ニケ四周年生放送、見ました。
その、あの……ラピ息してる?
そんな訳で初投稿です。
刻はベジットが邪竜ニーズホッグを屠る数分前に遡る。
「【祈りよ、ここに。其は浄化の光】」
荘厳なる気配が空間に満ち、言霊がフィルヴィス・シャリアの口から溢れる。
「【大いなる力、大いなる母、ここに聖火の女神が言祝ぐ】」
「長文詠唱!?」
「しかしこれは……!」
「攻撃魔法じゃ……ない!?」
紡がれる詠唱から溢れ出すのは優しく、何処までも穏やかな詩。闘争を駆り立てるモノでも、戦いを征する為の唄ではなかった。
現在死闘を繰り広げている自分達にとってあまりにも場違いな祝詞にレフィーヤを含めた全員が驚きを露にする。
しかし、戸惑うレフィーヤ達とは裏腹にアウラの顔には焦りが浮かんでいた。
アレを打たせてはならない。嘗てない焦燥がアウラの奥底から沸き上がってくる。
それは自身を穢した精霊が抱く畏れの感情、決して触れてはならない恐怖。
光が集う。フィルヴィスが掲げた右手に、僅かだが虹色の光が集まっていく。
「その光を、私に見せびらかすなァァァッ!!」
絶叫にも似たアウラの怒号。地を踏み抜いて踏み砕き、フィルヴィスへ一直線へ駆けていく。
他の冒険者には目もくれず、アウラの手が無防備なフィルヴィスの喉笛に迫ろうとして。
「【アルクス・レイ】!!」
「っ!!」
一条の閃光がアウラを押し退ける。
「させません!!」
「相手は焦ってる! 【
アウラの前に立ち塞がるガネーシャ・ファミリア達。片腕や、片足が捥がれても、それでも民衆の楯で在ろうとする彼等は、フィルヴィスを護ろうとレフィーヤと共に恐るべき怪人に立ち向かう。
「雑兵が、有象無象が幾ら集まろうと!」
事実、アウラ・モーリエルの実力はレベルに換算して約Lv.7以上。
その他にこれ迄とは桁違いの濃密な黒い気を纏っており、その力は半精霊となったフィルヴィスを圧倒する程。
第一級でもない冒険者が、どれだけ集まった所で肉壁にしかならない。が、それでも彼等は戦う道を選んだ。
たとえかの戦いで自分が死んでも、残された者が道を拓く。そう信じて自分に立ち向かう彼等の姿が、アウラには
「消えろ! 亡霊どもがぁっ!!」
その光景が眩しくて、鬱陶しくて堪らない。故に全て殺しく尽くすと、先ずは手足の捥げた
突如、天井が砕かれる。崩落し、上から落ちてきたのは全身を黒い鎧で覆った男。
アウラの前に降り立ったその男は、その背に差した大剣で怪人の一撃を正面から受け止める。
「あ、貴方は!?」
レフィーヤがその場の全員の気持ちを代弁するように声を張り上げる。それは部隊編成の時に軽く顔を合わせたヘスティア・ファミリアからの助っ人。
あの【猛者】が意識する程の強者だということ以外、一切の情報が無かった男。
「どうやら、間に合った様だな。ヨシ、これで俺だけ活躍できなかったと団長達から弄られずに済むな」
ザルド。かつて【暴食】と呼ばれ、畏れられてきたオラリオ最強の冒険者の一人が、人造迷宮の階層をぶち抜いて降りてきた。
「っ、貴様は!」
「成る程、お前が噂の怪人か。聞いてた以上にマズそうな臭いをしている」
顔の上半分まで覆った兜、その口から溢れる台詞は挑発と言うより憐憫のソレに近かった。人がヒトじゃない何かに変えられた。そのおぞましい未知は、ザルドの卓越した嗅覚を以てその経緯を事細かく分析していく。
「………穢れた精霊、か。本来であればコイツも俺達が片を付けるべき相手だったんだろうな。スマナイ」
「~~~~っ!!! ドイツも、コイツも!」
私を憐れむな。そう叫びながらザルドを押し潰そうとして、その手に力を込めて……。
「残念だが、俺の業ではお前を救えん」
「っ!?!?」
弾き飛ばされる。ザルドの全身から白い闘気が吹き荒れ、怪人であるアウラを押し退ける。
人の枠組みを超えた筈の自分が力で圧し負ける。目の前の光景に唖然となるアウラだが、次の瞬間にはその顔を憤怒に染め上げて地を蹴り、ザルドへ肉薄する。
「邪魔をするな、冒険者ァァッ!!」
黒い気が怪人と化したアウラの肉体に影響を与え、右腕を肥大化していく。
巨大となり、凄まじい威力を秘めて振り抜かれたその一撃は、ザルドの身体を後ろへ吹き飛ばす。マトモに受ければ第一級冒険者でも挽き肉にされる凄まじき一撃。
しかしザルドは、その超人的な身体能力で受け流し、羽のようにフワリと地面に降り立った。
「やれやれ、まるで小さな階層主だな。膂力だけなら
過去にやりあった砂漠での一戦の記憶がザルドの脳裏に甦る。
このまま戦い続ければ、戦いの余波で自分は兎も角周囲の人間は死ぬ。最悪人造迷宮も崩壊しかねないと、どうしたものかとザルドは頭を悩ませていた時。
「【代償は薪に、命を炉に。穢れた魂を竈に焚べて、この大地に新生を───】」
聞こえてきた詩、それが攻撃の為でもなければ防御する為でもない、目の前の怪人を救い出す詩なのだと、ザルドは直感でもって認識する。
アレは、浄化の業だ。ベヒーモス・オルタを討伐した自分が目覚めたモノとは比較にならない、あらゆる穢れを祓う為の浄化の業。
「どうやら、本当にタイミングが良かったらしい!!」
敵を倒すのではなく、友を救い出したいと願うフィルヴィスの……心の内から溢れた嘗ての憧憬の具現。
そう、あの日目にしたフィルヴィスの脳裏に刻まれたのは、黄金の光だけではなかった。
虹色の光、嘗て【下層決戦】でベジットが見せた怪物と化した存在を無に帰した浄化の光。
即ち、魂の解放。
しかし、その術の再現は半精霊と化したフィルヴィスであっても困難を極めた代物だった。
(あ、頭が焼き切れる! 身体中の血管が、沸騰しそうだ!)
浄化の業。それは謂わば天界で聖火と謳われる
神の領域に踏み込むこの業は、通常の魔法詠唱より遥かに難易度は高く、平行詠唱は勿論、マトモに謳いきる事すら不可能とされている。
血が滴り落ちる。鼻から、目から、耳から、脳がこれ以上の負荷は危険だと特大の危険信号を警鐘してくる。
それでも、止めない。
(これをあの人は、己の技術だけで成し遂げられたのか、本当に……凄いや)
気と魔力を合わせ、互いに補い合いながら業を生み出す自分とは違い、己の気だけで神の領域へ踏み込んで見せたベジットに、改めてフィルヴィスは感嘆の意を抱く。
だが、何時までも感心している場合ではない。決めたのだ、目の前のアウラは、必ず自分が救い出して見せるのだと。
他でもない、憧憬本人に。
『そうか。なら、やって見せろ』
そう笑い、送り出してくれた。今ごろはオラリオの上空で大決戦を繰り広げている彼を頭に浮かばせながら、フィルヴィスもまたほくそ笑む。
「【希望をここに。其は光の結晶、あらゆる厄災を祓う御祓の輝きを】!!」
「成るか!」
「フィルヴィスさん!」
「【
掲げた手に光が宿る。虹色に輝き、一滴の水滴のような、小さく、脆い浄化の光。
掌に乗る小さく弱々しい輝きを握り締めて、フィルヴィスは駆け出す。
魔力も気力も尽きて、残されたのは意地だけ。フラフラになりながら、それでも走るフィルヴィスに……。
「くるな、来るなァァァァッ!!」
「チッ」
アウラが叫ぶ。全身から触手を生やし、槍の如く形状を変化させ、フィルヴィスへ殺到していく。
当然、ザルドがその尽くを斬り落とすが……1本だけ免れた触手の槍がフィルヴィスへ迫る。
眼前に迫る肉の槍、次の瞬間には己の身体が貫かれるのを覚悟したその瞬間。
「【盾となれ、破邪の
「ッ!?」
「【ディオ・グレイル】!!」
白き障壁がアウラの一刺しを止めて見せた。
ふと、身体が少しだけ楽になる。見れば杖を片手で持ちながら自分を抱え、自分を運んでくれる友がいた。
「レフィーヤ……」
「私だって、私だって、フィルヴィスさんを護るんだぁぁぁっ!!」
それは、意地の叫び。弱い自分をそれでも奮い立たせようとするレフィーヤの力の限りの叫び。
それひ呼応するようにガネーシャ・ファミリアの眷族達も伸びた触手に飛び付いていく。槍の攻撃から少しでもレフィーヤの負担を減らそうと足掻く、冒険者達の意地。
「この、浅はかな真似を!」
しかし、その浅はかな行動によって生まれたコンマ数秒の余白が、決定的な差を生み出した。
神の消滅。オラリオ上空で行われていたベジットと邪竜の戦いの決着が着いた瞬間、邪神ディオニュソスは世界から消滅し、その瞬間アウラの背中には神の恩恵が消失する。
恩恵の消失と共に理解してしまう主神の喪失に、アウラは大きな隙を晒してしまう。
「ディオニュソス……様?」
文字通り、己の全てを捧げてきた神の消滅。その意味を理解してしまったアウラは致命的な隙を晒してしまい……。
「良くやったヒヨッコ共」
ザルドが、その隙を逃さないと残された一本の触手を斬り飛ばす。
走る。レフィーヤに背中を圧され、冒険者達の声援を受けながら、フィルヴィスは走り続ける。
その手に、微かに輝く虹の光を手にしながら……。
「受け取れ、アウラ。これが私の……!」
アウラ・モーリエルの胸元へ叩き付けるのだった。
◇
「私、貴女が嫌いだった」
「……あぁ、知ってる」
「ディオニュソス様に見初められて、愛されておきながら、その上で自分の道を選んだ貴女が、とても羨ましくて、とても憎かった」
「………」
「同時に、自分の事が反吐が出そうな程に惨めに思えたわ。何処までも自分は凡人で、神に、精霊に弄ばれるのが運命なんだって」
「………そうか」
「ねぇ、教えて。どうして貴女は抗えたの? 心も身体も、魂すらも弄ばれて穢された貴女が、どうして?」
「………うまく言えない。けど思ったんだ。ディオニュソス様の下にいたら、きっと私は二度とあの輝きに顔向け出来なくなる。それだけは、嫌だったんだ」
「………なによ、それ」
結局、自分は誰かの影響を受けて生きてきた憐れな人間なのかも知れない。
でも、それで良いとフィルヴィスは思えた。
「やっぱり、私は貴女が嫌いよ。フィルヴィス……」
「ああ、知ってる」
意地を張り続けてきた七年。この日、フィルヴィス・シャリアは漸く、奪われた仲間を取り戻す事が出来た。
捕捉説明。
・フィルヴィス・シャリアのソウル・パニッシャー。
あの日、フィルヴィス・シャリアが目にした怪物と英雄の戦い。
目映い黄金の光の中で顕れた一筋の虹、その光こそがフィルヴィス・シャリアの魂に焼き付いた“憧憬”である。
あの光があったから、フィルヴィスは穢されてなお高潔でいられた。迷い、心が磨耗し、脳に呼び掛けてくる精霊の声。膝が折れそうになった時はいつも暗闇の中で輝くあの光がフィルヴィスの指針となった。
浄化魔法《ソウル・パニッシャー》
詠唱
【祈りよ、ここに。其は浄化の光】
【大いなる力、大いなる母、ここに聖火の女神が言祝ぐ】
【代償は薪に、命を炉に。穢れた魂を竈に焚べて、この大地に新生を───】
【希望をここに。其は光の結晶、あらゆる厄災を祓う御祓の輝きを】
詠唱自体は長文詠唱程度だが、その間に行われる魔力制御と精神力消耗の負担は凄まじく、妖精の力と精霊の力、気と魔力、これ等全てを完璧に制御し、且つ処女神の眷族でなければ不可能とされている超越技巧。
その魔法効果はあらゆる穢れを祓う浄化。ベジットのソウル・パニッシャーを模しただけあってその効果は凄まじく、理論上はある墜ちた炎にも効果が期待できる正しく神業である。
オマケ 蛇足8
とあるウミウシの独白。
「なぁ、 本当にこれで良かったのか?」
あの日から、ヤチヨは自分の身体を手に入れた。
あの日から、ヤチヨも笑うようになった。イロハも、笑い、明るく振る舞うようになった。
まるで、自分には
人の前では
人の前ではイロハは笑う。自分には彼から託されたモノがあるのだからと。
かぐやは、そんな二人を何とか本当に笑顔にして見せよう色々と頑張っている。それだけが、二人の唯一の救いだったのかもしれない。
あの日、■■が死んでベジットが消えてから、二人は笑うようになった。
「これが、お前の望んでいたハッピーエンドなのかよぉ……」
だとしたら、それはきっと。
とても、残酷な物語だ。