊厳というある意味替えの利かないものだから尚更。

 

 時折、覚悟を決めた冒険者が何人か本拠地の門を叩く事があったが、その殆どが同じ冒険者達により阻止されている。

 

“止めておけ。まだお前には時間がある。自分の命を軽く扱うな。俺達が面倒見てやるから早まるな“等々、実に酷い言い草を残しながら、彼等は何も知らない新米冒険者達を引き留めていった。

 

 お陰で、今日までヘスティア・ファミリアの新たな眷族が増えたのは現時点でベル・クラネルただ一人。故に、多くの冒険者達はヘスティア・ファミリア新入りであるベルの事を何かと気に掛けているのである。

 

「やっぱアレだな、俺達に其処までの眷族は必要ねーっていう、天からのお告げなんだよ。うん、そう言う事にしよう」

 

「そこで開き直りますか」

 

「何時か天罰降れば良いのに」

 

 ベートが恨みがましく睨んでくるが、ベジット自身はどこ吹く風。元々派閥の人数は10人そこらで充分と考えていたのだ、非公式な扱いとはいえザルドとアルフィア、そしてアリスを含めれば眷族の人数は七人。

 

 目標の10人まであと僅かで、なんなら別に10人でなくてもいいというガバガバ具合。ロキ・ファミリアの多人数を巧みに扱えるフィンには感心するが……それはそれ。

 

 大規模派閥相手にも少数な人数で対抗出来る。それが、ヘスティア・ファミリアの最大の強みである。

 

 じゃあ逆に弱みはなんだって? そんなの、小規模故の人手不足しかありまへんがなおまんがな。

 

「つーわけで、今後もヘスティアの護衛には上手い具合にシフト組んでいくんで、ヨロシク」

 

「ヨロシクではないわ阿呆が」

 

 ロキ・ファミリアという大規模派閥を羨む時間はおしまい。今後も自分達なりに頑張っていこうと言うしまりのなく話を区切ると同時に、ベジットの後頭部にアルフィアの呆れに満ちた罵倒が投げ掛けられる。

 

「おっ、アルフィアおつかれ~。人造迷宮への出入り口、見付かったか?」

 

「一先ず、候補は幾つか見付けた。後で座標を送るから、お前から連中に渡しておけ」

 

 茂みの向こうから現れるのは、漆黒のドレスに身を包む【静寂】だった。深々と溜め息を吐きながら投げ渡してくる巻物(スクロール)を手に取り広げると、そこに記されてある幾つもの目印にベジットは満足そうに頷いた。

 

「おし、流石はアルフィアだな。連中の巣の出入り口を短時間で見付けるとはな」

 

「ほざけ。この程度の雑事、貴様であれば一目で見破るだろうが」

 

「そう言うなって、お陰でスッキリしたろ?」

 

 昨夜、闇派閥(イヴィルス)の罠に掛かり、危うくその餌食になり掛けたベルだったが、ロキ・ファミリアの魔導師レフィーヤ・ウィリディスと臨時に組んだ事で窮地を乗り越える。それ自体は良かったが、問題は罠の方だ。

 

 どうやらあの罠は闇派閥のものらしく、現場を目にしたフィンは近くに人造迷宮(クノッソス)の出入口があることを確信していた。

 

 というか、【大抗争】の時にアルフィアがギルドや多くの冒険者、神々の眼を欺いて18階層で立ち塞がっていた事から、ほぼ確実にこの階層にはあると断定していた。

 

 そして、当時目隠しをされていたとはいえ、アルフィアは耳にした情報は逃さない。当時の記憶と耳にした音を頼りに、短時間で闇派閥が蠢く人造迷宮の隠し扉を発見したのだ。

 

 ついでに、人気のないタイミングで水浴びをして身支度を整えたりしていた。

 

「さて、あとはこれをフィンに渡して、俺達も帰る準備をするぞ」

 

 巻物をしまい、自分達も街へ向かう。今頃アイズ達と仲良くしているだろうベルを、どうからかってやろうかと頭を悩ませながら、ベジットは仲間達を引き連れて街へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 リヴィラの街を観光し終え、大体のやることを終えたベジット達。先に行くロキ・ファミリアの面々を見送り、それじゃあいよいよ自分達が向かう番だとベジットが荷物を背負う。

 

「あ、あの、本当に団長が荷物を抱えるんですか? 普通こういうのって一番新人な僕がサポーター役に回るんじゃあ……」

 

「良いの良いの、今回も俺はお前らの助けに間に合わなかったんだ。これくらいの事はさせてくれねぇと、後でヘスティアに怒られちまう」

 

 全員分の荷物を軽々と担ぐベジットだが、団長自ら荷物持ちを買って出ることにベルは申し訳なく思う。

 

 しかし、実際ベル達が自力で18階層に辿り着くまで一切手を出さず見守っていただけで、本当に助力らしい助力はしていない。

 

 これも経験の内だと、本来であれば瞬間移動で直ぐ様本拠地に帰れると言うのに、自力でダンジョンから脱出する体験も必要だと判断した事から、せめて荷物くらい運んでやろうと言うベジットなりの優しさがあった。

 

「それよりも、本拠地に帰るまでがダンジョン探索だからな。油断せず、最後まで気合い入れてけよ」

 

「「「はい!」」」

 

 ベジットの言葉に素直に返すベルとタケミカヅチ・ファミリアの二人。三人からの純朴な反応にベジットの良心が痛む一方で、ヴェルフだけ唯一懐疑的な視線を向けていた。

 

「……なぁ、ベジットさん」

 

「ん? どしたヴェルフ君」

 

 何か疑問に思うところがあるのか、ヴェルフがベジットに訊ねようと口を開いた────その時だ。

 

 辺りを覆う程の強烈な神気。ベジットやベート達はこの気配に覚えがあった。

 

「コイツは……!」

 

「神威!? しかもこの気配は……!」

 

「神ヘルメスか」

 

 唐突に膨れ上がる神の気。時間にして僅か数秒だが、その数秒はダンジョンに確かな異変を───否、殺意(・・)を抱かせた。

 

 瞬間

 

「■■■■■■ッ!!!」

 

18階層の天蓋を砕き、黒き巨人が地に降り立つ。ダンジョンそのものを震わせるような巨人の方向、突然の異常事態(イレギュラー)にベル達は表情を強張らせる。

 

「な、何で階層主(ゴライアス)が!?」

 

「バカな、奴はロキ・ファミリアによって討伐されたんじゃないのか!?」

 

 階層主は一度討伐された後、長い時間を掛けてダンジョンから再び排出される仕組みになっている。

 

 ゴライアスの場合、再出現(リポップ)までの期間は約二週間。実際はロキ・ファミリアではなくアルフィアが昨日始末したため、期間は1日短くなっているが……。

 

 いや、それにしても早すぎる。これも、神がダンジョンで神気を解放した影響か。

 

(やっぱ、ダンジョンと神々ってのは何らかの因縁があったりするのか?)

 

 問われれば神々の誰もが同じ答えを口にするダンジョンの謎。以前ヘスティアに訊ねた際も彼女の顔は努めて無表情に徹していた。

 

 その様子からダンジョンには神々と何らかの因縁があるのではと考察していたベジットであったが、ヘルメスが故意に解放した神威からして、恐らくこの考察は当たりであるとベジットは確信する。

 

「チッ、仕方ねぇ。手早く片付けるとするか」

 

「あーあ、今からでもロキ・ファミリアの皆さん戻ってきてくれませんかね」

 

 黒いゴライアスの強さは、その感じ取れる強大な気の大きさからして推定Lv.5前後。ベジットやアルフィアは勿論、ベートやリリルカにとっても一蹴できる相手ではある。

 

 しかし、ここは18階層。精々Lv.2~Lv.3の冒険者ではまとめて吹き飛ばされてしまう。故に、ベートとリリルカは仕方がないとそれぞれ戦闘準備に入ろうとして……。

 

「いや、多分大丈夫なんじゃねぇか?」

 

「「!」」

 

 瞬間、沸き上がるように現れる強い気に二人は眼を見開いた。

 

 黒いゴライアスを呼び水に次々と現れるモンスター達、その群れを斧を担いだ冒険者が白い炎を纏って斧を振り抜き、周囲の地形ごとモンスターを薙ぎ払う光景が映り込んできた。

 

「も、モルドさん!?」

 

「あぁ、そう言えばいましたねモルドさん達」

 

「他の冒険者も何人かLv.4の奴がいるな」

 

 ゴライアスの足下から聞こえてくる冒険者達の雄叫び。突然現れた階層主を相手に怯むどころか進んで狩りに向かう冒険者達に二人は肩を竦めて戦闘体勢を解く。

 

「んー、じゃあ代わりにベル達が行ってくるか?」

 

「え?」

 

「いやな。折角俺達以外の上位の冒険者と触れ合う機会だし………ぶっちゃけ、お前達もこのまま帰るのは物足りないと感じてるんじゃないのか?」

 

「「「…………」」」

 

 一瞬の沈黙。どうすればいいのか悩むベル達だが、彼等が抱えている気持ちは奇しくも同じだったようで……。

 

「よし、なら行くか!」

 

「すみません皆様、行って来ます!」

 

「団長、行ってきます!」

 

 今の自分達が参加しても、ゴライアスには到底及ばないだろう。他の冒険者の足も引っ張ってしまうかもしれない。

 

 でも、それでも誰かに任せたままで逃げるのは嫌だと、ベル達の心が叫んでいた。

 

 出来る出来ないじゃない。やり遂げる。そんな強い気持ちを持って戦場に向かうベル達を見送り。

 

「………やっぱ、アンタ怖いわ」

 

「ん?」

 

「アンタが言うと、本当にやれちまうんじゃないかって錯覚する。大きすぎる信頼も、時には毒になるんじゃねぇかなって」

 

「なら、お前はここで待っとくかい?」

 

 挑発気味にそう口にするベジットに赤髪の鍛冶師………ヴェルフ・クロッゾは鼻で笑う。

 

「ハッ、ダチが立ち向かうって言ってんだ。なら、俺が足踏みするわけには……いかねぇだろ!」

 

 それだけを口にして、ヴェルフもベルの後を追う。その手に取って置きの魔剣を握り締めて。

 

「さて、それじゃあ俺達はここで気長に待ちますか」

 

「あっ、モルドさん達凄い。あの黒いゴライアスの蹴りを受け止めましたよ?」

 

「地味にやるな」

 

 ベル達が加勢に入り、モンスターの群れに突貫する。噂の【リトル・ルーキー】が来たと、冒険者達は新入りの参加にテンションが跳ね上がる。

 

 その様相はまるで祭りのよう。モンスターに挑み、戦い、危機を全力で乗り越えようとする彼等を遠巻きでベジット達は愉快そうに眺めていると…。

 

「ちょっとあの男神(ヘルメス)ブチ殺してくる」

 

 アルフィアは、初めて見せる満面の笑みを浮かべると、その場から掻き消える。

 

 初めて見たアルフィアの笑顔。美しい筈のその微笑みはベジット達に小さなトラウマとして刻み込んでいた。

 

「………よろしかったのですか? ベジット様」

 

「アルフィアの奴、マジで神を送還(殺害)するかもしれねぇぞ?」

 

 あのアルフィアの笑みはそれだけの本気と覚悟があった。神を害することがタブーとされているこの世界で、あの灰の魔女には殺ると決めたら殺るという凄みがあった。

 

 対するベジットはんー、と短く思考を巡らせて…。

 

「まぁ、いいんじゃね? 事前に報告してくれる分、以前より俺を信頼してくれたって事で」

 

 あっ、違う。これベジットも少なからず怒ってるな。リリルカとベートは気付く。

 

「それに、ヘルメス・ファミリアってアレだろ? 以前お前ら二人が危機的状況で介入し、眷族達の命を救ったんだろ?」

 

「なのに、今はこうしてベル達にちょっかいを掛けている」

 

「なら、別にいっかなって」

 

 ヘルメス・ファミリアの事は知っている。知ってはいるが………別に親しい訳じゃない。派閥のランクに関する知識を教えてくれたり、ランクの誤魔化しに手を貸してくれたりとしたが、何かと借りはあるがそれはそれ。

 

 こんな、不意打ち紛いな事をしてまで介入するというのなら、此方も相応の返しをするまでだ。

 

 そう笑うベジットの眼は、アルフィア以上に恐ろしく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「不味いな。まさかモルド君達がここまで強いなんて……完全に誤算だ」

 

 黒いゴライアス。等級で換算すれば第一級にも届くであろう脅威を前に、果敢に挑むモルド達冒険者を前に神ヘルメスは帽子ごと頭を抱える。

 

「ヘルメス様、もういいでしょう。早くこの場から離脱しましょう!」

 

「うーん。あ、ちょっと待ってくれアスフィ! ベル君が、ベル君が来た!」

 

 このまま他の冒険者達に圧し切られるのかと不満に唇を尖らせた瞬間、モンスターの群れをその短刀で斬り伏せながら突き進むベルがヘルメスの視界に飛び込んで来た。

 

「うひょー! ベル君てばやるー! アレ本当にLv.2かよ! どう見ても動きが素人のソレじゃねぇぜ!」

 

 上級の冒険者でも苦戦するミノタウロスをあっさりと両断し、後に続く命と桜花が周囲のモンスターを蹴散らし、更にその背後からクロッゾの末裔が遠くから狙ってくるモンスターの攻撃を自身の魔力を暴走させる魔法でもって粉砕していく。

 

 それはまるで英雄譚の序章のようだった。幼い冒険者であるベルが、仲間達を引き連れ、遥か巨大なモンスターに挑んでいく。そんな光景がヘルメスの心を鷲掴みにしていく。

 

 自分はその第一の目撃者なんだと、ヘルメスのテンションは加速度的に高まっていく。

 

「良いぜベル君! 君の頑張りに俺も最大限協力しようじゃないか!」

 

「ヘルメス様!?」

 

 再びの神威の解放。ダンジョンを刺激し、未知の試練を神為的に引き起こす。なぁに彼ならば大丈夫、いざとなったらあの規格外の怪物(ベジット)がどうとでもしてくれるだろう。

 

 彼の冒険の1ページに自分の手で刻んでやりたい。独り善がりな神の独善、眷族(アスフィ)の制止も振り切ってヘルメスが全力の神威を解放しようとして。

 

 

 

 

“ブチュリ”

 

 

 

 

「────あ?」

 

 ふと、違和感を覚えた。身体に何か衝撃が走ったかと思ったら、自分の股座から血が噴き出してくる。ボタボタと滴り落ちる血に自分の身に何が起きたのか理解した瞬間。

 

「ぱえらぁ?」

 

 昇天。自身の大切な玉、その片方が砕けたと認識したと同時に、神ヘルメスの意識はそこで途絶えた。

 

「………おい、小娘」

 

「ヒッあ、ああああ……」

 

 認識できなかった。ヘルメスの急所が蹴り破られる刹那の瞬間まで、アスフィは目の前の灰の魔女(アルフィア)の存在に全く気付く事が敵わなかった。

 

 それはつまり、ヘルメスの命が断たれるのを止められないというのと同意義で。

 

「そこの糞愚神を連れて今すぐダンジョンから引き上げるか、それとも諸とも死ぬか……選べ

 

 アスフィ・アンドロメダに選択の余地はなかった。

 

 

 

 

 その後、モルド達を筆頭に黒いゴライアスは討伐され、ベジット達ヘスティア・ファミリアは無事にダンジョンから帰還するのだった。

 

 

 

 





Q.ベジット、おこなの?

A.おこというよりイラッて感じ。お前眷族助けてやった恩があるのにそんな事するんかい。という、不義理に対しての苛立ち。
だから、別にいっかなって。
ただ、アルフィアにはあまり手を汚して欲しくない。ベルの母親だから。
というのがベジットの本音。

「………………ふん、余計なお世話だ」







オマケ。

もしもベジット&ヘスティアが15年前からいたら。

オラリオ馴れ初め編。

「はぁ、はぁ、はぁ………くそ。これでも届かないか」

「いや、今回は割りといい線いってたぜ? 危うく当たりそうになった」

 ダンジョンの奥深く。上級は勿論、第一級の冒険者ですら容易には辿り着けない所にてベジットとアルフィアは対峙していた。

 才禍の怪物と恐れられるアルフィアが大量の汗を流して地に膝を着き、息を荒くしているのに対し、ベジットの方は何時もと変わらず飄々とその場に立っている。

 数年前から続く二人の戦い、今日もまたベジットに軍配が挙がる結果となった。

「忌々しい。これでも女帝にだって勝ち星が増えてきたというのに……」

「あぁ、そう言えば聞いたな、アイツも喜んでたぜ。この分ならウチの派閥も任せられそうだなって」

「ふん、あんなキ○ガイ連中の長に誰がなるものか。ドイツもコイツも人の話を聞こうとしない野蛮人どもをなぜ私が面倒を見なくてはならない」

「………」

 いや、お前も大概人の話を聞かないじゃん。という言葉をベジットは必死に呑み込んだ。

「……しかし、お前との付き合いも随分と長くなったな」

「あぁ、お前もメーテリアちゃんも無事に病は克服。お前はこの間の遠征でLv.7になったらしいしな」

「だが、結局メーテリアに冒険者としての才は芽吹かなかった。まぁ、私としては全然それで構わないのだがな」

「良いじゃねぇか、別に冒険者としての活動が人生の全てじゃないんだ。今はウチの主神と屋台の看板娘やって、本人がそれで満足してるしな」

「……あぁ、その通りだ」

 珍しくアルフィアが同意の言葉を口にする。うっすらと笑みを溢し、満足そうに俯いている彼女にベジットは手を差し伸べる。

 一瞬の間、僅かに視線を彷徨わせるアルフィアは瞳を閉じて辺りに誰もいない事を確認すると、ベジットの手を取って立ち上がる。

「………ベジット、近々我々二大派閥は三大冒険者依頼(クエスト)の攻略に乗り出す」

「───え?」

 それは、ベジットにとっても初耳の情報だった。

「本当は貴様に手伝わせてやりたい所だが………ギルドは貴様をオラリオに残す事を決定した」

 恐らくは万が一の事態に対する保険なのだろう。未だ唖然としているベジットに構わずアルフィアは続ける。

「いいか、いつか私は貴様に土をつけて見せる。それまで……メーテリアの事を頼む」

 そういって、アルフィアはベジットの横を通り過ぎていく。そんな彼女を見えなくなるまで見送ったベジットは……。

「………どうしよ、ヘスティアと相談しなくちゃ!!」

 ベジットは主神以外未だ誰にも教えていない瞬間移動で、その場から離脱する。



 逃亡編、オラリオ大捜査線へ続く。

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