最近暖かい様な気がしなくもない。
そんな訳で初投稿です。
“神の宴”
それは本来であれば神々だけが参加を許された催しで、基本的に眷族は参加する事はないとされる……文字通り神々による宴。
暇を持て余し、暇に喘ぐ神々が暇潰しの為に定期的に開かれるドンチャン騒ぎの場。しかし今回はその催しの毛色は少々異なっていた。
従来の宴であれば神々しか参加を許されない所、今回太陽神アポロンが主催とする宴は少々趣が異なっていた。
随伴する眷族は二人までとする。招待状を贈った全ての派閥にその文言を加えた事で、これ迄とは異なる催しに飽き、参加するのに躊躇していた神々は揃って眼を光らせた。
『自分の
このタイミングでアポロンの意図を察した神以外、悪ノリが得意な神々は二つ返事で参加を承諾。結果として、アポロン・ファミリアが開く“神々の宴”は多くの神と眷族が集まる場となったのだ。
「……あの、団長。やっぱり僕浮いてませんか?」
「気にするな。俺ほどじゃない」
アポロン・ファミリアが所有している大邸宅。太陽神アポロンから招待状を贈られ、宴への参加を決意したヘスティア・ファミリア。
団長であるベジットと新入りのベル、二人とも普段の装いとは異なり、宴の場に合わせたスーツに身を包んでいた。
「そんな事はないさ二人とも、とっても似合ってるよ!」
「あ、ありがとうございます神様。神様もとても似合ってますよ」
「ありがとうベル君」
「なんだよヘスティア、お前またその髪飾りで来たのか? 他にも用意してあっただろ?」
「当然さ。この髪飾りこそ僕の大事な正装だもの。そう言う君だって僕の上げたイヤリング付けてるじゃないか」
「そりゃ、俺はベジットなんでね」
「答えになってないぜ」
ベルは美しく蒼いドレスを着飾ったヘスティアを褒めるが、ベジットは折角の宴の場でも何時もの髪飾りを付けてくる主神をからかっている。
ヘスティアも何時も通りイヤリングを付けたベジットを揶揄しているが、これは二人なりの社交辞令。照れ隠しみたいなものだと何となく察したベルは微笑んで二人を見守る事にした。
「しかし、本当に良かったのかヘスティア。俺達も参加させてくれるなんて」
「タケ、命くん!」
「しかもドレスまで貸してくれるなんて……」
「ありがとう、ベル。ベジットも」
そんな彼等に声を掛けるのはタケミカヅチ・ファミリアの主神である主神タケミカヅチと命、ミアハ・ファミリアの主神ミアハとナァーザ。
主神と眷族、共にヘスティア・ファミリアと懇意にしている派閥である。
「気にしないでよ。君達には日頃から世話になってるんだ。このくらいさせてよ」
普段からバイトやら派閥の仕事やらで忙殺されている
因みに、アポロン・ファミリアが贈った招待客の中にはディアンケヒト・ファミリアの名前もあったが、かの派閥は参加を拒否。主神曰く、碌でもないことが起きると明言しているから。
実に勘の良い神である。
「本当は桜花達も参加させてやりたかったが、誘われた側の神が連れて来れる眷族は一人だけと言われてな。それなら命がと強く推されてしまってな」
「私も似たようなものだ。私は公平にジャンケンで決めようと提案したのだが、強く反発されてしまって」
こればかりは仕方がないと諦めのため息を吐く二柱。一方眷族の方は顔を赤くさせて俯いてしまっている。
気を遣われてんなぁ。命とナァーザ、共に主神に対して淡い恋心を抱いている二人を見てニヤついていると、ふと顔付きを強張らせてタケミカヅチがヘスティアへ耳打ちする。
「気付いているかヘスティア。今回俺達以外に宴に参加をしている連中は……」
「あぁ、分かっているよタケ。ここにいる宴の参加者────全員、ここ最近オラリオで活躍している連中だ」
辺りを見渡せば、此方に奇異な視線を向けてくる不躾な連中がチラホラと窺える。ベルは気付いていないが、神であるヘスティアとベジットにはバレバレなある種の悪意に満ちた視線。
どいつもこいつもここ数年でオラリオにやって来た神ばかり。つまり……そういう事なのだろう。
彼等の視線から今回の宴の意図を何となく察したヘスティアとベジットは呆れの嘆息を溢していると……。
「なんや、随分と景気の悪そうな顔をしとるな自分ら」
「折角の宴なんだから、楽しみましょ?」
やってきたのはオラリオの中でも代表格として知られるロキとフレイヤの二大主神。ロキはアイズとフィンを、フレイヤはオッタルとヘディンをそれぞれ従わせてヘスティアの前へとやって来た。
「あぁ、なんだロキとフレイヤか。君達も宴に呼ばれたのかい?」
「おぉ、なんかおもろそうな事になりそうやなって、ウチの勘が囁いてな。やっほータケミカヅチにミアハ」
「私も似たようなモノね。こんばんは
「あぁ、こうして会うのは久しいなロキ、フレイヤ」
「そちらも息災の様で何よりだ」
そうして始まる主神同士の井戸端会議。神々の会話を盗み聞きするのもアレなので、眷族は眷族同士で雑談し合う流れとなった。
「よぉお前ら。珍しいな公の場に出てくるなんて」
「そういう君もね。こう言った催しにはあまり興味は無さそうと思っていたけど」
「流石のお前も、神アポロンからの挑発は逃げられなかったか」
「まぁな。ここまでお膳立てされた以上、逃げたら流石にカッコ悪いかなって」
「全く、うるさい雑兵など早々に蹴散らせば良かったものを……ベジット、今回のこれは貴様の怠慢の所為でもあるからな」
「わぁってるよ。アルフィアからも似たような台詞で説教されたしな」
どうやらこの場にいる三人も今回の宴を開いたアポロンの意図を理解しているらしい。嫌味増し増しで警告してくるヘディンにベジットはうんざりした様子で肩を竦めた。
ヘディンはヘディンで自身の顔を踏みつけにした魔女を思い出し、屈辱的な思い出にその顔を歪ませる。
まぁまぁと間に入って場を取りなすフィンに感謝をしつつ、ベジットは雑談を続けた。
「て言うか、今回の保護者役はフィンなんだな。俺はてっきりリヴェリアかガレスのおっちゃんが来るものとばかり……」
「まぁ、今回は君も参加するだろうと思ってたし、
「まー、なんて酷い団長」
「やかましいよ。……因みに、何でガレスが来ると思ったの?」
「単にタキシード姿のおっちゃんが見たかった」
「分かる」
だから来なかったんだよねーと、肩を竦めて笑うフィン。あの無精髭が綺麗にタキシードに身を包むとか、地味に見たかったとベジットも悔やむ。
それはそれとして。
「そんでそこの信者ども。特に眼鏡エルフ」
「あ?」
「お前らの拠点から今朝方エグい轟音聞こえてきたんだが……何したん? 正直に言うてみ?」
「……別に、最後の椅子を賭けて尋常なる決闘をしただけだが?」
フレイヤ・ファミリアは主神である女神フレイヤを絶対の存在として仰ぎ見る狂信者集団である。女神の寵愛を受ける為、日夜殺し合いの日々を繰り広げる彼等だが、今回の宴に参加する女神に同伴する為に眷族全員が殺意マシマシになるのは想像に容易い。
結果、女神の居城たる【
「……お前らね、もう少し自重という言葉を覚えろよ。近所迷惑だろうが」
「全ては女神の意に添える為。有象無象の戯れ言なんぞ知るか」
これである。折角のイケメンなのに【鬼畜眼鏡】と言われているのはこう言う所があるからだろうなと、ベジットは呆れるしかなかった。
そんな、ベジット達が何やかんや雑談を楽しんでいる一方で。
「こんにちはベル。今日はアナタも来たんだね」
「あ、アイズさん! まさか、貴女も宴に来てただなんて……!」
「本当は来る気が無かったんだけどね。ロキに泣かれちゃって……」
主神に泣き付かれ、仕方なく今日の“神の宴”したと語るアイズだが、彼女に憧れているベルはそれどころじゃなかった。
唯でさえ美しく、綺麗なアイズがドレスという艶のある衣装を着飾り、
何かを口に、言葉にするべきなのに言葉が出てこない。顔を赤くさせて硬直するベルはただ高鳴る自分の心臓の音を鎮まらせる事だけに注視していた。
「そう言えばベル、これは聞いた話なんだけど……」
「ふぁい!?」
「私達が18階層から離脱した後、大変な目に遭ったんだってね。大丈夫だった?」
「あ……」
しかし、途端にアイズの口から出てきた自身を案ずる言葉に、ベルの意識は変わる。
目の前の女性は自分が憧れている人だ。強く、美しく、けれど何処か抜けてて天然な………優しい剣士。
そんな彼女にただ心配されているだけじゃダメだ。いつか並びたいと誓ったなら、少しでも意地を出せ。
「……みんな、凄かったんです」
「うん?」
「モルドさんやガイルさん、スコットさん達は黒いゴライアスを相手に一歩も引きませんでした。押し寄せる巨体を前に、津波みたいに襲ってくるモンスターを前にあの人達は決して退かず、折れませんでした」
あの時、団長は良い経験になるからと自分達を送り出してくれたが、殆ど自分達は役に立たず、ヴェルフ達が必死になって戦っている中、自分はただ最後のトドメを持っていっただけ。
お膳立てされていた。Lv.2になった自分を導くように、労るようにラストアタックの道を開き、自分はただその道を走るだけだった。
お前がいたお陰で助かったとモルド達は言う。だが、ベル・クラネルは考えてしまっていた。あの戦いが自分に自信を付けさせてくれる為の戦いだとするなら、自分はまだ冒険者として見られていない。
悔しかった。思い上がっていた。アレだけ必死にモンスターを倒して昇格した自分が、才能があるかも。だなんて……。
みんな、自分より何倍も冒険しているのに、まるでお前は中身がないと、そう言われた気がして。
「アイズさん……」
分かっている。これは全部、唯の被害妄想だ。ひねくれた性根の自分が、勝手にそう思っているだけ。
でも。
「僕、強くなります。アナタ達みたいに……」
これだけは、言わないといけない気がした。
アイズ・ヴァレンシュタインが眼を丸くさせている。意表を突かれ、思わずと眼を見開く彼女をベルは口元をモニョモニョさせながら見据えた。
明らかに無理をしたベルの宣言、しかしアイズはベルの事を嘲笑せず。
「楽しみにしてる」
冒険者の笑みを浮かべて、そう言った。
「ッ!」
美しき猛獣。そんな笑みを向けてくるアイズにベルは肩を竦ませる。嘲りでも侮りでもない、自分を認めてその上で楽しみにしてると、彼女はそう言った。
彼女の威圧で脚が竦む。だけど、強がりでも良いから逃げてはいけないと、ベルは最大限の胆力でその場から逃げなかった。
「はい。頑張ります!」
「うん、頑張って」
そう言って微笑むアイズに、ベルも全身から力が抜ける。これでもう言い訳は出来なくなった。1日でも早く目の前の憧憬に追い付くため、今後もベルは地獄に自ら進みに行くだろう。
でも、今は……。
「あ、ダンスが始まった」
ふとホールへ眼を向ければ、主神と眷族達が音楽に合わせて踊っている。
「っ!」
この時、ベル・クラネルに電流が走る。祖父母から教わった指南、ダンスの誘い方という的確すぎる教えを思い出したベルは……。
「ぼ、僕と一曲……踊って、くれませんか?」
一世一代の大勝負。男を見せたベルに遠巻きで見守っていたベジットとヘスティアが「おぉ」と感心の声を漏らす。
「うん。お願いするね」
微笑み、ベルの手を取るアイズ。不器用ながら仲睦まじく踊り始める二人を尻目に、ダンスの時間は続く。
そんな二人を美神の眼差しが射貫いていたのは、彼女の眷族(+ベジットとヘスティア)以外誰も気付く事はなく、ベルにとって夢のような時間は続く。
しかし、夢とはいずれ醒めるモノであり。
「諸君! 宴は楽しんでいるかね!」
その時は、唐突に訪れる。
◇
太陽神アポロン。下界に降り立った神々と同様に美形で、太陽の如く陽色の髪と月桂冠を冠するその神は、真っ直ぐにホール中央……ベルとアイズのいる所に向かって歩みよっていく。
明らかに自分に視線を向けているアポロンに嫌な予感を感じ取ったベルは、アイズから手を離して彼女から距離を取る。
神アポロンは変わらずベルを見ている。その瞳の奥に苛烈とも言える情熱を携えて近付いてくる男神に、ベルは言葉には出来ない悪寒を感じた。
そんなベルを庇うように、主神ヘスティアと団長であるベジットが前に立つ。
「やぁアポロン。僕の
「やぁヘスティア。なに、先日私の眷族が世話になったからね。その話をしたかっただけさ」
「おいおい、
先日の件というと、間違いなく昨夜の酒場での出来事を指しているのだろうが、アレはあくまで眷族───子供達同士による喧嘩。
オラリオでは日常茶飯事な出来事で、同時に神々にとっての酒の肴。牽制程度で物申しているが、これが通用する程目の前の神が殊勝でないことはベジットも理解していた。
目的は、アポロンの関心を自分に向けさせる為。案の定、アポロンは忌々しそうにベジットへ視線を向けてくる。
「………確かに、子供達の喧嘩程度なら自主性を重んじて私も其処まで口出しはしなかっただろう。だが、ここまで打ちのめされては、流石に黙ってはいられないさ!」
そう言ってアポロンが腕を広げ、背後に立つ人物を見せ付けるように紹介すると、ベルはそこに佇む人物に眼を剥いた。
「痛ェ、痛ェよぉ!!」
そこにいるのは松葉杖を手に満身創痍で佇む小人族の少年。全身に包帯を巻き付け、如何にも瀕死であるとアピールする彼に、ベルだけでなくヘスティアも頬をひくついた。
「べ、ベル君。本当に彼処まで?」
「し、してません! してませんよ!?」
確かに取っ組み合いの殴り合いをした喧嘩をしたが、あんな風に再起不能レベルまで痛め付けた覚えはないとベルは否定する。
ベルの言っている事に嘘はないし、何なら痛い痛いと喚いている小人族の少年も大袈裟にしているだけ。
茶番。けれどこの茶番こそが神アポロンの目論見の切欠であった。
「あくまでもシラを切るか。悲しいなぁベル・クラネル君。あぁ、私は実に悲しい」
「な、何を……?」
大袈裟に、そして仰々しく泣き真似をし始めるアポロンにベルは困惑する。悲しいとは、一体何を指しての言葉なのか。
「君がその様に粗暴で、且つ乱暴者になってしまったのは、偏にそこの詐欺師───ベジットの所為なのだろう?」
「あ?」
前髪を掻き揚げ、ナルシスト全開にしてベジットへ指を差すアポロンにヘスティアの蟀谷に青筋が浮かび上がる。
「君の悪名はかねがね耳にしているよ。同じファミリアの仲間をそのあまりにも過酷な鍛練で追い詰め、精神を崩壊させたそうじゃないか。正気じゃない」
「異議あり! 主犯は俺かもしれないが少なくともあと一人共犯者がいるぞ!」
「おい、俺を巻き込むな」
到達に始まった裁判もどき、神アポロンはまるで裁定者の如く振る舞うが、自己弁護をするベジットは自分だけの犯行ではないと供述する。
後ろで【猛者】が更なる異議を申し立てているが……聞こえない。傍聴側に異議申し立てする権利はないのだ。
イヤ何の話?
「それだけじゃない。君の悪行は多岐に渡り、その達者な口振りで多くの人々を騙してきた様だが……この私には通じない。私は太陽神アポロン、天に輝く太陽の化身! この輝きを以て、君の正体を白日の下に晒そうではないか!」
「こんの、黙っていれば言いたい放題……!」
ベジット一人を悪者にして、場の空気を支配しようと目論むアポロンに、ヘスティアの怒りが徐々に膨れ上がる。
対するベジットは、確かに派閥の等級とか騙しているし、何なら黒竜討伐の件も未だ秘匿したまま。加えてLv.1でありながら誰よりも強いという事実から、ある意味で詐欺師と言われても仕方の無い事をやらかしている自覚はあった為、あまり強く言い返せないでいる。
「んで、結局アポロン様は何がお望みで?」
「フンッ。事ここに至って未だ不遜な態度が抜けないか。だがそれならそれで良い……改めてこのアポロンが宣誓しよう! 我々アポロン・ファミリアは君達に戦争遊戯を申し込む!」
「はぁ」
「そして、我々が勝利した暁には彼を……ベル・クラネルをいただく!!」
「………はぁ!?」
両手を広げ、高々く宣戦布告を口にするアポロン。周囲の神々と眷族が盛り上がる中、一部の神々達は呆れたようにため息を吐いていた。
逃げ場はない。今ここで答えを出さなければ恥をかくのはお前達だと、不敵な笑みを浮かべ、ベルに指を突き付けるアポロンに対し。
「いいよ。やろうか」
あまりにもあっさりと、ベジットは承諾した。
「………は?」
「話は終わりか? じゃ、詳しい話は後日という事で……俺達はお先に帰るとするわ。行くぜヘスティア、ベル」
「はーい」
「わ、分かりました!」
唖然としているアポロンを放置して、舞台を後にするベジット達。途中、ロキ達に手を振って軽く別れの挨拶を済ませる彼等は、一度も振り返る事無くアポロン・ファミリアの本拠地を後にするのだった。
◇
翌朝。
「よいしょっと。神様、こっちの荷物は運び終わりました」
「ありがとうベル君。助かったぜ」
ヘスティア・ファミリアの物置小屋兼隠れ家となっている教会。他の寂れた建物とは異なり、未だ真新しいその教会の地下にてベルは主神であるヘスティアと共に地下室の物置の片付けを行っていた。
「やっぱ眷族の子が一人でもいると効率がダンチだよ。お陰で掃除が捗る捗る」
「あの、それは良いんですけど神様。僕、こんな所にいて良いんでしょうか?」
現在、アポロン・ファミリアと自分達ヘスティア・ファミリアは
オラリオの市井はその話題で持ち切りとなり、お祭り騒ぎ。一部では既に賭け事にまで発展していると聞く。
もう撤回することは叶わず、衝突は避けられない。なのに自分達はこうしていつもと変わらない日常を送っている事に、ベルは焦燥感に駆られていた。
「まぁ、確かに戦争遊戯の内容がどんなものになるかは定かでないから油断出来ないけど……大丈夫。僕達なら絶対に勝てるさ」
「そ、それは……そうかもですけど」
団長であるベジットがLv.1であるために色々と誤解を招いてはいるが、他にもベートやリリルカという冒険者の中でも上澄みな実力者が揃っている。
彼等のどちらかが参加出来れば、戦争遊戯の内容が戦闘系であれば勝利は約束されたも同然。逆に言えば戦争系の内容で無ければ、万が一の可能性が出てくるが……まぁ、殆どその心配は無いだろう。
「それに、あの場でベジット君が戦争遊戯を受けた事で、アポロンからのしつこい追求から逃れたと思えば、悪くない選択さ。でなければ今頃、僕達はアポロン・ファミリアから襲撃されていたかもだしね」
「そ、そうなんですか!?」
ニヘラと笑って済ませているが、相手は100人以上の規模を誇り、人数だけなら大規模派閥と呼べるファミリアだ。
対する現在ヘスティアの護衛に来ているのはベル・クラネルただ一人。ベートとリリルカは戦争遊戯に備えて念の為にアイテム補充の為にオラリオを駆け回っており朝から不在。
ザルド、アルフィアも珍しく急用が出来てしまい此方も不在。肝心なベジットはとある事情でアリスと共に現在オラリオから出払っている。
あの時……【
(ダメだ。弱気になるな! 神様は僕を信頼してくれている。団長も、みんなも、僕がの事を信じてくれている。だから、その信頼に応えなくちゃ!)
自分だけしか神の護衛に回せていないと言うのなら、それは即ちファミリアの全員がベルなら大丈夫だという信頼によるもの。その信頼に応える為にもベルは自らを鼓舞するように顔を叩く。
そんなベルの不安を察してか、ヘスティアは申し訳ないと前フリを於いて。
「……ゴメンねベル君。今回の件、もしかしたら僕にも非があるかもしれないんだ」
「え?」
「本当なら、その気になればベジット君はこのオラリオで誰よりも強い事を証明できる筈なんだ。でも、彼は必要以上の誇示をしたりはしない。その理由の一つが僕なんだ」
女神ヘスティアはズボラで、怠惰な性格をしているが、それ以上に家庭を司り、更には“全ての孤児の保護者”なんて言われている。
その異名に相応しく、いつも彼女はバイトの給料を手に入れてはその殆どを孤児院に寄付したり、お菓子等の差し入れを買ってたりして、その活動あってか、ヘスティアは本拠地周辺の人々にはマスコットの様に可愛がれており、また信仰を集めている。
そんなヘスティアの眷族であるベジットが、その力を思うままに振りかざしていたら、ヘスティアは今の様に人々から慕われてはいないだろう。
恐るべき眷族を従える女神として、子供達からも畏怖の対象とされてしまう。ヘスティアはそんなのは望まないし、ベジットもまたそんなヘスティアは似合わないと断言するだろう。
故に、ベジットは力を必要以上にひけらかす事はせず、人目の付かないダンジョンにて活動してきた。そんなベジットの気遣いが年月の経過と共に今回の件の引き金になってしまった。
全部が全部自分の所為とは言わない。だがベジットがこんな自分を気遣って遠慮しているなら、主神である自分にも責任はある。
だからゴメンねとヘスティアは申し訳なく謝罪したのだ。
けれどベルは、それは違うのではないかと思った。
「あの、神様。団長は多分そんな風に思ってないと思いますよ?」
「え?」
「だって団長、神様と一緒にいると楽しそうにしてましたよ」
ベルから見て、ベジットとヘスティアはとても仲が良さそうに見えた。互いが互いを思い遣り、それは神と眷族というより……そう、“家族”の様な暖かさがあった。
ヘスティア・ファミリアに入団してまだ半年も経たない新入りのベルだが、それでも二人の間に確かな絆がある程度には強い繋がりがあるのだと思えた。
だから、ヘスティアの懸念は杞憂でしかないのだと、ベルは断言する。
「あの、ごめんなさい。新入りの僕が偉そうに言って……でも、本当にそう思えたんです」
「ベル君……そうか、ありがとうベル君。君にそう言われて、僕も安心したよ」
信じられるか? こんな優しい子の半分がヘラ要素で出来てるんだぜ。
なんて事は口に出さず、ヘスティアは微笑んでベルの頭を撫でた。
「さて、ここの掃除も終わった事だし、僕達の家に帰ろうか。もうすぐお昼だし、みんなも帰ってくる筈だからね」
「はい。神様」
掃除も終わり、午前中のやるべき事は全て終えた。次にする事はみんなで食卓を囲んだ時に考えよう。
互いに笑い合いながら教会の扉を開けた瞬間───
「………え?」
その光景に言葉を失った。
複数の人達が此方を見下ろしている。十数人規模で、全員が覆面を着けて自分達を囲んでいる。
明らかに普通じゃないその光景に……。
「………やれ」
ベル・クラネルの警戒心が最大音量で警報を鳴らす。武器を振り上げ、明らかな敵意を撒き散らす彼等を前に……。
「神様ッ!!」
瞬間、オラリオの一角で轟音が鳴り、爆炎が舞い上がった。
Q.ベジットとアリスどこ行ってんねん。
A.とある北の大地で結界のメンテ中。
Q.アポロン・ファミリアなに四天王? これ、主神の指示なん?
A.アポロン様は何も知りません。
次回、【怒り】
オマケ
オラリオ大捜査線
───その日、オラリオは震撼した。
人類を脅かす三大冒険者依頼。ダンジョンから生まれ出で千年、未だ人類に色濃く爪痕を刻み続けている怪物達を打ち倒すため、大英雄が倒れてから力を蓄え続けてきた精鋭達。
ゼウスとヘラ、二柱の神が率いる派閥は下界救済の遠征に赴き………3ヶ月程で帰ってきた。
「ベジットのバカ野郎はどこだぁぁぁぁっ!!??」
凱旋直後、オラリオ中を轟かせる怒声。声の主である灰の魔女を筆頭にゼウス・ヘラ二大派閥は総力を挙げて一人の男を探し始めた。
闇派閥がいれば殲滅し、邪神がいれば送還する。最強派閥の眷族達による蹂躙はオラリオに住まう人々にトラウマを植え付けた。
ダンジョンから偶然見付けた人造迷宮。オラリオの上下と隅から隅まで探したものの、ベジットと奴の女神の姿は影も形もなかった。。
本拠地ももぬけの殻なことから、恐らく既に奴等はオラリオの外。ならば此方も捜索範囲を広げるしかない。
後に、オラリオ大捜査線と呼ばれる出来事の………その前日譚である。
「………ねぇ、ベジット君。なんか僕達を捕まえる為にオラリオが対策本部を設立したっぽいんだけど?」
「あっはははは! どーすんべこれ…」