みんなは、もう空のエースになったか?
そんな訳で初投稿です。
オラリオの主戦力達が都市の破壊者エニュオと穢れた精霊の分身体の駆逐に乗り出していた頃、地上……オラリオでも、次々に異変が起きていた。
「う、うわぁぁぁっ!!」
「モンスターが、モンスターがまた出てきたァァッ!!」
穢れた精霊の魔力に充てられ、
人造迷宮から沸きだし、地上へ進出したモンスターの出現に、オラリオの人々は酷い恐慌状態に陥っていた。
逃げ惑う人々、抵抗する意思も術も持たない彼等に追い縋る。
背中きら容赦なく食らい付こうとする食人花は……。
「あ~らよっと!!」
しかして、一人の冒険者によって駆逐される。
「ぼ、冒険者様だ……」
「た、助かった……」
間一髪、食人花に喰われる直前だった子連れの親子は一人の冒険者の手によって難を逃れた。
あの強大で恐ろしいモンスターを剣の一振で両断。その圧倒的とも呼べる存在感に、少年は目を輝かせている。
「おう、この先に緊急の避難所があるからよ。其処まで逃げな」
「は、はい!」
「ありがとうおじちゃん!」
「お、おじ……」
悪意なき子供からの言葉、しかし事実であるが故に冒険者……モルド・ラトローは複雑な表情で肩を落とす。
「何だよモルド、柄にも無く凹んでんのか?」
「仕方ないわよ。実際アンタ良い歳なんだから」
「う、うるせぇ!」
パーティーメンバーのガイルとスコットの二人も参戦。未だ深層生還からの傷も完全には癒えていない状態だが、それでもオラリオに住まう冒険者である以上、彼等の選択肢に逃げの文字は無かった。
「しっかし、実際どうすんだよ」
「オラリオ中似たようなモンスターが暴れまわってるみたいねぇ……せめて武器がマトモだったら良かったんだけど……」
迫り来る無数の人食い花、一つ一つはLv.5となった自分達にとって大した脅威ではないが、生憎マトモな装備は何一つ持ち得ていない。
せめて適当な武器でも見繕うかとガイルが辺りを見渡していると……ある老人の神が三人へ近付いていく。
「武器が必要か?」
「へ? ……あ、アンタは!?」
「使え」
目を見開き、驚く三人。彼等にそれぞれ得意とする得物を投げ渡すのは、オラリオきっての武器名工。
ヘファイストスと対を為す鍛冶職人の神、ゴブニュ本神が、幾つもの刀剣を背に仁王立ち。
「聞いたぞ。深層から生還し、Lv.5に至れたそうだな」
「か、神ゴブニュが俺達の事を!?」
「こ、これ、一級相当の武具じゃない!?」
オラリオに住まう冒険者にとって、ヘファイストスやゴブニュ手ずから造り出された武器は憧れの的。
「100体程狩り尽くして見ろ。さすればお前達が握る武器、一つだけくれてやる」
「「「っ!?」」」
鍛冶の神自らのご指名。目の前に好き放題暴れる雑草を100体狩れば冒険者の憧れが手に入る。
Lv.5を目指し、気を覚え、鍛えてきたモルド達三人が、今更そんな注文に臆する筈もなく。
「おっしゃぁぁぁっ!! やるぞお前等ァァッ!!」
「100体処か1000体だって狩ってやるわァァッ! 今日は祭りヨォォォッ!!」
「やぁぁぁってやるぜぇ!!」
振り切れるテンションのまま、気を解放し人食花へ殺到する。彼らにとって既にモンスターは脅威ではなく、冒険者の憧れを手にするボーナスステージへと化した。
そんなモルド達を見て、ゴブニュの付き添いの眷族の一人が耳打ちする。
「良かったんですかゴブニュ様、あの三人にそんな条件を出して」
「なに、今のオラリオには戦力が一人でも欲しい状況だ。オラリオの名だたる派閥が総力を上げて決戦に臨んでいるのであれば、我々も出し惜しみをしている場合ではない」
今頃は、ヘファイストスも似たような事を言いながら眷族達を率いて街に繰り出しているのだろう。
この祭りのような乱痴気騒ぎはまだまだ続く。だが、それ以上に……。
「胸騒ぎがする。ただの杞憂であれば良いが……」
既に夜の帳が降り、暗い空に更に深くて濃い暗雲がオラリオを覆い尽くす。
嘗ての大抗争の時のような不穏な空気を前に、ゴブニュは無事にオラリオと下界、そして人類が生き残ることを零能の身で切に願うのだった。
◇
「フィルヴィスさん、ほ、本当にフィルヴィスさん何ですか?」
「あぁ、遅くなって済まないレフィーヤ。デメテル・ファミリアの救出に少々遅れた」
罠に掛かったレフィーヤ達。そこで待ち受けていた怪人アウラ・モーリエルによって、絶対絶命の窮地に陥っていた彼女達は、怪人となった彼女の放つ黒い閃光を前に、心が折れていた。
しかし、そんな窮地を救ったのは先の第一次攻略作戦の際、嘗ての同胞達の為にその身を捧げて自ら犠牲になったフィルヴィス・シャリアだった。
しかしその様相は以前とは異なり、レフィーヤに少しばかりの混乱をもたらす。
荒んでいた髪は黒く滑らかに整えられ、灰色にくすんでいた灰色の
嘗て神々から【
「やはり、生きていたのか、フィルヴィス」
「……驚かないんだな」
だが、対するアウラは大して驚いた様子はなく、寧ろ当然の事のように受け入れていた。
「あの場には、数々の英雄候補の冒険者達がいた。何よりベジット、奴は存在自体が反則のような奴だ。何が起きても不思議じゃない……それに」
「っ!」
瞬間、アウラの姿がブレる。地面は抉り、衝撃だけが周囲を蹂躙する。
「お前だけは、この手で殺してやりたかったからなァッ!!」
激突する剣と剣、レフィーヤ達では追えないアウラの動きを、フィルヴィスは当然のように応え、これを防いでいく。
レフィーヤの視界に写るのは結果のみ。怪人アウラがブレた瞬間、フィルヴィスへ間合いを詰めて肉薄していた。
(なんて、
自分達相手には絶対に見せなかったであろうアウラの底知れぬ力にレフィーヤは戦慄する。あれだけの膂力を奮えるなら、とうの昔に自分達は皆殺しにされている。
それがそうなっていないのは、偏にアウラの気紛れ……否、底無しの慢心によるものだった。
自分達は侮られていた。敵である筈の自分達を痛め付ける事に執心し、自分を倒し得る存在の到来を待っていた。
そして、彼女が最も憎悪する
悔しい。侮られ、煽られ、踏みにじられても、あの怪人にとって自分達は単なる暇潰しの玩具でしか無かった。その事実にレフィーヤは泣きそうになるが……今はそれどころではない。
繰り出されるアウラの一振り、上位の冒険者すら一撃で屠れるその振り下ろしの一撃を、フィルヴィスは難なく受け止めて見せた。
それだけじゃない。
「───アウラ」
「っ!」
炎が沸き出す。フィルヴィスの全身から迸る白い炎と
「私は、お前を止めに来た訳でも、殺しに来た訳でもない」
「私はお前を……助けに来た」
「なに、を……っ!?」
剣に力を込める。一度は穢れて身を窶し、それでも光を求めて抗い続けた愚かでちっぽけな一人のエルフが辿り着いた境地。
「先ずは、口だけではないという、その証を示そう!」
穢れた己の身体が、憧れである彼の技を受け、浄化され、別存在へと昇華された。
半妖精にして半精霊。それが、今のフィルヴィス・シャリアの種族である。
下段に構え、繰り出される剣技の最奥。それは、ベジットが最初に人造迷宮を調査した際、偶然にも遭遇し、目にしたフィルヴィス・シャリアが自ら解釈したモノ。
「
九つの斬撃が人造迷宮を抉り、彼女の繰り出したその技は、堅牢なアウラの肉体を確かに切り裂いた。
◇
「ま、マジかよ……」
「俺達がどれだけやっても傷一つ付けられなかったあの怪人を、吹っ飛ばしやがった」
「フィルヴィスさん、凄い……!」
残心を解かず、静かに怪人アウラを吹き飛ばした方角を見据えるフィルヴィス。そんな彼女にレフィーヤ達は心の底から称賛した。
自分達だけなら、どう足掻いても勝ち目はなかった。恐らく、現時点でのアウラ・モーリエルの推定レベルは“7”以上。
オラリオでも彼女に確実に勝てる存在は数える程しかいないだろう。それだけの相手を前にフィルヴィス・シャリアは圧倒して見せた。
一瞬、レフィーヤの胸の内にチクリと痛みが走る。大切な友人が生きていてくれた事に嬉しく感じる筈なのに、その心の内にモヤモヤとした奇妙な痼が出来上がっていく気がした。
そんな自分を圧し殺し、レフィーヤはフィルヴィスの元へ駆け寄ろうとするが……。
「まだだ! 全員、気を抜かないでくれ!!」
「「「「っ!!?」」」」
フィルヴィスの一声に全員がハッと息を呑む。
崩れる外壁、舞い上がる砂塵の奥から胴体を幾つも斬られたアウラが姿を表す。
痛々しい。致命傷処か、血の一滴すら出さずギュルンと逆再生の様に肉体が修復されていくアウラにレフィーヤ達は恐ろしさというより、おぞましさで顔を歪ませる。
人間じゃない。正真正銘、人間じゃなくなっているアウラにレフィーヤ達は恐ろしさよりも憐憫の感情を抱いてしまう。
「私を助ける? お前が? 私を置いて、一人そそくさと逃げ出したお前が、今更私を?」
嗤う。ケラケラと、狂ったように嗤いだすアウラ。
とっくの昔に壊れている彼女を、それでも救える手立てはあるのか? 疑問に思うレフィーヤだが、対してフィルヴィスは全く揺るがなかった。
「あぁ、お前は絶対に助け出す。その為に私はここに来たのだ」
「ふざけるなぁ!!」
怒号が、レフィーヤ達のいる空間を揺さぶる。これ迄以上のアウラの激情、煮凝りした憎悪が吹き出したようなアウラの感情の発露は空間を揺さぶるだけでなく、衝撃となって迷宮に亀裂を刻んでいく。
「あの日! 私はあの堕ちた精霊によって穢された! エルフでなくなり、人でなくなり、真っ当な生き物ですらなくなった!!」
アウラは自ら皮膚を引き剥がす。胸元をバリバリと引き裂く彼女の胸の奥には、濁った魔石が蠢いていた。
それだけじゃない。アウラの引き裂いた肉片からは、ケタケタと嘲笑う声が聞こえてくる。
顔だ。アウラの慟哭を嘲笑う様に、ケタケタと眼と口が浮かび、彼女の肉体を再生させていく。
彼女の意思とは関係無しに。その光景にレフィーヤ達は直視出来なかった。
唯一、フィルヴィスだけは真っ直ぐに彼女を見据え。
「そうだ。あの日、私達は共に地獄に落ちた。落ちて、穢れた身で、それでも我武者羅に走り続けた」
自分の行いは正しいのか、あの脳髄に響く声に浸され続け、魂が凍り付くような孤独感に苛まれ、それでもあの日目にした黄金と虹の輝きだけがフィルヴィス・シャリアの道標だった。
そして今、その行いの果てに自分はここにいる。それならば。
「故に決めた。この生き方だけは、決して曲げないと!」
「そうか。お前の理屈は分かった。ならば諸とも………消えるが良い!!」
アウラから黒い気が噴き出してくる。これ迄とは桁が違う圧に、レフィーヤは勿論、フィルヴィスも表情を強張らせる。
そして、事態はそれだけに留まらない。
「「「「っ!?」」」」
突如、巨大な存在が自分達の上に顕れたと冒険者達は感じ取る。圧倒的とも呼べる存在の権限、それはまるで神の降臨に近しいモノ。
けれど、同時に禍々しい力の波動にフィルヴィスはまさかと目を見開いた。
「あぁ、やはり貴方は
ただ一人、アウラ・モーリエルだけは寂しそうに笑い。
「さぁ、楽しい狂乱の宴は……これからだ!!」
自壊覚悟で、全ての力を解放するのだった。
◇
「なんとまぁ、随分と育ったようで」
眼下で蠢く巨獣。ギチギチと歯を鳴らし、ベジットに捕食者の眼を向けるのは、嘗て古代の時代にて世界を絶望の底に叩き込んだとされる【邪竜ニーズホッグ】。
都市の破壊者が企て、最後の取って置きの切り札として配置したモノ。
ディオニュソスという神を喰らう事で、より強大に肥大化していく邪竜を前にして、ベジットは呆れた様子で首を横に振る。
「やれやれ、こんな狭い所じゃあ身を捩っただけで人造迷宮が崩れそうだ。………仕方ない」
隠し部屋だった場所からベジットは飛び降りる。飛び降りるというよりは、家の階段を降りるような……自然で、一切の緊張のない緩やかな下降。
そんなベジットに向けて、ニーズホッグ身体から触手が放たれる。巨大な鞭の様にしならせ、放たれる邪竜の一撃は、ベジットのいた隠し部屋をまるごと粉砕する。
しかしその一撃は当たることなく、ベジットは身を軽く捻りながらニーズホッグの攻撃を軽々と躱し、邪竜の眼前へ降り立つ。
「ここじゃあ狭いからな。場所を移すぞ」
ピシュン。そんな軽い音ともにベジットは、邪竜ニーズホッグ諸とも人造迷宮から姿を消した。
◇
「あ、あぁ……」
「なんだよ、なんなんだよあの化物ぉ……」
「終わりだ。世界の、終わりだぁ……」
その日、オラリオの夜に昏い……夜の中でもなお昏い影が落ちる。
それを目の当たりにした人々は絶望のあまり悲鳴をあげることすら敵わず絶句し、冒険者達は手にした武器を手放す。
神々も驚きで眼を見開く中、ソレは───邪竜ニーズホッグは雄叫びを上げる。
瞬間、世界が震えた。
オラリオ全体を覆う程の巨体、戦意を折れないでいるのは一部の第一級冒険者のみ。
「くそったれ、何なんだあのデカブツは!」
「どうするんだモルド、俺達はまだ空を飛べねぇぞ!!」
「そもそも人食い花の所為でそれどころじゃないかも!!」
未だ暴れまわる人食花。邪竜か地上に顕れた影響か、より凶暴化していくモンスター達にオラリオの戦力は徐々に押し込まれつつあった。
「ええい! フィンは、人造迷宮の冒険者達はどうした!?」
ギルドの長、ロイマンが吼える。しかし彼の慟哭に似た叫び声は職員達に届く事はなく、邪竜の出現により半狂乱と化していた。
「も、もうダメだ! おしまいだぁ!!」
「殺される。私達、あの化物に皆殺しにされるんだぁ……」
絶望と慟哭、嘆きと叫び、オラリオ中から聞こえてくる
「──────」
クルル、喉の奥から出てくる喜びの声。その声音に嘗ての神の残滓を感じ取った神々はまさかと頭を振って邪竜を見上げる。
「まさか、そこまでやるとはなぁ」
「どうやら、侮っていたのは私達だったようね」
忌々しく口にするのはオラリオ最強派閥の一角、女神ロキと女神フレイヤ。
今頃は、フィン達が大急ぎで地上に向かっているだろう。……それでも、間に合わないだろうが。
「成る程、ディオニュソスの阿呆の狙いは正確にはオラリオではなく」
「冒険者そのもの、ということね」
事ここに至って、漸くロキ達はエニュオこと
奴の狙いはモンスターに対する最大のカウンターである冒険者達の駆逐。神の恩恵を受け、モンスターに対抗し得る力を持った冒険者達をオラリオごと根絶やしにする事。
“精霊の六円環”を起動し、邪竜を核にオラリオを崩壊させる。それがディオニュソスの本来の目論見であり、計画であった。
けれど、その計画には保険があった。
それは自らをモンスターの贄とする事で邪竜を昇格させ、真の意味でニーズホッグを甦らせる事。
古の人類では到底敵わないとされた厄災ニーズホッグ、その規模と強さは三大冒
嘗てのゼウス・ヘラが総力を挙げなければ敵わないとされてきた生きた厄災。
【穢れし邪神竜ニーズホッグ】。世界を蝕む厄災クラスの怪物を前に世界は再び絶望に沈む。
……いや、違う。
「大丈夫だよ」
オラリオが絶望に沈む中、彼女だけは微笑んでいた。
「ヘスティア様……」
【竈火の館】ヘスティア・ファミリアの本拠地にある中庭にて、女神は不安に怯え、震える孤児の子供の頭を撫でる。
「大丈夫だよ。絶対に、オラリオは大丈夫」
その言葉に一切の疑いは無かった。根拠もなく、確証もなく、確信だけあったその女神の言葉に邪竜の雰囲気が剣呑に変わる。
能天気で、ズボラで、いっそ怠惰の化身ですらあった女神ヘスティア。
天界の頃から無自覚に、無意識に己の野望を挫いてきた忌まわしき女神。
先ずはお前から天に還してやろうと、邪竜の顎が開かれた瞬間。
「おいおい、お前の相手はウチの女神じゃねぇだろ」
「!」
目の前にゆっくりと降りてくる男───ベジットが、不敵に笑みを浮かべてそこにいた。
ああそうだ。コイツがいた。コイツが現れてから全てが狂った。
己の目的も、己の手駒になる筈だった哀れなエルフも、想定してきた何もかもが覆されてきた。
先ずは、コイツから殺す。惨たらしく、惨めに殺してやると憤る
「さて、折角外に出たんだ。御披露目ついでに、改めて自己紹介をしてやるよ」
そんな怪物を前にして、ベジットはやはり不敵に笑う。
◇
「先ずは、これが普通の状態だろ?」
宙に浮かび、オラリオ全体を覆う程の邪竜を前にして、ベジットは何処までも自然体のままだった。
眼下のオラリオでは人食い花の対処で未だ戦闘の真っ只中、何人かの冒険者や食堂の女将が気付いて見上げているが、何れもベジットの真意を読めず困惑している。
そんな彼等の注目を浴びながら、ベジットは全身に力を込める。
「んで、これが───ハァッ!」
瞬間、大気が震える。ドゥンッと、空気が叩き潰される音に今度こそオラリオ中の人々がベジットの存在に気付く。
「コイツが、超サイヤ人。俺達サイヤ人とって最早スタンダードな形態な。………で」
更に、バォンッと大気が弾き飛ぶ。地上にも届く圧に人々は勿論、理性無き人食い花達ですら困惑している様子だった。
「コイツが超サイヤ人を超えた超サイヤ人。謂わば、超サイヤ人2って奴だ」
黄金の炎と翡翠の瞳に、更に迸る稲妻がベジットを包んでいる。多くの神々が今更なんだと困惑するなか、ヘスティアを含めた事情を知る神々は止めろとヤジを飛ばしている。
そんな声を敢えて無視して、ベジットは更なる力を溜める。
「そして………コイツが!!」
「更に、その限界を、超えた……!」
再び大気が震えだす………否、震えているのは大気だけではなかった。
「ハァァァァァ………!!」
空が、海が、大地が、世界が、或いはこの惑星そのものが、ベジットの高める力に比例して、まるで脅えるように震えていく。
地震、或いは天変地異。天地鳴動な事象を前にしてオラリオの、世界中の人々がパニックに陥る。
「アァァァァ……!!」
空間が歪んでいく。自身の起こした狂乱よりも、よりド派手な狂乱が世界を震撼させていく。
とある鍛冶女神は顔を手で覆った。
「私、知らないわよ?」
オラリオから遠く離れた地で、絶賛夫婦喧嘩(一方的)の二大神が呆れる。
「全くあの小僧め、目立ちたがりも過ぎるぞ」
「隙あり! 脱出!!」
同じく、オラリオから遠く離れた【学区】の長の光の神は言った。
「全く、彼はまたイタズラに力を解放して………キレそう」
オラリオ中が大混乱に陥るなか、ベジットの主神である処女神拳を振り上げた。
「こうなりゃ自棄だ! やっちゃえベジット君!!」
「ヘスティア様!?」
誰も彼もがハチャメチャに騒ぎ立てる中。
「ダァァァァッ!!!」
光が、オラリオを呑み込んだ。
◇
「──さて、少々待たせてしまって済まないな。まだこの変化に慣れていないんだ」
バベルの頂上。オラリオを、世界を一望できるその場所で彼は降り立つ。
バチりと火花が散り、黄金の輝きが周囲を照らす。
黄金の長い髪、背中に届く金色の髪はまるで尾を引く龍の様。
その異様に人々は勿論、神々すらも度肝を抜かれる。
その顔に恐怖も絶望もなく、あるのは何処までも純粋な驚愕のみ。
「超サイヤ人を超えた超サイヤ人を、更に超えた形態。言うなれば、超サイヤ人3」
「さぁ、始めようぜ。お楽しみは……これからさ」
やはりベジットは不敵に大胆に笑うのだった。
Q.ベジットって、まだ超サイヤ人3に慣れてないの?
A.そんな訳がない。なんなら魔人ブウ編後半の悟空並みにアッサリと超サイヤ人3に変身できたりする。
Q.なら、何故?
A.初御披露目の時の演出は大事にしたいやん。
次回、【黄金の龍】
「超サイヤ人3の必殺技といったら、コレだろ」
オマケ 蛇足⑦
それから先輩と月人達の戦いは、何というか凄かった。
兄や黒鬼の人達ですら敵わなかった相手を、バッタバッタと薙ぎ倒して、ボスっぽい菩薩みたいな月人を両手から太っいビームを出して脅したりして、あっという間に私達の戦いは終わった。
いや、それでも凄い派手だったんだけどね。なにあれ?先輩って、あんなにゲーム上手かったんだ。知らなかった。
で、その後に先輩は菩薩の月人と何か話をした後、月人達は頷いてかぐやを置いて帰っちゃった。
……え? コレ、私達の勝ち?
「さて、一先ず向こうはこれで良いとして……そこのかぐや姫!」
「ひゃい!?」
「先ずはヤチヨと協力して、月での仕事を片付けろ。その為のリソースやら何やらは俺が用意してやったから、上手く活用するよーに!」
「わ、分かりました!」
「そんで酒寄」
「え、私?」
唐突に名前を呼ばれてドキッとする。イヤだって、先輩と話すのバイト止めて以来無かったし。
「ヤチヨの事、頼むな。 アイツ、寂しがりだからよ。ちょくちょく構ってやらないと拗ねて泣くんだ。お前ん所のかぐやと一緒でな」
「………先輩?」
なんか、先輩のアバター……透けてない? え、こんログアウト仕方あったっけ?
バグ?
「おい、俺には一言もねーのかよ」
「ウルセェモテ鬼。お前は精々みんなに夢を魅せ続けてやれよ」
先輩のアバターが、ドンドン薄くなっていく。
まるで、世界から消えていくような、そんな感じ。
何だか、イヤな予感がする。
「……さて、最後に派手に暴れたし、俺はもう満足だ」
「先輩……待って」
手を伸ばす。目の前のこの人を離してはダメだと、私の本能が告げている。
「……イロハ」
「っ!」
「後は、任せた」
それだけ言い残して、先輩は消えた。
伸ばした手は届かず、私はただ消えた先輩の居た場所をボンヤリと眺める事しかできなかった。