難産でした。
そんな訳で初投稿です。
18階層にて、突如として発生した黒いゴライアスはその場に居合わせた冒険者達の尽力により、被害が拡大する前に討伐。事態は最悪の展開に至る事もなく終わりを告げた。
ベル・クラネル達も誰一人欠ける事なく、全員が五体満足で心身ともに無事に帰ってこれたのは中々の幸運と言えただろう。
しかし、まだダンジョンから帰還して二日。心は兎も角、身体の方はまだ回復仕切れていないだろうという団長の言い付けの下、現在ベルは療養という名の休日を満喫する事になった。
そして、今日はパーティーメンバーであるヴェルフのLv.2到達を記念してのちょっとした祝賀会。
「「カンパーイ!」」
カチャンッと音を立てて中のエールが揺れる。金色に輝くそれをゴキュゴキュと飲み干して、二人は冷たい酒の味に酔しれる。
「ヴェルフ、Lv.2の
「おお、ありがとうなぁベル。お前のお陰で俺も一先ず上級冒険者の仲間入りだ。鍛冶のアビリティも覚えたしな」
元々ヴェルフがベルとパーティーを組んだ理由はベル・クラネルの話題性に肖りたい他にも、Lv.2を目指して【鍛冶】の発展アビリティを獲得したいという打算的な目的もあったりしていた。
この辺は事前にベルに話を通していたし、ベル自身も承諾していた。だが、それは同時にこのパーティーがそれまでの間の関係性。それが果たされた今、二人がパーティーを組む意味は無くなったという事なのだが……。
「でも、本当に良いのヴェルフ? これからも僕とパーティーを組んでくれるって」
「あぁ、もう何度も一緒に窮地を乗り越えたんだ。もう赤の他人とは呼べねぇよ。専属契約も結んだ事だしな。お前の冒険、俺も付き合ってやる」
意外にも、ヴェルフ・クロッゾはベルとのパーティーを解消せず、このまま引き続き組む事を選んだ。
目の前の白髪の少年がお人好しが過ぎる為、放っておけないという面もあるが、それ以上にベルといれば自分も強くなれる気がする。そんな予感があった。
「じゃあ、今後はやっぱりパーティーメンバーを考えながらダンジョンに潜る必要があるね」
「その事なんだがなベル、俺はタケミカヅチ・ファミリアの二人。アイツ等もメンバーに誘うのはどうだ?」
「桜花さんと命さんか。確かにあの二人とはダンジョンで一緒に行動したから、結構連携が出来やすくなったけど……」
それからも二人はこれからの事、自分達のやるべき未来の話をして盛り上がりを見せる中、話題は改めてベルの成長性に移る。
「しかし、俺もLv.2にはなったが、それでもお前には勝てる気がしねぇな。18階層の時だって、勢いだけなら他の冒険者にだって負けてなかったぞ」
「そんな事ないよ。僕がアレだけ動けたのもモルドさんやボールスさん達がモンスターの群れを間引いてくれたり、僕が狙われないように立ち回ってくれたお陰だよ」
実際、あの黒いゴライアスを討伐出来たのは、殆どあの場にいた冒険者達による貢献が大きい。偶々居合わせていたモルドや、街の顔役であるボールスというLv.4の中でも上澄みの冒険者がいた為、ベルや命達はモンスターの群れに喰われる事なく暴れられた。
他にも、桜花がミノタウロスの群れを押し留めたり、命が魔法でゴライアスの身動きを封じたり、ヴェルフの取っておきの魔剣のお陰で、ベルはスキルである【
自分一人では決して敵わなかった相手、それがベル・クラネルが抱いたあの時の戦いの全てである。
「相変わらず謙遜するねぇ。ま、それがお前の良いところだがな」
「あはは。でも、あの戦いで僕も結構ステイタスが上がったからね。いつかはあの人達のような冒険者になりたいと思うよ」
「おいおい、まさかもうLv.3に
「い、いや、流石にそれはまだだよ……」
ファミリアのみんなに鍛えられ、ダンジョンで冒険して強くなる。我ながら良い環境に身をおけている事実に、ベルは内心で皆に感謝し、同時に気分を高揚させる。
このまま強くなれば、自分もいつかあの人の背中に追い付けるかも知れない。金髪の長髪の
「なぁーにがLv.3だよ馬鹿馬鹿しい!」
「「っ!」」
突如、気分よく酒を呑んでいたベルとヴェルフに冷や水の様な罵声が投げ掛けられる。静まり返る酒場、ベル達含めた全員が声の方へ振り向くと、そこには黒を強調した服で統一した集団がベル達を嘲笑していた。
「冒険者になって1ヶ月其処らでレベルアップぅ? どうせそれも強い冒険者のお零れを恵んで貰っただけの話だろぉ?」
「ベル、無視しろ」
「………うん」
名を上げる冒険者ならば、誰もが一度は通るであろう場面。謂わば他派閥の冒険者達からの嫉妬、駆け抜けるように頭角を表したベル・クラネルに対しての一種の登竜門。
相手は
「おい、アレってアポロン・ファミリアのエンブレムだよな?」
「【
アポロン・ファミリア。それは絶賛自分達の派閥にちょっかいを掛けているという他派閥の名前。その事を思い出したベルはこの場をやり過ごすために沈黙を続けるが、それに構う事なく小人族の少年の嘲りは続く。
「なぁ、オイラ達にも教えてくれよ。どうやったらそんな簡単に昇格できるんだ? やっぱり他の冒険者に寄生したからか? 獲物を横取りして、マンマとしてやったのかよ?」
嘲笑の声は大きくなり、後ろに控える集団からはゲラゲラと笑い声が出始める。これまでの苦難、苦境を味わってきたベルにとっては屈辱ではあった。
が、まだ我慢は出来た。自分一人我慢すればこの場は収まる。自分の感情で大切な
しかし。
「流石は詐欺師であるベジットの所の新入りだ! 他人を騙す何てお茶の子さいさいってか?」
詐欺師。自分を鍛え、導いてくれている団長が詐欺師と呼ばれ、ベルの怒りのボルテージが沸き上がる。
「Lv.7にLv.6。オラリオでも上澄みの冒険者を二人も従えるなんて、いったいどんな口車で乗せられたのやら。オイラとしては気になって仕方がねぇよ」
「っ、違う! 団長は!」
「ヒッ」
「ベル!」
小人族の少年の嘲りに遂にベルは反応してしまう。咄嗟にヴェルフが止めるが、相手は僅かに怯んだ後、ベルを罠に掛かった獲物を見るように口を歪める。
「な、なんだよ? そんなにムキになるって事は事実なんだろ? ベジットの奴、昔からオラリオにいる癖に未だLv.1なんだろ? 何ならオイラが二つ名を付けてやろうか? 【口先の魔術師】ってさ!」
酒場に笑い声が溢れる。人を嘲り、人を嘲笑う罵倒の笑いが。
悔しさでベルの手が固く握り締められる。震え、白み始める拳を更に強く握り締めるベルにヴェルフも徐々に苛立ちを募らせる。
そして、小人族の煽りは加速し……。
「そんな詐欺師の主神も、どうせ似たような嘘つきなんだろうぜ! チビで弱そうで、俺達の主神とは大違いだ!」
遂に、言ってはいけない線を飛び越えた。
「取り消せ!!」
ベルが叫ぶと同時に、ヴェルフの蹴りが小人族の顔を跳ね上げる。
「悪い、足が滑った」
決して悪びれた様子のない形だけの謝罪。煽りの笑みを向けられたアポロン・ファミリアの一団は、怒り心頭と襲い掛かる。
「悪いベル! 俺が我慢できなかった!」
「ありがとうヴェルフ!」
世話になった派閥の主神まで悪く言われ、ベルよりもヴェルフの方が堪えが利かなかった。謝りながら一緒に暴れてくれるヴェルフに感謝しつつ、ベルも人生初となる喧嘩に参加するのだった。
◇
「で、そのままアポロン・ファミリアと大乱闘をやらかしてきたと」
「………はい」
その後、ヘスティア・ファミリアの本拠地へ戻ってきたベルは、帰りを待っていたヘスティアに捕まり、飲みに行っていたにも関わらず怪我をしてきたベルを問い詰めた。
結果、ベルの口から出てきたのは他派閥との大喧嘩。しかも相手は今対応に悩まされているアポロン・ファミリアと来た。
「ハハハ。いやぁ、まさかベルが他所の連中と喧嘩をしてくるなんてなぁ」
「ちょっと、笑い事じゃないぜザルド君」
「良いじゃねぇか。相手が誰であれ、ムカついたら挑む。冒険者としてならだいぶ健全だぞ」
普段から素直で、誰かに対しても基本的にリスペクト精神を持つベルが、怒って誰かと喧嘩した。その事実は長い間面倒をみてきたザルドにとっても新鮮で、冒険者らしい一面を持つようになったベルにベジットも感心しながら頷いた。
「もう、笑い事じゃありませんよ二人とも。聞けばアーディさんが止めに入らなければ、中々に危険な状態だったそうじゃないですか」
「あぁ、アポロン・ファミリアがそんな強引な手を使って来たことは、それだけウチを舐めてるって事だからな?」
そんな二人にリリルカとベートは苦言を溢す。
そして偶々見回りに来ていたというアーディのお陰で、ベル達はこの程度の怪我で済んだらしい。
「まぁまぁ二人とも、今はそれは良いから。でも本当に珍しいねベル君。君が進んで誰かを傷付けるなんて……」
ベル・クラネルという少年は冒険者として不釣り合いな程に基本は根は優しく人畜無害、進んで誰かを害そうとはせず、寧ろ他人の窮地を救いだそうという一種の悪癖すら持ち合わせている。
そんな彼がどうして喧嘩なんてしたのか、訊ねるヘスティアにベルは数秒だけ沈黙を続け……。
「だって……団長を、神様をバカにしたから」
「ならば仕方ないですね」
掠れるような声から出てきた言葉に、真っ先に反応したのはリリルカだった。
「ベジット様だけに飽き足らずヘスティア様まで愚弄するとはアポロン・ファミリアは余程命がいらないご様子もしベルさんがその喧嘩を買わなければリリが買ってましたというか今からリリが買いますちょっと今から出掛けて来ますが心配しないで下さいほんの一時間程で終わらせて来ますので」
「「待て待て待て待て」」
ベルの喧嘩の原因を聞いた途端、立ち上がり槍を肩に担ぎ
「落ち着けリリ」
「君が行ったら最悪虐殺みたいになるでしょーが!」
「? それになんの問題が?」
あれ? この娘こんなおっかない事を口にする娘だっけ? 目隠し越しに眼を赤くグポォンッと光らせるリリルカにヘスティアとベジットは底冷えする程の悪寒を感じた。
「………なぁザルド」
「なんだ副団長?」
「ウチのチビ助、ヘラ・ファミリアに換算するとどれくらいだ?」
「うーん、兆候が目立ち始める0.4ヘラって所か」
「マジか、アレでか」
リリルカの怖い一面に戦慄する一方で、ザルドとベートはそんな会話をしていた。
そんな時、今まで沈黙を保っていたアルフィアがピシャリと言い放つ。
「だが、原因はハッキリしている。ベジット、こうなる事態を許したのは、偏に貴様の優柔不断さが原因だ」
「ウグッ」
指を差し、断言してくるアルフィアにベジットは何も言い返せなかった。
「博愛主義も結構だがな、冒険者はファミリアでファミリアは派閥だ。舐められたら、そいつ一人が侮られる訳じゃない。最悪の場合はファミリアの全員が嘗められる」
それは、曾て
因みに、あれからヘルメス・ファミリアからの接触はない。苦情も訴えもなく、神ヘルメスに掛かった治療費用の賠償とかはしてこなかった。
まぁ、“神はダンジョンに潜ってはならない”というルールを破ったのだ。あの派閥にしても、あまり騒ぎにしたくないのだろう。
ただ、流石に男の大事な部分を片方潰してしまったのだ。ヘルメス・ファミリアには後日、何らかの見舞品を贈っても良いだろう。無論、警告の意味も含めて。
閑話休題。
「貴様がこのファミリアを大事にしたいと言うのなら、ある程度の“示し”は必要だ。その事を忘れるな」
「あぁ、分かったよ」
それは、アルフィアが珍しく見せた誠意だった。
一つの派閥、一つの団を纏め上げる長であればただ超然と在るだけでは成り立たない。自分達は野蛮で粗暴な冒険者、時には格上としての在り方を示すのも大事だという、先達としての教え。
曾ての最強派閥に属していた者としての貴重な金言にベジットは素直に受け取った。
「ねぇみんなー、なんか手紙が届いたけどー?」
珍しく気落ちしているベジットを中心に僅かだが重苦しい空気が漂い始めるが、それも後からやって来たアリスの一言で霧散する。
一先ず説教は終わりだと背中を向けるアルフィアに苦笑を溢し、ベジットは手紙を持ったアリスへ向き直る。
「おお、サンキューアリス。誰からだった?」
「うん。アポロン・ファミリアからの招待状だって」
ピシリと、今話題にしていた派閥に関する名前が出てきて、ベジット達の空気が凍り付く。見れば手紙の封蝋には太陽と弓矢のエンブレム、アポロン・ファミリアの証が刻まれていた。
手紙の内容に在るのは明日の“神の宴”への招待状。神と
「………ベート」
「断る」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「明らかにテメェとベルを呼びつける為の文面だろうが。丁度良いから、《
悲しいかな、この誘いを断る理由をベジットは持ち合わせていなかった。リリルカ? 最悪血の雨が降りそうなので却下。
こうして、ベジットは憂鬱な気持ちで明日の“神の宴”に参加するのだった。
◇
「クソ、あの兎めがっ!」
薄暗い路地裏にて複数の人間が屯し、その中心に佇む男が忌々しげに言葉を荒立てる。
「私が敬愛するアポロン様に見初められておきながら、抵抗するだけに留まらず! この私の顔にき、ききききき傷を付けるなんて!」
右頬にうっすらと残った赤い線、それは先の店にて乱闘を仕掛けた相手から受けた傷。本来であれば格下でしかない相手から受けるはずのない傷をよりにもよって顔に受けてしまった。
許されない、あってはならない事実。怒りで発狂してしまいそうになる男………ヒュアキントスは主神であるアポロンへの愛で懸命に耐えて見せた。
「ガネーシャ・ファミリアめ、奴等が来なければあの白兎を誅罰出来たものを!」
本来であれば怒りのまま白兎を八つ裂きにしてやりたかったのに、騒ぎを聞き付けて現れたオラリオの警備隊であるガネーシャ・ファミリアに横槍を入れられてしまい、あの場では手を引かざるを得なかった。
「だがヒュアキントス、これで口実は為った。後はアポロン様が戦争遊戯にヘスティア・ファミリアを参加させるよう追い詰めて下さる筈だ」
憤る団長を言い聞かせるようにエルフの青年が冷静に事実を告げる。そうだ、これでヘスティア・ファミリアは此方の要望を受け入れる他ない。
「で、でもさ、ヘスティア・ファミリアってLv.7とLv.6の眷族がいるんだろ? 大丈夫なのかよ」
小人の少年が怯えた様子で忠告するが、それすらもヒュアキントスは鼻で笑って吐き捨てる。
「もしその話が本当なら、今頃ヘスティア・ファミリアの等級はとうにSクラスに跳ね上がっている事だろう。だが、奴等の等級は未だにCランクのまま。如何に奴等の長が口達者でも、ギルドを欺ける程ではないという訳だ」
もし、ヘスティア・ファミリアに在籍する眷族が噂通りLv.6やLv.7がいるのなら、とっくに自分達は潰されている。
それが出来ないのは、偏にあのベジットがLv.1の雑魚で、それ故に言葉巧みに人を欺き、騙すことに特化したペテン師であるからだ。例の
名前だけの存在に踊らされるオラリオ、これが世界の中心都市だなんて笑わせる。
そう決め付けて笑うヒュアキントス。そんな団長を僅かに引いている彼等の背後から、一つの影が現れる。
「いやー、流石は音に聞こえし【
「っ、誰だ!?」
気付かなかった。唐突に現れた全身をフードで覆った者、影としか言い表せない不気味な目の前の輩に、ヒュアキントスを含めた全員が振り返り、警戒態勢に入る。
しかし。
「なぁに、やる気のあるあんた等にアタシからの些細なプレゼントさ」
輩………声からして女が掲げる袋にヒュアキントスは息を呑む。
(な、なんだこの、感覚は?)
(意識が固定する。あの袋から、目が離せない!?)
自分の意識が自分のモノで無くなるような感覚。一体自分達になにが起きているのか、それすら理解できないまま……。
ヒュアキントス達は、甘く痺れる闇の中へと墜ちていった。
Q.ヘルメス・ファミリアは何も言ってこなかったの?
A.来ていません。今のところは大人しく主神を治療しているとの事。
彼等に関する話はまた次回以降で。
Q.ベル君、ヒュアキントスに一撃入れたの?
A.普段から遥か格上にシゴかれて来ましたベル君なので、レベルが1個上程度の奴には負けません。
Q.では何故倒さなかったのか?
ヒント、ベル君の性格はとても優しいです。相手を思いやれる気遣いも出来ます。
Q.ベジットは詐欺師なの?
A.ある意味ではそう。Lv1の分際で派閥の等級がCランクなのも、ベジットが言葉匠に誤魔化しているだけというのも、ある意味全くの的はずれではない。
ここでヒュアキントスがヘスティア・ファミリアが”定められた税金よりも多く支払われている“という情報を得ていれば、結果は変わっていたかもしれない。
Q.もし乱闘の現場にリリルカ・アーデが居合わせてたら?
A.アポロン・ファミリアとの抗争は無く、日常パートが始まってました。
次回、神の宴と戦争遊戯