ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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ベジットを追い詰めるとしたら、やっぱこの御方だよね。って話。

そんな訳で初投稿です。


物語119

 

 

 

 ヘスティア・ファミリア本拠地(ホーム)、【竈火の館】。ベジットがロキ・ファミリアとの約束事を果たす迄の間、ヘスティア達も次なる局面を迎えていた。

 

 本日の朝早くから本拠地へ訪れたのは、武神タケミカヅチとその眷族達。普段は温厚なタケミカヅチが珍しく表情を強張らせ、来客対応の応接間に通した途端。

 

「ヘスティア! この度は申し訳なかった!!」

 

 眷族一同、頭を下げてくる武神にヘスティアは苦笑いを浮かべる他なかった。

 

「頭を上げておくれよタケ、歓楽街の件ならベル君から話を聞いてるし、ベル君の件はベル君自身に非があるから、気にしないでおくれよ」

 

「そういう訳にはいかない。聞けば桜花も命も千草も、春姫ばかりに気を取られてダンジョンでの探索で気を抜いていたという。一瞬の油断が命取りになるダンジョンでそんな無様を働くなど……同じパーティーメンバーの命を軽んじているに等しい!!」

 

 そういってより深く頭を下げるタケミカヅチ。その後では頭にたん瘤を作った眷族達も改めて揃って頭を下げてくる。

 

 自らの眷族(こども)達に“無様”なんて強い言葉を使う程だから、余程腹に据えかねているのだろう。まぁ、ダンジョンでパーティーを組むということは命を預け合う間柄になるということで、それを疎かにするということはタケミカヅチの言う通り同じパーティーメンバーの命を軽く扱うに等しい行為。

 

 ここで仮にベル達が気にするなと言っても、タケミカヅチの怒りと哀しみは収まる事はないだろう。故に、話を進める為にもヘスティアは目の前の武神からの謝罪を受け入れる事にする。

 

「……分かったよタケ、君の謝罪を受け入れるよ。だから命君達の事も許してあげて欲しい。神友が自分の眷族(こども)と仲違いする光景なんて、僕は見たくないよ」

 

「あぁ、ありがとうヘスティア。お前達も、済まなかったな」

 

「い、いいえタケミカヅチ様! 我等の方こそ!」

 

「勝手な真似をした事、本当に申し訳ありませんでした。ヘスティア・ファミリアも、申し訳なかった」

 

「ごめんなさい……!」

 

 神同士による話し合いで、一先ず最悪の展開にならなかった事に当事者という事で同席していたベルとヴェルフは安堵する。タケミカヅチ・ファミリアの面々はその強さもそうだが、何より共に戦うことを約束した間柄だ。

 

 ダンジョン探索に集中仕切れていなかった理由も事情も知っていることから、こうして仲直りをしている神と眷族を見て、心底胸を撫で下ろした気分である。

 

「タケや桜花君達の謝罪、改めて受け取った。その上で聞きたいんだけど……君達、これからどうするんだい?」

 

「………」

 

 改めて問うのは、やはりタケミカヅチ・ファミリアがその昔仲が良かったという貴族の狐人(ルナール)の事。

 

 名をサンジョウノ・春姫。極東の中央政府“朝廷”に仕える高位の氏族。国の政を担う貴族の中の貴族の出自でありながら、孤児だった命達にも分け隔てなく接してきた心優しき狐人の少女。

 

 そんな彼女が娼婦に身を窶し、しかもその身柄はイシュタル・ファミリアに囚われていると聞く。同時に、命達がそんな春姫を何とかしてやりたいという思いも、既に聞き及んでいる。

 

 その上でどうするかとを訊ねるヘスティアに対し、タケミカヅチは重くなった口を開く。

 

「───身請けをしようと考えている」

 

「………そうか。まぁ、それしか方法もないよな」

 

 娼婦となった春姫を穢らわしく思うか? なんて段階はとっくに過ぎている。彼女が見知らぬ男達の手垢にまみれていようと、自分達の親友であることには変わりない。

 

 主神と眷族が話し合い、且つ眷族の数も質も格上な派閥であるイシュタル・ファミリアから堂々と春姫を取り戻すのなら、正攻法で挑むしかない。

 

 恐らく、イシュタルはそんなタケミカヅチ・ファミリアの足下を見て、法外な額を請求するだろう。万が一身請けに必要な額を稼いだとしてもあの女神の事だ、何らかの妨害工作をしてくるかもしれない。

 

「タケ、そして桜花君達も、手を貸して欲しい時は遠慮なく僕達を頼ってくれ。流石に直接的な干渉は控えるが、それでも君達とは良き隣人、良き友人としてこれからも仲良くしていきたいからね」

 

「ありがとうヘスティア。その言葉だけで、俺達は救われる」

 

 タケミカヅチに続き、その眷族達もヘスティアに深々と頭を下げる。

 

 その後は主神同士で二、三ほど話をし、タケミカヅチ・ファミリアは【竈火の館】を後にする。門を潜り、自分達の本拠地へ帰っていくタケミカヅチを見送りながら、ベルは呟いた。

 

「タケミカヅチ様達、大丈夫でしょうか」

 

「確かに桜花や命は冒険者として確かな実力者だと思うが……相手は歓楽街の主だ。過去に何度もギルドからの追求を躱し、向こうの良い様に丸め込まれたらしいからな」

 

 ベルの不安を煽るわけではないが、ヴェルフの口から聞かされるイシュタル・ファミリアの実態に、ベルの顔が曇る。

 

 ベルの脳裏に過るのは、諦観に満ちた狐人の顔。何もかも諦め、何もかもを受け入れた罪人の顔。

 

 確かに、娼婦は御伽……特に英雄譚に於いて英雄を堕落させる“悪”として描かれる事が多く、その末路の殆どが悲劇的に終わる。

 

 きっと、多くの人もそう思うのだろう。娼婦に身を窶した女なんて穢らわしいと。

 

 そして、そんな彼女を何とか助けたいと思う自分もまた……。

 

「オイ雑魚ども、何をウジウジ考えてやがる」

 

「ふ、副団長……」

 

「テメェ等がやるべき事はここで脚を止めて考えに耽る事かァ? ハッ、随分と贅沢な悩みなこったな」

 

「ぜ、贅沢って。ベートさん、俺達は別にそんなつもりは……」

 

 自分達に出来ることはないと突き付けられ、何も出来ないと下を向いていた二人、それを無理矢理に顔を上げさせるのはいつの間にか応接室の椅子に座る───ヘスティア・ファミリアの副団長だった。

 

「こんな所で足踏みしている時点で、テメェには何も出来ねぇって自分で証明しているモンだ。まぁ、雑魚にはお似合いの末路だろうがな」

 

「ベート君、何処かに行くのかい?」

 

「暇だから適当にフラついてくる。ザルドには飯はいらねぇと伝えておけ」

 

 それだけを言い残し、ベートは応接室の扉の向こうへ消えていく。相変わらず不器用な子だと、憎まれ口を叩くベートに苦笑いを浮かべながら、ヘスティアは二人に向き直った。

 

「……神様、僕、ダンジョンに行ってきます」

 

「俺も。副団長にあぁも煽られたんじゃ、黙っていられませんよ」

 

 迷いのなくなった二人に頷き、ヘスティアは送り出す。

 

「分かった。その代わり、ちゃんと無事に戻ってくるんだよ」

 

「「はい!」」

 

 元気良く返事を返し、ダンジョンに向かう支度を始める為に応接間を後にする二人、たとえ今の自分に何も出来なくとも、立ち止まる理由にはならない。

 

 いざという時の備えとして、強くなろうとする若い二人の熱意に微笑みながら、ヘスティアはダンジョンに向かって走る二人の背中を見送る。

 

「ヘスティア様、お待たせしました」

 

 そんな時だ。入れ違い様に音もなく応接間に現れたのは二振りの槍を背負い、普段の身に付けている目隠し(バイザー)だけでなく、口元を覆うマスクを付けたリリルカ・アーデ。

 

 その装いはまるで極東に伝わる忍びの様だ。

 

「ご苦労様リリ君。それで、アストレアとガネーシャはなんだって?」

 

「お二柱(ふたり)も万が一の際は歓楽街の避難誘導に協力してくれると確約してくれました。そして、余った時間で私なりに歓楽街で件の狐人(ルナール)に付いて調べたのですが……」

 

 目隠しを外したリリルカ・アーデの表情は暗い。憐れみ、それとも同情か。普段は見せない彼女の顔にヘスティアも眉を寄せる。

 

「恐らく、かの狐人には闇派閥と関わっている疑いがあります」

 

 覚悟を決めて耳にしたその情報は、重苦しくヘスティアの胸へとのし掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで、女神カーリーは例の黒い気に就いてなんて言ってる?」

 

「“覚えてない” だそうや」

 

 メレン港の宿屋。アルフィアが一泊した旅館とは異なり、値段の安い酒場付きの安宿。本来なら酒場は日中閉まっているのだが、話の内容的に表で話せるモノではなく、神々とその眷族達の会議の為に店主に事情を説明し、一時貸し切る事になった。

 

「オラリオに来た経緯も目的もハッキリ覚えているが、件の“黒い気”に関する情報は何一つ覚えてない。まるでその部分だけ丸々削り取られているみたいだと、女神カーリーは言ってたよ」

 

「因みに、奴さんが虚偽の話をしている可能性は?」

 

 ベジットの質問にロキは肩を竦め、フィンは首を横に振っている。

 

「僕達人類に、神々の本心を暴く術はない」

 

「が、あの様子のカーリーが嘘を吐いているとも思えん。ウチはカーリーを白と判断してもええと思うとる」

 

「ふむ」

 

 フィンもロキも権謀術数に長け、頭も相当にキレる。自分とでは頭のデキが違うと理解しているベジットは、二人の判断に間違いないと思い同意する。

 

「フィンとロキ様が言うなら間違いないとして、じゃあどうしてあの双子アマゾネスは黒い気を纏えたんだ?」

 

「その事に関してだがベジット、オラリオの外で気を扱う者について何か心当たりはあるか?」

 

 フィンの問いにベジットは思考を巡らせる。確かにベジットは外で蔓延るモンスターの脅威から少しでも減らせる為に多くの人々に気の扱い方を伝授している。

 

 特に気の扱い方に関して、強く教えたのは大きく三つのグループに分けられる。

 

「……アルテミス・ファミリアとラキア王国、そして【学区】だな」

 

 オラリオ以外で気を扱えるように教えたのは、主にこの三つの派閥だ。アルテミス・ファミリアはまだ自分とヘスティアがオラリオに来て間もない頃に、主神同士が神友である事からその縁で。

 

 ラキア王国はオラリオに定期的に攻めに来ることがあったので、その奇縁を元に伝授。今も時折様子を見るついでにラキアに赴き鍛練に付き合っている。

 

 残る【学区】にはレオン自身に教えている事もあって、今では生徒達も何名かは積極的に会得しようと真剣に学んでいる様子。それでもまだベジットに対して思うところがあるのか、頑なに履修しようとしない生徒はいるらしいが……。

 

 どれもベジットとは浅くはない縁のある派閥だが、彼等が無闇に広めるとは思わない。唯でさえ気の扱い方は難しいのに黒い気だなんて、そんなどんな副作用か分からないものを進んで覚えようとも、広めようとも思わないはずだ。

 

 アルテミス・ファミリアは言うまでもなく、学区も同じ。唯一懸念のあるラキアだって、自分達が強くなるのに必要だから、進んで外に脅威を育てる真似はしないだろう。

 

「うーん、ラキア王国のアレス様は兎も角、アルテミス様や学区のレオンが無闇に広めるかなぁ」

 

 ベジットは腕を組み、天井を見上げて思考を巡らせる。どれだけ考えても答えは出ないし、いっそ合間を縫って実際に話を聞きに行こうか? なんて思ってしまう。

 

 正直言えば心当たりのないベジットだが、実際に外の派閥であるカーリー・ファミリアの代表格とも呼べる双子姉妹が黒い気を纏っていたのは事実。

 

 どうしたもんかと思い悩むベジットを、ロキの眼が鋭く射貫く。

 

「……なぁベジット」

 

「ん?」

 

「自分、ウチ等に何か隠してへんか? それもこのオラリオ………ひいては下界をひっくり返しかねないデッカイ秘密を、な」

 

 唐突に突き付けてくる神からの言葉。それは普段から親しみがある慈悲深き女神の姿ではない。

 

 天界に座していた頃より、暇潰しがてら神々を殺し合わせようとしたトリックスター。糸目の隙間から射貫く悪神の眼差しを前に……。

 

「隠し事………ねぇ」

 

(ど、どれの事だ?)

 

 天下無敵のベジットは、平然とした顔の裏で……滝のような汗を流し始めていた。

 

 

 

 






Q.カーリーから見たベジットは?
A.孤独の子。ヘスティアの眷族でなかったら割と本気で同情心からスカウトしてた。

「お主の孤独を癒せるのは、果たして“武”かそれとも“愛”か」

Q.アルガナとバーチェはベジットに惚れた?
A.自分がどう倒されたのかも分からないのに、惚れる理由がない。

「良く分からん雄だ。なに? Lv.1? フンッ、弱い雄に用はない」

(本当にLv.1なのか? それにしては妙な圧を感じるが……)

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