ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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 今回、ちょっと地味かも。
 そんなわけで初投稿です。




物語123

 

 

 

 天が翳る。

 

 普段はリゾート地として知られ、この日のメレン港の天候は澄み渡る程の青空に恵まれたというのに、それが嘘だと思える程の曇り空。

 

 季節的には蒸し暑くなる時期が迫っているというのに、この日のロログ湖はまるで真冬の様に寒く、肌に突き刺さるような冷気で満ちていた。

 

 広大なロログ湖の一部は凍り付き、冷気に巻き込まれた魚群は自分に何が起きたのか理解できないまま凍り付く。

 

 空に佇む【才禍の怪物(アルフィア)】はその冷気の発生源である彼女(・・)を見つめる。灰と翠のオッドアイで射貫くその先には、氷のドレスに覆われるエルフの王女が佇んでいた。

 

「フン、随分とらしくなったな(・・・・・・・)、まさか魔法の装填(・・)とはな。それで? その力でどうする? この辺りをその冷気で覆い、第二の《千蒼(タリア)の氷園》でも築くつもりか?」

 

 アルフィアの口調は変わらず、傲岸に満ちていた。しかし、その瞳は依然として眼下に佇むエルフの王女を捉えて離さない。

 

 彼女は理解していた。今自分の下で佇むのは先程の情けないエルフとはまるで違うことを。

 

 彼女の脳裏に過るのは嘗ての遠征の時、60階層と61階層の狭間にある“裏”の世界のこと。

 

 吹き荒ぶ吹雪の奥にいる(・・)怪物。当時のザルドをして化け物と称すべき未知なる存在。

 

 今のリヴェリアにはあの時見た怪物と似た何かを感じる。

 

 仕掛けるか、様子見か、アルフィアの意識が驚愕から戦闘態勢へ切り替わろうとするその刹那。

 

 王女が動く。手を翳し、此方を睨むように目を細めた瞬間。

 

 アルフィアの膝から先が凍る。

 

「っ、チィッ」

 

 油断……否、気付かなかった。

 

 詠唱も魔力の“起こり”も見せず、ただ此方を一瞥しただけで捉える規格外の魔力制御。

 

 いや、制御だなんて生温いモノではない。今のリヴェリアは魔法そのもの(・・・・・・)、冷気が辺りに満ちている時点でその事に気付くべきだった。

 

 今、このロログ湖は文字通りリヴェリアの支配下に置かれている。奴の冷気が届く範囲、その全てが奴の間合いなのだ。

 

「ならば、その冷気から吹き飛ばしてやろう」

 

 【咸卦法】で強化している腕を振り払い、纏わり付いていた冷気と霜を払う。……もし、素のままで受けていれば筋繊維の肉までも削げていた事を思考の隅へ追いやりながら。

 

 福音(ゴスペル)。アルフィアの代名詞とも言える一言(ワンワード)の詠唱、音の爆風で鬱陶しい冷気を吹き飛ばそうとした時。

 

「ッ、ガフ」

 

 更に一段、冷気が強まる。アルフィアに纏わり付いた強い冷気が詠唱の為に開いた口内を通り、気管を凍てつかせ、肺に一瞬の機能不全をもたらした。

 

 嘗ての時とは違い、今のアルフィアは健康体そのもの。更には【咸卦法】により身体の外も内も強化されている。

 

 彼女の詠唱を完全に封じたとは間違っても言いはしない、精々アルフィアの動きを一瞬だけ止める程度。

 

 そして、リヴェリアにはその一瞬だけで充分だった。

 

「漸く引き出せたぞ。お前の隙を」

 

「ッ!?」

 

 影が、灰の魔女を覆う。

 

「言いたいことは多々あれど、先ずはこれが先だろう」

 

 動けない。数年振りの咳に身体が硬直している。

 

「確と受け取れ。これが、お前が望んで止まない返礼だ」

 

 一撃。振り抜かれたリヴェリアの拳は確かにアルフィアの頬を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あば、あばばばばば……」

 

 目の前で繰り広げられている前代未聞の空中戦。自分達の所(ヘスティア・ファミリア)暴れん坊(アルフィア)良き隣人(ロキ・ファミリア)ママ友(リヴェリア)が現在進行形で行っているドッカンバトルにベジットはガタガタと震えていた。

 

「ど、どうしよう。まさかリヴェリアが闇の魔法(マギア・エレベア)を習得していたなんて……!」

 

 ベジットの脳裏に甦るのは、前世の頃に読み耽っていたとある学園魔法バトルの漫画。リヴェリアの使っている魔法がその漫画の主人公の少年が立ち塞がる強敵達を相手に、吸血鬼の師匠の下で会得した少年心を擽る禁忌の技に近かった。

 

 いや、何か魔力と気の合一とか長ったるいし、やり方もなんか既視感あるし、どうせなら【咸卦法】と名付けても良いんじゃね? なんて軽い気持ちでアルフィアに提案したのがいけなかったのか。

 

 まさかのリヴェリアが闇の魔法を繰り出して来るとは、ベジットの目をもってしても読めなかった。

 

 いや、大事なのはそこじゃない。

 

「ろ、ロログ湖の魚は大丈夫なのか? 漁獲量とか、毎年どれだけ獲れてるんだ? もし例年より下回ってたりしたら、その差額分を請求されたりしないか!?」

 

 確かにリヴェリアのやっている事は大したものだが、同時にバリバリ行っている環境破壊。その事実に、ベジットはこの後に待っているだろう後始末に大いに頭を悩ませていた。

 

 他にも、周辺への被害状況や住民達の人的災害。数えだしたらキリがない負債の数。ベジットは堪らず心の中の子供(○ギ)先生に助けを求めた。

 

『自分が蒔いた種です。自分で刈りましょう』

 

 おい、コイツ子供先生のガワを被ったクウラ様だぞ。心のウチにいる子供先生(偽)をかめはめ波で太陽に押し付けて、改めてベジットは現実と向き合う。

 

 戦況は五分五分か……いや、冷気という自然を掌握している分だけ、リヴェリアの方がやや優勢か。詠唱を潰され、顔面に一撃を貰うアルフィアにベジットは静かに見守るが……。

 

「まぁでも、何とかなるだろ」

 

 日頃からベジットに挑み続(・・・)けている(・・・・)アルフィアだ。確かにこの状況は彼女にとって不利かもしれないが……それだけ。

 

 なにせアルフィアには如何なる魔法も打ち消す魔導師殺し(・・)の魔法、【静寂の園(シレンティウム・エデン)】が備わっている。

 

 それは相手の魔法を完全に『無効化』する稀少魔法で、此方も【サタナス・ヴェーリオン】と同様に超短文詠唱。自身の魔法の威力も減衰させるデメリットはあるものの、全方位から魔法を撃ち込まれても無傷でいられる【静寂の園】は正しく破格と言えた。

 

 尤も、ヘスティア・ファミリア(ウチの派閥)は専ら肉弾戦が主体の脳筋派閥なので、同じ眷族同士で鍛練をする際はシレッと【静寂の園】を解除してたりする。

 

 特にベジットである自分と鍛練する際は本気で殺しに掛かる徹底ぶり。おい、リリルカやベルに対する優しさを自分にも少し分けて下さい。

 

 と、まぁそんな訳で申し訳ないがリヴェリアがアルフィアに勝てる可能性はほぼ無いに等しい。確かにリヴェリアの闇の魔法擬きは大したものだが……魔法主体である以上アルフィアの【静寂の園】を突破出来る術はない。

 

 今受けた一撃も魔法の副次効果とも呼べる冷気のお陰によるもの、アレも大した奇襲だが同じ奇策が通じる程アルフィアは優しくない(・・・・・)

 

 元よりLv.8とLv.7。両者の間にレベルの差がある以上、余程の事がない限り覆る事はないと思うが……。

 

「問題は、これ以上被害をどう抑えるかだが……」

 

 この時代に、冷凍された魚介類って需要あるのだろうか? なんて場違いな心配をしているのも束の間。

 

「………アレ?」

 

 ふと、アルフィアの方から力が膨れ上がるのを感じた。まさかと思い見上げると、打ち抜かれた頬を擦りながら獰猛な笑み(・・・・・)を浮かべている灰の魔女がいた。

 

「………もしかしてアルフィアさん、“鎧”を解いてます???」

 

 頬を引くつかせ、乾いた笑みが浮かぶ。

 

 ベジットの言う『鎧』とは、先程まで述べた【静寂の園(シレンティウム・エデン)】の事。自身に向けられた魔法の全てを無効化させる、外にも内側にも向けられた対魔導師の絶対的とも呼べる防御壁。

 

 デメリットは自身にもその効果は作用され、自身の放つ【サタナス・ヴェーリオン】の威力も著しく減衰させてしまうということ。

 

 そして、それを解除したという事は……。

 

「もしかしてアルフィアさん、ブチキレていらっしゃる???」

 

 今更ながら、ベジットはアルフィアの怒りップリを理解した。膨れ上がるのを気と魔力、それに比例するように立ち上る怒気。何だろう、心なしか彼女の灰色な長髪も逆立ち始めている気がする。

 

 アカン、このままではメレン港が死ヌゥ。後で八つ当たりの【ジェノス・アンジェラス】を受ける事を覚悟し、ベジットは急ぎ決闘に割って入ろうとするが。

 

 次に目にする………空を覆う無数の巨大な氷塊の出現に、ベジットは全てを察した健やかな笑顔を浮かべ指先で胸元に十字を描いた。

 

「これもうダメかもしれんね」

 

 ダメじゃねぇ、お前がやらなきゃ誰がやるんだよ。

 

 唐突に始まった大戦争、メレン港最後の日。

 

 君は、生き延びることは出来るか。

 

 

 

 

 

 

 

「………一先ず、“良くやった”と褒めてやろう」

 

 降り掛かる氷塊を砕き、周囲の冷気を吹き飛ばしてアルフィアは目の前に佇む彼女を見る。

 

「貴様のやっている事は有史以来……恐らくは二人目に連なる偉業に他ならないだろうよ」

 

 気という力を知り、力を内から引き出して全身に纏うという工程を経て、漸く思い至った境地。

 

 魔力、或いは魔法を、放出するのではなく己の裡に取り込む事で自身を魔法その物に変換させる技術。一歩間違えれば内側から物理的に砕け散る禁忌の術を、リヴェリアはその脅威的な魔力コントロールで制御している。

 

 その在り方はまさに……。

 

【精霊化】傲慢なエルフの王族が遂に神の分身の境地まで手を伸ばしたか」

 

 精霊とは神々が地上に降臨する以前の時代で、モンスターに苦しめられる人類を救う為に神々が地上に遣わした存在。

 

 神々の力を最も色濃く受け継いだ神の分身。

 

 その領域に魔法に秀でたエルフの王族が手を届かせるとは、ある意味で当然の帰結と言えた。

 

「………彼のお陰だ」

 

「あ?」

 

「彼が、私達に力を教えてくれたから、本来なら秘して独占する事も出来た技術を、彼は惜しみ無く教え、伝授してくれたからだ」

 

 何もかもが凍り付く世界で、リヴェリアは薄く微笑む。

 

「認めるよアルフィア、私は(・・)確かに彼の人柄に惹かれている。彼の在り方を好ましく思い、彼の強さに依存している。故に、だからこそ私は……」

 

「この力を以て、彼の力になりたい」

 

 ビキリ。と、何処か熱の籠った顔で言いきるリヴェリアにアルフィアの蟀谷(コメカミ)に筋が浮かぶ。

 

「………お前ごときが、奴の力に? ハッ、思い上がりも極まったな。奴にとって貴様の力なんぞ何の助けにもならん。たかが精霊ごときの力で何の役に立つ」

 

 因みに、その本人であるベジットは精霊どころか既に神の領域に踏み込んでいるということを、二人はまだ知らなかったりする。

 

 何で知らないかって? 聞かれてないから。

 

「別に力の有無だけが人を助ける条件とは限らんさ。例えばそうだな………手の掛かる娘を互いに抱えた時なんかは、良く話を愚痴りあったしな」

 

 その昔、アイズもリリルカもまだ幼年期と言われていた年頃。ヤンチャ盛りな二人に振り回され、ベジットとリヴェリアは互いに愚痴を言い合ったりした時期があった。

 

 “ウチのアイズ、もう少し落ち着いてくれないかしら~?”

 

 “え~? お宅のアイズちゃん、とても元気で良いじゃないですか~。ウチのリリなんていつもの大人しくて~、もっと活発になってもいいのに~”

 

 “リリルカちゃん、とても賢くて将来が楽しみじゃないですか~。ウチのアイズも見習って欲しい位ですよ~”

 

 “いえいえこちらこそ~”

 

 なんて、ママ友的な話の盛り上りがあったり等(一部歪曲アリ)、あの頃のリヴェリアとベジットは今よりずっと距離感が近かった。

 

 その頃を思い出して笑うリヴェリアにアルフィアは何故か無性にむかっ腹が立った。

 

「そういえば、ずっとお前に聞きたかった事がある」

 

「あぁ?」

 

 低く、ドスの聞いた声。ザルドや嘗ての時代を知る者が聞けば即座に避難し始める殺気。

 

 そんな事など意にも介さず、リヴェリアは続ける。

 

「アルフィア、お前が彼の為に自発的に何かしてあげた事って………あるのか?」

 

 答えられなかった。指示を出され、懇願された事は多々あれど、アルフィア自らベジットの助けになろうと、自ら進んで力を貸した事など……すぐには思い出せない程に記憶に残ってはいなかった。

 

 そんなアルフィアを見て、リヴェリアは今までとは違う挑発的で放蕩的で、蠱惑的な笑みを浮かべ。

 

「無いのなら、今度私から声を掛けるとしようか」

 

殺す(ゴスペル)

 

 音が炸裂する。これ迄とは違う威力と速度、リヴェリアが用意した無数の氷塊を纏めて粉砕する音の爆撃。

 

 砕かれた氷塊が更に弾け、二人を包むように氷の煙幕が辺りに充満する。分かりやすい罠だと、リヴェリアの目論見を看破したアルフィアが気を辿って捕捉する。

 

 一瞬だけアルフィアの気の感知が背後からの気配を察知する。しかし、それはリヴェリアではなくリヴェリアを模した氷の人形。やはりといった様子で襲い掛かるソレを手刀で砕くと、纏わり付くような冷気がアルフィアの指先を凍てつかせる。

 

(チッ、やはり氷の分身に自身の気を混ぜたか。奴め、ここへ来て気と魔力を並列して使いこなし始めている)

 

 魔法一辺倒だったリヴェリアが、この土壇場で気を使い分身に(デコイ)の役割まで担わせている。

 

 正に氷の支配者。大気も凍てつく程の冷気を充満させ、着実に此方の体力を奪おうとしてくる。

 

 成る程、確かにリヴェリアは魔導師として一段も二段も成長を遂げている。その事実は認める他ない。

 

 しかし。

 

「ここだな」

 

「ッ!?」

 

 視界も悪く、幾体もの氷人形の囮があるとはいえ、アルフィアもまた時代にその名を刻む強者の一人。

 

 嘗ての最強派閥であるヘラ・ファミリアの中でも、異質の力を持つ【才禍の怪物】。

 見て理解し、学び、未知を既知として対応して対処する。その速度はオラリオや全世界見渡しても群を抜く程に突出していた。

 

 故に、本物のリヴェリアの姿を捉えるのもワケはなく、防御をすり抜けて彼女の顎を打ち砕く。

 

「……ゴッ!?」

 

「これで詠唱は出来まい」

 

 振り抜いた拳からリヴェリアの顎が砕かれる感触が伝わる。既に詠唱を必要とせず、念じるだけで魔法を行使する彼女だが、詠唱を必要としていない訳じゃない。

 

 詠唱を必要とする手段を封じた。それ以上にその腹の立つ顔に一撃を入れてやった事実にアルフィアから笑みが溢れる。

 

 しかし、そう思うのも束の間。顎を砕かれ、衝撃で体が仰け反るリヴェリアが、咄嗟にアルフィアの腕を掴む。

 

「ッ!」

 

 瞬時に凍てつく左腕、内側から凍る感覚にアルフィアの顔が苦痛に歪む。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ───」

 

 次にアルフィアは目を見開く。リヴェリアの顎は確かに砕かれた筈、回復する素振りは無く、手応えも確かに本物。

 

(コイツっ!)

 

 リヴェリアは砕かれた顎を、あろうことか冷気で(・・・)凍らせて(・・・・)無理矢理に固定させていた。

 

 立ち上る冷気、パキパキと骨が凍る音が聞こえてくる。痛みと冷気で意識も朦朧としているだろうに、それでも此方を鋭く射貫いてくるリヴェリアの眼光。

 

 嘗てない執念を見せるリヴェリアにアルフィアは初めて彼女に対して敬意を抱く。

 

「……良いだろう。付き合ってやる」

 

 最後は自身の得意分野の撃ち合い。足を止めて詠唱を唱える両者の間に極大の魔力が渦巻き出す。

 

「【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪】」

 

「「「【終末の前触れよ、白き雪よ───」」」

 

「!」

 

 聞こえてくる幾重もの声、そこから感じる魔力の渦にアルフィアは驚きに目を剥く。自身の周囲に現れる複数の凍り人形、リヴェリアの姿を模した氷の人形が揃って詠唱を唱え、それに共鳴するように辺りに魔力が満ちている。

 

(成る程、これが奴の狙いか)

 

 さしずめ“多重詠唱”。

 

 魔力を装填し、自らを擬似的な精霊となって周囲の環境ごと自身の支配下に置く。その上で分身体と詠唱を重ねる(・・・・・・)事で威力を増大させる。リヴェリアの奥の手。

 

 それは気という概念を経て、新たに開拓した魔法の境地。並々ならぬ鍛練と研鑽の果て、今奴はその全てを出し切ろうとしている。

 

 自分と、正面から撃ち合う為に。

 

 顎が砕かれようと、自身の体にどれだけ鞭を打とうとも、決して引かないリヴェリアにアルフィアは呆れの混じった溜め息をこぼす。

 

「【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】【神々の喇叭、精霊の竪琴、光の旋律、すなわち罪禍の烙印】」

 

「!」

 

 そして紡がれる高速詠唱。驚く事はない、既に高速詠唱に耐えうるだけの下地と魔力は組んである。

 

 後は完成しつつある詠唱という器に、咸卦法で練り上げた高純度のエネルギーを詰め込むだけ。

 

 膨れ上がるエネルギーが空間を歪ませる。外野から悲鳴やら制止の声が聞こえてくるが………どうでも良い。

 

 目の前の女を理解(ワカ)らせる。二人の頭にあるのは、ただそれだけ。

 

「【箱庭に愛されし我が運命よ砕け散れ。私は貴様を憎んでいる】【代償はここに。罪の証をもって万物を滅す】【哭け、聖鐘楼】」

 

「「「閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬───我が名はアールヴ」」」

 

 高めに高めた極大のエネルギー。暴発なんて起こさせない、そんなつまらない幕引きには至らない。

 

 二人が求めるのは明確な結果だけ。即ち、どちらが上でどちらが下か。

 

「ジェノス・アンジェラス」

 

「「「ウィン・フィンブルヴェトル」」」

 

 繰り出される音と氷の魔法、ぶつかり合うエネルギーが臨界に達し、メレン港をまるごと呑み込もうとした時。

 

「いややりすぎぃっ!!」

 

 金髪碧眼の男が放つ拳圧が、その全てを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここは」

 

 気が付けば、アルフィアの視界には見慣れた天井が広がっていた。

 

 窓を見れば既に空は薄暗く、夜の帳が落ちようとしている。一体どれだけの時間が経過したのか、少しばかり混乱するアルフィアの耳に深い溜め息が聞こえてきた。

 

「俺達の本拠地(ホーム)だよ。ったく、派手に暴れやがって、あの後大変だったんだからな」

 

 隣を見れば、今まで看病していたのであろうベジットがベッドの横にある椅子に座り、呆れと安堵の混じった表情で見下ろしていた。

 

「……何日寝てた?」

 

「ほんの数時間だよバカたれ。おかげさんでロキ・ファミリアに“仙豆擬き”を何個かやるハメになっちまった」

 

 あの後、ベジットの一撃で吹き飛んだ二人。フィンがリヴェリアを、ベジットがアルフィアを回収し、酷い凍傷と怪我をしていた二人を前にエルフ達は騒然となった。

 

 急ぎオラリオからアミッドを連れてこようとしたロキ・ファミリアをベジットが制止し、リヴェリアの元へ歩み寄る。

 

 顎は砕かれているので自力では呑み込めないリヴェリア、そんな彼女に仙豆擬きを無理矢理押し込ませ、咀嚼をせずに仙豆擬きを呑み込んだリヴェリアは瞬く間に回復。

 

 回復薬(ポーション)どころか万能薬(エリクサー)以上の回復力にフィンもロキも瞠目したのは何気に面白かったとベジットは語る。

 

「その後は鍛える筈だったロッド達やニョルズ様、ギルド支部を含めたメレン港の人達への謝罪行脚。アルフィア、今度お前も連れていくからな」

 

「………分かった」

 

 まさか同意を得られるとは思って無かったのか、アッサリと了承するアルフィアにベジットは固まる。

 

「………なんだ?」

 

「あ、いや……まさか了承するとは思わなかったから」

 

「私はこの派閥の一員で、お前はその長だ。なら、命令に従うのは当然だろう」

 

「お、おう。そうか」

 

 何だろう、なんか……何時もと違う。普段の傲慢な態度は鳴りを潜め、まるで叱られた子供のように大人しくなっているアルフィアに、ベジットは妙な肩透かしを喰らう。

 

 本当ならここでどうして彼処までムキになって戦うのかを問い詰めたかったが、事情は後で聞くとして今は少し放っておいた方が良いかもしれない。

 

「そんじゃあ目も覚めた事だし、俺は行くよ。一応、後でザルドに飯届けてもらうようにするからな──」

 

 そういって椅子から立ち上がろうとした所で。

 

「ベジット」

 

「ん?」

 

「お前にとって、【九魔姫(ナインヘル)】はどういう存在だ?」

 

 視線を窓に映る空へ固定したまま、訊ねてくる。

 

「【九魔姫】って、リヴェリアの事か? 普通に友達だと思ってるけど? あと冒険者の先輩」

 

 あっけらかんと、そう応えるベジットにアルフィアは「そうか……」と返す。

 

「なら、それならベジット、私は……」

 

「あん?」

 

「………いや、何でもない」

 

 どうやら、本当に今の暴君(彼女)は体調が優れないらしい。普段なら言葉の刃でズバズバと斬りかかってくるのに、その勢いもない。

 

 軽く先の病がぶり返したのかと焦るが、流石にそれは言い過ぎか。やっぱ謝罪行脚は自分一人で行くことを決めたベジットはアルフィアに休んでろと言い含めて部屋を出る。

 

 ガチャリと扉を開けた、その時だ。

 

「わわわ! ダメだよヴェルフ君、ジッとしてなきゃ!」

 

「そうだよ! 今仙豆擬き持ってくるから! 大人しくてしてってば!」

 

「止めないで下さいアリス先輩、ヘスティア様も。団長、此方にいたんですか」

 

「おぉ、ヴェルフ……って、どしたんお前、そんな傷だらけで」

 

 通路の向こうからやって来たのは、傷だらけのヴェルフだった。晴れ上がった顔、肩から流れる血の量から結構な深傷を負っている様だ。

 

「すんません団長、無様を晒します。でも、どうしても報告しなくちゃいけないと思いまして……!」

 

「いや、それは良いんだけど……」

 

 それよりも怪我の手当てをと、一先ずアリスに保管している仙豆擬きを取りに行かせ、ヴェルフを床に座らせる。

 

 恐らくはダンジョンからまっすぐ此方に来たのだろう、出発した装備のまま此処までやって来たヴェルフに素直に感心する一方、ベジットは何となく嫌な予感がした。

 

「スミマセン団長、ベルがイシュタル・ファミリアの連中に攫われました!」

 

「…………」

 

「首謀者は【麗傑(アンティアネイラ)】のアイシャ・ベルカ! 奴は、奴等は主神である女神イシュタルにベルの貞操を献上すると、そう言ってました!」

 

 息も絶え絶え、此処まで来るのに精も根も使い果たしたのだろう。伝えるべき情報を全て言い終えたヴェルフは最後に自分の無力さを嘆き、申し訳なさを口にしながら、眠るように気絶した。

 

 ヴェルフを抱え、仙豆擬きを持って戻ってきたアリスに渡す。そして恐る恐るアルフィアが寝ている部屋、その扉をソーッと開けると。

 

 灰の魔女の姿は何処にもなかった。あるのは彼女の装備である漆黒のドレスのあったクローゼットが乱暴に開けられた痕跡と、空になった数本の精神回復薬(マジックポーション)の瓶と開け放たれた窓だけ。

 

 ソッと、ベジットは扉を締める。その後ろではヘスティアが青い顔をしてガタガタと震えている。

 

 そして。

 

「ヘスティア・ファミリア、全員集合ォォォォッ!!」

 

 必死な形相で仲間達を召集するのだった。

 

 

 

 

 





Q.リヴェリア、アルフィアに追い付いた?
A.初見の技が多く、奇抜のために不意は突けましたが、次からは普通に対処します。

Q.アルフィアとの差は?
A.火力面では並べたかも知れないが、それ以外はまだ遠く及びません。

Q.最終的にどっちが勝つ?
A.何を以て勝利とするのか。

Q.カーリー・ファミリアは何してるの?
A.現在、メレン港を観光中。
「この焼魚、美味いな」
「このイカ焼きとやらも中々だ」
「滅茶苦茶満喫しとるの」

Q.ロキ・ファミリアは?
A.リヴェリアを助けてくれて、更に貴重そうな回復アイテムを幾つも戴いてしまった為に流石に押し黙る他ない。
尚、今回の騒動に対してフィン自ら謝罪行脚に向かった模様。

Q.じゃあ、ロキ・ファミリアとも仲直り?
A.はてさて……




次回、歓楽街最後の日。


「……あの、(嘘)が付いて無いんですけど? ………ねぇ、ちょっと?」

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