ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今回も、“アレ”が登場。

そんな訳で初投稿です。


物語12

 

 

 

 迷宮都市オラリオの中心、神塔(バベル)が聳え立つ中央広場(セントラルパーク)。そこに現在オラリオの全派閥、全戦力が招集され、彼等の前には小人族(パルゥム)の勇者が壇上に立ち、集まった皆を見下ろしている。

 

数多の視線の前にその身を晒しても、一切臆する事なく佇むその姿はまさに勇者であり、現在のオラリオを支える柱でもあった。

 

 そんな彼を、ベジットは大したモノだと素直に称賛する。

 

 しかし、そんなベジットの心境とは裏腹に周囲の者達の顔付きは真剣そのもので、決戦を控えた戦士のソレだった。

 

 事実、これから行われるのは決戦に備えての決起の日であり、今から行われるのは敵の目的と対策、それに割り振られる編成の発表だ。

 

隣にいるアーディやアリーゼも真剣な表情で見上げているから、ベジットも二人に倣ってフィンに注視する。

 

「────聞いてくれ。敵の『真の狙い』が明らかになった。大抗争、最初の夜の戦いから今の今に至るまで、全ては『前準備』に過ぎなかった」

 

「………は?」

 

 フィンから告げられる話の内容に、ベジットの前にいるライラから間の抜けた声が漏れる。見れば、彼女の隣に並んでいる輝夜も同様の反応で、その目を丸くさせて見開いている。

 

アレだけの惨劇、アレだけの悲劇を撒き散らして於いて、まさかの”前座扱い“だ。確かに、彼女達が唖然となるのも無理はない。

 

「真の目的は、ダンジョン内における『大最悪(モンスター)』の召喚。闇派閥(イヴィルス)禁忌(タブー)を犯し、迷宮に邪神を送り出し、そして邪神(かみ)囮にする事で(・・・・・・)、『大最悪』を地上へと誘導するつもりだ」

 

 フィンから更に告げられる事実、その衝撃的な内容に多数の冒険者が愕然し、困惑した。

 

当然だ。モンスターとはダンジョンから産み落とされる化物達の総称、生け贄やら召喚やら、聞き慣れない単語に戸惑わない者はいない。

 

(成る程、要するに邪神を二体リリースし、モンスターを1体特殊召喚。て事ね。遊○王かな?)

 

なんて、皆が騒然としている中、唯一ベジットは前世の知識で変に納得した。

 

「べ、ベジットさん。落ち着いてますね」

 

「ん? あぁ、俺ダンジョンにまだ潜ってもいないペーペーだからさ、正直半分も理解してないのよ。今色々聞くのもアレだし、今は知った顔で頷いてた方がいいかなって」

 

「成る程、変な先入観に囚われない斬新な発想ね! 私も見習わなくちゃ!」

 

 あくまでフィンの話の邪魔にならない程度の小声で話す三人、その間に輝夜が誰もが思った召喚やら普通のモンスターとの差異に付いて問い詰めていた。

 

「召喚の方法に付いては省略させてもらう。だが、既に偵察部隊がダンジョン内で“目標”を発見した。本日の正午時点で目標の位置は24階層。()()()()()()()()()()()()、無理矢理上へ上へと進出している」

 

「───ッ!?」

 

「偵察隊の報告によれば、目標は超大型。その進撃速度と破壊規模を鑑みて───ギルドは目標の戦闘能力を、【深層】の【迷宮の弧王(モンスターレックス)】と同等か、それ以上と断定した」

 

 絶句。或いは動揺、最悪に最悪を重ねた報告に冒険者達の間に動揺の波紋が広がっている。

 

【深層】、そして【迷宮の弧王(モンスターレックス)】。どちらも並みの冒険者では生涯掛けても辿り着く事は敵わない、規格外の中の規格外。

 

第二、第一級の冒険者が群となって対処しなければならない超特記危険事項。

 

それが、自分達の足下に進んでいる。

 

(ど、どうしよう。深層とか、モンスターレックスとか、いきなり新情報が舞い込んで来やがった!? 深層ってなに? 100階くらい下の事? モンスターレックスってなに? ティ○レックスみたいな奴なの!? 俺、太刀か大剣位しか扱える自信ないんだけど!?)

 

 オラリオに訪れてまだ一週間も経っていないのに、矢継ぎ早に追加してくる新情報にベジットは内心で混乱する。

 

 周囲から聞こえてくる声、そのどれもが現実を受け入れず否定したり、嘆いたりする者が殆どだ。

 

「どうすんだよ………敵にはザルドとアルフィアもいる! 連中だけでもヤベェっていうのに、迷宮(ダンジョン)からも化物が来るだと!? お手上げじゃねーか! どうすんだよ、勇者様!」

 

今すぐにでも逃げ出したい。ライラも、それじゃあどうしようもないと、不安を煽る野次を吐き捨てるが………意外にも、彼女の顔は不敵に歪んでいた。

 

恐らくは発破を掛けたのだろう。この絶望的な状況で、それでもフィンならば何とかしてくれるだろうという、強い信頼故に投げ付けた彼女の言葉は………確りと、勇者は受け取った。

 

「────迎え撃つ」

 

 堂々と、ハッキリと、小人族の勇者の一言に広がっていた動揺の波紋が静まり返る。

 

「これより戦力を地上と地下に二分。闇派閥の総攻撃に対する迎撃隊、そして大最悪を打ち倒す討伐隊とで分かれる。前者はほぼ全ての【ファミリア】による派閥連合。後者は選り抜きの少数精鋭。闇派閥と大最悪、どちらもバベル陥落が目標と予測される中、敵の『挟撃』を受け止め、これを殲滅する」

 

 それはこの上ない………いや、これしかない作戦だった。通常の挟み撃ちとは異なる概念、前後ではなく上下に対する迎撃体制。

 

ダンジョンはオラリオの地下、大きな物理的隔たりがあるが故に援護や救援は至難。どちらかが失敗しても、オラリオはそこで終わりを迎える。

 

 言うは易し。しかし、その難易度は至難を極めた。

 

「ならば、敢えて断言しよう。僕達ならば“可能”だ」

 

 だが、それでも勇者は告げる。

 

「より正確に言えば、僕達にしか出来ない(・・・・・・・・・)。これより始まろうとしているのは、『量より質』を掲げる神時代の幕開け以降、人と人による間違いなく最大の『総力戦』。オラリオを置いて、何処の誰に任せる? オラリオが制さずして、誰が成し遂げる?」

 

 それは紛れもなく不退転。退路はなく、逃げ場もない。世界の運命を掛けた間違い無しの分水嶺。

 

「僕達ならば、僅かに過ぎずとも勝機はある。いや、僅かだろうと必ずや、その勝機を手繰り寄せる」

 

そこに挑む者達に、僅かでも奮い立たせるため、勇者は弁舌を尽くす。

 

「そして、もう一つ。敢えて問わせて貰おう。────君達は、負けたままで終われるのか?」

 

 嘗て最強に、手も足も出ないまま敗北した。無慈悲に、不条理に、一方的に。自分勝手な言い分でオラリオに牙を剥き、少なくない犠牲者を出した。

 

「自覚しろ! この場にいる者達、全てが敗者だ!」

 

「え、俺も?」

 

「ベジットさん、シーッ」

 

 確かに小声で言った筈なのに、アーディから肘で脇腹を小突かれる。

 

「あの夜にむざむざと敗れた負け犬ども! 隣を見ろ! そこに友はいるか! 後ろを見ろ! そこに愛した者はいるか!」

 

「いないというのなら、誰が死した者達の無念を晴らす!? 一体誰が、怒りと悲しみに燃える君達の雪辱を果たす!?」

 

「───僕達だ!! 絶望の連鎖を断ち切り、喪失の悲鳴を食い止め、この手を以て決着を付ける! あの地獄の再来を二度と許すな!」

 

 それは、怒りの咆哮。負けた己を赦すなと、最期に残った意地と矜持に縋ってでも立ち上がれ。

 

どんなにみっともなくても、無様でも、抗う事こそ意味がある。

 

「────それとも君達は、奇跡に縋るだけの木偶に成り下がるつもりか?」

 

「っ! それって……」

 

「“オラリオの奇跡”」

 

 大抗争。オラリオを火に沈め、一時はオラリオ創設以来初めての人的被害を予想された大災害は、焼失した建物とは異なり、予想を遥かに下回る結果となった。

 

 一体何故、どうしてそんな結果に終わったのか。闇派閥もオラリオ側も一部を除いて(・・・・・・)誰も知らない、全てが謎めいた奇跡。

 

そんな奇跡に縋るつもりはないと、フィンは一瞬だけベジットに視線を向けた。

 

「僕達は、奇跡に縋らない。敗北の味を知り、この屈辱の泥をこそ糧とし、今度こそ奴等に勝ちにいく! 意地を見せろよ冒険者! 誰よりもしぶとく、誰よりも生き汚い無法者達!! 真の勝者は最後まで立っていた者だと教えてやれ!!」

 

 奇跡には頼らない。何故なら、ここは英雄が生まれる約束の地。冒険に挑む者達の都なのだから。

 

 士気が爆発する。侮られた怒りを、理不尽に奪われた怒りを、敗北を味わわせてくれた奴等に報復し、目にもの見せてやれと、荒くれ者達らしい冒険者の咆哮が、オラリオ全土に響き渡った。

 

そして。

 

「これは英雄達の前哨戦に過ぎない! 世界の果てで待つ【真の終末】への、肩慣らしだ!」

 

(────ん?)

 

「【黒竜】に敗れた男神(ゼウス)女神(ヘラ)の遺産を片付け、名実ともに僕達が次代の英雄であることを証明する!!」

 

 更に冒険者達の士気が爆発し、空気が辺りを響かせていく。

 

 吼える冒険者達。ある者はやってやると今から士気を高め、またある者は必ず生き残ってやると気炎を吐く。

 

「あれ、ベジットさんどうかしたの?」

 

「なんだか酷く顔色悪いけど?」

 

「あぁいや、何でもない何でもない。それよりも、二人に一つ聞きたい事があるんだけど………」

 

「「?」」

 

 そんな、一部を除いた全ての冒険者達が己の闘志を爆発させている中で。

 

 

「吼えるじゃねぇかフィ~ン。殺してやるよ、ベジットのクソ野郎と一緒になぁ!」

 

 そんな彼等を、遥か離れた外壁から悪意が見下ろす。

 

 殺戮を望む帝王は、疼く衝動を抑え。

 

「英雄が生まれる大地、冒険者の都………嗚呼、なんて美しい。そして、なんて壊し甲斐のある……」

 

 下界是正を求める破綻者は、愉しそうに嗤う。

 

 そして、失望に沈みし【暴食】と【静寂】は。

 

「アルフィア。どうやら、俺は勘違いをしていたらしい」

 

「なに?」

 

「どうも俺は、奴にとって少食の部類に入るらしい。クク、こんな気持ち、団長に叩き潰された時以来だ」

 

「………そうか」

 

 ただ静かにその時を待った。

 

そうして、決起を迎えた夜を超え、世界は朝を迎える。

 

 今後の世界の行く末を決める、大いなる戦いを。

 

 誰も彼もが決戦に備えて一時の休息へ向かう。これが、最後の休みになるかもという、覚悟の上で。

 

「──────あ」

 

 そんな中、ベジットはふと思い至った。

 

「まさか、アイツらの狙いって……!?」

 

 【正邪決戦】後に、そう呼ばれる戦いの日に……。

 

ベジットは、何も知らぬが故に彼等(・・)の真意に気付いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、踏み台………だって?」

 

 戻ってガネーシャ・ファミリア本拠地(ホーム)。最後の戦いに備え、主神含め団員達が出払っているそのホームはベジットとヘスティア達しかいない。

 

勿論、二人も直ぐ出て指定された場所へ急ぐつもりだが、ベジットの口から伝えられる話に、ヘスティアは寝かされていたベッドで正座になる。

 

「………なぁ、ヘスティア。冒険者のレベルって、普通にモンスターを狩るだけじゃ上がらないんだよな」

 

「う、うん。そう聞いてる。何でも神々に認められる程の偉業でなければ、原則至れないって」

 

「その偉業ってのは、モンスター討伐に限らず。更に言えば善悪問わず、なんだよな?」

 

 静かに、確認するように訊ねてくるベジットに対し、ヘスティアは本心では納得したくないが、渋々頷いた。

 

「もっと言えば、モンスターを倒さなくてもレベルは上がる。………例えば、冒険者同士が殺し合いをしても、な」

 

 先程、中央広場にてアーディ達と会ってた際、ベジットは彼女達に聞いた。魂の器を次の段階へ昇華させるというレベルアップという概念の具体的な例を。

 

ある者は強大なモンスターを狩り、ある者は困難な状況を乗り越え、ある者は蓄積された体験を糧に、それぞれが様々な要因でステイタスを上昇させ、レベルを上げていく。

 

 その過程に経験値(エクセリア)を必要とし、それにより神々から授かった恩恵を成長させ、その人独自の発展を遂げていく。

 

まるでゲームの様だと思うベジットだが、問題なのはその経験値がどんな体験であっても己の糧にしてしまう事である。

 

 例えば闇派閥。連中の幹部は同じ冒険者を殺す事で経験値を獲得し、レベルを上げていったと聞く。つまり、オラリオでも最強と謂わしめるザルドとアルフィアは、格下の冒険者にとって膨大な経験値の塊とも言えるだろう。

 

「冒険者のレベルは一つ違うだけで他とは隔絶した力の開きになる。逆に言えば、そんな格上を倒せば神々も認める偉業になる訳だ」

 

「だ、だからオラリオの踏み台になるって言うのかい! そ、そんなの………」

 

「あぁ、認められる訳がない。少なくとも俺の知る冒険者達はそんな施しを進んで受け取る連中じゃない。だからこそ、闇派閥に付いたんだ」

 

 他人の為に、自らその身を差し出す。人身御供の如きな献身にヘスティアは絶句した。

 

「なんで、なんでその二人はそこまでして………」

 

「黒竜だ」

 

「──────あ」

 

 ストン、と。ヘスティアは理解する。理解、してしまった。

 

彼等は失意に沈み、停滞したオラリオを破壊する………そんな事の為に闇派閥に付いたのではない。全ては黒竜、【黒き終末】を打ち倒す英雄を生み出すための布石。

 

その為に、嘗ての最強派閥の二人は自ら踏み台になろうとしている。

 

 けれど………元々の目的である黒竜はもういない。目の前にいる自身の眷族、ベジットが既に倒してしまっている。

 

「ど、どうするんだいベジット君! このままじゃ二人は……!」

 

「あぁ、間違いなく死ぬ。しかも最悪な形で………俺の所為でな」

 

「っ!」

 

「だから、この場で賭けに出る。ヘスティア、アレ(・・)を持ってるか!」

 

 このまま奴等の思惑が進めば、二人は最悪の結末を迎える事になる。その最悪な結末を知らずに片棒を担いでしまっていたベジットはヘスティアにある指示を飛ばす。

 

「う、うん! まだ二粒残ってるよ!」

 

 胸の谷間から取り出した小さな袋。一瞬何処に隠してるんだとジト目になるが、今はツッコミは無しだと黙って受け取る。

 

「二粒………失敗は許されないか」

 

「で、でもベジット君、それって確か怪我には効果覿面だけど、病には効果が薄いって………」

 

 それはベジットとヘスティアが出逢って間もない頃、ドジで良く道端で転んでは擦り傷を作っていたヘスティアを見かねたベジットが“とある仙人の豆”を似せて作った代物。

 

 あの作中において、時に主人公は気を分け与える事であの宇宙の帝王を助けようとした一面がある。

 

気を分ける事で回復効果が得られるのなら、その気を凝縮したモノを別のモノに移せば、それは1種の回復薬になるのではと、ベジットは考えた。

 

 そして、その気の器に最も適していたのが、大豆相当の豆である。そう、ベジットは修行の一貫として仙豆とは異なる【仙豆擬き】に手を出していた。

 

しかし、仙豆はあくまで傷を癒す為の代物。病には効果がなく、作中でも主人公の心臓病に効果がなかった事から、ヘスティアもその事には疑問に思うようだ。

 

それは、ベジット自身も重々承知している。だからこそ。

 

「だから、作るしかねぇんだ。怪我には効果がなく、対病にだけ特化した仙豆擬きを!」

 

 あの原作にも無かった対病の特化。言うは易いが、医療の知識など素人同然のベジットには無謀にも無謀。

 

しかし、それでもやるしかない。たとえ効果が薄く、見込みが無くても、やり遂げるしかない。

 

幸いにも、この場には条件こそあるものの“浄化(・・)”のスペシャリストがいる。

 

「その為にも……ヘスティア!」

 

「な、なんだい!?」

 

「お前の力を貸してくれ! あと、医神のツテとかあったらそれも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明ける。暗い帳が白み始め、太陽が顔を覗かせ始める。

 

これより始まるはオラリオの……ひいては、世界の運命を懸けた戦い。誰も口を開くものはおらず、ただその時が来るのを静かに待った。

 

「ふぅ、やる事はやった。あとは俺の頑張り次第、か」

 

 今頃、ヘファイストス達と共に主神であるヘスティアも避難している事だろう。どうか事の顛末が上手く行くようにと、掌に乗った二粒の豆を見て、ベジットは溜め息を吐く。

 

やるべき事はやった。街に来たばかりで碌にツテなんかあるわけ無いのに、先に下界へ降りたという友神と連絡を取ってくれた主神には感謝しかない。

 

 更には、何処からか話を聞き付けて横槍を入れてきたもう一人の医神も、何だかんだ手を貸してくれた。三柱の神と、ベジットという超規格外の力で造られた【対病特化の仙豆擬き】は一先ずの完成を迎えた。

 

準備は万全、残った他の心配事と言えば……。

 

“グゥゥゥ……”

 

「クソ、やっぱり足りねぇか」

 

 腹部から聞こえてくる重低音。今の今まで作業に徹していたベジットは、ヘファイストスの本拠地で料理を馳走になってから殆ど碌に食べていない。

 

たとえ空腹状態であっても、闇派閥に負ける事は無いが、この状態が続けばこれからの行動に支障が出てきてしまう。

 

 これからの行動、その全てに速さ(スピード)を要するベジットとしては、何気に無視できない事態である。

 

(だ、誰かから飯を恵んで貰うか? ……いやダメだ、どいつもコイツも真剣な顔で、とても頼める空気じゃねぇ!!)

 

 そもそも、ベジットが飯をねだるのは一ファンとしてやりたくない。けれど、このまま空腹状態で戦うのは別の意味で不味い。

 

どうする? もうじき作戦が始まる時間にベジットが頭を悩ませていると。

 

「ハッハッハッ! この大戦の前に呑気に腹を鳴らしているとは、随分と豪気な若者がいたものよ!」

 

「?」

 

 背後から快活な老人の笑い声、何だと思い、豆を仕舞って振り返れば、柱の様に真っ直ぐな背筋としなやかに鍛えられた四肢、まるで柳の様な老人が歩み寄ってきた。

 

「アンタは?」

 

「ワシはノアール・ザクセン。ロキ・ファミリアのしがない剣士じゃよ。それよりもホレ、先ずはこれでも食って腹でも満たせ」

 

 そういって手渡してきたのは、一つの袋。手にした感触的におにぎりが複数個入っていることが分かる。

 

「こ、これ………良いのか?」

 

「あぁ、この歳になると食欲もそんなに沸かんのでな。どうせ食べるのなら、お主のような若い奴に食われた方がいいじゃろうて」

 

 正直、くれると言うのなら有難い。この体に生まれてからというもの食欲が凄まじく、狩って食らった大型動物は数知れない。

 

「………悪い。名乗るのが遅れた俺は」

 

「ベジット、じゃろ? お前さんの事はウチの姫から聞いておる。あの無機質な娘っ子が気を赦しているから、どんな女誑しかと思ってたが………うむ」

 

 マジマジと此方を見てくる老人、腰に差している刀からして、彼も冒険者なのだろう。

 

「うむ、善き男で良かったわ。これならワシも安心できると言うものよ」

 

「え? あ、おい爺さん!」

 

 遠くから、ノアールの仲間から声が掛けられる。それを耳にした彼は、呼んでいるドワーフとアマゾネスの方へ去っていく。

 

その際。

 

「若いの、死ぬでないぞ。次の時代を担うのは何時だって無鉄砲な若造なのだからな」

 

 そう笑いながら去っていく老兵。何となく彼の覚悟を察したベジットは、包みから握り飯を取り出し、かぶり付く。

 

 入っていたのは大きめのオニギリ三つ、その全てを瞬く間に食べ終えるのと同時に。

 

「来たぞ! 闇派閥だ(イヴィルス)!!」

 

 悪意が動きだし、戦いが始まる。

 

オラリオの、世界の未来を賭けた戦い。これにベジットが割り当てられた役割は………。

 

「よし、いっちょやるか!」

 

 遊撃(・・)。好きに暴れろというフィンの指示に従い、他の冒険者達に混ざって、ベジットも戦場へ駆けていく。

 

 

 

 

 






次回、開戦。

「見付けたぞ、ベジット!! 殺帝には悪いが、先に俺が……」

「お前は後!!」






オマケ。

もしもベジットがロキ・ファミリアに属していたら?3

「全く、手間取らせてくれる。さぁ、来て貰うぞアリア。お前を連れていけば、アイツも喜ぶだろう」

「クッ!」

 ダンジョン18階層。そこに現れる謎のモンスター。人を喰らう食人花を引き連れる様に現れたソレは、執拗にアイズへ襲ってくる。

Lv.6()である自分すら圧す力、胸元に極彩色の魔石を込められた赤い髪の怪人は、ただアイズだけを求め、狙っていく。

(迎え撃とうにも、これじゃあレフィーヤが巻き込まれてしまう。どうする!?)

 向こうは待ってくれない。限られた時間で選択を迫られ、それでも乗り越える事を決めたアイズは、僅かな勝機に賭けをしようとして。

「珍しいな。アイズが手間取るなんてよ」

「「「ッ!?」」」

 彼が、来てくれた。

「ベジット!」

「ベジットさん! 来てくれた! よ、良かったぁ~」

「おいおい、ヘタるのは後にしろよ。相手はまだ目の前にいるんだぞ」

「………貴様が、ベジット」

「ん? 俺の事を知ってるのか?」

「────エニュオが言ってた。お前とは絶対に戦うなと。成る程、今の私ではどうあっても勝てんな」

「今の、ねぇ。まぁ、それは別にいいや。それよりもアイズ」

「?」

「手、貸してやろうか?」

「………うぅん、いらない」

「あ、アイズさん!?」

「あの人は、私が超えなきゃいけない人だから」

 そういって、風を纏って赤髪の怪人へ迫る。先程よりも強く、鋭く踏み込んでいく。

「べ、ベジットさん! どうしてアイズさんを助けてあげないんですか!? 貴方なら!」

「落ち着けよレフィーヤ。アイズがあんな奴に負ける訳ないだろ?」

「で、でも……!」

「信じろ。お前が憧れる剣姫は、絶対に負けねぇさ」

 彼女が幼い頃より共に過ごしてきたベジットは、アイズの強さを知っている。強くなりたい理由も、強くなるための手段も、そして、強くなるための必要な事も。

今の彼女は、一人ではない。彼女を構成してきた全てが、一つの力となるのなら。

「大丈夫さ、アイズ。お前の風は、もう壊す為だけじゃない」

 金色の剣姫の纏う風が、黒へと変わり。

『強くなる方法? いや、俺Lv.1なんだけど、既に多くの団員に抜かれてるんだけど? 何なら一部の奴に舐められてるんだけど?』

『ちょ、オマ、ベート何してんのお前!? は? 俺を舐てる雑魚が気に入らない? いやどんなツンデレ!?』

(私は知っている。強くなることがどういう事か)

「なん、だ? この、風は!?」

 黒から……白、柔らかく、何処か暖かいその風は……。

「私は………」

『ならアイズ、こう考えたらどうだ? お前の目的である黒竜を倒したら、何をしたいのか。自分の未来を考えるのも、ワクワクするだろ?』

「私の人生を、面白楽しく生きていく!!」

 閃光と化した風が、歪んだ怪人を切り裂いた。




 



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