なんか急に涼しくなってきたね。
どういう事令和ちゃん?
そんな訳で初投降です。
「ロキ、アナタ本当に良かったの?」
本陣営。今回の作戦で人造迷宮との完全なる決着を果たす為、魔窟と化した人造迷宮へ突入した自分の
彼等の無事の生還を祈りつつ、今後の事を考えていたロキの後ろで、同じ天幕で茶を嗜んでいたフレイヤが、嘗ての悪神に問い掛ける。
「なんや藪から棒に。ウチが此処にいるのがそんなに意外か?」
「だって、アナタ決着を付ける時はほぼほぼ
地上に降り、人間と触れ合った事で嘗て悪神と畏れられた女神は変わった。その事を知る神の一柱であるフレイヤは、だからこそ今回のロキの大人しさに疑問を呈したのである。
「今回の件、黒幕はディオニュソスで決まりなのでしょう? 神を罰するなら、同じ神でないといけない。そんな絶対のルールをねじ曲げてまで獲物を譲るだなんて、アナタらしくないなと思うのだけれど?」
と、美神らしく首を傾げるその所作も素晴らしく美しい。
しかし、そんなフレイヤを鼻で笑い、ロキは天幕から見える人造迷宮へ続く孔へ視線を向ける。
「……別に、譲った訳やない。ベジットの言う道理に共感しただけや」
嘗てディオニュソス・ファミリアの眷族達は全員貧窮の女神ぺニアの眷族にされていた。それだけでも証拠としては充分なのに、第一次攻略作戦の後、ベジットは訝しげな表情で衝撃的な事実を突き付けてきた。
『ロキ様と一緒にいたディオニュソスって神様、送還されてないっぽいぞ』
それからもディオニュソス・ファミリアの本拠地の地下から出てくる神すら酔わせる神酒な葡萄酒の数々。
もはや、ディオニュソスがエニュオである事は確定。これ迄自分に対して理解ある協力者の顔をして近づいておきながら、その裏で己を嘲笑っていた。
自分や眷族達すら利用していたディオニュソスに、ロキは腸が煮え繰り返る思いだった。奴は必ず自分が殺す。そう意気込む悪神だった彼女の前に現れたのも……また彼だった。
『なぁロキ様。どうして神様ってのは地上に降りてきておいてまで好き勝手するんだ?』
神々は人間達と共に生きる為に地上へと降りてきた。たとえ神の気紛れで、退屈しのぎの為の一時のバカンスのつもりであっても、下界の人類にとって正に救いの兆しだった。
この千年、神々が地上へと降りて下界は神ありきの世界になりつつあった。神の恩恵を受け、眷族となれば、人を越えた力を手にすることが出来るようになり、モンスターに抗える様になる。
それを悪いことだとは言わない。ダンジョンというモノが下界に現れ、モンスターに種の根絶まで追い詰められた人類が打ち克つには神の恩恵に縋るのも理解できる。
この依存関係をベジットは悪とは言わないが、同時に健全とも呼べなかった。
人は変わりやすく、影響も受けやすい。それが神が相手であれば尚更で、人は容易く聖人にも悪人にも慣れる。
人の弱味に付け込み、囁き、唆して陥れる邪神もいれば、人を導く善神もいる。
だが、邪神がこうも簡単に現れ、人を陥れるのは偏に
であれば、今後人類は一つの覚悟を示さなければいけない時が来るかもしれない。そんな想いを抱いたベジットは、嘗て悪神だった女神に一つの提示を出した。
「………本気、なのね。ベジットは」
「あぁ、アレは半端な気持ちの人間がする顔やない。ガンギマリの阿呆のする顔やったわ」
今宵、一つの禁忌が破られる。
その事を理解したフレイヤは「そう」とだけ返して冷めた紅茶を啜り飲む。
対するロキはこれから起きるであろうハチャメチャに想いを寄せて。
その口元を三日月型に歪めるのだった。
◇
「と、まぁ状況証拠的にも物的証拠的にもアンタがエニュオである事は紛れもなく事実な訳なのだが……何か、反論がおありで?」
人造迷宮の隠し部屋。闇派閥にも知られていないその部屋で、ベジットは目の前の神を表面上ではあるが追い詰めていた。
ディオニュソス・ファミリアの実態、そこから出てくる疑惑と確信。これ迄のエニュオの行動と照らし合わせて目の前の神の逃げ道を一つずつ潰していく。
流石は天界で神々の殺し合いを目論む悪神ロキ。その頭脳は正に神がかりであると、ベジットは心の内で称賛する。
「アンタの負けだディオニュソス。大人しく投降し、全ての悪事を自ら告白するのであれば、正義と天秤を司る女神の慈悲の下、厳正に処罰して貰えるぞ?」
これは、事前に女神アストレアからも認可されたモノ。詳しい話は情報漏洩の為に伏せさせたが、かの女神は邪神が自ら罪と敗北を認め処罰を自分から受け入れるのであれば、
此方の腹の中を見透かし、敢えて懇願とする女神にこれまたベジットは流石だと感心した。
さぁどうする? いよいよ言い訳も出来なくなり、逃げ道も防がれた。これでディオニュソスの残された道は二つに一つしかない。
尤も、ベジットは目の前の狂った神がそんな殊勝な道を選ぶとは到底思っておらず。
「……クッ、クククククク、クヒャヒャヒャヒャヒャ!! 調子に乗るなよ忌々しい処女神の眷族がァ! そんな言葉でこのディオニュソスを追い詰めたつもりかァ!?」
発狂。これ迄の端正な顔立ちを崩し、最早“芸”とすら思えるディオニュソスの変貌にベジットはやはりなと肩を竦めた。
「高尚な説法、実に痛み入る! けどなァ、そんなんで私が用意した
「………え?」
ディオニュソスの物言いにベジットは呆ける。
「あの精霊の分身達はいずれも“黒い気”を持っている! 周囲を汚染し、自ら崩壊するまで強化し続ける生命体! 一体でも仕留めそこねば、その時点で儀式は完遂する!!」
“黒い気”で強化された精霊は、高い戦闘能力だけでなく、アルフィアの魔法すら弾く高い耐久性能を有している。
単純な脳筋強化。故に手強く厄介、過去にこの黒い気に汚染された精霊の分身に、ロキ・ファミリアとベート・ローガ、そしてリリルカ・アーデは中々に手を焼かされた。
「そして怪人曰く、今回は更に黒い気を強大に付与されている! 最早対応出来るのは貴様くらい、だがそのお前は此処で私に足止めをしなくてはならない。追い詰められているのは、果してどちらかなぁ!?」
ゲタゲタと嗤うディオニュソス。対するベジットは冷めた表情で視線を外し、懐からあるものを取り出す。
出てきたのは丸い水晶玉、それはウラノスの眷族兼協力者であるフェルズが造り上げた水晶玉の形をした通信機。
「もしもーし、アルフィアさーん? そっちの進捗はどんな感じよ?」
『………今、例の精霊を仕留め終えた所だ。多少手こずったが、問題ない』
「…………は?」
聞こえてきた【静寂】の台詞にディオニュソスの顔が凍りつく。
『やはり鍛冶の小僧も連れてくるべきだったな。奴の魔法であれば造作もなく完封出来たモノを』
『バカ言ってんじゃねぇよ。深層から生還してきたばかりのLv.2をそう何度も鉄火場に連れていけるかよ』
『何を寝惚けた事を言っている副団長、鍛冶小僧は今回死地を潜り抜けた事で無事
『加減しろっつってんだ!』
『【凶狼】が真っ当な倫理観の持ち主で、実に安心したよ。流石はヘスティア・ファミリアの良心』
『ベート・フォローガの異名は伊達ではないな』
『名乗った覚えねェんだが!?』
【静寂】【凶狼】【勇者】【暴食】。水晶玉から聞こえてくる錚々たる面々の会話は、まるで井戸端会議の様に穏やかで、日常感に溢れていた。
「こらこら皆の衆、無駄口叩かないの。終わったなら速やかに進捗の報告をしなさーい」
『貴様が言うな全く……こちらアルフィア、今言った様に目標を仕留め終えた所だ』
『こっちも討伐完了ォ。今は他に生き残りがいねェか辺りを探して回っている所だ』
『すみません! こちらリリルカ、たった今掃討完了しました。遅れてしまい申し訳ありません』
『こっちも片付いたわよー! いやぁ、異端児達もやるものね! 私達、大分助かっちゃったわ!』
『師よ、私の方も掃除が終わった。ただ一つ聞かせて欲しいのだが………どうして私だけ一人なのだろうか?』
『こっちはオッタルが平らげちまった。手が空いたからこれから罠に嵌まったエルフ達の救援に向かう。暇な奴は手を貸してくれ』
通信越しで聞こえてくる冒険者達の元気な声、苦戦はしたかもしれないが、終始有利に立ち回っていた冒険者達に疲労の影は薄い。
自身の思惑とは大きく逸脱した事態に、ディオニュソスの顔は強張り、固まってしまう。
儀式を完遂する為に配置された六体もの穢れた精霊の分身体、何れも黒い気で著しく強化され、その強さは深層に棲む階層主を凌駕する程。
それが六体。通常であれば絶望的な状況の筈が、どういうわけか悉く蹂躙されている。
勝鬨処か、既に撤収準備すら始まってしまいそうな空気にディオニュソスは頭を抱えた。
「───何故だ。何故、こうも冒険者どもは強く……」
「どうした神様? 折角自分の知らない未知と出逢ったんだ。もっと喜べよ」
すかさず差し込むベジットの煽りにディオニュソスはガバリと顔を上げる。
酷い顔だ。顔は真っ赤に染め上げ、今にも気炎を吐きそうなのに、僅かに残った神としてのプライドがそれを押し止める。
「アンタは……いや、
別にベジットは神と人間との依存に近い関係を善とも悪とも呼ばない。ただ、一方的な依存関係が少し不健全に見えただけだ。
ベジットがしたのはそんな人類に別の選択肢を、その切っ掛けを与えたに過ぎない。自らを鍛えればどんな特別な出自や血、力を持った相手にだって負けはしないのだと。
いつか来る
神々に救われた人類が、いつか神々の手から飛び出す。それはとても
「改めて聞こうか神ディオニュソス。敗北を認め、大人しく神々の裁きを受けるか?」
ベジットの最後通告。抵抗も、逃走も許さないベジットの眼光を前にして……。
「………フヒ」
ディオニュソスは、嗤った。
「なぁ、ベジット。君はまさか忘れてたりしていないかい?」
「あ?」
「私が残した壁画、其処には六体の大精霊が記されていたが……
「っ!」
失念。人造迷宮に残されたとされる壁画、六体の大精霊が囲う中心には確かに別の存在も記されていた。
儀式の事ばかり目が行き、思考が誘導されていた。中心に描かれていた
「……そういう事かよ」
儀式に用意された穢れた精霊の分身。それはもう一体存在している。行き着いた答えにベジットが眉を寄せていると、狂乱を求める神は嘲笑を浮かべる。
「クヒャヒャ! 私は確かに残した筈だぞ? 儀式の全貌、その手掛かりを! いけないなぁケアレスミスは?」
ディオニュソスは一歩後退る。その先にあるのは崖となっていて、それは以前ベジットがもたらした
「だが、認めよう。この戦いは君達冒険者の勝利だ。見事だ。誇ると良い───だがな!」
ディオニュソスは懐から一つの球体を取り出す。それはこれ迄闇派閥の団員が使用していた自決用の爆弾。
「───ガッ!?」
しかし、直ぐ様ベジットは手にしていた大剣で爆弾を手にしていたディオニュソスの片腕を切り飛ばす。
神を傷付けてはならないという禁忌、それを容易く破るベジットに目を見開きながら、同時にディオニュソスは嗤ってみせた。
なぜなら……。
(もう一個だと!?)
ディオニュソスの懐からこぼれ落ちるもう一つの自決用爆弾。ベジットが驚きに目を見開くのも束の間、爆弾は目映い光を放った瞬間、その小さな代物から想像以上の爆発と衝撃が隠し部屋全体を揺さぶる。
当然、崖となっていた箇所は音を立てて崩れ落ち、瓦礫となったそれは奈落を思わせる闇の底へと落ちていった。
爆弾による目潰し、ダメージこそ無いもののディオニュソスの姿を見失ったベジットは、即座に崖の間際まで詰めより、奈落の底へと目を向ける。
「クヒャヒャヒャヒャヒャ!! 見るが良い! これが私が残した最後の穢れた精霊!! 邪竜ニーズホッグだ!!」
其処には、怪しく光が胎動している巨大な竜がいた。未だ休眠状態の怪物、ただ顎を開いて餌が落ちてくるのを待っているそれに向かって、爆弾により半身を失ったディオニュソスが落ちていく。
「さぁ私を喰らえニーズホッグ!! 私を喰らい真なる邪竜へと至れ! オラリオを、冒険者を、根絶やしにしろォォォッ!!」
そんな断末魔……いや、狂気の喝采をあげながら、ディオニュソスだった神は自ら怪物の腹の中へ落ちていった。
致命傷を負い、送還への臨界状態だったディオニュソス。神の奇跡とも呼べるエネルギーを文字通り喰らった人造のニーズホッグはこの瞬間、本当の意味で存在回帰を成し遂げる。
即ち、太古の邪竜の完全復活である。
人造迷宮が揺れる。オラリオ全体が揺れ、突然現れる巨大且つ禍々しい気に全ての冒険者達が息を呑む。
活性化………否、神という無尽蔵に等しいエネルギーを得た邪竜は、嘗ての己を超えようと自ら
その光景を前に、ベジットの口角は喜悦に歪むのだった。
◇
「流石、しぶとい。その生命力は立派だな。冒険者」
時は遡ること数分前、皆が戦っている階層から遥か下。人造迷宮の罠により落とされたレフィーヤとその部隊の面々は、目の前のエルフだった少女、白い仮面の怪人。
その正体はアウラ・モーリエル。その圧倒的な力を前にレフィーヤを始めとした部隊は全滅寸前まで追い込まれていた。
ガネーシャ・ファミリアの眷族達による防御も、塵紙の様に吹き飛ばされ、ヘファイストス・ファミリアの魔剣鍛冶師達による一斉掃射も目の前の怪人には毛程の傷も付かない。
唯一傷を付けられたレフィーヤの魔法も、アウラの冒険者を超えた膂力により当たらなくなり、一同はなすがまま蹂躙されていた。
「どうしたレフィーヤ? 貴様の怒りはその程度か? フィルヴィスを死なせ、無力な自分に打ちのめされ、怒りと憎しみに身を委ねた貴様は、この程度でしかないのか?」
「っ!!」
「だとしたら失望も良いところだ。フィルヴィス・シャリアも死んだ甲斐がないというものだな」
「貴方は!!」
怒りがレフィーヤに力を宿す。友を、親友と思っていた人を侮辱され、怒りに身を委ねてしまった彼女は、怒りのままに装填されていた魔法を解き放つ。
Lv.4へ昇格を果たした事で新たに魔法の同時、或いは時間差で発動する事が可能となったレフィーヤ。
自身の渾身の魔法を解き放ち、閃光をアウラに向けて射出。
【
「それはもう見た」
しかして、怪人となったアウラの片手によって弾き飛ばされる。
「……あっ」
怒りと共に放った自身の一撃。それもこうもあっさりと弾かれた事実に、レフィーヤの心が折れそうになる。
どれだけ怒りを燃やした所で、自分では窮地を変えられない。不甲斐ない自分が情けない。あまりにも無様な自分に涙さえ流れてしまう。
そんなレフィーヤを見て、アウラは鼻で笑い。
「折れたか。つくづく失望させてくれるな……もういい、死ね」
向けられた白い指に黒い光が灯る。収束しされていく光を前に全員が己の死を覚悟した。
そして、放たれる光は間違いなくレフィーヤ達を呑み込もうとして……。
「《ディオ・グレイル》!!」
白い楯の魔法陣が、黒い光の濁流を防ぐ。
「なに!?」
その光景に誰よりも驚いたのはアウラ・モーリエルだった。
その人物に、レフィーヤは言葉を失っていた。
だって、その人は自分にとっての大事な親友で、もうとっくにこの世にいない筈の人物で。
情緒がグチャグチャになる。実際、今のレフィーヤの顔は涙と鼻水でグチャグチャになっていて。
「諦めるなんてお前らしくない。立て、レフィーヤ。お前なら、まだやれるだろ?」
長く、美しい黒髪を靡かせながら。
「フィルヴィスざんんんんんっ!!!」
Q.第二次攻略作戦。六つの部隊の内訳ってどうなってるの?
A.アルフィアとリヴェリア達が第一部隊
ザルドとオッタル達が第二部隊でベートとアレンフィンが第三部隊。
リリルカと四兄弟が第四部隊でアリーゼ達と異端児達が第五部隊。
アステリオス君が第六部隊となります。
Q.なんでアステリオス君だけ一人なの?
A.ベジットが部隊編成の際「コイツは一人でも大丈夫だべ」という発言から。
本当は各部隊から何人か、或いは異端児達を組ませようとしたが、アステリオスの戦闘スタイル的に単独でこそ真価を発揮するとベジットから忠告された為、今回は単独で行動。
思いっきり暴れた事で気持ちはスッキリしたけど、ちょっぴり寂しい思いもしたアステリオス君だった。
次回、“3”
「折角のお披露目だ。派手に行こうぜ!!」
オマケ
蛇足6
みんな、みんな負けちゃった。
ロカもマミもみんなやられて、残っているのは私と兄だけ。
相手の月人は私達が予想していたよりずっと強くて、容赦がなかった。
何より、こんなボロマケなのに向こうからすれば此方に合わせただけっぽいのが、より絶望的だった。
(私じゃ、やっぱりダメだ)
諦めたくない。負けたくない。
かぐやを、月に連れていかせたくない。
やりたいことも、まだ沢山あるのに、一緒に歌いたい曲もあるのに。
無くしたくない。失いたくない。そんな気持ちばかり溢れてくる。
(お願い、誰か、誰か……!)
それは、私にとって何よりも言いたくない言葉の一つ。誰かに頼れば、あの人に認めて貰えなくなる。そんな強迫観念に似た思いが、私の心を縛り上げる。
でも、そんな自分の情けない心よりも、目の前の大事な人を失う方が、もっとずっと辛い。
だから……。
「助けてよ……」
「なんだ。ちゃんと言えたじゃねぇか」
「………え?」
その人は、来てくれた。
不敵で、不遜で………声だけで分かった。
「先……輩?」
バイト先の先輩で、事あるごとに私を気にかけてくれた。お節介の先輩。
周囲の月人を蹴散らし、その肩にかぐやを抱えて私の前に降り立った。
「なん……で?」
「お前が、助けを求めてくれたからだよ」
そう優しく言われて、私は言葉を失った。
月人が動き出す。突然現れた先輩を、明確な敵と認識して。
これ迄とは形相も形も変えて、先輩を排除すべき存在として認識している。
そんな彼等を正面から見据える。数も圧倒的で戦力差は絶望的なこの状況下で。
先輩は、心底楽しそうに笑っていた。
「オラ帝ォッ! お前いつまで寝てんだ! 俺が美味しいところ全部持っていくぞ!!」
「……このっ、いきなり出てきて好き勝手言いやがって!!」
先輩に発破を掛けられて、兄が復活する。て言うか、二人って知り合いなの?
「さぁて、月人の皆さん、終わらせるのはもう少しお待ちをってな」
そういって、かぐやを横に置いた先輩が身構える。
「お楽しみは、これからだ」
数は圧倒的、先輩に勝てる道理はない。
なのに、どうしてだろう。私はそんな現実を前にしてなお、先輩が負ける気がしなかった。