ダンジョンに超なアイツが来るのは間違いか?   作:アゴン

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映画ちいかわ視聴前

甥「チピチピチャパチャパ!」
姪「ハッピーハッピーハッピー!」

視聴後

甥&姪「「U R MY SPECIAL」」

作者「楽しんでくれたようやね。おすすめした甲斐があったわwww」
姉「黒閃ッ!」

 素敵な一夏を過ごした一幕でした(笑)



そんな訳で初投稿です。


物語142

 

 

 

 ディオニュソス・ファミリア。

 

 今は昔、まだオラリオが《大抗争》の傷が癒えておらず、復興作業に勤しんでいた頃。

 

 ディオニュソス・ファミリアは、自らの意思で冒険する事を決め、自らの意思でダンジョンへ挑み、そして散っていった。

 

 多くの眷族達を死なせ、その重責に耐えきれず、派閥の主神ディオニュソスは、生き残った僅か二名のエルフの少女と共にオラリオから出ていった。

 

「オラリオから出て、旅を続ける中、有り難いことに私の眷族になりたいという人類達(こども達)も少しずつ増え、私のファミリアは再び嘗ての様な賑わいを得た」

 

 あの頃は楽しかった。オラリオの中とは異なる冒険があり、広大な大地と空の間で懸命に生きる我々はまるで一つの遊牧民の様だった。

 

 こんな生活も悪くはない。オラリオで暮らしていた頃とは何もかもが違う環境だが、それでも人類と共に生きている自分は、これ迄とは別の高揚感で満ちていた。

 

 けれど数年前。その悲劇は唐突に起きた。

 

 自分の眷族がある日、何者かの手によって絞殺されていた。頸を絞め、骨ごと砕かれた様な凄惨な死に様だった。

 

 殺された眷族の無念を晴らすため、犯人に報いを受けさせる為、慣れない調査と捜査を重ね、漸く我々は一つの真実に辿り着いた。

 

 闇派閥。嘗てオラリオに潜み、オラリオを蝕んできた腫瘍(害悪)。最悪とも呼べる闇の組織がどういう訳かディオニュソス・ファミリアに牙を剥いてきた。

 

 ……今にして思えば、あれは当時オラリオの外で活動する闇派閥寄りのファミリアと何らかの交渉と計画を練るための時期だったのだろう。

 

 そして、そんな奴等の取引現場に運悪く眷族(こども)達は巻き込まれてしまった。

 

 許せなかった。悔しかった。無惨に殺された眷族を、仲間を殺された事で我々は今一度オラリオに向かう事を決意した。

 

 殺された眷族達の仇と、オラリオに迫る悪を払う為、その為に我々は今日まで生きてきたのだ。

 

 嗤うなら嗤えば良い。だがロキ、どう言われても私の意思は変わらない。

 

 今回の作戦、ディオニュソス・ファミリアは全戦力を投じる。一人一人は確かに君の眷族に遠く及ばないが、それでも私の眷族達の意思は硬く結ばれている。

 

 ……ありがとう。あぁ、作戦時は君達の判断に従おう。

 

 任せてくれ。決して、決して君達の邪魔にならないことをここに誓おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「右から食人花(ヴィオラス)が三体! 来ます!」

 

「レフィーヤ!」

 

「はい!」

 

 ロキ・ファミリアの主神、ロキとディオニュソスが率いる主力部隊。主神が二柱も共にしている為、主力はガレスとフィンを筆頭にロキ・ファミリアの精鋭と、ディオニュソス・ファミリアの数名が同伴していた。

 

 フィンの指示に即座に返答、予め用意していた魔法を駆使し、レフィーヤは光の矢を放つ。矢というよりは砲台に近い魔力の奔流は押し寄せてくる食人花を纏めて焼き尽くし、魔石諸とも塵へと還す。

 

「……流石は、音に聞こえしロキ・ファミリア。幹部でもないのにこれ程とは、流石ですね」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ディオニュソス・ファミリアの団長(・・)アウラ・モーリエル。Lv.2である彼女は指揮能力が高い事を評価され、フィンにも認められた事で今回の作戦に於ける部分的な補助を任されていた。

 

「しかし、やはり食人花の数が多いですね。人造迷宮が半壊しているだけあって穴だらけ、何処から来るか分かったものじゃない」

 

 現状、人造迷宮(クノッソス)はある冒険者が盛大に暴れてしまった為、その機能の多くが機能不全に陥ってしまっている。

 

 侵入者を監視する“目”の石像も殆どが崩壊し、罠も仕掛けも殆ど機能せず、何処からかヒューッと風が入り込んでくる始末。

 

 所々修繕を試みた痕跡が目につくのが、余計に哀愁を漂わせた。やり過ぎ、とは口が裂けても言えないが、それでも闇派閥に対して憐れみを抱いてしまう程に人造迷宮は酷い事になっていた。

 

 尤も、その所為かモンスターの配置が読みにくく、若干の足止めを食らってしまっているが……まぁ、フィンにとってこの程度は予想の範囲内。

 

 逆を言えば、そのくらいしか対抗策が無いのだろう。ここまで攻め込まれておきながら、満足に抵抗できていないのがその証拠だ。

 

 襲い来る食人花の群れを蹴散らしながら、仲間達に指示を飛ばす。

 

「団長! 次が来ます!」

 

「ガレスを主軸に迎撃を! ディオニュソス・ファミリアは魔剣の準備を!」

 

 再び押し寄せるモンスターの群れ、それを薙ぎ払うガレスの勇姿を見ながら、ロキはフィンへ声を掛ける。

 

「取り敢えず、今の所は順調やな」

 

「あぁ、けどまだ敵の手札は出し切っていない。油断するなよ、ロキ」

 

 同派閥の部下に指示を飛ばしながら、フィンはその頭脳をフル回転させて“次”へその思考を加速させる。

 

(現状、人造迷宮(クノッソス)攻略は順調過ぎると言って良いほどに順調だ。先の“精霊の分身(デミ・スピリット)”とベジットによる戦闘の余波で半壊した影響もあるだろうが……)

 

 問題は、現状殆ど障害らしい障害もなく、完封してしまっていること。本作戦の総指揮官であるフィンとしては此方の被害が無いことに喜ぶべきだろうが……如何せん、相手側の反攻が大人し過ぎる。

 

(相手の手札には怪人(レヴィス)だけでなく殺帝(ヴァレッタ)、仮面の怪人、そしてこの人造迷宮を生み出した“ダイダロスの子孫”も控えている)

 

 勿論、それぞれの相手の手札に対するカウンターも此方は既に用意している。

 

 怪人にはアイズとリヴェリア。例の“ダイダロスの子孫”も目下協力関係を築いているあのファミリアが今頃探し回っている事だろう。

 

 仮面の怪人も同様、その存在は既に全ての部隊に通達されている。

 

 問題は殺帝……ヴァレッタ・グレーデ。自分を殺す為にどの様な手段も、如何なる悪辣も辞さない彼女がこの局面でどの様な手段を講じるかだ。

 

(此方の思考を削ごうと、要所要所で伏兵を向かわせて来るのが実に彼女らしい()だが、それでも何処か浅い。何かを隠すブラフなのか、或いは何らかの意図があるのか)

 

 それとも、こんな風に思考の迷路に陥らせるのが目的か。何れにせよ些か拙い(・・)。過去に幾度と無く殺し合いを演じてきた相手にしては温すぎる采配にフィンは一抹の不安………というより、違和感を抱く。

 

「団長! 進路前方に食人花多数!」

 

「ガレス隊前へ! 魔剣隊はガレス隊が引き付けたと同時に斉射! タイミングはアウラに一任する!」

 

「「「了解!」」」

 

 フィンの指示に部隊は一つの肉体のように動き、モンスターを一掃する。瞬間、直ぐに消耗した各人の体力、魔力を計算し、部隊の再編を急ぐ。

 

 休み無く回転させる頭脳。その隅でフィンはベジットのある会話を思い出す。

 

『ドロップアイテム? 君が其所まで拘るなんて、余程厄介な代物の様だ。盗まれた物の特徴を教えてくれれば、僕の方でも捜索しておくけど?』

 

『申し出は有り難いが、そちらも当日は部隊の指揮とかで忙しいんだろ? 余り負担を掛けるのは申し訳ないんだが……』

 

『そんな気にせんでええよ? 自分にはメレンやリヴェリアの件で世話になったし、実際自分がくれた“仙豆擬き”があるからな。言うだけただなんやから、素直に言うてみ?』

 

『あ、マジで? ならお言葉に甘えさせて……』

 

(包帯で雁字搦めにしたとある竜種の鱗。との事らしいが……)

 

 一体、その竜種とは何なのか。それだけはベジットは口にしなかったが。

 

(リヴェリアに聞けば分かると彼は言っていた。オラリオに来たばかりの頃、一度だけ事情を説明した事があると)

 

 ならばもう一度説明すれば良いのに、とロキは突っ込んだが、ベジットは苦笑うばかりで答えようとしなかった。

 

 深く追及しても、ベジットという超級の戦力を逃してしまうのはフィンもロキも望まない。嘗てメレンでアルフィアに言われた事を反省し、その場ではそれ以上追及することは無かった。

 

 気付けば、ヴァレッタや人造迷宮よりもベジットの事を考えていたフィンは、自嘲の笑みを浮かべて頭を振る。

 

(いけないな。今は人造迷宮攻略に専念しないと)

 

 知れば知る程深まるベジットの謎。まるでダンジョンの様な男だと、フィンは笑みを浮かべて目の前の人造迷宮の攻略へ意識を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「左右から食人花の群れ多数!」

 

「前方からも晶虫型のモンスターが大量、来ます!」

 

「ほいほ~い」

 

 緊迫した面持ちで状況報告するロキ・ファミリアの面々に対し、返ってきたのは場違いにも程がある暢気な声だった。

 

 瞬間、3つの小さな光が放たれてモンスターの群れにそれぞれ着弾。爆風と衝撃が辺りを揺らし、ロキ・ファミリア達の視界を塞ぐ。

 

 視界が開ける頃にはモンスターの形跡など微塵も残されておらず、爆心地のような跡が残されているだけ。その光景に同行しているロキ・ファミリア、並びにアミッド達は驚愕に目を見開いていた。

 

「いっけね、ちと威力の調節をミスったか。全員怪我ねぇか~?」

 

「……あ、はい。大丈夫です」

 

 人造迷宮はその素材の多くがアダマンタイトや最硬金属(オリハルコン)で構成されており、特に“扉”にはオリハルコンがふんだんに使われている。

 

 アダマンタイトもその稀少性に見合うだけの硬さを有しており、その素材で出来ている人造迷宮の壁や床は冒険者でも簡単には破壊できない鋼の牢獄でもあった。

 

 けれど、自分達の後ろで控えるベジット。彼の放つ小さな光の弾はまるでそんな事意にも介さず爆散、堅牢な人造迷宮の通路を綿菓子のように粉砕していく。

 

 魔法でないから詠唱もない、軽い言葉とは裏腹にもたらされる結果に、ロキ・ファミリアは唖然としていた。

 

 そして、彼等が驚いているのはそれだけではない。

 

「おーい旦那、やっぱり来てたぜ。此方に偽装した闇派閥の使いッパシリ」

 

「お、マジでか。ひゃー、相変わらずスゲェなフィンは。ここまでマジで予想を外してねェの」

 

 ベジットの後ろから現れたのは、アストレア・ファミリア【狡鼠(スライル)】のライラ。最初の探索でベジットと共に地図作成(マッピング)を行い、人造迷宮の七割近いギミックをサーチ、把握した正義の眷族きってのやり手。

 

 器の強さもLv.6へ昇格し、単身での戦闘能力も向上させた事で、低レベル帯の眷族が多い闇派閥の団員も単独で撃破してしまう。

 

 既にフィンから通達され、闇派閥の手段やらを把握した彼女は、記憶していた地図の位置を頼りに仕掛けてくる闇派閥を待ち伏せし、一方的に蹂躙してしまう。

 

「コレ、多分ディオニュソス・ファミリアの所の団員服だな。妙に細部まで凝ってやがる」

 

「しかも手には呪詛武器(カース・ウェポン)の短刀と来たか。アミッド、コレ解呪できる?」

 

「任せて下さい」

 

 駆け寄り、気を失っている闇派閥の手から滑り落ちた呪詛にまみれた短刀をアミッドが浄化する。本来予定していた運用方法とは掛け離れているが、“ダイダロスの呪い”に由来するモノは何であれ消し尽くす事を決めている。

 

 魔法陣(サークル)を展開し、解呪の詠唱を行う。一見派手なアミッドの魔法にベジットは感心した様にヘーと呟く。

 

「いやー、アミッドって回復系に関しては何でも出来るんだなぁ。一家に一人は欲しいな」

 

「いやドンだけバイオレンスな冒険してんだよそのご家庭は。普通は回復薬とか解毒薬で充分なんだよ」

 

「……今更だけど、飲むだけで体力の回復する薬って、副作用とか怖くね?」

 

「本当に今更だな!?」

 

「何故今そんな話を?」

 

「いやホラ、俺回復薬とか飲んだことねぇからさ」

 

「嘘でしょ……」

 

 敵地のど真ん中だというのに、まるで緊張感の欠片もないベジット。それだけ自分の強さに自信があるのか、薄暗い人造迷宮の中でも平然としている彼に、ロキ・ファミリアはただただ愕然としていた。

 

「さて、一応此処までノンストップで来たけど……ロキ・ファミリアは体力の消耗とか大丈夫か? 向こうは毒とか呪詛とか当たり前に使ってくるから、掠り傷一つでも報告するんだぞ?」

 

「は、はい!」

 

「全然大丈夫です!」

 

 本当の事を言えば、メンタル的に結構疲弊してはいるが、これ迄の道中で闇派閥から差し向けられたモンスターは全てベジットが粉砕し、ロキ・ファミリアの面々が行ったのは敵の指示で分断されないよう、各扉にあたる場所で塞き止める役割の支柱を立てた程度である。

 

 ベジットの下で預かったロキ・ファミリアは獣人のオルバ、黒髪短髪のロイド、カチューシャの少女クレア、他にもアンジュやリザ等のLv.3の所謂中堅の冒険者で固められている。

 

 Lv.3だけあって指示を受けた後の行動は迅速で、その連度の高さにベジットも舌を巻く程だ。

 

「いやー、こうしていると、俺だけLv.1ってのが何だか申し訳なく思っちまうな」

 

「なら、サポーターでもやってみるか旦那。あたしばっかり持ってる貴重品多いしさ。ホラ、この眼晶(オルクス)とかさ」

 

 ライラの懐から出されるのは、掌サイズの水晶玉。それはフェルズの生み出した魔道具(アイテム)で、遠く離れた場所の映像や音声を共有できるという優れものである。

 

「えー嫌だよ、明らかに高そうなヤツじゃんそれ。割れたらフェルズに賠償金とか請求されそう」

 

「いやホントそれ。実は私もこれ持ってる時は内心スゲェビビり散らかしてるの。なぁオルバ君よぉ、代わりに持ってくんない?」

 

「ウェッ!? お、俺がですか!?」

 

 まさかのムチャ振りに動揺する獣人のオルバ君。因みにこの会話は眼晶を通して全ての部隊に筒抜けなのだが、相変わらずマイペースなベジット達にガレスやフィン、リヴェリア達はやれやれと苦笑いを浮かべていた。

 

 そんな他愛ない話をしながら人造迷宮を走り抜けること数分、ある気を感知したベジットはやってきた十字路にて足を止め、右の通路へ視線を向ける。

 

「……何だこの気? 急に出てきたと思ったらいきなり膨れ上がりやがった」

 

 ベジットに遅れ、ライラやロキ・ファミリア達も感知したのだろう、通路の奥から感じられる禍々しい気配。まるで先程アミッドが晴らした呪詛武器の呪詛そのもののようだ。

 

「……ベジットさん。お願いします」

 

 短く、端的にそう告げるアミッド。今回の作戦目標の一つであるターゲットの存在に気付いたのだろう、決意を固く表情を強張らせる彼女に、ベジットはフッと笑みを浮かべて彼女の被る帽子ごと頭を撫でる。

 

「そんじゃ、噂のダイダロスの子孫とご対面としますか。全員、気合いを入れろよ」

 

「「「押忍ッ!」」」

 

 団長であるフィンとは異なる部隊の鼓舞。短く、けれど自信に満ちた声音に一同は気持ちを一つにさせて、通路の奥に潜む悪意と呪いに挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■ッ!!」

 

「来ます! 総員、迎撃準備!!」

 

 人造迷宮の一角。広く作られたその空間で、ヘルメス・ファミリアの団長であるアスフィ・アル・アンドロメダは、目の前で咆哮する怪物を前に全員で戦って生き残る指示を下す。

 

 眼前の怪物はダイダロスの子孫、バルカ・ペルディクスだったモノ。人造迷宮が破壊され、始祖の願いも果たせないと悟った彼は、邪神タナトスの言葉に言われるがままに従い、人造迷宮の崩壊を図った。

 

 ここは、その制御室。一族の願いの為に冒険者達を生き埋めにしようと試みたが、既に先回りをしていたヘルメス・ファミリアに一蹴。

 

 いよいよ追い詰められたバルカは、懐にしまっていた“胎児の宝玉”を片手に自害。自らの肉体を生け贄に、巨大な怪物へと成り果てた。

 

 自ら怪物へと変化させ、僅かに残された自我を元にヘルメス・ファミリアへ襲い掛かる。巨大で、且つ素早い怪物の肥大化した腕を掻い潜りながら、ヘルメス・ファミリアの冒険者は次々に刃を突き立てる。

 

 血が吹き出した。赤黒く、不気味に彩られた血が、怪物バルカの全身から噴水のように噴き出してくる。

 

 ただの攻撃を受けた反応じゃない。明らかに違う反応に堪らず距離を開けるが……。

 

「あ、ガァァァッ!?」

 

「キークス!?」

 

「く、苦……しい……」

 

「エリリー!?」

 

「これはまさか……呪詛!?」

 

 バルカの血を浴びた仲間達が途端に悶え苦しみ出す。その異変にいち早く気付いたアスフィが、その場からの一時離脱を指示するが。

 

「オイオイ、折角来たんだ。ゆっくりしていけよ【万能者(ペルセウス)】」

 

「ッ!?」

 

 瞬間、身の毛がよだつ程の殺気がアスフィの全身を突き刺してくる。瞬時に向けられる殺意に合わせて刃を振るうが、彼女の振るう刃はその体ごと吹き飛ばされてしまう。

 

「団長!」

 

 吹き飛ぶ団長を、キークスが根性で受け止める。自身も呪詛で蝕まれているため、最後まで受け止めきれずにアスフィ共々吹き飛んでしまうが、更に後ろへ控えていたドドンが二人を受け止める。

 

 何がと、衝撃で痺れる身体に鞭を入れながら体を起こす。と、アスフィはその人物に目を見開いた。

 

「【殺帝】、ヴァレッタ・グレーデ!!」

 

「正解ぃ。あーあ、フィンの奴ここに来てねーのかよ、ダルいなぁ」

 

 闇派閥に於ける屈指の殺人鬼。これ迄表舞台に出てこなかった彼女が此処で出てきた事もそうだが、アスフィが驚いたのはヴァレッタの身体にあった。

 

「あなた、その体は!?」

 

 左胸から胴体全体に広がる二つ目の顔、ドクンドクンと脈打ち、徐々に胴体の顔部分が肥大化していく。その異様な光景にヘルメス・ファミリアは息を呑んだ。

 

 恐らくは彼女も胎児の宝玉をその身に受けたのだろう。抵抗しながらも、徐々に侵食していくその様子にヘルメス・ファミリアは息を呑んだ。

 

「ヒャハ、我ながら醜いだろう? あの怪物女、アタシのお宝を奪うだけじゃ飽き足らず、等価交換だと抜かしてコレを押し付けやがった。お陰で自我を保つだけで精一杯よ」

 

 狂喜的に嗤うヴァレッタ。もう自身の終わりを悟っているのか、彼女の言葉には圧がない。有るのは、ただ“終わり”の感情だけ。何もかもを手放す、追い詰められた獣の眼差しにアスフィは息を呑んだ。

 

「どのみちアタシももう終わり。だったら、精々道連れを増やしてやるよ!」

 

 瞬間、膨れ上がるヴァレッタの気が、黒い炎となって顕れる。Lv.5の冒険者であるヴァレッタが死に際で手に入れた力は、人造迷宮の全体を震わせる。

 

 まるで深層の階層主を前に、一刻も早い離脱を考えるアスフィだが、加速する思考とは裏腹に、身体の方は何処までも鈍重だった。

 

「無駄だぁ、アタシの魔法【シャルドー】は、結界内に存在する奴の力と敏捷を低下させる。この空間に入り込んだ時点で、テメェ等は詰んでるんだよ!」

 

 既にこの空間は、ヴァレッタが仕掛けた蜘蛛の糸が張り巡らされた後だった。

 

 このままでは自分達は殺される。身動きも封じられ、嬲り殺しにされる未来を誰もが幻視した時。

 

「なんだ? 既に先客がいたのか……て、何だあのデカブツ、バイオのラスボスかよ」

 

「あれは、ヘルメス・ファミリアの【万能者】! ヘルメス・ファミリアも参戦していたのですか」

 

「ゲッ、あれってもしかしてヴァレッタか!?」

 

 ヘスティア・ファミリア。しかもその長であるベジットの登場に、この時のヘルメス・ファミリアは喜び以上に言葉に出来ない不安を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベジット……だと?」

 

 現れた増援と、その人物を前に最初に反応したのはヴァレッタだった。

 

 忘れる訳がない。大抗争の時、用意していたモンスターという戦力を一瞬にして塵にしてくれた忌々しき存在。

 

 殺してやりたい度数で言えばフィンと同等で、その憎悪はこの数年で消えるモノではない。

 

 ヴァレッタ・グレーデにとっては、この上なく相容れない敵。しかし、対するベジットは何やら良くわかっていない様子で……。

 

「あ、誰だお前?」

 

 当然のように、そう口にする。隣のライラはズッコケた。

 

「旦那、アイツは【殺帝】! 闇派閥の幹部だよ! ってか、昔に一度顔を合わせた事あっただろうが!!」

 

「え、そうだっけ?」

 

 ジーッとヴァレッタの顔を見るも、ベジットの記憶には引っ掛かりがなかった。あんなにケバい顔をしてたら普通覚えていそうなモノだが……。

 

(……そういや、オラリオに来たばっかの頃にもケバい奴がいたような)

 

 ンーッ? と当時の記憶を掘り起こしながら思い出していくと、確かにベジットの記憶に一人の人物と符合が一致した。

 

「アッ、あー! いたぁ! 確かにいたなぁこんな奴! そっかぁ、お前がヴァレッタかー!」

 

 納得した様子のベジットにライラは頭を抑え、アミッドは杖で背中をポカッと叩く。

 

「んで、そのヴァレッタ某とそこのデカブツが何でヘルメス・ファミリアを追い詰めてんだ? これもフィンの作戦か?」

 

 話を振られ、これ幸いにとアスフィが口を開く。

 

「わ、我々はこの人造迷宮を造り出した“ダイダロスの手記”の奪取を【勇者】から命じられて来ました! 不躾な事を重ねるようで大変恐縮ですが、どうか我々に救援を!」

 

「おう、分かった」

 

 必死な面持ちで助けを求めるアスフィにベジットは二つ返事で応えた。余りにも軽く、余りにも簡単に助けると、そう豪語するベジットに、ロキ・ファミリアは勿論、口にしたアスフィ本人も唖然としてしまう。

 

「ま、尤も助けるのは俺じゃなくてアミッドなんだが……アミッド、頼めるか?」

 

「勿論です。私は、その為にここに来たのですから」

 

 そういって魔法陣を展開。ヘルメス・ファミリアに掛けられた呪詛の解呪と、傷付いた全治癒効果の回復魔法の詠唱がアミッドの口から紡がれる。

 

 そんなアミッドを守るように、ベジットが前に出る。Lv.1の人間が己より高いレベルを誇る冒険者達を守るように前に出る。

 

 一見すればおかしな状況、だがこの場にいる誰もがそこに疑問を挟むことはしなかった。

 

 一歩進むごとに重くなる空気。ベジットもまたヴァレッタの魔法によって動きが阻害されている筈、しかし全く意に介さず、不敵な笑みを崩さないまま、ヴァレッタの近くまで歩みを進める。

 

 対するヴァレッタは……逃げなかった。逃げても無駄だと悟っているのか、それともそんな判断が出来ない程に胎児に侵食されているのか、それは分からない。

 

 だが、ヴァレッタは不気味に嘲笑の笑みを浮かべたまま、ベジットを嘲笑った。

 

「ベジット、テメェの所為でアタシ達の計画は台無しだ。人造迷宮もズタボロに壊しまくりやがって、慈悲というモノを知らねぇのか?」

 

「人の寝ている真下で、悪巧みをしている奴がいたら落ち着いて眠れねぇだろ? それに、お前さんはどうも血の匂いが強くていけねぇ。悪いが……ここで終わらせるぞ」

 

「クヒ、クヒヒヒャハハハ! 良いねぇ、そのゾッとする眼、最高じゃねぇか! こんなナリでなかったら抱き締めてやるところだったぜ!」

 

 ベジットの滲ませる敵意と殺意。向けられる鋭い眼光に身を震わせるヴァレッタだが、当然の如く効いちゃいない。

 

「惜しいなぁ、テメェがあのちんちくりんな女神の眷族でなかったら、此方に勧誘していた位だ」

 

「……悪いが、たとえ俺がヘスティアの眷族でなかったとしても、闇派閥に与する事はありえねぇよ」

 

「だろうな。だが……クキキ、あの時は心底嗤えたぜ? あのチビ女神が必死こいて眷族のガキにしがみついている姿はよぉ」

 

「………あ?」

 

 ピタリ。ヴァレッタの言葉にベジットが止まる。

 

「普段はオラリオの慈悲深い女神様を気取っておきながら、テメェが危機に陥れば無様にガキに縋り付く! 超越存在(デウスデア)なんて謳われる女神が、みっともねぇったらねぇよなぁ!?」

 

「……お前、知ってるのか?」

 

 あの時の事、アポロン・ファミリアの長と幹部達が凶行に走ったあの出来事。

 

 おかしいと思っていた。主神に従順と知られるヒュアキントスがベル憎しとは言え、主神の意向に反するような真似をするのだろうかと。

 

 しかし、目の前のヴァレッタは何かを知っているようだ。ザワッとベジットは己の血が沸騰していくのが分かった。

 

「あぁ、アポロン・ファミリアの連中に少しばかり《魅了の粉》をまぶしてやったら、見事にアタシの木偶人形に成り果てたよ! そんでちょいと女神の尻を追っ掛けるように指示したら、予想以上に面白れぇショーが見れたぜ!」

 

 自身の“終わり”を受け入れているのか、ヴァレッタの言葉は止まらない。

 

「しっかし、あんな女神の事だ。いつか必要になったら、自分から男に股を開くかもしんねぇな! ギャハハハハハハ……あ?」

 

 ゲラゲラと嗤うヴァレッタだが、ふと気付く。あれだけ存在感があったベジットの気配が、まるで嘘のように消えている。

 

 いや、消えたのではない。ベジットの“威”が、気配が、ヴァレッタ程度では感じ取れない程に強く、大きくなっていく……。

 

「………そうか、それが辞世の言葉か。良いぞ、ヴァレッタ・グレーデ。その言葉、確かに聞いたぞ」

 

 ベジットの気配が変わっていき、それに伴うようにユラユラと彼の髪色が変わっていく。

 

 超サイヤ人特有の金髪ではない。紅く、炎の様に揺らめく深紅の髪色にライラ達は目を見開く。

 

 だが、対するヴァレッタは恐怖を感じていた。胎児の宝玉を埋め込まれ、もうじき人として終わりを迎えると言うのに、自棄になっていた筈の精神が水を掛けられた焚き火のように鎮火し、代わりに足下が崩れるような恐怖に支配されていく。

 

 怒りもなく、憐れみもなく、ただ無感情に見下ろすベジットの眼。まるで無貌とも言える感情の抜けた彼の顔にヴァレッタは冷や汗を流しながら後退る。

 

「ふざ、ふざけんな! 今更アタシが、そんな脅しに屈するモノかよぉぉぉっ!!」

 

 肉体が膨れ上がる。胎児を受け入れ、人であることを辞めたヴァレッタは、肉体を肥大化させて空間を圧迫していく。

 

「■■■■■■■ッ!!!」

 

 バルカのそれよりも遥かに巨大な肉の怪物。しかし纏う黒き力は本物で、その咆哮(ハウル)はこの場にいる全員──たった一人を除いて──の行動を縛り上げた。

 

「■■■■■■ッ!!!」

 

 最早理性も知性も無いのだろう。自分の内に残る殺戮衝動に駆られるまま、暴れ始めるヴァレッタだった怪物。

 

 悪名高い闇派閥の幹部の憐れな末路に同情するものはいなかったが、厄介な奴が更に厄介な存在へと成り果てた事で、ロキ・ファミリア並びにヘルメス・ファミリアは表情を強張らせる。

 

 怪物バルカもヴァレッタに合わせて自身の肉体を膨張させる。恐らくはまた呪詛の血を撒き散らすつもりなのだろう。急ぎ転身を促すアスフィに対し、ベジットは静かに命令を下す。

 

「全員、一度下がれ」

 

「ベジットさん……」

 

 振り返らない。聳え立つ二体の怪物を前に、ベジットは背中に差した大剣、ドラゴンころしへ手を伸ばし……。

 

「「■■■■■■■ッ!!!」」

 

「き、来たぁ!!?」

 

「呪詛の血飛沫が来る!」

 

「ベジットさん!」

 

 迫り来る怪物達。階層主が二体同時に仕掛けてくる光景に誰もが絶望を抱いた時。

 

 一閃。白銀色の、鈍い光が一瞬だけ瞬いた。

 

 誰もが知覚出来なかった。ロキ・ファミリアの冒険者達も、Lv.6のライラでさえ、何が起きたのか理解できなかった。

 

 ただ、気付けば二体の巨大な化け物は、音もなく細切れになり、断末魔を上げる事無く絶命していた。ズルリと一片、また一片と崩れ落ちていくヴァレッタだったモノ、怪物に成り果てたバルカもその身に宿した呪いごと粉微塵に消え去っていった。

 

「さて、一先ずここは片付いたか。ライラ、フィンに報告して指示を仰いでくれ」

 

 大剣を背中に差し、ベジットが振り返る。何時もと変わらない飄々とした態度の彼に、ライラは一瞬戸惑うも、言われた通りに指示に従う。

 

 アスフィも、念の為にと自分達の得た情報も含めてフィンに報告する為にライラへ同席を頼み込む。

 

 他の面々も自分達に課せられた役割を果たそうと動き出す。けれど、誰もが先程の光景を忘れる事が出来なかった。

 

 紅く、炎の様に紅くなったベジットの髪。面と向かい合った訳でもないのに、彼の背を眼にしただけで誰もが言葉を出せず、ただ呆然としてしまった。

 

 此方を呑み込むような圧倒的威圧感。畏怖し、ひれ伏してしまいそうな存在感。それはまるで神威を解放した神のよう。

 

 有り得る訳がない。しかし、目の前で起きた僅か十秒足らずの出来事はこの場にいた全員の心に根深く刻み込まれる事になるのだった。

 

「……取り敢えず、借りは返せたかな」

 

 まだ本命は確保出来ていないが、それでも諸々の原因と決着を付ける事が出来た。

 

 周囲からの視線を感じながら、それでも気にしないことにしたベジットは、改めて部隊をまとめ直し、人造迷宮攻略を始めるのだった。

 

 

 

 





なんかウダウダと書いてしまい申し訳ない。
楽しんでいただけたら幸いです。


Q.これ、ロキとか他の神々気付いてね?
A.ほんの一瞬の出来事なんで、誰も気付いてません。

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