ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今年のFGOコラボにはストレンジFAKEが来るのかな?


そんな訳で初投稿です。


物語109

 

 

 

 そんな馬鹿な。崩れ落ちる瓦礫の中、主神(ヘスティア)を抱えながら教会から脱出するベルの思考はそんな言葉で埋め尽くされていた。

 

 戦争遊戯が成立した場合、然るべき対応と準備をギルドが行い、そんな準備期間の最中は対立する派閥同士による干渉は禁じられていると、ベルは主神から聞いていた。

 

 道理だと思った。対立する派閥同士が戦争遊戯前に干渉したら不正を疑われるだろうし、そうでなくとも余計なイザコザがオラリオを混乱させてしまう。

 

 なにより、対立する派閥同士が街中で暴れたら、それこそ被害を被るのは街の住民達だ。街の治安を守る警邏隊(ガネーシャ・ファミリア)正義の眷族(アストレア・ファミリア)からも目を付けられる。

 

 現在のオラリオで、暴れる危険性があるのはフレイヤ・ファミリア位だという事も。

 

 だから、表だって襲撃するのは派閥的にも物理的にも有り得ない。そう、思っていたのに……。

 

「神様、大丈夫ですか!?」

 

「あ、あぁ、僕なら平気だよ。それよりもベル君、血が!?」

 

「こんなの掠り傷です! それよりも確り掴まってて下さい!!」

 

 額が裂け、血がベルの片目の視界を奪う。崩れる教会の瓦礫から主神を助け出したのは良かったものの、砕けて弾けた瓦礫の破片を避けきれずに負傷してしまった。

 

 だが、主神に言ったように出血が派手なだけで痛みは然程じゃない。ヘスティアの身の安全を第一に考え、彼女を抱えながら走るベルは一瞬だけ後ろに振り返る。

 

 崩れ落ちる教会。舞い上がる砂塵から現れる複数の影、奴等の首元に付けられたエンブレムに刻まれた模様を見て、ベルは困惑しながらも確信する。

 

 やはり、襲ってきたのはアポロン・ファミリアだった。太陽に弓矢が刻まれたエンブレム、有り得ざる………否、あってはならない襲撃にベルは苦悶に顔を歪めながらヘスティアに問いかける。

 

「神様! アポロン・ファミリアとは戦争遊戯が始まるまで互いに不干渉の筈なんですよね!?」

 

「そうなんだ。その筈なんだけど!」

 

 困惑しているのはヘスティアも同じだった。基本的に、派閥同士による対立は戦争遊戯(ウォー・ゲーム)以外厳しく取り締まりをしており、先にも述べたようにオラリオの治安を担う二大派閥(ガネーシャ・アストレア)が目を光らせているお陰で、大抗争以降オラリオの平穏は保たれてきた。

 

 過去に唯一戦争遊戯を仕掛けてきたソーマ・ファミリアですら起こさなかった暴挙。だが、実際にその暴挙が自分達の身に降り掛かっている。

 

「逃がさん!!」

 

「っ!?」

 

 頭上の建物から矢が放たれる。神を巻き込んでしまう事を微塵も恐れずに矢を放つ彼等に驚愕するも、傷一つ負わせてはならないと、ベルは必死に身を捩らせて回避する。

 

 一射、二射、三射と、放たれる無数の弓矢。明らかに袋小路に追い詰められると勘づいたベルは、速度を落とさず、且つ瞬時に建物の壁を駆け上がり、建物の屋根に飛び移る。

 

「ごめんなさい! 大丈夫ですか神様!?」

 

「ぼ、僕は平気だから! ベル君は逃げ切る事だけに集中して!」

 

 唐突に体へ重力の負荷が加わった事で、ヘスティアの顔が苦痛に歪む。未熟な自分の所為で傷付けてしまった事に心底申し訳なさを感じなから、それでもベルは脚を止める事なく走り続けた。

 

 このまま進めば大通りに出る。そうすれば奴等も流石に迂闊に手は出さないだろう。そんなベルの些細な目論みは前方から現れる集団によって砕かれる。

 

「そ、そんな……!」

 

 前方から現れる黒を強調とした制服を着た集団、彼等の身に付けている太陽と弓矢のエンブレム。挟み撃ちにされたと、動揺したベルに選択肢が突き付けられる。

 

(界王拳を使うしかないのか!? でも、そうしたら神様が!)

 

 もし、ここで界王拳を使用すれば、ベルはこの挟み撃ちから抜け出すことは出来るだろう。だが、使ってしまったら抱えているヘスティアに更なる負荷を負わせてしまう事になる。

 

 下界に降り、身体能力や強度は恩恵を受けていない一般市民と変わりない全知零能の神が、界王拳を使用したベルの俊敏(スピード)とそこから発生する負荷に耐えられるのか。

 

 無理だ。僅かでも加減を誤れば、先に待つのは破滅しかない。一体、どうすれば……!

 

「行って!!」

 

「っ!?」

 

「そのまま、真っ直ぐ!!」

 

 前方の集団から聞こえてきた怒声。先頭の赤髪の女性が止まらず走れと言葉を投げ付けてくる。

 

 敵じゃない? 不思議に思いながらも脚を止めず、そのまま走り続けると……。

 

「ごめん」

 

「え?」

 

 すれ違いざま、赤髪の女性からそんな言葉が投げ掛けられる。どういう事なのかと一瞬だけ後ろに振り返ると、同じ派閥である筈の彼女達が同じ派閥である筈の襲撃者達に刃を振り下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしているのよヒュアキントス!!」

 

 アポロン・ファミリアの眷族、ダフネ・ラウロスは団長であるヒュアキントスに向けて容赦なくその刃を振り下ろすが、振り下ろされる彼女の刃をヒュアキントスは容易くフランベルジュの剣で受け止める。

 

 アポロン・ファミリア内でも部隊の指揮を行い、迷宮探索の際は指揮官として重用されてきた彼女。

 

 曾てアポロンに見初められ、しつこく逃げ続けた果てに眷族にされたダフネ。その逸話故に付けられた二つ名は【月桂の遁走者(ラウロス・フーガ)】。

 

 しつこく付きまとわれ、追いかけ回されてきた故に、ダフネはアポロンを恨んでいたが、そんな彼女でさえこの事態は看過出来なかった。

 

「アンタ、なに考えてんの!? ヘスティア・ファミリアとの戦争遊戯が成立した今、干渉するのは自重して準備に徹するって話だったでしょーが!!」

 

 本来の命令とはかけ離れ……処か、主神(アポロン)への反抗行為とすら捉えられかねない団長とその仲間達の蛮行。ガネーシャ・ファミリアやアストレア・ファミリアに介入される前に止めないと。

 

 とある理由で(・・・・・・)先日からヒュアキントス達を探していたダフネ達は何としてもここで彼等を止めようとするが……。

 

「……邪魔だ。そこを───どけぇ!!

 

「ッ!?」

 

 ヒュアキントスの瞳の奥、昏く鈍く輝く激情の光。それが妖しく瞬いた瞬間、彼の全身から黒い炎(・・・)が噴き出していく。

 

「な、なに!?」

 

あの御方の(・・・・・)、邪魔をするなぁぁぁっ!!」

 

「ギャウッ!?」

 

 吹き飛ばされる。ヒュアキントスの等級はLv.3とされているが、明らかにそれを遥かに凌駕した膂力にダフネは目を見開く。

 

 ヒュアキントスだけじゃない。彼を契機に他の食い止めていた面々が切り捨てられ、切り捨てた全員が黒い炎を帯びている。

 

「み、みんな……どうしちまったんだよ……」

 

 切り捨てられた一人、小人族(パルゥム)のルアンが涙目になりながら手を伸ばす。しかし、そんな彼の手をエルフの青年が慈悲なく剣を振りかざし……。

 

「や、止めろォッ!!」

 

 ダフネが、堪らず止めようとして……。

 

「死ね」

 

「ッ!?」

 

 既に間合いを詰められ、自分の晒してしまった隙を突かれ──。

 

 赤い鮮血が、宙に舞った。

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな……!?」

 

 信じ難い光景だった。同じ派閥の眷族が、同じ主神を仰ぐ筈の仲間が斬り捨てられる様を見て、ベルは震え上がった。

 

 祖父から聞いていたファミリア(家族)の在り方とは逸脱した彼等の蛮行。しかし、立ち止まるわけには行かないと倒れるダフネ達に内心で申し訳なく思いながらもベルは必死に駆け抜けた。

 

 後少しで大通りに出る。先の騒ぎで治安維持部隊(ガネーシャ・ファミリア)やファミリアのみんなだって駆け付けてくれる筈。

 

 自分の弱さと情けなさを今は棚上げし、縋る気持ちで屋根を走り続けていたベル。そんな彼の肩に鈍い激痛が走る。

 

「ッグゥ!?」

 

「ベル君ッ!?」

 

 見れば、背中の右肩部分に矢が刺さっている。熱く、焼ける様な痛みがベルの脳髄に痛みとなって訴えてくる。身を捩り、痛みに悶えそうになる衝動を堪えて、それでも主神を護るために走る。

 

 屋根から飛び降りた間際も、幾つもの矢がベルを射貫くが、この手に抱えた女神だけは傷を付けさせない。

 

 そんな意地を以て地に降り立つ。が、既に出血と痛みで意識が朦朧としていたベルは自身の体を支えきれず、地に転がり倒れ伏す。

 

「神……様」

 

「ベル君、確りするんだ! ベル君!」

 

「怪我は……ありませんか?」

 

「あぁ、君のお陰で傷一つないよ! ありがとう、本当にありがとう!」

 

 良かった。自分を涙混じりで見詰めてくるヘスティアに安心しながら、ベルは立ち上がり肩に刺さった矢に手を伸ばす。

 

「あ、ぐ、あぁぁぁっ!!」

 

「べ、ベル君!?」

 

 肉が切り裂く音と痛みに喘ぎながら、ブシュリと矢を引き抜く。次に念の為に持ち合わせていた“仙豆擬き”を口に含んで呑み込むと、忽ち痛みが消えていく。

 

「神様、僕の後ろへ……」

 

 傷は癒えた。しかし、まだ窮地は脱してはいなかった。

 

 自分達を取り囲むように降り立つ複数の影、何れも神アポロンの眷族である筈の彼等だが、あの赤髪の女性が言うには主神の神命を無視してまで自分達を追っていた様だ。

 

 一柱の主神を追いかけ回すその悪辣さと同じ派閥の仲間達を容赦なく斬り捨てる残虐性。

 

 なにより、自分達を見つめる常軌を逸した目が、ベルに彼等の状態が普通じゃないと確信を抱かせる。

 

 恐らく、彼等はこの街の住人達を巻き込んでもお構いなしに暴れるだろう。そう断言出来るほどに彼等は異常だった。

 

「神様、切り札(界王拳)を使って時間を稼ぎます。その間に神様はギルド……或いはガネーシャ・ファミリアに逃げて下さい!」

 

「だ、ダメだよベル君! それはダメだ!」

 

 自分を犠牲にしてでも主神を護る。それが、ヘスティアの警護を任せられた自分の責務だと、ベルは決死の覚悟で目の前の彼等を見据え───

 

 息を呑んだ。

 

 彼等が掲げている武器、その全てが高い殺傷能力を持つ魔剣。ここで放てば街の住人達まで巻き添えになる代物を、彼等は躊躇なく振り下ろそうとしている。

 

 “仙豆擬き”を摂取し、全快になったベルは初めてヒュアキントスの目を見て、そして戦慄する。

 

(普通じゃない!!)

 

 凡そ尋常ではない血走った眼差し。追い詰められているのは自分達の筈なのに、口端に泡を溜めて必死の形相で此方を見下ろしている彼等は、まるで特攻を覚悟した死兵の様。

 

 刃が振り下ろされる。瞬間、風や炎、雷がベルとヘスティアに向けて殺到する。咄嗟に自らを盾にすることを選んだベル、主神の必死な怒声がベルの耳を叩く。

 

 一瞬、自分の死を覚悟するベルであったが、痛みはなく、また衝撃もない。

 

 確かに魔剣は放たれた……なのに、周囲には一切の破壊痕はなく、ただ静寂だけがそこにあった。

 

 振り返ると、そこには自分達を纏めるヘスティア・ファミリアの長、ベジットがベルとヘスティアを庇うように佇んでいた。

 

「……ベル」

 

「は、はい!」

 

「良く頑張った。後は、俺に任せろ」

 

 一瞥し、自分達の安否を確認する団長。その声音は何時もと変わらない暖かさを感じさせるというのに、どういう訳かベルには底冷えする様な圧を感じた。

 

“バキンッ”

 

 どこからともなく聞こえてくる破砕音。それが街灯が破裂する音だと気付くのは、事が終わった後だった。

 

 世界が震える。

 

 漠然と、なんとなくそう思ったベルは何故その様に思えたのか次の瞬間理解する。

 

「さて、お前ら。ウチの家族と主神()に手を出したんだ………覚悟は出来てるんだよな?

 

 “怒り”

 

 それは、普段は温厚でいっそ能天気な程に明るいヘスティア・ファミリアの団長が初めて見せる───怒りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲鳴を挙げている。オラリオの街が、ダンジョンに蓋をして、モンスター達を封印している蓋の大地が、ビシリ、ミシリと悲鳴を上げて助けてくれと言葉にならない命乞いをしている。

 

 微かに漏れ出るベジットの圧が、物理現象となって顕れる。

 

「で? お前達は何時まで見下ろしているつもりだ? それとも………今、ここで死ぬか?

 

「「「っ!?」」」

 

 一際強くなるベジットの圧。彼の足下は陥没し、地面に蜂の巣のような皹が入り、街灯が弾けていく。

 

 ベジット自身は残った理性で必死に感情を圧し殺しているが、正気を失った彼等の態度が彼の逆鱗を刺激する。

 

 戦争遊戯を待たずにここで死ぬか? 脅しではなく、淡々と事実を語るベジットに、正気を失ったヒュアキントス達は後退る。

 

 事ここに来て無言のまま態度も改めない彼等に、ベジットの手からパキリと音が鳴る。

 

「……分かった。もういい」

 

 相手が正気を失っていようと、何か事情があろうと関係ない。人様の大事なモノに手を出した以上、相応のケジメは付けさせなければ。

 

 団長として、何よりヘスティアを護る眷族として、ベジットがベルの前で初めて暴力を見せようとした所で。

 

「そこまでよ!!」

 

 その場に駆け付けたガネーシャとアストレアの眷族達がヒュアキントス達を囲み、組み伏せる。

 

 アーディが、リオンが、ライラが、輝夜が、正義と群衆の主の眷族達が確かな連携を以て取り抑えに掛かる。

 

「ガァァァッ!!」

 

「この、暴れるんじゃない!」

 

「なん、だ!? この力、本当にLv.3かコイツ!?」

 

 暴れるヒュアキントス達を、それでも力尽くで抑える街の憲兵達。漸くのお出ましかとベジットは後からやって来た二人の団長に呆れの眼差しを向けるが、自分にも非があることを自覚し、切り替える。

 

「ごめんなさいベジットさん。介入が遅れちゃって」

 

「そうだな。だが、今回に関して言えば俺も駆け付けるのが遅れた。お前らだけを責める事は出来ねぇよ」

 

「いや、それでも君達を、街の人間に危険が及んだのは変わりない。どうか街を守ってくれた礼と遅れた謝罪をさせてくれ」

 

 済まない、そしてありがとう。街の治安を護る二大派閥、その二つの派閥の長から頭を下げられたのであれば、此方も拳をほどかない訳にはいかない。

 

 一方的に襲っておいて報復も儘ならないとは……と思うが、街の治安維持部隊から遠回しに矛を納めてくれと頼まれれば、ここは呑み込むしかない。ベジットは溜め息を吐くと共に剣呑な雰囲気を解き……。

 

「……はぁ、そういう事だから、お前達も手を止めろ。リリ、ベート」

 

「「「「っ!?!?」」」」

 

 命じるベジットの言葉に、初めてその場にいる全員が二人の存在に気付く。組み伏せられるヒュアキントスを覗き込む赤い瞳、槍を片手に首もとに突き付けるリリルカ・アーデと静かに見下ろすベート・ローガ。

 

 自身を挟むようにして見下ろしている二人に、漸く気付いたヒュアキントスは息を呑んだ。

 

「……おい、ベジット」

 

「分かっている。退くのは今回だけだ」

 

 ベジットの言葉に取り敢えず納得はしたのだろう。ベートも溜め息を吐くと、未だ殺意を解かないリリに向き直り……。

 

「聞こえただろチビ助、団長からの命令だ。腸が煮え繰り返るだろうが……殺気を収めろ」

 

 ベートに言われ、ヒュアキントスと彼を抑えているライラを交互に見て、数秒の沈黙の後にリリルカも殺気を解く。

 

 ライラは思う。小人族(あたし達)の希望、怖くね? 至近距離から無表情+赤目のリリルカに睨まれたライラは暫くの間、夜に一人でトイレに行けなくなった。

 

 閑話休題。

 

「じゃ、俺達は行くよ。後はよろしく」

 

「あぁ」

 

「お疲れ様!」

 

 ベジット達が矛を収めた事で、何とか場の張り詰めた空気が霧散していく。後の事はガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアに任せ、ベジット達は帰路に就こうとする。

 

 その際に。

 

「べ、ベジット君……」

 

「大人しくしてろ」

 

 ベジットはヘスティアをお姫様抱っこで。

 

「ふ、副団長。僕なら怪我の方は塞がっているので……」

 

「ウルセェ。良いから口を閉じとけ」

 

 ベートは米俵を担ぐ様にベルを抱える。

 

 必死の逃亡劇を繰り広げたベルとヘスティアは、オラリオ有数のセ○ムに護られながら本拠地に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、あの後は負傷したアポロン・ファミリアから事情聴取を行う為、一先ず今日の所は詳しいことは何一つ分かることがないまま終わる事になりそうだ。

 

 ベルが言うには、アポロン・ファミリアの団長であるヒュアキントスを始め、仕掛けてきた連中は正気を失っている様で、その異常さは同じ派閥の仲間を斬り捨てる程であるという。

 

 ベルの話に嘘はない。事実、ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアによって捕縛されたヒュアキントス達は現在牢獄の中で街中で暴れたのが嘘のように静かになっている。

 

 神であるガネーシャが尋問に加わっても、まるで操り糸の切れた人形の様に項垂れるだけだと、シャクティは語っている。

 

 対してアポロン・ファミリアの方だが……此方も、調査は難航しているようだ。

 

 と言うのも、太陽神アポロンの目論見はあくまで自分達と戦争遊戯を成立する迄の話であって、それ以上の干渉は必要ないし、寧ろデメリットしかないので止めるよう眷族達には厳命に下していたらしい。

 

 処が、先日から所用があると称してヒュアキントス達は姿を消しており、戦争遊戯に備えて準備をしていたと勝手に思い込んでいたアポロンは、今回の襲撃を知って激震。急ぎヒュアキントス達を止めるようダフネ達に通達したという。

 

 神は恩恵で結ばれた眷族の存在を把握できる。その特性を利用し、ガネーシャやアストレアの眷族達よりも早く事態の収拾に努めたかったが……結果はご覧の有り様。

 

 眷族同士が斬り合う惨劇を知った太陽神は、現在ギルドのペナルティに従い、本拠地で謹慎処分を受けている最中だと言う。

 

 と、まぁ色々と語ってきたが、正直言ってその辺りはどうでも良い。事情はどうあれ、アポロン・ファミリアはヘスティア・ファミリアに刃を向けた。

 

 であれば、なぁなぁで済ませる訳にはいかない。神アポロンには申し訳ないが、戦争遊戯は予定どおり実行するつもりだ。

 

「やっぱり、ここにいたか」

 

 辺りはすっかり暗くなり、人気も少なくなった時間帯。ベジットがやって来たのは襲撃のあった教会だった。

 

 襲撃に使用した魔剣の所為か、曾て存在していた教会は影も形もなく崩壊し、惨い破壊の痕だけが残されている。

 

 そんな教会だった残骸の前に佇むのは黒いドレス……ではなく、街の人間と遜色のない衣服に身を包んだアルフィアがそこにいた。

 

 ザルドとダンジョンに向かい、戦争遊戯での祝勝会で使おうと、貴重な食材を取りに向かったヘスティア・ファミリアの隠し戦力。

 

 ダンジョンから戻り、事情を知った二人………特にザルドは、公衆の面前でありながらアルフィアに土下座をかまし、ちょっとした騒ぎになりかけたのはここだけの話。

 

 しかし、そんな怯えた様子のザルドに対してアルフィアは特に何も行動を起こすことはせず、寧ろ本拠地に戻っても表面上は平静を取り繕っていた。

 

 そして、今彼女は崩壊した教会に無言で佇んでいる。

 

「ベジットか」

 

「アルフィア、予定どおりアポロン・ファミリアとの戦争遊戯は組むことになる。で、肝心な出場するメンバーだが……」

 

「分かっている。私は出ないさ」

 

 それは、普段のアルフィアからは想像出来ない程の声音で、憔悴した顔で、強がりの微笑みだった。

 

 自分の命より大事な甥っ子が狙われ、自分の命より大事だった妹との居場所が破壊され、誰よりも怒り狂う筈の女が、諦めた表情を浮かべて教会だったそれを見上げていた。

 

「……アルフィア」

 

「良いんだ。元より、私は本来死んでいた身。こうして生きているだけで奇跡であるし、義息子(ベル)の成長を間近で見守れる。そう、既に私は何物にも勝る幸福を得ているのだ」

 

 それに、と一呼吸だけ間をおいて……。

 

「何より、私は一度オラリオの全てを破壊しようとした。であれば、この程度の報いは甘んじて受け入れるべきだろうよ」

 

 声は相変わらず静かで、いっそ透き通る程ではあるが……天下無敵であるベジットの耳がそれは強がりであると理解してしまう。

 

 胸の中にある激情を必死に抑え、誰にも悟らせまいとしているその姿は……いっそ、痛々しくすらあった。

 

 だが、ベジット(■■■■)はそれを指摘しない。それはアルフィアの胸中を暴くだけでなく、彼女の想いすら踏みにじってしまう気がして。

 

 だから、ベジットが言えることは一つだけ。

 

「………すまん」

 

「何を謝る。今回の件にお前の非は見当たらない。見当違いな謝罪は不要だぞ」

 

「あぁ、そうだな」

 

 ベジットの謝罪にアルフィアは眉を吊り上げる。微かに見せた彼女の不機嫌さにそれ以上何かを言うわけでなく、ベジットはアルフィアに背を向けて暗闇の中に消えていく。

 

「本当に、余計な世話をする男だ」

 

 こんな女に拘る必要などないのに、あの団長は何時だって、余計な世話を焼いてくる。

 

 でも、今だけはその優しさが辛かった。

 

「………メーテリア」

 

 唯一残された妹との思い出の場所。静かで、穏やかで、確かにあった黄金の日々。

 

 壊された。破壊された。踏みにじられた。悔しさと悲しさ、そして溢れ出てくる申し訳なさ。曾てオラリオを破壊しようとした自分には、相応しい罰。

 

 悔恨の言葉は許されない。懺悔する事も、今の自分には資格がない。

 

 だから。

 

「情けないお姉ちゃんで、ダメなお姉ちゃんで……ごめんなぁ」

 

 こんな、情けなく涙を流す自分を、どうか見ないで欲しい。

 

 誰もいない廃棄区画。人気のない場所で、魔女は一人涙を流す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、オラリオの中心地。摩天楼(バベル)の30階層より上。

 

 神々が集う議会の場、その中心にて太陽神アポロンは俯きながらその時が来るのを待っていた。

 

 他の神々も同様。腕を組んだり、頬杖を付いたりして姿勢こそはそれぞれ異なるが、神の誰一人言葉を発する事なく、ただその時が来るのを待った。

 

 扉が開かれる。最後の神の登場に全員の視線がそこに向けられる。唯一アポロンは弁明の言葉を口にしようと立ち上がり、釈明の言葉を口にしようとするが……。

 

「ッ!」

 

 押し黙る。今まで考えてきた幾つもの言い訳を口に出そうとしたが、扉の向こうから顕れる女神に言葉を失い、青ざめながら椅子に崩れ落ちる。

 

 その女神は、普段は外さない髪飾りを本拠地に置いてきて、髪を下ろしてきた。特筆するべき点は、ただそれだけ。

 

 だが、その時点で殆どの神々は察した。武神タケミカヅチはそれはそうだと肩を竦め、美神フレイヤも納得したように溜め息を吐いている。

 

 悪神ロキもそれはそうだと天を仰ぎ、神友のヘファイストスは静かに頷き、その女神を知る神々の多くは額から汗を流していた。

 

 その女神は神威を解放している訳ではなく、ただ髪を下ろしただけ。だが、纏う雰囲気が明らかに普段とかけ離れている。

 

 【ウェスタ】

 

 《燃え続ける聖火》と呼ばれ、天界では大神にすら一目置かれる天上の炎。

 

 

「さぁ、決めようかアポロン」

 

「僕達の戦争を」

 

 女神ヘスティア。その瞳の奥には燦々と怒りの炎が瞬いていた。

 

 

 

 





次回まで、次回までお待ちください!
次回まで待てば、戦争遊戯が始まる筈です!(パラガス)


Q.なんか、アルフィア大人しくない?

A.最初は勿論、アポロン・ファミリアを鏖殺する予定でしたが、曾ての自分も似たような事をしたと思い出し、絶賛自己嫌悪中。
もうベジットには涙を見せたくないと、彼が立ち去るまで我慢しましたが、気を完全に消していたベジットに気付く事なく、再び啜り泣く様を見せてしまった。

ベジット? 普通にメチャオコです。

Q.ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリア、初動遅くね?

A.先ずは巻き込まれないよう市民の避難誘導を行っておりました。
あと数秒到着が遅かったら、ガチの血の雨が降っていたかも?

Q.今回の一番の被害者は?

A.ダフネちゃん達です。



オマケ。

 “関係のないとある生意気冒険者(予備軍)の独白”



 俺は天才なんやって。

 皆言っとる。次の団長は俺やって。

 
 ヘスティア・ファミリアには万年Lv.1がおるんやって。

 団長の癖に何年も昇格(ランクアップ)せぇへんやって。

 どんなショボくれた人なんやろ。どんな惨めな顔をしとるんやろ!





 その日、その男とすれ違った少年は、幼いながらも男の深淵を垣間見た。

 この日から、ヘスティア・ファミリアに対する熱心なファンが誕生し、性格がドブカスな冒険者が男………ベジットの熱烈なファンとなるのは、また別のお話。


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