ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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遂に新章開幕。

そんな訳で初投稿です。


物語130

 

 

 

「うー……」

 

「ウィーネ、大丈夫?」

 

「………大丈夫じゃない」

 

 【異端児(ゼノス)】のウィーネを保護して更に数日。今日は遂にギルドから送られてきた書簡が届き、そこにはダンジョンの20階層、大樹の迷宮を越えた先のとある場所で待つと言う言葉と指定合流場所が綴られていた。

 

 恐らく、書き手の主はフェルズなのだろう。以前から異端児とフェルズの事を良く知るヘスティアは自分達の知人だから大丈夫だと太鼓判を押した。

 

 加えて、相手側からウィーネの護送には拾ったベルとその仲間であるヴェルフを指名、流石に二人だけで中層を越えさせるわけにはいかないと、第一級冒険者であるリリルカ・アーデと、ベルの義母であるアルフィアが同行することとなった。

 

「ほらウィーネ、ジャガ丸くん買ったから一緒に食べよ?」

 

「………うん」

 

 現在は夕暮れ時。一行はオラリオの大通りにてフル装備のベルと全身をフードで隠したウィーネを先頭に、ダンジョンへ続く道を歩く。

 

 差し出されたオラリオのファストフード。グズリながらも手渡されたそれを頬張るウィーネは、正しく年頃の娘の様に見えてしまう。

 

 事実、本拠地(ホーム)の中庭に降り立った梟の形をした機巧人形(ゴーレム)が降り立った時から嫌な予感がして、その内容を聞かされた時は酷く泣き喚いた。

 

 ベルと離れたくない。春姫と離れたくない。みんなと一緒にいたいと我儘言いながら泣きじゃくるその姿は、我儘と言うより懇願に近かった。

 

 ウィーネは自身が異端児として産まれる以前……つまりは、純粋なモンスターであった頃の記憶を僅かだが有している。人を殺す夢、人に殺される夢、それが何度も何度も繰り返される悪夢。

 

 そんな悪夢の世界には戻りたくない。そう絶叫するウィーネを黙らせたのは……やはりというべきか、ベート・ローガだった。

 

『いい加減にしろクソトカゲ。テメェの居場所は此処にはねぇことぐらい、いい加減理解しやがれ』

 

『!』

 

『テメェには薄暗い穴蔵で引きこもってんのがお似合いだ。分かったらとっとと失せろ………目障りだ』

 

 敵意を含めたベートの物言いに、此処は自分の居場所ではないと思い知ったウィーネはポロポロと大粒の涙を流しながらも、大声で喚くことはしなかった。

 

 小さな声でごめんなさいと口にし、スゴスゴと準備を始めるウィーネにベルはなにも言えなかった。

 

 落ち込むウィーネを慰めながら先導するベル。どこかギクシャクした二人を後ろから見守りながら、リリルカ・アーデは呆れの混じった溜め息を漏らす。

 

「まったく、ベート様は相変わらず面倒くさいんですから」

 

「リリ先輩、その袋は?」

 

「向こうで当分の間、衣服で困らないようベート様が手配したモノです。他にもウィーネ様が好きなお菓子や食べ物………うわ、護身用のナックルダスターとか入ってますよ」

 

 リリルカの持った大きめの袋、その中身を確認するとウィーネの好物が大半を占められており、中には鋭い爪───爪は保護時にヴェルフが切って整えた───の代わりに護身用のナックルダスターが詰め込まれていた。しかも無駄に良い素材を使われてる。

 

 それらを目にしたヴェルフとリリルカは若干引き、アルフィアに至っては目を見開いて呆然とする程だった。

 

「なんと言うか……難儀な人ッスね。副団長は」

 

「此処までやるなら、いっそ素直にちゃんと言葉にしたらいいのに……」

 

「なんて面倒くさい………いや、最早美徳だな」

 

「美徳ですかね?」

 

「ベート・フォローガの名は伊達ではない。という事か」

 

 何だろう。曾てヘラ・ファミリアの幹部が大真面目にアホなことを言うと、予想以上に面白いなぁ。

 

 いや、本人としてはベート・ローガこそが面白い奴扱いなんだけど……そう思っても口にしないリリルカ・アーデはやはり空気の読める小人族(パルゥム)だった。

 

「ベル……ウィーネ、もうベル達には逢えないの?」

 

 聞こえてきたのは涙声混じりの子供の声だった。ベルの手を握り、もう逢えない未来に怯えた子供の訴え。

 

「そんな事ない。絶対、また逢いに行くよ」

 

 そんなウィーネを安心させるように、ベルは笑みを浮かべて少女の手を握り返した。

 

 ベルも一人の寂しさというのは嫌と言う程理解できる。昔、義母(アルフィア)おじさん(ザルド)が家へとやって来る以前、幼かった頃のベルは外で仕事する祖父の邪魔にならないよう、一人家の中で過ごす時間が多かった。

 

 田舎ゆえに同年の友人はおらず、一人孤独に過ごしてきた幼少期。あの寂しさは中々に辛く、祖父に気丈に振る舞うのも一苦労だった。

 

 働いている祖父の邪魔になりたくない。捨てられたら、今度こそ自分は一人になってしまう。そんな恐怖に耐えていたある日。

 

『子供がそんな風に笑うんじゃない』

 

 なんて言いながら、家ごと吹き飛ばされたのが後の義母となる人との最初の顔合わせである。

 

(あの時は驚きを通り越して笑ったなー)

 

 遠巻きでザルド叔父さんと祖父が心底慌てた様子で吹き飛ぶ自分を追いかけてきたものだから、それはもう可笑しかった。

 

 以降、義母のお陰で自分は年相応の我儘を言えるようになり、今のベル・クラネルが出来上がったのだ。

 

 色んな意味で大変な毎日だったけど、孤独とは無縁の日々だった。

 

 自分には祖父だけでなく、義母()も叔父もいる。けど、ウィーネは一人だ。少なくとも、自分達と出会うまでは。

 

(団長が帰ってきたら、相談しよう)

 

 今はファミリアの資金稼ぎにダンジョンの深層に潜っている団長。彼が戻ってきたら、ウィーネに何か出来ることはないか、ダメもとで相談してみよう。

 

 尤も、そんな相談をした場合、その直後に瞬間移動で勝手に連れて来たりしてウラノスやフェルズの無い筈の胃を破壊したりするのだが、ベルが知る由もない。

 

 ともあれ、ウィーネの事は今後も気に掛けるつもりでいよう。それらを含めてファミリアのみんなと相談しようと心に決めた時。

 

「きゃあ!」

 

 自分達の横───脇道へ続く通路の先から小さな悲鳴が聞こえてきた。

 

 何だと思い振り返れば、転んだ小さな女の子が地面に倒れ伏している。きっと駆けっこでもして転んだのだろう。他の子供達が心配そうに駆け寄っているから大丈夫だろう。

 

 そう思って子供達から視線を逸らした次の瞬間、ウィーネが駆け出した。

 

「っ! ウィーネ!?」

 

 突然のウィーネの行動、ベルの叫びに似た言葉に後ろで眺めていた三人も駆け寄り……言葉を失う。

 

 ウィーネが、子供を押し倒していた。竜女の特徴的とも呼べる竜の翼………その肩翼を広げ、少女を地面に組み伏している。

 

 一見すればモンスターが人を襲う場面だ。だが、ベル達はそれは誤りであると即座に理解する。ウィーネの近くに落ちている大量の箱、その何れも中身の詰まった荷物で位置的に考えれば恐らく、子供の頭上に落ちてきたモノをその翼で弾いたのだろう。

 

 ウィーネは子供を襲ったのではない。頭上から落ちてくる箱から女の子を守っただけなのだ。

 

 だが、その構図はどうしようもなく言い訳の出来ないモノで。

 

「も、モンスターだァっ!!!」

 

 街の人々が悲鳴を挙げるのは、当然の事だった。

 

「ウィーネ!」

 

 彼女の元に駆け寄ろうとするベルだが、それよりも早く人集りが生まれ、ウィーネの周囲を囲い出す。

 

「ウィーネは私が連れ出します! ベルとヴェルフは先へダンジョンへ! アルフィア様、お願いします!」

 

「承知した。行くぞ二人とも」

 

「お義母さん!? でも、ウィーネが!」

 

「ベル! 今はリリ先輩を信じろ!」

 

 人集りの向こうへ引き離されるウィーネ、怯えた彼女に手を指し伸ばそうとしても届かない。やるせのない無力感がベルを襲う。

 

 今は助けに向かったリリルカを信じて先に進むしかない。人垣を飛び越えていく先輩の背を見送りながら、ベルは先を行く二人を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でモンスターが地上にいるんだよ!?」

 

「ガネーシャ・ファミリアは何をしているの!?」

 

「おい! 誰かアストレア・ファミリアを呼んでこい!!」

 

 膨れ上がる怒りと恐れの感情。自身に向けられる憎悪にウィーネの顔が恐怖で固まる。

 

(どうして、みんな怒ってるの? どうして、みんな恐い顔するの?)

 

 自分はただ、女の子を助けたかっただけ。崩れ落ちる荷物の箱から、怪我をしたら大変だというただの親切心。

 

 見返りなんて求めてはいない。ただウィーネは、自分にして貰った事を返したかっただけ。

 

 薄暗い地下迷宮で、自分を助けてくれたベルの様に……。

 

 ウィーネには人類に対して敵対する意思は無い。しかし、そんな彼女の無垢な気持ちなど、他者である人類が気付ける筈もなく。

 

「っ!」

 

「おい! モンスターが逃げるぞ!!」

 

「憲兵! 早くこっちだ!」

 

「逃げんじゃねぇ!!」

 

 恐くて、堪らずその場から逃げ出そうとするウィーネをオラリオの市民は石を投げ付ける。翼を使って防ぐが、石の投擲は止まること無くウィーネに降り注いでくる。

 

 痛みはない。神の恩恵を持たないオラリオの市民の力では、どうあっても力でウィーネを害することは敵わない。

 

 だが、無垢な心を持つが故に人々の憎悪はウィーネを曾て無い程に追い込んでいた。

 

「………助けて、ベル……」

 

 小さく、自分を助けてくれた白い少年の名を口にした瞬間。

 

「全く、世話が焼けますね!」

 

 一振の槍が民衆とウィーネの間に突き刺さる。

 

 一瞬の静寂。次の瞬間、現れた【槍の乙女(デミ・フィアナ)】に戸惑った瞬間。

 

「“太陽拳”!!」

 

 夜の帳が落ち始めるオラリオの一角に、太陽の光が瞬いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、まさか民衆相手にリリの新技を披露する事になるとは……」

 

 オラリオの裏路地。その背にウィーネを背負いながら、リリルカ・アーデは人気無い道をひた走る。

 

既に大通り(メインストリート)は騒ぎを聞き付けた民衆と神々でごった返している。正面からダンジョンに向かうことは難しくなり、現在リリルカは人気の無い道を走りながら、次の行動を模索していた。

 

(さて、どうしますかね。大通りの大部分は民衆と物見遊山の神々で封鎖され、正攻法ではダンジョンに向かうのは難しくなっていますし……)

 

 気を消したとしても、物理的に姿を消した訳ではない。万が一見付かってしまったら、今度こそヘスティア・ファミリアはオラリオ中から人類の敵として認識されてしまう。

 

 モンスターを匿うとはそれ程の大罪。如何なる理由があろうともオラリオの、ひいては世界はヘスティア・ファミリアを許しはしないだろう。

 

 そうなってしまったら、ヘスティア・ファミリアはオラリオにはいられない。………いや、別にオラリオに拘る理由はほぼほぼ無いので、追放だろうと何だろうと受け入れてやっても良いし、ぶっちゃけて言えばリリルカ・アーデ個人としてはどうでも良いことではあるのだが。

 

「やはり、一度本拠地に戻りますか」

 

 先にダンジョンに潜ったベル達には申し訳ないが、此処まで事態が混迷と化した以上、一度立て直すのも選択の一つだろう。

 

 其処から何とかギルド……フェルズと連絡を取り合うか、或いは戻ってきたベジットに瞬間移動で送り届けて貰うかになるが……。

 

「いや、断然後者が楽ですね。うん、そうしましょうか」

 

 寧ろ下手に動かず最初からベジットにそうして貰った方が良かったまである。踵を返し、本拠地に戻ろうとした時、背負っていたウィーネからくぐもった声が聞こえてくる。

 

「ごめ、ごめんなさい。リリ、私の所為で……」

 

 啜り泣く声と共に聞こえてきたのはウィーネの謝罪だった。自分の所為で好きな人達を追い詰め、迷惑を掛けてしまった。

 

 感謝と申し訳なさでグシャグシャになるウィーネをリリルカは呆れたように溜め息を吐いて。

 

「なぁんでウィーネが謝るんですか? 別にアナタは何も悪いことをしていないでしょうが」

 

「で、でもウィーネはモンスターで、ベル達は人間だから……」

 

「何ですかそれ? 正論のつもりです? 生憎と、私達ヘスティア・ファミリアはそんな正論で動く集団ではありませんので」

 

「で、でも……!」

 

「助けたかったんでしょう? あの女の子を」

 

 自分を責め、ごめんなさいと口にして自分が悪いと言い捨てるウィーネをリリルカは鼻で笑って一蹴する。

 

 モンスターが絶対悪? そんなモノ、こっちは疾うの昔に飲み干している。

 

 それに、自分達は知っている。あの時、ウィーネは悪意やモンスターの衝動で動いたのではなく、純粋に女の子を助けたいから咄嗟に動いただけの事。

 

「アナタは女の子を助けた。それは揺るぎ様の無い事実。例え人類や神々がアナタを否定しようと、私達は認めます。アナタの想いは───間違っていない」

 

 ウィーネはただ、人類(ヒト)とベルの様に仲良くなりたいだけ。そんな、夢物語のような無垢なる魂が発した想いを、リリルカ・アーデは肯定した。

 

「リリ……ありがとう。う、うぅ……」

 

「あぁもう、イチイチ泣かないで下さいよぉ───っ!!」

 

 瞬間、リリルカは自身の迂闊さに舌を打った。

 

「ッチ、リリとしたことが下手を打ちました。まさか、此処まで早く動くとは……」

 

「………え?」

 

 リリルカが何を言っているのか、ウィーネには分からなかった。

 

「やれやれ、やっと追い付いたぜ」

 

 その時、暗闇の向こうから現れたのはリリルカと同じ小人族の女性、アストレア・ファミリアの【狡鼠(スライル)】ことライラが月夜に照らされて現れる。

 

「まさか、此処まで上手く気を消せるなんて……流石はライラ先輩ですね」

 

「よせよ、お前に褒められたって……いや嬉しいけどな」

 

 ライラは他の眷族とは異なり、気による戦闘力を上昇させるより、気を隠す能力に特化している。それは彼女の生まれや出自に起因しているのかは定かではないが、こと気を消した隠密行動はオラリオの中でもトップクラス。

 

 此処まで近付かれるまで本気で気付けなかった事に、リリルカは若干焦りを見せる。

 

「此処まで誘導(・・)したのも、アナタが?」

 

「そこまで分かんのかよ。カーッ、タマンねぇなおい。これだから天才様は」

 

「何が天才ですか白々しい。こんな短時間(・・・・・・)で情報を集め(・・・・・・)あまつさえ(・・・・・)神々さえも動かすとか(・・・・・・・・・)、どんな頭をしてたら出来るんですか」

 

 大通りがモンスター騒動で騒ぎになってから、まだそう時間は経過していない筈。なのに、人々や神々がまるで示し合わせたように現れ、ダンジョンへ続く道を封鎖した。

 

「情報を流したのですね。この日、大通りで騒動が起きると」

 

「半分勘だったがな。ここ数日、タケミカヅチ・ファミリアがそっちに頻繁に出入りしてただろ? 主神含めてさ。あの時からなぁんか違和感があったんだよな」

 

 通常、他派閥の主神同士が宴もなく本拠地に入り浸ることはしない。それはオラリオの均衡を保つ意味でもそうで、主神の身の安全を守る意味でもあった。

 

 確かにヘスティアとタケミカヅチは天界の頃からの神友であることはアストレアから聞いたことがある。同盟を組むのも当然だろうし、それ自体はライラも気にしてはいなかった。

 

「ただ、それにしたってタケミカヅチ・ファミリアの連中は必死な面構えだった。まるで何かを隠しているように、まるでそれを悟らせないように、な」

 

 しかし、あの時の異様なタケミカヅチ・ファミリアの面々の顔を見て、ライラの違和感が確信に変わった。

 

 見てしまったのはホンの一瞬。人造迷宮攻略に備え、着々と準備を進めていた時。偶々ヘスティア・ファミリアの本拠地を見て、彼女は確信してしまった。

 

  ヘスティア・ファミリアとタケミカヅチ・ファミリアは、何かを隠している。と。

 

「それだけの情報でそこまで考えますか。冒険者引退したら、探偵を始めて見たらどうです?」

 

「それも面白そうで良いかもな。───さて、そろそろ本題に入ろうか

 

 瞬間、リリルカとウィーネを囲うように巨大な気が幾つも現れる。Lv.6の【疾風】リュー・リオン、同じくLv.6である【大和竜胆】ゴジョウノ・輝夜。

 

 Lv.5のネーゼ・ランケット、そしてアストレア・ファミリアの長、【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】アリーゼ・ローヴェル。

 

 アストレア・ファミリアの主戦力が、総出でリリルカ・アーデを取り囲んでいた。

 

「良いのですか? 正義の味方であるアストレア・ファミリアが、こんなか弱い小人族一人を囲むだなんて……世間が知れば、また要らぬ謗りを受ける羽目になりますよ」

 

 一人一人が自分に匹敵する超抜派閥、そんなオラリオ屈指のファミリアが自分一人に戦力を向けるだなんてと、リリルカは皮肉混じりの軽口を吐くが。

 

「か弱い小人族? そんなもの、私の視界の何処にもいないが? 私の前にいるのは階層主すら喰い殺す恐るべき槍使いしか見えないのだが?」

 

 惚けた顔で返す輝夜にリリルカは頬をひきつらせる。

 

 相変わらず煽り性能が高い女侍だなと、警戒心を強めていると、アリーゼが一歩前に出る。

 

「リリちゃん、聞いて。私達アストレア・ファミリアはヘスティア・ファミリアと対立する意思は無いわ。これは本当に本当よ」

 

「…………」

 

「アナタがその背中で隠しているモンスター(・・・・・)に関しても、今は手出しをするつもりはないわ。だからお願い、投降して」

 

「今は、ですか」

 チラリと、リリルカは一瞬だけアリーゼ以外の眷族達に視線を向ける。輝夜は無表情を貫いているが、ネーゼやリオンの表情は何処か険しい。

 

 特にリオンは、モンスターをヘスティア・ファミリアが匿っていたと知り、些かお冠のご様子。これは団長(ベジット)が戻ってきたら面倒な事になりそうだぞーと、リリルカは苦笑いを浮かべる。

 

「申し訳ありませんが、それは出来ません。我が主神である女神ヘスティアはアナタ方だけは巻き込みたくないと、そう願っていますので」

 

「それは……!」

 

 どういう意味だ? 問い詰めようとするリオンが前に出ようとした瞬間、強大な気が頭上から迫ってくるのを感じた。

 

 咄嗟に後ろへ下がるアリーゼ達。瞬間、自分達とリリルカ・アーデの間に黒いなにかが飛来する。

 

 誰だ? なんて口にするものはこの場にはいない。自分達の前に降り立つその男は、全身鎧(フルプレート)の甲冑で身を包み、武骨な大剣を片手に正義の眷族達を見据える。

 

 困惑しているのは、寧ろリリルカの方だった。

 

「ちょ、よりにもよってアナタが出てきますか!?」

 

「おいおい、折角助けに来てやったと言うのに、その言い方は無いだろう?」

 

「いや、アナタはウチの貴重な料理番じゃないですか! どうするんですか今夜の献立は!?」

 

「そっちの心配か。お前も、だいぶアイツに馴染んできたな」

 

 鎧の男、曾てゼウスの眷族だった【暴食】の男はアストレア・ファミリアの面々を見渡し……。

 

「安心しろ。すぐに終わる(・・・・・・)

 

 そう、不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

「我が師よ、こやつらは一体?」

 

「あー、確か穢れた精霊……だったか? 百害あって一利もない奴なんで、何時ものようにぶちのめしていいぞー」

 

「承知!!」

 

「■■■■■っ!?」

 

 54階層付近で偶々発見した穢れた精霊(汚染形態)を相手に、修行の成果を発揮するアステリオス君がいましたとさ。

 

「おっ、もう一匹いんじゃん。処理しとこ」

 

「■■■■■っ!?」

 

 とある目論見で配置された穢れた精霊。相手の目論見も何も知らず、破壊された事を黒幕自身が気付かないまま、穢れた精霊は雑に処理される。

 

「ふぁー、なんか眠くなってきたな。アステリオス、ちょっと俺あっちで昼寝してるからー」

 

「承知! ゆるりと休まれよ!」

 

 欠伸をしながら穢れた精霊を両断。灰となって消えていくモンスターを尻目に、ゴロンと横になるベジットであった。

 

 

 

 





Q.ライラちゃん、この展開を読んでたの?
A.ここまで具体的ではないが、ヘスティア・ファミリアが何かを隠していることは薄々と分かっていた。
まさかモンスターを匿っていたとは思わなかった。
異端児達については肯定派。使えるものであれば何でも使う彼女としては、異端児達は敵対しなければ別に地上にいても構わないというアストレア・ファミリアの中でも少ない肯定派である。






蛇足その③(読まなくて大丈夫!)


『やちよ……いろはぁ……』

 その少女は孤独だった。誰にも知られず、誰にも話せず、ただ一人ウミウシの姿でそこにいた。
 自分は失敗した。本来であればすぐにでも大好きな人に会いに行けた筈なのに、とある事故が原因で遥か昔の地球に不時着。
 誰も知り合いはおらず、誰も自分が見えない。乗ってきた宇宙船の故障で肉体も得られず、ただ一人孤独の時間を過ごすかぐや姫は──。

「あ? お前……もしかしてかぐや?」
『…………え?』

 この日、一人ぼっちのかぐや姫は天下無敵の友人が出来た。



 それから、二人は話しました。かぐやは自分の事、月から来た月人であること。大好きな人に会いたくて、でも会いにいけないこと。寂しくて、泣きそうなのに泣けないこと、その全てを天下無敵を自称する友人に話しました。

 友人も、自分の事を話しました。自分が一度死んだ人間であることも踏まえて、全てを話しました。
 気付けば既に七回程、お日様が浮かんでは沈んでいました。
 それからも、二人の会話は長らく続き。

 

『ねぇー、ベジットって誰を推してたの? 勿論わたしだよね!?』
「いや、違うが?」
『えー!? ……じゃあ、やちよ?』
「うんにゃ」
『やちよでもない!? じゃ、じゃあROKA? それともまみまみ?』
「違うねぇ」
『ま、まさか……帝アキラ!?』
「野郎に興味ありません」
『うー、じゃあ誰だよー! 教えろよー!』
「仕方あるまい。俺の推しは……忠犬ヲタ公さ」
『………え、は? な、なんで……?』
「彼女にはお前には無いものがあるからな」
『………ハッ!? 乳か!? コイツ、乳の大きさで推しを選んでやがる!?』
「彼女は、私の母になってくれるかもしれない女性だったのだ」
『キッッッショ!! ふざけんなー! 胸の大きさで推しを選ぶなー!!』

 人を揶揄し、笑わせる友人を前にかぐや姫は決めました。いつか、コイツの推しを自分にしてやると。

「はぁー、仕方ねぇな。お前のその大好きな友人と再会できるまで、付き合ってやるよ」
『……うん、ありがとう。ベジット』

 どうせ夢だし。この日、ベジットは自分の交わした約束の意味と重さを知らず、一人の少女の側にいることを決めました。

「んじゃ、取り敢えず月に行きますか」
『え?』

 その日から、一人ぼっちのかぐや姫はハチャメチャな毎日が始まるのだった。
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