ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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ハチャメチャが押し寄せる。

そんな訳で初投稿です。



物語13

 

 

 

 

 ────中央広場の決起直後。バベル、会議室。

 

 最後の戦いに於ける部隊の編成。戦いの総指揮を受け持つ事になったロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナ。

 

彼の俯瞰した視点と直感によって編み出された作戦は正道と奇抜、二つの性質を併せ持ち、尚且つ彼自身の直感によって構成されていた。

 

「編成を上下二つ、地上はフレイヤ・ファミリアと他派閥の混成部隊。そして地下………ダンジョンはワシとリヴェリアとアイズ、そしてアストレア・ファミリアの小娘、この少数部隊で挑む。これは分かった」

 

 剰りにも偏った編成に最初は誰もが疑問に思った。地下から来るのは深層の階層主、或いはそれ以上の脅威に【重傑(ガレス)】と【九魔姫(リヴェリア)】、そして対モンスターに特化したというアイズが編成されるのは理解できる。

 

 だが、其処へ加勢されるのが正義の眷族(アストレア・ファミリア)のみという事で、ギルド長であるロイマンは、最初はフィンに食って掛かった。

 

地上から攻めてくるのは嘗ての最強の二人、【暴食】と【静寂】の二人はそれぞれ単体で深層の階層主すら圧倒する力がある。

 

 他にも、地上には厄介な闇派閥の眷族達がまだ数多く健在している。そんな連中を相手に対して戦力の分散、今更ながらロイマンは異議を唱えた。

 

しかし、どちらにせよ一度戦いが始まれば戦力の追加投入は困難になる。他にも、これ迄の闇派閥の攻勢で何か違和を感じたフィンはダンジョンにも戦力を宛てる事を譲らなかった。

 

 結局、出てくるのが大最悪(モンスター)だけなら、それだけを討伐して地上に急いで戻ればいい。そんなアイズからの提案に乗ることで、作戦はフィンの案で通す事になった。

 

 リヴェリアもガレスも団長として認めているフィンの采配に異議を唱えるつもりはない。ただ気になったのは……。

 

「うん? 説明に何か気になることでもあるのかい」

 

「いや、作戦自体に異議はない。気になったのは、()の事だ」

 

「奴? ………あぁ、()ね」

 

「うむ、噂のベジットじゃ。先の大通り(メインストリート)で、ワシは奴の力の一端を見た。未だ満足に顔も合わせていないが………あのベジットという男、相当できるぞ。部隊に編成させなくてよいのか?」

 

 ガレスが思い返すのは、先の大通りにて【暴食(ザルド)】と対峙した時。奴の膂力は同じく力自慢のガレスを圧倒し、【象神の杖(アンクーシャ)】ことシャクティ・ヴァルマを寄せ付けなかった。

 

多くの市民と一柱の神が危機に晒され、それでも圧倒的力の前に攻め手が取れずに二の脚を踏んでいた時、自身の横から閃光の如く何かが駆け抜けた。

 

 閃光はザルドを轢き飛ばし、それが最近耳にするベジットなる新米だと知った頃には、何もかもが終わった後だった。

 

「あぁ、それはウチも思ったわ。あのドチビ、何処で拾ったか知らんが、トンだ化物を連れてきよってからに。………あの兄ちゃんを頼れば、戦力も余裕が出るんやないか?」

 

「ロキ、ベジットは化物(モンスター)じゃないよ?」

 

「あ、うん。せやな、化物は言いすぎたな。ごめんなさい」

 

 純粋な眼差しで見つめてくる少女に、ロキはタジタジになって訂正する。

 

(ちゅーか! なんかアイズたんそのベジ某に懐き過ぎやないか!? どないなっとんねんリヴェリアママッ!?)

 

(誰がママだ。あとベジットだ。態々某とか付けてやるな)

 

 恐らくは、ベジットに何らかの父性、或いはそれに近しいモノを感じているのだろう。本拠地(ホーム)に戻ってきたアイズは今日までずっとベジットの事をずっと話していたのだから。

 

そんな彼女たちの小声での寸劇は、フィンの咳払いで止められた。

 

「ンン、……そうだね。ガレス、君の言う通りベジットの力は未知数。その実力はもしかしたら男神(ゼウス)女神(ヘラ)、それぞれの団長達に匹敵するかもしれない」

 

 ゼウスとヘラ、それぞれの派閥にて最強の双璧と成していた最強の男と最恐の女。

 

嘗て自分達が幾度となく挑み、そして幾度となく敗れ、未だに越えられていない壁。そんな二人とベジットは並ぶと語るフィンに、ガレスはそこまで驚きはしなかった。

 

 嘗ての最強(二大派閥の長)に並ぶ実力者。出自はどうあれ、その事実に疑問を挟む暇は………今はない。

 

「………成る程、確かにそれならば下手に部隊に入れず、自由にさせた方がいい、という事か」

 

「そんな所だね」

 

「カーッ、何でそんな奴が呑気に外におるんや。全く、もう神々(ウチら)(ルール)ガタガタやん」

 

 既に、フィン達ロキ・ファミリアの三巨頭はベジットをただのLv.1の新米とは見ていない。ザルドという最強の一角を吹き飛ばした時点で、それはもう確信している。

 

 しかし、だからこそフィンはベジットを単独で、本人の自由意思に任せるとだけ指示を留めている。それは、彼自身が自由に動けるからこそ、その力を充分に発揮できると理解しているから。

 

「それに、これは僕の直感なんだけど、その方がきっと凄いモノが見られる。そんな気がするんだ」

 

 きっと今日、オラリオは一つの歴史を新たに刻まれる事になる。それは闇派閥でも、嘗ての最強達でも、ましてや自分達でもない。

 

たった一人の新米により、ハチャメチャな歴史が刻まれるのだと、自らを勇者と名乗る小人族(パルゥム)は根拠も無しに確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────闇派閥の攻撃は、各都市門が破壊される所から始まった。

 

最初の大抗争の時、人々をオラリオを囲む城壁から遠ざけ、その際に手際よく火薬を仕込み、爆破。崩れ行く都市門の光景に誰もが視線を誘導される。

 

 更に、破られた城門から沸いて出てくる様に現れるのはモンスターの群れ。闇派閥のモンスター使い(テイマー)が使役する化物達に加え、死兵と化した闇派閥の構成員が雪崩のように進攻を開始する。

 

多くの冒険者がこれを迎撃。都市の砦を守りながら、ひたすらにモンスターを狩り、闇派閥を倒していく。

 

そんな中、ベジットもまたモンスターを狩り、他の冒険者達の援護に回っていた。

 

「ったく、随分と仕込みをしているなぁ闇派閥ってのは。しかもこれ、どう見ても一つの組織だけで出来る規模じゃねぇだろ」

 

 モンスターは兎も角、押し寄せてくる闇派閥の構成員は濁流の様に流れ込んでくる。明らかに一つのテロ組織が用意できる仕込み、その範疇を越えている。

 

モンスターの強さはこれ迄何度か外で倒してきた奴と変わらない。ダンジョンのモンスターは外のモンスターとは比較にならない程強いと聞くから、恐らくは外のモンスターなのだろう。

 

尤も、そんな些細な違い(・・・・・)に気付ける程、ベジットの心中に余裕はない。

 

「ザルドは、ザルドは何処いった? っくそ、さっさと地上を片付けてアイズ達の所に援護しなくっちゃ、いけないってのに!」

 

 押し寄せてくるモンスターを片手間に蹴散らしながら、呟く。

 

 先程から地下深くから感じる違和感、大きな一つの気配しかなかったモノとは別に、幾つか増えている(・・・・・)気がする。

 

 未だに()の様に極めておらず、やり方も我流。己の気を掌握出来ても、他者の気をまだ微かな気配としか捉えきれていないベジットに、この混戦は別の意味でしんどかった。

 

 ただベジットの直感として、アイズ達が危険だということを何となく察知した。故にすぐにザルドを見付けようと辺りを見渡すが……此方は不思議と上手く行かない。

 

(くそ、こんな事なら奴の気をちゃんと覚えておくんだった!)

 

 そもそも、この様な乱戦は原作にも無かった。基本的に1対1のタイマンがあの漫画の様式美であり、集団による多対一はあっても多対多はなかった筈。

 

(いや、”復活のF“ではあったっけ。集団戦、でも結局はあれも多対一になってなかったか!?)

 

 嘗ての記憶を参考に集団戦での立ち回りを考えるが、考えた所で打開策なんて思い付ける筈もなく、結局ベジットは局所的に立ち回るしかなかった。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛ッ!?」

 

「そ、そんな、あれだけの数のモンスターが、一瞬!? まさかコイツが、噂のベジブベラァッ!?

 

「よし次ィッ!」

 

 大通りから外れた路地裏、其処で背後から襲っていた闇派閥のモンスター使い(テイマー)を捩じ伏せ、無力化していく。

 

次は何処へ向かうかと思考を巡らせるのも束の間、ベジットの視界にあるモノが入り込んできた。

 

「………ん?」

 

 大きな背嚢の下で、下敷きになったボロ布が何やら蠢いている。目を凝らして良く見れば、幼い少女が苦しそうに呻き声をもらしているのが聞こえ、咄嗟にベジットは背嚢を押し退ける。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 見れば、ボロボロになった布の様な衣服に包まれていたのは、小人族(パルゥム)の少女だった。額から血を流し、ぐったりとしている。

 

呼吸はしているが、如何せん傷が酷い。脳内に自分のやるべき筈だった予定を、全て一度リセットさせたベジットは、少女を抱え救護班のいる場所へ戻ろうとする。

 

「何処へ行く」

 

「ッ!?」

 

 大通りに出た瞬間向けられた膨大な殺意。視線を向ければ、大剣を振りかぶる【暴食】が其処にいた。

 

「ちょ、ちょい待て、今は!」

 

「ヌンッ!!」

 

今、自分の片腕には負傷した少女がいる。それを承知の上で剣を振り下ろすザルドにベジットは苛立ちを僅かに募らせる。

 

 瞬間、辺りに轟音と破砕の衝撃が周囲を蹂躙する。闇派閥もモンスターも、敵味方問わず吹き飛ばす様はまるで爆撃機。遠巻きで見ていた者、偶然近くで見ていた者も、ザルドの剣の餌食になった者の末路を想像して青ざめる。

 

しかし、そんな彼等の予想とは裏腹に。

 

「───ったく、初対面の時と良い、マトモに会話が出来ねぇのかアンタは! 此方は怪我人抱えてるんだぞ!」

 

 爆心地の中心、ザルドが振り下ろした剣はベジットの片腕に防がれていた。

 

爆心地から微動だにせず、ほぼ直立のまま。

 

「ククク、まさか剣や盾ではなく素手で受け止めるか。やはり、貴様は異質だな」

 

「なに愉しそうに嗤ってんだ」

 

 腕を振って剣を払う。ザルドは後ろに飛んでベジットとの距離を開けるが、その眼は未だに此方を捉えて離さない。

 

(クソ、探していた人物が嫌なタイミングで来ちまった。どうする!? 一旦下がって立て直すか? いや、その間にこのオッサン暴れそうだし、この娘も手当てをさせなきゃならん)

 

 自分のするべきこと、今この時点での優先するべきこと、その他諸々考えたベジットが描いた道筋は………。

 

「お前は後!」

 

「────はぁ?」

 

「お前は後で相手してやる。だからちょっとここで大人しく待ってろ!」

 

 今から急いで医療班へ向かい、少女を預けて戻ってくる。その間にここに留まる様に説得する、と言うのがベジットの足りない頭で考えた結論である。

 

しかし、そんな言い分が当然相手に通る訳もなく。

 

「戦場で何をふざけた事を……お前まで、俺を失望させるのか?」

 

「ウルセェ! 何が失望だ! テメェが何に期待したのか知らんが、そんなのこの街に来たばかりの俺に押し付けンじゃねぇ!」

 

「────言いたい事は、それだけか?」

 

(あ、ダメだコイツ。話を聞こうともしねぇ。いや、それ程に余裕がない(・・・・・)って事なのか)

 

 ザルドの問答無用な姿勢に、いよいよ以て此方の仮説が現実味を帯びてくる。なら、いっそこの場で自分が相手をして、一瞬でケリを付けた方が話が早いか?

 

 しかし、それだとこの少女を危険に晒してしまう。巡らせる思考、その一秒も満たない時間の中で。

 

「行くぞ、俺の餓えを満たしてくれ」

 

「チッ!」

 

 【暴食】が迫る。二人の間にあった距離を、瞬く間に食い潰してくるザルドの踏み込み。

 

仕方がないから、ベジットも応戦しようと身構えた……次の瞬間。

 

 ナニかが、空から降ってきた。

 

爆心地の更に中央、抉れた大地に立っていたのは、鎧を纏う【猛者(おうじゃ)】。

 

「────ザルド、決着を付けに来た」

 

「────小僧か。今更貴様が来て何になる」

 

「何度でも、お前と言う壁を超えるまで」

 

 担いだ剣を突き付け、ザルドとの戦いを望むオッタル。嘗ての泥臭い戦士の目をした青年を前に、【暴食】は仕方がないと首を横に振る。

 

「ならば今度こそ沈めてやろう。二度と俺に刃向かえないよう、徹底的にな」

 

 

「やってみろ」

 

 目で、早く行けと促してくるオッタル。タイミング的に申し分ない彼に、ベジットは柄にもなくちょっと感激した。

 

「お、小樽さん!」

 

「小樽じゃないオッタルだ。───行け」

 

 

 ベジットが二人から離れた直後、彼等を中心に魔法による障壁が張られる。恐らくは二人の戦いを邪魔させないためのフィンの指示なのだろう。

 

 今のザルドはどう説得しても此方の言葉に耳を傾ける様子はない。ならばある程度ダメージを与えて動けなくなった所で例の豆を食わせるしかない。

 

 尚、この時に問答無用の力業で喰わせれば良かったと、後で後悔するベジットだが………既に、後の祭りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アミッドちゃん! 悪い急患だ!」

 

 オッタルとザルドの二人から離れてから都市全体が震えている。恐らく二人の剣戟がぶつかっているものだと思われるが、そんな事に構うことなくベジットは駆けていく。

 

 辿り着いたのは戦場から少し離れた場所、闇派閥との戦いで傷付いた冒険者達を癒す為の医療従事者達のテント。

 

既に負傷者で溢れ、痛みで苦しむ彼等。床に寝かせられた彼等を踏まないよう注意を払いながら進むと、今しがた治療を終えたアミッドがいた。

 

 アイズと同様、年若い少女が戦場に立っている。前世の価値観を持つベジット(⬛⬛)はそんな気持ちを出さないよう努めて、彼女に小人族の少女を手渡す。

 

「容態は?」

 

「額の傷以外はまだ………」

 

「分かりました。では此方で預かりますので、彼女を此方へ………」

 

「頼む」

 

 アミッドの指示に従い、簡素な施術台へ少女を運び横へ寝かせる。呼吸もあるし、脈も安定しているから其処までの怪我ではない筈。

 

少女を台に寝かせ、自分は戦場へもどろうと踵を返した時。

 

「────これは」

 

「どうした?」

 

 衣服をほどいたアミッドから息を呑む声が聞こえ、立ち止まる。今は治療中という事で、振り返らず、可能な限り小人族の少女の尊厳を守るよう配慮をして。

 

「───ベジットさん、彼女を何処で?」

 

「大通りから外れた路地裏だ。闇派閥に襲われていたらしくてな」

 

「───他の冒険者の方は?」

 

「いや、いなかったが?」

 

 恐らく、彼女を護る為に路地裏へ逃がしたのだろう。しかし、運悪く闇派閥に見付かってしまい、彼処で倒れていた。

 

あの大きな背嚢が影になって助かったのだろう。間に合って良かったとベジットは安堵しているが、アミッドの表情は暗い。

 

「………アミッドちゃん?」

 

 そんな彼女の様子を背中越しで感じたベジットがどうしたのかと訊ねるが、アミッドは「いえ、何でもありません」と返事を返す。

 

幼い外見に似合わず色々と逞しい彼女にしてはらしくない態度、そんなアミッドを不思議に思うベジットだが、オラリオ中に響き渡るモンスターの怒号に、意識が否応なく戦場に向けられる。

 

「彼女の事は我々にお任せ下さい。ベジットさんは………」

 

「分かってる。後は任せた」

 

 簡潔に言葉を済ませ、テントから飛び出していく。駆け出しの冒険者らしい無鉄砲なベジットの背中を、アミッドは年下にも拘わらず微笑ましく思った。

 

「───彼は、知らないのですね」

 

 オラリオに蔓延る問題、それは何も闇派閥だけではない。冒険者の支援しか出来ないサポーターなる者達への惨たらしい程の差別(・・)

 

迷宮都市に来たばかりの彼は、きっと冒険者というモノを綺麗な存在(モノ)だと思っているのだろう。

 

彼女の負った怪我も、冒険者達が必死に戦い、隙を見て逃がし、そこで運悪く襲われたものだと思い込んで。

 

真実は、その真逆(・・)かもしれないというのに。

 

 サポーターとは、冒険者を支援する者。それ以外出来ず、それ故に役立たず(・・・・)の烙印を一方的に刻まれた憐れなる者。

 

冒険者にもなれず、市民にも戻れない。そんな彼女達の存在をベジットはまだ知らない。

 

(………いえ、今は余計な感傷は不要。私は私のやるべきことを)

 

 今は一人でも多く癒し、助ける。後の都市随一の治癒者(ヒーラー)となる少女は、自身の持つ全てを掛けて、傷付いた者達を癒していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────戦局は互角。オッタルとザルドの一騎討ちを合図に伏せていた冒険者達を使い、闇派閥を奇襲したオラリオ側は、その勢いを以て闇派閥を殲滅していった。

 

 隠れ潜んでいた伏兵、ガネーシャ・ファミリアの姉妹を筆頭に、闇派閥を蹂躙していく。

 

特にアーディ・ヴァルマのスキル、【正義巡継(ダルマス・アルゴ)】は発現者の一定範囲内の眷族へ能力を加算させる常時発動(パッシブ)スキルであり、集団戦に於いて無二のモノだった。

 

 群衆の神、その眷族らしい支援スキルによりガネーシャ・ファミリアを中心に冒険者達は闇派閥を押し返す。モンスターも着実に減らし、戦局は徐々にオラリオ側へ傾く………その筈だった。

 

「クヒヒ、その程度で終わると思ったかぁ? そぅら、おかわりだ!!」

 

 戦場を俯瞰して視ていた【殺帝(ヴァレッタ)】が更なる戦力を投下させる。それは端から見れば先と変わらぬモンスターの軍勢、厄介だが同じことだと、息巻いた冒険者が斬りかかるが。

 

「なに、ぐぎゃぁっ!?」

 

 返り討ち。先とは比べ物にならないモンスターの膂力に冒険者達の間に動揺が広がっていく。

 

「こ、コイツら、ダンジョンのモンスターか!?」

 

「それだけじゃない! 強化種までいるぞ!!」

 

「あ、あれは……深層の!?」

 

 止まないモンスターの前進。ダンジョンから生まれるモンスターは、外のモンスターと比べて格段に強く、中でも同じモンスターを喰らい強化されたモノまでいる。

 

更には深層でしかお目に掛かれない筈の凶悪なモンスターが、群れとなって押し寄せてくる。

 

 予想はしていた。しかし、それでも対処は出来た筈だった。連中が深層のモンスターを連れてくるなど、流石のフィンですら想定外だった。

 

(まさか、深層のモンスターまで連れてくるとは。不味い、オッタルとザルドの所まで道が出来てしまう! 空いた場所にモンスターの波が押し寄せてくる!!)

 

 今、オラリオで現状で最強の眷族(ザルド)と戦えるのはオッタルただ一人。彼の邪魔をさせまいと指示を出したいフィンだが、既に動かせる持ち駒は尽きている。

 

「ヒャハハハハハ!! 見ているかよフィン! お前が、お前達が必死に揃えた盤面が根っこから覆っちまうぞ! 良く見ろよ、これがアタシからのプレゼントさぁ!!」

 

 闇派閥、その中の一つのファミリアが持つどんなモンスターも理論上は従えられる魔道具。

 

並べられた深層のモンスターは下級、上級、第三の冒険者達を紙切れの如く切り裂き、羽虫を引き潰すかのように蹂躙していく。

 

スカル・シープ、リザードマン・エリート、ルー・ガルー、スパルトイ。他にも黒曜石の体を持つ岩石系のモンスターや山羊の頭を持つモンスターなど、数多くの深層のモンスターがオッタルとザルドが戦っている大通りを進撃していく。

 

 戦っている二人ごと引き潰すつもりなのだろう。ザルド(Lv.7)ならば生き残れるだろうが、オッタルはLv.6。苦戦は必至だし、なんならそのまま無惨に惨殺される事だってあり得る。

 

そのままバベルへと進軍し、ダンジョン()で戦っている者達ごと押し潰し、大最悪(モンスター)をダンジョンから解放して此方の勝ちとなる。

 

 王手の前に嗤うヴァレッタ。止められる術はなく、向かった所で無惨に殺されるだけ。進撃する死の川、一直線に進撃していく絶望に誰もが心が折れそうになった。

 

しかし。

 

「ぬおぉぉぉぉっ!!」

 

 老兵が吼える。行かせはせんと、押し寄せる死の大河を前に前世代の冒険者達が立ち塞がる。

 

「っ! ノアールさん!?」

 

「なんで、バーバラさん!」

 

「嘘だろ、ダインさんまで!?」

 

 それはロキ・ファミリアの古参兵。既に一線を退き、半ば隠居していた彼等は今戦うオッタルの為、次代の冒険者達の為に命を捨てる事を決めた。

 

「は、バカが。死に損ないが集まった程度で止められるか。引き潰し、地面の染みにしてやるよ!」

 

 決死の覚悟で挑む彼等をヴァレッタは嘲笑うが、一人、また一人と次々にノアール達の下へ集まっていく老兵達にその笑みは段々苛立つモノへと変わる。

 

「な、何で!? おじさん達、どうして!?」

 

 ガネーシャ・ファミリアを初めとした多くの派閥の老兵が、若き冒険者に後を託していく。

 

 ───彼等は、死に場所を求めていた。後進を育て、やるべきことも失くなり、後は若き冒険者達に託すだけ。

 

死ぬとしたら、この場こそが最上の舞台だろう。冒険者として暴れ、因縁が生まれ、友ができて、後を任せられる後輩が出来た。

 

 神から見ればチッポケな我が人生だが、此処で果てるには上等だろう。

 

「団長! ノアールさんを、皆さんを助けないと!」

 

 止めてくれと、若い冒険者達が叫ぶ。まだ何も返せていないと、駆け出しの頃に世話をした者達が引き返せと声を張り上げる。

 

 神々すらも止めはせず、ただありがとうと祈りを捧げた。

 

(あぁ、嬉しいのう、こんな老い耄れにも慕ってくれる者が出来た。足掻きに足掻きぬいてやった、悔いなき人生だったわ)

 

 きっと、彼等なら乗り越えてくれる。若き冒険者が自分達の意思を受け継ぎ、きっとこの先の時代を切り開いてくれる。

 

そう、安心して腹に巻いた起爆剤を一斉に点火しようとして。

 

「悪いなじっちゃん、恩を仇で返しに来たぜ」

 

 そして、奴が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────それは、きっと美しくも悲しい物語なのだろう。

 

 古き者が、新しい者達の為にその身を捧げ、意思を託し、満足して死ぬ。

 

嗚呼、それはきっと美しく、そして涙を誘う物語なのだろう。誰もが目にすれば共感し、託された者達を想い、力へと変えていくのだろう。

 

なんとも儚く、美しい美談(・・)。けれど先達達よ、申し訳ない。

 

「悪いが、そういう物語は好みじゃないんだわ」

 

 奴───ベジットは笑う。押し寄せてくる死の大河、深層のモンスターが跋扈する絶望の運河を前にして、不敵な笑みを浮かべてノアール達の前に立つ。

 

「お、お前さんは………!?」

 

 いつの間にか目の前にいる逆立った黒髪の青年、夥しいモンスターの数を前に一切怯んだ様子のないベジットは、驚きながら此方を呼ぶノアールに視線を向ける。

 

「よ、ノアールのじっちゃん。オニギリ、旨かったぜ」

 

「こ、このバカモンがっ!! 何を呑気にしておる!? 早く逃げんか! 死にたいのか!?」

 

 突然現れたベジットに戸惑いながら怒鳴るノアールだが、怒りよりも戸惑いの方が大きく、その声に今一つ迫力が足りない。

 

「特に焼き鮭が良かった。疲れた体に塩気が染みて堪らんかったわ」

 

「いや聞け!?」

 

「ただ、やっぱああいう食い(モン)には汁物も大事だよなぁ。所でオラリオに味噌汁ってあるの?」

 

「何の話!?」

 

 しかも、当の本人は呑気に飯の話をするだけ、もうすぐ絶対的とも呼べる死が迫っているのに、あまりにも呑気な態度のベジットに遂には他の古参兵達が怒鳴りあげる。

 

逃げろ! 命を無駄にするな! 何のために我等が命を懸けていると思ってる! そんな、彼等の想いとは裏腹にベジットはただ笑うだけ。

 

「一体、お主は何をしに来たんだ」

 

 そんな、疲れたように吐き出すノアールに対し。

 

「アンタ等の死場所を、奪いに来た」

 

 やはりベジットは、不敵な笑みを浮かべて返す。

 

これでも迷っていた。誰もが命を懸けて戦う中、自分だけが別の事を考え、慎重に立ち回ろうとしていた。

 

 けれど、命を棄てようと死兵となった彼等をみて、ベジットも腹を決めた。

 

「まぁ、端的にいうと、燃えてきたんだよ。次の世代に後を託そうとするアンタ達の気概がかっこ良くてな。つい俺もその気になっちまった」

 

「何を?」

 

 格好いい彼等に充てられ、すっかり熱くなったのはベジットも同じ。

 

「だから、そこで見ていてくれよ」

 

 不敵な笑みはそのままに、ベジットはモンスター達に向き直る。

 

 ベジットの言わんとしている事が理解できないノアールが首を傾げた時、それは起きた。

 

「ハァァァァァ………」

 

 力が宿る。轟音と爆発、怒声と悲鳴で覆われたオラリオが、まるで地震の様に揺れ動く事で、誰もが地に伏せる。

 

「な、なんだこの揺れ!?」

 

「ダンジョンに何かあったのか!?」

 

 大気が振動し、空が荒れ狂い、天地が鳴動する。

 

 誰も彼もが動揺し、敵味方問わず混乱する。人もモンスターも、神すらも、今何が起きているのか分からなかった。

 

そして………。

 

「ダッ!!」

 

 力が解放される。解き放たれた力は周囲の瓦礫を吹き飛ばし、ベジットを中心に地面が抉れていく。

 

余波に吹き飛び、地を転ぶノアール達。目を回す彼等が次に目にしたのは………黄金の炎を身に纏う金髪碧眼のベジットが、其処にいた。

 

「なに、この輝きは……」

 

 その光景に、今まで澄ました顔で見下ろしていた美の女神の顔が驚愕に変わり玉座から立ち上がる。

 

「地震の次は何や!? あそこで今、何が起きている!?」

 

「オイオイ、もうこちとらお腹イッパイなんだけど?」

 

悪戯の神も細い目を見開き、ヘルメスを始め数多の神々が瞠目し仰天していた。

 

「この瞬間だけの大サービス、(スーパー)ベジット。さぁ、死ぬ前に確りと目に焼き付けな」

 

 不敵な笑みを浮かべて佇むベジット、彼の身に纏う威圧に理性がない筈のモンスターが、恐怖を感じたのか脚を竦ませる。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 しかし、己の本能に抗えない彼等は、津波となってベジットに襲い掛かる。怒号を上げ、ただ目の前の障害を排除する為の暴威と化したモンスターを前に。

 

「───かぁ」

 

 ベジットは静かに両手で印を結ぶ。

 

「めぇ───」

 

 腰へ持っていく両の手、その何もない空に蒼白い光が顕れ、集束していく。

 

「はぁ───」

 

 集束され、圧縮され、凝縮されていく。それは、ベジットがベジットとしてこの世界に生まれ落ち、何がなんでも習得してやると、我流の果てに辿り着いた“気”の基本にして奥義。

 

「めぇ───」

 

 迫る怪物、天然武器の棍棒を受ければ並みの人間ならば血飛沫となって周囲に撒き散らす。その凶器を眼前にしながら、それでも奴は笑っていた。

 

「波ァァァァッ!!」

 

 刹那、溜めに溜めた極光が放たれる。

 

 直線上にいたモンスターは抵抗も、断末魔すら上げずに光に呑み込まれ、消滅。身を潜めていた闇派閥もその余波に巻き込まれ、肉片一つ残らず消し飛んでいく。

 

 瞬く間に伸びる閃光は、崩壊した都市門を呑み込み、遥か遠くまで飛んでいき。

 

何処までも伸びゆく光の柱は、天体の重力を振り切り、天界すらも突き抜け星の大海───宇宙の彼方へと消えていく。

 

 残されたのはあんぐりと口を開くノアールと他一同、そして静寂。曇天は切り裂かれ、空の光がオラリオを照らしていく様子を背に。

 

「フゥ、少しはスッとしたぜ」

 

 光の残滓を振り払い、黒髪黒目に戻ったベジットが腕を組み、満足そうに呟いた。

 

 

 





Q.ベジットは冒険者をどう思ってるの?

A.街を警邏したり、純粋にダンジョンを探索したり、色々クセ者揃いだけど、総じてすごい奴ばかりである。

比較対象 フィン。リヴェリア。アリーゼ。アーディ。シャクティ。

Q.あのままザルドを倒せばそれで良かったんじゃ……。

A.別のフラグが建っちゃうから………。

つ小樽さんの突撃! 今日の晩御飯(果たし合い)

ギルドの胃が死ぬ。





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