ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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物語135

 

 

 

「そうか。ヘスティア・ファミリアには今も目立った動きは無いか」

 

「は、はい。我々の他にも幾つかの派閥が監視に来ていますが、ヘスティア・ファミリアはどこ吹く風と言った様子で……」

 

 ロキ・ファミリアの本拠地(ホーム)【黄昏の館】にて、クルスから伝えられた報告の内容に目を通すと、団長であるフィンはなる程と頷き改めてクルスへと向き直った。

 

「分かった。クルスからの報告を参考に今後の対策を考えよう。申し訳ないが、引き続きクルス達はヘスティア・ファミリアの監視を続けてくれ」

 

「分かりました。……ただ、団長」

 

「ん? どうかしたかい?」

 

「レフィーヤの事なんですけど……」

 

 遠慮がちに意見を口にするクルス。その口振りから彼の言いたいことを理解したフィンは苦笑いを浮かべながら頷いた。

 

「あぁ、レフィーヤは監視から外し、別の者を手伝わせるよ。その間は申し訳ないけど、エルフィと二人で宜しく頼むよ」

 

「了解です」

 

 自身の言いたいことを理解し、それを踏まえた上で編成してくれる団長に感謝しつつ、クルスは執務室を後にする。

 

 残されたのは派閥の首脳陣である三巨頭と、主神であるロキのみ。

 

「まさかレフィーヤの奴が【リトル・ルーキー】にそこまでライバル心を剥き出しにするとはのう」

 

「あの兎っ子は人畜無害そうに見えて、嘗ての最強派閥(ゼウス・ヘラファミリア)のハイブリットやからなぁ。加えてベジット達に日々鍛えられとるから、伸び代がエゲツない。レフィーヤがああなるのも無理もないわな」

 

 昨日レフィーヤがやらかしたヘスティア・ファミリアへの突貫。向こう見ず処か、一歩間違えれば消し飛ばされかねない状況からよくぞ生きて戻ってきたと、報告を耳にしたフィンやロキは心の底から安堵の溜め息を漏らした。

 

「全く、監視等と言う小癪な真似をするからこう言う目に遭うんじゃ。いつぞやの時のように、正面から正直に話をすれば良いだけじゃろうが」

 

 今回、オラリオの街で起きたモンスターの騒動。

 

 内容はヘスティア・ファミリアがテイムした竜女(ヴィーブル)がイケロス・ファミリアに盗まれ、それを連中が途中で逃がしてしまった事で引き起こされたモノとなっている。

 

 ギルドからの公式声明とヘスティア・ファミリアの長であるベジットが正式にそう発表した事、更にはガネーシャ・ファミリアの主神であるガネーシャ本神(本人)もその事を認めている事から、少なくともオラリオの民衆は受け入れられている。

 

 それもワザワザ今年の怪物祭に関連して言うものだから、確かにそういう事もあったなと、市民は納得してしまっている。

 

 一応の筋を通している者に、あらぬ疑いを掛けるのは誠実とは言えないだろう。今回の監視云々の話を最初から反対していたガレスはそれ見ろと呆れ顔を晒している。

 

「下手に監視を敷けば、相手に不愉快な思いを抱かせるのは明白。ベジットが友好的な内にとっととクルス達を戻らせるのが吉だと思うがな」

 

「………私も、ガレスの言葉に賛成だ。フィン、メレン港でやらかした私が言うのもアレだが、ここは一度退くべきなんじゃないか?」

 

 ガレスに引き続き、リヴェリアまでもがヘスティア・ファミリアに対する監視網を解けと進言する。

 

 ヘスティア・ファミリアとロキ・ファミリアは主神同士は兎も角、眷族同士の仲は比較的良好で一時期は半ば同盟関係になっていた事もある。

 

 今でこそ、すれ違いやちょっとしたイザコザはあっても、眷族同士は互いに認め合い、対立することも敵対関係になる事もなかった。

 

 けれど、先のメレン港での一件や今回の監視の件を何気に重く見ているガレスは口出しをせずにはいられなかった。

 

 ヘスティア・ファミリアと今後も友好的な関係で居続けるには、ある程度の線引きも必要だろう。

 

 リヴェリアもアルフィアとメレン港で派手に暴れた事で、現在は謹慎中の身。当時その事を知ったガレスにはそれはもう烈火のごとく叱られた訳だが、10割自分が悪いのでその時のリヴェリアはガレスの説教を甘んじて受け入れる程だ。

 

「いや、監視はもう暫く続ける」

 

 しかしフィンは、二人からの忠告を聞き入れた上で監視の続行を決定した。

 

「何故じゃ、何故そこまでヘスティア・ファミリアに拘る」

 

 ガレスにはヘスティア・ファミリアとの関係が悪化するリスクを負ってまで監視を強行するフィンの意図が分からなかった。

 

 ヘスティア・ファミリアにはベジットがいる。彼の普段の振る舞いは破天荒と言って差し支えないが、その人間性は善性による所が大きい。騒動や加減を誤ったやらかしは数あれど、闇派閥のような悪事を働くことは決して無いと断言できる程に。

 

 それは悪神と天界では畏れられていた自分達の主神であるロキが太鼓判を押す程だ。

 

 故に、モンスターを介した悪事など働くことは無いとガレスは確信している。

 

 一体自分達の団長は、何に対して疑問を抱いていると言うのか。

 

「先の……一度目のモンスター騒動の時、モンスターが子供を助けた。なんて報告がある」

 

「なに?」

 

「なんじゃと?」

 

 フィンの口から溢れた情報に、リヴェリアもガレスも目を丸くさせる。

 

 モンスターが人を助ける。それはモンスターという存在が現れてから決して起きることの無かった現象。

 

「一度目のモンスター騒動が起きてから翌日、何となく僕は現場に赴いていてね。その時偶々出会ったんだ。モンスターに助けられたと語る少女とね」

 

 あの日、荷車に積み上げられていた荷物が崩れて側にいた少女に落ちて来た時、竜女が少女を覆い被さるように庇い、その翼で落ちてくる荷物を弾き飛ばしたと言う。

 

 そんなモノはモンスターの反応であり、ただの偶然に過ぎない。そう言い返すには簡単だが、フィンにはこれがただの偶然の産物とは思えなかった。

 

「その女の子は言っていたよ。自分を助けてくれた竜のお姉ちゃんの顔、とても綺麗だったとね」

 

 少女の言う綺麗というのは何処を指しての表現なのか。単なる見た目か、はたまた瞳が宝石のように美しかったのか。

 

 或いは、モンスターとは(・・・・・・・)思えない顔付き(・・・・・・・)をしていたのか。

 

「フィン、お前まさか……」

 

「あぁ、ヘスティア・ファミリアは理知のあるモンスターと交流していた可能性が高い。と、僕は思っている」

 

 あくまで疑惑。ここ数日オラリオで起きたモンスターの騒動とヘスティア・ファミリアの動向、そして昨日起きたイケロス・ファミリアの拿捕とその経緯。

 

 これ等の情報を咀嚼し、推論し、散らばったパズルのピースにより形作られたフィンの絵画。

 

 未だ推論の域の出ない飛躍した結論だが、フィンにはこれに強い確信を懐いていた。

 

「もし……もしそれが事実だとするなら、人類にとって大きな打撃になるぞ」

 

「人類に友好的なモンスター、確かにそれは劇薬過ぎるのう」

 

 フィンの危惧している理由を察した二人も、頷き顔をしかめている。

 

 それに、問題はそれだけじゃない。

 

「仮に理性のあるモンスターが実在するとして、ヘスティア・ファミリアがそんなモンスターと関わっていると言うのなら……それは、一体何時からだ?」

 

「「ッ!?」」

 

 仮に、もし仮にヘスティア・ファミリアが理知のあるモンスターの存在を知っていたとして、それは何時から、或いは何処まで深入りしているのか。

 

 そして、理知のあるモンスターの存在を知っている派閥が、他にもいるのであれば……。

 

「下手をすればオラリオが割れる。文字通り、一切の比喩無く」

 

 そう語るフィンの額には、一筋の汗が滴り落ちていた。

 

 一方で、沈黙する眷族達を見守っていた主神ロキもまた薄く目を開けて一柱(ひとり)確信に至る。

 

(成る程なぁ。これがベジットが必死に隠してきた“爆弾”かぁ、確かにこれは隠したがるのも無理無いなァ)

 

 理性と知性を持ち、人類に対して友好的で敵対しないモンスター。そんな存在を知られてしまってはオラリオは大混乱に陥ってしまう。

 

 下手をしなくても機能不全。最悪、モンスターを庇う者とそうでない者同士による戦争が起きてしまう可能性だって出てくる。

 

 そして最悪な事態は数珠繋ぎに引き起こされ、その戦争によって対黒竜の戦力は激減し、人類は滅亡の一途を辿る事になってしまう。

 

 以前、ディオニュソスの言っていた警告がロキの脳裏に過る。

 

『団長であるベジット、彼は何かを隠している。このオラリオを………ひいては、世界を脅かす何かを、ね』

 

「ったく、ホンマに世界を脅かす秘密を抱える奴がおるかアホタレ」

 

 恨みがましく、ヘスティア・ファミリアの本拠地を睨むロキ。

 

 この日のオラリオの空はうんざりする程晴天に恵まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィーネ、それがお前の選択なんだな?」

 

「うん、ウィーネはダンジョン……リド達の所へ戻る」

 

 すっかり夜も更け、ザルドの作る料理を堪能したヘスティア・ファミリアは、本拠地にて改めてウィーネの意思を確認する。

 

 ウィーネは、ダンジョンへ戻る選択を下した。

 

 ヘスティア・ファミリアに、自分達の所にいても良いのだと、ベルや皆と同じ場所にいられるのだと言われて、ウィーネは本当に嬉しかった。

 

 あの暗く、冷たい場所に戻らなくて良い。自分を助け、居場所をくれた人達とこれからも一緒にいられる。それはウィーネにとって福音だった。

 

 けど、その優しさに甘えることをウィーネは由としなかった。

 

 地上に赴き、二度も騒動を引き起こして、その二回ともヘスティア・ファミリアに多大な迷惑を掛ける事になった。

 

 これ以上、この優しい人達に迷惑を掛ける訳にはいかない。幼いながらも、その事を強く意識したウィーネは、ダンジョンの……自分と同じ異端児達の元へ帰る事にした。

 

「ウィーネ、強くなる。みんなに迷惑を掛けない位強くなって、またベル達に会いに来るから!」

 

 目に涙を浮かべ、それでもと言い張るウィーネ。

 

 強い決意を口にする彼女に一同は頷き見送る事にした。

 

 そして現在。ベジットはウィーネの入った背嚢を背に、ダンジョンへ向かう運びとなった。

 

「さて、そんじゃあウィーネは責任もって異端児達の元へ返すから、ベルは本拠地に戻って遠征の準備をしててくれな」

 

「はい」

 

 最後まで見送りたいと言うベルの願いを聞き入れ、ダンジョンの出入り口のあるバベルまでやって来た。

 

「ウィーネ、僕も強くなってまた君に会いに行くよ」

 

 背嚢に入っているウィーネに優しく触れ、ここ数日で知り合った女の子に一時の別れを告げる。

 

 また会いに行くと、力強く宣言するベルに何度も頷くウィーネ。そんな二人に微笑みながら、ベジットはダンジョンへと向かった。

 

 見えなくなるまで手を振り続ける。また一つ強くなる理由を手にしたベルは、改めて自分自身に誓いを立てて、踵を返す。

 

 途中、ピシュンッと軽い音が聞こえた気がしたが……振り返る事無く、ベルはダンジョン遠征に向けて準備をする為に本拠地へ向かおうとして……。

 

『見付けたぞ』

 

「…………は?」

 

 黒いミノタウロスが、突如として目の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間前。オラリオ地下、人造迷宮第三階層にある搬送用の通路にて。

 

「あーあ、折角ダイダロスの呪いから解放されたってのに、こんな化け物と出会すなんてよ。ついてねぇったらねぇぜ」

 

 イケロス・ファミリアの長、ディックス・ペルディクス。煙水晶(スモーキークォーツ)のゴーグルを掛け、その目を隠すその男の前には、Lv.5の自分を遥かに越えた強さを持つ怪物。

 

 黒いミノタウロスが眼前に佇んでいた。

 

「貴様が、同胞を慰み物にしてくれた者達の頭目か?」

 

「おーおー、しかも一丁前に人間様の言語まで嗜んでやがる。最後に捕まえた化け物も拙いながらも喋ってたが、テメェはその比じゃねぇのな」

 

 今の自分ではどう足掻いても勝ち目はない。

 

「亡き同胞達の仇だ。貴様は、此処で(つい)えろ」

 

 滲み出る覇気。僅かに漏れだしたミノタウロスの闘気が周囲に罅を刻んでいく。

 

 ビリビリと震える大気、紅く瞬く牡牛の双眼を前にディックスは自身の終わりを悟った。

 

「はぁーあ、折角噂のベジットの面を拝みたかったンだがなぁ」

 

 あの日、人造迷宮(クノッソス)がベジットの手で半壊した時、ディックスは自身の内側にある呪いが砕けていくのを感じた。

 

 ダイダロスというダンジョンに魅入られた巨匠。子々孫々まで植え付けられる呪いは、千年経った今でも色濃く根付いている。

 

 自分もその一人。この呪いに打ち克つには呪いよりも劇的な何かが必要だった。それが言葉を介するモンスターで、知性を持ったモンスターに対する執着だった。

 

 その呪いもベジットが人造迷宮を半分程破壊し尽くした事で砕かれ、自身の目的もモンスターに執着する意味も失った。

 

 だからせめて、色々とやらかしてくれたベジットに面と向かって文句の一つでも言ってやりたかったが……。

 

「ま、人生そう上手くいくわけねェか」

 

 諦観に満ちた自嘲の笑みを浮かべ、ディックスは懐から一つのアイテムを取り出す。

 

 アイテムと言うには些かおぞましく、対峙しているミノタウロス───アステリオスですら訝しむそれは、“胎児の宝玉”。

 

「そんじゃ、最期に一つ……デッカイ花火でも打ち上げてやろうじゃねぇか!」

 

『■■■■■■■ッ!!』

 

 以前、偶々遭遇したレヴィスという怪人から渡された胎児の宝玉。ディックスが自身の心臓付近に宛がったそれは、眼を見開くとおぞましい叫びを挙げると同時に、ディックスの心臓に根付き、宿主を取り込んでいく。

 

 溶けていく肉体。呻き声も慟哭も、何もかもが取り込まれ、胎児だったそれに呑み込まれていく。

 

『■■■■■ッ!!』

 

 グズクズに溶けながら、ふけれ上がっていく肉体と四肢。Lv.5の冒険者に寄生したその怪物は、眼下に佇むアステリオスを見据えて吼え立てる。

 

「……我が好敵手に挑む前の、余興にはなるか」

 

 アステリオスは構える。腰を低く、両手を広げ、身構えるそれはとある戦士の構え(サイヤ人編のベジータ)と酷似していた。

 

「来い。その未練と因縁、此処で断つ」

 

 気を解放し、白い炎を身に纏う。自身よりも遥かに巨大な怪物を前に、アステリオスの眼はその先で待つ宿敵を見据えていた。

 

 

 

 

 






Q.ディックス君、ダイダロスの呪いから解放されたの?
A.元々後天的に刻まれた呪いであった為、ベジットが天の牡牛戦で人造迷宮を半壊させた為に呪いは砕かれ、解放される事になった。

 呪いが砕かれた事で、異端児に拘る理由も無くなり、人生の目的を見失った為、一時期は消沈していた。

 近い内にタナトスに改宗するつもりだったが、その前にアステリオスと遭遇。これまでの自分の行いに対する精算が来たのだと理解し、その前にデカイ花火を打ち上げることを決意。

「音量上げろ! 生前葬だッ!!」

尚アステリオス。

「ハイクを詠め、介錯してやる」

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