最近、漸く秋っぽくなってきたかな?
そんな訳で初投稿です。
地上にて、オラリオ史上最大規模の大決戦が始まろうとしている直前。
人造迷宮の10階層、ここでもまた一つの因縁の決着が迫っていた。
穢れた精霊の手により、怪人へ落ちたアウラ・モーリエル。人の枠を外れた彼女はその尋常ならざる再生力と膂力を以てフィルヴィスとレフィーヤ達の命を刈り取ろうと猛攻撃を加えてくる。
怪人としての膂力を存分に活かしての攻撃。冒険者としての技と駆け引きだけでなく、怪人としての単純な力業。これ等の脅威を前にフィルヴィスは己の全ての力を未だ使いこなせずにいた。
「どうした!? 私を助ける等と宣った威勢は何処へ行った!?」
「グゥ……!」
黒い気を纏い、これ迄よりもより苛烈となったアウラの猛攻に、フィルヴィスは魔力の盾……アイズの【
半精霊にして半妖精。長きエルフの歴史の中でも前代未聞の存在たるフィルヴィスの潜在能力は未知数。フィルヴィスも自身の裡に眠る力を完全に掌握出来ていなかった。
故に、この場での均衡はフィルヴィスが押し負ける形で崩される事になる。アウラの奮う一撃に吹き飛ばされ、地に叩き落とされる。
「フィルヴィスさん!」
そんなフィルヴィスをレフィーヤが駆け寄ろうとした所で。
「あうッ!」
ズドドドと、無数の剣がレフィーヤ達の前に降り注がれる。
「お前達の相手は、そこの裏切り者を始末した後にゆっくりと存分にしてやる。それまでは、大人しくしておけ」
「っ!」
冷たい眼、自分達の事を心底どうでも良いものとして扱う傲慢にして冷酷な殺戮者の眼差しにレフィーヤ達は息を呑む。
反論も反撃もしたいのに、目の前のアウラ一人の威圧に圧倒されてしまっている。情けないと杖を握り締め、レフィーヤはそれでも抗おうとするが。
「や、めろ……レフィーヤ達に、手を、出すな」
蹴り飛ばされ、肋骨が数本折れても尚、フィルヴィスは立ち上がる。
呼吸をする度に激痛が走り、喉奥から血が汲み上げてくる。内臓も負傷した様で、ボロボロとなった彼女の前にアウラが下り立つ。
「なら、ちゃんと立て。私を倒すつもりならば、せめて立って死ね」
「……違う。倒すんじゃない、助けるんだ」
黒い気。人を蝕み、人を怪物へ陥れる下法。ベジットの教え広めた気と似た力を持つその力を、アウラは完全に使いこなしていた。
それは、より力に浸透し、蝕まれた者の証左でもあった。助けられる段階は当に過ぎていて、それでも尚助けると口にするフィルヴィスにいよいよアウラは激昂しそうになる。
「………あの日からだ。【下層決戦】という出来事があってから、お前達は何時もそれだ。冒険者である自分達に誇りを持ち、冒険に挑むことを是としている。その果てに如何なる結末を辿ろうと受け入れている」
【下層決戦】の日、まだ新人だった頃のアウラはその戦いに参加する事はなかった。自分の無力に悔しさを覚え、“次”があれば自分もとその悔しさを糧にしようとした。
けれど、決戦から生還した仲間達は何処か晴れ晴れとしていて、何かを覚悟を決めた顔付きをしていた。夢を語り、誇りを語り合っている彼等を見て、アウラは一人疎外感を感じていた。
“置いていかれた”
そんな疎外感を拭えないまま降り立った27階層にて、彼女達はあの“悪魔”と遭遇した。
みんな死んでいった。襲い掛かる悪魔に団員達は自分とフィルヴィスを遺して死に絶え、ただの肉塊と成り果てた。
それでも、彼等は誰一人逃げなかった。仲間を置いて自分だけ助かろうとせず、最期の瞬間まで諦めなかった。
『フィルヴィス! アウラを連れて逃げろ!!』
『あの化物は、私達が食い止めるから!!』
そういって彼等は、笑いながら死んでいった。まるで誰かを真似るように、不敵に、大胆に笑いながら………死んでいった。
理解が出来なかった。何故、みんなああも笑って逝けるのか。あの【下層決戦】で目にした奇跡はそうまでして眩しいモノだったのか。
アウラ・モーリエルには理解できなかった。ただ一つ分かるのは、あの日から自分と彼等との間には明確な
置いていかれ、追い付かないまま、自分達は終わった。
その後、悪魔に捕まったアウラとフィルヴィスはその身と心、魂までもが穢された。埋め込まれた魔石によって肉体は変質し、極めて高い不死性の身体を手に入れ、それを代償に二人は悪魔の傀儡へと成り果てた。
脳髄に響く声、自分を解放しろ。ダンジョンから解き放て。甘く蠢く声にアウラは自身の正気が削れていくのを自覚した。
そんな自分を救い、拾い上げてくれた主神ディオニュソス。彼の神の狙いが何であれ、彼に尽くすのがアウラの全てとなっていた。
彼に尽くせば全てが終わる。怪物に成り果てる自分に苛む必要も、あの冒険者となった仲間達の笑みに苛立つ事もなくなる。
全てが狂乱に満ちるのなら、自分は今度こそ彼等と同じになるのだと。そう、思っていたのに……。
「そうやって、私をまた置いていくのか?」
フィルヴィスは、一人だけ自分のやるべき事を理解し、自分の……主神の元から逃げ出した。
逃げ出すことが出来た。
「……アウラ?」
泣きながら笑うアウラ。その言葉に彼女の抱えていた孤独を漸く理解したフィルヴィスは己の不甲斐なさに歯を食い縛る。
「自分だけ納得し、自分だけ分かった気になって、何一つ私に相談しないで、お前は私を置いていく……」
「ならばもういい。私はもう理解しない。求めない。悉くそう、悉く……塵に還れ」
黒い気がアウラの全身から噴き出す。凄まじい力、この辺りを全て吹き飛ばしてしまいそうな力の波動に、レフィーヤ達は息を呑む。
けれどやはり、フィルヴィスだけは彼女を真っ直ぐに見据えた。
「……どうやら、思い上がっていたのは私の方だったようだ」
そういって、フィルヴィスは懐から一粒の豆を取り出した。《仙豆擬き》、自分のやるべき事を察してくれた彼が、餞別代わりに持たせてくれたモノ。
それを口に入れて全快。気力もダメージも全て回復したフィルヴィスが、レフィーヤに向けて叫ぶ。
「レフィーヤ! そしてこの場に入る全ての冒険者達よ! 聞いてくれ!!」
「「「「っ!?」」」」
「私は、彼女を救いたい。どうか、力を貸してくれ!!」
今更ながらの助力の懇願。いきなり現れ、場を掻き乱してくれたエルフの心からの嘆願を耳にした彼等は……。
「ったく、しょーがねぇーなぁ!!」
「勝算はあるんだろうな!?」
「無駄死には御免だぜ!」
ガネーシャ・ファミリアが、ロキ・ファミリアが、悪態を吐きながら前に出て。
「私も、お手伝いします!」
レフィーヤが、微笑みと共にフィルヴィスの隣に立つ。
「………ありがとう」
そんな彼等にフィルヴィスは心からの礼を口にして。
「詠唱を行う。3分、何としても私を護ってくれ!!」
フィルヴィスは、片手を天に掲げた。
◇
天を覆う邪竜。オラリオ全土に陰を落とし、世界に混沌と狂乱と絶望を齎す
邪竜ニーズホッグ。遥か古の時代、神なき世界にて最もこの世で畏怖され続けてきた絶望の代名詞が、オラリオの上空で顕現する。
しかし、誰も、誰一人も、絶望に沈む者はいなかった。狂乱に狂い、喚く者はいなかった。
それどころではなかった。
オラリオの中で最も高く、世界すら見渡せそうな巨大な建築物“バベルの塔”。
ダンジョンの蓋としての役割を持つ摩天楼、その頂上に降り立った存在に誰もが眼を釘付けにされ、言葉を失っていた。
バチバチと稲妻が迸り、黄金の光が闇を照らす。絶望の対極に位置する希望の具現に、邪竜すら息を呑んだ。
存在の名は“ベジット”。自ら戦闘民族サイヤ人と名乗り、天下無敵を自負するこの世界の特異点。
背中にまで延びた黄金の髪、失った眉はよりベジットの威圧感を助長させた。事実、超サイヤ人3となったベジットの姿に、直接対峙した訳でもない一般市民達は、その多くが腰を抜かしてしまっている。
圧倒的。ただその言葉だけがオラリオ中を支配していた。
「どうした、来ないのか? 折角オラリオを滅ぼすチャンスだってのに……」
静観し、大人しくなっている邪竜にベジットは笑みを浮かべる。挑発的で、何処までも不敵な顔。その相貌に邪竜の奥底……取り込まれている筈の邪神ディオニュソスが歯軋りをする。
「それとも……怖いのか? 天上にふんぞり返っている
「■■■■■■ッ!!」
その言葉が、開戦の狼煙を上げた。
ベジットの挑発の言葉に遂に邪竜の堪忍袋が弾けた。先ずは目の前のベジットを屠ると、邪竜ニーズホッグはその巨体から膨大なエネルギーを解放させ、その一部をベジットに向けて照射する。
巨大な緋色の閃光。赤黒く、破滅そのもの具現である極光に誰しもがオラリオの滅びを悟った。人も、冒険者も、神々すらも、一部の関係者を除いた全ての者が自分達の終焉を理解した。
ダンジョンの蓋であるバベルの崩壊、その未来を誰しもが幻視した時。
「せい」
軽い、余りにも軽い言葉と共に破滅の極光は両断される。
左右に別たれ、重力の楔から解き放たれた閃光がオラリオを、強いては世界を照らし出す。
次の瞬間、轟音と爆風が遥か彼方から吹き荒れる。オラリオに訪れる凄まじき突風、大人ですらたたらを踏んでしまう暴風だが、ベジットは手にした《ドラゴンころし》を片手に笑っている。
その背中にはベジットが断ち切った極光二つによる巨大なキノコ雲が浮かんでいる。
「さて、始まりの狼煙はそっちに譲ったんだ。今度は……こっちの番だな」
剣を背中に差し、浮き上がる。ドゥンッと、バベルの頂上を僅かに凹ませて───加速。
バチリと火花が散る音と共に姿を消したベジットが次に現れるのは、邪竜の懐。
余りにも巨大で、頑強な鱗。その一枚一枚が要塞を思わせる邪竜の腹へ目掛けて。
「そらよ」
一撃。振り抜かれたベジットの拳が、ニーズホッグの腹部を貫いた。その瞬間、衝撃が大気を揺らす。
オラリオを覆う程の巨体の竜が、くの字に折れて吹き飛んでいく。
「そら、そら」
一発、二発。
「そらそらそらそら」
三発、四発、五発……振り抜かれる度に大気が爆ぜ、世界が震撼していく。
「そらよっ!」
蹴り飛ばし、吹き飛ばす。自身の何百倍にも大きな怪物をまるで玩具の様に弄ぶベジットに、人々は無論神々すらも驚きを隠せなかった。
だが、その程度で邪竜は終わらない。狂乱を望む邪神の望みが、潰える訳がない。
それ以前に、
敢えて、追撃はしなかった。邪神の目論見を完膚なきまでに叩き潰す事を決めているベジットは、相手の手札を最後まで使いきらせるまで終わらせようとはしなかった。
「……ベジットの奴、遊んでるな」
それにいち早く気付いたのは、極東の武神タケミカヅチだけ。ベジットの実力を真に理解している武の神は呆れた様に溜め息を吐き出す。
「まぁ、相手はデメテルを彼処まで追い詰めた元凶らしいし、この結末は当然と言えば当然か」
ベジットの遊び……否、怒りを同じ武に携わる者として理解したタケミカヅチは、それ以上何かを口にする事はなかった。
「■■■■■ッ!!!」
邪竜が雄叫びを上げる。一方的に殴られた事を屈辱だと憤慨し、膨大なエネルギーがニーズホッグの肉体を修復させていく。
「へぇ、再生機能まであるのか。こりゃ良いや」
簡単には終わる気配の無い相手。これをベジットはある種の機会であると前向きに捉える。
地上では、折角削れたモンスターの身体が再生されていくと知ったオラリオの住民が阿鼻叫喚となっている。
「そ、そんな、ベジットが与えた傷が、一瞬で!?」
「や、やっぱりもうダメなんだ。オラリオは終わりだぁぁぁっ!!」
なんなちょっとした恐慌状態に陥りかけている事に、ベジットは少し引いた程だ。
「ん?」
その時、ニーズホッグの身体から先程とは比にならないエネルギーが胎動する。瞬間、邪竜の全身から幾つもの砲身が生え、そこから無遠慮に砲撃が放たれる。
先の一撃と同じ破滅の光。それが今度はオラリオ全てに降り注がれていく。
「成る程、今度はそう言う手に出たわけね」
ある意味お決まり、敵である己だけでなく、護らなければならないオラリオ全てを巻き込んでの超広範囲攻撃。
物理的な対処は不可能。冒険者の実力関係無しに、ニーズホッグの拡散攻撃は誰も止められないモノだった。
だが、それでもやはりオラリオに住まう全ての人々は、ベジットの実力を見くびっていた。
何故、ベジットは自らを天下無敵と称するのか。それは、単なる強さからの自負や自惚れではない。
「───舐められたモンだぜ」
不可能を可能とする事。他の者では覆せない現実を、己の肉体と力で凌駕出来るが故に。
「行くぜ───【超スピリットブラスター】」
手を手刀に変え、エネルギーが迸る。超高密度に圧縮されたエネルギーはこの世で並ぶものの無い切れ味を誇る刃と化す。
腕を振る。そこから放たれる幾つもの光の玉が、邪竜の放つ無数の破滅の流星群へ接近、着弾。
次の瞬間には誘爆に誘爆を重ね、大きな爆発がオラリオを再び奮わせる。
既に大きな振動と轟音が轟くオラリオ上空。作戦を中断し、一時地上へ戻ってきたベート達が目にしたのは、邪竜を斬り付けるベジットの姿だった。
「そらそらどうした! 神の力ってのはこんなものかぁ!?」
ベジットがその手に宿る光の刃を奮う度に邪竜の肉体が削げていく。再生した側から切り裂かれ、再生より上回る破壊の力で削られていく己の肉体に邪竜の裡から言いし難い感情が沸き上がってくる。
その感情を“恐怖”である事を邪竜───否、邪神は必死に見ないようにしていた。
そんな筈はない。そんな事、あって良い訳がない。
神を喰らい、真なる復活を遂げた邪竜は嘗ての……いや、それ以上の力を伴いながら新生を果たした。
本来であればオラリオを滅ぼし尽くせる己が、たかが冒険者一人に圧倒される。有り得ざる事実を前に邪竜ニーズホッグは怒りと憎悪の雄叫びを上げようとするも……。
「ゼラァッ!!」
出来ない。光の刃を黄金の炎に変え、拳に乗せて放つ。ベジットのその一撃は光の奔流となり、ニーズホッグの身体の半分近くを呑み込み、粉砕していく。
出鱈目が過ぎる。英雄譚、或いは神話に出てくる様な人の理解を越えた戦いを前に、オラリオに住まう全ての人々は唖然としていた。
それは、一種の
『あ、嗚呼嗚呼嗚呼あっ!!!』
「ん?」
『嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァァァァッ!! 私の狂乱が、私の絶望が、私の恐怖が、こんな、こんな人間如きにィィィィ!!』
再生しながらの発狂。ベジットの圧倒的な力と強さの前に、遂に邪竜に取り込まれていたディオニュソスの魂が表面化する。
邪竜の額部分に浮かび上がる神の顔、それがディオニュソスのモノであると一部彼と同郷の神々はそう言う事かと理解し、呆れ果てる。
対して、普段は自身の神酒によって造られた仮面越しでしかディオニュソスを知らなかった人類は、変わり果てた彼の男神に息を呑んだ。
『ベジットォォ! お前さえ、お前さえいなければ!私の狂乱は、下界は、私の望むモノになっていた筈なのにィィィィ!!』
口にする怨嗟の怒号、逆恨みも甚だしい邪神の言い分。
「いや、多分無理だと思うぞ」
『っ!?!?』
それを、ベジットはたったの一言で断言して見せた。
「たとえ俺がいなくとも、オラリオの冒険者はアンタの野望を阻んでいたさ」
ベジットは確信していた。仮に自分がいなかったとしても、オラリオに住まう冒険者達は全員が一丸となって邪神の目論見を阻止していたと。
【勇者】が率いるロキ・ファミリア。【猛者】が君臨しているフレイヤ・ファミリア。正義の眷族達のいるアストレア・ファミリア。群衆の味方であるガネーシャ・ファミリア。
他にも数多くの冒険者達がいて、その中には自分のいるファミリアもいる。故に、どちらにせよディオニュソスの目的は果たされる事はないと、ベジットは確信していた。
「まぁ、つまりだ。アンタがやってたのは俺の存在の有無に関わらず、ただの徒労に終わる訳だ。残念だったな♪」
『■■■■■■ッ!!』
ベジットの不敵な笑みと共に告げられる真実にディオニュソスの理性は振り切れる。
空高く飛翔し、眼下を見下ろす邪竜。その口に自身の最大限のエネルギーを溜めて……。
空が変わる。神を取り込み、神の如く力を手に入れた邪竜が最後に選択するのは、たった一人の人間を滅ぼすために放つ渾身の一撃。
これを放てば自身は勿論、オラリオも、ダンジョンも消し飛ぶ。この惑星そのものの消滅を懸けた最後の一撃を前に。
ベジットの大胆不敵な態度は、やはり崩れない。
「良いぜ。それなら、こっちもとっておきをくれてやる」
気を解放する。天に座す破滅の光に対し、地上では吹き荒れる黄金の嵐が一点に集約されていく。
全身に迸る輝き、それを己の拳に乗せて……。
「俺がやらなきゃ……誰がやるッ!!」
翔ぶ。放たれる破滅の光、七年前に目の当たりにした終末の極光にも似た昏い光を前にして……。
「龍拳ッ!!!」
ベジットは拳を振り上げた。
瞬間、ベジットの内から溢れる気が黄金の龍を形作り、邪竜ニーズホッグを貫いた。
『■■■■■ッ!!??』
胴体を貫かれ、全身が巻き付かれ、身動きが取れなくなった
これは、ただの破魔の光ではない。浄化の力を極限に高めた……神に対する抹殺の一撃。
つまり、ベジットの目的は……。
『私を……神を殺すのか!? ただの人間が、天に座す
それは初めて見せるディオニュソスの恐怖だった。天へ送還されるのではなく、人と同じ二度とこの世には現れない真なる“終わり”。
それは神時代以来初となる人間が侵してはならない禁忌。
しかし、ベジットは言う。
「アンタ等が下界で好き勝手するのは、偏にその不変性によるモノ。下界で死んでも神は天に還るだけ、その驕りが今日までお前をのさばらせた」
神を傷付けるのは下界の人類にとっては行ってはならない禁忌。況してや神殺しなどすればどうなるか……いつか自分が天へ還った際、神々からどんな報復をされるか分かったモノではない。
そんな畏れと恐怖から生まれた禁忌事項なのだが……要するに自分が死んだ後、魂だけとなった己が天界で神に好き放題報復されるのが怖いというのが主な理由の一つなのだろう。
だからこそ、人は神には手出しが出来ないとされ、神々もそれが分かっている。だからこそ、神は人類に対して無自覚に見下してこれたのだ。
けれど、今回一つの例外が生まれる。
「じゃあなディオ某、アンタの末路は天界でなければ地獄でもない。これまでテメェが弄んできた命に頭を垂れながら───無に還れ」
『い、イヤだ。イヤだァァァァァ……』
黄金の龍に巻き付かれ、邪竜が光となって消えていく。
邪神ディオニュソス。その断末魔はベジットにも、地上の誰にも届くことはなく、虚しく消えていくのだった。
◇
「……ヘルメス様、本当に彼には英雄の資格は無いのでしょうか」
「…………」
街に溢れたモンスターの退治、それに繰り出されたヘルメス・ファミリアの団長であるアスフィ・アンドロメダは、頭上に浮かぶ光景に眼を奪われていた。
「私には英雄の何たるかは分かりません。でも、彼にその資格が無いとするなら、一体誰が真に英雄と呼べるのでしょうか」
「………」
その問いにヘルメスは答えない。答えられる訳がなかった。
故に、口に出来るのは一つだけ。
「嘗て黒龍に敗北した最強派閥。ゼウスとヘラを継ぐ次代の英雄は既に生まれつつある」
「では……!」
「あぁ、見えてきたぞ。黒龍の討伐、真なる救世の戦い、そのゴールが!!」
夜が明ける。暗雲を穿ち、邪竜と共に邪神をも討伐したのは黄金の龍の体現者。
ベジット。空に向けて拳を突き上げる彼に陽の光が降り注がれる。
その幻想的で神々しい輝きに、人類と神々は次代の英雄の誕生を確信した。
「おい、団長の奴、絶対調子に乗ってるぞ」
「絶対この後面倒なゴタゴタが起きるだろ」
「どうしますか副団長」
「知るか。帰って寝る!」
Q.ディオニュソス死んだの?
A.死んだと言うより無に還った。
神は人とは違い不変だから、じゃあその不変性を失ったら神はどうなるのか?
という疑問から今回の末路になった。
Q.どうやって神の不変性をやぶったの?
A.すんごいパワー。
Q.最後、オラリオの人々が目にしたのは?
A.劇場版『龍拳爆発』のラスト。
次回、虹の輝き。