モジュロ、終わっちゃったね。
寂しいね。
そんな訳で初投稿です。
「何なのだ、これは……」
神々が一同に会して座し、戦争遊戯の行く末を見守る場にて、太陽の神アポロンは嘆くような顔でその光景を眺めていた。
自身が愛し、今日まで共にあった自身の眷族達。何時かは第一級の冒険者にのしあがり、オラリオにて一大派閥を築こうと共に誓い合った(?)太陽神アポロンの自慢の眷族達。
そんな、自身の子とも呼べる眷族達が……地獄に喘いでいた。
どれだけ許しを得ようと泣き喚き、縋ろうとも、一切の慈悲も容赦なく屠られていく眷族達。必死に逃げ惑い、荒れ狂う暴力の嵐から抜け出した先で、灰狼の一撃が彼等の意識を一方的に狩っていく。
抵抗らしい抵抗も出来ず、ただ蹂躙されていく愛しい眷族達。愛の多いアポロンにとって、自ら注いだ愛が目の前で引き裂かれる想いだろう。
いやそもそも、この戦いは始めからどこか間違っていたかもしれない。
いつだ。どこで、私は間違えた? 混乱する頭で思考を巡らせている内に、アポロンは一つの答えに行き着く。
ベジット。そう、全てはLv.1の身でありながら第一級冒険者を従えているという、奇抜な冒険者の存在から始まった。
奴に纏わる幾つもの逸話。その悉くが眉唾物で、その全てがアポロンにとって
少しでも追求すれば分かる筈なのに、何故か冷静になれなかった。自分の心を射止めた
折角知り合いから譲り受けた
夢見心地から現実に引き戻されるような、悪夢的感覚。しかし、目の前の地獄を止める術はアポロンにはない。
(私が、私が間違っていた。関わるべきではなかった。ベジットという冒険者に、ヘスティア・ファミリアに!)
Lv.1の冒険者であるベジットが金髪碧眼になり、黄金の炎を纏ってから、この場にいる一部の神々は降って湧いたように盛り上がりを見せている。
久し振りに本気になったと、ベジットを見て目を輝かせている神々。自分より古くからオラリオに在住し、ヘスティア・ファミリアの活躍を目の当たりにしてきた古株達。
連中を見て、この景色を知っていたのだなと、アポロンは恨めしく睨み付ける。が、過去には頭を抱えたヘルメスを筆頭に幾つもの神々がアポロンに事前に止めておけと冷静に止めていた事もあり、強くは言い返せない。
分かっている。全ては熱に浮かされた自分の責任だ。今の自分に出来ることは、逃げることを許されない眷族達の無事を祈ることのみ。
そんなアポロンを一瞥する一方、ヘスティアは戦争遊戯が始まる直前でベジットと交わした会話を思い出す。
『取り憑かれてる?』
『あぁ、アポロン・ファミリアの団長を筆頭に襲ってきた連中、多分全員面倒な力に呑まれていると見て間違いないだろう』
『それ、もしかして例の“黒い気”の事?』
あの時、自分とベルを襲い、執拗に狙ってきたアポロンの
普段から自身の眷族の成長を間近で見続け、ある意味でオラリオのどの神よりも“気”というものを直視していたのが、ヘスティアという女神である。
武神タケミカヅチの様な武に携わる神でなくとも、多少の変化はヘスティアも見てとれる。そんな彼女をして、あの時のヒュアキントス達の様子は何処か異常に見えた。
アポロンは天界にいた頃から何かとしつこく、一時は自分も手に入れようとあの手この手で近付いてきたが、それでも一度互いの間に取り決めた合意はたとえ何があっても反故にはしない義理堅さがあった。
戦争遊戯を受け入れると約束した後も、彼自身は自分達に干渉してくる事はなかった。それは単に此方を下に見ているというだけでなく、彼が約束事を守る誠実な男神であることの裏返し。
そんな彼の眷族が主神の想いを踏みにじる蛮行を許すとは思わないし、況してや実行するだなんて思わなかった。【
そんな眷族が主神の想いを踏みにじる行為をするなんて、原因は現状で一つしか考えられない。
『魅了……』
それは、下界において美の女神にのみ許された権能。
それは神も神の眷族である冒険者も同様で、魅了を存分に解き放つ女神の前では如何なる強い信念も甘く蕩けさせてしまう猛毒。
地上においても使い方を厳しく律せねばならない───全知零能の美の女神が持つ唯一にして絶対的な力。それが【魅了】である。
自ずと、ヘスティアの脳裏に容疑者が絞り込まれていく。しかし、どの女神も犯人と決め付けるには弱く、同時に信じられない話だった。
唯一可能性として自分達の過去の因縁から、歓楽街を牛耳る女神を連想するが、目の前のベジットは恐らくは違うと否定する。
『多分、下手人は女神じゃねぇ。ただの魅了で彼処まで急激に強化されるなんて事は有り得ない』
『……その心は?』
『そんな力があったら、
身も蓋もない結論にヘスティアは苦笑う。だが、確かに彼が言う通り、美の女神の魅了にそんな力があるとは聞いていない。
『じゃあ、一体誰が……』
『多分、例の赤髪の女テイマー関連だろうな。奴もアイズと戦う際は黒い気を纏っていたと聞く、関連づけるとしたら、そこからだろう』
それは以前、中層の
その後もアストレア・ファミリアが遭遇した時は、想像以上に強くなっており、気配遮断の技術も習得し、その実力はアルフィアが逃がす程と言えば、その成長性は凄まじいの一言に尽きるだろう。
ダンジョンに蠢く第三勢力。今回のヒュアキントス達の暴走が連中との繋がりを持つと言うのなら、その
『どのみち、連中を真っ当な力に目覚めさせるには一度徹底的に叩く必要がある。意識を断ち、その上で俺の《ソウルパニッシャー》で浄化すれば、連中も元に戻るだろうよ』
『そうなんだ。じゃあ、君が出した条件も、彼等の事を案じて、って事かい?』
『まさか。普通にブチのめす意味合いが大半だよ。ウチの大事な女神を襲ったんだ。相応の報いは受けて貰うさ』
あくまでアポロン・ファミリアの眷族に報いを受けさせる為で、浄化云々はついで。そう悪辣に笑いながら吐き捨てるベジットだが、“大事な女神”と言われ、その部分だけをリフレインしているヘスティアの耳には届かない。
「悪いけど、自業自得と言わせて貰うぜアポロン。君は、僕の眷族を怒らせた」
「ヘス……ティアァァァッ!!」
グギギと歯軋りをするアポロンだが、ヘスティアの瞳には男神の姿は映らない。
彼女の視線の先には、幹部相手に無双する自身の最初の眷族の姿だけが映されていた。
◇
「キシャァァァァッ!!」
「うっさい」
「ゲベンッ!?」
黒い気を纏い、理性を失ったアポロン・ファミリアの眷族、その幹部が獣のように爪と牙を立ててベジットに襲い掛かる。
死角から飛び出す彼を、ベジットは見向きもせずに愛剣である“ドラゴンころし”で一蹴。乱雑に振り回す一撃で顔面を強打したその眷族は二の句も継げずに失神。
黒い気を纏うアポロン・ファミリアの眷族達は、その身体能力を大幅に向上させており、その実力は本来であればLv.2相当である筈の彼等を大きく上回っている。
そんな彼等を、ベジットは悉く一蹴。自分だけでは苦戦することは間違いなしな局面を、目の前の団長は容易く打ち砕いて見せた。
「これが、ヘスティア・ファミリアの団長の実力……!」
「僕も、目にするのは初めてかも……!」
自分達の想像を遥かに上回る実力を持つベジット。最初に放った“かめはめ波”なる絶技も、彼に言わせれば威力を最小限に抑えたモノで、その気になれば一瞬でこの戦争遊戯を終わらせる事も出来たと言う。
もう、言葉が出なかった。ただ腕を振るうだけで名のある冒険者達が一蹴される光景にベルとヴェルフは圧倒されていた。
(そりゃあ、普段からあんな風に振る舞える訳だ)
普段から超越然とし、第一級の冒険者達と肩を並べる。ベジットと彼等にあるのは単なる言葉でかさ増しした関係ではない。互いに実力を認めあった間柄だからこそ、ロキ・ファミリアもフレイヤ・ファミリア、名のある派閥は誰も彼もがベジットに一目置いているのだ。
裏で、オラリオに来たばかりの冒険者達はベジットを話術によって成り上がった詐欺師と陰口を叩いていたが、今回の彼の戦いを見て誰もが思い知った事だろう。
ベジットは詐欺師でも無ければペテン師でもない。尋常ならざる実力を持った………強者であると。
傲慢に振る舞わないのは、ベジットが教養と真っ当な倫理観の持ち主だから。そんなベジットの優しさに漬け込み、勘違いをしてしまったのが運の尽き。
今後ベジットを侮り、嘲笑していた連中はマトモにベジットと目を合わせる事も出来ないだろう。
そしてその理屈は、自分にも通じるとヴェルフは歯を食い縛る。
(くそ、このままじゃあ俺、ただのお荷物じゃねぇか!)
先程からベジットは、ベルやヴェルフに危険が及ばないように立ち回っている。押し寄せる敵対者を悉く蹂躙しておきながら、その余波を全く二人に寄せ付けない徹底した“接待”。それが、ヴェルフにより強く焦燥感を与えていた。
「さて、この渡り廊下を渡れば、もうすぐ向こうの団長がいる部屋だな」
幹部達の大多数を叩きのめし、残った連中が立ちはだかる余地があるのは扉の向こうにあるだろう渡り廊下だけ。
さっさと片付けよう。そう言ってベジットが扉を開けた瞬間、大きな魔力のうねりを観測。
「おっ?」
渡り廊下の向こう側で、魔法の詠唱をしていた者達。このままではムザムザ魔法を打たせてしまうなと、ベジットが大剣の柄を握る手に力を込めた瞬間。
「団長、ここは俺が!」
「うん?」
赤髪の鍛冶師、戦争遊戯直前にヘスティア・ファミリアに改宗した期待の新人、ヴェルフ・クロッゾが前に出て。
「【燃え尽きろ、外法の
「【ウィル・オ・ウィスプ】!」
ヴェルフが手を翳し、短文詠唱を唱えた瞬間、魔法を放とうとしていた全員が
世にも珍しい
初めて目にする対魔力魔法にベジットの目が丸くなる。
「へー、魔力暴発を促す魔法か。面白いもんだな」
「まぁ、こう言う場でしか活躍出来ませんがね。さぁ、二人は早く行ってくれ。この場は、俺が受け持った」
そういって身構えるヴェルフの前には、ダメージはあっても戦闘不能には至っていないアポロン・ファミリアの眷族がしぶとく立ち上がろうとしている。
自分がこの場で殿を務めると、これまで何も出来ていない自分を蔑み、進んで自分の役割を徹しようとするヴェルフにベジットはフッと微笑み……ヴェルフの肩に手で触れる。
瞬間、腹の底から溢れ出してくる力に、ヴェルフは目を丸くさせた。
「その状態が続くのは十数分って所か。折角の機会、一丁ここらでお前も一皮脱いでいけ」
「団長………押忍、やらせていただきます!」
ヴェルフの意図を汲んで、この場を任せる事を決めたベジットは彼に気の解放を施し、ベルを連れて先へ往く。
あの場を上手く切り抜けたのなら、ザルドに任せても良いかもしれない。同じ大剣を扱う者同士、仲良くしてくれるだろうと、未来の計算をしながら先へ進む。
そして、二人の前に聳える最後の扉。これ迄のベジットのやり方を見てきたベルは自身の顔を叩き、力を入れ直して身構える。
そんなベルにベジットは笑みを浮かべ、扉を開く。
そこはまるで玉座の間。誰もおらず、側近一人もいない空虚な玉座に、幽鬼の様に佇む一人の男。
「ベル……クラネル。ベル……クラネルゥゥゥッ!!」
瞳孔を開き、口元から涎と瘴気を溢す。全身から黒い焔を漂わせるその男は、太陽神の一の眷族と名乗るには剰りにもどす黒く、また歪みに満ちていた。
完全に呑まれている彼───ヒュアキントスを見て、ベジットは溢す。
「どうやら完全に呑まれているみたいだな。ベル、やれるか?」
「やります」
意外にも、ベルの言葉は即答だった。
ここまでお膳立てされて、ここまで守られて、怖いから嫌だと口にする程、ベルは臆病ではなくなっていた。
(証明しろ。僕がヘスティア・ファミリアの一員である事を。オラリオに、あの人に、何より………自分自身に!)
弱い自分を超えろ。そう誓い、ベル・クラネルは前に出る。
「ヒュアキントスさん。僕が相手です」
「ベルクラネルゥゥゥッ!!」
身構えるベルにヒュアキントスが突貫する。黒い炎を全身から噴出しながら襲い掛かる太陽神の寵児にベルは白い気の炎を纏い、真っ正面から受けて立つのだった。
ベル君の真価が見れると言ったな?
アレは嘘だ。スミマセン。
Q.アポロン・ファミリアの幹部、やられちゃったの?
A.ベジットが雑に終わらせました。幹部連中は七割以上黒い気に汚染されていたため、正気を失っている為、ゾンビみたいに襲ってきます。
そこへ自慢のドラゴンころしでパコーンと返り討ちにしました。
次回こそ、次回こそベル君の活躍を!
オマケ。
杖と剣のウィストリア+1
僕、ウィル・セルフォルトは無能者だ。
魔法が絶対とされ、魔法こそが真理とされているこの世界で、僕は無能者でありながら魔法学園に在籍している。
よく周りからは嘲笑されたり、馬鹿にされたりしているけど……僕は諦めない。“塔”の頂きに待つ彼女に再び出会うと言う約束を果たす為に、僕は絶対に魔法の道を諦めはしない。
そんな僕だけど最近、師匠と呼べる人が出来た。僕と同じ魔法を扱えない身でありながら、一人ダンジョンに挑む人。
ワークナー先生とよく一緒にいて、エドワルド先生によく叱られている人。
ベジットさん。僕の体術の師匠で、この世界に“気”という新たな概念を広めた凄い人。
曰く、極限に鍛え上げられた肉体は魔法と見分けが付かないと豪語し、実際に先代【至高の五杖】相手にやってのけたという逸話を持つ、色々と不思議な人だ。
「師匠!」
「よーウィル、来たな」
そんな凄い人と、今日も僕はダンジョンに向かう。
「そう言えば師匠。師匠は何処から来たんです?」
「んー、空の向こう。って言えば分かるか?」
「空の向こう、ですか?」
「そうそう、目が覚めたらなんか変な所にいてさ。変な化物にしつこく攻撃されたから頭に来ちゃって……つい暴れたのよ」
「あ、暴れたんですか?」
「そしたらなんかでかい声で誰かに出ていけ!って怒られてよー。気付いたら空から落っこちてたって訳」
「そ、そうなんですか……」
「あ、お前疑っただろー?」
「い、いえ! そんな事は!」
やっぱり、ベジットさんは不思議な人だ。
でも、凄く優しくて、暖かい人。
僕も将来、こんな大人になれるかな? そんな未来を夢に見ながら、今日も師匠と一緒にダンジョンへ向かう。
「相変わらず、お主は気ままじゃな。ベジット」