ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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全国的に酷暑の日々。

令和ちゃん、温度調節バグッてない?




物語139

 

 

 

 オラリオにて唐突に引き起こった黒い猛牛(アステリオス)とベル・クラネルの激闘。

 

 一夜明けてもその熱狂ぶりは変わらず、オラリオに住まう人々は誰もがベル・クラネル……もとい、【リトル・ルーキー】の活躍を熱く語っていた。

 

 彼等の語らう言葉の中には、もうベルを侮ったり、新人扱いする者はいない。ヘスティア・ファミリアの───或いは、ベジットの薫陶を形にして見せた白髪の少年を、人々はヘスティア・ファミリアの新人ではなく、眷族の一人として認知していた。

 

 いつか、ベル・クラネルも【勇者(ブレイバー)】や【猛者(おうじゃ)】、【凶狼(ヴァナルガンド)】といった名だたる英雄候補にその名を連ねるのではないか、オラリオの人々の期待は膨らむばかりだった。

 

 そして、ベル・クラネルの活躍にときめいたのは民衆(人類)だけではない。

 

「はぁ、本当に凄まじい成長ぶりだわぁ。改めてときめいちゃう」

 

 摩天楼(バベル)の最上階。オラリオの中心で、地上を見下ろす程に高く聳え立つ塔の最も高い場所───その一室にて、美の女神であるフレイヤはほぅっと溜め息を一つ溢す。

 

 彼女の熱の帯びた表情は人類には到底抗えず、神々ですら魅了してしまう。

 

 しかし、そんな彼女の心境を埋め尽くしているのは、たった一人の少年の顔だけだった。

 

 相手が遥か格上で、自分では決して敵わない相手にも絶対に怯むこと無く前進し続ける。何処までも純粋で輝かしい魂を持った少年。

 

 正直に言ってしまおう。フレイヤはベル・クラネルに惚れている。それはもうゾッコンと言える程で、許されるのであれば今すぐ会いに言って抱き締めたい程に美の女神フレイヤはベルにLOVEだった。

 

「あぁ、ベル。どうして貴方はベル・クラネルなの?」

 

(これは……ツッコミ待ちなのだろうか?)

 

 仰々しく振る舞う主神に、背後で控えていたオッタルはこのまま沈黙を保つべきか、合いの手の返事を入れるべきか真剣に悩んでいた。

 

「あなたがヘスティアに見付からなければ、あなたが【静寂】の甥でなければ………あなたが、嘗ての最強達(ゼウス・ヘラファミリア)の忘れ形見でなければ、今すぐにでも駆け付けて抱き締めてあげられるのに!」

 

 信じられない事に、あの純真無垢な魂を持ったベルがゼウスとヘラの両派閥の子である。これをアルフィアの生存と共に知ることになったフレイヤは、それはもうモノ凄い衝撃を受けた。

 

 当然だ。自分やロキを初めとした現在オラリオに住まう古参達はその悉くがかの二大派閥に幾度と無く辛酸を嘗めさせられたモノだから。

 

 特にヘラ、あの恐ろしき女神には自分だけでなくロキも散々な目に遇わされている。そんな彼女の眷族の血を分けた忘れ形見がベルであると後にロキから知らされた時は、軽く絶望した。

 

 いや、でももうあの女神はオラリオには来られない筈。嘗ての黒竜討伐失敗を理由に彼女はゼウスと共にオラリオから追放してやった。

 

 このオラリオにいる限り、あの女神は此方に手出しは出来ない………筈!

 

 日に日に増していくベルへの想い。だが、そんなフレイヤの強烈なまでの想いとは裏腹にヘスティア・ファミリアの牙城はとんでもなく強固。

 

 もしベル・クラネルを強引に改宗(コンバージョン)させようモノなら、【静寂】のアルフィアを筆頭に【暴食】のザルドが有無を言わさず襲い掛かってくるだろうし、【凶狼】や【槍の乙女】も黙ってはいないだろう。

 

 何よりも、ヘスティアの下にはベジットがいる。

 

 今でも忘れない。大抗争を乗り越え、多くの眷族達が昇格を果たし、オラリオの最強派閥の一角にのしあがった頃、当時Lv.7だったオッタルを筆頭にオラリオ随一とも呼べる幹部達を難なく一蹴して見せたベジットの規格外の強さ。

 

 しかもオッタル曰く、例の黄金の炎を纏った金髪碧眼の状態───超サイヤ人を更に進化させた様な形態を身に付けているらしい。

 

 というか、何だ超サイヤ人の進化って?

 

 他にも武神であるタケミカヅチと技で競い合える技術を有し、慢心せず更なる強さを貪欲に求める向上心の塊。そのストイックさにオッタルですら感化してしまっている。

 

「……本当に、厄介極まりない派閥に成長したものね」

 

 今の自分達では、真向勝負では敗色は濃厚。しかし、怪物祭の一件がある以上、いずれヘスティア・ファミリアとは激突する運命にある。

 

 ベジットや他の眷族が寿命で死去するまで待つ? 屈辱的ではあるが、ベジットは戦争遊戯をする際のタイミングは此方に一任している。

 

『自分達に勝てると確信した時まで待つ』

 

 生意気にそう言い放つベジットに、フレイヤは久し振りに本気でムカッ腹が立った。が、同時に安堵した自分がいるのもまた事実。

 

 たとえベルがヨボヨボに老い耄れても、フレイヤは変わらない愛を注げる自信と自負がある。神は不変、永劫に変わることがない存在だからこそ、変わらぬ愛を抱けるのだ。

 

 ……けれど、それは雑魚の思考だ。

 

 女神フレイヤは愛の女神であると同時に英雄を、勇気ある人類を愛する戦いの神の一面を持つ。

 

 相手が遥か格上でも恐れず挑む。フレイヤの神の別側面から見ても、先日のベルの戦いぶりは100点満点の花丸だった。

 

 欲しい。ベル・クラネルを、あの純白な魂を持つ愛しい少年をフレイヤはどうしようもなく欲しい。

 

 抱き締めたい。愛で回したい。彼が負った傷を一つ一つ指で這わせ、慰めて褒めてあげたい。

 

 照れた顔、笑った顔、困った顔、泣きそうな顔、その全てが愛おしく思い、焦がれる度に胸が締め付けられる。

 

 理性と本能がせめぎ合う中、フレイヤは背後に控えるオッタルへ問う。

 

「───『強靭な勇士(エインへリヤル)』の調子はどう?」

 

「はっ、ヴァンを筆頭にレミリア・バレンティア、ラスク・ラディール、メルーナ・スレア、レスタン、ターナの六名はLv.5組(・・・・・)の中でも抜きん出ており、恐らくヴァンは近い内にLv.6に昇格するかと」

 

「そう、ヘイズには苦労を掛けるわね」

 

 フレイヤ・ファミリアは、怪物祭でヘスティア・ファミリアへのリベンジを果たす為に、日夜殺し合いという名の研鑽を行っており、その苛烈さは凄まじく、主神であるフレイヤからの愛を頂戴するために同じ眷族でありながら連日血を血で洗う《洗礼》を行っている。

 

 気を習得したての頃は、初めて体験する力に困惑しながらも自らの可能性を広げる為に模索する段階だった事から、比較的大人しかったが、気をある程度理解し、強くなる事に最適解の使い方を覚えてからは、その研鑽ぶりは以前よりも凄まじくなっていた。

 

 特に、治療部隊の筆頭でありフレイヤ・ファミリアLv.6(・・・・)の幹部であるヘイズ・ベルベットの発現したスキル、《料理の超人(クッキング・ママ)》の効果により《強靭な勇士(エインへリアル)》の育成に大きく貢献していた。

 

 フレイヤ・ファミリアの頭脳、ヘディン・セルランドの采配により、以前よりも遥かに強化された我が派閥。

 

 相変わらず個人主義の女神至上主義。しかもその一端にはベジットの薫陶も絡んでいると言うのだから、フレイヤとしては少しばかり面白くない。

 

 とは言え、自分の眷族(こども)達が着実に強くなっているのもまた事実。それを嬉しく思うのは間違いではないだろう。

 

「そのまま強くなり続けなさい。自分の為に、私の為に、一切の妥協無く」

 

「はっ!」

 

 頭を下げて一礼するオッタルに一瞥し、フレイヤは席から立ち上がる。眼下に広がるオラリオの街を見下ろしながら、フレイヤは改めて決意する。

 

「必ず、必ず貴方を手に入れて見せるわ。ベル……」

 

 蕩けた女神の呟きは、意中の相手に届くことはなく、部屋へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、オラリオ屈指の最凶派閥の主神から色んな意味で注目されているベジットはというと。

 

「……つまり、あのアステリオスというミノタウロスの猛牛は、ベル・クラネル氏を前世から続く因縁の相手であるのに対し、貴方はそれを知らずアステリオス氏の修行に付き合い、強くしてしまったと?」

 

「あい」

 

 ディアンケヒト・ファミリアの本拠地にて、パンパンに両頬を張らしたベジットが、年下である筈の少女、アミッド・テアサナーレの前で正座させられていた。

 

 完全な死を迎えない限り、死の淵からでも蘇生が可能とされている彼女の神々から贈られた二つ名は【戦場の聖女(デア・セイント)】。

 

 しかし、昨今の彼女のその二つ名は、別の意味合いを持ってオラリオに広まりつつある。

 

 ヘスティア・ファミリアの団長、ベジット。現在のオラリオにて自他共に認める天下無敵である怪物を正面から(物理的に)説き伏せる数少ない傑物。

 

 そして、ベジットが頭が上がらない数少ない相手でもあった。

 

(あぁ、昔はあんなにも小さくて可愛気があって、俺の事を尊敬の眼差しを向けていた子が、どうしてこんなおっかなくなってしまったのか。ディアンケヒト様、どういう育て方をしたのやら)

 

 嘗ての幼く、まだ純粋にベジットの事を尊敬していた少女はいつの間にか凄まじき女───略して凄女へと成長してしまっていた。

 

 一体何処で選択肢を間違えてしまったのか、リリルカがウチに来たばかりの頃は自分の事をお目目をキラキラさせていたのに、今ではジト目がデフォとなり自分への態度も雑になっている。

 

 そう言えば、前世のバイト先の後輩も、最初の頃は凄く憧れに満ちた眼差しを向けてくれたのに、いつの間にか目の前のアミッドと似た眼差しを向けてくるようになったっけ。

 

(やっぱ頭の良い子って、色々と敏いのかねぇ)

 

「ベジットさん、私の話……聞いてます?」

 

「あ、はい。聞いてます聞いてます」

 

 これ以上頬を張らすのも懲り懲りだ。早急に話を終える為に精一杯謝罪を繰り返すベジット、そんな時ディアンケヒト・ファミリアの眷族の一人が声を掛けてきた。

 

「アミッドー、ベジットさんへの折檻終わったー?」

 

「あらマルタ、どうかしたの?」

 

 同期の仲間らしい治癒師の少女が声を掛けてくる。

 

「ガネーシャ・ファミリアの【象神の詩(ヴィヤーサ)】が、ベジットさんに用があるんだって。何でも、廃教会の後片付けに協力して欲しいとか」

 

「アーディさんが?」

 

 グッドタイミング。少女がもたらしてくれた情報に心底喜んだベジットは、正座状態から立ち上がる。

 

「おっとぉ、そう言えばガネーシャ・ファミリアには頼んでいた案件があるのだった。そう言うわけでアミッド、またな!」

 

「あ、ちょ!」

 

 アミッドの制止も虚しく、にこやかに去っていくベジット。相変わらず調子の良い彼に溜め息を吐き出す彼女に……。

 

「………フラれちゃったね」

 

「あぁ?」

 

 同僚のからかいに思わず全ギレしてしまうアミッドちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいベジットさん。もしかして立て込んでた?」

 

「いや、寧ろナイスタイミングだぜアーディ。お陰で助かったぜ」

 

 ディアンケヒト・ファミリアの本拠地を後にして、ベジットはアーディと共にオラリオの廃墟区画へ来ていた。

 

「ほら、昨日の黒いミノタウロスとベル君の戦いで倒壊した建物の後片付けがあってさ」

 

「そのついでに、元ヘスティア・ファミリアの本拠地の件も片付けようって訳ね。了解だ」

 

 以前、アポロン・ファミリアの襲撃により倒壊したヘスティア・ファミリアの元本拠地。これまで色々あって中々手を出せないでいた案件だが、今回の件のついでに漸く着手する事が出来そうだ。

 

「子供達が誤って入って怪我するのも気が引けるからな」

 

「そう言ってくれると此方も助かる。待っていたぞ、ベジット」

 

 瓦礫の撤去作業の現場で待っていたのは、ガネーシャ・ファミリアの団長、シャクティだった。

 

 ガネーシャ・ファミリアは街の治安維持を務める警邏隊の役割を担っており、その中には一般市民には危険とされる瓦礫の撤去作業等も含まれている。

 

 今回は以前から依頼の打診があった瓦礫となった廃教会の撤去作業。

 

 以前から撤去の依頼自体は出していたが、現場には遺失物関係の事もあり、依頼人も現場に居合わせなければならない決まりがあったのだが。

 

「いやぁ、シャクティも悪いな。ここ暫くウチはドタバタしててさ。もっと早く頼みたかったんだけど……」

 

 今年に限って……というか、ベル・クラネルが入団してからこっち、巻き起こる出来事が多すぎてそちらの対処に追われてしまっていた。

 

 故に、今日の今日まで依頼は延期とされていたが、その辺りはシャクティも理解してくれていたらしく、呆れはするものの納得はしてくれていた。

 

「まぁ、今年に入ってからヘスティア・ファミリアの活躍ぶりは私も耳にしていたからな。その対応に忙しかったと言うのも分かる」

 

「ベル君ってばスゴいよねー。もうLv.4なんだっけ?」

 

「おお、ステイタスも軒並みSSSオーバー(限界突破)済み。ファミリアのランクが上がりそうで戦々恐々としているよ」

 

 サラリと口にするベルの情報だが、実際にベルの位階(レベル)は既に昇格しLv.4へ至っている。

 

 アステリオスという規格外の異端児と繰り広げた戦いはオラリオに住まう全ての人間が認めている。

 

 がんばり屋なベルを自慢しながら、ベジットはシャクティと共に瓦礫の上へと立つ。

 

「では、先ずは撤去の前に荷物の確認と回収を行いたい。ベジット、地下へと続く階段の場所は覚えているな?」

 

「おう」

 

 撤去の前に、遺失物の有無の確認と回収。本来であれば地上部分の瓦礫の撤去をしてからだが、今回はベジットの意向で荷物の回収が先とされている。

 

 その理由は勿論、倉庫となっている地下室に眠る例のアレ(黒竜の鱗)である。

 

 一応アレはベジットの気を注いで強化された布によって封印されているが、万が一他の人間が触り一ミリでも捲れば瞬く間に強烈な呪いの様な“威”がオラリオ中に広がってしまう。

 

 オラリオに来たばかりの時は瞬時にヘファイストスとヘスティアが神威で抵抗、中和してくれたから被害は最小限に抑えられたが、もし神々がいない状況下で同じことが起きれば、オラリオ中の人間……少なくとも第一級(Lv.5)以下の冒険者は“威”に耐えられず意識を失うだろうと女神ヘファイストスは語っている。

 

 覇王色の覇気かな?

 

 そんな事を言われたら、迂闊に余所の人間に触れさせる訳にもいかない。よって、瓦礫の撤去作業の時はベジットも参加する事になっているのだ。

 

「んじゃ、お先に失礼しますよーっと」

 

 キッと軽く気合いを飛ばし、地下室へ続く階段……その上に覆い被さった瓦礫だけを器用に粉微塵へと吹き飛ばす。

 

「………それも、“気”の応用なのか?」

 

「おう、その名も“気合い砲”。結構便利な技なんだぜ」

 

 両手が塞がっている時とか、魔石を採取している時にモンスターが襲ってきても、これさえ覚えれば不意討ちも防げる優れもの。

 

 オラリオにきて何気にベジットが多用している技の一つだったりする。

 

「……物理的破壊を可能とした気合い?」

 

「お姉ちゃん、あまり深く考えない方がいいよー」

 

 宇宙を背負うシャクティを余所に、ベジットは地下へと続く階段を下りていく。

 

 地下室へ出ると、意外なことに倉庫は土埃にまみれていながら然程荒れてはいなかった。この分なら保存状態も悪くないだろうと、派閥の財産が無事なことにベジットはホッと胸を撫で下ろす。

 

 さて、次は荷物の確認だと、先ずは確保最優先である例のアレを探すベジットだが。

 

「…………アレ?」

 

 無い。

 

「………………アレ?」

 

 置いていた筈のアレがない。

 

「……………………………………アレ?」

 

  自分の気でコーティングし、雁字搦めにしておいた黒竜の鱗が…………無い。

 

「……………………………………………………………………アレ?」

 

 何度探しても、他の荷物を地上に戻し、再度探しても、どれだけ探しても瓦礫の中をくまなく探しても、黒竜の鱗は影も形も無かった。

 

「………ましゃか」

 

 ベジットの脳裏に最悪の可能性が過る。

 

「………………盗まれた?」

 

 冷や汗が額から滝のように流れ落ちていく。

 

「べ、ベジットさん?」

 

「おい、どうした? 何やら尋常じゃない様子だが?」

 

 初めて目にするベジットの様子にアーディもシャクティも心配するが、当のベジットはそれに応えるだけの余裕は無かった。

 

 盗まれた。黒竜の鱗が。その結論に到達したベジットの次なる行動は。

 

「一大事だよ、全員集合ォォォッ!!!」

 

 その声を耳にした者達は、早くも嫌な予感に震えたという。

 

 





次回、ズレ。

ベジットと一同の認識が、漸く合致する。

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