ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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今回、主人公の過去にチョロっと触れます。

そんな訳で初投稿です。


物語128

 

 

 

「ふーん、人語を話せて理性と知性のあるモンスター【異端児(ゼノス)】ねぇ」

 

 ヘファイストス・ファミリアの本拠地(ホーム)、【ヴァルカの工房】その執務室にて、鍛冶の女神であるヘファイストスが反芻した言葉を漏らす。

 

「その、ゴメンねヘファイストス。これはウラノスから直々に口止めされていた案件でさ、下界の人類(こども)達への影響力も考えて、今まで黙ってたんだ」

 

「火急の用件でいきなり話をしたいと言われた時は身構えたけど……まぁ、確かにこれは秘すべき案件ね。今の下界ではその異端児達は劇薬に過ぎるもの」

 

 ソファーに座り、話の説明を終えたヘスティアは納得してくれたヘファイストスの様子に安堵し、今まで手を付けていなかったお茶を口に付ける。

 

 すっかり冷めてしまったが、喉を潤すには丁度良い。温くなったお茶を口に含んで飲み込むと、改めてヘスティアは今回話し合いに応じてくれたヘファイストスに向き直る。

 

「それで、ヘファイストスに頼み……というか、お願いがあるんだけど、もし今後街でモンスターに関する騒動が起きたら、手を出さずに静観してて欲しいんだ」

 

「あら? 手助けは必要ないのかしら?」

 

「そりゃあ、君達の力を借りれたいのなら喜んで借りるけどさ、既にヘファイストスには黒竜の件で滅茶苦茶世話になったんだ。これ以上頼るわけにはいかないよ」

 

 今回、意味深に話がしたいとアポ無しでやって来た神友のヘスティア。天界にいた頃のようなグータラな気質はすっかりと鳴りを潜め、今では確り主神をしていた彼女からの突然の訪問。

 

 聞かされる内容は理性と知性を兼ね備えた人語を理解するモンスターという中々の案件。しかもそんな異端児の一体を成り行きとはいえ自分達の本拠地で保護しているというオマケ付き。

 

 以前の自分であれば言葉を失い、沈黙し、頭を抱えていただろう。どう考えても厄ネタである。

 

 それでもそこまで取り乱さず、割と淡々に受け入れていられるのは、偏に目の前の神友の最初の眷族、ベジットによる黒竜単独討伐という特大の厄ネタを既に知っているが故か。

 

(毒されてるわねぇ、私も)

 

 不変とされる神が変に慣れてしまっている。これが果たして良いことなのか、こればかりは零能である身では計り知れないため、ヘファイストスは苦笑いを浮かべる他無かった。

 

「バカねぇ、今の話を聞かされて黙って見過ごせる訳ないでしょ。一応、この事は椿にだけ報せとく。あの子も口は堅いし、何かあれば手助け位してあげられるわ」

 

「あ、ありがとうヘファイストス! でも、本当に良いのかい?」

 

「えぇ、アナタ達だけに任せたら、余計事が大きくなりそうだもの」

 

 特にベジット辺りがと、ビシリと指を指してくるヘファイストスにヘスティアはアハハーと笑い、反論出来なかった。

 

「でも、この話を一部とは言え外部に漏らすなんて、ウラノスはよく許したわね」

 

「あぁ、いい加減異端児君達の数も増えてきて、隠すのも一苦労になってきたからさ、今回の件をふまえてウラノスに直訴したんだ。いい加減、事情を知る仲間を増やせってね」

 

 創設神ウラノスは、自身のダンジョンに対するやり方に加えてギルドの長でもあることから、他の派閥よりダンジョンに関する知識は多く、迷宮のバグとも呼べる異端児に関する情報もその一つ。

 

 故に他の神々からはよからぬ悪感情を向けられたりする事も少なくはない。

 

 年々増加傾向にある異端児達の出現率。今はまだ様子見を続けられる程度ではあるが、いつまた今回のベルとウィーネの様な事が起きるか分からない。

 

 故に、味方とは言わなくとも敵対せず、ヘスティアが望むのは万が一の時は目を瞑り、異端児を発見或いは遭遇した際はガネーシャ・ファミリアかギルド、もしくはヘスティア・ファミリア(自分達)に一言伝えてくれたら良いなぁという程度の願い。

 

 いや程度で済むかこれ?

 

 兎も角。異端児達に対して無関心でも良いから敵対せず、事情を共有してくれる仲間を持つべきだと、ヘスティアはウラノスに直訴した。

 

 そして、ウィーネとベルの運命めいた出会いにウラノスも思うところがあったのか、ヘスティアのこの訴えを承認。ウラノスとフェルズを交えながら、ヘスティアは事情を説明する派閥を厳選した。

 

「そこで、最初に選ばれたのが君って訳さ!」

 

「成る程、貧乏クジを引かされた訳ね」

 

 なんか上手いことを話を纏めようとするが、要するに苦労を分かち合う仲間が欲しかったというだけの話。呆れてしまうヘファイストスだが、それでも仲間外れにされるよりはましかと思い、取り敢えず湧き出てきた不満は呑み込むことにした。

 

「それで、後は何処に事情を説明するつもり? タケミカヅチは……まぁ、成り行き上知ることになるわよね」

 

「まぁね。……一応、この後はミアハかディアンケヒトの所にも行くつもりだよ。二柱とも同じく黒竜に関しても情報を分かち合っている仲だから、無下にはしない筈だよ!」

 

「……ミアハは兎も角、ディアンケヒトは果たして耳を貸すかしら?」

 

「……ベジット君も似たような事を言ってたよ」

 

 ヘファイストスの指摘にヘスティアも強く否定出来なかった。先日そのベジットも似たような事を言われたと、乾いた笑みを浮かべている。

 

「それで? そのベジットは今どこに?」

 

 本日、ヘスティアの護衛を務めているのは、風の精霊のアリス。本来ならベジットが同行する筈が、どういうわけか姿を見せない。

 

 ヘファイストスもこういう大事な話は何だかんだベジットも同席しているから、てっきり来るものかと思っていたから……少し、拍子抜けだ。

 

「あー、実はベジット君は今、ダンジョンに潜っていてね。主に小遣い稼ぎと本拠地の修繕費の為に」

 

「修繕って、アンタ達なにやってんのよ」

 

「その、アルフィア君相手に自由恋愛を懸けた一勝負をしたもので……」

 

「いや、なにしてんのよ」

 

 因みに、勝負方法は互いの言葉を尽くしての討論勝負。形式は某逆転裁判風であったとベジットは語る。

 

 折角異端児という特大の爆弾の話をしていたというのに、白熱したという討論の方が気になりだしたヘファイストスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キシャァアアア!!」

 

「うん、元気が良くて大変結構」

 

 迷宮58階層。通称“竜の壺”の最下層。

 

 49階層の大荒野と同様、迷路などが一切ない単一の巨大空間にて、無数の竜が唸り声を上げる。

 

 砲竜──ヴァルガング・ドラゴン──の取り巻きたる一頭の飛龍──イル・ワイヴァーン──が、殺意と本能を全開にして黒髪の青年──ベジットへ飛来するが、飛龍の剥き出しとなる牙がベジットの首元に突き立てるよりも速く、ベジットの何気ない大剣の一振によって飛龍の頸が飛ぶ。

 

 自身が斬られた事にすら気付かずに絶命し、魔石だけを残して消滅する飛龍。動揺してざわつく竜達を余所にベジットは落ちた魔石を拾い上げる。

 

「さて、コイツらを片付けたらまた54階層に戻らねぇと……」

 

 現時点のベジットの迷宮単独到達階層は54階層、一つ一つの階層を隅々までマッピングしてきたベジットは、まだ途中で書ききれていない羊皮紙を眺めながら一人愚痴る。

 

「やっぱ面倒くせぇよなぁ、下と上の行ったり来たりは……」

 

 一つ一つの階層をゆっくりじっくり見て回り、やり込み要素としてマッピングも完璧に仕上げたいとしているベジットとしては、階層を貫通してくる砲竜達による狙撃は他の冒険者達とは別の意味で鬼門としていた。

 

 此方が夢中になって地図製作に励んでいたら、下からモンスターによる砲撃が飛んでくるとか、普通に鬱陶しくて邪魔。最初の頃はそんな仕掛け(ギミック)も割と楽しめて、飛んでくる砲撃も蹴り返してやったりもしたが、今ではそれにも飽きてしまっていた。

 

 だからここ最近はもう面倒臭くなったので、狙撃されたら直後に58階層へ殴り込み、竜種であるモンスターを狩り尽くし、その後元いた階層へ戻るという手間を繰り返している。

 

 時折、幾つもの首を生やした多頭竜のドラゴンが沸いてでてちょっと面白かったが、それも四回目頃には飽きてしまい、この階層での狩りはすっかり作業と化してしまっている。

 

 寧ろ、何回も降り立ってしまっているので、58階層については既に隅々まで頭に記憶してしまっている程だ。

 

 まぁ、資金繰りとして使えるから、この手法はまだ当分使えそうだが……。

 

「あーくそ、やっぱ一人でマッピングするにはこの辺りが限界かぁ。次からはリリとベートも連れてくるか?」

 

「■■■■■ッ!!」

 

 その一方で、自分達の事を見向きもせず、何なら敵意も殺意もない。ただ目の前の自分達を片付ける作業としか認識していないベジットに竜達は怒りの雄叫びを上げる。

 

「さて、そんじゃあ始めるか」

 

 顎を開き、エネルギーを溜め始める砲竜達。ベジットも剣を肩に担いで一歩踏み出そうとした───その時だ。

 

 遥か頭上、砲竜の火球によって作られた巨大な孔から、すさまじい速度で一つの影が降り立つ。落下というより投下、或いは流れ落ちる流星の如く、影はそのまま砲竜の脳天をカチ割り、地面に着弾。

 

 爆風が舞い上がる砂塵を吹き飛ばし、周囲の飛龍を屠った砲竜ごと吹き飛ばす。派手な登場だなぁとベジットは呆れるが、感じ取れる気はこれ迄自分が感じたものとは別のモノだった。

 

(一瞬オッタルかと思ったが……違ェ、誰だ?)

 

 影の大きさから一瞬オッタルと見間違えたが、違う。一体誰だと目を見開くベジットの前に、ズシンズシンと足音が近付いてくる。

 

 それは、見上げる程に大きい黒いミノタウロス。アレ? ミノタウロスってこんなんだったっけ? と、ベジットが不思議に思った次の瞬間。

 

「貴殿が、ベジットか?」

 

 喋った。流暢な発音で、丁寧な言葉遣いのミノタウロスにベジットは目の前のミノタウロスが異端児(ゼノス)であると確信する。

 

「あぁ、俺がベジットだ」

 

 敵意はない。殺意も、明確な悪意もない。目の前の黒いミノタウロスが抱えているのは何処までも純粋な願望(ねがい)のみ。

 

 すると、黒いミノタウロスは両膝と両手を地につけて、懇願するように頭を下げる。

 

「貴殿を、最強の冒険者と見込んで頼みがある。どうかこの俺を───鍛えて欲しい!!

 

 土下座をかまし、懇願してくる黒いミノタウロス。突然の事に目を丸くさせるベジットだが……。

 

「えっと……取り敢えずその話はアイツ等片付いた後でもいい?」

 

 一先ず、この場の整頓から始めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、前世からの願い、ねぇ ソイツにリベンジしたいからアステリオス君は俺に師事してきたって訳ね」

 

「その通りだ。だが、勘違いはしないで欲しい。私は別に復讐や仇討の為に貴方に師事したいわけではない。今こうしている間にも強くなっている好敵手に恥じない戦いをする為であるが故」

 

 一先ず、58階層のモンスターを全て倒し、当分の間リポップしてこないようジャガ丸君(ジャガー・ノート)が出てこない程度に階層のあちこちに傷を入れたベジットは、正座している黒いミノタウロスことアステリオスに向き直る。

 

「まぁ、強くなりたい理由は分かったよ。それが復讐でないことも、お前さんのその姿勢を見れば分かる。それで? そのリベンジの相手は誰なのか……覚えてたりは?」

 

 ベジットの言葉にアステリオスは首を横に振る。まぁ、それはそうだろう。幾らダンジョンで無限に沸いて出るモンスターと言えど、別に自分が倒される前の記憶を持ち出す事はないのだから。

 

 人類の天敵としてダンジョンから生まれ、感情すら持たずに殺戮の限りを尽くす。それがこの世界のモンスターだ。

 

 だからこそ、その絶対的理から抜け出した異端児が異端児足り得る所以であり、モンスターからも狙われる理由なのだ。

 

「覚えているのは……光、目映い程の光と、私を屠った強い雄」

 

 アステリオスが語るのは、自分を倒した一人の冒険者の事。今際の際と消滅寸前の記憶である為、抽象的で部分的な表現しか出来ていないが、目の前の彼がその光景に魂レベルで刻まれているというのは、ベジットにも理解できた。

 

(しかし、前世か。異端児(コイツら)を見ていると()の自分を思い出すのは、俺が転生者だからなのかね)

 

 思い返すのは古い記憶。自分がベジットではなく■■■■として生きていた頃。

 

 昔、自分には一人の友達がいた。他にも友人と呼べる奴は何人かいたが、当時一番仲が良くて、学校帰りは何時も話題の話で盛り上がっていた。

 

 ソイツは昔から身体が弱く、小学校の頃は其処まででは無かったが、中学に上がってからはより体調が悪くなり、三年の最後辺りは殆ど顔を合わせる事もなかった。

 

 ソイツはとあるキャラクターに凄く入れ込んでいて、それはベジットの対となる存在。つまりゴジータを愛していた。

 

 小学校の頃は学校でもその帰りも、常に話題としているのは“ベジットとゴジータどちらが強いか論争”。フュージョンポーズするゴジータはダサいだの、30分しか戦えないゴジータではベジットには勝てないだの、ポタラというチートアイテムでしか成り立たないベジットはあの場限りの存在だのと、子供特有の持論で良くもまぁ飽きもせず語り合ったモノだ。

 

 でも、ソイツは中学卒業後に何処かの大きな病院へ入院となり、その後はそのまま顔を合わせる事無く、アイツは病で逝ってしまった。

 

 何度か面会を求めたが、弱った自分を見せたくないとかで、結局俺はアイツと決着が付かないまま、死に別れとなった。

 

(アイツも、今頃は何処かの世界で元気にやってんのかね。それこそ、ベジットになった俺と対を為すように……)

 

 其処まで考えて、ベジット(■■)は首を横に振る。前世というワードから連鎖的に思考が巡り、ついついセンチな気分になってしまった。確かめようのない“もしも”に対する思考を切り上げ、ベジットは改めてアステリオスに向いた。

 

「まぁ、お前さんが強くなりたい理由は分かった。……良いぜ、暫くの間だが俺がお前の面倒を見てやる」

 

「っ! 有り難い」

 

 ベジットの了承の言葉にアステリオスは深々と頭を下げる。なんだか武人みたいだなと、そこいらの冒険者よりずっと紳士的なアステリオスにベジットは苦笑う。

 

(さて、取り敢えずコイツをどのくらい強くするべきか。潜在能力(ポテンシャル)はあるみたいだし……)

 

 言葉からして、どうやらアステリオスが好敵手(ライバル)と見定めているのは第一級冒険者らしいし。

 

(取り敢えず、オッタル級(Lv.8)を目指して鍛えるとしますか)

 

 初めてモンスターを弟子にする。後に、ベジットはこの選択を頗る後悔することになるが……今はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 







Q.主人公の前世ってどんなもん?
A.当たり障りのない普通の人生(本人談)




 以下蛇足(読まなくても大丈夫!)

 普通に高校、大学と進学し、無事にブラック企業へ就職。朝早くから夜遅くまで仕事をし、その一方で推し活とかしてた。
 社会人になってからは推し活以外嫌なことばかりの人生だったが、高校から大学時代の頃、バイトのカフェで働いていた時は中々楽しかった記憶がある。
 中でも、母親との折り合いが悪く一人で単身上京し、学費も生活費も稼いでいるとか凄い子。
 そんな頑張り屋なあの子を応援してやりたくて、年上ながら少しばかりお節介をしたのも一度や二度じゃない。
 頑張っている女の子にカッコつけたくて、時々「任せろ」なんて重い荷物運びを肩代わりしたこともある。
 今思えば、相当痛い奴である。いいですよ先輩と、遠慮がちに断る女の子の言葉を聞かずに善意の押し付けとか、彼女にとっては面倒くさく、そして余計なお節介に見えた事だろう。

 ■■■■が大学を卒業し、バイトを止める半年間の記憶。

「まぁ、任せろなんて言ってた奴が過労で死ぬとか、それなんてブラックジョークだよハハハ」

 そう言えば彼女、なんだかやりたいことが出来たと言っていた気がする。

『私、やりたいことが出来ました! 何年かしたら先輩にも手伝って貰いますので、覚悟していて下さいね!』

 結局、彼女は自分に何を手伝わせるつもりだったんだろう?
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