時が流れるのは早い。
そんな訳で初投稿です。
その女神を軽んじる様になったのは、一体いつからだったか。
天界にいた頃からグータラで、
下界に降り、オラリオで生活する様になって多少活発的になったとはいえ、下界に立つ彼女は一介の少女。
武神の様な強さもなく、鍛冶神の様な技術もない。美神の様に神々すら魅了する術もなければ、悪神の様に権謀術数に優れた訳でもなく、狩りの女神の様に秀でた長所もない。
炉も火も併せ持つことのない女神は、正しく全知零能。後からオラリオにやって来た神々から見ても、ただ自分達よりも早くいただけの……ただの小娘にしか過ぎなかった。
目立った実績もなく、大した功績もない。偶々捕まえた眷族が強かっただけの……ただの小娘。そう、思っていたのに。
神威なんて発していない。なのにその女神に新参者の神々は野次はおろか、言葉すら発せず直視出来なかった。
「時間も惜しい。早々に演目の方から決めようか」
用意された当事者同士の椅子。ヘスティアはそれに座り今回の騒動の渦中の一柱であるアポロンへ視線を向ける。
ビクリと太陽神の肩が震える。まるで母に叱られる子供のように小さくなる神を……友神として、今回の議会の司会進行役として選ばれたヘルメスが助け船として声を掛ける。
「な、なぁヘスティア。先ずはアポロンの話を聞いてやってくれないか? 今回の件、色々とキナ臭いみたいだし……」
「ヘルメス、体の方は良いのかい?」
間に入ってきたヘルメスを拒絶することはなく、けれど視線と顔は向けていない。目の前の
「あ、あぁ。ディアンケヒトの所のアミッドちゃんのお陰でどうにかね。それで、今回の
「中止はしない。予定どおり実行する」
中止、或いは諸々が片付くまで延期に……と、そんな妥協案を口にする前にヘルメスの提案はヘスティアの鶴の一声でピシャリと遮られる。
「で、でもさヘスティア。今彼の眷族は半分近くがガネーシャの所の檻の中だ。様子も可笑しいと聞くし、今はあまり事を荒立てない方が……」
「ヘルメス」
二度目の遮り、けれど慣れない。
当たり前だ。普段の彼女は滅多な事で怒りはしないし、その怒りも精々子供みたいにプンスカとなる程度。けれど、今のヘスティアにはそんな戯れがまるでない。
大神にすら通じ得る威を、確かに持ち合わせていた。
「僕はね、戦争のルールを決めに来たんだ。誤魔化す為でも、命乞いの言葉を聞きに来たんじゃない。戦争遊戯を受け入れ、それでも彼の
「いや、だからそれは……」
「ガネーシャには話を通している。当日、囚われている眷族達は全員開放させ、戦争遊戯に参加させると」
ザワッ。今まで沈黙を保っていた神々が、途端に騒ぎ出す。
「ギルドにも……正確にはウラノスに、だが。彼にも話は通してある。今回【
「な、なんで……?」
「僕じゃない。ベジット君の提案さ」
ベジット。ヘスティア・ファミリアの最初の眷族であり、万年Lv.1の下級冒険者。何故ここでその冒険者が出てくるのかと新参者の神々は困惑し、彼の性分を知る神々は納得するように呆れ、そして頷いていた。
「彼はね、今回の襲撃の件に関して最大限の温情を与えると言っていたよ。襲撃も、その前から続く執拗な抗議も、彼は全てを赦すと言った」
その口振りは傲慢の極み。Lv.1の下級冒険者が口にするには分不相応な発言。
挑発だ。それが分かっているから先程までおどおどしていたアポロンは憤慨し、他の神々も調子に乗るなとイキリ立つ。嗤っていられるのは、全てを理解した
「但し、今回の戦争遊戯。誰一人逃げることは赦さないと彼は言った。改めて問おうかアポロン、君は僕達ヘスティア・ファミリアと戦争遊戯を行う事を……」
「当然だ!! 受けて立つ!!」
怒鳴り、喚き立てる太陽神。顔を真っ赤にして指を突き付けてくる彼をヘスティアはただ静かに見据えていた。
賽は投げられた。神々すら覆せなくなった盤上にて、勝鬨を挙げるのは果たしてどちらの陣営か。
「まぁ、端っから決まっとるけどな」
合掌。
◇
「───と、まぁ大体こんな流れで戦争遊戯自体は開催される事にはなるだろうな」
「暴走した眷族達の釈放とギルドの恩赦、その条件が戦争遊戯への強制参加とはな」
「面倒くせぇな。素直にケジメは俺達の手で付けさせるって言えばいいだろうに」
ヘスティア・ファミリアの本拠地【竈火の館】。戦争遊戯に備え、準備期間に入った処女神の眷族達はそれぞれの役割の打ち合わせの為にアルフィアを除き、食堂に集まっていた。
アルフィアは現在自室にこもっている。誰も呼びはしない。今回の件で自分の弱さを露呈してしまった彼女にベジットは声を掛けず、そんなベジットの様子を見て、察したベート達も接触を控えていた。
掛けられる言葉なんて見付からない。ベジット達が出来るのは事が片付くまでにアルフィアが立ち直るのを信じて待つことだけだ。
「……ごめんなさい」
皆が言葉を詰まらせていると、ベルが口を開く。
「僕が、僕が弱い所為で神様を、お義母さんを傷付けました。ごめんなさい」
「ベルさん……」
頭を下げ、謝罪の言葉を繰り返すベルだが、リリルカは内心今回の件でベルを見直していた。
多勢に無勢の状況で主神を第一に考え、身を呈して護る献身さ。リリルカ・アーデにとって当然の事だが、それを入団して3ヶ月にも満たない新人に求める程、リリルカは狂ってはいない。
自分に出来る事を最大限の力でやり遂げた。同じLv.2だった頃の自分でも難しい局面を乗り越えて見せたベルを罵倒する程、リリルカは傲慢ではない。
だが、自分の未熟さで主神に負担を強いらせ、嘗て本拠地だった居場所も破壊され、結果仲間の一人を深く悲しませたのも事実。
その事を誰よりも悔いているベルだからこそ、リリルカ・アーデには何も言えなかった。
そして、そんなベルに言葉をぶつけられるのは……。
「おいベル、ここは派閥の本拠地だ。テメェの懺悔を聞く場所じゃねぇ」
「ベートさん……」
誰よりも、失ったモノに理解のあるベートしかいなかった。
「テメェが弱ェから主神が狙われた。テメェが弱ェから居場所が奪われた。そんな
「ち、誓うって……神様に、ですか?」
「
「ッ!」
弱い自分が嫌だ。弱いままの自分が嫌だ。ならば今ここで誓えとベートは言う。
神にも、義母にも、仲間にでもなく、自分自身の魂に。そう言って睨み付けるベートにベルは一瞬息を呑み。
「はい。強くなります」
遥か高みに立つ灰狼を真っ直ぐ見据えて言い返した。迷いのない、純粋な冒険者としての顔になったベルにベートは気付かれないようにほくそ笑む。
「ハッ、口だけならどうとでも言える。中庭に来い、その性根を叩き潰してやる」
「はい! よろしくお願いします!」
席を立ち、食堂から出てて行くベートをベルが付いていく。
(フォローガ)
(フォローガさん……)
(もうベート・フォローガさんで良いだろ)
そんな二人を見送り、残された三人の空気も緩んでいく。この分ならベルは大丈夫だなと、安心したベジットも席から立ち上がる。
「んじゃ、俺はヘスティアの迎えに行ってくるよ」
ヘスティアのいる
ましてや団長であるベジットならば、例えガネーシャ・ファミリアやアストレア・ファミリアの精鋭が相手でも気取られる心配は無いだろう。
まぁ、流石に武神や武に通じる神であれば気付かれるだろうが、ベジットに悪意や敵意が無いと気付けば放置するだろうし……。
「晩飯までには帰ってくるから、飯の用意よろしくな」
「ハイよ。キチンと俺達の主神を連れてこい」
遠回しにザルドへ留守を頼み、玄関の扉を開る。
「っと」
「ん?」
微かな手応え。扉を開いた先で軽くぶつかる感覚にベジットの視線がそちらに向く。そこに佇むのは赤毛の鍛冶師、ベルにとって現在唯一と言って良いパーティーメンバー。
「お前は、ヘファイストス様の所の……」
「アンタか。丁度良い、アンタに頼みがある」
酷く慌てた様子の彼、その背に大量の魔剣を背負い。
「頼む、俺を……ヘスティア・ファミリアに入れてくれ!!」
土下座をしそうな勢いで、深々と頭を下げてくるヴェルフ・クロッゾに……ベジットは珍しく目を丸くさせた。
◇
それから1週間後、オラリオの街は何時にも増して喧騒に包まれていた。
戦争遊戯はオラリオに住まう神々にとって最大の娯楽というだけでなく、人類にとっても一種のお祭りであった。どちらの派閥が勝つか賭ける冒険者、普段見られない冒険者達の本気の戦い。
神々が唯一赦された権能、戦争遊戯の様子を写し出す“鏡”によって、戦争遊戯の状況をリアルタイムで閲覧できる。そろそろ始まるオラリオ最大の催しを前に、既に街の人々は騒がしく活発的になっていた。
ロキ・ファミリア本拠地【黄昏の館】
「いやー、久し振りに見るね。ヘスティア・ファミリアの戦争遊戯」
「ソーマ・ファミリアとの一件以来だからのう。実質、あの派閥にとって二度目の公式戦じゃな」
数あるオラリオに存在する派閥の中でも“最優派閥”の異名を持つロキ・ファミリア。彼等が本拠地としている【黄昏の館】、その執務室にて幹部達が揃い踏みでその時が来るのを待っていた。
「でも、随分と相手有利な条件になったわね。ヘスティア・ファミリアの実力を疑う訳じゃないけど、どうしてヘスティア様はここまで譲歩したのかしら」
数年間鍛え続け、若くして最優派閥の幹部となったアマゾネス姉妹の片割れであるティオネ・ヒリュテ。彼女の手にある写しの羊皮紙には幾つもの項目が書かれていた。
“一つ、ヘスティア・ファミリアは己の眷族のみの参加とする。外部からの協力は一切認めず、戦争遊戯が終了するまでこれを徹底する事。”
“二つ、戦争遊戯に於けるベート・ローガ、並びにリリルカ・アーデの二名はアポロン・ファミリアの幹部並びに団長ヒュアキントスへの攻撃は禁ずるものとする。”
“三つ、ヘスティア・ファミリアのベル・クラネルが戦闘不能となった時点でアポロン・ファミリア側の勝利となる。”
“四つ、戦争遊戯終了までアポロン・ファミリアが一人でも意識が保ち、且つ戦闘状態が可能な時、戦力差の有無に関わらずヘスティア・ファミリアの敗北とする。”
「何というかこれは……」
「酷い。色々と」
「ホントよ、これならいっそ
書かれていた項目を流し読むと、ティオナとアイズが露骨に顔を渋くさせる。ティオネは苛立ちを通り越して呆れ果て、下らないと吐き捨てる始末。
「しゃーないやろ。アポロンの阿呆が調子にノリ巻くって、これでもかと条件を押し付けてきおったんやから」
「それ、ヘスティア様はなにも言わなかったの?」
こんなふざけた条件を突き付けられ、普通なら怒り狂うのが正常な反応と言うものだ。しかし、話を振られたロキ・ファミリアの主神は呆れた様子で肩を竦め。
「ドチビの奴、『それで君が僕達に勝てると言うのなら受け入れよう』やと。全く、ドチビの癖に大物ぶりよってからに」
ケッと、面白く無いと吐き捨てるロキ。どれだけ相手側に有利な条件となっても、それを打ち砕けるという自負と自信。
自分の眷族に対する絶対的な自信の表れなのだろうが、それでも悪神ロキ的には面白くないのだろう。
「まぁ、おかげさんで今回もウチの懐は良い感じに潤いそうやさかい。ここは勘弁したる」
「なんだいロキ、また賭け事を開いていたのかい?」
嘗て、ソーマ・ファミリアとの戦争遊戯が開催される際、誰よりも荒稼ぎをしたとされるロキ。呆れるように苦笑いを浮かべているフィンにロキはケラケラと笑みを溢していた。
「そーやー。新参者の雑魚派閥にはドチビの所の情報は全カット、精々ベジット達の参加人数とレベルを公表している程度。おかげさんでソーマ・ファミリア時ほどではないけど、中々に稼げそうや」
「ロキ、その事でモルドさんから苦情来てたッスよ。罪悪感がヤバイから、次からはもうこんな賭け事には参加させないでくれって」
「モルドって、オグマ・ファミリアのLv.4だよね? ロキー、あんまり他所様の冒険者を巻き込むの止めなー?」
「なに言うとんねん。オグマも前回の戦争遊戯で儲かった連中の一人や。ウチがしたのは今回の賭けで如何にアポロン・ファミリアに有利か、簡単に説明してもらっただけやで」
ラウルやティオナからの指摘もなんのその、全く堪えた様子のない自分達の主神に眷族達は深い溜め息を吐く。
彼等はヘスティア・ファミリアの実力を知っている。だが、レフィーヤだけは何故そこまでヘスティア・ファミリアの勝利に確信を持てるのか、不思議で仕方がなかった。
ヘスティア・ファミリアにはLv.7とLv.6というオラリオの中でも指折りの実力者が所属していることは知っている。二人とも有名な冒険者で、Lv.6のリリルカ・アーデに至っては自分が尊敬し、敬愛しているアイズ・ウァレンシュタインと比肩し、自分達の団長であるフィン・ディムナが認める程の槍の名手だという。
確かに彼女だけでもヘスティア・ファミリアの勝利は揺るがないが、アポロン・ファミリアが課した制約の所為で、その勝ちの目は潰えている。
ヘスティア・ファミリアがアポロン・ファミリアに勝つには、アポロン・ファミリアの眷族を全員打ち倒し、且つベジットかベル・クラネルが格上のヒュアキントスに勝利を収めるしかない。
なのに、何故誰もその事を気にしていないのか、レフィーヤには少し……否、大分理解できない話だった。
そんな納得できていないレフィーヤの様子に気付いたリヴェリアが声を掛ける。
「納得出来ないか? レフィーヤ」
「り、リヴェリア様!? い、いえ、そんな……」
「別に否定しなくて良い。お前のその疑問はオラリオに住まう者であれば誰であれ抱くモノだからな」
「それは……はい」
自分の疑問に同調してくれるリヴェリアにレフィーヤは少しずつ自分の気持ちを吐露する。何故、ヘスティア・ファミリアはこんな不利な条件を突き付けられても平然としているのか。
(気という新たな力の概念を広めた功労者だから? でも、それにしたって……)
「レフィーヤ、よく見ておけ」
「え?」
「お前だけじゃない。ベジットの実力を疑問に思う全ての人間、神々はこの戦争遊戯が終わる頃に思い知る。ベジットという存在を」
意味ありげに、けれど何処か期待しているようにレフィーヤを見る。真っ直ぐ自分を見つめてくるエルフの王族に、レフィーヤは戸惑いながらも、その時が来るのを待っていた。
◇
『さぁ! いよいよこの日が来た【
『俺が、ガネーシャだぁぁぁっ!!』
『ガネーシャ様まだ早いって!!』
染み渡るような青空に、実況者と
騒々しいが、決して不快にはならない。ただ喧しく感じるだけでなく、人に元気を与えてくれる。群衆の主と謂われるだけあって、神ガネーシャの声援はそれだけで公平に声援となっているのだろう。
『先ずはアポロン・ファミリアからの紹介だぁっ! 派閥に属する眷族の数は百人超え! 彼等の長たるヒュアキントス・クリオは【
『他にもLv.2を数多く抱え、戦力規模は中堅の中でも上位! 数を揃えた太陽神の眷族達が圧倒的戦力差で相手を蹂躙するのかぁ!?』
蹂躙。その言葉を聞いてベートとリリルカが鼻で嗤っている。こら、イメージ悪いから止めなさい。
『そして対するはぁ! 眷族の人数は僅か四名。先日加入した新たな人材を含めればたった五人! しかし侮る事無かれ、その内二名はどちらも一騎当千! 【
「こういう紹介って、毎回やるんですかね?」
「ウザッてぇ、とっとと始めて終わらせろや」
神の権能を使って、此方の様子は向こうに映し出されるようになっているらしいが、向こうからの声は殆ど聞こえない。唯一実況側の声は騒がしく聞こえてくるが、戦争遊戯が始まればそれもカットされるだろう。
『二人の実力はLv.7とLv.6とこのオラリオの中でも上澄み! しかし今回用意された条件の中には二人の動きを完全に封殺されてしまう! この限られた状況の中、ヘスティア・ファミリアはどう勝利を掴みとるのか!』
「さて、実況が盛り上がっている間に最後の確認だが……ヴェルフ君、本当に良いんだね?」
戦争遊戯が実況の熱演で盛り上りを見せる中、ベジットは新たにヘスティア・ファミリアに入団した仲間に向き直る。
「あぁ、ヘファイストス様には許可を得た。俺はアンタ等の……ベルの助けになりてぇ。足手まといと思ったらすぐに切り捨てて構わねぇから、どうか……一緒に戦わせて欲しい」
ヴェルフ・クロッゾ。本来であればヘファイストス・ファミリアの眷族である赤髪の鍛冶師は、友であるパーティーメンバーの為に主神であるヘファイストスに直談判をし、ヘスティア・ファミリアに
その背中には苦手意識……というより、一種の拒絶の意思すらあった魔剣を幾つも鋳造し、その内の一振を全員に渡す程の用意周到ぶりを見せつけた。
自分に出来ることはこれしかない。そういってクロッゾの魔剣を惜しみ無く譲り渡すヴェルフに、ベジットは彼の中の強い信念と覚悟を見た。
同じくヴェルフの覚悟を目の当たりにしたベート達も同様に感心し………何とも言えない顔になった。
「ありがとうヴェルフ、僕嬉しいよ!」
「喜ぶにはまだ早ェ、戦いはまだ始まってもいないからな。そうだろ?」
「え? あ、うん……」
「そう、ですね。はい。ヴェルフさんの言う通りかと……」
「………」
何とも言えない。ヴェルフという新入りの言うことは何一つ間違っていないのに、諸々の事情を知るベジット達は折角の士気の高さに水を差す訳にもいかず、苦笑いを浮かべて誤魔化すしかなかった。
『さぁ、それではいよいよ戦争遊戯の開始が迫ります! 今回の演目は《攻城戦》! 色々と既視感のある戦いが、今切って落とされます! 勝てば全てを獲られ、負ければ全てを失う派閥同士の最大抗争!』
『いざっ開幕!!』
そうして、遂に
眼前の大きな砦から聞こえてくるアポロン・ファミリアの怒号、岩山に囲まれて難攻不落の要塞と化している巌の城壁から聞こえてくる太陽神の眷族達にベルとヴェルフは息を呑む。
今から彼等の全員と戦い、その全てを倒さなければならない。自分だけであれば絶対に勝てない人数の差。
先輩達を疑っている訳ではない。ベートもリリルカも、ベルにとって見れば偉大な先達の一人、きっとこの二人だけでも充分勝てるのだろう。
けど、そんな確実に勝てる二人を自分が脚を引っ張ってしまっている。悔しさと申し訳なさで泣きそうになる。
そして、ベルにとって何が一番不安かって、強い二人がいても自分の所為で負けてしまうのがあり得てしまう事。
緊張と不安、初めて公の場で戦うことになる事態に、ベルの体は硬直してしまう。
ベルだけではない、圧倒的数の暴力を前にヴェルフもまた脚が竦んでいた。恐怖と不安が二人の胸中を埋め尽くしてしまう。
そんな時だ。
「そんじゃ、俺から行くとしますかね」
いつもと変わらない声音、アポロン・ファミリアという数の暴力を前に、ヘスティア・ファミリアの団長は特に気にした様子もなく、自分達の前を歩いていく。
まるで、自分達の不安を払拭するように先陣を往く団長にベルは咄嗟に後を追おうとして……。
「止まれベル。新入りも、一先ずはここで見とけ」
副団長に止められる。
「え、で、でもベートさん!」
「い、いいのかよ、団長の奴一人で!」
「良いんですよ」
一人では危ないと、ベルもヴェルフも抗議の声を挙げるが、それをリリルカが微笑んで止める。
何故、団長一人で向かわせるのか。混乱する二人を宥めるように灰の狼は口を開く。
「テメェ等、よく見ておけ。世間では雑魚と呼ばれるLv.1がどうして俺達の団長をやっているのか」
「その真の意味を、お二人は知ることになります」
二人が何を言っているのか、よく分からなかった。
けど、予感がした。遥か巨大な砦の前で佇むベジットを見て、これから起きるその出来事に、ベルの胸は自然と高鳴り……。
いつの間にか、恐怖や不安は薄れていった。
◇
『いいかいベジット君、“3”はダメだからね』
『うぇぇ!? どうしてだよヘスティア!?』
『当たり前だろうが。戦争遊戯だぞ?』
『ベジット様があのお姿になられたら、それだけで相手は白旗上げそうですからね』
ここに来る直前、主神から課せられた内容にベジットは笑みを浮かべる。
好き放題言い、ちゃんと自分達にも出番を寄越せと訴えてくる仲間達。その代わりに得られた最初の一刺しの権利。
気合いを入れていこう。後輩も増え、賑やかになった自分達のファミリア。その日常と冒険の日々を守る為、閉ざしていた眼を開いてベジットは確りと前を見据える。
目の前に聳え立つ巨大な城門。生半可な魔法や魔剣では傷一つつけられないであろう城塞を前に、ベジットは静かに息を吐く。
「すーはー……さて、いっちょやりますか」
全身に力を込める。手を強く握り締め、力の解放を促していく。
徐々に強くなっていく力、それに呼応するように大地は揺れ始め、周囲の岩山に振動は伝わり、崩壊していく。
砦内部のアポロン・ファミリアの眷族達が混乱と困惑の声を上げる中……。
「ハァッ!」
それは顕現する。
超サイヤ人。全身に黄金の炎を纏い、金髪碧眼となるベジット。
その威容にベルとヴェルフは腰を抜かした。その迫力に、その圧倒的な存在感に言葉を失い、その場に座り込んでしまう。
“神の鏡”を通して初めて目にした者達も、同様に驚愕、愕然、唖然と言葉を失っていた。
ロキ・ファミリアのレフィーヤも、アストレア・ファミリアの新入り達も、ベジットの強さを知らぬ神々や冒険者達も、その威容に眼を向き、押し黙る。
摩天楼に座するアポロンも同様に、席から立ち上がり眼を大きく見開いている。
処女神は呟いた。戦争遊戯の開始を報せる、皆の度肝を抜かす号砲の合図を。
「───やっちゃえ、ベジット君」
加減はして欲しいが、容赦はするな。仲間を、家族を傷付けられて、怒っているヘスティアは同じ気持ちであるベジットに届くように祈りながら……そんな言葉を口にする。
そして、そんな人々の感情をブッチギリながら、ベジットは構えを見せた。
両手を前へと突きだし……。
「かぁ……」
その両手を、腰へと持っていく。印を結ぶように、力を溜めるように。
「めぇ……」
軈て、溜めた力が光となって、ベジットの両手に顕れる。崩れた岩山が瓦礫となって浮かび上がり、力の干渉を受けて弾けていく。
「はぁ……」
渦巻く。圧縮され、凝縮され、光は確かな熱量となり。
「めぇ……」
臨界。膨大なるエネルギーと力の結晶が光となって世界を照らし。
そして
「波ァァァァァッ!!!」
放たれる。極限まで圧縮されたそれは、ベジットの気合いと共に放たれる。
当てはしない。
しかし放たれた極光の余波で城門は蒸発し、城壁は吹き飛び、砦は既に砦としての機能は廃止された。遥か空の彼方まで伸びた光の奔流は惑星の重力をも振り切って、宇宙の彼方まで吹き飛んでいく。
次にアポロン・ファミリアの面々が目にしたのは、息苦しく重厚な砦の城壁ではなく、解放感に満ちた青空だった。
「さて、そんじゃあ始めるとしますか」
そんな彼等を、黄金の戦士は瓦礫となった城壁から見下ろしている。
そんなベジットを見て、ヘスティアは笑みを浮かべて口にする。
「僕らの戦争遊戯は、まだ始まったばかりだ」
Q.アポロン・ファミリア、注文付けすぎじゃね?
A.アポロンならやるという凄みがある!
Q.今回の攻城戦の舞台は、ソーマ戦と同じ?
A.場所は違います。前回の舞台も一応修復は済んでおりますが、ロイマンが嫌な予感がした為場所を変更。
Q.今回、ロキ様はどんな賭けを?
A.何も知らない派閥の神々に色々と教えて上げました(笑)
他にも何分で戦争遊戯が終了するかを賭けたり、色々と細分化して改めて賭けたりしてます。
モルド君は前回も大いに稼がせて貰った人間なので、今回は賭けには参加しないつもりでいた。
「モ・ル・ドきゅ~ん! ちょっとええ話があるんやけど……聞いてけ」
「ヒィッ! 選択肢があるように見えて実質一択な奴だこれ!?」
「ええからええから、ちょっとウチの話に乗っかってくれるだけでええから」
「ひ、人の心とか無いんですかぁ!?」
「神やからな」
後日、フィンはモルドのもとへ菓子折り持って頭を下げに来たという。