ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今回、人間関係がアレかもしれません。

ご容赦下さい。


物語116

 

 

 

 彼、ベジットと初めて出会ったのは暗黒期の終盤。後の“大抗争”と呼ばれる闇派閥との戦争の真っ只中だった。

 

 当時の彼は自分の力を公に晒すのを恐れ、オラリオに来て2日も経っていない頃という事もあって、私やアイズに対して明確な壁を作って接していた。

 

 当初、私は必要以上に遜るベジットを不快に思わなくとも、距離を図りかねている彼をそれなりに諭し、当時から冒険者として頭角を顕にしているアイズがベジットを気に入り、そんなアイズと仲良くしている彼を私は少なからず好印象が持てた。

 

 そして闇派閥との衝突が激化し、彼の主神である処女神───女神ヘスティアに危害が加えられた事があってから、彼は自らの意思で戦うことを決めた。

 

 【暴食】のザルドを一蹴し、闇派閥とその幹部を単独で撃破。その有り様はまるで英雄譚の始まりを眼にしたみたいで、年甲斐もなく心が昂った。

 

 それから大抗争も彼は大きな戦績を刻み、闇派閥との決着に貢献してくれた。

 

 その後も彼は自身の強さと力をひけらかす事なく、自然体で、ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアにも分け隔てなく接するだけでなく、困っている人の助けとなり、時には一人の少女を救う為だけに一つの派閥と真っ向から対立したりもした。

 

 自身の為に鍛え、他者の為にその力を振るう。碌な見返りもなくとも、彼は笑って他者を救い続けた。

 

 そんなベジットに私は一度だけ訊ねた。お前は何のためにオラリオに来て、何故冒険者となったのか。詰問ではなく、同じ冒険者としての純粋な疑問。

 

 そんな、不躾とも呼べる私の質問に対して──

 

『ワクワクしたいから』

 

 なんて、子供みたいな理由を教えてくれた。

 

 オラリオの地下深くに広がるダンジョン、其処にはどんな未知が広がっていて、其処にはどんな謎とワクワクが待っているのか。

 

 未知を楽しみたい。人によっては恐れ知らずの命知らずと憚れそうな言葉を平然と口にする彼を、気付けば私も笑っていた。

 

 嬉しかった。

 

 彼の夢は、私の夢───世界を見て回りたいという私の願いと、何処と無く似ている気がしたから。

 

 それからも、彼───ヘスティア・ファミリアは我々ロキ・ファミリアと互いの培ってきた技と知識、そして経験を共有、或いは交換し合う仲となり、冒険者としては少々近い距離感の間柄となっていた。

 

 本来であれば、派閥の副長として一言くらい苦言を呈するべきだったのだろう。けれど……出来なかった。

 

 それはベジットもその辺りをある程度弁えているというのもそうだが、彼の作り出す空気は……なんと言うか、うん。悪く思わなかったからだ。

 

 誰かを教え、鍛え、諭し、導く。本人はそんなつもりは無いだろうが、当時強さに飢えていたアイズをそれとなく落ち着かせる様にしてくれたことは今も恩義を感じている。

 

 だから、そんなベジットにいつか恩返しが出来れば良いなと、思っていた。いつか彼が困っている事があれば、それとなく助けられるように。

 

 なのに。

 

 気付けば、彼の隣には彼女がいた。嘗てオラリオに最強を欲しいままにしてきたヘラ・ファミリアの【静寂】。

 

 アルフィア。闇派閥と手を組み、一度はオラリオを滅ぼそうとした彼女が、どういう訳かヘスティア・ファミリアに在籍していた。

 

 私の疑念にベジットは答えた。『二人の存在は黒竜討伐に大きな助けになる』と。

 

 黒竜という終末機構。いつか訪れる世界の終焉に対抗する為、ザルドとアルフィアの生存は必要不可欠だと、彼は言った。

 

 彼の覚悟に言葉を失った。彼の決意に何も言えなかった。黒竜という終末に対抗し、打ち克つ為、取れる選択肢は一つでも多く用意する。そんな、我等が団長と似た覚悟を持ったベジットに、私は何一つ問い質す事が出来なかった。

 

 ……何故だ。

 

 どうして、お前は私に何も言ってくれないんだ。

 

 どうして、お前は私を頼ってくれないんだ。

 

 バレたらオラリオ中から非難されるリスクを何故そうも平気で背負う。

 

 何故、一言でも私に頼ってくれないんだ。

 

 何故、よりにもよってアルフィアなんだ。

 

 何故、私はこうも苛立っているんだ。

 

「あぁ、そうか」

 

 私は、悔しかったんだ。

 

 ベジットの隣で、ベジットに気付かれない所で笑みを浮かべるアルフィア。

 

 まるで乙女のような顔で笑う彼女を前に、私は漸く自分の内に渦巻く感情の名前を知ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 メレン港のとある喫茶店。落ち着きと趣のあるその店で、彼女達ロキ・ファミリアはいた。

 

 店の迷惑にならないよう、人数は最小限。幹部を除いたそれ以外の面々はメレンに蔓延る闇派閥に関する情報を少しでも得ようと、それぞれ各所に散らばっている。

 

 本来であれば時間帯もあってそこそこ客入りもあっても良さそうなのに、店内では閑古鳥が鳴いていた。

 

 何故か?

 

「………」

 

「………」

 

「う、うぅ……」

 

 それは、エルフの王女とその嘗ての宿敵が一つの席で向かい合っているから。

 

 二人の間柄を知る者であれば、この世で最も関わり合いたくない組み合わせの一つだろう。片や現在最強魔導師、もう片方はそんな最強の魔導師を片手間に捻り潰していた規格外の怪物。

 

 もしこの場に双方の団長(ベジットとフィン)がいれば、互いに場を取り持つ責任を押し付け合い、逃走を図っていた事だろう。

 

 そんな、二人の座る席に巻き込まれた本日の哀れな生け贄は誰か。

 

(何で、何で私がこんな目にィィィッ!?)

 

 そうだね、レフィーヤ・ウィリディスだね。

 

 二人の間に置かれるように座らされているレフィーヤ。物理的な重さにさえ思える空気の悪さに既に彼女の心はボドボドだった。

 

 何故、無関係な自分がこんな場の空気に晒されているのか。エルフの王女(リヴェリア)の次期後任だから? それとも同じ魔導師だから?

 

 否、全ては同室の娘(エルフィ・コレット)の言動の所為である。

 

『アルフィアさんって、凄腕の魔導師なんだ! レフィーヤも魔導師だし、何かいい話聞けるかもしれないね!』

 

 なんて、にこやかに話す彼女の顔面にグーパン叩き込まなかった私をどうか褒めて欲しい。何が“誰とでも仲良くなれるエルフィちゃん(はぁと)”だ、人を地雷原にブチ込んでくれた友人を絶対に許さないとレフィーヤは心に誓った。

 

 というか、そもそも自分も魔導師じゃろがい!

 

(せめて、せめてアイズさん達がいてくれれば!)

 

 チラリと、離れた位置のテーブルから尊敬する先輩達(アイズ)達の様子を確認すれば、自分の心労など気にも留めずにこの店の名物料理に舌鼓を打つ彼女達がいた。

 

 レフィーヤはぶちギレそうになった。

 

 え、なにあの人達私をほっぽって料理食べてるの? なにその黒いスパゲッティ? イカスミパスタ? へー、そんなのあるんだ。後で私も食べよ。

 

 じゃ、ねぇんだわ。

 

(なに呑気にご飯食べてるんですかぁッ! そのサムズアップで私が頑張れると本気で思ってるんですか!? あとアイズさん! そんなに口に頬張らないで下さい! ハムスターですか!! 抱き付きますよ!?)

 

 いかん。場の空気の悪さと重さでテンションがおかしくなっている。魔法の師であるリヴェリアが常日頃から口にしている“大樹の精神”を思い出し、心を落ち着かせる。

 

「それで、こんなワザワザ人数を割いて私を囲い込んでどうする? 監視のつもりか?」

 

 静まり返る空気。その中で凛とした鈴のような声音の女性───アルフィアの言葉に深呼吸をしようとしたレフィーヤの息が止まる。

 

 静かすぎる。まるで周囲の空間だけ切り取られたような、違和感とすら感じる彼女の佇まい。

 

 【異常】

 

 未だ未熟なレフィーヤであったが、目の前の女性が自分とは異なる次元に立つ人間である事を、この時点で彼女は理屈ではなく、動物的本能に近い感覚で理解した。

 

 今の自分では、どうあっても敵わない存在。

 

「……お前の事は、ベジットから頼まれている。自分がロキ達の顔渡しを済ませる間、仲良くしてやってくれとな」

 

「フンッ、相変わらず余計な気を回す奴だ」

 

 そんな女性──アルフィアの無自覚に放たれる圧を前に慣れているリヴェリアが口にしていたカップを置き、口を開く。現在、自身の主神であるロキとメレン港の顔役に近い立場にいる神ニョルズ、この二柱の神の繋がりを今回仲介人であるベジットが立ち合う間、それとなくアルフィアの事を頼んだという事。

 

「お前の事を余程気に掛けているのだろうな。アイツ(・・・)が私にそんな事を言うだなんて、ここ数年あり得なかった事だ」

 

 ピクリッ。リヴェリアの何気なく溢した一言にアルフィアの手に持っていたカップの手が止まる。

 

「ほう、お前はアイツ(・・・)に余程信頼されているのだな? 意外だ」

「………どういう意味だ?」

 

「なに、エルフの王女にとって、信頼関係というのは随分と浅く設定されていると思ってな」

 

 おや? 何か雲行きが怪しくなってきたぞ? レフィーヤは身の危険を感じ始めた。

 

「確かに、彼と我々は互いに異なる派閥に属する者だ。だが、同じ冒険者として生きている身として、我々は互いを尊敬し合っている」

 

「尊敬、か。良い言葉だ。軽すぎてちり紙程度の価値はあるだろうよ」

 

 リヴェリアが言葉を紡ぎ、アルフィアが否定する。重苦しい空気が更に重くなる、物理的に重くなっているのではないかと錯覚する程の重圧。

 

 ここで逃げ出しても、誰も責めはしないんじゃなかろうか? レフィーヤは訝しんだ。

 

「……お前にしては随分と余裕がないじゃないか。そんなに焦らなくとも、これから時間を掛けて信頼関係を育めば良い。そうすれば、我々の様なお守りがいなくとも自由に出来るさ」

 

「無駄に時間を重ねれば信頼関係が築けると? 流石はエルフだ。言うことが違う。同時に無知の恐ろしさも知ることができるとはな。その寛容さ(無様さ)に頭が下がる思いだ」

 

「………私が、何を知らないと?」

 

(たす、助けて、助けてくださぁぁぁい!! 誰か私を、ここから連れ出してぇぇぇぇッ!!!)

 

 レフィーヤはもう限界だった。互いに笑みを深めながら言葉の戦争を始める二人に、巻き込まれた野兎よりか弱い虫ケラなレフィーヤは、ただこの場からの脱出を心の内で探していた。

 

 手にしていたカップに皹が入る。ギシギシと周囲の空気が軋み始める。大丈夫? この高そうなテーブルとか壊れたりしない?

 

 結構濃い目の味付けな紅茶なのにレフィーヤは全く味が分からなくなっていた。

 

「……アイツはな、本当にお節介なんだ」

 

「?」

 

「私の事を捨て置くか、体のいい戦力として扱えば良いのに、イチイチ此方の気持ちを伺い立てる。無理矢理従えれば良い癖に、アイツはそうはしなかった」

 

 そう言ってアルフィアは首もとに掛かったネックレスを指でなぞる。その顔は長年相対してきたリヴェリアも見たことが無い程に美しかった。

 

「挙げ句の果てには、私には『泣いて欲しくない』等と宣う始末。本当、始末に終えない奴だよ」

 

 そう口では悪態を吐くアルフィアだが、その顔は慈愛で満ちていた。

 

 ───知らない。それは、リヴェリアには知らないアルフィアとベジットの側面だった。

 

 愕然となり、背凭れに寄り掛かるリヴェリア。そんな彼女に狼狽しながらレフィーヤが心配そうに声を掛けている。

 

 席から立ち上がる。離れた位置で此方の様子を伺っていたティオネ達から視線を向けられるが、アルフィアは意にも介さず店を後にする。

 

(さて、そろそろ向こうも用件が終わった頃だろう。奴を連れ、とっとと帰るとするか)

 

 早く帰って読み掛けの本でも読もう。なんて、考えながらベジット達のいる店に脚を進めようとした所、背後から騒ぎが聞こえてきた。

 

 悲鳴と怒声、そして叫び声。それは現役時代の頃から自身のよく知る冒険者同士の争いの声。一体なんだと煩わしさと苛立ちで振り替えると、アマゾネスの集団が暴れているのが見えた。

 

「クハハハハッ! なんだここにいる雄どもは! どいつもこいつも弱すぎる!」

 

「オラリオは冒険者の街ではなかったのか!! これでは肩透かしも良いところだ!!」

 

 言動からしてオラリオの外からの集団、恐らくは闘国(テルスキュラ)から来たアマゾネスなのだろう。

 

 あの国は強いアマゾネスを生み出すため、日夜同族殺しという頭の悪い事をしていると耳にしたことがある。トップは恐らくあの姉妹、感じられる気の大きさからして等級はLv.6といった所だろう。

 

(オラリオに来て腕試し、といった所か。下らん……)

 

 煩わしいし、関わり合う筋合いもない。外聞を大事にするロキ・ファミリア辺りが何とかするだろうと踵を返した瞬間。

 

「おい! そこの女!」

 

「………あ?」

 

「そうだ、そこのお前だ!」

 

 此方に気付いたアマゾネスの女、傲慢で不遜な態度にアルフィアの脳裏に【女帝】の姿が過る。……いや、流石にアレと比較するのは気の毒か。

 

「お前からティオネ達の匂いがする! 奴等は何処だ!? 教えろ!」

 

「ティオネ?」

 

 鎖国状態の闘国(外国)出自なのに共通語(コイネー)が上手い事に変に感心する一方、アルフィアの記憶にティオネなる人物がいないことに軽く混乱する。

 

 ティオネとは一体誰の事か、いや、そういやあのダンジョンの娘と一緒にいる小娘のどちらかがそんな風に呼ばれていた気がする。

 

 もう面倒臭いし、さっさと教えて帰ろう。精神的に疲弊したアルフィアが後ろの喫茶店へ指先を向けようとした瞬間。

 

「なんだこれ?」

 

「!」

 

 首に掛けられていたネックレスが奪われた。

 

「なんだこれは? なぁバーチェ、これはなんだ?」

 

「それは恐らくネックレス。多分、雄から貰った代物だろう」

 

「ハッハッハ、知ってるぞ! プレゼントという奴だ! しかしなんて不格好! 私ならこんなモノ、捧げられた所で捨てるがな! 随分と安い雌がいたもの───」

 

 刹那、アマゾネスの顎が跳ね上がる。

 

 バゴンッと、人体から発してはいけない音を上げ、顎が砕かれるアマゾネス。一撃で意識を飛ばされ、膝が折れる彼女だが……。

 

「不躾にそれに触るな───売女

 

 殴る。意識を失い、無防備となったアマゾネスの顔をアルフィアは容赦なく殴り付ける。

 

 乱打(ラッシュ)連打(ラッシュ)殴打(ラッシュ)。一切の慈悲も温情もなく、ひたすら殴り続ける。肉体性能で優れている筈のアマゾネスが、一方的に殴り倒される様を見て、周囲のアマゾネスも主神らしき骨の仮面を被った女も唖然としている。

 

「あ、アルガナ!!」

 

 身内が襲われた事に激昂したもう一人のアマゾネスが、アルフィアに襲い掛かる。流石はLv.6の膂力だけあって初動の動きは凄まじい。

 

 だが、対するアルフィアはLv.8。位階のさもさることながら、普段から尋常ならざる強さと暇潰しと称して鍛練してきた彼女に取って、彼女の動きは緩慢に過ぎた。

 

福音(ゴスペル)

 

 一言(ワンワード)。威力も範囲も絞り、襲ってきたバーチェなるアマゾネスだけを狙い撃ちした一撃。

 

 Lv.8となり、その威力も桁違いに跳ね上がったアルフィアの魔法は周囲の建物を巻き込むことなく、アマゾネスの肉体だけを粉砕して地に落とす。

 

 全身から血を吹き出し、白目を剥きながら倒れるバーチェの頭部を踏みにじり、アルガナの首を片手で掴み締め上げる。まるで地獄の具現に周囲のアマゾネス達の顔は絶望に染まり、主神らしき小娘は腰を抜かしている。

 

 アルガナの手からネックレスを取り返した所で。

 

「なにを四天王???」

 

 話し合いを終えたらしいベジットが目を丸くしてそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーあ。全くお前は、なんでそうも喧嘩っ早いのかね」

 

「五月蝿い。先に仕掛けてきたのは向こうだ」

 

 その後、騒ぎに駆け付けたベジットは周囲の話を聞き、一先ずアルフィアがボコボコにした双子のアマゾネスをポーションで癒し、彼女達の主神であるカーリーという女神に簡単な謝罪をした事で何とか事なきを得た。

 

 カーリー・ファミリアが数日前からメレンで騒ぎを起こしている迷惑なファミリアだとニョルズから教わり、彼女達もアルガナとバーチェを無償で癒してくれたベジットに免じてあの場での矛を納めた。

 

 双子の姉妹からは完全に因縁付けられてしまったが、向こうの狙いはロキ・ファミリアのヒリュテ姉妹にあったそうで、去り際に決闘の旨を伝えてきた。

 

 ヒリュテ姉妹は今更因縁吹っ掛けてきた闘国に何とも言えない感じだったが、変に避けても余計に拗れるだけだと察し、リヴェリア達と相談し、この事をフィン達にも伝える事で決闘を受けることを許可した。

 

 嘗ての故郷の身内とやり合えるのかと不安視されていたが、二人はロキ・ファミリアこそが今の自分の居場所だと断じ、変に動揺した様子もなかった。

 

 そんな二人に安心したからこそ、リヴェリアも決闘に挑むことを由としたのだろう。

 

 一方ベジット達は先にも述べた通り、高価なポーションを無償で提供した事から、アルフィアの蛮行は許され、事なきを得ただけでなく、普段迷惑を掛けている闘国の連中を黙らせたアルフィアは街の英雄だと讃えられた。

 

「ま、向こうが大人しく引き下がってくれたのは意外だったな。最悪、あの場で第2ラウンドが始まっててもおかしくないぞ」

 

「私は一向に構わんがな」

 

 アルガナとバーチェが目を覚ました途端、アルフィアに襲い掛かると思っていたが、思っていたよりも彼女達は従順で、アルフィアを強者と認識したのが大きかった。

 

 すっかり大人しくなった二人はまんま野生動物の習性みたいだが、向こうがアルフィアを格上の存在と認識した以上、あちらから仕掛けてくる事は無いだろう。

 

「っと、ここだここだ」

 

 二人が辿り着いたのはとある宿泊ホテル。神ニョルズの紹介されたホテルだけあって、質素でありながらもてなしの精神に溢れた良い旅館だった。

 

 ただ一つ問題なのは。

 

「え、部屋は一つだけなんですか?」

 

「申し訳ございません。現在部屋は満室となっておりまして……」

 

 用意された部屋は一つだけ。まぁメレン港は観光地として知られる土地だし、予約もなければそんなものだろうとベジットは軽く受け入れ、アルフィアと共に部屋へ向かう。

 

「お、おいベジット、正気か?」

 

「あ? 別に平気だろ」

 

 なぜか顔を赤くしているアルフィアを無視し、用意された部屋へと向かう。メレンの喧騒から離れ、窓を開けば波風の音が聞こえる素敵な空間。床が畳なのはこの旅館が極東の造りを参考にしたから、らしい。

 

 しかも温泉付き。

 

「おー、良い部屋じゃんか。ここならゆっくり休めそうだな」

 

 既に夕暮れだが、夜や朝になればメレンの違う一面が見られそう。ここに泊まるアルフィアを羨ましく思いながら、ベジットは荷物を下ろす。

 

「もうじき宿の人が飯を用意してくれるみたいだから、ちゃんと食えよ?」

 

「五月蝿い、お前は母親か。それよりも……」

 

 お前も、この部屋で寝るつもりなのか? そう言葉にしようとして。

 

「んじゃ、俺は本拠地に戻るから、お前はゆっくり休んでてくれ。また明日な」

 

 そう言って、指二本を額に置き、瞬間移動で姿を消すベジット。

 

 そうだ、奴にはこれがあったと、一人取り残されたアルフィアはスンッと真顔になり、その顔のまま夕飯を戴き、その顔のまま露天風呂に浸かり、その顔のまま床に着き、その顔のまま眠りに就いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 

「た、大変ですベジット様! ベル様が朝帰りを!」

 

「んー? 何だベル、お前またダンジョンに潜ってたのかぁ? 全く、夢中になるのも良いが、加減はしろよー?」

 

「いや、あの……その……」

 

「ベジット様、残念ながらベル様はダンジョンから朝帰りしたのではありません。ベル様はよりにもよってイシュタル・ファミリアのお膝下である歓楽街から帰ってきたのです」

 

「………なにを四天王???」

 

 一先ず、この場にアルフィアがいなくて良かったと、心底そう思うベジットであった。

 

 





Q.なんでレフィーヤが間に入ってたの?
A.リヴェリアの後継者だし、そのリヴェリアがアルフィアと面識があったので、間を取り持つのにレフィーヤが適任だと、同室のエルフィちゃんが提案したから。
尚、後日レフィーヤはエルフィに死ぬ程ご飯を奢らせた。

Q.二人のベジットに対する感情は?
A.それはきっと──閲覧禁止

Q.ベジットの二人に対する気持ちは?
A.リヴェリアには感謝と友情。アルフィアには憐憫と慈しみを。


Q.現在、二人の間にある差は?
A.“真実”を知っているか否か。
尚、ベジットの寝ているベッドにヘスティアが潜り込んだ事があることを、アルフィアはまだ知らない。

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